(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係るプリント配線板は、絶縁性を有するベースフィルムと、上記ベースフィルムの一方の面側に積層される導電パターンと、上記ベースフィルム及び上記導電パターンの一方の面に直接積層されるカバーコートとを備え、上記ベースフィルム及び上記カバーコートが液晶ポリマーを主成分とし、上記ベースフィルム及び上記カバーコートの融点の差が−5℃以上5℃以下であり、上記ベースフィルムのレオメーターで測定して得られる320℃における貯蔵弾性率が、上記カバーコートのレオメーターで測定して得られる320℃における貯蔵弾性率の0.1倍以上10倍以下であるプリント配線板である。
【0013】
ここで、上記「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば含有量が50質量%以上の成分を指す。上記「融点」は、JIS−K−7121(2012年)に準拠して示差走査熱量計(DSC)により測定した融点である。上記「貯蔵弾性率」は、JIS−K−7199(1999年)に準拠してレオメーターで測定した320℃における測定値である。
【0014】
当該プリント配線板は、ベースフィルム及び導電パターンの一方の面に直接積層されるカバーコートを備える。また、当該プリント配線板は、ベースフィルム及びカバーコートの双方の主成分を液晶ポリマーとし、かつベースフィルム及びカバーコートの融点の差と貯蔵弾性率の比とを上記特定の範囲とすることにより、当該プリント配線板を製造する際のカバーコート用フィルムの熱圧着工程においてベースフィルム及びカバーコート用フィルムが溶融して一体化する。これにより、例えばベースフィルムとカバーコートとの境界部分からの溶剤の浸透によるカバーコートの剥がれ等の耐溶剤性の低下に起因する不都合を抑制できる。よって、当該プリント配線板によれば、ベースフィルム及び導電パターンの一方の面にカバーコートを直接積層しつつ耐溶剤性の低下を抑制できる。
【0015】
なお、当該プリント配線板は、カバーコートがベースフィルム及び導電パターンの一方の面に接着剤層を介さずに直接積層されているため、接着剤層を用いる際の不都合についても抑制できる。接着剤層を用いる際の不都合としては、例えば接着剤層に添加される難燃化剤に起因する電気特性の低下や、高周波領域で用いる電子機器に適用した際の接着剤層の誘電損に起因する高周波特性の低下等が挙げられる。
【0016】
上記ベースフィルム及び上記カバーコートの融点としては300℃以上が好ましい。上記融点を上記範囲とすることで、半田リフロー時の熱変形や熱劣化を抑制できる。
【0017】
上記ベースフィルム及び上記カバーコートのレオメーターで測定して得られる320℃における貯蔵弾性率としては1×10
4Pa以上が好ましい。上記貯蔵弾性率を上記範囲とすることで、当該プリント配線板を製造する際のカバーコート用フィルムの熱圧着工程において液晶ポリマーの流れ出しを抑制できるため、寸法安定性を向上させることができる。
【0018】
上記ベースフィルム及び上記カバーコートの引張強度の差としては−5MPa以上5MPa以下が好ましい。上記引張強度の差を上記範囲とすることにより、ベースフィルム及びカバーコートがより強固に一体化するため、耐溶剤性の低下をより抑制できる。なお、上記「引張強度」は、ASTM D882−12に準拠する方法で測定した引張破断強度及び引張降伏強度のうち大きい方を指す。
【0019】
上記ベースフィルム及び上記カバーコートの引張強度としては100MPa以上が好ましい。上記引張強度を上記範囲とすることで、ベースフィルム及びカバーコートの機械的強度を向上させることができる。
【0020】
上記導電パターンと上記カバーコートとの間の剥離強度としては5N/cm以上が好ましい。上記剥離強度を上記範囲とすることで、電気的な信頼性を向上させることができる。なお、上記「剥離強度」は、JIS−C−6471(1995年)に準拠する180°方向引き剥がし試験で得られる剥離強度である。
【0021】
上記液晶ポリマーとしては、熱可塑性液晶ポリエステル、熱可塑性液晶ポリエステルアミド、及びこれらの組み合わせが好ましい。上記液晶ポリマーを上記特定のポリマーとすることにより、ベースフィルム及びカバーコートがより強固に一体化するため、耐溶剤性の低下をより抑制できる。
【0022】
本発明の別の態様に係るセンサは、上記プリント配線板を有するセンサである。
【0023】
当該センサは、耐溶剤性の低下を抑制できる上記プリント配線板を有するため、例えば上記プリント配線板における上記ベースフィルムと上記カバーコートとの接触箇所の少なくとも一部が溶剤等の液体と接触した状態で使用されるセンサに適用した場合、耐久性を向上できる。
【0024】
本発明のさらに別の態様に係るプリント配線板の製造方法は、絶縁性を有するベースフィルム及びこのベースフィルムの一方の面側に積層される導電パターンを備える積層体を得る工程と、上記積層体の上記ベースフィルム及び上記導電パターンの一方の面に直接カバーコート用フィルムを熱圧着する工程とを備え、上記ベースフィルム及び上記カバーコート用フィルムが液晶ポリマーを主成分とし、上記ベースフィルム及び上記カバーコート用フィルムの融点の差が−5℃以上5℃以下であり、上記ベースフィルムのレオメーターで測定して得られる320℃における貯蔵弾性率が、上記カバーコート用フィルムのレオメーターで測定して得られる320℃における貯蔵弾性率の0.1倍以上10倍以下であるプリント配線板の製造方法である。
【0025】
当該プリント配線板の製造方法は、ベースフィルム及びカバーコート用フィルムの双方の主成分を液晶ポリマーとし、かつベースフィルム及びカバーコート用フィルムの融点の差と貯蔵弾性率の比とを上記特定の範囲とするため、耐溶剤性の低下を抑制できる上記プリント配線板を容易かつ確実に製造できる。
【0026】
上記熱圧着は真空下で行うとよい。上記熱圧着を真空下で行うと、ベースフィルムとカバーコートとの間に空気が封じ込まれることを抑制できるため、ベースフィルム及びカバーコートがより強固に一体化する。これにより、耐溶剤性の低下をより抑制できる上記プリント配線板を容易かつ確実に製造できる。また、上記熱圧着を真空下で行うと、導電パターンとカバーコートとの間に空気が封じ込まれることも抑制できるため、導電パターンとカバーコートとの間の剥離強度を向上させることができる。これにより、電気的な信頼性が高い上記プリント配線板を容易かつ確実に製造できる。なお、上記「真空」とは、JIS−Z−8126−1(1999年)で定義された「通常の大気圧より低い圧力の気体で満たされた空間の状態」を指す。
【0027】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の好適な実施形態について、以下に図面を参照しつつ説明する。
【0028】
<プリント配線板>
図1に、本発明の一実施形態に係るプリント配線板10の模式的断面図を示す。プリント配線板10は、絶縁性を有するベースフィルム1と、ベースフィルム1の一方の面側に積層される導電パターン2と、ベースフィルム1及び導電パターン2の一方の面に直接積層されるカバーコート3とを備える。
【0029】
(ベースフィルム)
ベースフィルム1は、絶縁性を有し、液晶ポリマーを主成分とする。ベースフィルム1中の液晶ポリマーの含有量の下限としては、50質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。上記含有量を上記下限以上とすることで、耐溶剤性の低下をより抑制できる。なお、ベースフィルム1は液晶ポリマーのみから構成されていてもよく、他のポリマー、充填材、添加剤等を含んでもよい。また、ベースフィルム1は、多孔化されたものでも良い。また、プリント配線板10をフレキシブルプリント配線板に適用する場合、ベースフィルム1としては可撓性を有するものが好ましい。
【0030】
上記液晶ポリマーとしては、溶融成形できる液晶ポリマーであれば特にその化学的構成については限定されるものではなく、例えば熱可塑性液晶ポリエステル、熱可塑性液晶ポリエステルアミド、熱可塑性液晶ポリエステルエーテル、熱可塑性液晶ポリエステルカーボネート、熱可塑性液晶ポリエステルイミド等が挙げられる。このうち熱可塑性液晶ポリエステル、熱可塑性液晶ポリエステルアミド、及びこれらの組み合わせが好ましい。上記液晶ポリマーを上記特定のポリマーとすることにより、ベースフィルム1及びカバーコート3がより強固に一体化するため、耐溶剤性の低下をより抑制できる。
【0031】
上記液晶ポリマーの具体例としては、芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物、芳香族又は脂肪族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族アミノカルボン酸等のモノマー成分から導かれる公知の熱可塑性液晶ポリマーが挙げられる。
【0032】
これらの熱可塑性液晶ポリマーのうち、p−ヒドロキシ安息香酸由来の繰り返し単位を含む熱可塑性液晶ポリマー及び6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の繰り返し単位を含む熱可塑性液晶ポリマーが好ましく、p−ヒドロキシ安息香酸由来の繰り返し単位及び6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の繰り返し単位を含む熱可塑性液晶ポリマーがより好ましい。
【0033】
ベースフィルム1は、例えば上述した熱可塑性液晶ポリマーを押出成形して得られる。押出成形法としては、熱可塑性液晶ポリマーの剛直な棒状分子の方向を制御できる限り任意の方法が適用できるが、周知のTダイ法、ラミネート体延伸法、インフレーション法等が工業的に有利である。特にインフレーション法やラミネート体延伸法では、フィルムの機械軸方向(以下、「MD方向」ともいう)だけでなく、これと直交する方向(以下、「TD方向」ともいう)にも応力が加えられ、MD方向及びTD方向の双方について誘電特性等が制御されたベースフィルム1が得られる。
【0034】
押出成形では、配向を制御するために延伸処理を伴うのが好ましく、例えばTダイ法による押出成形では、Tダイから押出した溶融体シートをフィルムのMD方向及びTD方向の双方に対して同時に延伸してもよいし、Tダイから押出した溶融体シートを一旦MD方向に延伸し、ついでTD方向に延伸してもよい。
【0035】
MD方向及びTD方向のそれぞれの延伸倍率の比(TD方向/MD方向)は、例えば0.4〜2.5程度である。
【0036】
また、上記押出成形を行った後に、必要に応じて延伸を行ってもよい。延伸方法自体は特に限定されず、二軸延伸及び一軸延伸のいずれを採用してもよいが、分子配向度を制御することがより容易であることから、二軸延伸が好ましい。また、延伸は、公知の一軸延伸機、同時二軸延伸機、逐次二軸延伸機等が使用できる。
【0037】
また、上記押出成形を行った後に、必要に応じて熱処理を行い、液晶ポリマーフィルムの融点を調整してもよい。熱処理条件は適宜設定でき、例えば液晶ポリマーの融点に対して−10℃以上20℃以下の温度範囲で数時間加熱すればよい。
【0038】
ベースフィルム1の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、ベースフィルム1の平均厚さの上限としては、300μmが好ましく、100μmがより好ましい。ベースフィルム1の平均厚さが上記下限未満の場合、ベースフィルム1の強度が低下するおそれがある。一方、ベースフィルム1の平均厚さが上記上限を超える場合、薄型化が要求される電子機器への適用が困難となるおそれがある。
【0039】
なお、本明細書において、「平均厚さ」とは、対象物の厚さ方向に切断した断面における測定長さ内の表面側の界面の平均線と、裏面側の界面の平均線との間の距離を指す。ここで、「平均線」とは、界面に沿って引かれる仮想直線であって、界面とこの仮想直線とによって区画される山の総面積(仮想直線よりも上側の総面積)と谷の総面積(仮想直線よりも下側の総面積)とが等しくなるような線を意味する。
【0040】
ベースフィルム1の融点の下限としては、300℃が好ましく、310℃がより好ましく、320℃がさらに好ましい。また、ベースフィルム1の融点の上限としては、360℃が好ましく、350℃がより好ましく、340℃がさらに好ましい。上記融点を上記下限以上とすることにより、半田リフロー時の熱変形や熱劣化を抑制できる。一方、上記融点が上記上限を超えると、後述するカバーコート用フィルムとの熱圧着が困難となるおそれがある。
【0041】
ベースフィルム1のレオメーターで測定して得られる320℃における貯蔵弾性率の下限としては、1×10
4Paが好ましく、5×10
4Paがより好ましい。また、上記貯蔵弾性率の上限としては、1×10
6Paが好ましく、5×10
5Paがより好ましい。上記貯蔵弾性率を上記下限以上とすることにより、後述するカバーコート用フィルムと熱圧着させる際に、液晶ポリマーの流れ出しを抑制できるため、寸法安定性を向上させることができる。一方、上記貯蔵弾性率が上記上限を超えると、後述するカバーコート用フィルムとの熱圧着が困難となるおそれがある。
【0042】
ベースフィルム1の周波数1Hzで測定した320℃における溶融粘度の下限としては、100Pa・sが好ましく、120Pa・sがより好ましく、150Pa・sがさらに好ましい。また、上記溶融粘度の上限としては、100,000Pa・sが好ましく、50,000Pa・sがより好ましく、10,000Pa・sがさらに好ましい。上記溶融粘度を上記下限以上とすることにより、後述するカバーコート用フィルムと熱圧着させる際に、液晶ポリマーの流れ出しをより効果的に抑制できるため、寸法安定性をより向上させることができる。一方、上記溶融粘度が上記上限を超えると、後述するカバーコート用フィルムとの熱圧着が困難となるおそれがある。
【0043】
ベースフィルム1の引張強度の下限としては、100MPaが好ましく、200MPaがより好ましい。また、ベースフィルム1の引張強度の上限としては、500MPaが好ましく、400MPaがより好ましい。上記引張強度を上記下限以上とすることで、ベースフィルム1の機械的強度を向上させることができる。一方、上記引張強度が上記上限を超えると、製造コストが増大するおそれがある。
【0044】
ベースフィルム1の破断伸度の下限としては、20%が好ましく、40%がより好ましい。また、ベースフィルム1の破断伸度の上限としては、80%が好ましく、60%がより好ましい。上記破断伸度を上記下限以上とすることで、ベースフィルムの可撓性を向上させることができるため、例えばフレキシブルプリント配線板への適用が容易となる。一方、上記破断伸度が上記上限を超えると、製造コストが増大するおそれがある。なお、上記「破断伸度」は、ASTM D882−12に準拠する方法により得られる測定値である。
【0045】
ベースフィルム1の引張弾性率の下限としては、500MPaが好ましく、1000MPaがより好ましい。また、ベースフィルム1の引張弾性率の上限としては、5000MPaが好ましく、4000MPaがより好ましい。上記引張弾性率を上記下限以上とすることで、ベースフィルム1の機械的強度を向上させることができる。一方、上記引張弾性率が上記上限を超えると、製造コストが増大するおそれがある。なお、上記「引張弾性率」は、ASTM D882−12に準拠する方法により得られる測定値である。
【0046】
(導電パターン)
導電パターン2の構成材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されないが、例えば銅、アルミニウム、ニッケル等の金属が挙げられ、一般的にはコスト低減等の観点から銅が用いられる。また、導電パターン2は、表面にめっき処理が施されてもよい。
【0047】
導電パターン2の平均厚さの下限としては、2μmが好ましく、5μmがより好ましい。一方、導電パターン2の平均厚さの上限としては、100μm程度が好ましい。導電パターン2の平均厚さが上記下限未満の場合、導通性が低下するおそれがある。一方、導電パターン2の平均厚さが上記上限を超える場合、薄型化が要求される電子機器への適用が困難となるおそれがある。
【0048】
導電パターン2の形状は特に限定されず、ラインパターン、ランドパターン等のパターンが例示できる。例えば
図1に示すプリント配線板10をセンサに適用する場合は、一対の配線2aを電極として含む導電パターン2とすればよい。
【0049】
(カバーコート)
カバーコート3は、ベースフィルム1及び導電パターン2の一方の面に直接積層される。また、カバーコート3は液晶ポリマーを主成分とする。カバーコート3中の液晶ポリマーの含有量の下限としては、50質量%が好ましく、70質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。上記含有量を上記下限以上とすることで、耐溶剤性の低下をより抑制できる。なお、カバーコート3は液晶ポリマーのみから構成されていてもよく、他のポリマー、充填材、添加剤等を含んでもよい。また、カバーコート3は、多孔化されたものでも良い。また、プリント配線板10をフレキシブルプリント配線板に適用する場合、カバーコート3としては可撓性を有するものが好ましい。
【0050】
カバーコート3に含まれる液晶ポリマーの好ましい種類、カバーコート3の材料となるカバーコート用フィルムの好ましい製造方法、並びにカバーコート3の平均厚さ、融点、貯蔵弾性率、溶融粘度、引張強度、破断伸度及び引張弾性率の好ましい範囲については、上述したベースフィルム1と同様である。
【0051】
(ベースフィルムとカバーコートとの関係)
ベースフィルム1及びカバーコート3の融点の差は−5℃以上5℃以下である。また、ベースフィルム1のレオメーターで測定して得られる320℃における貯蔵弾性率が、カバーコート3のレオメーターで測定して得られる320℃における貯蔵弾性率の0.1倍以上10倍以下である。これにより、プリント配線板10を製造する際のカバーコート用フィルムの熱圧着工程においてベースフィルム及びカバーコート用フィルムが溶融して一体化するため、例えばベースフィルム1とカバーコート3との境界部分からの溶剤の浸透によるカバーコート3の剥がれ等の耐溶剤性の低下に起因する不都合を抑制できる。
【0052】
耐溶剤性の低下をより抑制する観点から、ベースフィルム1及びカバーコート3の融点の差としては、−3℃以上3℃以下が好ましく、−1℃以上1℃以下がより好ましく、実質的に0であることがさらに好ましい。なお、「実質的に0である」とは、ベースフィルム1の融点の測定値の少数第一位を四捨五入した値と、カバーコート3の融点の測定値の少数第一位を四捨五入した値とが、同じ値であることを意味する。後述する「溶融粘度」、「引張強度」、「破断伸度」及び「引張弾性率」の場合も同様である。
【0053】
耐溶剤性の低下をより抑制する観点から、ベースフィルム1のレオメーターで測定して得られる320℃における貯蔵弾性率が、カバーコート3のレオメーターで測定して得られる320℃における貯蔵弾性率の0.5倍以上5倍以下であることが好ましく、実質的に1倍であることがより好ましい。なお、「実質的に1倍である」とは、ベースフィルム1の貯蔵弾性率をカバーコート3の貯蔵弾性率で除した計算値の少数第一位を四捨五入した値が1であることを意味する。
【0054】
耐溶剤性の低下をより抑制する観点から、ベースフィルム1及びカバーコート3の溶融粘度の差としては、−3Pa・s以上3Pa・s以下が好ましく、−1Pa・s以上1Pa・s以下がより好ましく、実質的に0であることがさらに好ましい。
【0055】
耐溶剤性の低下をより抑制する観点から、ベースフィルム1及びカバーコート3の引張強度の差としては、−5MPa以上5MPa以下が好ましく、−3MPa以上3MPa以下がより好ましく、−1MPa以上1MPa以下がさらに好ましく、実質的に0であることが特に好ましい。
【0056】
耐溶剤性の低下をより抑制する観点から、ベースフィルム1及びカバーコート3の破断伸度の差としては、−5%以上5%以下が好ましく、−3%以上3%以下がより好ましく、−1%以上1%以下がさらに好ましく、実質的に0であることが特に好ましい。
【0057】
耐溶剤性の低下をより抑制する観点から、ベースフィルム1及びカバーコート3の引張弾性率の差としては、−100MPa以上100MPa以下が好ましく、−10MPa以上10MPa以下がより好ましく、実質的に0であることがさらに好ましい。
【0058】
(導電パターンとカバーコートとの間の剥離強度)
導電パターン2とカバーコート3との間の剥離強度の下限としては、5N/cmが好ましく、7N/cmがより好ましく、10N/cmがさらに好ましい。上記剥離強度を上記下限以上とすることで、電気的な信頼性を向上させることができる。一方、上記剥離強度の上限としては、特に限定されないが、例えば20N/cm程度である。上記剥離強度は、例えば後述するカバーコート用フィルムの熱圧着工程における熱圧着条件(温度、圧着時間、圧力、真空度等)により制御できる。
【0059】
<センサ>
本発明の一実施形態に係るセンサはプリント配線板10を有する。当該センサは、耐溶剤性の低下を抑制できるプリント配線板10を有するため、例えばプリント配線板10におけるベースフィルム1とカバーコート3との接触箇所の少なくとも一部が溶剤等の液体と接触した状態で使用されるセンサに適用した場合、耐久性を向上できる。
【0060】
上記溶剤としては、例えばメタノール、エタノール等のアルコール系溶剤、ガソリン等の炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル等のエーテル系溶剤、アセトン等のケトン系溶剤、アセトアミド等のアミド系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、これらの溶剤を混合したものなどが挙げられる。このうちメタノールは、高温下において浸透性が極めて高い溶剤であるが、当該センサによれば、耐溶剤性の低下を抑制できるプリント配線板10を有するため、メタノールと接触した状態で使用されるセンサに適用した場合でも耐久性を向上できる。なお、測定対象となる溶剤には、固形分が溶解又は分散されていてもよい。
【0061】
上記液体と接触した状態で使用されるセンサとしては、例えば液体の粘度、温度、濃度等の物理的特性や、液量、流量などを測定するセンサが挙げられる。
【0062】
<プリント配線板の製造方法>
次に、本発明のプリント配線板の製造方法の一実施形態について
図2A〜Cを参照しながら説明する。なお、
図2A〜Cにおいて、上述した
図1と同一の構成要素には同一の符号を付している。また、上述したプリント配線板10と重複する内容については説明を省略する。
【0063】
本実施形態に係るプリント配線板の製造方法は、絶縁性を有するベースフィルム1及びベースフィルム1の一方の面側に積層される導電パターン2を備える積層体5を得る工程(以下、「工程1」ともいう)と、積層体5のベースフィルム1及び導電パターン2の一方の面に直接カバーコート用フィルム30を熱圧着する工程(以下、「工程2」ともいう)とを備え、ベースフィルム1及びカバーコート用フィルム30が液晶ポリマーを主成分とし、ベースフィルム1及びカバーコート用フィルム30の融点の差が−5℃以上5℃以下であり、ベースフィルム1のレオメーターで測定して得られる320℃における貯蔵弾性率が、カバーコート用フィルム30のレオメーターで測定して得られる320℃における貯蔵弾性率の0.1倍以上10倍以下である。本実施形態に係るプリント配線板の製造方法によれば、上述した耐溶剤性の低下を抑制できるプリント配線板を容易かつ確実に製造できる。以下、各工程について説明する。
【0064】
(工程1)
工程1は、
図2Aに示す積層体5を得る工程である。積層体5を得る方法は、特に限定されないが、例えばベースフィルム1の一方の面側に金属膜を積層し、この金属膜にマスキングを施してエッチングすることによって一対の配線2aを含む導電パターン2を形成する方法等を採用できる。上記金属膜の積層方法としては、例えばベースフィルム1と金属箔等とを熱圧着する方法、ベースフィルム1と金属箔等とを接着剤により貼り合わせる方法、ベースフィルム1に金属を蒸着して蒸着膜を積層する方法等が挙げられる。また、導電パターン2を導電性ペーストや金属微粒子を含むインクで形成してもよい。この場合、印刷技術によって各種パターン形状の導電パターン2を形成できる。なお、工程1は、予め形成された積層体5を入手する工程であってもよい。
【0065】
(工程2)
工程2は、プレス機100を用いて、積層体5のベースフィルム1及び導電パターン2の一方の面に直接カバーコート用フィルム30を熱圧着する工程である(
図2B参照)。カバーコート用フィルム30は、液晶ポリマーを主成分とし、ベースフィルム1との融点の差が−5℃以上5℃以下であり、ベースフィルム1との貯蔵弾性率の比が0.1倍以上10倍以下である限り限定されないが、例えばベースフィルム1と同じフィルムを用いればよい。
【0066】
上記熱圧着の条件は、ベースフィルム1及びカバーコート用フィルム30を構成する液晶ポリマーの種類等に応じて決定すればよく、例えば温度を270℃以上350℃以下、圧着時間を10分以上180分以下、圧力を0.1MPa以上10MPa以下の範囲とすればよい。この熱圧着により、ベースフィルム1及び導電パターン2の一方の面にカバーコート3が直接積層された上述のプリント配線板10が得られる(
図2C)。
【0067】
工程2において、上記熱圧着は真空下で行うとよい。上記熱圧着を真空下で行うと、ベースフィルム1とカバーコート3との間に空気が封じ込まれることを抑制できるため、ベースフィルム1及びカバーコート3がより強固に一体化する。これにより、耐溶剤性の低下をより抑制できるプリント配線板10を容易かつ確実に製造できる。また、上記熱圧着を真空下で行うと、導電パターン2とカバーコート3との間に空気が封じ込まれることも抑制できるため、導電パターン2とカバーコート3との間の剥離強度を向上させることができる。これにより、電気的な信頼性が高いプリント配線板10を容易かつ確実に製造できる。
【0068】
上記熱圧着を真空下で行う場合、真空度の上限としては、100mmHgが好ましく、10mmHgがより好ましい。真空度を上記上限以下とすることにより、ベースフィルム1とカバーコート3との間及び導電パターン2とカバーコート3との間に空気が封じ込まれることをより効果的に抑制できる。一方、真空度の下限については、特に限定されないが、例えば0.1mmHg程度である。
【0069】
[利点]
当該プリント配線板は、ベースフィルム及びカバーコートの双方の主成分を液晶ポリマーとし、かつベースフィルム及びカバーコートの融点の差と貯蔵弾性率の比とを上記特定の範囲とするため、当該プリント配線板を製造する際のカバーコート用フィルムの熱圧着工程においてベースフィルム及びカバーコート用フィルムが溶融して一体化する。これにより、例えばベースフィルムとカバーコートとの境界部分からの溶剤の浸透によるカバーコートの剥がれ等の耐溶剤性の低下に起因する不都合を抑制できる。また同時に、ベースフィルムと導電パターンとの間に残存する微少の空気と水分も除かれることになり、導電パターンの密着性を向上させつつ、溶剤浸透による剥がれ及び膨れの発生も抑制できる。
【0070】
当該センサは、耐溶剤性の低下を抑制できる上記プリント配線板を有するため、例えば上記プリント配線板における上記ベースフィルムと上記カバーコートとの接触箇所の少なくとも一部が溶剤等の液体と接触した状態で使用されるセンサに適用した場合、耐久性を向上できる。
【0071】
当該プリント配線板の製造方法は、ベースフィルム及びカバーコート用フィルムの双方の主成分を液晶ポリマーとし、かつベースフィルム及びカバーコート用フィルムの融点の差と貯蔵弾性率の比とを上記特定の範囲とするため、耐溶剤性の低下を抑制できる上記プリント配線板を容易かつ確実に製造できる。
【0072】
[その他の実施形態]
上記開示された実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0073】
例えば当該プリント配線板は、
図1に示す実施形態のようにベースフィルムの一方の面側に導電パターンが積層されたプリント配線板(片面板)であってもよく、ベースフィルムの両面側に導電パターンが積層されたプリント配線板(両面板)であってもよい。
【0074】
上記両面板の場合、ベースフィルムの一方の面にカバーコートが直接積層されたプリント配線板であってもよく、ベースフィルムの両面にカバーコートが直接積層されたプリント配線板であってもよく、ベースフィルムの一方の面にカバーコートが直接積層され、ベースフィルムの他方の面に接着剤層を介してカバーコートが積層されたプリント配線板であってもよい。
【0075】
また、ベースフィルムの両面にカバーコートが積層される場合、一方のカバーコートについては、ベースフィルムとの融点の差及び貯蔵弾性率の比を上記特定範囲としなくてもよい。
【0076】
また、当該プリント配線板は、カバーコートがベースフィルムの一方の面の少なくとも一部と導電パターンの一方の面の少なくとも一部とに直接積層されていればよい。よって、ベースフィルム及び導電パターンの一方の面の一部にカバーコートが積層されていない領域があってもよい。
【実施例】
【0077】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
<液晶ポリマーフィルムの物性の測定方法>
実施例及び比較例で用いた液晶ポリマーフィルムの物性の測定方法を以下に示す。
【0079】
(融点)
融点は、JIS−K−7121(2012年)に準拠し、示差走査熱量計(DSC)により10℃/分の速度で昇温した時に現れる吸熱ピーク値とした。
【0080】
(貯蔵弾性率)
貯蔵弾性率は、JIS−K−7199(1999年)に準拠し、粘弾性レオメーター(東洋精機製作所社の「キャピログラフ1D PMD−C」)を用い、昇温速度3℃/分、周波数1Hz、ひずみ0.1%、法線応力5Nの条件下で測定した320℃における測定値とした。
【0081】
(引張強度)
引張強度は、ASTM D882−12に準拠する方法で測定した引張破断強度及び引張降伏強度のうち大きい方の値とした。
【0082】
(破断伸度及び引張弾性率)
破断伸度及び引張弾性率は、いずれもASTM D882−12に準拠する方法により得られる測定値とした。
【0083】
<試験例1>
下記表1に示す物性を有する平均厚さ100μmの液晶ポリマーフィルムAの一方の面に平均幅5mm、平均厚さ25μmの銅配線パターンが形成された積層体を準備し、この積層体の上記液晶ポリマーフィルムA及び銅配線パターンの一方の面に、10mm×10mmの開口部を設けたカバーコート用フィルムを直接熱圧着し、試験例1のプリント配線板を得た。上記カバーコート用フィルムとしては、上記積層体のベースフィルムと同じ材料である液晶ポリマーフィルムAを用いた。また、上記熱圧着の条件は、温度305℃、圧着時間30分、圧力1MPa、真空度10mmHgとした。
【0084】
<試験例2>
上記試験例1において、液晶ポリマーフィルムAの代わりに下記表1に示す物性を有する平均厚さ100μmの液晶ポリマーフィルムBを用いたこと、及び熱圧着温度を300℃に変更したこと以外は、上記試験例1の手順で試験例2のプリント配線板を得た。
【0085】
<試験例3>
上記試験例1において、液晶ポリマーフィルムAの代わりに下記表1に示す物性を有する平均厚さ100μmの液晶ポリマーフィルムBを用いたこと、及び熱圧着温度を290℃に変更したこと以外は、上記試験例1の手順で試験例3のプリント配線板を得た。
【0086】
【表1】
【0087】
得られた各プリント配線板について、下記項目の評価を行った。結果を表2に示す。なお、表2に示すベースフィルム及びカバーコートの物性値は、いずれも構成材料である液晶ポリマーフィルムの物性値とした。
【0088】
<寸法安定性>
各プリント配線板のカバーコートの開口部の一辺の長さの最小値を測定し、最小値が9.4mm以上の場合を「A」、9.4mm未満の場合を「B」と評価した。Aの場合、液晶ポリマーの流れ出しを抑制できるため、寸法安定性に優れると評価できる。
【0089】
<耐溶剤性>
濃度15質量%のメタノール水溶液(60℃)に各プリント配線板を所定時間浸漬し、乾燥した後、各プリント配線板のベースフィルムとカバーコートとの間の剥離強度を測定し、耐溶剤性の指標とした。耐溶剤性は、上記剥離強度が高い程、良好であると評価できる。上記所定時間は、250時間、500時間及び1000時間とした。上記剥離強度は、JIS−C−6471(1995年)に準拠する180°方向引き剥がし試験で得られる剥離強度とした。なお、リファレンスとして、上記メタノール水溶液に浸漬していない各プリント配線板についても同様に剥離強度を測定した。
【0090】
<銅配線パターンとカバーコートとの間の剥離強度>
銅配線パターンとカバーコートとの間の剥離強度は、JIS−C−6471(1995年)に準拠する180°方向引き剥がし試験で得られる剥離強度とした。なお、測定には、上記メタノール水溶液に浸漬していない各プリント配線板を用いた。
【0091】
【表2】
【0092】
表2に示すように、ベースフィルム及びカバーコートの融点の差及び貯蔵弾性率の比が上記特定範囲内である試験例1の耐溶剤性は、1000時間後においても良好な値を示していた。また、寸法安定性の評価も良好であった。一方、ベースフィルム及びカバーコートの融点の差及び貯蔵弾性率の比が上記特定範囲外である試験例2の耐溶剤性は、1000時間後において試験例1の半分以下の値まで低下した。また、寸法安定性の評価も劣っていた。試験例2に対して熱圧着温度を低くした試験例3は、寸法安定性の評価については良好であったが、耐溶剤性については未浸漬の場合も含め試験例1に対して著しく劣っていた。この結果から、本発明のプリント配線板によれば、ベースフィルム及び導電パターンの一方の面にカバーコートを直接積層しつつ耐溶剤性の低下を抑制できることが分かる。なお、剥離強度については、いずれの試験例も5N/cm以上の良好な値を示した。