(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力軸に入力される動力をベルト変速比の変更により無段階に変速するベルト式の無段変速機構と、前記入力軸に入力される動力を一定のスプリット変速比で変速する一定変速機構と、前記無段変速機構からの動力と前記一定変速機構からの動力とを合成して出力軸に出力する合成用歯車機構と、第1係合要素と、第2係合要素とを備え、前記第1係合要素および前記第2係合要素の掛け替えにより、前記入力軸に入力される動力が前記無段変速機構を経由して前記合成用歯車機構に伝達されるベルトモードと、前記入力軸に入力される動力が前記無段変速機構および前記一定変速機構を経由して前記合成用歯車機構に伝達されるスプリットモードとに切り替えられる動力分割式無段変速機を制御する制御装置であって、
前記ベルトモードと前記スプリットモードとの切り替えの際に、前記ベルト変速比の変化速度から前記ベルト変速比が前記スプリット変速比と一致するタイミングを予測し、当該タイミングから所定時間遡ったタイミングで、係合側の前記第1係合要素への油圧の供給の開始を指示する開始指示手段と、
前記ベルトモードと前記スプリットモードとの切り替えの際に、予め定められた通常制御により、解放側の前記第2係合要素に供給される油圧を前記第2係合要素が解放される油圧に低下させる第1油圧制御手段と、
前記ベルトモードと前記スプリットモードとの切り替えの際に、前記通常制御に代えて、解放側の前記第2係合要素に供給される油圧を低下させることにより、前記入力軸の回転数が前記ベルト変速比に応じた回転数よりも上昇する吹き状態を発生させ、当該吹き状態が維持されるように前記第2係合要素に供給される油圧を制御し、前記第1係合要素の係合により前記吹き状態が解消された後、前記第2係合要素に供給される油圧を前記第2係合要素が解放される油圧に低下させる第2油圧制御手段と、
前記第2油圧制御手段による制御の実行時に、前記開始指示手段による前記指示から前記吹き状態が解消されるまでの時間を計測する計時手段と、
前記所定時間を前記計時手段により計測された時間に応じて学習補正する学習補正手段とを含む、制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動源の動力を2系統に分割して伝達可能な変速機は、動力分割式無段変速機として、出願人も提案している。
【0005】
この提案に係る動力分割式無段変速機には、変速比の変更により動力を無段階に変速する無段変速機構と、動力を一定の変速比で変速する一定変速機構と、無段変速機構を経由する動力と一定変速機構を経由する動力とを合成するための遊星歯車機構を含む合成用歯車機構とが備えられている。無段変速機構は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。合成用歯車機構のサンギヤには、無段変速機構のセカンダリ軸が接続されている。また、合成用歯車機構のリングギヤには、出力軸が接続されている。出力軸の回転は、デファレンシャルギヤに伝達され、デファレンシャルギヤから左右の駆動輪に伝達される。
【0006】
この動力分割式無段変速機は、動力伝達モード(変速モード)として、動力が無段変速機構のみを経由して合成用歯車機構に伝達されるベルトモードと、動力が無段変速機構および一定変速機構を経由して合成用歯車機構に伝達されるスプリットモードとを有している。
【0007】
ベルトモードでは、合成用歯車機構のサンギヤとリングギヤとが直結され、合成用歯車機構のキャリアがフリーな状態にされる。そのため、無段変速機構から出力される動力により、サンギヤおよびリングギヤが一体的に回転し、出力軸がリングギヤと一体的に回転する。したがって、ベルトモードでは、動力分割式無段変速機の変速比が無段変速機構の変速比(ベルト変速比)と一致する。
【0008】
スプリットモードでは、サンギヤとリングギヤとの直結が解除され、一定変速機構を経由する動力が合成用歯車機構のキャリアに入力される。一定変速機構の変速比(スプリット変速比)が一定で不変であるので、動力分割式無段変速機に入力される回転速度が一定であれば、キャリアの回転速度が一定に保持される。そのため、ベルト変速比が上げられて、サンギヤの回転速度が下げられると、リングギヤおよびリングギヤに接続された出力軸の回転速度が上がり、動力分割式無段変速機の変速比が下がる。したがって、スプリットモードでは、動力分割式無段変速機の変速比がスプリット変速比以下となる。
【0009】
図8は、ベルトモードからスプリットモードに切り替えられる際に係合される係合要素の油圧およびベルト変速比の時間変化を示す図である。
【0010】
ベルトモードからスプリットモードへの切り替えは、2個の係合要素の掴み替え(掛け替え)により達成される。このとき、解放側の係合要素が係合した状態で、係合側の係合要素に供給される油圧が上げられて、2個の係合要素の両方が係合した状態が瞬間的に作られた後、解放側の係合要素に供給される油圧が低減される。
【0011】
係合側の係合要素に供給される油圧を上げるため、その油圧を制御するソレノイドバルブへの電流の供給が開始される。この電流の供給を開始するタイミングT11は、ベルト変速比の低下速度(ベルト変速比の時間変化を示す直線の傾きθに相当。)に基づいて、ベルト変速比がスプリット変速比と一致するタイミングT12が予測され、その予測されたタイミングT12から一定時間Δtだけ遡った時点に設定される。
【0012】
図8に実線で示されるように、電流の供給開始から一定時間Δtが経過した時点で、係合要素に供給される油圧が立ち上がると、ベルト変速比がスプリット変速比とほぼ一致した状態で係合要素が係合される。この場合、解放側の係合要素に供給される油圧が低減されると、2個の係合要素が良好に掴み替えられる。
【0013】
ところが、係合要素のピストンストロークの経時変化や油圧を発生させるポンプの性能の経時変化など、種々の要因により、
図8に破線で示されるように、電流の供給開始から係合要素に供給される油圧が立ち上がるまでの時間にばらつきが生じると、ベルト変速比がスプリット変速比からずれた状態で係合要素が係合される。ベルト変速比とスプリット変速比とがずれた状態で、係合要素が係合されると、合成用歯車機構のサンギヤとリングギヤとの差回転を吸収するよう、ベルトの滑りが発生し、その滑りによりベルトの耐久性が低下する。
【0014】
本発明の目的は、第1係合要素と第2係合要素との掛け替えの際に、ベルト変速比がスプリット変速比からずれた状態で係合側の第1係合要素が係合されることを抑制できる、動力分割式無段変速機の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の目的を達成するため、本発明に係る動力分割式無段変速機の制御装置は、入力軸に入力される動力をベルト変速比の変更により無段階に変速するベルト式の無段変速機構と、入力軸に入力される動力を一定のスプリット変速比で変速する一定変速機構と、無段変速機構からの動力と一定変速機構からの動力とを合成して出力軸に出力する合成用歯車機構と、第1係合要素と、第2係合要素とを備え、第1係合要素および第2係合要素の掛け替えにより、入力軸に入力される動力が無段変速機構を経由して合成用歯車機構に伝達されるベルトモードと、入力軸に入力される動力が無段変速機構および一定変速機構を経由して合成用歯車機構に伝達されるスプリットモードとに切り替えられる動力分割式無段変速機を制御する制御装置であって、ベルトモードとスプリットモードとの切り替えの際に、ベルト変速比の変化速度からベルト変速比がスプリット変速比と一致するタイミングを予測し、当該タイミングから所定時間遡ったタイミングで、係合側の第1係合要素への油圧の供給の開始を指示する開始指示手段と、ベルトモードとスプリットモードとの切り替えの際に、予め定められた通常制御により、解放側の第2係合要素に供給される油圧を第2係合要素が解放される油圧に低下させる第1油圧制御手段と、ベルトモードとスプリットモードとの切り替えの際に、通常制御に代えて、解放側の第2係合要素に供給される油圧を低下させることにより、入力軸の回転数がベルト変速比に応じた回転数よりも上昇する吹き状態を発生させ、当該吹き状態が維持されるように第2係合要素に供給される油圧を制御し、第1係合要素の係合により吹き状態が解消された後、第2係合要素に供給される油圧を第2係合要素が解放される油圧に低下させる第2油圧制御手段と、第2油圧制御手段による制御の実行時に、開始指示手段による指示から吹き状態が解消されるまでの時間を計測する計時手段と、所定時間を計時手段により計測された時間に応じて学習補正する学習補正手段とを含む。
【0016】
この構成によれば、ベルトモードとスプリットモードとの切り替えの際に、ベルト変速比の変化速度からベルト変速比とスプリット変速比とが一致するタイミングが予測され、当該タイミングから所定時間遡ったタイミングで、係合側の第1係合要素への油圧の供給の開始が指示される。一方、解放側の第2係合要素に供給される油圧については、通常制御により、第2係合要素が解放される油圧まで下げられる場合と、入力軸の回転数がベルト変速比に応じた回転数よりも上昇する吹き状態を発生させる制御の後、第2係合要素が解放される油圧まで下げられる場合とがある。後者の場合、第1係合要素への油圧の供給の開始の指示から吹き状態が解消するまでの時間が計測される。そして、その計測された時間に応じて、第1係合要素への油圧の供給の開始を指示するタイミングを設定するための所定時間が学習補正される。たとえば、現在設定されている所定時間が計測された時間よりも長い場合、所定時間が短くなるように補正され、現在設定されている所定時間が計測された時間よりも短い場合、所定時間が長くなるように補正される。
【0017】
所定時間の学習補正が行われることにより、ベルト変速比がスプリット変速比に近い状態で第1係合要素が係合するように、第1係合要素への油圧の供給の開始を指示するタイミングを設定することができる。そのため、第1係合要素と第2係合要素との掛け替えの際に、ベルト変速比がスプリット変速比からずれた状態で第1係合要素が係合されることを抑制できる。その結果、ベルトの滑りの発生を抑制でき、ひいては、ベルトの耐久性の低下を抑制することができる。
【0018】
第2油圧制御手段による制御(所定時間の学習補正)は、その初回が動力分割式無段変速機の初期状態で実行されることが好ましい。
【0019】
これにより、第1係合要素への油圧の供給の開始の指示から当該油圧が立ち上がるまでの時間に、動力分割式無段変速機の個体差によるばらつきがあっても、初回の学習補正により、所定時間を各個体に応じた適切な時間に設定することができ、各個体でベルト変速比がスプリット変速比からずれた状態で係合側の第1係合要素が係合されることを抑制できる。
【0020】
また、第2油圧制御手段による制御(所定時間の学習補正)は、車両が所定距離走行する度に実行されるなど、所定の間隔で実行されることが好ましい。
【0021】
これにより、第1係合要素のピストンストロークの経時変化や油圧を発生させるポンプの性能の経時変化などが生じても、所定の間隔で実行される学習補正により、所定時間を経時変化に応じた適切な時間に設定することができ、ベルト変速比がスプリット変速比からずれた状態で係合側の第1係合要素が係合されることを抑制できる。
【0022】
また、第2油圧制御手段による制御(所定時間の学習補正)後、通常は、第1油圧制御手段による制御を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、第1係合要素と第2係合要素との掛け替えの際に、ベルト変速比がスプリット変速比からずれた状態で第1係合要素が係合されることを抑制できる。その結果、ベルトの滑りの発生を抑制でき、ひいては、ベルトの耐久性の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置が搭載される車両1の駆動系統の構成を示すスケルトン図である。
【0028】
トルクコンバータ3は、トルコン入力軸11、トルコン出力軸12、ポンプインペラ13、タービンランナ14およびロックアップクラッチ15を備えている。トルコン入力軸11およびトルコン出力軸12は、エンジン2の出力軸16(以下「E/G出力軸16」という。)と同一の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。トルコン入力軸11には、E/G出力軸16が連結されている。ポンプインペラ13の中心には、トルコン入力軸11が接続され、ポンプインペラ13は、トルコン入力軸11と一体的に回転可能に設けられている。タービンランナ14の中心には、トルコン出力軸12が接続され、タービンランナ14は、トルコン出力軸12と一体的に回転可能に設けられている。ロックアップクラッチ15が係合されると、ポンプインペラ13とタービンランナ14とが直結され、ロックアップクラッチ15が解放されると、ポンプインペラ13とタービンランナ14とが分離される。
【0029】
ロックアップクラッチ15が解放された状態において、E/G出力軸16からトルコン入力軸11に動力が入力されると、トルコン入力軸11およびポンプインペラ13が回転する。ポンプインペラ13が回転すると、ポンプインペラ13からタービンランナ14に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ14で受けられて、タービンランナ14が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ14には、トルコン入力軸11に入力される動力(トルク)よりも大きな動力が発生する。そして、そのタービンランナ14の動力がトルコン出力軸12から出力される。
【0030】
ロックアップクラッチ15が係合された状態では、E/G出力軸16からトルコン入力軸11に動力が入力されると、トルコン入力軸11、ポンプインペラ13およびタービンランナ14が一体となって回転する。そして、タービンランナ14の回転による動力がトルコン出力軸12から出力される。
【0031】
動力分割式無段変速機4は、トルクコンバータ3から出力される動力をデファレンシャルギヤ5に伝達する。動力分割式無段変速機4は、T/M入力軸21、T/M出力軸22、無段変速機構23、一定変速機構24および合成用歯車機構25を備えている。
【0032】
T/M入力軸21には、トルコン出力軸12が連結されている。
【0033】
T/M出力軸22は、T/M入力軸21と平行に設けられている。
【0034】
無段変速機構23は、公知のベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)と同様の構成を有している。具体的には、無段変速機構23は、T/M入力軸21に連結されたプライマリ軸31と、プライマリ軸31と平行に設けられたセカンダリ軸32と、プライマリ軸31に相対回転不能に支持されたプライマリプーリ33と、セカンダリ軸32に相対回転不能に支持されたセカンダリプーリ34と、プライマリプーリ33とセカンダリプーリ34とに巻き掛けられたベルト35とを備えている。
【0035】
一定変速機構24は、遊星歯車機構41、スプリットドライブギヤ42、スプリットドリブンギヤ43およびアイドルギヤ44を備えている。
【0036】
遊星歯車機構41には、キャリア45、サンギヤ46およびリングギヤ47が含まれる。キャリア45は、T/M入力軸21に相対回転不能に支持されている。キャリア45は、複数個のピニオンギヤ48を回転可能に支持している。複数のピニオンギヤ48は、円周上に配置されている。サンギヤ46は、T/M入力軸21に相対回転可能に外嵌されて、各ピニオンギヤ48にT/M入力軸21の回転径方向の内側から噛合している。リングギヤ47は、キャリア45の周囲を取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ48にT/M入力軸21の回転径方向の外側から噛合している。
【0037】
スプリットドライブギヤ42は、サンギヤ46と一体回転可能に設けられている。
【0038】
スプリットドリブンギヤ43は、次に述べる合成用歯車機構25のキャリア51の外周に、キャリア51と一体回転可能に設けられている。すなわち、合成用歯車機構25のキャリア51には、一定変速機構24が接続されている。
【0039】
アイドルギヤ44は、スプリットドライブギヤ42およびスプリットドリブンギヤ43と噛合している。
【0040】
合成用歯車機構25は、遊星歯車機構の構成を有している。すなわち、合成用歯車機構25は、キャリア51、サンギヤ52およびリングギヤ53を備えている。キャリア51の中心には、無段変速機構23のセカンダリ軸32が相対回転可能に挿通されている。キャリア51は、複数個のピニオンギヤ54を回転可能に支持している。複数のピニオンギヤ54は、円周上に配置されている。サンギヤ52は、セカンダリ軸32に相対回転不能に支持されて、各ピニオンギヤ54にセカンダリ軸32の回転径方向の内側から噛合している。リングギヤ53は、キャリア51の周囲を取り囲む円環状を有し、各ピニオンギヤ54にセカンダリ軸32の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ53の中心には、T/M出力軸22の一端が接続され、リングギヤ53は、T/M出力軸22と一体回転可能に設けられている。T/M出力軸22の他端部には、出力ギヤ55が相対回転不能に支持されている。
【0041】
出力ギヤ55の回転は、アイドルギヤ機構6を経由して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。アイドルギヤ機構6には、T/M出力軸22と平行に設けられたアイドル軸61と、アイドル軸61に相対回転不能に支持された第1アイドルギヤ62および第2アイドルギヤ63とが含まれる。第1アイドルギヤ62は、出力ギヤ55と噛合している。第2アイドルギヤ63は、デファレンシャルギヤ5に備えられたリングギヤ64と噛合している。
【0042】
また、動力分割式無段変速機4は、ロークラッチC1、リバースブレーキB1およびハイブレーキB2を備えている。
【0043】
ロークラッチC1は、T/M出力軸22とセカンダリ軸32とを直結する係合状態(オン)と、その直結を解除する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0044】
リバースブレーキB1は、スプリットドライブギヤ42(サンギヤ46)を制動する係合状態(オン)と、スプリットドライブギヤ42の回転を許容する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0045】
ハイブレーキB2は、リングギヤ47を制動する係合状態(オン)と、リングギヤ47の回転を許容する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
【0047】
図2は、車両1の前進時および後進時におけるロークラッチC1、リバースブレーキB1およびハイブレーキB2の状態を示す図である。
図3は、無段変速機構23の変速比γ
bと動力分割式無段変速機4の変速比(以下「T/M変速比」という。)γ
allとの関係を示す図である。
【0048】
図2において、「○」は、ロークラッチC1、リバースブレーキB1およびハイブレーキB2が係合状態であることを示している。
【0049】
動力分割式無段変速機4は、車両1の前進時の動力伝達モードとして、ベルトモードおよびスプリットモードを有している。
【0050】
ベルトモードでは、ハイブレーキB2およびリバースブレーキB1が解放される。そして、ロークラッチC1が係合される。これにより、T/M出力軸22およびセカンダリ軸32が直結される。
【0051】
T/M入力軸21に入力される動力は、無段変速機構23のプライマリ軸31に伝達され、プライマリ軸31およびプライマリプーリ33を回転させる。プライマリプーリ33の回転は、ベルト35を介して、セカンダリプーリ34に伝達され、セカンダリプーリ34およびセカンダリ軸32を回転させる。ロークラッチC1が係合されているので、T/M出力軸22がセカンダリ軸32と一体に回転する。したがって、ベルトモードでは、
図3に示されるように、T/M変速比γ
allがベルト変速比γ
bと一致する。
【0052】
T/M出力軸22の回転は、出力ギヤ55、第1アイドルギヤ62、アイドル軸61および第2アイドルギヤ63を介して、デファレンシャルギヤ5のリングギヤ64に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト71,72が前進方向に回転する。
【0053】
図4は、合成用歯車機構25のキャリア51、サンギヤ52およびリングギヤ53の回転数の関係を示す共線図である。
【0054】
スプリットモードでは、
図2に示されるように、ハイブレーキB2が係合され、リバースブレーキB1およびロークラッチC1が解放される。ハイブレーキB2が係合されることにより、一定変速機構24のリングギヤ47が制動される。また、ロークラッチC1が解放されることにより、T/M出力軸22とセカンダリ軸32との直結が解除される。
【0055】
T/M入力軸21に入力される動力は、無段変速機構23のプライマリ軸31に伝達され、プライマリ軸31およびプライマリプーリ33を回転させる。プライマリプーリ33の回転は、ベルト35を介して、セカンダリプーリ34に伝達され、セカンダリプーリ34およびセカンダリ軸32を回転させる。セカンダリ軸32の回転により、合成用歯車機構25のサンギヤ52が回転する。
【0056】
また、一定変速機構24のリングギヤ47が制動されているので、T/M入力軸21に入力される動力は、一定変速機構24のキャリア45を公転させるとともに、そのキャリア45に保持されているピニオンギヤ48を回転させる。ピニオンギヤ48の回転により、ピニオンギヤ48からサンギヤ46に動力が入力される。これにより、ピニオンギヤ48およびスプリットドライブギヤ42が回転する。スプリットドライブギヤ42の回転は、アイドルギヤ44を介して、スプリットドリブンギヤ43に伝達され、スプリットドリブンギヤ43および合成用歯車機構25のキャリア51を回転させる。
【0057】
一定変速機構24の変速比(以下「スプリット変速比」という。)γ
gが一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、T/M入力軸21に入力される動力が一定であれば、合成用歯車機構25のキャリア51の回転が一定速度に保持される。そのため、ベルト変速比γ
bが上げられると、
図4に示されるように、合成用歯車機構25のサンギヤ52の回転速度が下がるので、合成用歯車機構25のリングギヤ53(T/M出力軸22)の回転速度が上がる。その結果、スプリットモードでは、
図3に示されるように、ベルト変速比γ
bが大きいほど、T/M変速比γ
allが下がる。
【0058】
T/M出力軸22の回転は、出力ギヤ55、第1アイドルギヤ62、アイドル軸61および第2アイドルギヤ63を介して、デファレンシャルギヤ5のリングギヤ64に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト71,72が前進方向に回転する。
【0059】
車両1を後進させるための後進モードでは、
図2に示されるように、ハイブレーキB2およびロークラッチC1が解放される。そして、リバースブレーキB1が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ42(サンギヤ46)が制動される。スプリットドライブギヤ42の制動により、一定変速機構24のアイドルギヤ44が回転不能となり、スプリットドリブンギヤ43およびキャリア51が回転不能となる。
【0060】
T/M入力軸21に入力される動力は、無段変速機構23のプライマリ軸31に伝達され、プライマリ軸31およびプライマリプーリ33を回転させる。プライマリプーリ33の回転は、ベルト35を介して、セカンダリプーリ34に伝達され、セカンダリプーリ34およびセカンダリ軸32を回転させる。セカンダリ軸32の回転により、合成用歯車機構25のサンギヤ52が回転する。キャリア51が回転不能なため、サンギヤ52が回転すると、リングギヤ53がサンギヤ52と逆方向に回転する。このリングギヤ53の回転方向は、ベルトモードおよびスプリットモードにおけるリングギヤ53の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ53と一体にT/M出力軸22が回転する。T/M出力軸22の回転は、出力ギヤ55、第1アイドルギヤ62、アイドル軸61および第2アイドルギヤ63を介して、デファレンシャルギヤ5のリングギヤ64に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト71,72が後進方向に回転する。
【0062】
図5は、車両1の電気的構成の要部を示すブロック図である。
【0063】
車両1には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されている。各ECUは、CPUおよびメモリなどにより構成され、たとえば、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。複数のECUには、駆動系統を制御するためのECU81が含まれる。
【0064】
ECU81には、プライマリ回転数センサ82およびセカンダリ回転数センサ83が接続されている。
【0065】
プライマリ回転数センサ82は、たとえば、無段変速機構23のプライマリプーリ33の回転に同期したパルス信号をECU81に入力する。ECU81は、プライマリ回転数センサ82から入力されるパルス信号の周波数をプライマリ軸31の回転数(プライマリ回転数)に換算する。
【0066】
セカンダリ回転数センサ83は、たとえば、無段変速機構23のセカンダリプーリ34の回転に同期したパルス信号をECU81に入力する。ECU81は、セカンダリ回転数センサ83から入力されるパルス信号の周波数をセカンダリ軸32の回転数(セカンダリ回転数)に換算する。
【0067】
ECU81は、各種センサから入力される信号から得られる数値および他のECUから入力される種々の情報などに基づいて、動力分割式無段変速機4の各部に油圧を供給するための油圧回路84に含まれる各種のバルブ(図示せず)などを制御する。バルブには、ロークラッチC1、リバースブレーキB1およびハイブレーキB2に供給される油圧をそれぞれ制御する油圧制御バルブなどが含まれる。油圧制御バルブには、たとえば、リニアソレノイドバルブが用いられている。
【0069】
図6は、ベルトモードからスプリットモードへの切り替えの際に実行される通常制御について説明するためのタイミングチャートであり、ベルト変速比γ
b、B2電流、C1圧およびB2圧の時間変化を示す。
【0070】
動力分割式無段変速機4のベルトモードからスプリットモードへの切り替えは、ロークラッチC1とハイブレーキB2との掴み替え(掛け替え)により達成される。すなわち、ベルトモードで係合されているロークラッチC1が解放され、ベルトモードで解放されているハイブレーキB2が係合される。
【0071】
ベルトモードからスプリットモードに切り替える必要が生じると、ECU81により、ロークラッチC1用の油圧制御バルブに供給される電流が制御されて、ロークラッチC1に供給される油圧であるC1圧が解放初期圧に下げられる(時刻T1)。解放初期圧は、ロークラッチC1に滑りが生じない程度の油圧に設定される。
【0072】
また、ECU81により、ベルト変速比γ
bの低下速度(ベルト変速比の時間変化を示す直線の傾きθに相当。)が求められる。ベルト変速比γ
bは、プライマリ回転数をセカンダリ回転数で除することにより求めることができ、ベルト変速比γ
bの低下速度は、ベルト変速比γ
bを時間微分することにより求めることができる。
【0073】
その後、ECU81により、ベルト変速比γ
bおよびベルト変速比γ
bの低下速度に基づいて、ベルト変速比γ
bがスプリット変速比γ
gと一致するタイミング(時刻T3)が予測される。
【0074】
そして、その予測されたタイミング(時刻T3)から所定時間Δt1だけ遡ったタイミングが到来すると(時刻T2)、ECU81により、ハイブレーキB2用の油圧制御バルブに駆動電流(B2電流)を供給するドライバに電流出力を開始させる指示信号が送信され、油圧制御バルブへのB2電流の供給が開始される。これにより、ハイブレーキB2用の油圧制御バルブからB2圧が出力される。
【0075】
ハイブレーキB2用の油圧制御バルブから出力されるB2圧は、ベルト変速比γ
bがスプリット変速比γ
gと一致するタイミング(時刻T3)付近で立ち上がる。このB2圧の立ち上がりにより、ハイブレーキB2が係合される。その結果、ロークラッチC1およびハイブレーキB2の両方が係合した状態となる。
【0076】
その後、ECU81により、ロークラッチC1用の油圧制御バルブに供給される電流が制御されて、ロークラッチC1用の油圧制御バルブから出力されるC1圧が下げられる(時刻T4)。これにより、ロークラッチC1が解放され、ロークラッチC1とハイブレーキB2との掴み替えによるベルトモードからスプリットモードへの切り替えが完了となる。
【0078】
図7は、ベルトモードからスプリットモードへの切り替えの際に、所定時間Δt1の学習のために実行される学習用制御について説明するためのタイミングチャートであり、ベルト変速比γ
b、タービン回転数、B2電流、C1圧およびB2圧の時間変化を示す。
【0079】
図7に示される学習用制御は、ベルトモードからスプリットモードへの切り替えの際に、
図6に示される通常制御に代えて実行される制御である。学習用制御は、その初回が動力分割式無段変速機4の初期状態で実行され、その後は、車両1が所定距離走行する度に実行される。
【0080】
学習用制御では、ベルトモードからスプリットモードに切り替える必要が生じると、ECU81により、ロークラッチC1用の油圧制御バルブに供給される電流が制御されて、C1圧が解放初期圧に一気に下げられた後(時刻T5)、C1圧がさらに漸減される。ハイブレーキB2が解放されているので、C1圧の低下が進むと、ロークラッチC1に滑りが発生して、タービン回転数がベルト変速比γ
bに応じた回転数よりも上昇する吹き状態が発生する(時刻T6)。この吹き状態が発生すると、その後は、吹き状態が維持されるように、ECU81により、C1圧が制御(ロークラッチC1用の油圧制御バルブに供給される電流が制御)される。
【0081】
なお、タービン回転数は、トルクコンバータ3のタービンランナ14の回転数であり、T/M入力軸21の回転数と同じである。
【0082】
また、ECU81により、ベルト変速比γ
bおよびその低下速度が求められ、ベルト変速比γ
bおよびその低下速度に基づいて、ベルト変速比γ
bがスプリット変速比γ
gと一致するタイミングが予測される。
【0083】
そして、その予測されたタイミングから所定時間Δt1だけ遡ったタイミングが到来すると、ECU81により、ハイブレーキB2用の油圧制御バルブへのB2電流の供給が開始される(時刻T7)。これにより、ハイブレーキB2用の油圧制御バルブからB2圧が出力される。また、B2電流の供給の開始とともに、経過時間の計測が開始される。
【0084】
ハイブレーキB2に供給されるB2圧が立ち上がり、ハイブレーキB2が係合されると、タービン回転数がベルト変速比γ
bに応じた回転数に低下し、吹き状態が解消される(時刻T8)。吹き状態が解消されると、経過時間の計測が停止され、B2電流の供給の開始から吹き状態の解消までの時間Δt2が取得される。その後、ECU81により、ロークラッチC1用の油圧制御バルブに供給される電流が制御されて、ロークラッチC1用の油圧制御バルブから出力されるC1圧が下げられる(時刻T9)。これにより、ロークラッチC1が解放され、ロークラッチC1とハイブレーキB2との掴み替えによるベルトモードからスプリットモードへの切り替えが完了となる。
【0085】
そして、B2電流の供給の開始から吹き状態の解消までの時間Δt2に応じて、所定時間Δt1の学習補正が行われる。具体的には、現在設定されている所定時間Δt1が計測された時間Δt2よりも長い場合、所定時間Δt1が短くなるように補正され、現在設定されている所定時間Δt1が計測された時間Δt2よりも短い場合、所定時間Δt1が長くなるように補正される。
【0087】
以上のように、所定時間Δt1の学習補正が行われることにより、ベルト変速比γ
bがスプリット変速比γ
gに近い状態でハイブレーキB2が係合するように、ハイブレーキB2への油圧の供給の開始を指示するタイミング、つまりハイブレーキB2用の油圧制御バルブへのB2電流の供給を開始するタイミングを設定することができる。そのため、ハイブレーキB2とロークラッチC1との掛け替えの際に、ベルト変速比γ
bがスプリット変速比γ
gからずれた状態でハイブレーキB2が係合されることを抑制できる。その結果、動力分割式無段変速機4のベルト35の滑りの発生を抑制でき、ひいては、ベルト35の耐久性の低下を抑制することができる。
【0088】
また、学習用制御の初回は、動力分割式無段変速機4の初期状態で実行される。これにより、ハイブレーキB2への油圧の供給の開始の指示から当該油圧が立ち上がるまでの時間に、動力分割式無段変速機4の個体差によるばらつきがあっても、初回の学習補正により、所定時間Δt1を各個体に応じた適切な時間に設定することができ、各個体でベルト変速比γ
bがスプリット変速比γ
gからずれた状態でハイブレーキB2が係合されることを抑制できる。
【0089】
学習用制御の2回目以降は、車両1が所定距離走行する度に実行される。これにより、ハイブレーキB2のピストンストロークの経時変化や油圧を発生させるポンプの性能の経時変化などが生じても、所定の間隔で実行される学習補正により、所定時間Δt1を経時変化に応じた適切な時間に設定することができ、ベルト変速比γ
bがスプリット変速比γ
gからずれた状態でハイブレーキB2が係合されることを抑制できる。
【0091】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0092】
たとえば、前述の実施形態では、ベルトモードからスプリットモードに切り替えられる際の制御を取り上げて説明したが、スプリットモードからベルトモードに切り替えられる際に、ベルトモードからスプリットモードへの切り替えの際の制御と同様な制御が実行されてもよい。
【0093】
これにより、スプリットモードからベルトモードへの切り替えの際に、ベルト変速比γ
bがスプリット変速比γ
gからずれた状態でロークラッチC1が係合されることを抑制できる。
【0094】
また、
図7に示される学習用制御では、吹き状態の発生後にハイブレーキB2用の油圧制御バルブへのB2電流の供給が開始される例が示されているが、ハイブレーキB2用の油圧制御バルブへのB2電流の供給の開始後に吹き状態が発生するように、ロークラッチC1に供給されるC1圧が制御されてもよい。たとえば、ハイブレーキB2用の油圧制御バルブへのB2電流の供給の開始からB2圧が立ち上がるまでの最短時間を予め実験で求めておき、ベルト変速比γ
bがスプリット変速比γ
gと一致するタイミングからその最短時間だけ遡ったタイミング以降に吹き状態が発生するように、ロークラッチC1に供給されるC1圧が制御されてもよい。
【0095】
これにより、吹き状態が継続する時間が短くてすむので、吹き状態が生じていることによる車両1の走行フィーリングの悪化を抑制できる。
【0096】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。