特許第6444093号(P6444093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東日本旅客鉄道株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6444093-故障点標定システム 図000009
  • 特許6444093-故障点標定システム 図000010
  • 特許6444093-故障点標定システム 図000011
  • 特許6444093-故障点標定システム 図000012
  • 特許6444093-故障点標定システム 図000013
  • 特許6444093-故障点標定システム 図000014
  • 特許6444093-故障点標定システム 図000015
  • 特許6444093-故障点標定システム 図000016
  • 特許6444093-故障点標定システム 図000017
  • 特許6444093-故障点標定システム 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444093
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】故障点標定システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/08 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   G01R31/08
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-160930(P2014-160930)
(22)【出願日】2014年8月7日
(65)【公開番号】特開2016-38266(P2016-38266A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩志
(72)【発明者】
【氏名】松本 晃
【審査官】 吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−319082(JP,A)
【文献】 特開昭63−215972(JP,A)
【文献】 特開2000−227453(JP,A)
【文献】 特開昭57−153270(JP,A)
【文献】 特開平2−16465(JP,A)
【文献】 特開平8−196033(JP,A)
【文献】 特開平10−38954(JP,A)
【文献】 特開2006−234461(JP,A)
【文献】 特開2001−041995(JP,A)
【文献】 米国特許第6453248(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0043214(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102707201(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/08−31/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変電所から直流電圧を供給する直流電鉄き電回路における故障点標定システムであって、
前記変電所に設置され当該変電所における故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形を測定する測定装置と、
前記測定装置から前記変電所における故障発生時の前記送出電圧波形及び前記送出電流波形を受信し、前記送出電圧波形及び前記送出電流波形と予め算出された電圧及び電流の波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき故障点を標定して結果を表示する故障点標定装置と、を備え、
前記故障点標定装置は、
前記送出電圧波形と予め算出された電圧の前記波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき前記変電所の内部抵抗及び内部インダクタンスを選定し、
前記送出電流波形と予め算出された電流の前記波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき前記変電所の内部電圧から故障点までの抵抗及びインダクタンスを選定し、所定の算出式を用いて故障点を標定することを特徴とする故障点標定システム。
【請求項2】
変電所から直流電圧を供給する直流電鉄き電回路における故障点標定システムであって、
前記変電所に設置され当該変電所における故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形を測定する測定装置と、
前記測定装置から前記変電所における故障発生時の前記送出電圧波形及び前記送出電流波形を受信し、前記送出電圧波形及び前記送出電流波形と予め算出された電圧及び電流の波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき故障点を標定して結果を表示する故障点標定装置と、を備え、
前記故障点標定装置は、
前記送出電圧波形と予め算出された電圧の前記波形パターンとの同一時刻における残差平方和が最小になる波形パターンを選択し、選択した波形パターンの算出時のパラメータに基づき前記変電所の内部抵抗及び内部インダクタンスを選定し、
前記送出電流波形と予め算出された電流の前記波形パターンとの同一時刻における残差平方和が最小になる波形パターンを選択し、選択した波形パターンの算出時のパラメータに基づき前記変電所の内部電圧から故障点までの抵抗及びインダクタンスを選定し、所定の算出式を用いて故障点を標定することを特徴とする故障点標定システム。
【請求項3】
前記測定装置は、
電圧測定器と電流測定器とから構成され、
前記電圧測定器は高感度直流変成器であることを特徴とする請求項1または2に記載の故障点標定システム。
【請求項4】
前記故障点標定装置は、
故障発生時点の送電端電圧と、前記送出電流波形及び電圧変動率に基づき所定の算出式を用いて前記送出電圧波形を算出することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の故障点標定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電鉄き電回路の故障点標定システム及び故障点標定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電鉄き電回路は、一般に、停電リスクの低減、電圧降下対策、電気的区分におけるアーク損傷の軽減のため、2つの変電所で挟まれる区間に直流電圧を供給する並列き電系統で構成されている。
このような直流電鉄き電回路において、短絡故障等が生じた場合には、変電所の遮断器が作動して当該区間の直流電圧の供給が停止される。
【0003】
そして、短絡故障等の発生による変電所で挟まれる区間への直流電圧の供給停止時間を短縮するために、短絡故障等の故障点を演算により標定する故障点標定方法(或いは、故障点標定システム)が知られている。
例えば、2つの変電所から故障点までの距離が、2つの変電所から故障点までのインダクタンス値に比例することを利用し、両変電所から流れ出す故障電流値の比率から当該故障点を標定する故障点標定方法、具体的には、両変電所から流れ出す故障電流について、GPS(Global Positioning System)情報により時間の同期をとり、歪のない時間帯について平均電流値を計算し、電流配分比に基づき故障点を標定する故障点標定方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−040087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の先行技術では、2つの変電所が並列して直流電圧を供給(並列き電系統)している場合に、短絡故障等が生じた場合を想定しているため、電車基地や車両センターにおける庫線等、1つの変電所から直流電圧を供給する片送りき電系統において短絡事故等が生じた場合には、精度良く故障点を標定することができないといった問題点があった。
また、通常の並列き電系統であっても送電開始直後の短絡故障、送電遮断後の再閉路、或いは、試送電時の再遮断においては、片方の変電所からの送電が遮断されて、所謂、片送りき電系統になるため精度良く故障点を標定することができないといった問題点があった。
また、特許文献1の先行技術では、両変電所から流れ出す故障電流の測定値にデータ欠損があった場合には、故障点の標定自体が困難になったり、標定された故障点に大きな誤差が含まれてしまうといった問題点があった。
【0006】
本発明の課題は、片送り直流き電系統であっても精度良く故障点の標定を行うことができる直流電鉄き電回路の故障点標定システム及び故障点標定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、この発明は、
変電所から直流電圧を供給する直流電鉄き電回路における故障点標定システムであって、
前記変電所に設置され当該変電所における故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形を測定する測定装置と、
前記測定装置から前記変電所における故障発生時の前記送出電圧波形及び前記送出電流波形を受信し、前記送出電圧波形及び前記送出電流波形と予め算出された電圧及び電流の波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき故障点を標定して結果を表示する故障点標定装置と
を備えるようにしたものである。
【0008】
片送り直流き電系統、或いは、並列き電系統であって片方の変電所からの送電が遮断された場合であっても、故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形と、予め複数のパラメータの組み合わせにより算出された電圧及び電流の波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき故障点を標定することができるので、精度良く故障点の標定を行うことができる。
また、故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形にデータ欠損があっても、予め算出された電圧及び電流の波形パターンと比較して故障点を標定することができるので、精度良く故障点の標定を行うことができる。
【0009】
また、望ましくは、前記故障点標定装置は、前記送出電圧波形と予め算出された電圧の前記波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき前記変電所の内部抵抗及び内部インダクタンスを選定し、前記送出電流波形と予め算出された電流の前記波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき前記変電所の内部電圧から故障点までの抵抗及びインダクタンスを選定し、所定の算出式を用いて故障点を標定するようにしたものである。
故障発生時の送出電圧波形と電圧の波形パターンとの比較により、変電所の内部抵抗及び内部インダクタンスを選定し、故障発生時の送出電流波形と電流の波形パターンとの比較により、故障点までの抵抗及びインダクタンスを選定できるので、選定されたインダクタンスに基づき故障点の距離を標定することができ、精度良く故障点の標定を行うことができる。
【0010】
また、望ましくは、前記故障点標定装置は、前記送出電圧波形と予め算出された電圧の前記波形パターンとの同一時刻における残差平方和が最小になる波形パターンを選択し、選択した波形パターンの算出時のパラメータに基づき前記変電所の内部抵抗及び内部インダクタンスを選定し、前記送出電流波形と予め算出された電流の前記波形パターンとの同一時刻における残差平方和が最小になる波形パターンを選択し、選択した波形パターンの算出時のパラメータに基づき前記変電所の内部電圧から故障点までの抵抗及びインダクタンスを選定し、所定の算出式を用いて故障点を標定するようにしたものである。
故障発生時の送出電圧波形と予め算出された電圧の波形パターンとの同一時刻における残差平方和が最小になる波形パターンを選択して変電所の内部抵抗及び内部インダクタンスを選定し、故障発生時の送出電流波形と予め算出された電流の波形パターンとの同一時刻における残差平方和が最小になる波形パターンを選択して故障点までの抵抗及びインダクタンスを選定できるので、選定されたインダクタンスに基づき故障点の距離を標定することができ、精度良く故障点の標定を行うことができる。
【0011】
また、望ましくは、前記測定装置は、電圧測定器と電流測定器とから構成され、前記電圧測定器は高感度直流変成器であるようにしたものである。
電圧測定器である高感度直流変成器により故障発生時の前記送出電圧波形を高感度に測定することにより、従来の測定器と比較して応答性が速く測定できるので、故障発生時の送出電圧波形を正確に測定することができて、その結果、測定された送出電圧波形に基づき精度良く変電所の内部抵抗及び内部インダクタンスを選定することができるので、精度良く故障点の標定を行うことができる。
【0012】
また、望ましくは、前記故障点標定装置は、故障発生時点の送電端電圧と、前記送出電流波形及び電圧変動率に基づき所定の算出式を用いて前記送出電圧波形を算出するようにしたものである。
故障発生時点の送電端電圧と、故障発生時の送出電流波形及び電圧変動率に基づき送出電圧波形を算出することにより、従来の応答が遅い直流変成器を用いても正確な送出電圧波形を得ることができて、その結果、得られた送出電圧波形に基づき精度良く変電所の内部抵抗及び内部インダクタンスを選定することができるので、精度良く故障点の標定を行うことができる。
【0013】
また、本出願の他の発明は、
変電所から直流電圧を供給する直流電鉄き電回路における故障点標定方法であって、
前記変電所に設置された測定装置で当該変電所における故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形を測定するステップと、
前記送出電圧波形及び前記送出電流波形と予め算出された電圧及び電流の波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき故障点を標定するステップと、
標定結果を表示するステップと
を含むようにしたものである。
【0014】
片送り直流き電系統、或いは、並列き電系統であって片方の変電所からの送電が遮断された場合であっても、故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形と、予め複数のパラメータの組み合わせにより算出された電圧及び電流の波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき故障点を標定することができるので、精度良く故障点の標定を行うことができる。
また、故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形にデータ欠損があっても、予め算出された電圧及び電流の波形パターンと比較して故障点を標定することができるので、精度良く故障点の標定を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、変電所から直流電圧を供給する直流電鉄き電回路における故障点標定システムであって、変電所に設置され当該変電所における故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形を測定する測定装置と、測定装置から変電所における故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形を受信し、送出電圧波形及び送出電流波形と予め算出された電圧及び電流の波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき故障点を標定して結果を表示する故障点標定装置とを備えることにより、片送り直流き電系統、或いは、並列き電系統であって片方の変電所からの送電が遮断された場合であっても、故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形と、予め複数のパラメータの組み合わせにより算出された電圧及び電流の波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき故障点を標定することができるので、精度良く故障点の標定を行うことができる。
また、故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形にデータ欠損があっても、予め算出された電圧及び電流の波形パターンと比較して故障点を標定することができるので、精度良く故障点の標定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施の形態に係る直流電鉄き電回路の故障点標定システムの構成の一例を示す概略構成図である。
図2】本実施の形態に係る直流電鉄き電回路の変電所内の構成の一例を示すブロック図である。
図3】本実施の形態に係る直流電鉄き電回路の故障点標定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図4】故障が発生した場合の直流電鉄き電回路の等価回路を示す回路図である。
図5】予め算出された電圧及び電流の波形パターンの各パラメータの内訳を示す説明図である。
図6】故障点標定システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図7】故障発生時に測定された送出電圧波形及び送出電流波形の一例を示す説明図である。
図8】送出電流波形と予め算出された電流の波形パターンとの同一時刻における残差平方和を求めた一例を示す説明図である。
図9】本実施の形態に係る直流電鉄き電回路の故障点標定システムによる標定結果の一例を示す説明図である。
図10】変形例に係る直流電鉄き電回路の故障点標定システムによる標定結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態)
[1.構成の説明]
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態である直流電鉄き電回路の故障点標定システム及び故障点標定方法を詳細に説明する。但し、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0018】
本発明の実施形態の直流電鉄き電回路の故障点標定システムの構成について図1図2及び図3を参照して説明する。図1は、直流電鉄き電回路の故障点標定システム100の構成を示す概略構成図である。
図1に示す変電所50から電車1に直流電圧を供給する直流電鉄き電回路において、電車1は、電車1の集電装置であるパンタグラフにより電車線2(以下、架線と呼ぶ)から直流電圧の供給を受けて、当該直流電圧により電車1のモータ(図示せず)を回転させることによって、帰線3(以下、レールと呼ぶ)上を走行する。また、整流器4は、変電所50で受電した交流電圧を直流電圧に変換して架線2とレール3との間に供給する。さらに、整流器4と架線2との間には、短絡故障等の発生時に直流電圧の供給を遮断するための直流高速遮断器等の遮断器5が設けられる。
【0019】
保護装置6は、短絡事故の発生の有無を判断して、遮断器5における故障発生時から10ms程度の所定の測定期間における送出電圧及び送出電流は、変電所50に設置された測定装置7によって測定させる。また、測定装置7の測定出力信号である故障発生時から10ms程度の所定の測定期間における送出電圧波形及び送出電流波形のデータは、通信装置8を介して制御所51に設置された故障点標定装置9に送信される。
【0020】
ここで、図2は、変電所50に設置された保護装置6等の機能をブロック図として表したものである。図2に示すように、変電所50には、保護装置6、測定装置7及び通信装置8が設置されている。
測定装置7は、電流測定器71及び電圧測定器72とから構成され、故障発生時から10ms程度の所定の測定期間における送出電圧及び送出電流を測定する。そして、電流測定器71及び電圧測定器72の出力信号は通信装置8に接続される。
通信装置8は、制御所51に設置された故障点標定装置9にネットワーク等を介して電流測定器71及び電圧測定器72の出力信号を送信する。
具体的には、通信装置8は、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、ISDN(Integrated Services Digital Network)等のネットワークの通信装置である。
【0021】
また、図3は、複数の変電所等の集中管理を行う制御所51に設置された故障点標定装置9の機能をブロック図として表したものである。図3に示すように、故障点標定装置9は、制御手段91、通信手段92、記憶手段93及び表示手段94を有する。
【0022】
制御手段91は、故障点標定装置9の動作を中央制御する。具体的には、制御手段91は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有しており、RAMの作業領域に展開されたROMや記憶手段93に記憶されたプログラムデータとCPUとの協働により各手段を統括制御する。
【0023】
通信手段92は、変電所50から送信されてくる故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形のデータを受信して制御手段91に入力する。具体的には、通信手段92は、LAN、WAN、ISDN等のネットワークの通信装置である。
【0024】
記憶手段93は、プログラムデータや各種設定データ等のデータを制御手段91から読み書き可能に記憶する。例えば、記憶手段93は、HDD(Hard Disk Drive)、半導体メモリ等であって、プログラムデータ等の他に、変電所50から送信されてくる故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形のデータや、予め複数のパラメータの組み合わせにより算出された電圧及び電流の波形パターンのデータベースが記憶されている。
特に、図1に示す実施形態では、故障点標定装置9を制御所51に設置して中央集管理しているので、記憶手段93に記憶される電圧及び電流の波形パターンのデータベースとしては、変電所50が直流電圧を供給する区間における電圧及び電流の波形パターンのデータベースのみならず、制御所51で集中管理する全ての変電所の供給区間における電圧及び電流の波形パターンのデータベースが記憶されている。
【0025】
表示手段94は、制御手段91から出力された表示制御信号に基づいた情報や画像を表示画面に表示する。例えば、表示手段94は、CRT(Cathode Ray Tube)やLCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro Luminescence)素子を用いたFPD(Flat Panel Display)等であってよい。また、単純に標定された故障点の位置を数値で表示させるためのセグメント表示型のLED(Light Emitting Diode)であってもよい。
【0026】
[2.動作の説明]
ここで、本発明の実施形態における故障点標定システム100の具体的な動作の説明を図4図5図6図7図8及び図9を用いて詳細に行う。
図4は、故障が発生した場合の直流電鉄き電回路の等価回路を示す回路図である。図4において、変電所50の整流器4の両端の電圧に相当する内部電圧Es(V)の出力は、変電所50内を引き回す配線等によって生じる内部抵抗Rs(Ω)及び内部インダクタンスLs(mH)を介して、架線2(線路単位長さの抵抗R(Ω/km)及びインダクタンスL(mH/km))に供給される。
【0027】
このような状態で、変電所50から距離x(km)で、故障点抵抗Rg(Ω)の短絡故障が生じた場合、送電端電圧である電圧Vs(t)及び故障電流である電流Is(t)が発生する。この時の内部電圧Es(V)は、[数1]で表される。
【0028】
【数1】
【0029】
また、電圧Vs(t)及び電流Is(t)は、[数2]及び[数3]で表される。
【数2】
【数3】
但し、R=Rs+R×x+Rg
L=Ls+L×x
【0030】
ここで、[数2]における内部抵抗Rs(Ω)及び内部インダクタンスLs(mH)をパラメータとして組み合わせて、電圧Vs(t)の複数の波形パターンを予め算出してデータベースとして故障点標定装置9の記憶手段93に記憶しておく。
【0031】
同様に、[数3]における変電所50の内部電圧Esから故障点までの抵抗R(Ω)及びインダクタンスL(mH)をパラメータとして組み合わせて、電流Is(t)の複数の波形パターンを予め算出してデータベースとして故障点標定装置9の記憶手段93に記憶しておく。
但し、[数3]に示すように、変電所50の内部電圧Esから故障点までの抵抗R(Ω)及びインダクタンスL(mH)は、内部抵抗Rs(Ω)、内部インダクタンスLs(mH)、故障点抵抗Rg(Ω)、故障点距離x(km)、線路単位長さの抵抗R(Ω/km)及びインダクタンスL(mH/km)の組み合わせより値が決まる。
【0032】
具体的には、図5に示すように、変電所50の内部抵抗Rs(0.015、0.03、0.045Ω)として3パターン、変電所50の内部インダクタンスLs(0.3、0.5、0.7、1.0、2.0mH)として5パターン、故障点抵抗Rg(0.1、0.30.6、0.8、1.0Ω)として5パターン、故障点距離x(0.0〜5.0km(0.1km毎))として51パターンを想定し、合計して3825(=3×5×5×51)の組み合わせにより、故障発生時(0.0ms)から10.0msまで、電圧Vs(t)及び電流Is(t)の波形パターンを予め算出してデータベースとして故障点標定装置9の記憶手段93に記憶する。
【0033】
ここで、図6のフローチャートに示すように、変電所50に設置された保護装置6は、短絡故障が発生したか否かを判断し(ステップS1)、もし、短絡故障が発生していないと判断した場合(ステップS1:No)、ステップS1に戻る。
【0034】
もし、保護装置6が短絡故障発生と判断した場合(ステップS1:Yes)、保護装置6は測定装置7に対し故障発生を伝送する。測定装置7は、遮断器5における故障発生時から10ms程度の所定の測定期間における送出電圧及び送出電流を測定して(ステップS2)、当該所定の測定期間における送出電圧波形及び送出電流波形のデータを、通信装置7を介して制御所51に設置された故障点標定装置9に送信する(ステップS3)。
【0035】
例えば、図7は故障発生時から10ms程度の所定の測定期間に測定された送出電圧波形及び送出電流波形の一例を示す説明図であり、故障電流である送出電流波形CT71は、故障発生時(0.0ms)から10.0msまで増加傾向にあり、送電端電圧である送出電圧波形VT71及びVT72は当該測定期間内では変動している。
特に、送出電圧波形VT71は、変電所50に従来から設置されている直流変成器で測定した波形であり、送出電圧波形VT72は、応答性が速い高感度の直流変成器で測定した波形である。
【0036】
一方、故障点標定装置9の制御手段91は、通信手段92を制御して、変電所50から送信されてくる故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形のデータを受信して、故障発生時の送出電圧波形のデータと、記憶手段93に記憶されている予め複数のパラメータの組み合わせにより算出された電圧Vs(t)の波形パターンとを比較し、最もパターン形状が類似する波形パターンを求めて、[数2]から、当該波形パターンを算出する際に用いられたパラメータに基づき変電所50における内部抵抗Rs(Ω)及び内部インダクタンスLs(mH)を選定する(ステップS4)。
【0037】
そして、故障点標定装置9の制御手段91は、故障発生時の送出電流波形のデータと、記憶手段93に記憶されている予め複数のパラメータの組み合わせにより算出された電流Is(t)の波形パターンとを比較し、最もパターン形状が類似する波形パターンを求めて、[数3]から、当該波形パターンを算出する際に用いられたパラメータに基づき変電所50の内部電圧Es(V)から故障点までの抵抗R(Ω)及びインダクタンスL(mH)を選定する(ステップS5)。
【0038】
最後に、故障点標定装置9の制御手段91は、変電所50の内部電圧Es(V)から故障点までのインダクタンスL(mH)に基づき[数4]により変電所50から故障点までの距離x(km)を標定し(ステップS6)、標定結果を表示手段94に表示させる(ステップS7)。
【0039】
【数4】
【0040】
ここで、図6のフローチャートのステップS4における最も類似する波形パターンを求める方法としては、[数5]の残差平方和Jvが最小となるような、算出された電圧Vs(t)の波形パターンを選択する。
【0041】
【数5】
但し、[数5]において、Vs(t)は時刻tにおける測定電圧、Vk(t)は予め算出した波形パターンの時刻tにおける電圧、tは0ms〜10ms(1ms刻み)である。このため、[数5]では、故障発生時の送出電圧波形と予め算出された電圧の波形パターンとの同一時刻における残差平方和を求めている。
【0042】
同様に、図6のフローチャートのステップS5における最も類似する波形パターンを求める方法としては、[数6]の残差平方和Jが最小となるような、算出された電流Is(t)の波形パターンを選択する。
【0043】
【数6】
但し、[数6]において、Is(t)は時刻tにおける測定電流、Ik(t)は予め算出した波形パターンの時刻tにおける電流、tは0ms〜10ms(1ms刻み)である。このため、[数6]では、故障発生時の送出電流波形と予め算出された電流の波形パターンとの同一時刻における残差平方和を求めている。
【0044】
図8は、故障発生時の送出電流波形と予め算出された電流の波形パターンとの同一時刻における残差平方和を求めた一例を示す説明図であり、残差平方和CH81,CH82及びCH83は、故障点抵抗Rgが0.3Ω、0.6Ω及び1.0Ωの場合である。
図8から残差平方和CH81は、PT81に示すように故障点抵抗1.0Ω、故障点距離3.2kmで最小の値を示しており、故障点標定装置9の制御手段91は、残差平方和CH81を求めるために用いた算出された電流の波形パターンが、故障発生時の送出電流波形に最も類似する波形パターンであると選択することができる。
【0045】
そして、故障点標定装置9の制御手段91は、選択された電流の波形パターンに基づき変電種50の内部電圧Es(V)から故障点までの抵抗R(Ω)及びインダクタンスL(mH)を選定し、変電種50の内部電圧Es(V)から故障点までのインダクタンスL(mH)に基づき[数4]により変電所50から故障点までの距離x(km)を標定して、標定結果を表示手段94に表示させる。
【0046】
図9は直流電鉄き電回路の故障点標定システムによる標定結果の一例を示す説明図であり、変電所50から0.06km及び3.1kmの地点で短絡故障を生じさせた場合の標定値(km)を示している。
また、図9における「直流計測用変成器の種類」とは、多くの変電所で現在使用されている従来の直流変成器と、応答性が速い高感度の直流変成器とを示しており、それぞれの直流変成器を用いて送出電圧波形を測定した場合の標定値(km)が示されている。
【0047】
多くの変電所で現在使用されている従来の直流変成器で故障発生時の送出電圧波形を測定した場合は、高感度の直流変成器と比較して、応答が遅く過渡電圧変化に追随できておらず、このため、[数2]による変電所50の内部抵抗Rs(Ω)及び内部インダクタンスLs(mH)が正しく選定できないので、標定値に最大2kmの標定誤差が生じている。
【0048】
したがって、高感度の直流変成器を用いることにより、標定誤差を低減して標定精度が向上させることができる。
【0049】
また、予め算出された電圧及び電流の波形パターンとの比較により故障点を標定するので、故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形にデータ欠損があった場合でも、データ欠損部分を無視して、言い換えれば、[数5]や[数6]における残差平方部分(例えば、Vs(t)のデータが欠損している場合、”{Vs(t)−Vk(t)}”の項)を除いて残差平方和を求めることにより、予め算出された電圧及び電流の波形パターンとを比較して故障点を標定することができるので、精度良く故障点の標定を行うことができる。
【0050】
以上のように、本発明の実施形態によれば、変電所50から直流電圧を供給する直流電鉄き電回路における故障点標定システム100であって、変電所50に設置され当該変電所における故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形を測定する測定装置7と、測定装置7から変電所における故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形を受信し、送出電圧波形及び送出電流波形と予め算出された電圧及び電流の波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき故障点を標定して結果を表示する故障点標定装置9とを備えることにより、片送り直流き電系統、或いは、並列き電系統であって片方の変電所からの送電が遮断された場合であっても、故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形と、予め複数のパラメータの組み合わせにより算出された電圧及び電流の波形パターンとを比較して、最もパターン形状が類似している波形パターンの算出時のパラメータに基づき故障点を標定することができるので、精度良く故障点の標定を行うことができる。
また、故障発生時の送出電圧波形及び送出電流波形にデータ欠損があっても、予め算出された電圧及び電流の波形パターンと比較して故障点を標定することができるので、精度良く故障点の標定を行うことができる。
【0051】
(変形例)
本発明の実施形態の説明のように、標定誤差を低減して標定精度が向上させるために、従来の直流変成器を、高感度の直流変成器に置き換えることが好ましいものの、コスト面等により全ての直流変成器を、高感度の直流変成器に置き換えることは困難であり、このため、従来の直流変成器による測定結果を補正することが考えられる。
具体的には、[数7]により従来の直流変成器で測定された故障発生時点の送電端電圧と、故障発生時の送出電流波形及び電圧変動率に基づき送出電圧波形を算出する。
【0052】
【数7】
但し、[数7]においてV(t)は故障発生時刻tでの電圧、V(0)は故障発生時(t=0)の送電端電圧、εは変電所の電圧変動率、is(t)は故障発生時刻tでの電流、ioは定格電流(6000kW容量で4000A)である。
【0053】
図10は、故障発生時点の送電端電圧を用いて、故障発生時の送出電流波形及び電圧変動率に基づき送出電圧波形を算出した場合の標定結果の一例を示す説明図であり、図9の場合と同様に、変電所50から0.06km及び3.1kmの地点で短絡故障を生じさせた場合の標定値(km)を示している。
また、図10における「電圧変動率による補正」とは、[数7]により故障発生時点の送電端電圧を用いて、故障発生時の送出電流波形及び電圧変動率に基づき送出電圧波形を算出した場合と、そうでない場合を示しており、それぞれの場合の標定値(km)が示されている。
【0054】
図10に示すように、多くの変電所で現在使用されている従来の直流変成器で故障発生時の送出電圧波形を測定した場合であっても、故障発生時点の送電端電圧と、故障発生時の送出電流波形及び電圧変動率に基づき送出電圧波形を算出することにより、得られた標定値(km)は、図9における応答性が速い高感度の直流変成器を用いて送出電圧波形を測定した場合の標定値(km)と同じ結果となっている。
すなわち、従来の応答が遅い直流変成器であっても、故障発生時点の送電端電圧と、故障発生時の送出電流波形及び電圧変動率に基づき送出電圧波形を算出することにより、標定精度を大幅に向上させることができる。
【0055】
以上のように、本発明の変形例によれば、故障発生時点の送電端電圧と、故障発生時の送出電流波形及び電圧変動率に基づき送出電圧波形を算出することにより、従来の応答が遅い直流変成器を用いても正確な送出電圧波形を得ることができて、その結果、得られた送出電圧波形に基づき精度良く変電所の内部抵抗及び内部インダクタンスを選定することができるので、精度良く故障点の標定を行うことができる。
【符号の説明】
【0056】
1 電車
2 電車線(架線)
3 帰線(レール)
4 整流器
5 遮断器
6 保護装置
7 測定装置
8 通信装置
9 故障点標定装置
71 電流測定器
72 電圧測定器
91 制御手段
92 通信手段
93 記憶手段
94 表示手段
50 変電所
51 制御所
100 故障点標定システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10