【実施例1】
【0042】
1.ポルフィリン誘導体の合成
本発明にかかるポルフィリン誘導体TAEPを、
図1の合成経路に沿って合成した。なお、理解し易くするため、以下の説明では、同じ化合物については
図1と同じ記号を使用した。
【0043】
(1)カルボン酸アミド(化合物c)の合成
テトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン(化合物a,CAS# 14609-54-2,100 mg, 0.125 mmol) を二口ナスフラスコに入れ、窒素下でジクロロメタン(10mL)を加えた。反応溶液を攪拌しながら、塩化オキサリル(0.25mL, 3mmol)及びN,N-ジメチルホルムアミド(1μL)を加え、窒素下、遮光した状態で室温で19時間攪拌した。反応溶液をアルカリトラップと液体窒素トラップに接続されたロータリーエバポレーターで濃縮し、ジクロロメタン(5mL)で洗浄した。この操作を2回繰り返したのち、反応溶液に窒素下でジクロロメタン(10mL)を加えた(以下、反応溶液1と省略する。)。
【0044】
これとは別に、11-アジド-3,6,9-トリオキサウンデカン-1-アミン(化合物b,CAS# 134179-38-7,318mg, 1.25 mmol)を二口ナスフラスコに測り取り、窒素下でジクロロメタン (5 mL)を加えたのち、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.5mL)を加えた(以下、反応溶液2と省略する。)。その後、反応溶液2を窒素下で反応溶液1に加え、窒素下、遮光した状態で、室温で22時間攪拌した。
【0045】
得られた反応溶液をジクロロメタン(100mL)で希釈したのち、有機層を1N塩酸、1N水酸化ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで脱水して濾過したのち、ロータリーエバポレーターで濃縮、真空乾燥した。真空乾燥物をフラッシュクロマトグラフィーで精製したのち、ロータリーエバポレーターで濃縮、真空乾燥し、濃紫色の粉末を得た(収量: 142.4 mg 、収率: 72 %)。なお、この化合物は核磁気共鳴分光法(
1H NMR)、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR) の測定結果から同定した。その結果を以下に示す。
【0046】
1HNMR (500MHz, CDCl
3): δ [ppm] = 8.83 (s, 8H, pyrrolic-β-CH), 8.29 (d, J = 8.3 Hz, 8H, phenylic CH), 8.21 (d, J = 8.3 Hz 8H, phenylic CH), 7.16 (t, J = 5.2 Hz, 4H, amido), 3.86 (t, J = 4.8 Hz, 8H, N
3CH
2CH
2), 3.83 (d, J = 4.1 Hz, 8H, CONHCH
2), 3.73 (m, 32H, PEG), 3.66 (t, J = 5.2 Hz, 8H, CONHCH
2CH
2), 3.35 (t, J = 4.8 Hz, 8H, N
3CH
2), -2.81 (s, 2H, pyrrolic-NH).
FTIR (neat): 2099 cm
-1 (ν
as N
3), 1100 cm
-1 (ν
as C-O-C).
【0047】
(2)アジド基の還元(化合物dの合成)
トリフェニルホスフィン(99mg, 0.38mmol)を二口ナスフラスコに測り取り、テトラヒドロフラン(2mL)に溶解した。このトリフェニルホスフィン溶液を、化合物c(60mg, 0.038mmol)を測り取ったシュレンク管に加え、窒素下、室温で18時間攪拌した。反応溶液に水(0.2 mL)を加え、再び窒素下、室温で23時間攪拌した。
【0048】
得られた反応液をロータリーエバポレーターで濃縮して真空乾燥した。真空乾燥物を0.5 M 塩酸(50mL)で希釈して、酢酸エチルで3回洗浄した。水層を1N水酸化ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順番で洗浄したのち、クロロホルムにより抽出した。クロロホルム層を硫酸ナトリウムで脱水して濾過して、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮、真空乾燥し、濃紫色のゲル状物質(化合物d)を得た(収量: 62.4mg, quant.)。なお、この化合物は核磁気共鳴分光法(
1H NMR)、質量分析法の測定結果から同定した。その結果を以下に示す。
【0049】
1H NMR (500MHz, CDCl
3): δ [ppm] = 8.82 (s, 8H, pyrrolic-β-CH), 8.27 (d, J = 8.7 Hz, 8H, phenylic CH), 8.24 (d, J = 8.0 Hz 8H, phenylic CH), 7.88 (t, J = 5.1 Hz, 4H, amido), 3.64-3.85 (m, 48H, PEG), 3.50 (t, J = 5.1 Hz, 8H, NH
2CH
2CH
2), 2.83 (t, J = 5.1 Hz, 8H, NH
2CH
2), 1.61 (s, 8H, NH
2), -2.84 (s, 2H, pyrrolic-NH).
m/z (ESI): Calcd. for C
80H
104N
12O
16 [M+2H]
2+ 496.92; found 496.92, Calcd. for C
80H
105N
12O
16 [M+3H]
3+ 744.37; found 744.37.
【実施例2】
【0050】
2.癌細胞死滅効果
本発明のポルフィリン誘導体を光増感剤として使用して、光線力学治療法による癌細胞の死滅効果を調べた。具体的には、以下の手順で調べた。なお、従来からあるポルフィリン誘導体であるMesotetra(4-N-methylpyridyl)porphine tetraiodide(以下、TMPyPと省略する。CAS# 36674-90-5)を実験対照として使用した。
【0051】
(1)癌細胞の培養
HeLa細胞(RIKEN RCB007)を含む細胞培養用培地(D-MEM,1×10
5 cells/mL, 100 μL/well)を、96穴マイクロプレートに入れ、細胞培養用インキュベーターで24時間培養した。なお、同様のプレートを計4枚用意した。
【0052】
(2)光増感剤溶液の調製
実施例1で製造したポルフィリン誘導体TAEP、及びTMPyPのDMSO溶液(TAEP: 2.18 mM, TMPyP: 1.23 mM)を調製した。これらポルフィリン誘導体のDMSO溶液をD-MEM(血清不含)を使用して10μMとなるように希釈した。さらに、これらをD-MEM(血清不含)を使用して段階希釈し、10μM、 8μM、 6μM、 5μM、 4μM、 3μM、 2.5μM、 2μM、 1 μMのポルフィリン誘導体希釈培地を調製した。
【0053】
(3)光線力学治療
インキュベーターから96穴マイクロプレートを取り出し、クリーンベンチにて培地をすべて取り除いた。12連ピペットマンを使用して、96穴マイクロプレートの各ウェルにポルフィリン誘導体希釈培地(100μL/well)をそれぞれ加えて、TAEPの希釈培地を含む96穴マイクロプレート2枚と、TMPyPの希釈培地を含む96穴マイクロプレート2枚を調製した。調製した4枚の96穴マイクロプレートをインキュベーターで24時間培養した。
【0054】
各ポルフィリン希釈溶液を含む96穴マイクロプレートから1枚ずつ選び、選んだ96穴マイクロプレートから培地をクリーンベンチにてすべて取り除き、D-PBS(120μL/well)で2回洗浄し、D-MEM(血清不含, 100μL/well)を加えた。
【0055】
未洗浄の2枚の96穴マイクロプレートと、洗浄済みの2枚の96穴マイクロプレートを暗室に移した。キセノン光源(朝日分光製、MAX-303,λ = 375〜700 nm)を使用して、96穴マイクロプレートに400±20 mW/m
2の光を30分間照射したのち、インキュベーターで20時間培養した。
【0056】
(4)生存率の測定
96穴マイクロプレートの各ウェル中で生存している癌細胞の生存率をMTTアッセイに従って調べた。まず、MTT溶液(2.5 mg/mL, 20 μL/well)を各ウェルに加えたのち、インキュベーターで3時間培養し、クリーンベンチ内で培地をすべて取り除いた。つぎに、ホルマザン溶解液(100 μL/well)を各ウェルに加えてピペッティングしたのち、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices製、 OptiMax Tunable Microplate Reader)で570 nmにおける吸光度を測定した。測定した吸光度から、癌細胞の生存率を計算した。その結果を
図2に示す。
【0057】
(5)まとめ
図2に示すように、TAEPは、癌細胞を洗浄後(
図2中のTAEP+Wash)も細胞洗浄前(
図2中のTAEP)とほぼ同様に光照射による高い癌細胞死滅効果(1μM以下で癌細胞が100%近く死滅。)を示しており、高い細胞移行性を有することが分かった。なお、実験対照であるTMPyPでは、細胞洗浄前(
図2中のTMPyP)と細胞洗浄後(
図2中のTMPyP+Wash)とを比べると、IC
50=1μMからIC
50=5μMに癌細胞死滅効果が低下している。