特許第6444074号(P6444074)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6444074ロックボルト定着材用組成物、ロックボルト定着材およびロックボルト工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444074
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】ロックボルト定着材用組成物、ロックボルト定着材およびロックボルト工法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/30 20060101AFI20181217BHJP
   C09K 17/14 20060101ALI20181217BHJP
   E21D 20/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   C09K17/30 P
   C09K17/14 P
   E21D20/00 M
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-133400(P2014-133400)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-11364(P2016-11364A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中川 直紀
(72)【発明者】
【氏名】山田 亨
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−102615(JP,A)
【文献】 特表平01−501944(JP,A)
【文献】 特開2003−327962(JP,A)
【文献】 特表昭63−501086(JP,A)
【文献】 特開平11−124576(JP,A)
【文献】 特開2014−001381(JP,A)
【文献】 特開2011−037946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00− 17/52
C09J 1/00−201/10
E21D 20/00− 21/02
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘削後の周辺地山に打設するロックボルト定着材用組成物であって、前記定着材用組成物が、
ポリオール、アミン化合物および水(c)を含んでなる(A)成分とイソシアネート化合物を含んでなる(B)成分とからなり、
前記ポリオールが、ポリエーテルポリオール(a1)を含有するものであり、
前記アミン化合物が、一級または二級アミノ基を有するアミン化合物(b1)を含有するものであり、
前記水(c)の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.3質量部〜2.5質量部であり、
前記ポリオールが、ヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)を更に含有するものである、ロックボルト定着材用組成物。
【請求項2】
ポリエーテルポリオール(a1)のヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)に対する含有割合[(a1)/(a2)]が、1.3以上である、請求項1記載のロックボルト定着材用組成物。
【請求項3】
一級または二級アミノ基を有するアミン化合物(b1)が、ジエチルトルエンジアミン、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、ヘキサメチレンジアミン、および末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物である、請求項1または請求項2に記載のロックボルト定着材用組成物。
【請求項4】
(A)成分および(B)成分の粘度が、いずれも、25℃において、650mPa・Sec以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のロックボルト定着材用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のロックボルト定着材用組成物を硬化させて得られるロックボルト定着材。
【請求項6】
岩盤ないし地盤に所定間隔で複数個の孔を穿設する工程、
前記孔内に空隙のないボルトと注入ロッドを挿入する工程、および、
前記注入ロッドより、請求項1〜4のいずれか1項に記載のロックボルト定着材用組成物を、岩盤ないし地盤に注入し、固結させる工程からなる、ロックボルト工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックボルト定着材用組成物、ロックボルト定着材およびロックボルト工法に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル掘削作業においては、AGF工法、注入式フォアポーリング工法、フェースボルト工法などの掘削時の安全性をより高めるための各種補助工法と掘削後のトンネルの変形等を抑制するためのロックボルト工法の2種類の工法が採用されている。
【0003】
AGF工法や注入式フォアポーリング工法は、掘削時の端部崩落を防止するために前方上部の土質を安定化する工法であり、掘削から覆工コンクリート打設までの安全性を確保するものである。また、フェースボルト工法は、掘削断面である鏡面およびその前方の土質を安定化する工法であり、一定区間の掘削完了から次回掘削開始までの安全性を確保するものである。これらの補助工法は、掘削作業に対する安全性向上を目的としたものである。
【0004】
ロックボルト工法は、トンネル掘削後の周辺地山の安定化を行う工法であり、ボルトを定着材で地山に固定することにより、その後に打設される覆工コンクリートとともに地震等による地盤変動からトンネル構造物を保護することを目的に行われるものである。したがって、ロックボルトを周辺地山に定着させるための定着材には、トンネル構造物の使用時における安全性を確保するための高い強度と長期耐久性が要求されており、前記掘削時の各種補助工法に用いられる地山固結材とは大きく異なるものである。
【0005】
このようなロックボルト定着材としては、従来、高い強度を有するモルタルなどの無機系材料が使用されてきた。しかしながら、これらの無機系材料は、強度発現までに要する時間が長いことから作業効率が十分ではなく、また、漏水や湧水が発生する場合には材料が水中に流出してしまうという問題があった。
【0006】
そこで、これらの問題を解決するために、アルカリケイ酸塩水溶液とイソシアネート化合物からなる有機−無機複合材料が定着材として使用されている(特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−285155号公報
【特許文献2】特開2011−37946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の定着材には、長期耐久性や水質汚染の課題がある。また近年、コストダウンの要請および、ロックボルトと周辺地山の定着性向上の観点から容易にロックボルトと周辺地山間の空隙を埋めることができる発泡タイプの定着材が求められている。特許文献2の定着材より高い発泡倍率においても、十分な物性を有する定着材が求められていた。本発明は、上記に鑑みて為されたものであり、発泡タイプでありながら、水質汚染が少なく、十分な強度、長期耐久性、十分な強度発現速度を有するロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、所定のポリオールおよび所定のアミン化合物を含んでなる(A)成分とイソシアネート化合物を含んでなる(B)成分とからなる薬液組成物を用いれば、上記課題を解決できることを見出し、更に検討を重ねて、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]トンネル掘削後の周辺地山に打設するロックボルト定着材用組成物であって、前記定着材用組成物が、ポリオール、アミン化合物および水(c)を含んでなる(A)成分とイソシアネート化合物を含んでなる(B)成分とからなり、前記ポリオールが、ポリエーテルポリオール(a1)を含有するものであり、前記アミン化合物が、一級または二級アミノ基を有するアミン化合物(b1)を含有するものであり、
前記水(c)の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して、0.3質量部〜2.5質量部である、ロックボルト定着材用組成物、
[2]前記ポリオールが、ヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)を更に含有するものである上記[1]記載のロックボルト定着材用組成物、
[3]ポリエーテルポリオール(a1)のヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)に対する含有割合[(a1)/(a2)]が、1.3以上である、上記[2]記載のロックボルト定着材用組成物、
[4]一級または二級アミノ基を有するアミン化合物(b1)が、ジエチルトルエンジアミン、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンン、ヘキサメチレンジアミン、および末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物である、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載のロックボルト定着材用組成物、
[5](A)成分および(B)成分の粘度が、いずれも、25℃において、650mPa・Sec以下である、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載のロックボルト定着材用組成物、
[6]上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載のロックボルト定着材用組成物を硬化させて得られるロックボルト定着材、
[7]岩盤ないし地盤に所定間隔で複数個の孔を穿設する工程、前記孔内に空隙のないボルトと注入ロッドを挿入する工程、および、前記注入ロッドより、上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載のロックボルト定着材用組成物を、岩盤ないし地盤に注入し、固結させる工程からなる、ロックボルト工法、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発泡タイプでありながら、水質汚染が少なく、十分な強度、長期耐久性、十分な強度発現速度を有するロックボルト定着材用組成物および該組成物が硬化されてなるロックボルト定着材を提供することができる。
【0012】
また、(A)成分に、ヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)を加えれば、より発泡倍率を好適に制御し得るため、好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を構成する各要素について、以下説明する。
【0014】
<(A)成分>
本発明において、(A)成分は、ポリオール、アミン化合物および水(c)を含んでなるものである。ここに、該ポリオールは、ポリエーテルポリオール(a1)を含有するものであって、さらに、ヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)を含有することもできる。一方、アミン化合物は、一級または二級アミノ基を有するアミン化合物(b1)を含有するものであり、さらに、三級アミン化合物(b2)を含有することもできる。
【0015】
(ポリエーテルポリオール(a1))
本発明に用いられるポリエーテルポリオール(a1)としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、ラウリルアルコールなどのモノオール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのジオールや、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどのポリオール;そのほかモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジグリセリン、ソルビトール、蔗糖などの活性水素含有化合物の単体もしくはこれらの混合物に、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシドなどのアルキレンオキシドを1種又は2種以上使用し、公知の方法で付加重合して得られるモノオールまたはポリオールが挙げられる。
【0016】
また、前記モノオールまたはポリオールと後述するイソシアネート化合物とを反応させてなる水酸基末端ウレタンプレポリマーも使用することができる。
【0017】
これらのうち、グリセリンにプロピレンオキサイドを付加重合したポリエーテルポリオール、プロピレングリコールにプロピレンオキサイド付加重合したポリエーテルポリオール、ソルビトールにプロピレンオキサイド付加重合したポリエーテルポリオールなどが好ましい。
【0018】
これらポリエーテルポリオール(a1)において、その重量平均分子量(Mw)は、作業性およびの硬化物の圧縮強度を保持する観点から、800以下であることが好ましく、650以下であることがより好ましく、500以下であることが、さらに好ましい。
【0019】
本発明において、重量平均分子量は、GPC法により測定される値である。GPC法としては、例えば、GPC本体として東ソー(株)製のHLC−8020を使用し、カラム温度40℃、ポンプ流量0.6〜1.0ml/分、検出器としてRI(GPC本体に内蔵されている)を用いて実施する方法を挙げることができる[カラム:TSKgel G6000H HR + G4000H HR +G3000H HR + G2000H HR (4本つないで使用);移動相:THF;注入量:80μl;サンプル濃度:0.2%(w/v)]。本法においては、例えば、あらかじめ分子量が既知の標準PPGの検量線(分子量250以上での検量)を用いて、PPG換算分子量として、分子量を求めることができる。
【0020】
これらポリエーテルポリオール(a1)において、官能基数(水酸基の数)は、作業性の観点から、3以下であることが好ましい。
【0021】
ポリエーテルポリオール(a1)は、それぞれ単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
ポリエーテルポリオール(a1)の含有量は、(A)成分全量に対し、50〜95質量%であることが好ましく、55〜90質量%がより好ましい。50質量%未満および95質量%超ではロックボルト定着材の圧縮強度が低下する傾向がある。
【0023】
(ヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2))
本発明に用いられるヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)は、ヒマシ油、ヒマシ油脂肪酸、ヒマシ油に水素付加した水添ヒマシ油またはヒマシ油脂肪酸に水素付加した水添ヒマシ油脂肪酸を用いて製造されたポリオールである。このようなヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)としては、ヒマシ油、ヒマシ油とその他の天然油脂とのエステル交換物、ヒマシ油と多価アルコールとの反応物、ヒマシ油脂肪酸と多価アルコールとのエステル化反応物、水添ヒマシ油、水添ヒマシ油とその他の天然油脂とのエステル交換物、水添ヒマシ油と多価アルコールとの反応物、水添ヒマシ油脂肪酸と多価アルコールとのエステル化反応物、および、これらにアルキレンオキサイドを付加重合したポリオールなどが挙げられる。このうち、ヒマシ油が最も好ましい。
【0024】
本発明においては、これらヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)を使用することで、ロックボルト定着材の発泡倍率が過剰に大きくならず、それ故、漏水や湧水によって硬化物が流出した際の環境への悪影響を小さく、十分な強度、長期耐久性、十分な強度発現速度を得ることができる。
【0025】
これらヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)において、そのMwは、作業性およびの硬化物の圧縮強度を保持する観点から、800以下であることが好ましく、650以下であることがより好ましく、500以下であることが、さらに好ましい。
【0026】
これらヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)において、官能基数(水酸基の数)は、作業性の観点から、3以下であることが好ましい。
【0027】
ヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)は、それぞれ単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
ヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)の含有量は、(A)成分全量に対し、0〜45質量%であることが好ましく、10〜30質量%がより好ましい。45質量%超では硬化物の圧縮強度が低下する傾向がある。
【0029】
(含有比(a1)/(a2))
前記ポリエーテルポリオール(a1)およびヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)の含有割合(質量比)は、(a1)/(a2)が1.3以上であり、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは3.5以上である。1.3未満の場合には、硬化物の圧縮強度が低下する傾向がある。該含有割合は、最も好ましくは、約4.0である。この場合の「約」とは、±0.1程度の変動を許容する趣旨である。
【0030】
(アミン化合物(b1))
本発明に用いられる、一級または二級アミノ基を有するアミン化合物(b1)としては、特に限定されないが、例えば、モノメチルアミン、モノエチルアミン、モノブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジn−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン、ジヘキシルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルイソプロピルアミン、エチルプロピルアミン、エチルイソプロピルアミン、N−メチルドデシルアミン、ビス(2−エチルヘキシル)アミン等のアルキルモノアミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等のアルカノールモノアミン;シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、N−エチルシクロヘキシルアミン、またはジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;N−メチルベンジルアミン、ジベンジルアミン、ベンジルアミン、p−メチルベンジルアミン等の芳香族モノアミン;モルホリン、ピロリジン、ピペリジンまたは1Hピラゾール等のヘテロ環式モノアミン;ヒドラジン;エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ネオペンタンジアミン等の脂肪族ジアミン;4,4′−ジアミノシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、2,5−又は2,6−ジアミノメチルビシクロ〔2,2,1〕ヘプタン、ジアミノシクロヘキサン、ジエチルトルエンジアミン等の脂環式ジアミン;ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、3,5−ジエチル−2,4−ジアミノトルエン、3,5−ジエチル−2,6−ジアミノトルエン等の芳香族ジアミン;ジエチレントリアミン等の脂肪族トリアミン;1,3,5−トリス(アミノメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(アミノメチル)シクロヘキサン等の芳香族又は脂環式トリアミン;水、エチレングリコール、プロピレングリコール等にプロピレンオキサイド及び/又はエチレンオキサイドを付加重合して得たポリオキシアルキレングリコール類のヒドロキシル基をアミノ基に変換して得られるポリオキシアルキレンジアミン;グリセリン、トリメチロールプロパン等にプロピレンオキサイド及び/又はエチレンオキサイドを付加重合して得たポリオキシアルキレントリオール類のヒドロキシル基をアミノ基に変換して得られるポリオキシアルキレントリアミン等が挙げられる。
【0031】
これらのうち、ジエチルトルエンジアミン、ジエタノールアミン、1,2−プロパンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミンン、ヘキサメチレンジアミン、および末端アミノ化プロピレングリコール(重量平均分子量2000未満)が好ましい。
【0032】
これらアミン化合物(b1)は、それぞれ単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0033】
アミン化合物(b1)の含有量は、(A)成分全量に対し、2〜12質量%であることが好ましく、3〜10質量%がより好ましい。2質量%未満では白濁を抑制することが困難となる傾向があり、12質量%超では施工時にミキサーボルト等にかかる負荷が大きくなる傾向がある。
【0034】
(三級アミン化合物(b2))
本発明において、三級アミン化合物(b2)としては、公知のものを特に制限なく用いることができ、例えば、N,N−ジメチルオクチルアミン、N,N−ジメチルラウリルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、トリメチルアミノエチルピペラジン、ビス−(ジメチルアミノエチル)エーテル、ヘキサヒドロ−S−トリアジン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、2−メチルトリエチレンジアミン、N,N−ジメチルアミノエチルモルホリン、ジメチルアミノプロピルイミダゾール、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、ヘキサメチルトリプロピレンテトラミン、N,N,N−トリス(3−ジメチルアミノプロピル)アミンなどが挙げられる。
【0035】
これら三級アミン化合物(b2)は、それぞれ単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0036】
3級アミン触媒(b2)の含有量は、(A)成分全量に対し、0.3〜10質量%が好ましく、0.5〜7質量%がより好ましい。0.3質量%未満であると、作業性が悪化する傾向があり、10質量%超では施工時にミキサーボルト等にかかる負荷が大きくなる傾向がある。
【0037】
本発明に用いられる水(c)の含有量は、前記(A)成分100質量部に対して、0.3質量部〜2.5質量部である。好ましくは、0.5質量部〜1.5質量部であり、より好ましくは0.7質量部〜1.0質量部である。これらの範囲であれば、漏水や湧水によって硬化物が流出した際の環境への悪影響を小さく、十分な強度、長期耐久性、十分な強度発現速度を得ることができる。
【0038】
(その他の成分)
本発明に係る(A)成分には、上記した各成分の他に、必要に応じて、シリコン系整泡剤、希釈剤、難燃剤、顔料、無機充填剤、架橋剤、カップリング剤等の公知の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で加えることができる。
【0039】
シリコン系整泡剤としては、特に限定されないが、例えば、硬質発泡ウレタン樹脂に通常用いられるポリオキシアルキレンジメチルポリシロキサンコポリマーがあげられる。
【0040】
希釈剤としては、特に限定されないが、例えば、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレートなどのフタル酸エステル、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ビス(2−(2−ブトキシエトキシ)エチル)アジペートなどのアジピン酸エステル、トリ(2−エチルヘキシル)トリメリテートなどのトリメリット酸エステルが挙げられる。これらのうち、環境への影響が少なく、安全性に優れることから、ビス(2−(2−ブトキシエトキシ)エチル)アジペート、トリ(2−エチルヘキシル)トリメリテートが好ましい。
【0041】
難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、添加型および反応型のいずれのものを用いることができる。添加型のものの具体例としては、たとえばトリブチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリスモノクロロイソプロピルホスフェートなどの含リン含ハロゲン系;塩素化パラフィン、ペンタブロモエチルベンゼン、デカブロモジフェニルエーテルなどの含ハロゲン系のものなどがあげられる。反応型のものの具体例としては、たとえばジブロモネオペンチルグリコール、テトラブロモビスフェノールA、ジエチルN,N−ジヒドロキシエチルアミノメチルホスホテート、各種含リンポリオールなどの水酸基やアミノ基などを有する含ハロゲン含リン化合物などがあげられる。
【0042】
なお、本発明においては、ブリードアウトによる環境への悪影響を抑制する観点から、希釈剤は使用しないことが好ましい。
【0043】
(粘度)
本発明において、(A)成分は、作業性の観点から、その粘度は、25℃において、650mPa・sec以下であることが好ましく、より好ましくは600mPa・sec以下、さらに好ましくは450mPa・sec以下である。
【0044】
<(B)成分>
本発明において、(B)成分は、イソシアネート化合物を含んでなるものである。
【0045】
(イソシアネート化合物)
イソシアネート化合物としては、特に限定されないが、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートおよびその異性体、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)、トリレンジイソシアネート、クルードトリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、トリメチレンキシリレンジイソシアネートなどのポリイソシアネートの単独または混合物;これらポリイソシアネートのカルボジイミド変性体や、触媒を加えて2量体または3量体としたもの:これらポリイソシアネートを、前記ポリエーテルポリオール(a1)またはヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2)と反応させてなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーの単独または混合物などが挙げられる。
【0046】
これらの中で、白濁性の観点から、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)およびこのイソシアネート基末端ウレタンプレポリマーが好ましい。
【0047】
これらイソシアネート化合物は、それぞれ単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0048】
(その他の成分)
本発明に係る(B)成分には、その他の成分として、必要に応じて、(A)成分の項で説明した従来公知の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で加えることができる。
【0049】
(粘度)
本発明において、(B)成分は、作業性の観点から、その粘度は、25℃において、650mPa・sec以下であることが好ましく、より好ましくは600mPa・sec以下、さらに好ましくは450mPa・sec以下である。
【0050】
次に本発明のロックボルト定着材について説明する。本発明のロックボルト定着材は、前記ロックボルト定着材用組成物を硬化させて得られる。
【0051】
(混合比)
本発明に係る(A)成分と(B)成分の混合比は、(A)成分中のポリオールのOH基およびNH基と、(B)成分中のNCO基との反応当量比、すなわち、(OH+NH)/NCOが、1/5〜5/1の範囲にあるのが好ましく、より好ましくは1/3〜2/1である。かかる反応当量比が前記範囲よりも大きい場合には、硬化物が柔かく、その強度が非常に小さくなる傾向があり、また前記範囲よりも小さい場合には、硬化時間が長くなり、またロックボルト定着材の強度が小さく脆くなる傾向がある。
【0052】
(ゲルタイム)
本発明のロックボルト定着材用組成物は、それぞれ20℃に調整した(A)成分と(B)成分とを混合した際のゲルタイムが、25〜55秒であることが好ましい。ゲルタイムが25秒未満であると作業性が悪化する傾向があり、一方、55秒超であると白濁が生じる傾向があり、好ましくない。ここで、ゲルタイムとは、総量30gの(A)成分と(B)成分をそれぞれ20℃とした後ハンドミキシングにより混合する際に、ゲル化するまでの時間(すなわち、硬化が進行し、糸引きが始まる時間)をいう。
【0053】
(発泡倍率)
本発明のロックボルト定着材は、漏水や湧水によって硬化物が流出した際の環境への悪影響を小さく、十分な強度、長期耐久性、十分な強度発現速度を得る意味から、硬化物の自由発泡倍率は低いことが好ましく、例えば、30倍以下であり、より好ましくは20倍以下、さらに好ましくは15倍以下である。一方、発泡倍率の下限値について、特に限定はないが、通常、2倍以上である。本発明において、発泡倍率とは、硬化反応終了後の硬化物の体積を、原料たる(A)成分および(B)成分の体積で除することにより、算出される値である。発泡倍率は、(A)成分に、(B)成分を混合し、発泡させることにより測定される。これらの範囲であれば、地山に注入した際の発泡倍率が、5倍以下、好ましくは3倍以下となることから、十分な強度、長期耐久性、十分な強度発現速度を得ることができる。
【0054】
(圧縮強度)
本発明のロックボルト定着材の自由発泡における圧縮強度は、十分な強度、長期耐久性を得る観点から、0.3MPa以上であることが好ましく、より好ましくは0.4MPa以上である。硬化物の圧縮強度は、(A)成分と(B)成分を、混合して硬化させた硬化物について、JISA 9511に準拠して、10mm×10mm×10mmの試験片を切り出して、インストロン万能試験機で測定するものである。
【0055】
(pH)
本発明において、(A)成分および(B)成分を混合した後、該混合物を10倍量の水に投入し、反応終了後、上澄み液を採取して測定されるpHは、5〜9であることが好ましい。
【0056】
<ロックボルト工法>
本発明のロックボルト定着材用組成物およびロックボルト定着材は、例えばトンネル掘削後の周辺地山の安定化を行うロックボルト工法において、ボルトを地山に固定する際に定着材として使用される。当該ポルトの固定により、その後に打設される覆工コンクリートとともに地震等による地盤変動からトンネル構造物を保護することができる。
【0057】
定着材を注入固結する方法については、とくに限定はなく、公知の方法を採用しうるが、地山に所定間隔で複数個の孔を穿設する工程、前記孔内にロックボルトを挿入する工程、および、前記ロックボルト定着材用組成物を地山に注入し、固結する工程からなることが好ましい。
【0058】
地山に注入し、固結する工程としては、その一例をあげれば、例えば(A)成分および(B)成分の注入量、圧力および配合比などをコントロールし得る比較配合式ポンプを用いる方法などがある。この方法では、(A)成分と(B)成分とを別々のタンクに入れ、岩盤などの所定箇所(たとえば0.5〜3m程度の間隔で穿設された複数個の孔)に、あらかじめ固定されたスタティックミキサーや逆止弁などを内装した注入ロッドを通し、この中に前記タンク内の各成分を注入圧0.05〜25MPaで注入し、スタティックミキサーを通して、所定量の(A)成分と(B)成分を均一に混合させ、地山に注入し、固結する。
【0059】
なお、たとえばトンネルの天盤部に注入する場合には、注入に先立ち、たとえば掘削方向に約1m、断面方向には特定限定されないが、地山に応じた所定の間隔で、たとえば42mmφビットのレッグオーガーを用いて削孔し、深さ3m、削孔角度90°の注入孔を設け、この注入孔に、スタティックミキサーおよび逆止弁を内装した長さが3mであるロックボルトを挿入し、該ロックボルトの口元を、注入薬液の逆流を防ぐために、ウエスおよび発泡硬質ウレタン樹脂等を用いてシールし、薬液を前記の方法で注入することが好ましい。注入作業は、注入圧が急激に上昇した時点、または所定注入量よりもさらに約50%増量した時点で終了する。一般に、注入孔1個あたり薬液は0.5〜5.0kg注入することが好ましい。
【実施例】
【0060】
実施例にもとづいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0061】
<使用原料>
(ポリエーテルポリオール(a1))
ポリオール(a1−1):グリセリンにプロピレンオキサイドを付加重合した平均水酸基価480mgKOH/gのポリエーテルポリオール(商品名:DKポリオールG480、第一工業製薬(株)製)
ポリオール(a1−2):プロピレングリコールにプロピレンオキサイド付加重合した平均水酸基価280mgKOH/gのポリエーテルポリオール(商品名:ハイフレックスD400、第一工業製薬(株)製)
ポリオール(a1−3):ソルビトールにプロピレンオキサイド付加重合した平均水酸基価550mgKOH/gのポリエーテルポリオール(商品名:エクセノール550SO、旭硝子(株)製)
ポリオール(a1−4):グリセリンにプロピレンオキサイド付加重合した平均水酸基価56mgKOH/gのポリエーテルポリオール(商品名:ハイフレックスG3000C、第一工業製薬(株)製)
【0062】
(ヒマシ油系ポリエステルポリオール(a2))
ポリオール(a2−1):ヒマシ油(商品名:ヒマシ油D、伊藤製油社製)
ポリオール(a2−2):官能基数1、平均水酸基価160のヒマシ油系ポリエステルポリオール(商品名:URIC H−31、伊藤製油社製)
ポリオール(a2−3):官能基数3、平均水酸基価200のヒマシ油系ポリエステルポリオール(商品名:URIC H−52、伊藤製油社製)
ポリオール(a2−4):官能基数3、平均水酸基価340のヒマシ油系ポリエステルポリオール(商品名:URIC H−81、伊藤製油社製)
ポリオール(a2−5):官能基数5、平均水酸基価320のヒマシ油系ポリエステルポリオール(商品名:URIC H−102、伊藤製油社製)
【0063】
(一級または二級アミノ基を有するアミン化合物(b1))
アミン化合物(b1−1):ジエチルトルエンジアミン(商品名:DETDA80、ロンザジャパン(株)製)
アミン化合物(b1−2):ジエタノールアミン((株)日本触媒製)
アミン化合物(b1−3):1,2−プロパンジアミン(和光純薬工業(株)製)
アミン化合物(b1−4):3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン(和光純薬工業(株)製)
アミン化合物(b1−5):ヘキサメチレンジアミン(ナカライテスク(株)製)
アミン化合物(b1−6):末端アミノ化ポリプロピレングリコール(商品名:ジェファーミンD−2000、ハンツマン社製)
【0064】
(3級アミノ基を有するアミン化合物(b2))
アミン化合物(b2−1):トリエタノールアミン((株)日本触媒製)
アミン化合物(b2−2):トリエチレンジアミン(商品名:TEDA−L33、東ソー(株)製)
【0065】
(水(c))
【0066】
(イソシアネート化合物)
イソシアネート化合物1:ポリメリックMDI(商品名:フォームライト200B、BASF INOACポリウレタン(株)製)
イソシアネート化合物2:ポリメリックMDI(商品名:フォームライト500B、BASF INOACポリウレタン(株)製)
【0067】
<A剤およびB剤の調製>
(A)成分からなる液をA剤、(B)成分からなる液をB剤とし、表1記載の配合に従い原料を適宜混合することにより、A剤およびB剤をそれぞれ調製した。
【0068】
(粘度)
A剤およびB剤について、JIS K−7117−1に準じ、BL型粘度計(東機産業社製)にて、25℃における粘度(mPa・Sec)を測定した。
【0069】
<硬化物の評価>
(ゲルタイム)
表1記載の配合に従い調製したA剤およびB剤を、表1に記載の混合比で、合計30gとなるように別々に調製した。A剤およびB剤の温度をいずれも20℃とした後、該A剤およびB剤をハンドミキシングにより混合し、ゲルタイム(硬化が進行し糸引きが始まる時間)を測定した。
【0070】
(発泡反応性・発泡倍率)
表1記載の配合に従い調製したA剤およびB剤を、表1に記載の混合比で、合計30gとなるように別々に調製した。該A剤およびB剤の温度をいずれも20℃とした後、該A剤およびB剤をハンドミキシングにより混合し、発泡開始時間および発泡終了時間を測定した。硬化反応終了後、硬化物の体積を、原料たるA剤およびB剤の最初の体積で除することにより、発泡倍率を算出した。
【0071】
(圧縮強度)
表1記載の配合に従い調製したA剤およびB剤を、表1に記載の混合比で、合計30gとなるように別々に調製した。該A剤およびB剤の温度をいずれも20℃とした後、該A剤およびB剤をハンドミキシングにより混合し硬化物を得た。該硬化物から、10mm×10mm×10mmの試験片を切り出し、JISA 9511に準拠して、インストロン万能試験機で測定した。
【0072】
<水中白濁試験>
表1記載の配合に従い調製したA剤およびB剤を、表1に記載の混合比で、合計30gとなるように別々に調製した。A剤およびB剤をいずれも20℃とした後、調整したA剤およびB剤を10秒間ハンドミキシングにより混合し、次いで、該混合物を速やかに300gの水を入れた容器に投入した。該容器に蓋をし、A剤およびB剤の混合開始から30秒後に、該容器全体を激しく上下に振とうし、10秒間継続した。発泡終了後、容器内から水を採取し、水の濁りを、目視および分光光度計(日立分光光度計U−3900H((株)日立ハイテクノロジーズ製)で測定した500nmにおける光の透過率(%))で測定した。透過率は50%以上であることが好ましい。
【0073】
結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
<実験例>
トンネルの天盤部に、42mmφビットのレッグオーガーを用いて削孔した、深さ3m、削孔角度90°の注入孔に、スタティックミキサーおよび逆止弁を内装した長さが3mであるロックボルトを挿入し、実施例1の処方を注入圧が急激に上昇した時点まで注入した。注入した薬液は1.5kg、2.5倍発泡、圧縮強度は15MPaであった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、発泡タイプでありながら、水質汚染が少なく、十分な強度、長期耐久性、十分な強度発現速度を有する、ロックボルト定着材用組成物、ロックボルト定着材およびそれを用いたロックボルト工法を提供することができる。