特許第6443835号(P6443835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443835
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】魚醤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/50 20160101AFI20181217BHJP
【FI】
   A23L27/50 B
   A23L27/50 103Z
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-154272(P2014-154272)
(22)【出願日】2014年7月11日
(65)【公開番号】特開2016-19506(P2016-19506A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2017年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】591119370
【氏名又は名称】ヤマモリ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮村 かおり
(72)【発明者】
【氏名】西倉 顕慎
(72)【発明者】
【氏名】松本 裕子
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸信
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−061466(JP,A)
【文献】 特開昭61−132155(JP,A)
【文献】 特開2002−176951(JP,A)
【文献】 特開2009−232723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00−27/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
まろやかで臭みが少なく魚介類本来の香りが強調された魚醤の製造方法で、魚介類(魚の内臓は除く)、食塩を含む混合物を醸造する事によって得られる魚醤の製造方法であって、酵素源として醸造期間14〜61日間の醤油諸味より固液分離して得られる液汁部分である醤油麹酵素抽出液を用い、混合する醤油麹酵素抽出液が魚介類(魚の内臓は除く)に対して5〜15重量%かつ原料となる魚介類(魚の内臓は除く)1gに対する全プロテアーゼ活性量が6.7units以上であり、醸造温度を45℃以上53以下の範囲で管理する事を特徴とした製造方法。
【請求項2】
原料とする魚介類(魚の内臓は除く)が貝類の中から選ばれる1種類以上である事を特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
原料とする魚介類(魚の内臓は除く)が魚のヒレもしくは皮、もしくはそれらの混合物である事を特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項4】
得られる魚醤がしょうゆの標準色と比較して判定した色番が27番以上、かつL*a*b*表色系のL*値が48以上かつb*/a*の値が1.9以上であり、かつ清澄な液体である事を特徴とする請求項1、に記載の方法。
【請求項5】
魚介類(魚の内臓は除く)、食塩、酵素源として醤油麹酵素抽出液を含む混合物の醸造期間が10〜28日間である事を特徴とする請求項1〜に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は魚醤及びその製造法に関し、詳しくは魚介類を分解する際の酵素源として醤油醸造工程から容易、かつ安価に採取する事が可能な醤油麹酵素抽出液を利用する事を特徴とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
魚醤は古くから伝わる調味料であり、日本では秋田の「しょっつる」、能登の「いしる」、香川の「いかなご醤油」などがあり、東南アジアではタイの「ナンプラー」やベトナムの「ヌックマム」等が広く知られている。
【0003】
これらの伝統的な魚醤の製造方法は一般的に雑菌防止のために魚介類に大量の塩を加え、漬け込み、数ヶ月〜数年程度の自己消化を経た後、固液分離、火入れ、精製等の工程を行うものである。製造工程中に行われる自己消化は魚介類の内臓等に含まれるたんぱく質分解酵素がたんぱく質をペプチドやアミノ酸に分解し、魚醤特有の旨味や複雑味を醸し出している。わが国では鍋つゆの味つけやつゆやたれの隠し味としても利用されている。
【0004】
魚醤の伝統的製法により、上記のような特徴を持つ反面、揮発性の有機酸臭やアミン臭などの不快臭が強く、また高塩分のために利用しにくい品質となっている。さらに自己消化に要する期間が長く、工業化した場合には効率的な生産が見込めない等の欠点が挙げられている。一方で魚介類の有効活用方法として魚醤の製造方法の欠点を解決するために種々の手法が考案されてきたが、未だに優れた方法は考案されていない。
【0005】
未利用資源の有効利用として鰹、鮪類の加工処理時に生ずる頭部ハラモ、内臓、皮、ヒレ等の副生産物類の1種もしくは2種類以上を、内臓の幽門垂部分の存在下で混合物のpHを7〜10に調整して、自己消化処理を行う事により製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、内臓酵素により自己消化を行っているために内臓特有の臭みが残ってしまう。
【0006】
また特有の臭みを感じる内臓酵素を使った自己消化以外の手法として内臓を除去したマルソウダを原料とし、醤油麹により分解を行い、常温、暗所で発酵させる方法や蒸煮加熱したホッケ等の魚肉部に醤油麹を加え45〜55℃で5〜15日間醸造し、酸化臭及び酪酸臭を低減した魚醤油を製造する方法が提案されている(非特許文献1、2参照)。しかし、分解の酵素源として醤油麹を使用した場合、特有の不快臭がマスクされると同時に醤油風味が強くなるために魚本来の風味までマスクされてしまう。また醤油麹は保水しやすい性質のため、固液分離の際の収率が悪くなりやすく、さらに使用する原料が骨を多量に含む場合には骨が圧搾時のプレス負荷の妨げとなり、この傾向は顕著となる。
【0007】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特願1999−310738
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本水産学会誌67(6)、1110−1119(2001)、醤油麹を用いて製造したマルソウダ魚醤油と国内産魚醤油および大豆こいくち醤油との揮発性成分の比較、とくに匂いとの関係
【非特許文献2】農業総合研究所 食品研究センター 園芸特産食品科、水産海洋研究所 加工課、醤油麹を使った魚醤油の短期製造法
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって本発明は魚介類を原料とした魚醤においてまろやかで臭みがなく、原料となる魚介類本来の香りが強調された品質を作り出すとともに生産性を向上させる事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑みて本発明者は鋭意検討を重ねた結果、魚醤を製造する場合、分解する酵素源を醤油醸造工程から容易、かつ安価に採取する事が可能な醤油麹酵素抽出液とすることにより、従来の技術と比較して生産性が向上し、しかも得られる魚醤はまろやかで臭みが少なく、原料となる魚介類本来の香りが強調される事を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明によれば、上記の目的は次の方法によって達成される。
(1)魚介類、食塩を含む混合物を醸造する事によって得られる魚醤の製造方法であって、酵素源として醤油麹酵素抽出液を用いる事を特徴としたもの。
(2)醤油麹酵素抽出液が醸造期間14〜61日間の醤油諸味より固液分離して得られる液汁部分である事を特徴とする(1)に記載の方法。
(3)原料とする魚介類が貝類の中から選ばれる1種類以上である事を特徴とする(1)、(2)に記載の方法。
(4)原料とする魚介類が魚のヒレもしくは皮、もしくはそれらの混合物である事を特徴とする(1)、(2)に記載の方法。
(5)混合する醤油麹酵素抽出液が魚介類に対して5〜15重量%かつ原料となる魚介類1gに対する全プロテアーゼ活性量が6.7units以上である事を特徴とする(1)〜(4)に記載の方法。
(6)得られる魚醤がしょうゆの標準色と比較して判定した色番が27番以上、かつL*a*b*表色系のL*値が48以上かつb*/a*の値が1.9以上であり、かつ清澄な液体である事を特徴とする(1)、(2)、(4)、(5)に記載の方法。
(7)魚介類、食塩、酵素源として醤油麹酵素抽出液を含む混合物の醸造期間が10〜28日間である事を特徴とする(1)〜(6)に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、魚介類を原料とした魚醤を製造する場合、酵素源として醤油醸造工程から容易、かつ安価に採取する事が可能な醤油麹酵素抽出液を用いる事により、コストパフォーマンスに優れかつ生産性が向上し、しかもまろやかで臭みが少なく魚介類本来の香りが強調された魚醤の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】醤油麹酵素抽出液の各温度による全プロテアーゼの経時的な残存活性を示すグラフ
図2】本発明により得られる魚醤の色調を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では魚醤の原料として魚介類、醤油麹酵素抽出液、食塩、必要に応じて水を使用する。以下、これらの各原料、ならびにこれらを用いて魚醤を製造する方法について具体的に説明する。
【0016】
本発明にて用いられる魚介類としては特に制限されず、例えば鮭、鯛、鯖などの魚類の他に牡蠣や鮑、帆立などの貝類やガンガゼなどが挙げられる。また加工処理時に生じる未利用部分である魚の頭部やヒレ、尾、皮などを使用してもよく、生の内臓を含まない方が好ましい。また牡蠣などの貝類では例えば殻剥きの際に傷がついてしまったものや異常卵形成など商品としての利用価値がなくなってしまったものを使用してもよい。さらにこれらの魚介類は生でも蒸煮や焼成などの加熱処理をしたものを使用してもよい。
【0017】
本発明にて用いられる醤油麹酵素抽出液としては製麹して得られる醤油麹から酵素を抽出した固形物を含まない液体、つまり醤油諸味から圧搾等の固液分離した液汁部分等が挙げられ、これは醤油醸造工程から容易に採取できるものであり、さらには醤油醸造を実施している企業においては非常に安価に手に入れられるものであり、加熱等による酵素失活やろ過膜等による酵素除去がされていないものを指す。醤油麹酵素抽出液にはプロテアーゼの他にアミラーゼ、ペクチナーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、フォスファターゼなどが複合的に含まれている。醤油麹については大豆、脱脂加工大豆等のタンパク質原料を加熱変性処理したものと小麦などの麦類や米類等の澱粉質原料を加熱変性処理したものとさらには必要に応じてその他の原料を混合したものに種麹菌を接種し、例えば20〜40℃で30〜80時間製麹したものが挙げられる。醤油諸味については種類は制限されず、例えば濃口醤油諸味、淡口醤油諸味、丸大豆醤油諸味などを使用する事ができる。
【0018】
本発明にて用いられる食塩としては、通常の食塩を用いる事ができ、その種類は制限されず、例えば海水塩、岩塩などが挙げられる。
【0019】
本発明の魚醤の製造プロセスによれば、原料となる魚介類は必要に応じて水洗いを行ったり、適当な大きさに細断したりして使用してもよい。これらに所定量の食塩及び醤油麹酵素抽出液及び必要に応じて水を加え、よく混合する。
【0020】
醤油諸味から固液分離した液汁部分である醤油麹酵素抽出液において、使用する諸味は、醸造期間14〜61日間が適当であり、さらには醸造期間22〜54日間となる事が好ましい。上記範囲よりも短くなると醤油麹酵素抽出液の安定的な品質が確保できず、一方上記の範囲よりも長くなると魚醤に醤油特有の熟成香や微生物による発酵臭が付与され、原料となる魚介類本来の香りがマスクされてしまう。
【0021】
原料とする魚介類として魚のヒレや尾、皮を使用すると肉身部分を原料とする場合と比較して生産性が高く、甘味アミノ酸が多いために呈味に優れた品質となるために望ましい。
【0022】
原料として牡蠣などの貝類を使用し、ペースト状の魚醤が得られる場合、酵素源として固形物を含まない醤油麹酵素抽出液を使用するために醤油麹そのものを酵素源として使用する場合と異なり、固形物を除去するための固液分離の工程を必要とせずに工程は簡略化され、また生産性の向上も見込める。
【0023】
また混合する醤油麹酵素抽出液の割合は、原料とする魚介類に対して5〜15重量%が適しており、さらには10〜15重量%となる事が好ましく、かつ原料となる魚介類1gに対する全プロテアーゼ活性量が6.7units以上が適しており、さらには13.4unitsとなる事が好ましい。醤油麹酵素抽出液の割合や全プロテアーゼ活性量が上記の範囲よりも少なくなると分解が不十分で旨味が少ない魚醤となり、醤油麹酵素抽出液の配合量が上記の範囲よりも多くなると醤油独特の香りにより、原料となる魚介類本来の風味がマスクされ、望ましい品質が得られない。なお、全プロテアーゼ力価は醤油試験法(財団法人日本醤油研究所)にて測定し、30℃1分間にチロシン1μgに相当する非たんぱく性物質を遊離させる酵素量を1unitとして表示される。
【0024】
また本発明の方法により得られる清澄な液体である魚醤は従来の技術と比較して鮮やか色調を示しており、しょうゆの標準色と比較して判定した色番が27以上かつL*a*b*表色系のL*値が48以上かつa*、b*値が正の値かつb*/a*の値が1.9以上である事を特徴としている。
【0025】
本発明の製造プロセスにおける醸造温度は45〜60℃の範囲で実施する事が好ましい。上記温度より低くなると一般的な魚醤の揮発性有機酸臭やアミン臭などの不快臭を生成する乳酸菌などの微生物活動が行われ、魚本来の香りをマスクしてしまい、上記温度より高くなると酵素活性が顕著に低下するために生産性や品質ともに低下し、望ましい品質を得る事ができない。またコラーゲン成分を多く含むヒレや尾を原料とする場合には40℃以上でコラーゲンが溶解するために効率的に酵素作用を行う事ができる。
【0026】
本発明の製造プロセスにおける塩分濃度は任意に設定する事が可能だが、Bacillus等の雑菌を抑制するためには水分活性を0.90以下となるように塩分や加水量にてコントロールする事が望ましい。
【0027】
また、本発明の製造プロセスにおける醸造期間に関して原料となる魚介類本来の香りを強調する魚醤を得るためには醸造期間が10〜28日間となる事が適当である。醸造期間が上記範囲よりも短いと魚介類の分解度が低くTNが低いために旨味が弱くかつ収量が少なくなり、上記範囲よりも長いと醤油の風味が強い魚醤となり、望ましい品質を得る事ができない。
【0028】
なお、上記の醸造を終了した後に、通常の醤油諸味の処理と同様の製法を行っても良い。例えば、圧搾等の固液分離を行い、得られた液体を生揚げとし、必要によりこの生揚げを加熱し、酵素失活や殺菌をした後に、オリをろ過等により除去して清澄な液体を得る事ができる。また、得られた魚醤は調味をしたり、静菌のためにアルコール等を加えたりする事もできる。保存中にチロシン等の難溶性のオリが生じる場合があるが、これは必要に応じてろ過等の方法により適宜除去する。
【0029】
このようにして得られる本発明の魚醤はまろやかで臭みが少なく、原料となる魚介類本来の香りが強調されているため、従来の魚醤と比較してクセがないために日本料理、中華料理、西洋料理やエスニック料理等の幅広い分野での調味料としても最適である。
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。なお、実施例中に記載される「%」は、特に断らない限りは重量%を意味するものとする。またTNは総窒素分、FNはホルモール態窒素分を意味するものとする。色番は「しょうゆの標準色」と比較して判定した番数を示し、色調に関しては色差計にて分析したL*a*b*表色系の値を示している。
【実施例】
【0031】
(実験例1)
魚醤を製造する際に魚介類を分解する酵素源として醤油麹そのものを使用した場合と醤油麹酵素抽出液を使用した場合に得られる魚醤の比較検討を行った。
【0032】
原料となる魚は加工品生産工程で副産物として得られるアメリカ産の紅鮭の尾ヒレを準備した。尾ヒレ600gと醤油麹(比較例1)または醤油麹酵素抽出液(実施例1)45g、食塩80g、水100gを混合し、50℃で13日間醸造を行った。醸造後、各混合物をろ過したものを魚醤の生揚げとした。また醤油麹酵素抽出液は醸造期間40日の濃口醤油諸味より分離した液汁で全プロテーゼ力価185units/gのものを利用した。
【0033】
それぞれの魚醤生揚げをTN1.60%、塩分13.0%に調整し、火入れ・清澄化を行ったものの色と官能評価結果について表1に示す。官能評価は5名の味覚パネラーにより実施した。官能評価基準は臭みがなく魚本来の香りが強調されている魚醤として0〜3点の4段階に分けて評点をつけ、パネラー5名の平均点で評価結果を示した。なお、評点の基準は3点:満足できる、2点:やや満足できる、1点:可能性はあるがやや不十分である、0点:不適当である事を示している。
【0034】
【表1】
【0035】
表1から明らかなように酵素源として醤油麹を使用した場合(比較例1)は醤油麹酵素抽出液を使用した場合(実施例1)と比較して色が暗くなっている。また官能評価を行ったところ比較例1は醤油風味を強く感じるのに対し、実施例1は、鮭の良好な風味を強く感じた。
【0036】
(実験例2)
実験例1と同様にして鯛にて比較検討を行った。原料となる魚は加工品生産工程で副産物として得られる三重県産真鯛の頭部分を準備した。真鯛頭400gと醤油麹(比較例2)または醤油麹酵素抽出液(実施例2)120g、食塩は混合物の塩分が10%となるように混合し、水は全量が790gとなるように混合した。48℃で21日間醸造を行った。醸造後、各混合物をろ過したものを魚醤の生揚げとした。また醤油麹酵素抽出液は醸造期間22日の濃口醤油諸味より分離した液汁で全プロテーゼ力価169units/gのものを利用した。
【0037】
それぞれの魚醤生揚げをTN1.45%、塩分13.0%に調整し、火入れ・清澄化を行い得られた魚醤の生産性と官能評価について表2に示す。表に示す圧搾収率は得られた生揚げ/混合物(真鯛頭、醤油麹または醤油麹酵素抽出液、食塩、水の混合物の総量)を示し、出来高はTN1.45に調整した際に得られる魚醤の量を示す。官能評価は5名の味覚パネラーにより実施した。官能評価基準は臭みがなく魚本来の香りが強調されている魚醤として0〜3点の4段階に分けて評点をつけ、パネラー5名の平均点で評価結果を示した。なお、評点の基準は3点:満足できる、2点:やや満足できる、1点:可能性はあるがやや不十分である、0点:不適当である事を示している。
【0038】
【表2】
【0039】
表2から明らかなように酵素源として醤油麹酵素抽出液を使用した場合(実施例2)は醤油麹を使用した場合(比較例2)と比較して圧搾収率、出来高ともに顕著に高くなり、生産性の向上がみられた。また官能評価を行ったところ比較例2は醤油風味をかなり強く感じるのに対し、実施例2は、鯛の良好な風味を感じた。
【0040】
また一般生菌数に関して言えば、醤油麹酵素抽出液は醤油麹の一般生菌数の1000分1以下程度である事から、魚醤を製造する過程において雑菌汚染がされにくいという利点があり、さらに醤油麹酵素抽出液は冷蔵保管が可能である事から生産の調整をつけやすいという利点もある。
【0041】
実験例1、2の結果から魚介類を分解する酵素源として醤油麹酵素抽出液を使用する事は生産性の向上や魚本来の香りを強調して色調を明るく仕上げるなど、魚醤の品質を向上させるために好ましい。
【0042】
(実験例3)
魚醤を製造する際に魚介類を分解する醤油麹酵素抽出液を醤油諸味より固液分離して得られる液汁部分を使用する場合、使用する醤油諸味の醸造期間の違いにより得られる魚醤の比較検討を行った。
【0043】
原料は三重県産牡蠣を準備した。牡蠣640gと醸造期間14〜63日間の濃口醤油諸味より固液分離して得られる各醤油麹酵素抽出液(実施例3〜9)60g、食塩70g、水40gを混合し、52℃で15日間醸造を行った。
【0044】
醸造後、それぞれTN1.20%、塩分12.0%に調整し、火入れを行った。使用した醤油麹酵素抽出液の分析値と得られた魚醤の出来高と官能評価結果について表3に示す。なお、全プロテアーゼ活性量は原料となる魚介類1gに対して使用する醤油麹酵素抽出液中の全プロテアーゼ活性の量を示し、出来高はTN1.20に調整した際に得られる魚醤の量を示す。官能評価は5名の味覚パネラーにより実施した。官能評価基準は臭みがなく魚本来の香りが強調されている魚醤として0〜3点の4段階に分けて評点をつけ、パネラー5名の平均点で評価結果を示した。なお、評点の基準は3点:満足できる、2点:やや満足できる、1点:可能性はあるがやや不十分である、0点:不適当である事を示している。
【0045】
【表3】
【0046】
表3から明らかなように魚醤を作製する場合、麹酵素抽出液を得るために使用する醤油諸味の醸造期間は14〜63日間のうちいずれも適当であり、さらには22〜54日間が好ましい。醸造期間が上記範囲より短いものは醤油諸味中での分解度が短いため麹酵素抽出液のTNが低くなる可能性が高く、安定的な出来高が見込めない場合がある。また上記範囲よりも長くなると魚醤に醤油特有の風味が付与され、牡蠣本来の香りがマスクされる傾向にあるために望ましい品質を得られない。
【0047】
(実験例4)
実験例3と同様にして鯛にて比較検討を行った。原料となる魚は三重県産真鯛を準備した。真鯛頭600gと真鯛皮200g、醸造期間25〜74日間の淡口醤油諸味より固液分離して得られる各醤油麹酵素抽出液(実施例10〜13)40g、食塩100g、水130gを混合し、50℃で21日間醸造を行った。醸造後、各混合物をろ過したものを魚醤の生揚げとする。
【0048】
それぞれの魚醤生揚げをTN1.48%、塩分13.9%に調整し、火入れ・清澄化を行った。使用した醤油麹酵素抽出液の分析値と得られた魚醤の生揚げ分析値と官能評価結果について表4に示す。なお、全プロテアーゼ活性量は原料となる魚介類1gに対して使用する醤油麹酵素抽出液中の全プロテアーゼ活性の量を示す。官能評価は5名の味覚パネラーにより実施した。官能評価基準は臭みがなく魚本来の香りが強調されている魚醤として0〜3点の4段階に分けて評点をつけ、パネラー5名の平均点で評価結果を示した。なお、評点の基準は3点:満足できる、2点:やや満足できる、1点:可能性はあるがやや不十分である、0点:不適当である事を示している。
【0049】
【表4】
【0050】
表4から明らかなように魚醤を作製する場合、麹酵素抽出液を得るために使用する醤油諸味の醸造期間は25〜61日間が好ましい。上記よりも醸造期間が長くなると魚醤中の醤油風味が強くなり魚本来の香りがマスクされるために望ましい品質が得られない。
【0051】
実験例3、4の結果から魚醤を作製する際に醤油麹酵素抽出液を得るために使用する醤油諸味の醸造期間は14〜61日間が適当であり、さらには22〜54日間が好ましい。
(実験例5)
【0052】
魚肉身部分とヒレ、皮部分を原料とした場合の魚醤の比較検討を行った。
【0053】
原料となる魚はチリ産の銀鮭を準備した。魚肉身(実施例14)または尾ヒレ(実施例15)600gと醤油麹酵素抽出液45g、食塩80g、水100gを混合し、51℃で21日間醸造を行った。醸造後、各混合物をろ過したものを魚醤の生揚げとする。魚醤生揚げ分析値と出来高について表5に示す。なお、出来高はTN1.50に調整した際に得られる魚醤の量を示す。ここで使用した魚はそれぞれ加工品生産工程で副産物として得られるもので、魚肉身に関しては、カマ部分や尾付近の端材を利用した。また醤油麹酵素抽出液は醸造期間28日の濃口醤油諸味より固液分離した液汁で全プロテーゼ力価216units/gのものを利用した。
【0054】
【表5】
【0055】
表5から明らかなようにヒレを原料とした魚醤(実施例15)は魚肉身を原料とした魚醤(実施例14)に比べて分解効率が良く、魚醤の出来高が多くなった。また、ヒレを原料とした場合はグリシンやセリン、アラニン等の甘味を呈するアミノ酸の濃度が高く、特にグリシンではTN1g当たりの濃度は約1.8倍であった。また、清澄化したそれぞれの魚醤について官能評価を実施したところ、ヒレを原料とした魚醤は魚肉身を原料とした魚醤に比べて甘味が強くマイルドで生臭みも少ないという評価が得られた。
【0056】
(実験例6)
実験例5と同様に鯛の皮にて比較試験を行った。原料となる魚は三重県産の真鯛を準備した。魚肉身(実施例16)または皮660g(実施例17)と醤油麹酵素抽出液132g、食塩86g、水132gを混合し、50℃で18日間醸造させた。醸造後、各混合物をろ過して魚醤の生揚げとする。生揚げ分析値と出来高について表6に示す。なお、出来高はTN1.50に調整した際に得られる魚醤の量を示す。ここで使用した魚はそれぞれ加工品生産工程で副産物として得られるもので、魚肉身に関しては、頭やカマ部分等の端材を利用した。また醤油麹酵素抽出液は醸造期間28日の濃口醤油諸味より固液分離した液汁で全プロテーゼ力価216units/gのものを利用した。
【0057】
【表6】
【0058】
表6から明らかなように皮を原料とした魚醤(実施例17)は魚肉身を原料とした魚醤(実施例16)に比べて分解効率が良く、魚醤の出来高が多くなった。さらに皮を原料とした場合は魚肉身を原料とした場合に比べてグリシンやアラニン等の甘味を呈するアミノ酸の濃度が高く、特にグリシンではTN1g当たりの濃度は約2.8倍であった。また、清澄化したそれぞれの魚醤について官能評価を実施したところ、皮を原料とした魚醤は魚肉身を原料とした魚醤に比べて甘味が強くマイルドで生臭みも少ないという評価が得られた。
【0059】
実験例5、6の結果から醤油麹酵素抽出液により分解する際の魚の部位は肉身部分よりもヒレや皮に適しており、分解効率が良く、さらには呈味にも優れている事を確認した。
(実験例7)
【0060】
魚介類を分解する際に使用する醤油麹酵素抽出液の割合について比較検討を行った。
【0061】
原料となる魚はチリ産の銀鮭を準備した。尾ヒレ600g、醤油麹酵素抽出液は魚介類に対して5〜20%(実施例18〜21)、食塩は全体の塩分が9.5%となるように添加し、水100gを混合し、50℃で14日間醸造を行った。醸造後、各混合物をろ過して魚醤の生揚げとした。また醤油麹酵素抽出液は醸造期間30日の淡口醤油諸味より固液分離した液汁で全プロテーゼ力価134units/gのものを利用した。
【0062】
それぞれの魚醤生揚げをTN1.50%、塩分13.5%に調整し、火入れを行い、清澄化を行った。各魚醤生揚げの分析値と官能評価結果は表7、得られた魚醤の色調については表8に示す。官能評価は5名の味覚パネラーにより実施した。官能評価基準は臭みがなく魚本来の香りが強調されている魚醤として0〜3点の4段階に分けて評点をつけ、パネラー5名の平均点で評価結果を示した。なお、評点の基準は3点:満足できる、2点:やや満足できる、1点:可能性はあるがやや不十分である、0点:不適当である事を示している。なお、全プロテアーゼ活性量は原料となる魚介類1gに対して使用する醤油麹酵素抽出液中の全プロテアーゼ活性の量を示す。
【0063】
【表7】
【0064】
【表8】
【0065】
表7、8から明らかなように魚介類のヒレを分解する際に使用する麹酵素抽出液の割合は魚介類に対して5〜15%が好ましい。上記範囲よりも多くなると魚醤に醤油特有の風味が付与され、魚本来の香りがマスクされる傾向となった。
(実験例8)
【0066】
実験例7と同様にして牡蠣にて比較試験を行った。原料は三重県産牡蠣を準備した。牡蠣600g、醤油麹酵素抽出液は牡蠣に対して5〜15%(実施例22〜24)、食塩は全体の塩分が10%となるように混合し、50℃で15日間醸造を行った。また醤油麹酵素抽出液は醸造期間22日の濃口醤油諸味より分離した液汁で全プロテーゼ力価169units/gのものを利用した。
【0067】
醸造後、TN1.20%、塩分12.0%に調整し、火入れを行った。各魚醤の分析値と官能評価結果を表9に示す。官能評価基準は臭みがなく魚本来の香りが強調されている魚醤として0〜3点の4段階に分けて評点をつけ、パネラー5名の平均点で評価結果を示した。なお、評点の基準は3点:満足できる、2点:やや満足できる、1点:可能性はあるがやや不十分である、0点:不適当である事を示している。なお、全プロテアーゼ活性量は原料となる魚介類1gに対して使用する醤油麹酵素抽出液中の全プロテアーゼ活性の量を示す。
【0068】
【表9】
【0069】
表9から明らかなように牡蠣にて魚醤を作製する場合、麹酵素抽出液使用量が魚介類に対して5〜15%の場合、旨味・牡蠣風味ともに良好な魚醤を得る事ができた。
【0070】
(実験例9)
実験例7、8と同様にして鯛にて比較試験を行った。原料となる魚は三重県産真鯛を準備した。真鯛頭600gと真鯛皮200g、醤油麹酵素抽出液は真鯛に対して5〜15%(実施例25〜27)各醤油麹酵素抽出液40g、食塩は混合物の塩分が9.5%となるように添加し、水は全量が1000gになるように混合し、50℃で21日間醸造を行った。醸造後、各混合物をろ過して魚醤の生揚げとした。なお醤油麹酵素抽出液は醸造期間25日の淡口醤油諸味より分離した液汁で全プロテーゼ力価155units/gのものを利用した。
【0071】
それぞれの魚醤生揚げをTN1.48%、塩分13.9%に調整し、火入れを行い、清澄化を行った。各魚醤生揚げの分析値と官能評価結果は表10、得られた魚醤の色調については表11に示す。官能評価は5名の味覚パネラーにより実施した。官能評価基準は臭みがなく魚本来の香りが強調されている魚醤として0〜3点の4段階に分けて評点をつけ、パネラー5名の平均点で評価結果を示した。なお、評点の基準は3点:満足できる、2点:やや満足できる、1点:可能性はあるがやや不十分である、0点:不適当である事を示している。なお、出来高はTN1.45に調整した際に得られる魚醤の量を示し、全プロテアーゼ活性量は原料となる魚介類1gに対して使用する醤油麹酵素抽出液中の全プロテアーゼ活性の量を示す。
【0072】
【表10】
【0073】
【表11】
表10、11から明らかなように魚介類を分解する際に使用する麹酵素抽出液の使用割合は魚介類に対して5〜15%が適しており、さらには10〜15%が好ましい。上記範囲よりも少ない場合には分解度が低いために出来高が低減し、上記範囲よりも多くなると魚醤に醤油特有の風味が付与され、魚本来の香りがマスクされる傾向となり、また色も暗くなる。
【0074】
実験例7〜9の結果から魚介類を分解する際に使用する醤油麹酵素抽出液の割合は5〜15%が適しており、さらには10〜15%が好ましい。また使用する全プロテアーゼ活性量は原料となる魚介類1gに対して6.7units以上が適しており、さらには13.4units以上が好ましい。
【0075】
(実験例10)
魚醤を製造する際の醸造期間について検討を行った。
【0076】
原料となる魚はアメリカ産の紅鮭を準備した。胸ヒレ600gと醤油麹酵素抽出液45g、食塩80g、水100gを混合し、53℃で14日間醸造させた。醸造後、各混合物をろ過して魚醤の生揚げとした。ここで使用した魚は加工品生産工程で副産物として得られるものを利用した。また醤油麹酵素として利用する醤油麹酵素抽出液は醸造期間25日の淡口醤油諸味より分離した液汁で全プロテーゼ力価155units/gのものを利用した。
【0077】
魚醤の各醸造期間における生揚げTNについて分析した結果を表12に示す。
【0078】
【表12】
【0079】
表12から明らかなように醸造期間10日以降でTNの成分値は安定しており、また原料中の窒素分が有効に生揚げ中へ移行している事がわかる。また官能評価を行ったところ、醸造期間35日以降では醤油風味が強くなり、魚本来の香りが低減する傾向にあった事から醸造期間10〜28日間が好ましいといえる。
(実験例11)
【0080】
魚醤製造時の醸造温度について検討を行った。
【0081】
原料となる魚は鰯小魚を準備した。ボイルした鰯600gと醤油麹酵素抽出液200g、食塩15gを混合し、醸造温度30℃(実施例29)と50℃(実施例30)で28日間醸造を行った。醸造後、各混合物をろ過して魚醤の生揚げとした。なお醤油麹酵素抽出液は醸造期間40日の濃口醤油諸味より分離した液汁で全プロテーゼ力価185units/gのものを利用した。
【0082】
またそれぞれの魚醤生揚げをTN1.52容量%、塩分16.3容量%に調整し、清澄化した魚醤について官能評価を行った。生揚げの分析値と官能評価結果を表13に示す。
【0083】
【表13】
【0084】
表13から明らかなように醸造温度50℃では短期間で良好な品質の魚醤を得る事ができる。また魚本来の香りを強調するためには一般的な魚醤の揮発性有機酸類やアミン類を生成する乳酸菌等の活動を抑制するのが望ましく、そのためには45℃以上で管理する事が適している。
【0085】
(実験例14)
醤油麹酵素抽出液の各温度による全プロテアーゼの経時的な残存活性について調べた結果を図1に示す。
【0086】
図1から明らかなように醤油麹酵素抽出液の酵素活性は55℃以上にて急激に全プロテアーゼ活性の低下がみられた事から醸造温度は全プロテアーゼ活性の低下が少ない55℃未満で行う事が望ましい。
【0087】
実験例13、14の結果から醸造温度は45℃以上55℃未満の範囲で管理する事が望ましい。また雑菌であるBacillus等の生育を抑制するためには混合物の水分活性0.90以下となるように塩分や加水量をコントロールする事が望ましい。
【0088】
またこれまでに各実験例で得られた魚醤の色調結果から色番は27以上、L*a*b*表色系のL*値は48以上、a*、b*値は正の値かつb*/a*の値が1.9以上である図2に示す領域Aの色調である事が望ましい。なお、図2は日本電色工業株式会社カタログより引用したものである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の方法によれば、従来の技術と比較してコストパフォーマンスに優れ、かつ生産性が向上し、しかもまろやかで臭みが少なく、魚介類本来の香りが強調された魚醤の製造が可能となる。
図1
図2