(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
表示装置は、これまでCRT(Cathode Ray Tube)が主に使われてきたが、近年、パソコンモニター、テレビ、携帯電話、車載用モニター等で液晶表示装置が、さまざまな環境で広く使用されている。また、表示装置の性能として、高コントラストや広視野角特性や更なる高耐久性が要求されている。
【0003】
通常の液晶表示装置では、液晶セルと偏光板に加えて、位相差フィルムが用いられている。液晶表示装置では、異方性をもつ液晶材料及び偏光板だけでは正面から見た場合には良好な表示が得られても、斜めから見ると表示性能が低下するという視野角依存性の問題があるので、その改善のため、位相差フィルムが用いられている。
【0004】
位相差フィルムは、直線偏光を楕円偏光や円偏光に変換したり、ある方向にある直線偏光を別の方向に変換(旋光)したりすることができる機能を有しており、これらの機能を利用することにより、例えば液晶表示装置の視野角やコントラスト等を改善することができる。この位相差フィルムは、通常ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン等のプラスチックフィルムを一軸または二軸延伸することによって得られる。このとき、延伸によって発生する屈折率の異方性によって複屈折が発生し、位相差フィルムとして機能する。位相差フィルムの光学的性能は、例えば、ある波長における位相差フィルム正面方向での遅相軸方向(面内で屈折率が最大となる方向)の屈折率と進相軸方向(面内で遅相軸方向と直交する方向)の屈折率の差と位相差フィルムの厚さの積によって求められる位相差値によって決めることができる。しかしながら、この位相差値にはいわゆる波長依存性(波長分散特性)と視野角依存性(視野角特性)があり、位相差フィルムはこれら諸特性を含めた総合的な性能を考慮して種々のディスプレイに使用される。
【0005】
このうち、視野角特性は、位相差値の角度依存性であり、一般的に位相差フィルムの延伸方法によって制御される。延伸によって延伸方向の屈折率nxとそれとフィルム面内で直交する方向の屈折率nyと厚さ方向の屈折率nzが発生し、その値によって、位相差フィルムの視野角特性が決まる。一軸延伸においては通常nx>ny=nzの関係となるため、いわゆる一軸性を有する位相差フィルムとなる。これに対し、二軸性は例えば、nx>ny>nzあるいはnz≧ny>nxあるいはny>nz>nxとなる場合等が挙げられるが、通常の一軸延伸ではそのような屈折率を有する位相差フィルムを得ることは容易ではなかった。
【0006】
例えばポリカーボネートなどのような高分子フィルムを一軸延伸して得られる一般的な位相差フィルムの場合、遅相軸方向に傾斜した場合は、正面方向からの傾斜角が大きくなるほど位相差値は小さくなり、逆に進相軸方向に傾斜した場合は、正面方向からの傾斜角が大きくなるほど位相差値は大きくなる。この傾向はポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、ゼオノア(日本ゼオン製)やアートン(JSR製)といったシクロオレフィン系ポリマー等、一軸延伸した他の一般的な位相差フィルムに共通して見られる傾向である。位相差フィルムの使用には、このように傾斜に伴い位相差値が変化する特性を利用する場合と、傾斜に伴う位相差値変化が極力無い特性を利用する場合とが有り、どちらの特性の位相差フィルムを用いるかは目的によって適宜使い分けられている。
【0007】
傾斜に伴う位相差値変化を極力抑えた位相差フィルムとして、特許文献3には、延伸されるフィルムに収縮性フィルムを貼り合わせ、これを一軸延伸することにより、実質的に二軸延伸を行い、傾斜に伴う位相差値の変化を抑制した位相差フィルムの製造方法が開示されている。しかしながら、収縮性フィルムを貼り合わせて実質的な二軸延伸を行う方法では、収縮性フィルムの貼り合せや、延伸後の剥離といった工程の増加があり、それに伴うコストアップの問題を引き起こしていた。
【0008】
一方、液晶表示装置の高画質化を達成するために、位相差フィルムの面内遅延(Re)だけでなく、厚み方向遅延(Rth)も制御したいという要求がある。
例えば、近年注目されている水平電界(IPS)方式の液晶表示装置に関しても、特定の斜め方向から見た場合に、階調反転、着色、コントラストの低下が生じ、その方向では視野角が小さくなることがあるため、他の液晶表示方式と同様に、位相差フィルムを用いて光学補償を行い、視野角を拡大することが必要となるIPS方式の液晶表示装置用の位相差フィルムとしては、厚み方向遅延が負の値であることが好ましい。しかし、セルローストリアセテートやポリカーボネートからなるフィルムは、厚み方向遅延は正の値を有する。そのため、光弾性係数の絶対値が小さいことに加え、厚み方向遅延が負である位相差フィルムが求められている。
【0009】
さらに、IPS方式の液晶表示装置では、液晶分子が基板面に対して略平行なホモジニアス配向を有するために、その光学補償には基板面に対して垂直な方向の屈折率の高いフィルムを用いることが有効とされている。そのため、IPS方式の液晶表示装置に用いる位相差フィルムにおいては、nzの値や位相差(Re、Rth)を制御することについても着目されており、負の固有複屈折値を有する材料を用いたり、正の固有複屈折値を有する材料に特殊な処理を施すことにより、基板面に対して垂直な方向の屈折率を高める工夫がなされている。
【0010】
具体的には、IPS方式の液晶表示装置用位相差フィルムの場合、ネガティブAプレートと呼ばれるnx=nz>nyを満足するフィルムや、ポジティブCプレートと呼ばれるnx=ny<nzを満足するフィルムを用いることが画質の向上に有効であることが知られている。
【0011】
例えば、特許文献4には、負の固有複屈折を有する材料を用いたネガティブAプレートにより液晶表示装置の光学補償を行うことが記載されている。しかし、負の固有複屈折を有する材料として従来知られているポリスチレンやポリメチルメタクリレートは、耐熱性が十分ではなく、光弾性係数が大きいという問題があった。
特許文献5には、ポジティブCプレートによるIPS方式の液晶表示装置の光学補償の概念が開示されている。しかし、特許文献3には、シュミレーションによる構成実施例が記載されているのみで、そのようなフィルムを製造するための材料については記載されていない。
また、特許文献6には、IPS方式の液晶表示装置に適した位相差フィルムとして、熱収縮フィルムを接着して加熱によるその収縮力の作用下に延伸処理及び/又は収縮処理して傾斜配向させたポリカーボネートフィルムやノルボルネンなどのシクロオレフィン系フィルム等の正の固有複屈折を有するフィルムが開示されている。しかしながら、このフィルムの製造には、熱収縮フィルムの接着工程や剥離工程が含まれ、生産性に問題がある。
【0012】
通常、フィルムの製膜直後におけるポリマーの屈折率楕円体は球形をしているが、フィルムを延伸するとポリマー鎖は延伸方向に配向するため、通常はフィルム面に水平な屈折率楕円体となる、従って、フィルム面内に対して垂直の方向に立ったコイン形状の屈折率楕円体を得ることは非常に困難であると考えられている。
【0013】
このように、IPS方式の液晶表示装置に適した位相差フィルム、あるいは、ネガティブAプレートを製造するのに適した位相差フィルムは未だ知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の1つの態様は、測定波長590nmにおける三次元屈折率が下記式(1)または(2):
nx≧nz>ny (1)
nz≧nx>ny (2)
を満たし、
一般式(3):
【化3】
(式(3)において、R
1及びR
2は異なっており、各々独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいヘテロアリール基を示し、或いはR
1及びR
2は互いに結合して隣接する不斉炭素(C*)とともに非対称な環を形成してもよい。*は不斉炭素を示す。またR
1及びR
2は同じ置換基を有していても良く、R
1およびR
2には水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいヘテロアリール基を示し、或いはR
1及びR
2は互いに結合して隣接する炭素とともに対称な環を形成してもよい。)
で表される繰り返し単位を分子内に有するポリマーであり、該ポリマー中のメソ二連子(m)とラセモ二連子(r)の比(m:r)が60:40〜100:0であるポリマーからなるフィルムを延伸して成る位相差フィルムである。
【0020】
式(1)及び(2)において、nxは位相差フィルム面内における延伸方向の屈折率であり、nyは位相差フィルム面内における延伸方向と直行方向の屈折率であり、nzは厚さ方向の屈折率である。
【0021】
即ち、本発明の位相差フィルムは、一般式(3)で表される繰り返し単位を分子内に有するポリマーからなるフィルムを延伸して成るフィルムであって、測定波長590nmにおける三次元屈折率がnx≧nz>ny又はnz≧nx>nyの関係を満たすものである。ここで、nx、ny、nzの大きさを判定する際には、小数点4桁目で差があれば屈折率に有意差があるものとして判断する。
【0022】
R
1及びR
2で示される置換基を有してもよいアルキル基のアルキル基としては、例えば、直鎖、分岐又は環状のC1〜10のアルキル基が挙げられる。具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、イソヘキシル等のC1〜6のアルキル基が挙げられる。このうち好ましくはエチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基であり、より好ましくはイソプロピル基である。該アルキル基は、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基、保護されていてもよい水酸基等の置換基を1〜3個有していてもよい。また、R
1及びR
2で示される置換基を有してもよいアルキル基は、互いに違う置換基でもまた同じ置換基でもよい。
【0023】
R
1及びR
2で示される置換基を有してもよいアリール基のアリール基としては、例えば、単環又は2環以上のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル、トルイル、キシリル、ナフチル、アンスリル、フェナンスリル等が挙げられる。該アリール基は、例えば、アルキル基(例えば、C1〜6アルキル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基、保護されていてもよい水酸基等の置換基を1〜3個有していてもよい。
【0024】
R
1及びR
2で示される置換基を有してもよいヘテロアリール基のヘテロアリール基としては、例えば、酸素、窒素及び/又は硫黄原子を環内に含むヘテロアリール基であり、例えば、フリル、チエニル、イミダゾリル、ピラゾリル、イソキサゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、インドリル、キノリル、イソキノリル、チアゾリル等が挙げられる。該ヘテロアリール基は、例えば、アルキル基(例えば、C1〜6アルキル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基、保護されていてもよい水酸基等の置換基を1〜3個有していてもよい。
【0025】
R
1及びR
2は互いに結合して隣接する不斉炭素(C*)とともに非対称な環を形成してもよい。例えば、3〜8員環の環状炭化水素を形成し、該環状炭化水素には、非対称となるように、例えば、アルキル基(例えば、C1〜6アルキル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基、保護されていてもよい水酸基等の置換基を1〜4個有している。
【0026】
R
1及びR
2として、好ましくは、R
1に水素、R
2にエチル、イソプロピル基又はtert−ブチル基であり、R
1とR
2は入れ替わっていても良く、特に好ましくはR
1に水素、R
2にイソプロピル基であり、R
1とR
2は入れ替わっても良い。また、R
1及びR
2は互いに違う置換基でもまた同じ置換基でも良い。
【0027】
本発明においては、好ましくは、一般式(3)で表される繰り返し単位を分子内に有するポリマーは、下記式(4):
【化4】
で表される化合物を含むモノマーをラジカル重合して得られるポリマーである。
ここで、式(4)中、R
1、R
2及び*は、式(3)で定義される通りである。
【0028】
ここで、R
1及びR
2は異なっているため、R
1及びR
2が結合する炭素原子は不斉炭素(C*)となる。該不斉炭素における立体構造は、R体及びS体で表記することができるが、本発明で用いる式(4)で表される化合物は、R体とS体のモル比が、R体(S体):S体(R体)=70:30〜100:0、好ましくは75:25〜100:0、より好ましくは80:20〜100:0である。
【0029】
式(4)で表されるモノマーは、種々の方法で製造される。例えば、MaGee,D.I.et al.Tetrahedron,62,4153−61(2006)の記載に準じて製造することができる。具体的な製造スキームを説明する。
【0030】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。R
1、R
2及び*は前記に同じ。)
【0031】
一般式(6)で表される乳酸は、例えば、L−乳酸、D−乳酸、発酵乳酸等が挙げられる。上記のスキームは便宜上、L−乳酸を用いているが、そのエナンチオマーであるD−乳酸を用いた場合も同様にして製造することができる。この場合、上記のスキーム中の化合物は不斉炭素の立体配置が反転したものとなる。また、原料として、発酵乳酸を使用することができる(グリーンケミストリー)。特に、発酵乳酸はL−乳酸をリッチに含むため、エナンチオマーの分離過程を省略することができる。即ち、発酵乳酸由来のモノマーからラジカル重合して得られるポリマーは、十分に高い立体規則性(アイソタクチック)が得られる。これは、実際に工業化する上で非常に重要である。
一般式(5)で表されるカルボニル化合物(例えば、イソブチルアルデヒド等)、一般式(6)で表されるL−乳酸を、溶媒(例えば、n−ペンタン等の炭化水素系溶媒等)中、酸触媒(例えば、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸等)の存在下で、Dean−Stark分留器を備えた還流冷却器を用いて水を共沸して除きながら還流する。
【0032】
一般式(5)で表されるカルボニル化合物は、公知のアルデヒドおよびケトンを広く使用できる。このようなアルデヒドとしては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ピバルアルデヒド、バレルアルデヒド、トリフルオロエタナール、クロラール、スクシンアルデヒド、クロロフルオロアセトアルデヒド、メントン、シクロヘキサンカルバルデヒド、2−ピロールカルバルデヒド、3−ピリジンカルバルデヒド、2−フルアルデヒド、ベンズアルデヒド、ベンゼンアセトアルデヒド、バニリン、ピペロナール、シトロネラ−ル等が挙げられる。また、ケトンとしては、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、2−ヘキサノン、メチルsec−ブチルケトン、メチルtert−ブチルケトン、アセトフェノン、2−フリルメチルケトン、2−アセトナフトン、2(3H)−ピラジノン、ピロリドン等が挙げられる。このうち、好ましくはアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ピバルアルデヒド等であり、より好ましくはイソブチルアルデヒドである。
【0033】
縮合反応における生成物は、通常、一般式(7a)及び/又は(7b)で表される2つのジアステレオマーの混合物となる。これらは、例えば、常圧あるいは減圧下で蒸留したり、カラムクロマトグラフィー等により単離及び精製することができる。一般式(7a)及び(7b)で表される化合物の混合物となる場合は、上記の単離及び精製の方法を用いて分離することができる。
【0034】
縮合反応の温度および時間は、例えば、試薬の種類により適宜調節すればよいが、反応温度は、通常、0〜180℃程度、好ましくは0〜80℃、より好ましくは0〜60℃であり、また、反応時間は、通常、0.5〜100時間、好ましくは0.5〜30時間、より好ましくは0.5〜10時間である。縮合反応の温度及び時間の条件は、(7a)と(7b)の生成比に大きな影響を及ぼし、通常、温度が低く、反応時間が短いとその生成比は高くなる。特に、0〜60℃、0.5〜10時間の条件で撹拌することにより、高いジアステレオ比が達成される。
【0035】
一般式(7a)で表される化合物及び(7b)で表される化合物が混合物の場合には、重合後のポリマーの立体規則性の向上を考慮すると、一方の化合物が高純度で(高いジアステレオ比で)含まれていることが好ましい。例えば、一般式(7a)で表される化合物:一般式(7b)で表される化合物のモル比が70:30〜100:0、好ましくは80:20〜100:0、より好ましくは90:10〜100:0、特に好ましくは95:5〜100:0である。また、一般式(11b)で表される化合物:一般式(7a)で表される化合物のモル比が70:30〜100:0、好ましくは80:20〜100:0、より好ましくは90:10〜100:0、特に好ましくは95:5〜100:0である。
【0036】
ついで、上記で得た一般式(7)で表される化合物(一般式(7a)及び/又は(7b)で表される化合物の総称とする)を、例えば、溶媒(例えば、四塩化炭素等)の存在下、ハロゲン化剤(例えば、N−ブロモスクシンイミド(NBS)、N−クロロスクシンイミド(NCS)、N−ヨードスクシンイミド(NIS)、N,N−ジブロモヒダントイン(NDBH)、N−ブロモサッカリン(NBSA)、臭素、塩素、ヨウ素等)及びラジカル開始剤(例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)等)を反応させる。通常、還流冷却器を備えたフラスコ中で一定時間還流する。反応後、常法により処理して一般式(8)で表される化合物(一般式(8a)及び/又は(8b)で表される化合物の総称とする)を得る。
【0037】
その後、一般式(8)で表される化合物に、溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等)中、塩基(例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン、ピペリジン、DBU、Na
2CO
3、NaOH等)を作用させる。通常、一般式(8)で表される化合物の溶液に塩基を加えて一定時間還流する。反応後、溶媒を留去した後、蒸留により単離及び精製して、一般式(4)で表される化合物(一般式(4a)及び/又は(4b)で表される化合物の総称とする)を得る。
また、得られた化合物の保管時あるいは使用時の安定性向上のために、合成時あるいは合成後にハイドロキノン、p−メトキシフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、3−ヒドロキシチオフェノール、p−ベンゾキノン、2,5−ジヒドロキシ−p−ベンゾキノン、フェノチアジン等の重合禁止剤を必要に応じて添加しても良い。その使用量は化合物に対し0.01〜1質量%である。
【0038】
得られた一般式(4)で表される化合物(モノマー)は、R
1及びR
2が結合する不斉炭素(C*)のエナンチオ比(即ち、R体とS体のモル比)が、R体(S体):S体(R体)=70:30〜100:0、好ましくは80:20〜100:0、より好ましくは90:10〜100:0、特に好ましくは95:5〜100:0である。
特に、一般式(4)で表されるモノマーとしては、ラジカル重合後のポリマーの立体規則性の観点より、以下の一般式(4c)で示される化合物が好ましい。R
11としてはイソプロピル基が好ましい。
【0040】
本発明の1つの態様において、本発明の位相差フィルムは、式(4)で表される化合物を含むモノマーまたは、モノマーの溶液をキャストし、ラジカル重合処理を施してフィルム状に成形して得ることができる。(以下「本発明の製造方法1」ともいう。)
【0041】
また、本発明の1つの態様において、本発明の位相差フィルムは、式(4)で表される化合物を含むモノマーまたは、モノマーの溶液をキャストし、ラジカル重合処理を施して得られたフィルムを、さらに延伸処理して得ることができる。
【0042】
式(4)で表される化合物を含むモノマーの溶液をキャストする場合は、まず該モノマーを溶剤に溶解する。使用しうる溶剤としては、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メチルのような酢酸エステル類、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ベンジルアルコールのようなアルコール類、2−ブタノン、アセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンのようなケトン類、ベンジルアミン、トリエチルアミン、ピリジンのような塩基系溶媒、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール、ヘキサン、ヘプタンのような非極性溶媒が挙げられる。
式(4)で表される化合物を含むモノマーの重量濃度は、通常1%〜99%、好ましくは2.5%〜80%、より好ましくは5%〜50%である。これらのモノマーは1種類のみ配合しても良いし、複数種を配合しても良い。さらに必要に応じて上述した各溶剤や可塑剤を加えても良い。可塑剤としてはジメチルフタレートやジエチルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレートのようなフタル酸エステル、トリス(2−エチルヘキシル)トリメリテートのようなトリメリト酸エステル、ジメチルアジペートやジブチルアジペートのような脂肪族二塩基酸エステル、トリブチルホスフェートやトリフェニルホスフェートのような正燐酸エステル、セバシン酸−ジ−n−ブチル等のセバシン酸エステル、グリセルトリアセテート又は2−エチルヘキシルアセテートのような酢酸エステルが挙げられる。これらの化合物は1種類のみ配合しても良いし、複数種を配合しても良い。
【0043】
次に、得られたモノマー溶液を表面の平坦な離形性のある基板の上にキャスト(塗布)した後、ラジカル重合処理を施してフィルム状に加工する。
また、式(4)で表される化合物を含むモノマーを溶剤に溶解せずにそのまま使用することもできる。この場合、上記と同様に、モノマーを表面の平坦な離形性のある基板の上に塗布した後、ラジカル重合処理を施してフィルム状に加工する。
【0044】
ラジカル重合処理は、ラジカル重合開始剤の存在下又は不存在下で実施することができる。具体的には、ラジカル重合開始剤の不在下に自然熱重合したり、ラジカル重合開始剤の存在下又は不在下に光照射によりラジカル重合することができる。光照射によるラジカル重合の場合、通常、水銀灯、キセノンランプ等の光源を使用して重合する。光源は、ビニルモノマーの種類、重合開始剤の種類等により適宜選択できる。
【0045】
光照射として、たとえば、紫外線の照射量は、式(4)で表される化合物を含むモノマーの種類、膜厚によって異なるが、1回の照射量は、100〜1000mJ/cm
2程度がよい。また、紫外線照射時の雰囲気は空気中でも窒素などの不活性ガス中でもよいが、膜厚が薄くなると、酸素障害により十分に硬化しないため、そのような場合は不活性ガス中で紫外線を照射して硬化させるのが好ましい。
【0046】
ラジカル重合開始剤は、一般にラジカル重合で使用できるものであれば良く、例えば、アゾ系重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物、レドックス系重合開始剤等の他、ベンゾイン類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキサイド類等の光重合開始剤等を挙げることができる。また、上記の開始剤に加えて、有機ハロゲン物質(例えば、エチル2−ブロモイソブチレート)、ニトロキシド誘導体、チオカルボニル物質、有機テルル物質等を開始剤あるいは添加剤としたリビングラジカル重合開始剤系を挙げることができる。
ラジカル重合の開始剤のうち好ましくはアゾ系重合開始剤であり、具体的には、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド等が挙げられる。また、アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オン、オリゴ[2−ヒドロキシー2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン]等のアセトフェノン類や、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、ジフェニル−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキシド等のホスフィンオキサイド類等の光重合開始剤も好ましく、これらを単独あるいは混合して添加し、紫外線を照射することでポリマーを形成することができる。
【0047】
ラジカル重合処理を施した後、必要により溶媒を除去し、基板から剥離して、透明なフィルムとする。
【0048】
本発明の製造方法1で得られたフィルムを更に一軸延伸することにより、本発明の位相差フィルムを得ることができる。延伸処理は、一般的な一軸延伸を用いることができ、例えば、フィルムの両端を固定して加温しながら一方向に延伸する。または、フィルムが長尺のロール状である場合には、例えばニップロールにてフィルムの両端を固定し、両ロールの回転数の差により連続的に延伸する。延伸する際の温度は、一般式(3)で表される繰り返し単位を分子内に有するポリマーの種類によって最適な延伸温度は異なる。
【0049】
本発明の位相差フィルムを作製するための延伸温度は、50℃〜300℃、より好ましくは150℃〜250℃程度が良い。
【0050】
延伸倍率は一般式(3)で表される繰り返し単位を分子内に有するポリマーの種類、厚さ、所望とする位相差値によって異なるが、1.1倍から10倍、より好ましくは1.5倍から5倍程度が良い。例えば、式(3)においてR
1が水素、R
2がi−プロピル基であるモノマーを用いる場合は、1.5倍〜2.5倍程度である。
延伸速度も延伸温度と同様、一般式(3)で表される繰り返し単位を分子内に有するポリマーの種類によって最適延伸速度は異なるが、通常10倍延伸/分以下、好ましくは5倍延伸/分以下、より好ましくは2.5倍延伸/分以下である。
【0051】
また、本発明の製造方法1で得られる位相差フィルムの厚さは10〜500μm、好ましくは20〜300μm、より好ましくは30〜150μm程度が良い。
【0052】
また、本発明の1つの態様において、本発明の位相差フィルムは、式(4)で表される化合物を含むモノマーにラジカル重合処理を施して得られたポリマーを、押し出し法にてフィルム状に成形して得ることができる。(以下「本発明の製造方法2」とも言う。)
【0053】
また、本発明の1つの態様において、本発明の位相差フィルムは、式(4)で表される化合物を含むモノマーにラジカル重合処理を施したポリマーを用いて、押し出し法にて得られたフィルムを、さらに延伸処理して得ることができる。
【0054】
ラジカル重合は、通常、不活性ガスで置換した容器あるいは真空脱気した容器で、式(4)で表されるモノマーと必要に応じラジカル重合開始剤を混合し撹拌して行われる。
【0055】
ラジカル重合反応は、無溶媒、或いはラジカル重合で一般に使用される溶媒(有機溶媒又は水性溶媒)を使用することができる。有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、アニソール等が挙げられる。また、水性溶媒としては、水、必要に応じメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチロセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノール等を含む溶媒が挙げられる。
溶媒を使用する場合、溶媒の使用量としては、適宜調節すればよいが、例えば、式(4)で表されるモノマー1molに対して、又は共重合の場合には式(4)で表されるモノマーを含む全モノマー1molに対して、一般に0.1〜20リットル、好ましくは0.2〜5リットルである。
【0056】
ラジカル重合反応は、ラジカル重合開始剤の存在下又は不存在下で実施することができる。通常、ラジカル重合開始剤の存在下で実施することが好ましい。もちろん、ラジカル重合開始剤の不在下に自然熱重合したり、ラジカル重合開始剤の存在下又は不在下に光照射によりラジカル重合することも可能である。光照射によるラジカル重合の場合、通常、水銀灯、キセノンランプ等の光源を使用して重合する。光源は、ビニルモノマーの種類、重合開始剤の種類等により適宜選択できる。
【0057】
ラジカル重合反応は、式(4)で表されるモノマーのラジカル単独重合以外に、ラジカル共重合も含まれる。ラジカル共重合、特にリビングラジカル共重合の場合は、ジブロックおよびトリブロック共重合が可能である。ラジカル共重合し得るモノマーとしては、式(4)で表されるモノマーのうち異なった構造のモノマーや、式(4)で表されるモノマー以外にラジカル重合可能なモノマーを制限なく使用することができる。
【0058】
式(4)で表されるモノマー以外にラジカル重合可能なモノマー(以下、「併用モノマー」とも呼ぶ)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸メンチル等の(メタ)アクリル酸エステル;α−アセトキシアクリル酸、α−アセトキシアクリル酸メチル、α−アセトキシアクリル酸メンチル、α−アセトアミドアクリル酸、α−アセトアミドアクリル酸メチル、α−アセトアミドアクリル酸メンチル、α−メトキシアクリル酸メチル、α−メトキシアクリル酸メンチル等のキャプトデイティブ置換モノマー(α位が電子供与性基及び電子受容性基で同時に置換されたモノマー);(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル等のシクロアルキル基含有不飽和モノマー(シクロアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル));マレイン酸、フマル酸、フマル酸ジメチル、フマル酸ジブチル、イタコン酸、イタコン酸エチル、無水マレイン酸、マレインイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等2以上のカルボキシル基含有不飽和モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等のアミン含有不飽和モノマー((メタ)アクリル酸アミド);スチレン、α−メチルスチレン、α−メトキシスチレン、α−メトキシ−2−メトキシスチレン、2−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−tert−ブトキシスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、1−ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、4−スチレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)等の芳香族不飽和モノマー;2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−ビニルチオフェン、1−ビニル−2−ピロリドン、ビニルカルバゾール等のヘテロ環含有不飽和モノマー;N−ビニルアセトアミド、N−ビニルベンゾイルアミド等のビニルアミド;エチレン、プロピレン、1−ヘキセン等のα−オレフィン;ブタジエン、イソプレン等のジエンモノマー;ジビニルベンゼン、4,4’−ジビニルビフェニル、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等アクリロイル基を2つ有する2官能(メタ)アクリレートモノマー、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の3つ以上のアクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマー等の多官能性モノマー;ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートオリゴマー、(メタ)アクリロニトリル、メチルビニルケトン、メチルイソプロペニルケトン、エチルビニルスルフィド、安息香酸ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、α‐シアノアクリル酸エチル、クマリン、インデン、インドン等が挙げられる。
【0059】
式(4)で表されるモノマーに加えて併用モノマーを用いる場合、全モノマー中の併用モノマーの仕込割合は、一般に40モル%以下、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。また、ラジカル重合反応により得られる式(3)で表される繰り返し単位を有するポリマーは、併用モノマーに由来する単位のモル分率は、通常20モル%以下、好ましくは15モル%以下、より好ましくは12モル%以下である。
【0060】
ラジカル重合開始剤は、一般にラジカル重合で使用できるものであれば良く、その種類については、本発明の製造方法1について記載したものと同様のものを用いることができる。
【0061】
ラジカル重合開始剤の使用量としては、得られるポリマーにより適宜調節すればよいが、式(4)で表されるモノマー1molに対して、又は共重合の場合には式(4)で表されるモノマーを含む全モノマー1molに対して、通常、1×10
−6〜1mol、好ましくは1×10
−4〜1×10
−1、更に好ましくは1×10
−3〜1×10
−2である。
上記のラジカル重合法のうち、特にリビングラジカル重合法を採用することにより、分子量、分子量分布、立体構造等がより高度に制御されたポリマーを製造することができるため好適である。
【0062】
リビングラジカル重合開始剤の好ましいものとしては、有機テルル媒介リビングラジカル重合開始剤系が挙げられ、具体的には、AIBN/ジ−n−ブチルジテルリド(DBT)、AIBN/ジフェニルジテルリド、AIBN/エチル2−メチル−2−メチルテラニル−プロピオネート、AIBN/エチル2−メチル−2−ブチルテラニル−プロピオネート(EMBTP)、AIBN/エチル2−メチル−2−フェニルテラニル−プロピオネート、AIBN/DBT/EMBTP等が挙げられる。
この場合AIBNの使用量としては、得られるポリマーにより適宜調節すればよいが、式(4)で表されるモノマー1molに対して、又は共重合の場合には式(4)で表されるモノマーを含む全モノマー1molに対して、通常、1×10
−6〜1mol、好ましくは1×10
−4〜1×10
−1、更に好ましくは1×10
−3〜1×10
−2である。有機テルリウムの使用量は、式(4)で表されるモノマー1molに対して、又は共重合の場合には式(4)で表されるモノマーを含む全モノマー1molに対して、通常、1×10
−6〜1mol、好ましくは1×10
−4〜1×10
−1、更に好ましくは1×10
−3〜1×10
−2である。
【0063】
リビングラジカル重合のうち、特にブロック共重合体の製造方法は以下の通りである。本共重合は、少なくとも式(4)で表されるモノマーを1種含むもので、他に上記併用モノマーを使用することができる。AB型のジブロック共重合の場合、例えば、窒素置換したグローブボックスあるいは脱気した容器内で、式(4)で表されるモノマーを、溶媒の存在下又は不在下に、上記ラジカル開始剤を添加して反応して、式(3)で表される繰り返し単位を有するポリマーを得る。その後、第2のモノマー(異種の式(4)で表されるモノマー又は併用モノマー)を混合して共重合体を得る。また、モノマーの添加順序を逆にして、先に第2のモノマーを反応させた後、式(4)で表されるモノマーを反応させてもよい。さらに、ABA型、ABC型等のトリブロック共重合体も、上記のジブロック共重合体を製造後、順次モノマーを混合することにより製造することができる。
【0064】
反応温度および反応時間は、該ビニルモノマーの種類、重合開始剤の種類により適宜調節すればよいが、通常、0〜180℃程度、0.5〜100時間程度撹拌すればよい。好ましくは、それぞれ30〜100℃、1〜30時間撹拌する。この時、圧力は、通常、常圧で行われるが、加圧或いは減圧しても構わない。この時、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等を挙げることができる。好ましくは、アルゴン、窒素が良い。特に好ましくは、窒素が良い。
重合反応により、分子内に式(3)で表される繰り返し単位を有する立体規則性を有するポリマーが得られる。該ポリマー中のメソ二連子(m)とラセモ二連子(r)の比(m:r)は60:40〜100:0であり、(m:r)は65:35〜100:0が好ましく、70:30〜100:0がより好ましく、75:25〜100:0がより好ましく、80:20〜100:0が特に好ましい。この比率は、開環反応により得られる繰り返し単位を有するポリマーの
13C−NMR分析により確認することができる。
一般式(3)で表される繰り返し単位を有するポリマーは、一般に、m(メソ)の割合が増加するに従って有機溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン等)に対する溶解性も低下する傾向がある。
ラジカル重合反応で得られるポリマーの重合度は、反応時間、開始剤濃度、反応温度、溶媒等により適宜調整可能であるが、数平均重合度10〜20,000、特に50〜5,000のポリマーである。また、数平均分子量(Mn)は、1,000〜4,000,000程度、更に5,000〜1,000,000程度である。Mnおよび重量平均分子量(Mw)の測定方法は、実施例に記載されるGPC法が採用される。本発明では、通常、分子量分布(PDI=Mw/Mn)が1.01〜4.0、特に1.05〜2.5のラジカルポリマーが得られる。ここで中でも、リビングラジカルポリマーの分子量分布(PDI=Mw/Mn)は狭く、1.01〜1.5の間で制御され、さらに1.05〜1.30、特に1.1〜1.25の範囲に制御することができる。
【0065】
式(4)で表される化合物を含むモノマーにラジカル重合処理を施したポリマーを用いて、押し出し法にてフィルム状に成形される。押出し法は、公知の押出し成形法を使用することができ、一軸押出し成形又は二軸押出し成形等が挙げられる。
【0066】
本発明の製造方法2で得られたフィルムを更に延伸処理して本発明の位相差フィルムを得ることができる。延伸処理は、一般的な一軸延伸を用いることができ、例えば、フィルムの両端を固定して加温しながら一方向に延伸する。または、フィルムが長尺のロール状である場合には、例えばニップロールにてフィルムの両端を固定し、両ロールの回転数の差により連続的に延伸する。延伸する際の温度は、一般式(3)で表される繰り返し単位を分子内に有するポリマーの種類によって最適な延伸温度は異なる。
【0067】
延伸温度は、50℃〜300℃、より好ましくは150℃〜250℃程度が良い。
【0068】
延伸倍率は一般式(3)で表される繰り返し単位を分子内に有するポリマーの種類、厚さ、所望とする位相差値によって異なるが、1.1倍から10倍、より好ましくは1.2倍から5倍程度が良い。例えば、式(3)においてR
1が水素、R
2がi−プロピル基であるモノマーを用いる場合は、1.5倍〜2.5倍程度である。
延伸速度も延伸温度と同様、一般式(3)で表される繰り返し単位を分子内に有するポリマーの種類によって最適延伸速度は異なるが、通常10倍延伸/分以下、好ましくは5倍延伸/分以下、より好ましくは2.5倍延伸/分以下である。
【0069】
また、本発明の製造方法2で得られる位相差フィルムの厚さは10〜500μm、好ましくは20〜300μm、より好ましくは30〜150μm程度が良い。
【0070】
本発明の位相差フィルムは、他の位相差フィルムや、偏光フィルムと組み合わせて用いることにより、種々の機能を付与できる。例えば、フィルム面内の最大屈折率をna、それとフィルム面内で直交する方向の屈折率をnb、厚さ方向の屈折率をncとするとき、na>nb>nc、na>nb=nc、na=nb>nc、na=nb<nc、na>nc>nbであるような他の位相差フィルムと、本発明の位相差フィルムとを各々の遅相軸が所望の角度になるよう積層することにより、本発明の複合位相差フィルムが得られる。この複合位相差フィルムは波長分散や視野角特性が各位相差フィルム単独とは異なるため、さらなる高機能化が可能となる。具体的には、例えば、本発明の位相差フィルムとna>nb>ncまたはna>nb=ncまたはna=nb>ncである位相差フィルムとを各々の遅相軸が平行または直交するように積層することにより得られた複合位相差フィルムは、各々の持つ視野角依存性よりも改良されている。なお、積層する方法としては例えば、アクリル系粘着剤や接着剤によって貼り合せる方法が挙げられる。積層する際の粘着剤としてはアクリル系粘着剤が好適に用いられ、接着剤としてはポリビニルアルコール系、ウレタン系、イソシアネート系、アクリル系又はエポキシ系等種々の接着剤を適宜用いることができる。他の位相差フィルムとしては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルサルフォン、ノルボルネン誘導体、シクロオレフィン系ポリマー又は特許文献2や特開2002−131539号公報に記載のセルロース誘導体等を一軸または二軸延伸して得られる位相差フィルム等が挙げられる。
【0071】
本発明のもう1つの態様は、本発明の位相差フィルムを備える液晶セルである。
また、本発明のもう1つの態様は、本発明の位相差フィルムを備える液晶表示装置である。
本発明の位相差フィルムは二軸延伸することなしに一軸延伸のみでネガティブAプレートとしての光学特性を発現することができる位相差フィルムであり、本発明の位相差フィルムを備える液晶表示セル、及び本発明の位相差フィルムを備える液晶表示装置は、従来の液晶表示装置に比べて視野角特性が向上するといった優れた特性を持つ。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を、実施例を用いて更に詳述するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0073】
[測定機器]
実施例および比較例において、各種物性測定は以下の機器により測定した。
1H−NMRおよび13C−NMR:JEOL EX−400(400MHz)
IR:JASCO FT/IR−230
旋光度:JASCO P−1030
分離、精製:Tosoh HLC−8020
分子量(数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw)および分子量分布(Mw/Mn):GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー):Tosoh HLC−8220(カラム−TSKgel G7000HHR+G5000HHR+G3000)ポリスチレン標準
【0074】
[モノマーの製造]
合成例1(ラセミモノマー)
(5−メチレン−2−イソプロピル−1,3−ジオキソラン−4−オンの合成)
イソブチルアルデヒド 600.0g(5.99mol)、D−乳酸とL−乳酸のラセミ混合物432.0g(5.99mol)、p−トルエンスルホン酸 1.0g(0.05mmol)をトルエン 300mlに溶解し、Dean−Stark分留器を備えた還流冷却器を500mlのフラスコに取り付け5時間還流する。反応後、反応混合物を炭酸水素ナトリウム水溶液で中和、洗浄し、エーテルで抽出後、抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、エーテルを留去し、5−メチル−2−イソプロピル−1,3−ジオキソラン−4−オン710.0g(収率:82.2%)を得た。
目的物の生成は、IR、1H−NMRにより確認した。この方法により得られた5−メチレン−2−イソプロピル−1,3−ジオキソラン−4−オンの旋光度は、[α]D=0(CHCl3)であった。
上記で得た5−メチル−2−イソプロピル−1,3−ジオキソラン−4−オン60.0g(0.41mol)、N−ブロモスクシンイミド73.8g(0.41mol)、2,2’−アゾビス(イソブチロにトリル)(AIBN)180mg(1.1mmol)を四塩化炭素 180mlに溶解し、還流冷却器を備えたフラスコ中で4時間還流した。反応後、濾過により析出した塩を除き、濾液中の四塩化炭素を留去し、5−ブロモ−5−メチル−2−イソプロピル−1,3−ジオキソラン−4−オン83.0g(0.36mol)を得た。
上記のブロモ体と脱水ベンゼン 350mlを滴下ロート、還流冷却器を備えたフラスコに入れ、窒素雰囲気のもと氷冷下で脱水ベンゼン150mlと混合させたトリエチルアミン46.5g(0.46mol)を1時間かけてゆっくり滴下した後、さらに1時間還流した。反応後、濾過により析出した塩を除き、濾液中のドライベンゼンを留去した後、蒸留(bp=65℃/7mmHg)により単離、精製することにより5−メチレン−2−イソプロピル−1,3−ジオキソラン−4−オン 20.0g(収率:38.9%)を製造した。
5−メチレン−2−イソプロピル−1,3−ジオキソラン−4−オン:
IR(neat、cm−1)1668(C=C)、1798(C=O)、2883〜2974(isopropyl)
1H−NMR(CDCl3、ppm)1.00(d,J=0.8Hz,3H)、1.02(d,J=0.8Hz,3H)、2.04(m,1H)、4.86(d,J=2.8Hz,1H)、5.15(d,J=2.8Hz,1H)、5.60(d,J=4.4Hz,1H)
[α]D=0(CHCl3)
得られた化合物は無色透明の液体であり、その粘度をE型粘度計(TV−20:東機産業(株)製)を用い、25℃にて測定したところ、5.4mPa・sであった。
【0075】
合成例2(キラルモノマー)
(5−メチレン−2−イソプロピル−1,3−ジオキソラン−4−オンの合成)
イソブチルアルデヒド435.2g(6.04mol)、L−乳酸548.2g(6.09mol)、p−トルエンスルホン酸2.0g(0.1mmol)をn−ペンタン300mlに溶解し、Dean−Stark分留器を備えた還流冷却器を500mlのフラスコに取り付け5時間還流した。反応後、反応混合物を炭酸水素ナトリウム水溶液で中和、洗浄し、エーテルで抽出後、抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後、エーテルを留去し、ジアステレオマー混合物の5−メチル−2−イソプロピル−1,3−ジオキソラン−4−オンを得た。この目的物は、シス体/トランス体=85/15のジアステレオマー混合物からなり、光学分割することなく、次の反応に供した。
以下の工程はモノマー合成の製造例1に準じて行った。
目的物の生成は、IR、1H−NMRにより確認した。この方法により得られた5−メチレン−2−イソプロピル−1,3−ジオキソラン−4−オンの旋光度は、[α]D=−5.6(CHCl3)であった。
得られた化合物は無色透明の液体であり、その粘度をE型粘度計(TV−20:東機産業(株)製)を用い、25℃にて測定したところ、2.4mPa・sであった。
【0076】
[実施例1]
ガラス基板上に耐熱離型テープで20mm×50mm×深さ0.2mmの型を作成し、その中に合成例1で得られた化合物を滴下して、高圧水銀ランプで3000mJ/cm
2の照射量の紫外線を照射して硬化させた後、型からはがしてシート状の硬化物を得た。得られた硬化物は膜厚約200μmの無色透明の膜であった。JIS K5600−5−4に準じ、鉛筆硬度を測定したところ、2Hの鉛筆で傷は生じなかった。
【0077】
[実施例2]
ガラス基板上に耐熱離型テープで20mm×50mm×深さ0.2mmの型を作成し、その中に合成例1で得られた化合物を滴下して、100℃、3時間で加熱硬化させ、型からはがしてシート状の硬化物を得た。得られた硬化物は膜厚約200μmの無色透明の膜であった。JIS K5600−5−4に準じ、鉛筆硬度を測定したところ、2Hの鉛筆で傷は生じなかった。
【0078】
[実施例3]
実施例2と同様の方法でシート状の硬化物を得た。得られた硬化物は膜厚約200〜300μmの無色透明の膜であった。これを1.5cm×5cmほどの大きさに裁断して延伸用のバルクフィルムとして用い、160℃に加熱したホットプレートで炙りながら1.5倍に延伸し、膜厚198μmの位相差フィルム1を得た。
【0079】
[実施例4]
実施例2と同様の方法でシート状の硬化物を得た。得られた硬化物は膜厚約200〜300μmの無色透明の膜であった。これを1.5cm×5cmほどの大きさに裁断して延伸用のバルクフィルムとして用い、200℃に加熱したホットプレートで炙りながら2倍に延伸し、膜厚150μmの位相差フィルム2を得た。
【0080】
[実施例5]
合成例1で得られた化合物の代わりに合成例2で得られた化合物を使用する以外は実施例4と同様の方法でシート状の硬化物を得た。得られた硬化物は膜厚約200〜300μmの無色透明の膜であった。これを実施例4と同様の方法で延伸し、膜厚236μmの位相差フィルム3を得た。
【0081】
実施例3〜5で得られた本発明の位相差フィルム、二軸延伸ゼオノア(積水化学製エスシーナ)C−Plate(比較例1)、一軸延伸位相差フィルム(PCR140)A−−Plate(比較例2)について、自動複屈折計(王子計測機器製KOBRA−WPR))を用いて三次元屈折率を測定した。その結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1に示すように、実施例3〜5で得られた本発明の位相差フィルムは、三次元複屈折率が、nx≧nz>nyの関係を有しており、ネガティブAプレートとしての光学特性を発現できることが確認された。
このように、本発明により、二軸延伸ではなく一軸延伸のみでネガティブAプレートとしての光学特性を発現することが可能な位相差フィルムを提供することができるものである。