(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アルカリ金属塩は、リチウムイミド塩、ナトリウムイミド塩、カリウムイミド塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の粘着シート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の粘着シートは、基材フィルムの一方の面に、特定のウレタン樹脂とアルカリ金属塩を含有する粘着層を有するものである。以下、各構成要素の実施の形態について説明する。
【0015】
基材フィルムとしては、特に制約されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、芳香族ポリアミド、ポリスルホン、アクリル、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂等の合成樹脂フィルムがあげられ、延伸加工、特に二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムが機械的強度、寸法安定性に優れているために好適に使用される。なお、合成樹脂フィルムは透明であっても、これを構成する材質に各種顔料や染料を配合して着色したものであってもよく、また、その表面がマット状に加工されていてもよい。
【0016】
基材フィルムの厚みは、加工物の種類や加工工程の内容に応じて適宜選択することができる。粘着シートの利用分野が、切断及び打ち抜き加工である場合、基材の厚さは25〜250μmであることが好ましい。さらに、被着体が電子部品の実装されたFPCのような精密部品である場合には、基材の厚みは75〜188μmであることが好ましい。
【0017】
このような基材フィルムは、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤などの公知の添加剤を含有させることができる。また、基材フィルムと粘着剤層との密着性を向上させるために、基材フィルムの表面にコロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、火炎処理、オゾン処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、放射線照射処理、酸処理、アルカリ処理、化学薬品処理、サンドブラスト処理、エンボス処理、下引き易接着層塗布形成などの易接着処理を施しても良い。
【0018】
また、基材フィルムの粘着層を設けた面とは反対側の面には、必要に応じて、同じく粘着層や各種機能層を設けてもよく、また帯電防止処理、剥離処理、隠蔽処理、エンボス処理などの表面処理を施してもよい。また剥離処理として、シリコーン系、フッ素系、アルキド系の離型剤を塗布してもよい。
【0019】
次に、粘着層について説明する。粘着層は、ガラス転移温度が−35℃以下のウレタン樹脂及びアルカリ金属塩を含有するものである。粘着性成分としてはガラス転移温度が−35℃以下、好ましくは−50℃以下のウレタン樹脂を用いらなければならない。このようなウレタン樹脂を用いることにより、アルカリ金属塩を含有した際に、優れた帯電防止性とともに、加工時の衝撃による粘着層の飛び散りを抑制する粘着層とすることができる。
【0020】
本発明に用いられるウレタン樹脂は、ガラス転移温度が−35℃以下でなければならないが、それ以外は特に限定されることなく使用することができ、ポリオールとイソシアネート化合物を用いて製造されたものを用いることができる。
【0021】
ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール及び/又はポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応物であるポリウレタンポリオール、多価アルコールのポリエーテル付加物等をあげることができる。
ポリエーテルポリオールとしては、メチレンオキサイド鎖、エチレンオキサイド鎖、プロピレンオキサイド鎖、ブチレンオキサイド鎖等のアルキレンオキサイド鎖の繰り返し構造をそれぞれ単独で、あるいは2種類以上有するものが使用できる。
【0022】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、酸成分とグリコール成分とのエステル化反応によって得ることができる。酸成分としてテレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸等があげられ、グリコール成分としてエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3’−ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルペンタンジオール、ポリオール成分としてグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等があげられる。その他、ポリカプロラクトン、ポリ(β−メチル−γ−バレロラクトン)、ポリバレロラクトン等のラクトン類を開環重合して得られるポリエステルポリオール等もあげられる。
【0023】
本発明において、帯電防止性を向上させるためには、ポリウレタン鎖に、非結晶性で分極性の高いポリエーテルポリオールを有することが好ましい。例えば、プロピレンオキサイド鎖からなるポリプロピレングリコール(PPG)、PPGとPEGとからなるグリコールがあげられ、好ましくは、PPGである。PEGは親水性が高いことから、水分を吸着し、粘着性能が低下する場合があり、また、使用するPEGの分子量によっては結晶化が生じ、透明性を損なう場合がある。
【0024】
また、本発明では直鎖状、分岐構造等の各種ポリエーテルポリオールを広く使用することができる。また、分子中あるいは分子末端にイソシアネートと反応可能な官能基を有していてもよい。使用するポリエーテルポリオールの分子量に特に制限はないが、好ましくは、分子量100〜10000である。
本発明において帯電防止性は、超強酸塩が解離することにより生成するイオンが、ポリエーテル分子の運動によって運ばれることによって発現すると考えられる。よって、帯電防止性を向上させるためには、ミクロブラウン運動性の高いウレタン架橋体が好ましく、さらに粘着剤のガラス転移温度が使用条件である室温よりも低いことが好ましい。したがって、分子量の大きなポリオールを使用すること、あるいはポリオールの配合量を増やすことが好ましい。しかしながら、ポリオールの分子量が高い、あるいはポリオールの配合量が高いと粘度が高くなり、塗工性が劣る場合があり、硬化が不充分となって膜の強度が下がり、凝集破壊して糊残りの原因となる場合がある。それ故、使用するポリエーテルの分子量、硬化反応に使用するイソシアネート種ならびに量等は、最終的に生成されるポリエーテルポリオールとイソシアネートとの反応物であるウレタン架橋体の粘着特性ならびに塩の溶解性によって適宜選択することが可能である。
【0025】
本発明に用いられるポリイソシアネート化合物としては特に限定されることなく使用することができ、例えば、ジイソシアネート化合物から形成されてなる3官能のイソシアネート化合物があげられ、公知のジイソシアネート化合物から形成されるトリメチロールプロパンアダクト体、水と反応したビュレット体、イソシアヌレート環を有する3量体を使用することができる。
【0026】
3官能のイソシアネート化合物の形成に供されるジイソシアネート化合物としては、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等があげられる。
芳香族ポリイソシアネートとしては、1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート等をあげることができる。
【0027】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等をあげることができる。
【0028】
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、ω,ω´−ジイソシアネート−1,3−ジメチルベンゼン、ω,ω´−ジイソシアネート−1,4−ジメチルベンゼン、ω,ω´−ジイソシアネート−1,3−ジエチルベンゼン、1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等をあげることができる。
脂環族ポリイソシアネートとしては、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4’−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等があげられる。
【0029】
本発明に用いられる3官能ポリイソシアネート化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)等のジイソシアネートから形成されたイソシアヌレート体や、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネートから形成されるトリメチロールプロパンアダクト体が好ましい。このような3官能ポリイソシアネート化合物を用いることにより、打ち抜き加工時における粘着層の飛散防止性をより良好なものとすることができる。具体的には、このような3官能ポリイソシアネート化合物を用いることにより、粘着層の引張弾性率を2MPa以上に調整しやすくすることができる。このように粘着層の引張弾性率を2MPa以上とすることにより、加工時における粘着層の飛び散りをより抑制することができる。さらには、これらのなかでも3官能ポリイソシアネート化合物として、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネートから形成されるトリメチロールプロパンアダクト体を用いることが好ましく、このような3官能ポリイソシアネート化合物を用いることにより、粘着層の引張弾性率を3MPa以上に調整しやすくすることができる。粘着層の引張弾性率を3MPa以上とすることにより、さらに加工時における粘着層の飛び散りを抑制することができる。
本発明に用いられるポリオールとイソシアネート化合物のウレタン反応触媒としては、特に限定することなく使用することができる。例えば3級アミン化合物、有機金属化合物等があげられる。これらは、複数種を併用してもよい。
【0030】
3級アミン化合物としてはトリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N−メチルモルホリン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)等があげられる。
有機金属化合物としては錫系化合物、非錫系化合物をあげることができる。錫系化合物としては、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジブロマイド、ジブチル錫ジマレエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫スルファイド、トリブチル錫スルファイド、トリブチル錫オキサイド、トリブチル錫アセテート、トリエチル錫エトキサイド、トリブチル錫エトキサイド、ジオクチル錫オキサイド、トリブチル錫オキサイド、トリブチル錫トリクロロアセテート、2−エチルヘキサン酸錫等があげられる。
【0031】
非錫系化合物としては、例えば時ブチルチタニウムジクロライド、テトラブチルチタネート、ブトキシチタニウムトリクロライドなどのチタン系、オレイン酸鉛、安息香酸鉛、ナフテン酸鉛などの鉛系、2−エチルヘキサン酸鉄、鉄アセチルアセトネートなどの鉄系、安息香酸コバルト、2−エチルヘキサンコバルトなどのコバルト系、ナフテン酸亜鉛、2−エチルヘキサン亜鉛などの亜鉛系、ナフテン酸ジルコニウムなどがあげられる。
【0032】
ポリオールとイソシアネート化合物のウレタン化反応の方法としては、種々の方法が可能である。例えば、1)全量仕込みで反応する場合、2)ポリオールと触媒をフラスコに仕込み、イソシアネート化合物を逐次添加する方法が挙げられる。操作の容易さからは、1)が好ましく、反応系の粘度が高くなる場合や、反応を精密に制御する場合は、2)が好ましい。
【0033】
次に、アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、フランシウム塩等があげられる。
陰イオンとしては、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン((CF
3SO
2)
2N
-)、パーフルオロブチルスルホン酸イオン(C
4F
9SO
3-)、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドアニオン((C
2F
5SO
2)
2N
-)、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドアニオン((CF
3SO
2)
3C
-)、テトラフェニル硼酸アニオン(BPh
4-)があげられる。
【0034】
他方、好ましい陽イオンとしては、より価数が小さい1価のイオンを有するアルカリ金属イオンがあげられ、特に好ましくは、プロトン以外で最も移動度が高いリチウムイオンを有するリチウム塩があげられる。
このようなリチウム塩としては、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li(CF
3SO
3)
2N)、パーフルオロブチルスルホン酸リチウム(LiC
4F
9O
3)、リチウムビス ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(Li(C
2F
5SO
2)
2N)、リチウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド(Li(CF
3SO
2)
3C)、テトラフェニル硼酸リチウム(LiBPh
4)等があげられる。
【0035】
アルカリ金属塩の配合量は、ウレタン樹脂100質量部に対し2〜10質量部が好ましい。さらに好ましくは3〜7質量部である。配合量が2質量部未満では、帯電防止性が不足する場合があり、10質量部を超過しても、帯電防止性の向上はほとんどないうえ、ウレタン樹脂との相溶性が悪化することにより、粘着層からアルカリ金属塩が析出し被着体を汚染する場合がある。
【0036】
以上の粘着層には、本発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて、他の樹脂や溶媒、及び粘着付与剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、重合禁止剤、架橋剤、顔料、防汚剤、微粒子、滑剤、蛍光増白剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、流動調整剤、分散剤等の添加剤等を添加し、それぞれ目的とする機能を付与することも可能である。
【0037】
他の樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などがあげられ、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂等をあげられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂等をあげられる。
【0038】
溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒などを単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
また、粘着付与剤としては、ロジン、ロジンエステルをあげることができる。レベリング剤としてはアクリル系化合物、高沸点溶媒、フッ素系化合物、シリコーン系化合物等をあげることができるが、表面を鏡面に仕上げる点でフッ素系化合物、シリコーン系化合物が好ましい。酸化防止剤としてはフェノール系化合物等を、重合禁止剤としては、メトキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノン等があげられ、架橋剤としては、イソシアネート類、メラミン化合物等をあげることができる。微粒子は、シリカ、炭酸カルシウム等の無機微粒子及びポリメチルメタクリレートやポリスチレン等の有機微粒子等をあげることできる。
【0040】
本発明の粘着シートは、上述した特定のウレタン樹脂、アルカリ金属塩、さらには必要に応じて、他の樹脂や添加剤を溶媒中に溶解又は分散させた粘着層塗工液を、上述した基材フィルムの少なくとも一方の面に塗布、乾燥することにより得ることができる。塗布には公知の方法、例えば、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、スピンコート法、フローコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、刷毛塗り等を用いることができる。また取扱性の観点から、乾燥後、粘着層はセパレータと貼り合せることが好ましい。さらに、粘着層塗工液に添加剤として架橋剤を用いた場合には、室温でエージングしたり、必要に応じて加熱によりキュアリングして、粘着層の架橋を完了させることもできる。
また、粘着層はセパレータの方に上記と同様の方法で塗布、乾燥し、基材フィルムと貼り合せても良い。
【0041】
粘着層の厚みは特に制限されるものではなく、加工物の種類や大きさ、加工工程の種類、取扱性、生産性及び経済性などによって適宜決定すればよいが、電子部品の実装されたFPCのような精密部品を、切断又は打ち抜き加工する場合には、下限として1μm以上、さらには2μm以上とすることが好ましく、上限として20μm以下、さらには10μm以下とすることが好ましい。粘着層の厚みを1μm以上とすることにより、加工物を保持するともに、必要な帯電防止性を得ることができる。また、粘着層の厚みを20μm以下とすることにより、加工物の剥離性を容易に調整することができ、また生産性及び経済性が低下するのを抑制することができる。
【0042】
このような本発明の粘着シートは、JIS K6911における表面抵抗率が1×10
8〜1×10
10Ωに調整していることが好ましい。このような範囲に調整することにより加工工程用途において、優れた帯電防止性を有することができる。また、剥離帯電圧は200V以下、さらには150V以下に調整していることが好ましい。剥離帯電圧を200V以下とすることにより、加工物が電子部品であった場合に、当該加工物の静電破壊を引き起こしにくくすることができる。
また本発明の粘着シートは、加工工程においては加工物を保持し、加工終了後は適度な剥離力で剥離できるものである。加工物の剥離力は、加工物の種類や大きさ、粘着シートとの接触面積、剥離速度などによって異なってくるので、一概にいえないが、例えば、厚み25μmのポリイミドフィルムを被着体とした場合、本発明の粘着シートから被着体を剥離するときの剥離力が、0.03〜1.0N/25mmの範囲とすることが好ましい。剥離力を0.03N/25mm以上とすることにより、切断加工や打ち抜き加工等の加工工程において衝撃を受けても、被着体が脱落することなく保持することが容易となり、1N/25mm以下とすることにより、被着体にダメージを生じることなく、粘着シートから剥離することが容易となる。
【0043】
以上のような本発明の粘着シートは、優れた帯電防止性を有し、かつ加工時の衝撃による粘着層の飛び散りを抑制し、粘着層の飛び散りによる被着体の汚染を防止することができるため、加工工程用のキャリアーフィルムとしての使用に適している。特に、被着体が電子部品の実装されたFPCのような精密部品である場合には、剥離帯電によって発生した電圧が放電によって静電破壊を引き起こすことを防止するため、特に有益である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0045】
1.粘着シートの作製
[実施例及び比較例]
以下に示す実施例及び比較例の粘着層塗布液の構成成分を、表1〜2記載の固形分比(質量部)でメチルエチルケトン(MEK)と共に混合、撹拌し実施例及び比較例の粘着層塗布液(固形分41%)を得た。次に基材として、厚み125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラーT−60、東レ社製)の一方の面に、乾燥後の厚みが7μmとなるよう各粘着層塗布液をバーコート法により塗布、乾燥して粘着層を形成し、セパレータとして厚み50μmのポリエチレンフィルム(M−4ブルー、タマポリ社製)と貼り合せた。次いで23℃の環境に、72時間エージングすることにより実施例及び比較例の粘着シートを作製した。
【0046】
<実施例及び比較例の粘着層塗布液の構成成分>
A1:ガラス転移温度−58℃のウレタン樹脂(サイアバインSH−101、トーヨーケム社製、質量平均分子量10.6万、固形分62%)
【0047】
A2:ガラス転移温度−38℃のウレタン樹脂(バーノック18−472、DIC社製、質量平均分子量3.6万、固形分30%)
【0048】
B1:アクリル樹脂(バインゾールAS−409、一方社油脂工業社製、ガラス転移温度−42℃、質量平均分子量39万、固形分42%)
【0049】
B2:ガラス転移温度−15℃のウレタン樹脂(バーノックDF−407、DIC社製、質量平均分子量8.1万、固形分25%)
【0050】
C1:カリウムイミド塩(物質名:カリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、製品名:EF−N112、三菱マテリアル電子化成社製)
【0051】
C2:ナトリウムイミド塩(物質名:ナトリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、製品名:EF−N113、三菱マテリアル電子化成社製)
【0052】
C3:リチウムイミド塩(物質名:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、製品名:EF−N115、三菱マテリアル電子化成社製)
【0053】
架橋剤1:TDI−TMPアダクト系ポリイソシネート(コロネートL、日本ポリウレタン工業社製、固形分75%)
【0054】
架橋剤2:HDI系ポリイソシネート(コロネートHL、日本ポリウレタン工業社製、固形分100%)
【0055】
可塑剤:アジピン酸ジエトキシブトキシエチル(製品名:BXA−N、大八化学社製、固形分100%)
【0056】
2.評価
得られた実施例及び比較例の粘着シートについて、剥離性、帯電防止性、打ち抜き加工時における粘着層の飛散防止性及び引張弾性率について、以下の方法により測定又は評価した。結果を合わせて表1〜2に示す。
【0057】
[剥離性]
実施例及び比較例の粘着シートを、幅25mm、長さ250mmに切断し粘着層を上にした状態で、厚み25μmのポリイミドフィルム(カプトン100V、東レ・デュポン社製)を、押圧力2kg、速度300mm/分の条件でゴムローラーを一往復させて圧着した。20分間放置した後、引張試験機により、当該ポリイミドフィルムを引張速度300mm/分で、180°方向に引き剥がした際の剥離力を測定することにより、剥離性を評価した。なお、これらの工程は全て温度23℃、湿度65%R.H.の環境下で行った。
【0058】
[帯電防止性(AS性)]
<表面抵抗率>
実施例及び比較例の粘着シートのセパレータを剥がした状態で、粘着層の表面抵抗率を、表面抵抗率計(ハイレスタIP MCP−HT250、三菱化学アナリテック社製)を用いて測定した。なお、これらの工程は全て温度25℃、湿度50%R.H.の環境下で行った。
【0059】
<剥離帯電圧>
幅25mm、長さ250mmの大きさに切断した実施例及び比較例の粘着シートの粘着層を有する面と、幅25mm、長さ300mmの大きさの銅張積層板(CCL)のポリイミド面とを貼り合わせた。次いで、このCCLを100mm/秒の速度で剥離した際のポリイミド面側の剥離帯電圧をハンディ型静電気測定器(FMX−003、シムコジャパン社製)にて測定した。なお、これらの工程は全て温度25℃、湿度50%R.H.の条件下で行った。
【0060】
[打ち抜き加工時における粘着層の飛散防止性]
実施例及び比較例の粘着シートの粘着層を有する面と、厚み275μmのポリイミドフィルムとを貼り合わせ、ポリイミドフィルムを上にした状態で、山型のゼンマイ刃を取り付けた打ち抜き装置を用いて、ポリイミドフィルムのみが打ち抜けるようハーフカットした。次いで、当該ポリイミドフィルムを粘着シートから剥がし、ポリイミドフィルムの粘着シートと貼り合わせていた面の刃侵入部近傍を、マイクロスコープVH−X(キーエンス社製)を用いて200倍の倍率で観察した。評価は、粘着層由来の付着物がなく切断面の形状も直線的であるものを○、粘着層由来の付着物はないが、刃侵入部の形状が直線的ではなく粘着層のささくれがみられるものを△、粘着層由来の付着物が確認されたものを×とした。
[引張弾性率]
上記実施例1、7〜9及び比較例1、2の粘着シートの作製の際に、厚み125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム及びセパレータ(厚み50μmのポリエチレンフィルム)の代わりに、シリコーン処理されたセパレータ(厚み25μポリエチレンテレフタレートフィルム)を用いた以外は同様にして、前記セパレータで挟持された粘着層を形成し、上記と同様の条件でエージングを行った。
次いで、両方のセパレータを剥がし、粘着層を重ねて厚み0.5mmとしたものを試験片とし、23℃における引張弾性率を、粘弾性測定器(クリープメーターRE2−33005B:山電社製)を用いて測定した。なお、試験片の長さ:40mm、幅:10mm、つかみ具間距離:15mm、引張速度:1mm/秒とした。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1〜2をみると、実施例の粘着シートは、剥離性、帯電防止性(AS性)、打ち抜き加工時における粘着層の飛散防止性が良好な粘着シートであることが理解できる。
【0064】
一方、比較例1の粘着シートは、粘着性成分としてアクリル樹脂を用いたものであり、打ち抜き加工時における粘着層の飛散防止性は良好であるが、特定のウレタン樹脂を用いた実施例と比べて、帯電防止性の劣るものであることが理解できる。
【0065】
また、比較例2の粘着シートは、粘着性成分としてアクリル樹脂と可塑剤を用いたものであり、帯電防止性に優れたものであったが、実施例と比べて打ち抜き加工時における粘着層の飛散防止性の劣るものであることが理解できる。
【0066】
また、比較例3の粘着シートは、粘着性成分としてガラス転移温度が−35℃を超えるウレタン樹脂を用いたものであり、打ち抜き加工時における粘着層の飛散防止性は良好であるが、実施例と比べて帯電防止性の劣るものであることが理解できる。
【0067】
また、実施例1、2及び比較例3は、ガラス転移温度の異なるウレタン樹脂を用いたものであり、ウレタン樹脂を用いたものは打ち抜き加工時における粘着層の飛散防止性が全て良好であるが、ガラス転移温度が高くなっていくほど、帯電防止性が低下していく傾向にあることが理解できる。
【0068】
また、実施例1及び実施例5、6は、アルカリ金属塩の含有量が異なるものであり、アルカリ金属塩の含有量が多いほど帯電防止性が向上しているのが理解できる。また、表1、2中に示していないが、実施例10として、アルカリ金属塩の含有量を20質量部とした以外は実施例1及び実施例5、6と同様にして粘着シートを作製し、同様の評価を行ったところ、打ち抜き加工時における粘着層の飛散防止性及び帯電防止性は、実施例6とほぼ同様の結果となったが、若干ではあるが粘着層の一部でアルカリ金属塩が析出し、被着体の一部を汚染してしまう傾向がみられた。この結果から、粘着層におけるアルカリ金属塩の含有量をある一定以上より多く入れても帯電防止性はそれ以上向上せず、粘着層からアルカリ金属塩が析出する傾向にあることが理解できる。
【0069】
また、粘着層の引張弾性率が2MPa以上である実施例1、7〜9の粘着シートは、打ち抜き加工時における粘着層の飛散防止性が良好な結果となった。特に粘着層の引張弾性率が3MPa以上である実施例1、9の粘着シートは、粘着層の引張弾性率が2.3MPaである実施例7の粘着シート及び2.0MPaである実施例8の粘着シートよりも、打ち抜き加工時における粘着層の飛散防止性が優れた結果となった。ただし、実施例7、8のものも実用に十分耐えうるものであった。
一方、比較例2の粘着シートは、粘着層の引張弾性率が0.92MPaと2MPa以下であり、打ち抜き加工時における粘着層の飛散防止性が劣る結果となった。