特許第6444091号(P6444091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444091
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】流体静力学式のアキシャルピストン機械
(51)【国際特許分類】
   F04B 1/24 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   F04B1/24
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-159596(P2014-159596)
(22)【出願日】2014年8月5日
(65)【公開番号】特開2015-31292(P2015-31292A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2017年5月9日
(31)【優先権主張番号】10 2013 108 407.9
(32)【優先日】2013年8月5日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】513139909
【氏名又は名称】リンデ ハイドロリックス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Linde Hydraulics GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ベルクマン
【審査官】 冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第19829060(DE,A1)
【文献】 特開昭49−062833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体静力学式のアキシャルピストン機械(1)であって、該アキシャルピストン機械(1)が、ハウジング(2)と、該ハウジング(2)内に、少なくとも1つの転がり軸受け(5a;5b)を有する軸受け装置(5)により回転可能に支持された駆動軸(4)と、シリンダブロック(7)とを備えており、該シリンダブロック(7)が、少なくとも1つのピストン孔(8)を備えており、該ピストン孔(8)内にそれぞれ1つのピストン(10)が長手方向摺動可能に配置されている、流体静力学式のアキシャルピストン機械において、
転がり軸受け(5a;5b)に対してジェット潤滑機構(50)が設けられており、該ジェット潤滑機構(50)が、少なくとも1つの潤滑媒体噴流(51a;51b)を形成しており、該潤滑媒体噴流(51a,51b)が、転がり軸受け(5a;5b)の内輪(5c;5d)の、転がり軸受け(5a;5b)の転動体の一方の端面が接触する軸方向つば(30;32)の領域に向けられており、ジェット潤滑機構(50)が、回転するシリンダブロック(7)の側の転がり軸受け(5a)の、回転するシリンダブロック(7)の側の軸方向つば(30)に対して配置されていて、該軸方向つば(30)の領域に潤滑媒体噴流(51a,51b)が向けられていることを特徴とする、流体静力学式のアキシャルピストン機械。
【請求項2】
ジェット潤滑機構(50)が、転がり軸受け(5a;5b)の内輪(5c;5d)の全周にわたって、転がり軸受け(5a;5b)の内輪(5c;5d)の軸方向つば(30;32)に向けられた複数の潤滑媒体噴流(51a,51b)を形成している、請求項記載の流体静力学式のアキシャルピストン機械。
【請求項3】
潤滑媒体噴流(51a,51b)が、全周にわたって均一に分配されている、請求項記載の流体静力学式のアキシャルピストン機械。
【請求項4】
潤滑媒体噴流(51a,51b)が、全周にわたって不均一に分配されている、請求項記載の流体静力学式のアキシャルピストン機械。
【請求項5】
潤滑媒体噴流(51a;51b)を発生させるために、転がり軸受け(5a;5b)の内輪(5c;5d)の軸方向つば(30;32)に向けられた、ハウジング(2)の潤滑媒体供給ポート(40)に接続された孔(55a;55b)が設けられている、請求項1からまでのいずれか1項記載の流体静力学式のアキシャルピストン機械。
【請求項6】
孔(55a;55b)が、円形の横断面を有している、請求項記載の流体静力学式のアキシャルピストン機械。
【請求項7】
孔(55a;55b)が、円形と異なる横断面、特に周方向に配置された長孔状の横断面を有している、請求項記載の流体静力学式のアキシャルピストン機械。
【請求項8】
孔(55a;55b)が、ハウジング(2)内に配置された環状ブシュ(60)に配置されており、該環状ブシュ(60)が、ハウジング(2)の潤滑媒体供給ポート(40)への孔(55a;55b)の接続を環状通路(61)を介して可能にしている、請求項からまでのいずれか1項記載の流体静力学式のアキシャルピストン機械。
【請求項9】
軸受け装置(5)が、該軸受け装置(5)を通じて延びる潤滑媒体通路(41,42,43,44,45,46,47)を備えている、請求項1からまでのいずれか1項記載の流体静力学式のアキシャルピストン機械。
【請求項10】
潤滑媒体通路(41,42,43,44,45,46,47)が、ハウジング(2)の潤滑媒体供給ポート(40)に接続されている、請求項記載の流体静力学式のアキシャルピストン機械。
【請求項11】
アキシャルピストン機械(1)が、斜板機械として形成されている、請求項1から10までのいずれか1項記載の流体静力学式のアキシャルピストン機械。
【請求項12】
アキシャルピストン機械(1)が、斜軸機械として形成されている、請求項1から10までのいずれか1項記載の流体静力学式のアキシャルピストン機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体静力学式のアキシャルピストン機械であって、該アキシャルピストン機械が、ハウジングと、該ハウジング内に、少なくとも1つの転がり軸受けを有する軸受け装置により回転可能に支持された駆動軸と、シリンダブロックとを備えており、該シリンダブロックが、少なくとも1つのピストン孔を備えており、該ピストン孔内にそれぞれ1つのピストンが長手方向摺動可能に配置されている、流体静力学式のアキシャルピストン機械に関する。
【背景技術】
【0002】
流体静力学式のアキシャルピストン機械では、通常、冷却および潤滑を確保するために、回転する駆動軸と、回転するシリンダブロックとが内部に配置されたハウジングが、圧力媒体、たとえば作動油で満たされている。したがって、駆動軸とシリンダブロックとが回転するアキシャルピストン機械の運転中、回転数の増加に伴い、撹拌損失が過剰に増大してしまう。この撹拌損失は付加的なエネルギ消費分を成している。このエネルギ消費分は、アキシャルピストン機械がポンプとして形成されている場合には、駆動装置によって、望ましくない損失出力として提供されなければならず、また、アキシャルピストン機械がモータとして形成されている場合には、被駆動出力として利用されない。特に回転する構成部材の回転数が高くなると、損失出力がかなりの量を占めてしまう。これによって、アキシャルピストン機械の場合には、高い回転数に対して、能力および使用可能性が制限されていて、限定されている。
【0003】
この欠点を回避するために、すでに、流体静力学式のアキシャルピストン機械のハウジングから圧力媒体を排出する、つまり、ハウジングを空にして、回転する構成部材の撹拌により生じる損失を減少させ、回転数がより高い場合のアキシャルピストン機械の効率を高めることが公知である。
【0004】
しかしながら、ハウジングから油が排出された状態の流体静力学式のアキシャルピストン機械では、駆動軸の軸受け装置の転がり軸受けの十分な潤滑および冷却が懸念される。流体静力学式のアキシャルピストン機械の駆動軸の転がり軸受けの十分な潤滑を確保するために、すでに、独国特許第4128615号明細書および独国特許第19829060号明細書に基づき、潤滑媒体により通流されていて、駆動軸の軸受け装置の全ての転がり軸受けを通じて案内されている潤滑媒体通路を設けることが公知である。
【0005】
転がり軸受けを通じて案内されたこのような潤滑媒体通路において、転がり軸受けのむらのない潤滑を確保するために、独国特許第19829060号明細書では、シリンダブロックの側の転がり軸受けに対して、潤滑媒体を潤滑媒体通路内で堰き止める停滞装置が設けられている。このために、独国特許第19829060号明細書では、停滞装置が、軸受け装置の転がり軸受けの下流側で潤滑媒体通路内に配置されている。これによって、シリンダブロックの側の転がり軸受けと、この転がり軸受けの内輪に配置されていて、この転がり軸受けの転動体の端面が接触する軸方向つばとが、すでに軸受け装置の両転がり軸受けの廃熱により温められた潤滑媒体で潤滑され、冷却される。それ故、シリンダブロックの側の転がり軸受けに設けられた軸方向つばの十分な潤滑および冷却は確保されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許第4128615号明細書
【特許文献2】独国特許第19829060号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ハウジングから圧力媒体が排出された状態の冒頭で述べたアキシャルピストン機械を改良して、転がり軸受けにおいて、この転がり軸受けの転動体の端面に対する転がり軸受けの内輪の軸方向つばの領域での改善された潤滑および冷却が達成されるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械では、転がり軸受けに対してジェット潤滑機構が設けられており、該ジェット潤滑機構が、少なくとも1つの潤滑媒体噴流を有しており、該潤滑媒体噴流が、転がり軸受けの内輪の、転がり軸受けの転動体の一方の端面が接触する軸方向つばの領域に向けられている。
【0009】
本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械の好ましい態様では、ジェット潤滑機構が、転がり軸受けの、回転するシリンダブロックの側の軸方向つばに対して配置されている。
【0010】
本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械の好ましい態様では、ジェット潤滑機構が、転がり軸受けの内輪の全周にわたって、転がり軸受けの内輪の軸方向つばに向けられた複数の潤滑媒体噴流を有している。
【0011】
本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械の好ましい態様では、潤滑媒体噴流が、全周にわたって均一に分配されている。
【0012】
本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械の好ましい態様では、潤滑媒体噴流が、全周にわたって不均一に分配されている。
【0013】
本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械の好ましい態様では、潤滑媒体噴流を発生させるために、転がり軸受けの内輪の軸方向つばに向けられた、ハウジングの潤滑媒体供給ポートに接続された孔が設けられている。
【0014】
本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械の好ましい態様では、孔が、円形の横断面を有している。
【0015】
本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械の好ましい態様では、孔が、円形と異なる横断面、特に周方向に配置された長孔状の横断面を有している。
【0016】
本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械の好ましい態様では、孔が、ハウジング内に配置された環状ブシュに配置されており、該環状ブシュが、ハウジングの潤滑媒体供給ポートへの孔の接続を環状通路を介して可能にしている。
【0017】
本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械の好ましい態様では、軸受け装置が、該軸受け装置を通じて延びる潤滑媒体通路を備えている。
【0018】
本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械の好ましい態様では、潤滑媒体通路が、ハウジングの潤滑媒体供給ポートに接続されている。
【0019】
本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械の好ましい態様では、アキシャルピストン機械が、斜板機械として形成されている。
【0020】
本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械の好ましい態様では、アキシャルピストン機械が、斜軸機械として形成されている。
【発明の効果】
【0021】
アキシャルピストン機械の駆動軸の転がり軸受けでは、特にこの転がり軸受けの内輪に設けられた、転動体の端面が接触する軸方向つばの領域が、潤滑および摩擦に関して問題となる。なぜならば、転がり軸受けの内輪に設けられた軸方向つばと、転がり軸受けの端面との間に、高い摩擦が生じるからである。転がり軸受けの内輪の軸方向つばの領域と、転動体の、軸方向つばに接触する端面とに意図的に向けられた少なくとも1つの潤滑媒体噴流を有するジェット潤滑機構によって、転がり軸受けの内輪に設けられた、トライボロジ的に高い荷重が加えられる軸方向つばを、この箇所に意図的に向けられた潤滑媒体噴流によって確実にかつ有効に潤滑することができると同時に冷却することができる。したがって、ハウジングから圧力媒体が排出された状態のアキシャルピストン機械において、駆動軸の転がり軸受けの内輪の、トライボロジ的に高い荷重が加えられる軸方向つばに対する十分な潤滑および冷却を簡単に確保することができる。
【0022】
本発明の1つの態様によれば、特別な利点は、ジェット潤滑機構が、転がり軸受けの、回転するシリンダブロックの側の軸方向つばに対して配置されている場合に得られる。アキシャルピストン機械では、特に転がり軸受けの、シリンダブロックの側の軸方向つばに、アキシャルピストン機械の受け止めるべきスラスト力に基づき、高い力が生じる。ジェット潤滑機構によって、アキシャルピストン機械のスラスト荷重を受け止める転がり軸受けのこの箇所に対して少ない構造手間で十分な潤滑および冷却を確保することができる。
【0023】
本発明の1つの改良態様によれば、特別な利点は、ジェット潤滑機構が、転がり軸受けの内輪の全周にわたって、転がり軸受けの内輪の軸方向つばに向けられた複数の潤滑媒体噴流を有している場合に得られる。これによって、少ない構造手間で転がり軸受けの軸方向つばの全周にわたって十分な潤滑および冷却を保証することができる。
【0024】
本発明の1つの有利な態様によれば、複数の潤滑媒体噴流が、全周にわたって均一に分配されていてよい。したがって、全周にわたって見て、個々の潤滑媒体噴流の分配が等しい角度で行われる。
【0025】
本発明の1つの択一的な特に有利な態様によれば、複数の潤滑媒体噴流が、全周にわたって不均一に分配されている。したがって、全周にわたって見て、個々の潤滑媒体噴流の分配がそれぞれ異なる角度で行われる。これによって、ジェット潤滑を転がり軸受けに加えられる荷重に適合させることが可能となる。より高い荷重が加えられる角度範囲内では、潤滑媒体噴流を互いに近づけて配置することができ、より少ない荷重が加えられる範囲内では、個々の潤滑媒体噴流を互いに十分に遠ざけて配置することができる。
【0026】
本発明の1つの改良態様によれば、特別な利点は、潤滑媒体噴流を発生させるために、転がり軸受けの内輪の軸方向つばに向けられた、ハウジングの潤滑媒体供給ポートに接続された孔が設けられている場合に得られる。このような孔によって、転がり軸受けの内輪の軸方向つばひいては転がり軸受けの転動体の端面と、転がり軸受けの内輪の軸方向つばとの間の、トライボロジ的に高い荷重が加えられる箇所に意図的に向けられた、潤滑および冷却のための潤滑媒体噴流を発生させることができる。ハウジングの潤滑媒体供給ポートへの孔の直接的な接続によって、この孔を介して、低温の潤滑媒体を含んだ潤滑媒体噴流を潤滑媒体供給ポートから転がり軸受けの内輪の軸方向つばに向けることが可能となる。これによって、転がり軸受けの転動体の端面と、内輪に設けられた軸方向つばとの間の、トライボロジ的に高い荷重が加えられる箇所の領域において転がり軸受けの効率のよい冷却および潤滑が少ない潤滑媒体量で達成される。
【0027】
本発明の1つの好適な態様によれば、孔が、円形の横断面を有していてよい。円形の横断面は、主として、円形の横断面を有する相応の潤滑媒体噴流を発生させる。
【0028】
本発明の1つの択一的な態様によれば、孔が、円形と異なる横断面、特に周方向に配置された長孔状の横断面を有している。円形と異なる横断面、たとえば周方向に位置決めされた長孔状のまたはキドニ状(繭形)の孔横断面によって、内輪の軸方向つばに対して、拡大された角度範囲を有する扇形の横断面を有する潤滑媒体噴流を発生させることができる。これによって、転がり軸受けの内輪に設けられた軸方向つばの効果的な冷却および潤滑に関する利点を得ることができる。
【0029】
ジェット潤滑機構に対する少ない構造手間に関して、本発明の1つの態様によれば、孔が、ハウジング内に配置された環状ブシュに配置されており、この環状ブシュが、ハウジングの潤滑媒体供給ポートへの孔の接続を環状通路を介して可能にしている場合に利点が得られる。環状ブシュには、ジェット潤滑機構のための孔を簡単にかつ廉価に製作することができる。環状通路を介して、環状ブシュの個々の孔を潤滑媒体供給ポートに簡単に接続することができ、この潤滑媒体供給ポートに提供された潤滑媒体を、環状ブシュに設けられた個々の孔に分配することができる。
【0030】
本発明の1つの好適な態様によれば、軸受け装置が、この軸受け装置を通じて延びる潤滑媒体通路を備えている。好適には、軸受け装置を通じて延びる潤滑媒体通路を備えた軸受け装置の潤滑機構が、軸受け装置の基本潤滑機構として形成されている。回転数が高い場合には、このような潤滑機構によって、主として、転がり軸受けの外輪が潤滑媒体で湿潤される。したがって、転がり軸受けの内輪の軸方向つばに対する本発明におけるジェット潤滑機構に相俟って、転がり軸受けの内輪の軸方向つばにおける潤滑不足を確実に回避することができる。
【0031】
好ましくは、潤滑媒体通路が、ハウジングの潤滑媒体供給ポートに接続されている。
【0032】
本発明に係るアキシャルピストン機械は、斜板機械として形成されていてよい。
【0033】
択一的には、アキシャルピストン機械が、斜軸機械として形成されていてよい。斜軸構造型のアキシャルピストン機械では、駆動軸の転がり軸受けに、加圧されたピストンに基づく高いスラスト力によって高い荷重が加えられている。斜軸構造型のアキシャルピストン機械では、特にシリンダブロックに面していて、このシリンダブロックに向けられた、加圧されたピストンに基づき高いスラスト力を受け止めかつスラスト荷重を支持する転がり軸受けに、高い荷重が加えられている。シリンダブロックの側の転がり軸受けの内輪の、シリンダブロックの側の軸方向つばに対する本発明におけるジェット潤滑機構によって、駆動軸の転がり軸受け装置の、最も高い負荷がかけられる箇所の意図的な潤滑および冷却を達成することができる。
【0034】
本発明の更なる利点および詳細は、概略図に示した実施の形態に基づき詳しく説明してある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明に係るアキシャルピストン機械の縦断面図である。
図2図1の一部の拡大図である。
図3図1および図2の一部の別の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に、本発明を実施するための形態を図面につき詳しく説明する。
【0037】
図1図3には、斜軸構造型の本発明に係る流体静力学式のアキシャルピストン機械1が縦断面図で示してある。このアキシャルピストン機械1はハウジング2を有している。このハウジング2内には、駆動フランジ3を備えた駆動軸4が、軸受け装置5によって回転軸線6を中心として回転可能に支持されている。
【0038】
駆動フランジ3に軸方向で隣り合って、シリンダブロック7が配置されている。このシリンダブロック7は、その回転軸線8に対して同心的に配置された、つまり、その回転軸線8に対して同心的な1つの円上に配置された複数のピストン孔9を備えている。これらのピストン孔9内には、それぞれ1つのピストン10が長手方向摺動可能に配置されている。
【0039】
このピストン10は、それぞれ駆動フランジ3にコネクティングロッド11によって結合されている。このコネクティングロッド11は、ピストン10にも、駆動フランジ3にも、それぞれボールジョイントによって揺動可能に支持されている。シリンダブロック7は、駆動フランジ3にボールジョイントにより揺動可能に結合された支持ピン12に支持されている。この支持ピン12には、さらに、シリンダブロック7を、制御面16を備えた制御体17に押し付けるばね18が支持されている。支持ピン12は、シリンダブロック7の回転軸線8に対して同心的に配置されている。
【0040】
制御体17の制御面16には、ピストン孔9とピストン10とにより形成された押退け室に対する圧力媒体の供給および導出を制御するために、詳しく図示していないキドニ状(繭形)の複数の制御孔が形成されている。これらの制御孔は、アキシャルピストン機械1の流入ポート19と流出ポートとを成している。ピストン孔9とピストン10とにより形成された押退け室を、制御体17に配置された制御孔に接続するために、シリンダブロック7は各ピストン孔9に対応して制御開口20を備えている。
【0041】
図1図3に示したアキシャルピストン機械1は、押退け容積可変の調節機械として形成されている。この調節機械では、押退け容積を変えるために、駆動軸4の回転軸線6に対するシリンダブロック7の回転軸線8の傾角が調節可能となる。このためには、制御面16を備えた制御体17が、ハウジング2内に揺動軸線Sを中心として揺動可能に配置された揺動体21に形成されている。この揺動体21ひいてはシリンダブロック7の揺動軸線Sは、駆動軸4の回転軸線6とシリンダブロック7の回転軸線8との交点Sに位置していて、両回転軸線6,8に対して垂直に延びている。
【0042】
揺動体21ひいてはシリンダブロック7の傾きを調節するためには、揺動体21に作用結合されたサーボピストン22により形成された作動装置が設けられている。このためには、サーボピストン22が、揺動体21に揺動可能に結合された結合ピン23を備えている。
【0043】
図1図3では、駆動フランジ3を備えた駆動軸4が、軸受け装置5によってハウジング2内に片持ち式に支持されている。軸受け装置5は、2つの転がり軸受け5a,5bを有している。両転がり軸受け5a,5bは、軸方向において、駆動フランジ3と、駆動軸4の、ハウジング2を越えて突出した軸端との間に配置されている。駆動軸4は、ハウジング2を越えて突出した軸端にトルク伝達手段25、たとえばスプライン歯列を備えている。転がり軸受け5aは、シリンダブロック7の側に配置されている。転がり軸受け5bは、駆動軸4の、ハウジング2を越えて突出した軸端の側に配置されている。
【0044】
転がり軸受け5a,5bは、それぞれ円錐ころ軸受けとして形成されている。この円錐ころ軸受けは、駆動軸側の内輪5c,5dと、ハウジング側の外輪5e,5fと、各々の内輪5c,5dと外輪5e,5fとの間に配置された円錐ころの形の転動体W1,W2とから成っている。
【0045】
転がり軸受け5a,5bは、その転動体W1,W2が駆動軸4の回転軸線6に対して内向きもしくは外向きに傾けられた、いわゆる「背面組合せ」で配置されている。
【0046】
シリンダブロック側の転がり軸受け5aの内輪5cは、シリンダブロック7の側の軸方向つば30を有している。この軸方向つば30には、転がり軸受け5aの転動体W1が一方の端面31で支持されている。
【0047】
軸端側の転がり軸受け5bの内輪5dは、駆動軸4の軸端の側の軸方向つば32を有している。この軸方向つば32には、転がり軸受け5bの転動体W2が一方の端面33で支持されている。
【0048】
本発明に係るアキシャルピストン機械1では、このアキシャルピストン機械1の運転中の回転する構成部材の撹拌損失を回避するために、ハウジング2から圧力媒体、たとえば作動油が排出されている、つまり、ハウジング2が空にされている。駆動軸4の、両転がり軸受け5a,5bにより形成された軸受け装置5を潤滑しかつ冷却するためには、この軸受け装置5に対して基本潤滑機構が設けられている。この基本潤滑機構は、軸受け装置5を通じて延びる潤滑媒体通路によって形成されている。この潤滑媒体通路は、ハウジング2に設けられた潤滑媒体供給ポート40から両転がり軸受け5a,5bの間の環状室42に案内された通路41と、転がり軸受け5bの鉛直下側の領域に設けられた戻し通路44を介して環状室42に接続された軸端側の環状室43と、転がり軸受け5aと駆動フランジ3とハウジング2との間に設けられたシリンダブロック側の環状室45と、この環状室45をハウジング内室46に接続する流出開口47と、ハウジング2に設けられた潤滑媒体出口(図1図3には図示せず)とによって形成されている。この潤滑媒体出口は、好適には、ハウジング2の鉛直方向で最深の箇所に配置されている。
【0049】
潤滑媒体供給ポート40に通路41を介して接続された中間の環状室42から、潤滑媒体、たとえば潤滑油は、転がり軸受け5bの転動体W2と戻し通路44とを介して環状室42に戻される。これによって、潤滑媒体通路が転がり軸受け5bを通じて案内されている。環状室42から、潤滑媒体は、同じく転がり軸受け5aの転動体W1を介して環状室45内に流れ込み、流出開口47を介してハウジング内室46ひいては潤滑媒体出口に流れる。これによって、潤滑媒体通路が転がり軸受け5aを通じて案内されている。潤滑媒体通路41〜47内での潤滑媒体の流れ方向は、図面に流れ矢印で明示してある。アキシャルピストン機械1の回転数が高い場合には、主として、遠心力の発生に基づき、基本潤滑機構と、軸受け装置5を通じて延びる潤滑媒体通路とによって、転がり軸受け5a,5bの外輪5e,5fが潤滑媒体で湿潤される。転がり軸受け5a,5bの内輪5c,5dの軸方向つば30,32では、潤滑不足が生じてしまう。
【0050】
図1図3に示した斜軸構造型のアキシャルピストン機械1では、加圧されたピストン10に基づき生じる、コネクティングロッド11を介して駆動フランジ3に伝達されるスラスト力が、スラスト荷重を支持するシリンダブロック側の転がり軸受け5aによって主に受け止められる。スラスト荷重は、主として、傾けられて配置された転動体W1によって支持される。転動体が円錐ころとして形成されている場合に転動体W1の円錐形状に基づき生じる力成分は、転がり軸受け5aの内輪5cに設けられた、シリンダブロック7の側の軸方向つば30において支持される。内輪5cに設けられた軸方向つば30と、転がり軸受け5aの転動体W1の端面31との間には、高い摩擦が生じる。これによって、転がり軸受け5aの内輪5cに設けられた軸方向つば30にトライボロジ的に高い荷重が加えられており、この軸方向つば30が、軸受け装置5の、最も高い負荷がかけられる箇所を成している。潤滑媒体不足の際には、軸方向つば30において支持される力成分の大きさが問題となる。
【0051】
この箇所において有効な潤滑および冷却を確保するために、軸受け装置5を通じて延びる潤滑媒体通路41〜47による基本潤滑機構に対して付加的に、転がり軸受け5aに対してジェット潤滑機構50が設けられている。このジェット潤滑機構50は、特に図2および図3に明示したように、目標に向けられた少なくとも1つの潤滑媒体噴流51a,51bを有している。この潤滑媒体噴流51a,51bは、転がり軸受け5aの内輪5cの、転がり軸受け5aの転動体W1の端面31が接触する軸方向つば30ひいては転動体W1の端面31と、転がり軸受け5aの内輪5cに設けられた、シリンダブロック7の側の軸方向つば30との間の、トライボロジ的に高い荷重が加えられる箇所に意図的に向けられている。
【0052】
好適には、ジェット潤滑機構50が、軸方向つば30の全周にわたって分配されて配置された複数の潤滑媒体噴流51a,51bを有しており、これによって、軸方向つば30の十分な潤滑および冷却が確保される。図1図3には、図示の切断平面内に位置する2つの潤滑媒体噴流51a,51bだけが示してある。当然ながら、さらに別の潤滑媒体噴流が設けられていてよい。この場合、全周にわたる潤滑媒体噴流51a,51bの分配は、等しい角度で行うことができる。択一的に、軸方向つば30に生じる荷重がより高い角度範囲内では、潤滑媒体噴流51a,51bを周方向において互いに近づけて配置し、軸方向つば30に生じる荷重がより少ない角度範囲内では、潤滑媒体噴流51a,51bを周方向において互いに遠ざけて配置することが可能である。
【0053】
個々の潤滑媒体噴流51a,51bを発生させるためには、ハウジング2内に、潤滑媒体で加圧されるそれぞれ1つの孔55a,55bが配置されている。この孔55a,55bは傾けられていて、ひいては、駆動軸4の回転軸線6に対して斜めに配置されている。孔55a,55bは、転がり軸受け5aの内輪5cに設けられた軸方向つば30に向けて傾けられていて、転動体W1の端面31と、内輪5cに設けられた軸方向つば30との間の箇所に方向設定されている。したがって、各孔55a,55bから流出した潤滑媒体噴流51a,51bが、ハウジング側の孔55a,55bから半径方向内向きで軸方向つば30に向けられている。これによって、転動体W1の端面31と、内輪5cに設けられた軸方向つば30との間の意図的な潤滑および冷却と、この箇所への、個々の潤滑媒体噴流51a,51bによる潤滑媒体の十分な供給とが行われる。
【0054】
孔55a,55bは潤滑媒体入口40に接続されている。ジェット潤滑機構50の孔55a,55bは、基本潤滑機構の、軸受け装置5を通じて延びる潤滑媒体通路41〜47に対して並列接続されて潤滑媒体供給ポート40に接続されており、これによって、冷却された潤滑媒体、たとえば潤滑油が、容器から孔55a,55bを介して軸方向つば30に吹き付けられる。
【0055】
孔55a,55bは、ハウジング2内に固定された環状ブシュ60に配置されている。潤滑媒体入口40への孔55a,55bの接続と、個々の孔55a,55bへの潤滑媒体の分配とは、潤滑媒体供給ポート40に接続された環状通路61によって行われる。この環状通路61は、図示の実施の形態では、ハウジング2内に形成されている。当然ながら、択一的には、環状通路61が環状ブシュ60の外周面に形成されてよい。
【0056】
環状ブシュ60は駆動フランジ3の領域(近傍)に配置されている。環状ブシュ60の内径と駆動フランジ3の外径との間には、環状ギャップが形成されている。この環状ギャップは、軸受け装置5を通じて延びる潤滑媒体通路41〜47の流出開口47を成している。
【0057】
孔55a,55bは、円形の横断面を有していてよい。この場合には、孔55a,55bによって、ほぼ円形の横断面を有する潤滑媒体噴流51a,51bが発生させられる。
【0058】
択一的に、拡大された角度範囲の潤滑媒体を軸方向つば30に吹き付ける扇形に拡げられた横断面を有する潤滑媒体噴流51a,51bを得るためには、孔55a,55bが、円形と異なる横断面、たとえば周方向において長孔状のもしくはキドニ状(繭形)の横断面を有していてよい。
【0059】
本発明に係るアキシャルピストン機械1は一連の利点を有している。転動体W1の端面31と転がり軸受け5aの軸方向つば30との間の箇所に向けられた潤滑媒体噴流51a,51bを有するジェット潤滑機構50によって、転がり軸受け5aへの潤滑媒体の十分な供給と、両転がり軸受け5a,5bから形成された軸受け装置5の、最も高い荷重が加えられる箇所の意図的な潤滑とが可能になる。これによって、ハウジング2から圧力媒体を排出させた状態でのアキシャルピストン機械1の運転が可能となり、したがって、回転するシリンダブロック7の撹拌損失が回避される。さらに、転がり軸受け5aの軸方向つば30に対するジェット潤滑機構50によって、軸受け装置5を通じて延びる潤滑媒体通路41〜47にわたる潤滑媒体体積流量を減少させることができる。これによって、転がり軸受け5a,5bの撹拌損失を減少させることができる。
【0060】
本発明は、図示の実施の形態に限定されるものではない。シリンダブロック7の側の転がり軸受け5aの、シリンダブロック7の側の軸方向つば30に対するジェット潤滑機構50に対して択一的または付加的に、駆動軸4の、ハウジング2を越えて突出した軸端の側の転がり軸受け5bの軸方向つば32に対するジェット潤滑機構50が設けられてもよい。
【0061】
本発明に係るアキシャルピストン機械1は、ポンプまたはモータとして形成されていてよい。
【0062】
調節機械としての実施の形態に対して択一的に、アキシャルピストン機械1は、押退け容積不変の定量機械として形成されていてもよい。
【0063】
さらに、斜板構造型のアキシャルピストン機械において、本発明におけるジェット潤滑機構50によって、ハウジングから圧力媒体が排出された状態で、駆動軸とシリンダドラムとをハウジング内に支持する転がり軸受けの軸方向つばの効果的なかつ有効な冷却ならびに潤滑を達成することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 アキシャルピストン機械
2 ハウジング
3 駆動フランジ
4 駆動軸
5 軸受け装置
5a,5b 転がり軸受け
5c,5d 内輪
5e,5f 外輪
6 回転軸線
7 シリンダブロック
8 回転軸線
9 ピストン孔
10 ピストン
11 コネクティングロッド
12 支持ピン
16 制御面
17 制御体
18 ばね
19 流入ポート
20 制御開口
21 揺動体
22 サーボピストン
23 結合ピン
25 トルク伝達手段
30 軸方向つば
31 端面
32 軸方向つば
33 端面
40 潤滑媒体供給ポート
41 通路
42 環状室
43 環状室
44 戻し通路
45 環状室
46 ハウジング内室
47 流出開口
50 ジェット潤滑機構
51a,51b 潤滑媒体噴流
55a,55b 孔
60 環状ブシュ
61 環状通路
S 揺動軸線
W1,W2 転動体
図1
図2
図3