特許第6444140号(P6444140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444140
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】ラックブッシュおよびステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 3/12 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   B62D3/12 503A
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-226252(P2014-226252)
(22)【出願日】2014年11月6日
(65)【公開番号】特開2016-88340(P2016-88340A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(74)【代理人】
【識別番号】100183450
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 太知
(72)【発明者】
【氏名】田岡 信幸
(72)【発明者】
【氏名】坂本 成章
(72)【発明者】
【氏名】中手 敬
(72)【発明者】
【氏名】米谷 豪朗
(72)【発明者】
【氏名】錦戸 我元
(72)【発明者】
【氏名】藤本 将史
(72)【発明者】
【氏名】大谷 拓光
(72)【発明者】
【氏名】宮川 隼人
【審査官】 森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−255834(JP,A)
【文献】 特開2013−079023(JP,A)
【文献】 特開2006−117221(JP,A)
【文献】 特開2006−123643(JP,A)
【文献】 特開2014−000925(JP,A)
【文献】 米国特許第06435050(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/00− 3/14
H16H 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラックアンドピニオン式のステアリング装置を構成するラック軸を前記ラック軸の軸方向へ摺動可能に支持するラックブッシュであって、
第1領域にラック歯が形成された前記ラック軸の外周面において前記軸方向に沿って前記第1領域に隣接する第2領域に接触する凹湾曲面を有し、前記ラック軸を前記ラック歯側から支持する歯側支持部と、
前記外周面において前記ラック軸の軸線まわりの周方向で前記第1領域から外れた位置にある第3領域に接触する凹湾曲面を有し、前記ラック軸を前記ラック歯側以外の背面側から支持する背面側支持部と
前記ラック軸の外周面に対して外嵌される前記ラックブッシュの内周面において前記周方向における前記第1領域の両端部と一致する位置に設けられ、当該両端部から離間するように窪んだ逃げ部とを含み、
前記ラック歯側は、前記周方向において前記第1領域と一致する範囲であり、
前記周方向における前記歯側支持部の両側に前記逃げ部が位置することを特徴とする、ラックブッシュ。
【請求項2】
ピニオン歯を有するピニオン軸と、
前記ピニオン歯と噛み合うラック歯が形成されたラック軸と、
請求項1記載のラックブッシュとを含むことを特徴とする、ラックアンドピニオン式のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ラックブッシュおよびこれを含むラックアンドピニオン式のステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載のステアリング装置は、第1ラックおよび第2ラックが軸方向に並んで設けられたラック軸を備えている。操舵補助力伝達用の第1ピニオン軸の第1ピニオンが第1ラックに噛み合っていて、マニュアル操舵力伝達用の第2ピニオン軸の第2ピニオンが第2ラックに噛み合っている。
ラック軸の第1端部には、第1ラックブッシュが配置され、ラック軸における第1ラックと第2ラックとの間には、第2ラックブッシュが配置されている。第1ラックブッシュおよび第2ラックブッシュのそれぞれは、ラック軸の全周を取り囲む環状部と、環状部から軸方向に延びる断面円弧状部とを備えている。断面円弧状部の内周に形成された弾性凸部が、ラック軸の外周面において第1ラックおよび第2ラックが形成されていない背面側の部分に接触している。これにより、第1ラックブッシュおよび第2ラックブッシュは、ラック軸を軸方向に摺動可能に支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−84002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のステアリング装置では、第1ラックブッシュおよび第2ラックブッシュは、ラック軸の外周面おける背面側の部分に接触しているが、ラック軸の外周面において第1ラックや第2ラックといったラック歯が形成されたラック歯側の部分には接触していない。よって、ラック軸は、背面側の移動が規制されているが、ラック歯側の移動が規制されていない。そのため、ラック軸が第1ピニオン軸や第2ピニオン軸に接近して、前述したラック歯側の部分がこれらのピニオン軸にぶつかったり、ラック軸を収容するハウジングの内周面にぶつかったりすることによって、打音が発生する虞がある。
【0005】
この発明は、かかる背景のもとでなされたもので、ラック軸のラック歯側において打音が発生することを抑制できるラックブッシュおよびこれを含むステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置(1)を構成するラック軸(8)を前記ラック軸の軸方向(X)へ摺動可能に支持するラックブッシュ(10)であって、第1領域(81)にラック歯(12)が形成された前記ラック軸の外周面(8A)において前記軸方向に沿って前記第1領域に隣接する第2領域(82)に接触する凹湾曲面(65)を有し、前記ラック軸を前記ラック歯側から支持する歯側支持部(64A)と、前記外周面において前記ラック軸の軸線(J)まわりの周方向(Y)で前記第1領域から外れた位置にある第3領域(83)に接触する凹湾曲面(65)を有し、前記ラック軸を前記ラック歯側以外の背面(8B)側から支持する背面側支持部(64B)と、前記ラック軸の外周面に対して外嵌される前記ラックブッシュの内周面(60B)において前記周方向における前記第1領域の両端部(81D)と一致する位置に設けられ、当該両端部から離間するように窪んだ逃げ部(66)とを含み、前記ラック歯側は、前記周方向において前記第1領域と一致する範囲であり、前記周方向における前記歯側支持部の両側に前記逃げ部が位置することを特徴とする、ラックブッシュである。
【0008】
請求項記載の発明は、ピニオン歯(11)を有するピニオン軸(7)と、前記ピニオン歯と噛み合うラック歯が形成されたラック軸と、請求項1記載のラックブッシュとを含むことを特徴とする、ラックアンドピニオン式のステアリング装置である。
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0009】
請求項1および記載の発明によれば、ラックブッシュでは、歯側支持部が、第1領域にラック歯が形成されたラック軸の外周面において軸方向に沿って第1領域に隣接する第2領域に接触することによって、ラック軸をラック歯側から支持している。また、ラックブッシュでは、背面側支持部が、ラック軸の外周面においてラック軸の軸線まわりの周方向で第1領域から外れた位置にある第3領域に接触することによって、ラック軸をラック歯側以外の背面側から支持している。
【0010】
つまり、ラックブッシュは、背面側支持部によって背面側へのラック軸の移動を規制できるだけでなく、歯側支持部によってピニオン軸側へのラック軸の移動も規制できる。これにより、ラック軸のラック歯側の部分がピニオン軸のピニオン歯等にぶつかることによってラック歯側において打音が発生することを抑制できる。
また、歯側支持部は、周方向において第1領域と一致する範囲であるラック歯側からラック軸を支持するので、ピニオン軸側へのラック軸の移動を確実に規制できる。そのため、ラック歯側において打音が発生することを効果的に抑制できる。
【0011】
また、ラックブッシュの内周面において周方向における第1領域の両端部と一致する位置に設けられた逃げ部が、当該両端部から離間するように窪んでいる。そのため、第1領域の当該両端部におけるラック歯とラックブッシュの内周面との干渉を抑制して、ラック軸を円滑に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態におけるステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、本発明の別の実施形態におけるステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
図3図3は、ステアリング装置の要部の模式的な断面図である。
図4図4は、ラック軸の要部およびラックブッシュの模式的な側面図である。
図5図5は、図3の要部の拡大図である。
図6図6は、図4のA−A矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態におけるステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、ステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2と、ステアリングシャフト3と、第1自在継手4と、中間軸5と、第2自在継手6と、ピニオン軸7と、ラック軸8と、ハウジング9と、ラックブッシュ10とを主に含んでいる。
【0014】
ステアリングシャフト3は、操舵部材2に連結されている。ステアリングシャフト3と中間軸5とは、第1自在継手4を介して連結されている。中間軸5とピニオン軸7とは、第2自在継手6を介して連結されている。
ピニオン軸7は、金属製である。ピニオン軸7において第2自在継手6側とは反対側の端部の外周面には、ピニオン歯11が設けられている。
【0015】
ラック軸8は、金属製であって、ステアリング装置1が備えられる車体(図示せず)の車幅方向に延びる軸線Jを有する略円柱状に形成されている。軸線Jは、ラック軸8の円中心を通っている。車幅方向は、図1における左右方向であり、ラック軸8の軸方向Xでもある。また、以下では、軸線Jまわりの周方向を「周方向Y」と呼ぶことがある。
ラック軸8の外周面8Aの周方向Yにおける1箇所において、軸方向Xにおける途中の第1領域81だけに、ラック歯12が形成されている。ピニオン軸7は、軸方向Xに延びるラック軸8と交差方向(図1では上下方向)に配置されていて、ピニオン軸7のピニオン歯11とラック軸8のラック歯12とが噛み合っている。このようなピニオン軸7およびラック軸8によってラックアンドピニオン機構13が構成されている。そのため、このステアリング装置1は、ラックアンドピニオン式のステアリング装置である。
【0016】
ハウジング9は、たとえばアルミニウム等の金属で形成されて軸方向Xに沿って長手の中空円筒状であり、車体に固定されている。ラック軸8は、ハウジング9内に収容されており、この状態で、軸方向Xに沿って往復移動可能である。ピニオン軸7においてピニオン歯11が設けられた部分は、ハウジング9において、軸方向Xにおける両端部の間に収容されている。ハウジング9の当該両端部のうち、図1における左側の第1端部14は、ピニオン軸7に相対的に近く、図1における右側の第2端部15は、ピニオン軸7から相対的に遠い。
【0017】
ラックブッシュ10は、ハウジング9内において、軸方向Xからピニオン軸7を挟むように2つ設けられている。それぞれのラックブッシュ10は、ラック軸8に対して外嵌される環状体であって、ハウジング9の第1端部14および第2端部15に1つずつ固定されている。ラック軸8は、これらのラックブッシュ10によって支持されており、ラックブッシュ10に対して軸方向Xへ摺動可能である。
【0018】
ハウジング9に収容されたラック軸8の軸方向Xにおける両端部は、ハウジング9の両外側へ突出し、各端部には、タイロッド16が結合されている。各タイロッド16は、継手17およびナックルアーム18を介して車輪19に連結されている。
運転者によって操舵部材2が操舵されてステアリングシャフト3が回転すると、この回転がラックアンドピニオン機構13によって、軸方向Xに沿ったラック軸8の直線運動に変換される。これにより、各車輪19の転舵が達成される。
【0019】
図2は、本発明の別の実施形態におけるステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。ステアリング装置1には、図1に示すようにピニオン軸7が1つ存在するシングルピニオンタイプの他に、図2に示すようにピニオン軸7が2つ存在するデュアルピニオンタイプが存在する。図2において、今まで説明した部材と同様の部材には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0020】
図2のステアリング装置1では、2つのピニオン軸7のうち、一方が、前述したように第2自在継手6を介して中間軸5に連結された第1ピニオン軸7Aであり、他方が、第1ピニオン軸7Aとは別の第2ピニオン軸7Bである。
ラック軸8においてラック歯12が形成された第1領域81は、ピニオン軸7の数に応じて、軸方向Xに並んだ2箇所に存在する。2箇所の第1領域81のうち、一方の第1領域81Aのラック歯12が、第1ピニオン軸7Aのピニオン歯11と噛み合っていて、他方の第1領域81Bのラック歯12が、第2ピニオン軸7Bのピニオン歯11と噛み合っている。
【0021】
前述したラックブッシュ10は、ハウジング9内において、たとえば、軸方向Xからそれぞれの第1領域81を挟むように合計3つ設けられている。つまり、ラックブッシュ10は、ハウジング9の第1端部14および第2端部15のそれぞれに1つずつ設けられ、第1領域81Aと第1領域81Bとの間の位置に1つ設けられている。それぞれのラックブッシュ10は、ラック軸8に対して外嵌されていて、ラック軸8を軸方向Xへ摺動可能に支持している。
【0022】
第2ピニオン軸7Bに関連して、ステアリング装置1は、操舵補助機構23を備えている。操舵補助機構23は、操舵補助力を発生する電動モータ24と、電動モータ24の回転出力を減速して第2ピニオン軸7Bに伝達する減速機構25とを備えている。
電動モータ24は、車体に固定されたモータハウジング26と、出力軸としての回転軸27とを備えている。減速機構25は、継手28を介して回転軸27とトルク伝達可能に連結されたウォーム軸等の駆動ギア29と、駆動ギア29と噛み合った状態で第2ピニオン軸7Bと一体回転可能に連結されたウォームホイール等の被動ギア30とを備えている。
【0023】
ステアリング装置1は、運転手によって操舵部材2に加えられた操舵トルクを検出するトルクセンサ31と、トルクセンサ31のトルク検出結果が与えられるECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)32とをさらに含んでいる。ECU32では、トルク検出結果や車速センサ(図示せず)から与えられる車速検出結果等に基づいて、内蔵の駆動回路を介して電動モータ24を駆動制御する。電動モータ24の出力回転が減速機構25を介して減速されて第2ピニオン軸7Bに伝達され、ラック軸8の直線運動に変換される。これにより、操舵部材2の操舵が補助される。
【0024】
次に、ラック軸8、ハウジング9およびラックブッシュ10について詳しく説明する。
図3は、ステアリング装置1においてハウジング9の第1端部14付近における要部を軸方向Xに沿って切断したときの模式的な断面図である。なお、説明の便宜上、図3では、ピニオン軸7およびラック軸8にハッチングを付していない。
図3を参照して、ハウジング9は、前述したように中空円筒状であり、その中空部分40は、軸方向Xに沿って延びる中心軸を有する円筒状をなしている。中空部分40の軸方向Xにおける両端は、第1端部14および第2端部15のそれぞれにおいて、開口41としてハウジング9の外側へ露出されている。開口41は、ラック軸8より大径の丸穴である。
【0025】
ハウジング9において中空部分40を区画する内周面42は、軸方向Xに延びる中心軸を有する円筒状である。内周面42は、開口41の輪郭から連続して軸方向Xに延びる第1内周面42Aと、第1内周面42Aよりも小径の第2内周面42Bと、第2内周面42Bよりも小径の第3内周面42Cと、第3内周面42Cよりも小径の第4内周面42Dとを含んでいる。第1内周面42A〜第4内周面42Dのそれぞれでは、軸方向Xにおける全域に亘って内径が一定になっている。第1端部14側の第4内周面42Dと第2端部15側の第4内周面42Dとは、連続していてもよい。
【0026】
以上のような内周面42は、開口41から軸方向Xへ離れるのに従って、第1内周面42A、第2内周面42B、第3内周面42C、第4内周面42Dの順に段階的に縮径されている。また、第1内周面42Aと第2内周面42Bとの境界には、環状の段部43が形成され、第2内周面42Bと第3内周面42Cとの境界には、環状の段部44が形成され、第3内周面42Cと第4内周面42Dとの境界には、環状の段部45が形成されている。段部44の周上1箇所には、第3内周面42Cと段部44とを連続して切り欠く切り欠き46が形成されている。軸方向Xにおける第4内周面42Dの途中には、ピニオン軸7を収容する凹部47が形成されている。
【0027】
ラック軸8は、前述したように軸方向Xに延びる略円柱状であって、ハウジング9の中空部分40と同軸状となるように、中空部分40内に収容されている。そのため、ラック軸8の外周面8Aの周方向Yは、ハウジング9の内周面42の周方向と一致している。ラック軸8は、軸方向Xにおいてハウジング9よりも長手である。そのため、ラック軸8の一端部(図3における左端部)は、第1端部14の開口41からハウジング9の外側へはみ出ていて、ラック軸8の他端部は、第2端部15の開口41からハウジング9の外側へはみ出ている(図1および図2も参照)。
【0028】
ラック軸8においてラック歯12が形成された第1領域81は、軸方向Xに沿ってラック軸8の外周面8Aから軸線J側に窪んだ領域である。第1領域81には、その底面として軸方向Xに沿う平坦面51が形成されている。平坦面51は、軸方向Xに長手の略長方形状である(図4参照)。平坦面51には、軸方向Xと交差するように延びる複数の溝52が、軸方向Xに並んで形成されており、隣り合う溝52に挟まれた凸状部分が1つのラック歯12である。平坦面51は、たとえばフライス加工によって形成される。フライス加工の際、エンドミル等の工具(図示せず)は、ラック軸8に対して軸方向Xに相対移動する。この場合、軸方向Xにおける第1領域81の端部81Cには、平坦面51の端縁からラック軸8における第1領域81以外の円弧状の外周面8Aへ向けて立ち上がった端面53が、工具の跡として形成されている。
【0029】
図3において1点鎖線の円で囲まれた部分を拡大した図5を参照して、端面53は、平坦面51に対する直交方向に対して僅かな傾斜角度α(ここでは約15°)で傾斜するように、平坦面51に対してほぼ直角に交差している。ラック軸8における第1領域81以外の円弧状の外周面8Aにおいて軸方向Xに沿って第1領域81の端部81Cに隣接する領域を「第2領域82」と呼ぶことにすると、端部81C(詳しくは、端面53)と第2領域82との境界を構成する角部Kには、角部Kを面取りする面取り部54が設けられている。面取り部54は、第2領域82の外周面8Aに沿って軸方向Xに延びる仮想線Lに対して僅かな傾斜角度βで傾斜する傾斜面であって、第2領域82の外周面8Aと第1領域81の端面53との間に架設されている。軸方向Xと直交する方向(ラック軸8の径方向)から見て、面取り部54は、第1領域81から離れる方向へ膨出する半円形状に形成されている(図4参照)。面取り部54は、この実施形態では、加工の都合上、角部KをC面取りする平面状であるが、これに代え、角部KをR面取りする曲面状であってもよい。いずれにせよ、面取り部54は、角部Kを丸めるように、第2領域82の外周面8Aと第1領域81の端面53とを滑らかにつないでいればよい。
【0030】
図3に戻り、ラックブッシュ10は、ブッシュ本体60と、複数(ここでは2つ)の弾性リング61とを含んでいる(図4も参照)。
ブッシュ本体60は、樹脂製の中空円筒状であり、その中空部分は、軸方向における両側において開放されている。なお、図3に示すようにラックブッシュ10がステアリング装置1内に組み込まれた状態では、ブッシュ本体60の軸方向は、前述した軸方向Xと一致し、ブッシュ本体60の周方向は、前述した周方向Yと一致している。以下では、軸方向Xおよび周方向Yを用いてブッシュ本体60や弾性リング61について説明する。
【0031】
ブッシュ本体60の内径は、ラック軸8の外径よりも僅かに大きく、ブッシュ本体60の外径は、ハウジング9の内周面42における第3内周面42Cの内径とほぼ同じである。
ブッシュ本体60の外周面60Aには、弾性リング61と同数(ここでは2つ)の嵌込溝62が、軸方向Xに間隔を隔てて形成されている。各嵌込溝62は、ブッシュ本体60の外周面60Aの周方向Yにおける全域に亘って形成されており、周方向Yに延びる環状をなしている。
【0032】
ブッシュ本体60の軸方向Xにおける一端の周上1箇所には、ブッシュ本体60の径方向外側へ向かって突出した位置決め突起63が一体的に設けられている。
図6は、図4のA−A矢視断面図である。なお、図6では、ラック軸8の断面形状が図示されているが、ブッシュ本体60については、軸方向Xから見た側面形状が図示されている。また、図6では、弾性リング61の図示が省略されている。図6を参照して、ブッシュ本体60の内周面60B(ラックブッシュ10の内周面でもある)には、ブッシュ本体60の円中心を通る軸線G側へはみ出た凸部64が一体的に設けられている。凸部64は、複数(ここでは5つ)設けられ、周方向Yに間隔を隔てて並んでいる。
【0033】
5つの凸部64のうち、1つの凸部64は、歯側支持部64Aであり、残りの4つの凸部64は、背面側支持部64Bである。周方向Yにおける歯側支持部64Aの中央と軸線Gとを通って軸方向Xに延びる仮想平面Hを規定すると、4つの背面側支持部64Bは、仮想平面Hを挟んで対称となるよう仮想平面Hの両側に2つずつ配置されている。歯側支持部64Aおよび背面側支持部64Bのそれぞれには、軸線Gから離れるように窪む凹湾曲面65が形成されている。凹湾曲面65の曲率は、ラック軸8において第1領域81以外における円弧状の外周面8Aの曲率とほぼ同じである。
【0034】
ブッシュ本体60の内周面60Bにおいて、歯側支持部64Aと、その両側の背面側支持部64Bとの間には、軸線Gから離れるように窪んだ逃げ部66が形成されている。逃げ部66は、周方向Yにおける歯側支持部64Aの両側に1つずつ位置し、ブッシュ本体60の内周面60Bを軸方向Xに沿って切り欠く溝状に形成されている。
図3を参照して、弾性リング61は、ゴム等の弾性材料で形成された環状である。弾性リング61として、たとえばOリングを用いることができる。弾性リング61の周方向に直交する平面で切断したときの弾性リング61の断面は、たとえば、円形状をなしている。弾性リング61は、ブッシュ本体60の嵌込溝62に1つずつ嵌め込まれている。
【0035】
ラックブッシュ10は、ハウジング9の中空部分40に収容されていて、ブッシュ本体60の外周面60Aは、ハウジング9の第3内周面42Cに面接触している。弾性リング61は、第3内周面42Cによって圧縮されて変形している。ブッシュ本体60の位置決め突起63がハウジング9の内周面42の段部44の切り欠き46に嵌まり込むことによって、ラックブッシュ10がハウジング9に対して周方向Yに位置決めされている。
【0036】
環状のプラグ70がハウジング9の第2内周面42Bに対して圧入により嵌め込まれる。または、プラグ70の外周面および第2内周面42Bのそれぞれにはねじ山(図示せず)が形成されており、プラグ70が第2内周面42Bに対してねじ締結される。ラックブッシュ10は、プラグ70と段部45とによって軸方向Xから挟まれており、これによってハウジング9に対して軸方向Xに位置決めされている。プラグ70は、ラック軸8に対して非接触で外嵌されている。
【0037】
以上の説明では、ハウジング9の第1端部14におけるラックブッシュ10について説明したが、第1端部14以外の位置にある他のラックブッシュ10(図1および図2参照)も、ハウジング9の内周面42に対して軸方向Xおよび周方向Yの両方に位置決めされている。
それぞれのラックブッシュ10では、ブッシュ本体60の内周面60Bがラック軸8の外周面8Aに対して外嵌されている。この状態のラックブッシュ10は、第1領域81と第2領域82(図3では、開口41に近い位置にある第2領域82)との境界の角部Kの付近における当該第2領域82と、軸方向Xにおいて同じ位置にある。また、ラック軸8の軸線Jと、ブッシュ本体60の軸線Gとが一致している。そして、前述したように圧縮された状態にある弾性リング61が、ブッシュ本体60を介してラック軸8を弾性的に支持している。
【0038】
図6を参照して、ブッシュ本体60の内周面60Bでは、歯側支持部64Aと、ラック軸8の外周面8Aの第1領域81および第2領域82のそれぞれとが、周方向Yにおいて同じ位置にある。歯側支持部64Aは、その凹湾曲面65において第2領域82に接触(詳しくは、面接触)することによって、ラック軸8をラック歯12側(周方向Yにおいて第1領域81および第2領域82と一致する範囲)から支持している。
【0039】
ここで、ラック軸8の外周面8Aにおいて周方向Yで第1領域81から外れた位置にある領域(図6において破線矢印で示した範囲の領域)を「第3領域83」または「背面8B」と定義する。4つの背面側支持部64Bのそれぞれは、その凹湾曲面65において第3領域83に接触(詳しくは、面接触)することによって、ラック軸8をラック歯12側以外の背面8B側から支持している。
【0040】
このように、ラックブッシュ10は、1つの歯側支持部64Aと4つの背面側支持部64Bという5箇所で、ラック軸8を支持している。
ラック軸8は、車輪19の転舵のために軸方向Xに沿って移動する際、各ラックブッシュ10の歯側支持部64Aおよび背面側支持部64Bのそれぞれに対して摺動する。
以上のステアリング装置1では、前述したように、ラック軸8では、図3に示すように、軸方向Xにおける第1領域81の端部81Cと、外周面8Aにおいて軸方向Xに沿って端部81Cに隣接する第2領域82との境界の角部Kは、面取り部54によって面取りされているので鋭利に尖っておらず、比較的滑らかになっている。そのため、角部Kがラック軸8の移動に応じてラックブッシュ10に対して摺動する際に、角部Kによってラックブッシュ10の内周面(特に、歯側支持部64A)が削られることを抑制できる。たとえば操舵部材2が据え切りで操舵されることによって、ラック軸8がブッシュ本体60の内周面60Bに強く押し付けられた状態で摺動するような過酷な状況でも、角部Kによってラックブッシュ10が削られることを抑制できる。よって、ラックブッシュ10の耐久性を向上できる。
【0041】
なお、図6に示すように、軸方向Xにおけるブッシュ本体60の端面60Cとブッシュ本体60の内周面60Bとの境界には、この境界の角部を面取りする面取り部72が設けられている。面取り部72によって、ラック軸8は、ラックブッシュ10に引っ掛かることなく円滑に移動できるので、ラック軸8の角部Kによってラックブッシュ10が削られることを一層抑制できる。
【0042】
また、ラックブッシュ10は、背面側支持部64Bによって背面8B側へのラック軸8の移動を規制できるので、ラック軸8の背面8B側の部分がハウジング9の内周面42にぶつかることによって背面8B側において打音が発生することを抑制できる。
さらに、ラックブッシュ10は、歯側支持部64Aによってピニオン軸7側へのラック軸8の移動も規制できる。これにより、ラック軸8のラック歯12側の部分(第2領域82の外周面8Aも含む)がハウジング9の内周面42やピニオン歯11にぶつかることによってラック歯12側において打音が発生することを抑制できる。
【0043】
特に、歯側支持部64Aは、周方向Yにおいて第1領域81と一致する範囲であるラック歯12側からラック軸8を支持するので、ピニオン軸7側へのラック軸8の移動を確実に規制できる。そのため、ラック歯12側において打音が発生することを効果的に抑制できる。
また、ブッシュ本体60の内周面60Bにおいて歯側支持部64Aの両側に設けられた逃げ部66は、周方向Yにおける第1領域81の両端部81Dと周方向Yで一致しており、両端部81Dから離間するように窪んでいる。そのため、逃げ部66におけるブッシュ本体60の内周面60Bは、ラック軸8に対して常に非接触である。よって、ラック軸8が軸方向Xに移動する際、第1領域81の両端部81Dにおけるラック歯12(軸方向Xと直交する断面におけるラック軸8の肩部分8C)とラックブッシュ10の内周面60Bとの干渉を抑制して、ラック軸8を円滑に移動させることができる。
【0044】
この発明は、以上の実施形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
たとえば、軸方向Xにおける第1領域81Aの両側の端部81Cのうち、ラックブッシュ10に接触しない端部81C(図3における右側の端部81C)では、面取り部54が省略されてもよい。
【0045】
また、ラックブッシュ10のブッシュ本体60は、周方向Yに連続した円筒状であったが、周方向Yにおける途中が途切れた略C字状の断面を有してもよい。
また、歯側支持部64Aおよび背面側支持部64Bのそれぞれの個数や配置は、任意に変更できる。
【符号の説明】
【0046】
1…ステアリング装置、7…ピニオン軸、8…ラック軸、8A…外周面、8B…背面、10…ラックブッシュ、11…ピニオン歯、12…ラック歯、60B…(ラックブッシュのブッシュ本体の)内周面、64A…歯側支持部、64B…背面側支持部、66…逃げ部、81…第1領域、81D…両端部、82…第2領域、83…第3領域、J…(ラック軸の)軸線、X…軸方向、Y…周方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6