(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443882
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】エアロゾル消火剤組成物。
(51)【国際特許分類】
A62D 1/06 20060101AFI20181217BHJP
C06B 23/00 20060101ALI20181217BHJP
C06D 5/00 20060101ALI20181217BHJP
A62C 35/02 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
A62D1/06
C06B23/00
C06D5/00 Z
A62C35/02 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-51031(P2015-51031)
(22)【出願日】2015年3月13日
(65)【公開番号】特開2016-168255(P2016-168255A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2017年10月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(73)【特許権者】
【識別番号】000114905
【氏名又は名称】ヤマトプロテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】富山 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】吉川 昭光
(72)【発明者】
【氏名】福田 泰欣
(72)【発明者】
【氏名】高塚 勇希
【審査官】
田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−532687(JP,A)
【文献】
特表2010−532686(JP,A)
【文献】
特表2010−532685(JP,A)
【文献】
特表2013−541362(JP,A)
【文献】
特開2011−050581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D 1/06
A62C 35/02
C06B 23/00
C06D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)燃料および(B)無機酸化剤の合計質量100質量%中、(A)20〜50質量%および(B)80〜50質量%を含有し、
さらに(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して、(C)有機カルボン酸カリウム塩7〜1000質量部を含有しており、
前記(B)無機酸化剤が、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸カリウムから選ばれるものであって、
前記有機カルボン酸カリウム塩が、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸三水素一カリウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム、エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二カリウムから選ばれるものであって、
熱分解開始温度が90℃超〜260℃の範囲である、エアロゾル消火剤組成物。
【請求項2】
前記燃料が、ジシアンジアミド、ニトログアニジン、硝酸グアニジン、尿素、メラミン、メラミンシアヌレート、アビセル、グアガム、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、カルボキシルメチルセルロースカリウム、カルボキシルメチルセルロースアンモニウム、ニトロセルロース、アルミニウム、ホウ素、マグネシウム、マグナリウム、ジルコニウム、チタン、水素化チタン、タングステン、ケイ素から選ばれるものである、請求項1記載のエアロゾル消火剤組成物。
【請求項3】
見かけ密度が1.3g/cm3以上である、請求項1または2記載のエアロゾル消火剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のエアロゾル発生消火剤組成物を用いたエアロゾル発生自動消火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼によりエアロゾルを発生して火災を消火抑制することができるエアロゾル消火剤組成物と、それを使用したエアロゾル発生自動消火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な消火器や消火装置などには、消火剤として微粉末状態のものが充填されている。
このような消火器や消火装置は、作動時において微粉末状態の消火剤を炎に向けて拡散させることで瞬時にカリウムラジカルのようなラジカルを発生させ、前記ラジカルによって燃焼反応を推進する水素ラジカル、酸素ラジカル、水酸化ラジカルなどを捕捉して消火するというのが基本的な機能である。
このような粉末系の消火剤を使用した消火器や消火装置は、粉体のまま拡散させるため、容器が大きく嵩張ってしまい、瞬時に噴出させるため高圧に耐える容器である必要があるので重くなってしまう。
【0003】
特許文献1では、よりコンパクトな消火装置を実現するべく、燃料成分のジシアンジアミドと酸化剤成分の硝酸カリウムから構成される火薬組成物を使用することで、酸化剤由来のカリウムラジカルを含むエアロゾルを発生させることを可能としている。
【0004】
特許文献2では、酸化剤としてクエン酸カリウムを添加する系もあるが、酸化剤は無機化合物の方が酸化力は優れており、自発的な燃焼推進するだけの酸化還元反応は起こりえないため実現は難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】RU2357778 C2
【特許文献2】KR101209706 B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、消火器、消火装置などの消火剤として使用したとき、粉末系の消火剤を使用した場合と比べると、消火器、消火装置などをよりコンパクトで軽量にすることができる、エアロゾル消火剤組成物と、前記組成物を使用したエアロゾル発生自動消火装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、(A)燃料20〜50質量%および(B)無機酸化剤80〜50質量%を含有し、
さらに(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して、(C)有機カルボン酸カリウム塩7〜1000質量部を含有しており、
熱分解開始温度が90℃超〜260℃の範囲である、エアロゾル消火剤組成物と、前記組成物を使用したエアロゾル発生自動消火装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエアロゾル消火剤組成物とそれを使用したエアロゾル発生自動消火装置は、粉体の状態で拡散使用するものではなく、火災による熱を受けて自動的に着火燃焼して、消火作用を有するエアロゾルを発生させることができる。
このため、粉末系の消火剤を使用した場合と比べると、消火器、消火装置などをよりコンパクトで軽量にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明のエアロゾル消火剤組成物を使用した消火性能の確認試験の試験方法の説明図(燃焼空間容積が5L、20Lおよび50L)。
【
図2】本発明のエアロゾル消火剤組成物を使用した消火性能の確認試験の試験方法の説明図(燃焼空間容積が80L、600L、2000L)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<エアロゾル消火剤組成物>
(A)成分の燃料は、(B)成分の無機酸化剤と共に燃焼により熱エネルギーを発生させて(C)成分の有機カルボン酸カリウム塩に由来するエアロゾル(カリウムラジカル)を発生させるための成分である。
(A)成分の燃料としては、ジシアンジアミド、ニトログアニジン、硝酸グアニジン、尿素、メラミン、メラミンシアヌレート、アビセル、グアガム、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、カルボキシルメチルセルロースカリウム、カルボキシルメチルセルロースアンモニウム、ニトロセルロース、アルミニウム、ホウ素、マグネシウム、マグナリウム、ジルコニウム、チタン、水素化チタン、タングステン、ケイ素から選ばれるものが好ましい。
【0011】
(B)成分の無機酸化剤は、(A)成分の燃料と共に燃焼により熱エネルギーを発生させて(C)成分の有機カルボン酸カリウム塩に由来するエアロゾル(カリウムラジカル)を発生させるための成分である。
(B)成分の無機酸化剤としては、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、塩基性硝酸銅、酸化銅(I)、酸化銅(II)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、三酸化モリブデンから選ばれるものが好ましい。
【0012】
(A)成分の燃料と(B)成分の無機酸化剤の合計量中の含有割合は、(A)成分は20〜50質量%、好ましくは25〜40質量%、より好ましくは25〜35質量%であり、(B)成分は80〜50質量%、好ましくは75〜60質量%、より好ましくは75〜65質量%である。
【0013】
(C)成分の有機カルボン酸カリウム塩は、(A)成分と(B)成分の燃焼により生じた熱エネルギーによりエアロゾル(カリウムラジカル)を発生させるための成分である。
(C)成分の有機カルボン酸カリウム塩としては、酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸二カリウム、クエン酸三カリウム、エチレンジアミン四酢酸三水素一カリウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二カリウム、エチレンジアミン四酢酸一水素三カリウム、エチレンジアミン四酢酸四カリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸二カリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二カリウムから選ばれるものが好ましい。
【0014】
(C)成分の含有割合は、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して(C)成分が7〜1000質量部であり、好ましくは10〜900質量部である。
【0015】
本発明の組成物は、熱分解開始温度が90℃超〜260℃の範囲のものであり、好ましくは150℃超〜260℃のものである。前記熱分解開始温度は、上記した(A)、(B)および(C)成分を上記した割合で組み合わせることで満たすことができる。
本発明の組成物は、上記した熱分解温度範囲を満たすことで、例えば点火装置などを使用することなく、火災発生時の熱を受けて(A)成分と(B)成分が自動的に着火燃焼して、(C)成分に由来するエアロゾル(カリウムラジカル)を発生させて消火することができる。
また、室内にある可燃物として一般的な木材の引火温度は260℃であり、火気を取扱う場所に設置する自動火災報知設備の熱感知器の一般的な作動温度である90℃以下では起動しない条件に熱分解温度を設定することで、速やかな消火ができると共に、前記熱感知器の誤作動も防止することができる。特に、熱感知器の最大設定温度は150℃であるため、熱分解開始温度の下限値を150℃超に設定することで高い汎用性が得られる。
【0016】
本発明の組成物の形態は特に制限されるものではなく、粉末や所望形状の成形体にすることができる。
成形体は、顆粒、所望形状のペレット(円柱形状など)、錠剤、球形、円板などにすることができる。
成形体は、見かけ密度が1.3g/cm
3以上のものであることが好ましい。
【0017】
<エアロゾル発生自動消火装置>
本発明の自動消火装置は、(A)成分の燃料を着火するための点火手段を有していないものと、(A)成分の燃料を着火するための公知のイニシエータや雷管などの点火手段を有しているもののいずれかの形態にすることができる。
【0018】
点火手段を有していない自動消火装置は、本発明の組成物が可燃性または不燃性の容器に収容されたものにすることができる。
自動消火装置として、本発明の組成物が可燃性の容器に収容された形態であるものは、例えば、火炎に対して前記容器ごと投入して使用することができる。
自動消火装置として、本発明の組成物が不燃性の容器に収容された形態のものは、例えば、調理中の発火物(鍋の内容物の発火など)に対して、前記容器の開口部を通して組成物を振りかけて使用することができる。
【0019】
また本発明の自動消火装置は、火災をより早く感知するため、本発明の組成物を熱電導性が良い材料(アルミニウム、銅など)からなる容器内に収容した形態のものにすることができ、さらに前記容器には、集熱効果を高めるため、表面積を増大するためのフィン構造が有しているものにすることもできる。
この自動消火装置は、万一の発火により火災が発生したときに対応するため、例えば、各種バッテリーなどの近傍に配置して使用することができる。
【0020】
点火手段を有している自動消火装置は、消火剤となる本発明の組成物と点火手段が収容された容器と、火災の発生を前記点火手段に伝えて作動させるための熱センサーなどを組み合わせたものにすることができる。
【実施例】
【0021】
実施例1〜3、5、7〜12、比較例1、4
表1に示す(A)、(B)および(C)成分を表1に示す配合割合(水分を含まない乾燥物として)十分混合し、(A)、(B)、(C)成分の合計量100質量部に対して、20質量部相当のイオン交換水を添加してさらに混合した。
得られた水湿混合品を110℃×16時間の恒温槽にて乾燥させて、水分1質量%以下の乾燥品にした。
乾燥品をメノウ乳鉢にて破砕して、500μm以下の粒径になるように整粒して粉砕品を得た。
粉砕品2.0gを内径9.6mmの所定の金型(臼)に充填し、杵を挿入の上、油圧ポンプで面圧220.5MPa(2250kg/cm
2)にて、5秒ずつ両面より加圧して、本発明の組成物の成形体(みかけ密度は表1に記載のもの)を得た。
【0022】
実施例4、6、比較例2、3
表1に示す(A)、(B)および(C)成分を表1に示す配合割合(水分を含まない乾燥物として)十分混合した。
得られた混合品2.0gを内径9.6mmの所定の金型(臼)に充填し、杵を挿入の上、油圧ポンプで面圧220.5MPa(2250kg/cm
2)にて5秒ずつ両面より加圧して、本発明の組成物の成形体(みかけ密度は表1に記載のもの)を得た。
【0023】
実施例13、14、17、18
実施例1と同様にして得た粉砕品1.7gを内径9.6mmの所定の金型(臼)に充填し、杵を挿入の上、油圧ポンプで面圧73.5MPa(750kg/cm
2)にて5秒ずつ両面より加圧して、本発明の組成物の成形体(みかけ密度は表1に記載のもの)を得た。
【0024】
実施例15、16
実施例1と同様にして粉砕品を得た。この粉砕品を本発明の組成物とした。
【0025】
<消火試験1>
図1に示す装置にて試験した。
支持台1の上に鉄製の金網2を置き、その中心部に実施例および比較例の組成物(成形体)6を置いた。なお、実施例15、16(粉砕品)は、アルミニウム製の皿に入れた状態で、金網2の中心部に置いた。
金網2の上には、耐熱ガラス製の透明容器(5L、20Lまたは50L)を被せて、金網2に面している部分以外は密閉した。
金網2を介して組成物6の直下には、着火剤としてn−ヘプタン100mlを入れた皿5を置いた。
この状態にてn−ヘプタンを着火して火炎7を生じさせ、組成物6を熱してエアロゾルを発生させ、前記炎7が消火できるかどうかを観察した。結果を表1に示す。
【0026】
<消火試験2>
図2に示す装置にて試験した。
支持台11の上に鉄製の金網容器12を置き、その内部に実施例および比較例の組成物(成形体)16を置いた。
金網12を介して組成物16の直下には、着火剤としてn−ヘプタン100mlを入れた皿15を置いた。
これらの支持台11、鉄製の金網容器12および皿15は、観察用の窓のある13金属製のチャンバー13(80L、600L、2000L)に入れた。
この状態にてn−ヘプタンに着火して火炎17を生じさせ、組成物16を熱してエアロゾルを発生させ、消火できるかどうかを観察窓から観察した。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
実施例は、いずれも瞬時に消火できた。
比較例は、一時的に火勢は小さくなったが、消火はできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のエアロゾル消火剤組成物は、火災が発生したときの消火剤として使用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1、11 支持台
2、12 金網
3、13 容器
5、15 着火剤
6、16 エアロゾル消火剤組成物
7、17 炎