【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはIMP−1型MBLを産生する大腸菌、クレブシエラ菌、緑膿菌を用いて、β−ラクタム系薬メロペネムに対する耐性を克服する物質をスクリ−ニングする方法を確立した。その方法を用いてメロペネムへの耐性を克服する物質の探索を続けた結果、2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体(例えば、3Z,5E−octa−3,5−diene−1,3,4−tricarboxylic acid 3,4−anhydride(以下ODTAAと略す)、及びそのアルキルエステル)が、その耐性克服活性を示し、さらにMBLを阻害することを見出した。これまで、このような物質がMBLを阻害するという報告はなく、よって、本発明はこのような知見に基づいて新規のMBL阻害剤を提供するに至ったものである。
【0006】
本発明は係る知見に基づいて完成されたものであって、具体的には以下の発明に関する:
(1) 下記一般式(I)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する、メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤:
【0007】
【化1】
[式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC1〜6アルキル基、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC2〜6アルケニル基、又は、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC2〜6アルキニル基を表し、
ここで、置換基は、直鎖若しくは分岐状のC1〜6アルコキシ基、及びオキソ基から選択される基である]。
(2) R
1が、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC2〜6アルケニル基であり、かつ、R
2が、1以上の置換基で置換されていても良い直鎖若しくは分岐状のC1〜6アルキル基である、(1)に記載のメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤。
(3) (1)又は(2)に記載のメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤と、β−ラクタム薬とを有効成分として含有する、メタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌感染症治療薬又は予防薬。
(4) 下記一般式(II)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩:
【0008】
【化2】
[式中、R
3は、直鎖若しくは分岐状のC1〜6アルキル基を表し、ただし、R
3がメチル基である場合を除く]。
(5) R
3が、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、又はt−ブチル基である、(4)に記載の化合物又はその薬理学的に許容される塩。
(6) R
3が、エチル基、プロピル基、又はイソプロピル基である、(4)に記載の化合物又はその薬理学的に許容される塩。
【0009】
よって、一例として本発明は、下記式で表されるODTAAエチルエステル
【0010】
【化3】
及び、下記式で表されるODTAAイソプロピルエステル
【0011】
【化4】
を提供するものである。
【0012】
本明細書において、「C1〜6アルキル基」とは、直鎖又は分岐状の炭素数が1〜6個の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2,3−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、及びシクロヘキシル基などが挙げられ、好ましくは、C1〜5アルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、又は2,3−ジメチルプロピル基である。更に好ましくは、C1〜3アルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、及びi−プロピル基、であり、最も好ましくは、メチル基又はエチル基である。
【0013】
「C2〜6アルケニル基」とは、1以上の炭素−炭素間の二重結合を有する直鎖又は分岐状の不飽和炭化水素の任意の炭素原子から一個の水素原子を除去してなる炭素原子数が2〜6個の一価の基を意味する。C2〜6アルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−メチリデン−1−プロパン基、1−ペンテニル基、1−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−メチル−1−ブテニル基、1−メチル−2−ブテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、1−メチリデンブチル基、2−メチル−1−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−3−ブテニル基、2−メチリデンブチル基、3−メチル−1−ブテニル基、3−メチル−2−ブテニル基、3−メチル−3−ブテニル基、1−エチル−1−プロペニル基、1−エチル−2−プロペニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基、1−メチル−1−ペンテニル基、1−メチル−2−ペンテニル基、1−メチル−3−ペンテニル基、1−メチル−4−ペンテニル基、1−メチリデンペンチル基、2−メチル−1−ペンテニル基、2−メチル−2−ペンテニル基、2−メチル−3−ペンテニル基、2−メチル−4−ペンテニル基、2−メチリデンペンチル基、3−メチル−1−ペンテニル基、3−メチル−2−ペンテニル基、3−メチル−3−ペンテニル基、3−メチル−4−ペンテニル基、3−メチリデンペンチル基、4−メチル−1−ペンテニル基、4−メチル−2−ペンテニル基、4−メチル−3−ペンテニル基、4−メチル−4−ペンテニル基、1−エチル−1−ブテニル基、1−エチル−2−ブテニル基、1−エチル−3−ブテニル基、2−エチル−1−ブテニル基、2−エチル−2−ブテニル基、2−エチル−3−ブテニル基、1−(1−メチルエチル)−1−プロペニル基、1−(1−メチルエチル)−2−プロペニル基、1−エチル−2−メチル−1−プロペニル基、又は、1−エチル−2−メチル−2−プロペニル基を挙げることができる。
【0014】
「C2〜6アルキニル基」とは、1以上の炭素−炭素間の三重重結合を有する直鎖又は分岐状の不飽和炭化水素の任意の炭素原子から一個の水素原子を除去してなる炭素原子数が2〜6個の一価の基を意味する。C2〜6アルキニル基としては、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、フェニルエチニル基等を挙げることができる。
【0015】
本明細書において、「C1〜6アルコキシ基」とは、前記C1〜6アルキル基と酸素原子を介して結合する基((C1〜6アルキル基)−O−基)のことであり、該アルキル基部分は直鎖状であっても分岐状であってもよい。C1〜6アルコキシ基とは、該アルキル基部分の炭素原子数が1〜6個であることを意味する。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、1−プロピルオキシ基、2−プロピルオキシ基、2−メチル−1−プロピルオキシ基、2−メチル−2−プロピルオキシ基、2,2−ジメチル−1−プロピルオキシ基、1−ブチルオキシ基、2−ブチルオキシ基、2−メチル−1−ブチルオキシ基、3−メチル−1−ブチルオキシ基、2−メチル−2−ブチルオキシ基、3−メチル−2−ブチルオキシ基、1−ペンチルオキシ基、2−ペンチルオキシ基、3−ペンチルオキシ基、2−メチル−1−ペンチルオキシ基、3−メチル−1−ペンチルオキシ基、2−メチル−2−ペンチルオキシ基、3−メチル−2−ペンチルオキシ基、1−ヘキシルオキシ基、2−ヘキシルオキシ基、3−ヘキシルオキシ基などが挙げられる。C1〜6アルコキシ基として、好ましくはC1〜5アルコキシ基であり、より好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、及び2,3−ジメチルプロピルオキシ基であり、更に好ましくは、C1〜3アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、及びプロピルオキシ基)であり、より更に好ましくは、メトキシ基又はエトキシ基である。
【0016】
本明細書において、オキソ基とは=Oで示される基である。また、本発明の化合物は不斉炭素を有する場合には、光学異性体が存在する。本発明の化合物としては、右旋性(+)又は左旋性(−)の何れの化合物であってもよいし、ラセミ体などのこれらの異性体の混合物であってもよい。また、本発明の化合物は、特に断らない限り、いずれの互変異性体、又は幾何異性体(例えば、E体、Z体など)も含むものである。
【0017】
「薬理学的に許容される塩」とは、本発明の化合物が、無機又は有機の塩基又は酸と結合して形成した塩であって、医薬として体内に投与することが許容可能な塩のことである。このような塩は、例えば、Bergeら、J.Pharm.Sci.66:1−19(1977)等に記載されている。塩としては、例えば、カルボン酸基等の酸性基が存在する場合には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩;アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、エタノールアミン、N−メチルグルカミン、L−グルカミン等のアミンの塩;又はリジン、δ−ヒドロキシリジン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸との塩を形成することができる。なお、一般式(I)で表わされる化合物の水和物又は溶媒和物及び一般式(I)で表わされる化合物の薬理学的に許容される塩の水和物又は溶媒和物も本発明の化合物に包含される。また、本明細書において「一般式(I)で表わされる化合物」又は「2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体」とは、それが明らかに適さない場合を除き、明示されていない場合にも、一般式(I)で表わされる化合物に加えて、一般式(I)で表わされる化合物の薬理学的に許容される塩、水和物及び溶媒和物、並びに一般式(I)で表わされる化合物の薬理学的に許容される塩の水和物又は溶媒和物をも含む。
【0018】
一態様において、本発明は、前記メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤と、β−ラクタム薬とを有効成分として含有する、メタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌感染症治療薬又は予防薬に関する。本明細書において、「β−ラクタム薬」とは、β−ラクタム構造を有する抗生物質を意味し、例えば、セファゾリン、セファロチン、セファピリン、セファレキシン、セファラジン、セファドロキシル、セフマンドール、セフロキシム、セフォニシド、セフォラニド、セファクロル、セフプロジル、セフポドキシム、ロラカルベフ、セフトリアキソン、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフタジジム、セフォペラゾン、セフスロジン、セフチブテン、セフィキシム、セフェタメット、セフジトレン ピボキシル、セフェピム、セフピロム、セフォキシチン、セフォテタン、セフメタゾール、セフブペラゾン、セフミノクス、ラタモキセフ、及びフロモキセフなどのセフェム系抗生物質;イミペネム、ビアペネム、パニペネム、ドリペネム、メロペネムなどのカルバペネム系抗生物質を挙げることができ、好ましくは、カルバペネム系抗生物質である。
【0019】
本明細書において、「メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤」とは、メタロ−β−ラクタマ−ゼによるβ−ラクタム薬の分解を阻害するために、通常β−ラクタム薬と共に用いられる薬剤を意味する。「メタロ−β−ラクタマ−ゼ」とは、酵素の活性中心に亜鉛を有するクラスBに分類されるβ−ラクタマ−ゼであり、染色体性メタロ−β−ラクタマーゼ及びプラスミド媒介性メタロ−β−ラクタマーゼのいずれでもよく、例えば、ニューデリー・メタロベータラクタマーゼ1(NDM−1)、L−1、IMP−1、IMP−2、IMP−3、IMP−4、IMP−5、IMP−6、IMP−7、IMP−8、IMP−9、IMP−10、IMP−11、IMP−12、IMP−13、VIM−1、VIM−2、VIM−3、VIM−4、VIM−5、VIM−6、Bcll、BlaB、GOB−1,IND−1、CfiA、CcrA、CphA型などである。本発明のメタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤は、2,5−ジヒドロフラン−2,5−ジオン誘導体を唯一の有効成分として含有していてもよいし、他の有効成分を含有していてもよい。
【0020】
本明細書において、「メタロ−β−ラクタマ−ゼ産生菌」は、メタロ−β−ラクタマーゼを産生し、哺乳動物(特にはヒト)に感染して感染症を引き起こす菌であれば特に限定される者ではないが、例えば、緑膿菌、セラチア、肺炎桿菌、大腸菌、Proteus vulgaris、シトロバクター、アシネトバクター、プロビデンシア、セラチア・マルセセンス、及びエンテロバクター(エンテロバクター・クロアカなど)を含む。
【0021】
メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤の剤型は、その種類が特に限定されるものではなく、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製することができる。また、液体製剤にあっては、用時、水又は他の適当な溶媒に溶解又は懸濁する形であってもよい。また錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明の化合物を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水或いはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。経口投与用又は非経口投与用の任意の製剤形態で提供される。例えば、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤又は液剤等の形態の経口投与用医薬組成物、静脈内投与用、筋肉内投与用、若しくは皮下投与用などの注射剤、点滴剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、点鼻剤、吸入剤、坐剤などの形態の非経口投与用医薬組成物として調製することができる。注射剤や点滴剤などは、凍結乾燥形態などの粉末状の剤形として調製し、用時に生理食塩水などの適宜の水性媒体に溶解して用いることもできる。
【0022】
好ましくは、メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤は、β−ラクタム薬と併用されることから、これらの薬剤を含有するキットとして提供されていても良い。このようなキットは、メタロ−β−ラクタマ−ゼ阻害剤及びβ−ラクタム薬のほか、薬剤を格納する容器、説明書などを含んでいても良い。