(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444083
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】浄水器用カートリッジおよび浄水器
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20060101AFI20181217BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
C02F1/42 A
C02F1/28 G
C02F1/28 D
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-149627(P2014-149627)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2016-22443(P2016-22443A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】横田 治雄
【審査官】
菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭48−027986(JP,A)
【文献】
特開平06−091260(JP,A)
【文献】
特開2001−215294(JP,A)
【文献】
特開平08−164387(JP,A)
【文献】
特開2011−174073(JP,A)
【文献】
特開2008−073686(JP,A)
【文献】
特開2004−082027(JP,A)
【文献】
国際公開第01/083377(WO,A1)
【文献】
実開昭63−043697(JP,U)
【文献】
特開昭61−141989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42
B01J 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋度が16〜24%の強酸性カチオン交換樹脂を単独で充填した浄水器用カートリッジであって、原水を通水した際の処理水中のホルムアルデヒド濃度が0.013mg/L以下に抑制されることを特徴とする浄水器用カートリッジ。
【請求項2】
通水方向において、活性炭と、強酸性カチオン交換樹脂とをこの順に配置した浄水器用カートリッジであって、該強酸性カチオン交換樹脂として架橋度が16〜24%の強酸性カチオン交換樹脂を単独で充填しており、原水を通水した際の処理水中のホルムアルデヒド濃度が0.013mg/L以下に抑制されることを特徴とする浄水器用カートリッジ。
【請求項3】
前記強酸性カチオン交換樹脂は、ポーラス型構造またはマクロポーラス型構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の浄水器用カートリッジ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の浄水器用カートリッジと、
前記浄水器用カートリッジを収容するハウジングと、
を備えたことを特徴とする浄水器。
【請求項5】
架橋度が16〜24%の強酸性カチオン交換樹脂を単独で充填した浄水器用カートリッジに原水を通水し、ホルムアルデヒド濃度が0.013mg/L以下に抑制された処理水を製造することを特徴とする処理水の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水器用カートリッジおよび浄水器に関する。
【背景技術】
【0002】
軟水の効能として、(a)お茶やコーヒーの味をまろやかにする、(b)調理器具等のスケール発生を防止する、(c)石鹸の泡立ちが良くなる、(d)グラス等容器へのウォーターマーク発生を抑制する、等がある。このため、従来から、軟化機能を有した浄水器が広く利用されている。このような浄水器としては、例えば、容器内にカチオン交換樹脂を充填した浄水器が利用されている。
【0003】
特許文献1(特開2014−100633号公報)には、筒状の容器内に低架橋度のNa型強酸性カチオン交換樹脂(アンバージェット(登録商標)1220)を充填した浄水器が開示されている(段落[0057])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−100633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
強酸性カチオン交換樹脂は水と接触することにより、少なからず不純物等に由来する成分の溶出が起こる。この溶出は強酸性カチオン交換樹脂と水との接触時間が長くなるほど増加する。特に、浄水器においては、水道水質基準項目として規定されているような人間の健康や生活環境に悪影響を与える物質の溶出は極力、防止する必要がある。
【0006】
浄水器に供給される水は基本的に水道水となるため、本発明者らは、水道水と強酸性カチオン交換樹脂が接触することによる強酸性カチオン交換樹脂からの溶出物について調査した。その結果、水道水中の残留塩素の有無にかかわらず、水道水と強酸性カチオン交換樹脂とが接触することにより、強酸性カチオン交換樹脂からホルムアルデヒドが溶出することを見出した。従って、ホルムアルデヒドの溶出は、残留塩素等による強酸性カチオン交換樹脂の酸化分解が原因ではないものと考えられる。
【0007】
また、一般的に、浄水器の使用方法は連続的ではなく、間欠使用となる。例えば、家庭での浄水器の使用では、深夜の睡眠時間帯は未使用状態となる。この未使用時間が長くなるほど、翌朝の開始直後の浄水器出口水の溶出物濃度は高くなり、ホルムアルデヒド濃度は高くなった。従って、一定時間、使用を停止した後の浄水器において、使用開始時の強酸性カチオン交換樹脂からのホルムアルデヒドの溶出を抑制する必要があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、一定時間、使用を停止した後に使用を開始した場合であっても、処理水(浄水器に通水後の水)へのホルムアルデヒドの溶出を抑制する浄水器用カートリッジ及び浄水器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態は、
架橋度が16〜24%の強酸性カチオン交換樹脂を
単独で充填した
浄水器用カートリッジであって、原水を通水した際の処理水中のホルムアルデヒド濃度が0.013mg/L以下に抑制されることを特徴とする浄水器用カートリッジおよび浄水器に関する。
また他の実施形態は、架橋度が16〜24%の強酸性カチオン交換樹脂を単独で充填した浄水器用カートリッジに原水を通水し、ホルムアルデヒド濃度が0.013mg/L以下に抑制された処理水を製造することを特徴とする処理水の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
一定時間、使用を停止した後に使用を開始した場合であっても、処理水へのホルムアルデヒドの溶出を抑制する浄水器用カートリッジおよび浄水器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一実施形態は、架橋度が16〜24%の強酸性カチオン交換樹脂を充填した浄水器用カートリッジに関するものである。他の実施形態は、通水方向において、活性炭と、強酸性カチオン交換樹脂とをこの順に配置した浄水器用カートリッジと、浄水器用カートリッジを収容するハウジングと、を備えた浄水器に関するものである。ホルムアルデヒドは強酸性カチオン交換樹脂の構造の一部が脱離、分解等により遊離、または反応することで処理水中に溶出するものと考えられる。そこで、強酸性カチオン交換樹脂の架橋度を16〜24%にすることで樹脂の構造の一部が脱離、分解、反応等を起こすことを抑制できる。この結果、ホルムアルデヒドが処理水(浄水器に通水後の水)中に溶出することを効果的に抑制できる。架橋度が16%未満では、強酸性カチオン交換樹脂の構造強度が不十分となり、ホルムアルデヒドの溶出が起こりやすくなる。一方、架橋度が24%を超えると、イオン交換速度が遅くなったり、強酸性カチオン交換樹脂の再生速度が遅くなったりする。
【0012】
強酸性カチオン交換樹脂の架橋度は、強酸性カチオン交換樹脂用の原料中の架橋剤の含量によって決定される。例えば、メタクリル系、アクリル系、またはスチレン系の強酸性カチオン交換樹脂の場合には、原料中の架橋剤であるジビニルベンゼンの含量によって架橋度が決定される。
【0013】
強酸性カチオン交換樹脂は、ゲル型構造、マクロポーラス型構造、およびポーラス型構造のうち、何れの構造を有することもできる。好ましくは、強酸性カチオン交換樹脂は、マクロポーラス型構造、またはポーラス型構造の構造を有するのが良い。
【0014】
なお、ゲル型構造と、マクロポーラス型構造およびポーラス型構造とは、下記の方法によって判別することができる。
【0015】
強酸性カチオン交換樹脂は塩形であってもH形であっても良い。塩形の強酸性カチオン交換樹脂の種類は特に限定されないが、例えば、Na形の
強酸性カチオン交換樹脂、K形の強酸性カチオン交換樹脂を挙げることができる。なお、強酸性カチオン交換樹脂に対応する溶液を通液することによって所望のH形、または塩形とすることができる(例えば、H形ではHCl水溶液、Na形ではNaOH水溶液、K形ではKOH水溶液を通液することができる)。
【0016】
強酸性カチオン交換樹脂の母体構造は特に限定されないが例えば、メタクリル系、アクリル系、またはスチレン系の強酸性カチオン交換樹脂とすることができる。
【0017】
強酸性カチオン交換樹脂は、架橋度が16〜24%のものであれば市販のものを使用することができる。ゲル型構造の強酸性カチオン交換樹脂としては、アンバージェット 1060,1600(Amberjet;登録商標)、ダイヤイオン SK116(Diaion;登録商標)、ピュロライト C100X16MBH(Purolite;登録商標)を挙げることができる。マクロポーラス型構造の強酸性カチオン交換樹脂としては、アンバーライト 200C、200CT(AMBERLITE;登録商標)、アンバーレックス 210(AMBEREX;登録商標)を挙げることができる。
【0018】
強酸性カチオン交換樹脂の前段(通水方向に対して上流側)に、活性炭を設け、活性炭と強酸性カチオン交換樹脂をこの順に配置した浄水器用カートリッジ、及びこれを備えた浄水器としても良い。この活性炭により、水中のカチオン成分以外の有機物、溶存酸素、残留塩素等を除去して、水の純度を更に向上させることができる。
【0019】
浄水器の形態は特に限定されないが例えば、ハウジングと、ハウジングの上部に設けられた原水入口と、ハウジングの下部に設けられた浄水出口とを有し、ハウジング内に浄水器用カートリッジが配置され、浄水器用カートリッジは原水入口と浄水出口に連通するものを挙げることができる。浄水器の種類としては特に限定されないが、例えば、ポット型、蛇口直結型、据え置き型、またはアンダーシンク型の浄水器を使用することができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0021】
[実施例1]
内径4.6cm、高さ100cmのアクリルカラム内に、架橋度が20%でマクロポーラス型構造を有するNa形の強酸性カチオン交換樹脂(商品名;アンバーライト(登録商標) 200CT(ダウ・ケミカル社製))を900ml、充填し、そのカートリッジ内に水温23℃の相模原市水をSV60BV/時間で15分間、通水を行った。その後、24時間、放置(23℃に調製した室内にて水浸漬状態)し、再び23℃の水道水をSV60BV/時間で1分間、通水し、その流出水(処理水)を採取し、ホルムアルデヒド濃度を分析した。なお、ホルムアルデヒド濃度は、JIS S 3200−7:2004 附属書9に従い、ホルムアルデヒドの溶媒抽出−ホルムアルデヒドの誘導体化−ガスクロマトグラフ質量分析を用いた方法により行った。
【0022】
[実施例2]
実施例1において、Na形強酸性カチオン交換樹脂を、架橋度16%でゲル型構造を有する強酸性カチオン交換樹脂(商品名;アンバージェット(登録商標) 1060(ダウ・ケミカル社製))に変更した。これ以外は実施例1と同様にして、通水を行いホルムアルデヒド濃度を測定した。
【0023】
[実施例3]
浄水器への供給水を、残留塩素および溶存酸素を除去した相模原市水に変更した以外は実施例1と同様にして、通水を行いホルムアルデヒド濃度を測定した。なお、残留塩素については活性炭、溶存酸素については脱気膜で除去した。
【0024】
[実施例4]
浄水器への供給水を、残留塩素および溶存酸素を除去した相模原市水に変更した以外は実施例2と同様にして、通水を行いホルムアルデヒド濃度を測定した。なお、残留塩素および溶存酸素の除去は実施例3と同様に行った。
【0025】
[比較例1]
実施例1において、使用するNa形の強酸性カチオン交換樹脂を、架橋度が8%でゲル型構造を有する強酸性カチオン交換樹脂(アンバージェット(登録商標) 1220;ダウ・ケミカル社製)に変更した。これ以外は実施例1と同様にして、通水を行いホルムアルデヒド濃度を測定した。
【0026】
[比較例2]
実施例3において、使用するNa形の強酸性カチオン交換樹脂を、架橋度が8%でゲル型構造を有する強酸性カチオン交換樹脂(アンバージェット(登録商標) 1220;ダウ・ケミカル社製)に変更した。これ以外は実施例3と同様にして、通水を行いホルムアルデヒド濃度を測定した。
【0027】
[比較例3]
実施例1において、使用するNa形の強酸性カチオン交換樹脂を、架橋度が12%でゲル型構造を有する強酸性カチオン交換樹脂(アンバージェット(登録商標) 1024;ダウ・ケミカル社製)に変更した。これ以外は実施例1と同様にして、通水を行いホルムアルデヒド濃度を測定した。
【0028】
(結果)
実施例1〜4および比較例1〜3における、使用した強酸性カチオン交換樹脂の種類を表1、浄水器に通水後の処理水中のホルムアルデヒド濃度を表2に示す。なお、浄水器に通水前の供給水中のホルムアルデヒド濃度は、相模原市水、ならびに残留塩素および溶存酸素を除去した相模原市水とも、0.005mg/L未満であった。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
表2の結果より、何れの実施例および比較例でも、供給水(相模原市水、ならびに残留塩素および溶存酸素を除去した相模原市水)と比較して、処理水中のホルムアルデヒド濃度は増加することが分かる。しかしながら、何れの実施例も処理水中のホルムアルデヒド濃度は、比較例における処理水中のホルムアルデヒド濃度よりも低い値を示した。発明者の事前の調査から、強酸性カチオン交換樹脂の水中への浸漬時間が増加するにつれて処理水中のホルムアルデヒド濃度は増加したことから、上記のように実施例における処理水中のホルムアルデヒド濃度が低減されたのは、強酸性カチオン交換樹脂から処理水中へのホルムアルデヒドの溶出が抑制されたためと考えられる。また、実施例3および4、ならびに比較例2では、供給水として残留塩素および溶存酸素を除去した相模原市水を使用したにもかかわらず、処理水中にはホルムアルデヒドが溶出していることから、ホルムアルデヒドは、塩素や溶存酸素等による強酸性カチオン交換樹脂の酸化劣化とは異なるメカニズムにより処理水中に溶出しているものと考えられる。