特許第6444215号(P6444215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6444215空気ばね異常検知システム、鉄道車両、および空気ばね異常検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444215
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】空気ばね異常検知システム、鉄道車両、および空気ばね異常検知方法
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/10 20060101AFI20181217BHJP
   B60G 17/052 20060101ALI20181217BHJP
   B60G 17/018 20060101ALI20181217BHJP
   B60L 3/00 20060101ALI20181217BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20181217BHJP
   B60G 99/00 20100101ALN20181217BHJP
   G01M 17/04 20060101ALN20181217BHJP
【FI】
   B61F5/10 C
   B60G17/052
   B60G17/018
   B60L3/00 N
   G01M17/007 J
   !B60G99/00
   !G01M17/04
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-36910(P2015-36910)
(22)【出願日】2015年2月26日
(65)【公開番号】特開2016-159643(P2016-159643A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯島 仁
(72)【発明者】
【氏名】今井 直人
【審査官】 伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−131125(JP,A)
【文献】 特開平03−164367(JP,A)
【文献】 特開平04−015160(JP,A)
【文献】 特許第5582892(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/10
G01M 17/00
B60G 17/018
B60G 17/052
B60L 3/00
B60G 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前側に配置された前側台車および当該車体の後側に配置された後側台車それぞれの左右に設けられた空気ばねの異常を検知する空気ばね異常検知システムであって、
前記車体の対角方向のアンバランスが大きいか否か判断する第一判断手段と、
前記車体の左右方向のアンバランスが大きいか否か判断する第二判断手段と、
前記空気ばねが異常であるか否か判定する異常判定手段と、
前記異常判定手段によって空気ばねが異常であると判定された場合に異常報知信号を出力する信号出力手段と、を備え、
前記第一判断手段は、
前記前側台車の左空気ばねの内圧と前記後側台車の右空気ばねの内圧との和と、前記前側台車の右空気ばねの内圧と前記後側台車の左空気ばねの内圧との和と、の差である対角圧力差を、これら4つの内圧の総和で除した値が所定の第一対角閾値を上回る場合に、あるいは、当該対角圧力差が所定の第二対角閾値を上回る場合に、前記対角方向のアンバランスが大きいと判断し、
前記第二判断手段は、
前記前側台車の左空気ばねの内圧と前記後側台車の左空気ばねの内圧との和と、前記前側台車の右空気ばねの内圧と前記後側台車の右空気ばねの内圧との和と、の差である左右圧力差を、これら4つの内圧の総和で除した値が所定の第一左右閾値を上回る場合に、あるいは、当該左右圧力差が所定の第二左右閾値を上回る場合に、前記左右方向のアンバランスが大きいと判断し、
前記異常判定手段は、
前記第一判断手段によって対角方向のアンバランスが大きくないと判断された場合と、前記第一判断手段によって対角方向のアンバランスが大きいと判断され、かつ、前記第二判断手段によって左右方向のアンバランスが大きいと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定することを特徴とする空気ばね異常検知システム。
【請求項2】
前記第一判断手段によって対角方向のアンバランスが大きいと判断される対角アンバランス状態が所定のアンバランス時間以上継続したか否か判断する第三判断手段を備え、
前記異常判定手段は、
前記第三判断手段によって対角アンバランス状態が前記アンバランス時間以上継続しなかったと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定することを特徴とする請求項1に記載の空気ばね異常検知システム。
【請求項3】
前記車体の走行速度が所定の低速範囲内であるか否か判断する第四判断手段と、
前記対角アンバランス状態が前記アンバランス時間よりも長い所定の第二アンバランス時間以上継続したか否か判断する第五判断手段と、を備え、
前記異常判定手段は、
前記第四判断手段によって車体の走行速度が前記低速範囲内であると判断され、かつ、前記第五判断手段によって対角アンバランス状態が前記第二アンバランス時間以上継続しなかったと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定することを特徴とする請求項2に記載の空気ばね異常検知システム。
【請求項4】
停車中であるか否か判断する第六判断手段を備え、
前記異常判定手段は、
前記第六判断手段によって停車中であると判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載の空気ばね異常検知システム。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の空気ばね異常検知システムと、
前記信号出力手段からの異常報知信号を受信した場合に、前記空気ばねの異常を報知する報知手段と、を備えることを特徴とする鉄道車両。
【請求項6】
車体の前側に配置された前側台車および当該車体の後側に配置された後側台車それぞれの左右に設けられた空気ばねの異常を検知する空気ばね異常検知方法であって、
前記車体の対角方向のアンバランスが大きいか否か判断する第一判断工程と、
前記第一判断工程で対角方向のアンバランスが大きくないと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定する第一判定工程と、
前記第一判断工程で対角方向のアンバランスが大きいと判断された場合に、前記車体の左右方向のアンバランスが大きいか否か判断する第二判断工程と、
前記第二判断工程で左右方向のアンバランスが大きいと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定する第二判定工程と、を有し、
前記第一判断工程では、
前記前側台車の左空気ばねの内圧と前記後側台車の右空気ばねの内圧との和と、前記前側台車の右空気ばねの内圧と前記後側台車の左空気ばねの内圧との和と、の差である対角圧力差を、これら4つの内圧の総和で除した値が所定の第一対角閾値を上回る場合に、あるいは、当該対角圧力差が所定の第二対角閾値を上回る場合に、前記対角方向のアンバランスが大きいと判断し、
前記第二判断工程では、
前記前側台車の左空気ばねの内圧と前記後側台車の左空気ばねの内圧との和と、前記前側台車の右空気ばねの内圧と前記後側台車の右空気ばねの内圧との和と、の差である左右圧力差を、これら4つの内圧の総和で除した値が所定の第一左右閾値を上回る場合に、あるいは、当該左右圧力差が所定の第二左右閾値を上回る場合に、前記左右方向のアンバランスが大きいと判断することを特徴とする空気ばね異常検知方法。
【請求項7】
前記第二判断工程で左右方向のアンバランスが大きくないと判断された場合に、前記対角方向のアンバランスが大きいと判断される対角アンバランス状態が所定のアンバランス時間以上継続したか否か判断する第三判断工程と、
前記第三判断工程で対角アンバランス状態が前記アンバランス時間以上継続しなかったと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定する第三判定工程と、を有することを特徴とする請求項6に記載の空気ばね異常検知方法。
【請求項8】
前記第三判断工程で対角アンバランス状態が前記アンバランス時間以上継続したと判断された場合に、前記車体の走行速度が所定の走行閾値を上回るか否か判断する第四判断工程と、
前記第四判断工程で車体の走行速度が前記走行閾値を上回ると判断された場合に、前記空気ばねが異常であると判定する第四判定工程と、
前記第四判断工程で車体の走行速度が前記走行閾値を上回らないと判断された場合に、停車中であるか否か判断する第五判断工程と、
前記第五判断工程で停車中であると判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定する第五判定工程と、を有することを特徴とする請求項7に記載の空気ばね異常検知方法。
【請求項9】
前記第五判断工程で停車中でないと判断された場合に、前記対角アンバランス状態が前記アンバランス時間よりも長い所定の第二アンバランス時間以上継続したか否か判断する第六判断工程と、
前記第六判断工程で対角アンバランス状態が前記第二アンバランス時間以上継続しなかったと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定する第六判定工程と、
前記第六判断工程で対角アンバランス状態が前記第二アンバランス時間以上継続したと判断された場合に、前記空気ばねが異常であると判定する第七判定工程と、を有することを特徴とする請求項8に記載の空気ばね異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の前側に配置された前側台車および当該車体の後側に配置された後側台車それぞれの左右に設けられた空気ばねに対し、空気ばねの異常を検知する空気ばね異常検知システム、当該空気ばね異常検知システムを備えた鉄道車両、および空気ばねの異常を検知する空気ばね異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、車体の前側に配置された前側台車および当該車体の後側に配置された後側台車それぞれの左右に設けられ、当該車体を支持する空気ばねを備えている。空気ばねの異常(具体的には、空気ばねの高さを調整する高さ調整機構の異常、片側空気ばねのパンク、輪重バランスの異常等)が発生すると、車体バランスが崩れるため脱線の危険性が高くなる。
鉄道車両において、鉄道車両の速度が停止状態から所定の値となったときの、左右の車輪に加わる平均輪重である初期平均輪重を算出する初期輪重算出工程と、鉄道車両の速度が所定の値以上で走行中に、左右の車輪に加わる走行輪重差を算出する走行輪重差算出工程と、初期平均輪重に対する走行輪重差の比率である危険率を算出する危険率算出工程と、により鉄道車両の危険率を算出する鉄道車両走行安全システム(特許文献1参照)のように、左右の空気ばねを比較して左右差が大きい場合に空気ばねが異常であると判定することによって、空気ばねの異常を検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5582892号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、左右の空気ばねを比較して左右差が大きい場合に空気ばねが異常であると判定すると、軌道の形状によっては車体に遠心力が働き、それによって左右差が生じたような場合、空気ばねが正常であるにもかかわらず異常であると判定してしまうおそれがある。
例えば、図2に示すように、前側台車の左空気ばねを「AS1」、前側台車の右空気ばねを「AS2」、後側台車の左空気ばねを「AS3」、後側台車の右空気ばねを「AS4」とした場合、表1(a)に示すように、「AS1」が異常で「AS2」〜「AS4」が正常である状態において、直線走行中の左右空気ばねの圧力差、具体的には「AS1」と「AS2」との圧力差は113〜125kPaとなり、「AS3」と「AS4」との圧力差は108〜115kPaとなる。
【0005】
一方、表1(b)に示すように、「AS1」〜「AS4」の全てが正常である状態における左右空気ばねの圧力差は、直線走行中は74kPaであるものの、円曲線走行中は170kPa、緩和曲線走行中は160kPa、緩和曲線停車中は120kPaとなる。すなわち、円曲線路や緩和曲線路を走行している時や緩和曲線路で停車している時には、空気ばねが正常であっても、左右空気ばねの圧力差が、空気ばねが異常である場合の圧力差範囲に含まれるか、あるいは、空気ばねが異常である場合の圧力差を上回る。よって、単に左右の空気ばねを比較して左右差が大きい場合に空気ばねが異常であると判定すると、軌道の形状によっては、空気ばねが正常であるにもかかわらず異常であると判定してしまうことがある。
【表1】
【0006】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、空気ばねの異常を的確に検知することが可能な空気ばね異常検知システム、当該空気ばね異常検知システムを備えた鉄道車両、および空気ばねの異常を的確に検知するための空気ばね異常検知方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の空気ばね異常検知システムは、
車体の前側に配置された前側台車および当該車体の後側に配置された後側台車それぞれの左右に設けられた空気ばねの異常を検知する空気ばね異常検知システムであって、
前記車体の対角方向のアンバランスが大きいか否か判断する第一判断手段と、
前記車体の左右方向のアンバランスが大きいか否か判断する第二判断手段と、
前記空気ばねが異常であるか否か判定する異常判定手段と、
前記異常判定手段によって空気ばねが異常であると判定された場合に異常報知信号を出力する信号出力手段と、を備え、
前記第一判断手段は、
前記前側台車の左空気ばねの内圧と前記後側台車の右空気ばねの内圧との和と、前記前側台車の右空気ばねの内圧と前記後側台車の左空気ばねの内圧との和と、の差である対角圧力差を、これら4つの内圧の総和で除した値が所定の第一対角閾値を上回る場合に、あるいは、当該対角圧力差が所定の第二対角閾値を上回る場合に、前記対角方向のアンバランスが大きいと判断し、
前記第二判断手段は、
前記前側台車の左空気ばねの内圧と前記後側台車の左空気ばねの内圧との和と、前記前側台車の右空気ばねの内圧と前記後側台車の右空気ばねの内圧との和と、の差である左右圧力差を、これら4つの内圧の総和で除した値が所定の第一左右閾値を上回る場合に、あるいは、当該左右圧力差が所定の第二左右閾値を上回る場合に、前記左右方向のアンバランスが大きいと判断し、
前記異常判定手段は、
前記第一判断手段によって対角方向のアンバランスが大きくないと判断された場合と、前記第一判断手段によって対角方向のアンバランスが大きいと判断され、かつ、前記第二判断手段によって左右方向のアンバランスが大きいと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定するように構成されている。
【0008】
したがって、空気ばねの左右差だけでなく対角差も算出して空気ばねの異常を判定するので、軌道の形状によっては空気ばねが正常であるにもかかわらず異常であると判定してしまうような誤判定を抑制することができ、空気ばねの異常を的確に検知することが可能となる。
【0009】
好ましくは、
前記第一判断手段によって対角方向のアンバランスが大きいと判断される対角アンバランス状態が所定のアンバランス時間以上継続したか否か判断する第三判断手段を備え、
前記異常判定手段は、
前記第三判断手段によって対角アンバランス状態が前記アンバランス時間以上継続しなかったと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定するように構成することが可能である。
【0010】
かかる構成によれば、車体が緩和曲線路のうち左右方向のアンバランスが小さくなる区間を走行中である場合や分岐器上を走行中である場合も除外することができるので、空気ばねの異常をより的確に検知することが可能となる。
【0011】
好ましくは、
前記車体の走行速度が所定の低速範囲内であるか否か判断する第四判断手段と、
前記対角アンバランス状態が前記アンバランス時間よりも長い所定の第二アンバランス時間以上継続したか否か判断する第五判断手段と、を備え、
前記異常判定手段は、
前記第四判断手段によって車体の走行速度が前記低速範囲内であると判断され、かつ、前記第五判断手段によって対角アンバランス状態が前記第二アンバランス時間以上継続しなかったと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定するように構成することが可能である。
【0012】
かかる構成によれば、車体が緩和曲線路のうち左右方向のアンバランスが小さくなる区間を低速で走行中である場合も除外することができるので、空気ばねの異常をより的確に検知することが可能となる。
【0013】
好ましくは、
停車中であるか否か判断する第六判断手段を備え、
前記異常判定手段は、
前記第六判断手段によって停車中であると判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定するように構成することが可能である。
【0014】
かかる構成によれば、車体が緩和曲線路のうち左右方向のアンバランスが小さくなる区間で停車中である場合も除外することができるので、空気ばねの異常をより的確に検知することが可能となる。
【0015】
本発明の鉄道車両は、
前記空気ばね異常検知システムと、
前記信号出力手段からの異常報知信号を受信した場合に、前記空気ばねの異常を報知する報知手段と、を備えるように構成されている。
【0016】
したがって、空気ばねの異常を的確に検知して報知することが可能となる。
【0017】
本発明の空気ばね異常検知方法は、
車体の前側に配置された前側台車および当該車体の後側に配置された後側台車それぞれの左右に設けられた空気ばねの異常を検知する空気ばね異常検知方法であって、
前記車体の対角方向のアンバランスが大きいか否か判断する第一判断工程と、
前記第一判断工程で対角方向のアンバランスが大きくないと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定する第一判定工程と、
前記第一判断工程で対角方向のアンバランスが大きいと判断された場合に、前記車体の左右方向のアンバランスが大きいか否か判断する第二判断工程と、
前記第二判断工程で左右方向のアンバランスが大きいと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定する第二判定工程と、を有し、
前記第一判断工程では、
前記前側台車の左空気ばねの内圧と前記後側台車の右空気ばねの内圧との和と、前記前側台車の右空気ばねの内圧と前記後側台車の左空気ばねの内圧との和と、の差である対角圧力差を、これら4つの内圧の総和で除した値が所定の第一対角閾値を上回る場合に、あるいは、当該対角圧力差が所定の第二対角閾値を上回る場合に、前記対角方向のアンバランスが大きいと判断し、
前記第二判断工程では、
前記前側台車の左空気ばねの内圧と前記後側台車の左空気ばねの内圧との和と、前記前側台車の右空気ばねの内圧と前記後側台車の右空気ばねの内圧との和と、の差である左右圧力差を、これら4つの内圧の総和で除した値が所定の第一左右閾値を上回る場合に、あるいは、当該左右圧力差が所定の第二左右閾値を上回る場合に、前記左右方向のアンバランスが大きいと判断するように構成されている。
【0018】
したがって、空気ばねの左右差だけでなく対角差も算出して空気ばねの異常を判定するので、軌道の形状によっては空気ばねが正常であるにもかかわらず異常であると判定してしまうような誤判定を抑制することができ、空気ばねの異常を的確に検知することが可能となる。
【0019】
好ましくは、
前記第二判断工程で左右方向のアンバランスが大きくないと判断された場合に、前記対角方向のアンバランスが大きいと判断される対角アンバランス状態が所定のアンバランス時間以上継続したか否か判断する第三判断工程と、
前記第三判断工程で対角アンバランス状態が前記アンバランス時間以上継続しなかったと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定する第三判定工程と、を有するように構成することが可能である。
【0020】
かかる構成によれば、車体が緩和曲線路のうち左右方向のアンバランスが小さくなる区間を走行中である場合や分岐器上を走行中である場合も除外することができるので、空気ばねの異常をより的確に検知することが可能となる。
【0021】
好ましくは、
前記第三判断工程で対角アンバランス状態が前記アンバランス時間以上継続したと判断された場合に、前記車体の走行速度が所定の走行閾値を上回るか否か判断する第四判断工程と、
前記第四判断工程で車体の走行速度が前記走行閾値を上回ると判断された場合に、前記空気ばねが異常であると判定する第四判定工程と、
前記第四判断工程で車体の走行速度が前記走行閾値を上回らないと判断された場合に、停車中であるか否か判断する第五判断工程と、
前記第五判断工程で停車中であると判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定する第五判定工程と、を有するように構成することが可能である。
【0022】
かかる構成によれば、車体が緩和曲線路のうち左右方向のアンバランスが小さくなる区間で停車中である場合も除外することができるので、空気ばねの異常をより的確に検知することが可能となる。
【0023】
好ましくは、
前記第五判断工程で停車中でないと判断された場合に、前記対角アンバランス状態が前記アンバランス時間よりも長い所定の第二アンバランス時間以上継続したか否か判断する第六判断工程と、
前記第六判断工程で対角アンバランス状態が前記第二アンバランス時間以上継続しなかったと判断された場合に、前記空気ばねが異常でないと判定する第六判定工程と、
前記第六判断工程で対角アンバランス状態が前記第二アンバランス時間以上継続したと判断された場合に、前記空気ばねが異常であると判定する第七判定工程と、を有するように構成することが可能である。
【0024】
かかる構成によれば、車体が緩和曲線路のうち左右方向のアンバランスが小さくなる区間を低速で走行中である場合も除外することができるので、空気ばねの異常をより的確に検知することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、空気ばねの異常を的確に検知することが可能な空気ばね異常検知システム、当該空気ばね異常検知システムを備えた鉄道車両、および空気ばねの異常を的確に検知するための空気ばね異常検知方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(a)は本実施形態の鉄道車両の構成の一例を示す側面図であり、(b)は本実施形態の鉄道車両および空気ばね異常検知システムの概略構成の一例を示す模式図である。
図2】空気ばねの位置を説明するための図である。
図3】本実施形態の空気ばね異常検知方法の一例を示すフローチャートである。
図4】圧力データの平滑化を説明するための図である。
図5】除外条件を説明するための図である。
図6】除外条件を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図面を参照しつつ、本発明にかかる空気ばね異常検知システム、鉄道車両、および空気ばね異常検知方法の実施形態について説明する。なお、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態および図示例に限定するものではない。
【0028】
図1(a)は、本実施形態の鉄道車両1の構成の一例を示す側面図であり、図1(b)は、本実施形態の鉄道車両1および空気ばね異常検知システム40の概略構成の一例を示す模式図である。また、図2は、空気ばねの位置を説明するための図である。鉄道車両1の進行方向を前後方向、鉄道車両1の高さ方向を上下方向とし、前後方向および上下方向の双方に直交する方向を左右方向とする。
【0029】
本実施形態の鉄道車両1は、図1(a),(b)に示すように、車体10と、車体10の前側に配置された前側台車20と、車体10の後側に配置された後側台車30と、前側台車20および後側台車30それぞれの左右に設けられた空気ばねの異常を検知する空気ばね異常検知システム40と、空気ばねの異常を報知する報知装置50と、を主に備えて構成される。
【0030】
鉄道車両1は、図2に示すように、空気ばねとして、前側台車20の左空気ばね(以下「前左空気ばね」という。)AS1と、前側台車20の右空気ばね(以下「前右空気ばね」という。)AS2と、後側台車30の左空気ばね(以下「後左空気ばね」という。)AS3と、後側台車30の右空気ばね(以下「後右空気ばね」という。)AS4と、を備えている。
【0031】
空気ばね異常検知システム40は、図1(b)に示すように、空気ばねAS1,AS2,AS3,AS4それぞれに対応して設けられ、対応する空気ばねの内圧(空気圧)を測定する圧力センサ41と、空気ばね異常検知システム40全体を統括的に制御する制御部42と、を主に備えて構成される。
【0032】
圧力センサ41としては、例えばブレーキ制御のため空気ばねの内圧を測定するために既設されている圧力センサを用いることができる。
制御部42は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えるコンピュータである。ROMには、各種データおよびプログラムが記憶されている。CPUが指定されたプログラムをROMから読み出してRAMに展開し、展開されたプログラムとCPUとの協働によって、制御部42が各種処理を行う。
【0033】
具体的には、制御部42は、例えば図3に示す空気ばね異常検知処理を行う。
図3は、本実施形態の空気ばね異常検知方法の一例を示すフローチャートである。
空気ばね異常検知処理において、制御部42は、まず、4つの圧力センサ41からの圧力データをそれぞれ平滑化する(ステップS1)。
圧力データの平滑化の手法は、適宜選択可能であり、例えば、一の圧力センサ41からの圧力データ(図4(a)参照)を、所定の遮断周波数(例えば0.5Hz以下)を有するローパスフィルタを用いて平滑化すること(図4(b)参照)も可能であるし、所定期間(例えば1秒以上)分の圧力データを用い移動平均処理を行って平滑化すること(図4(c)参照)も可能である。
【0034】
次いで、制御部42は、平滑化した4つの圧力データに基づいて、車体10の対角方向のアンバランス(対角アンバランス)が大きいか否か判断する(ステップS2、第一判断工程)。この対角アンバランスは、輪重バランスに大きく影響する。
具体的には、制御部42は、下記の式(1)に示すように、前左空気ばねAS1の内圧と後右空気ばねAS4の内圧との和と、前右空気ばねAS2の内圧と後左空気ばねAS3の内圧との和と、の差である対角圧力差を、これら4つの内圧の総和で除した値が所定の第一対角閾値(例えば0.2)を上回る場合に、対角アンバランスが大きいと判断する。
あるいは、下記の式(2)に示すように、前左空気ばねAS1の内圧と後右空気ばねAS4の内圧との和と、前右空気ばねAS2の内圧と後左空気ばねAS3の内圧との和と、の差である対角圧力差が所定の第二対角閾値(例えば200)を上回る場合に、対角アンバランスが大きいと判断する。
すなわち、制御部42が、車体10の対角方向のアンバランス(対角アンバランス)が大きいか否か判断する第一判断手段をなす。なお、第一対角閾値は、0.2に限定されるものではなく、適宜変更可能である。また、第二対角閾値は、200に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【数1】

【数2】
【0035】
ステップS2で、対角アンバランスが大きくないと判断した場合(ステップS2;NO)には、制御部42は、4つの空気ばねは正常であると判定して(ステップS9、第一判定工程)、ステップS1の処理に戻る。
直線路にはカントが設けられていないため、軌道はねじれていない。したがって、4つの空気ばねが正常であれば、直線走行中や直線停車中は、車体10の対角方向のバランスは崩れない。また、円曲線路にはカントが設けられているがカント量が一定であるため、軌道はねじれていない。したがって、4つの空気ばねが正常であれば、円曲線走行中や円曲線停車中は、車体10の対角方向のバランスは崩れない。
一方、緩和曲線路にはカントが設けられており、円曲線路に向けて徐々にカント量が増加していくため、軌道はねじれている。したがって、4つの空気ばねが正常であっても、緩和曲線走行中や緩和曲線停車中は、車体10の対角方向のバランスは崩れる。
そこで、本実施形態では、式(1)を用いて判断する場合には第一対角閾値を適宜設定することにより、式(2)を用いて判断する場合には第二対角閾値を適宜設定することにより、ステップS2の処理によって、直線路を走行中や停車中である場合だけでなく、円曲線路を走行中や停車中である場合にも、空気ばねが正常であることを判定することができる。
【0036】
一方、ステップS2で、対角アンバランスが大きいと判断した場合(ステップS2;YES)には、制御部42は、平滑化した4つの圧力データに基づいて、車体10の左右方向のアンバランス(左右アンバランス)が大きいか否か判断する(ステップS3、第二判断工程)。
具体的には、制御部42は、下記の式(3)に示すように、前左空気ばねAS1の内圧と後左空気ばねAS3の内圧との和と、前右空気ばねAS2の内圧と後右空気ばねAS4の内圧との和と、の差である左右圧力差を、これら4つの内圧の総和で除した値が所定の第一左右閾値(例えば0.02)を上回る場合に、左右アンバランスが大きいと判断する。
あるいは、下記の式(4)に示すように、前左空気ばねAS1の内圧と後左空気ばねAS3の内圧との和と、前右空気ばねAS2の内圧と後右空気ばねAS4の内圧との和と、の差である左右圧力差が所定の第二左右閾値(例えば20)を上回る場合に、左右アンバランスが大きいと判断する。
すなわち、制御部42が、車体10の左右方向のアンバランス(左右アンバランス)が大きいか否か判断する第二判断手段をなす。なお、第一左右閾値は、0.02に限定されるものではなく、適宜変更可能である。また、第二左右閾値は、20に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【数3】

【数4】
【0037】
ステップS3で、左右アンバランスが大きいと判断した場合(ステップS3;YES)には、制御部42は、4つの空気ばねは正常であると判定して(ステップS9、第二判定工程)、ステップS1の処理に戻る。
緩和曲線路では軌道のねじれによって、4つの空気ばねが正常であっても、車体10の対角方向のバランスが崩れる。さらにカントによって、車体10の左右方向のバランスも崩れる。そして、速度が低くカント大きい場合と速度が高くカントが小さい場合に、左右方向のバランスの崩れ度合いが大きくなる。すなわち、緩和曲線路を走行中や停車中である場合には速度とカントの関係によってバランスの崩れ度合いは変化する。そのため、緩和曲線路での判定(空気ばねが正常か否かの判定)は困難である。
そこで、本実施形態では、式(3)を用いて判断する場合には第一左右閾値を適宜設定することにより、式(4)を用いて判断する場合には第二左右閾値を適宜設定することにより、ステップS3の処理によって、緩和曲線路のうち左右アンバランスが大きくなる区間を走行中や停車中である場合を除外する。
【0038】
具体的には、例えば図5(a)に示すように、式(1)を用いて算出した対角アンバランスが第一対角閾値を上回る場合であって、式(3)を用いて算出した左右アンバランスが第一左右閾値を上回らない場合や、例えば図5(b)に示すように、式(2)を用いて算出した対角アンバランスが第二対角閾値を上回る場合であって、式(4)を用いて算出した左右アンバランスが第二左右閾値を上回らない場合には、緩和曲線路のうち左右アンバランスが大きくなる区間を走行中や停車中でないとして、ステップS3の処理では除外しない。
【0039】
一方、ステップS3で、左右アンバランスが大きくないと判断した場合(ステップS3;NO)には、制御部42は、対角アンバランスが大きい状態(対角アンバランス状態)が10秒以上継続したか否か判断する(ステップS4、第三判断工程)。
すなわち、制御部42が、第一判断手段によって対角方向のアンバランス(対角アンバランス)が大きいと判断される対角アンバランス状態が所定のアンバランス時間(本実施形態の場合10秒)以上継続したか否か判断する第三判断手段をなす。なお、アンバランス時間は、10秒に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0040】
ステップS4で、対角アンバランス状態が10秒以上継続しなかったと判断した場合(ステップS4;NO)には、制御部42は、4つの空気ばねは正常であると判定して(ステップS9、第三判定工程)、ステップS1の処理に戻る。
ステップS3の処理では、緩和曲線路のうち左右アンバランスが大きくならない区間を走行中や停車中である場合を除外することができない。また、分岐器上を走行中である場合も、車体10の対角方向のバランスや左右方向のバランスが崩れるが、この場合も、バランスの崩れ度合いに限度がある。すなわち、ステップS3の処理では、分岐器上を走行中である場合も除外することができない。
左右アンバランスが大きくならない区間や分岐器上を通過した後に対角アンバランス状態が解消されれば、4つの空気ばねが正常であると判定できる。通過に要する時間を考慮してアンバランス時間を設定し、対角アンバランス状態の継続時間が設定したアンバランス時間未満である場合には、左右アンバランスが大きくならない区間や分岐器上を走行中であったとして除外する。
すなわち、本実施形態では、アンバランス時間を適宜設定することにより、ステップS4の処理によって、緩和曲線路のうち左右アンバランスが大きくならない区間を走行中である場合や分岐器上を走行中である場合を除外する。
【0041】
一方、ステップS4で、対角アンバランス状態が10秒以上継続したと判断した場合(ステップS4;YES)には、制御部42は、車体10が中高速域を走行中か否か判断する(ステップS5、第四判断工程)。
ステップS5で、中高速域を走行中であると判断した場合(ステップS5;YES)、すなわち車体10の走行速度が所定の走行閾値(例えば20km/h)を上回る場合には、制御部42は、4つの空気ばねのうちの何れかが異常であると判定して(ステップS8、第四判定工程)、ステップS1の処理に戻る。
一方、ステップS5で、中高速域を走行中でないと判断した場合(ステップS5;NO)、すなわち車体10の走行速度が所定の走行閾値を上回らない場合には、制御部42は、停車中(例えば車体10の走行速度が5km/h以下)であるか否か判断する(ステップS6、第五判断工程)。
すなわち、制御部42が、停車中であるか否か判断する第六判断手段をなす。なお、走行閾値は、20km/hに限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0042】
ステップS6で、停車中であると判断した場合(ステップS6;YES)には、制御部42は、4つの空気ばねは正常であると判定して(ステップS9、第五判定工程)、ステップS1の処理に戻る。
ステップS4の処理によって、緩和曲線路のうち左右アンバランスが大きくならない区間を走行中である場合を除外することができる。しかし、当該区間で停車している際には、当該区間をアンバランス時間(本実施形態の場合10秒)未満で通過することができない場合があり、その場合は、ステップS4の処理によって除外することができない。
そこで、本実施形態では、ステップS6の処理によって、緩和曲線路のうち左右アンバランスが大きくならない区間で停車中である場合を除外する。
【0043】
一方、ステップS6で、停車中でないと判断した場合(ステップS6;NO)には、制御部42は、対角アンバランス状態が60秒以上継続したか否か判断する(ステップS7、第六判断工程)。
すなわち、制御部42が、車体10の走行速度が所定の低速範囲内である(すなわち、走行速度が所定の走行閾値以下であって停車中でない)か否か判断する第四判断手段と、対角アンバランス状態がアンバランス時間(本実施形態の場合10秒)よりも長い所定の第二アンバランス時間(本実施形態の場合60秒)以上継続したか否か判断する第五判断手段と、をなす。なお、第二アンバランス時間は、60秒に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0044】
ステップS7で、対角アンバランス状態が60秒以上継続しなかったと判断した場合(ステップS7;NO)には、制御部42は、4つの空気ばねは正常であると判定して(ステップS9、第六判定工程)、ステップS1の処理に戻る。
一方、ステップS7で、対角アンバランス状態が60秒以上継続したと判断した場合(ステップS7;YES)には、制御部42は、4つの空気ばねのうちの何れかが異常であると判定して(ステップS8、第七判定工程)、ステップS1の処理に戻る。
ステップS4の処理によって、緩和曲線路のうち左右アンバランスが大きくならない区間を走行中である場合を除外することができる。しかし、当該区間を低速で走行している際には、当該区間をアンバランス時間(本実施形態の場合10秒)未満で通過することができない場合があり、その場合は、ステップS4の処理によって除外することができない。そこで、低速走行時の通過に要する時間を考慮して第二アンバランス時間を設定し、対角アンバランス状態の継続時間が設定した第二アンバランス時間未満である場合には、緩和曲線路のうち左右アンバランスが大きくならない区間を低速で走行中であったとして除外する。
すなわち、本実施形態では、第二アンバランス時間を適宜設定することにより、ステップS7の処理によって、緩和曲線路のうち左右アンバランスが大きくならない区間を低速で走行中である場合を除外する。
【0045】
このように、
(ア)ステップS2の処理によって、直線路を走行中や停車中である場合だけでなく、円曲線路を走行中や停車中である場合にも、空気ばねが正常であるか否かを精度よく判定することができ、
(イ)ステップS3の処理によって、緩和曲線路のうち左右アンバランスが大きくなる区間を走行中や停車中である場合を除外することができ、
(ウ)ステップS4の処理によって、緩和曲線路のうち左右アンバランスが大きくならない区間を中高速で走行中である場合や分岐器上を走行中である場合を除外することができ、
(エ)ステップS6の処理によって、緩和曲線路のうち左右アンバランスが大きくならない区間で停車中である場合を除外することができ、
(オ)ステップS7の処理によって、緩和曲線路のうち左右アンバランスが大きくならない区間を低速で走行中である場合を除外することができる。
すなわち、直線路を走行中や停車中である場合だけでなく、円曲線路を走行中や停車中である場合にも、空気ばねが正常であるか否かを精度よく判定することができるとともに、緩和曲線路を走行中や停車中である場合を検知対象から除外することができるので、軌道の形状によっては空気ばねが正常であるにもかかわらず異常であると判定してしまうような誤判定を防止することができる。
【0046】
ここで、4つの空気ばねが正常である場合に、例えば図6に示すような結果が得られたとする。
期間Aでは、式(1)を用いて算出した対角アンバランスが第一対角閾値を上回らないので、ステップS2の処理で除外される。
期間Bでは、式(1)を用いて算出した対角アンバランスが第一対角閾値を上回るが、式(3)を用いて算出した左右アンバランスが第一左右閾値を上回るので、ステップS3の処理で除外される。
期間Cでは、式(1)を用いて算出した対角アンバランスが第一対角閾値を上回り、式(3)を用いて算出した左右アンバランスが第一左右閾値を上回らず、対角アンバランス状態の継続時間が10秒以上であり、中高速域でも停車中でもないが、対角アンバランス状態の継続時間が60秒未満であるので、ステップS7の処理で除外される。
期間Dでは、式(1)を用いて算出した対角アンバランスが第一対角閾値を上回り、式(3)を用いて算出した左右アンバランスが第一左右閾値を上回らないが、対角アンバランス状態の継続時間が10秒未満であるので、ステップS4の処理で除外される。
期間Eでは、式(1)を用いて算出した対角アンバランスが第一対角閾値を上回るが、式(3)を用いて算出した左右アンバランスが第一左右閾値を上回るので、ステップS3の処理で除外される。
期間Fでは、式(1)を用いて算出した対角アンバランスが第一対角閾値を上回らないので、ステップS2の処理で除外される。
【0047】
そして、制御部42は、4つの空気ばねのうちの何れかが異常であると判定した場合(ステップS8)に、報知装置50に対して、異常報知信号を出力するよう構成されている。報知装置50は、例えば運転台に設置されている表示器であり、制御部42からの異常報知信号を受信した場合に、空気ばねの異常を報知するための報知表示を行う。これにより、運転士や車掌などに空気ばねの異常が報知される。
すなわち、制御部42が、空気ばねが異常であるか否か判定する異常判定手段と、異常判定手段によって空気ばねが異常であると判定された場合に異常報知信号を出力する信号出力手段と、をなす。
また、報知装置50が、信号出力手段(制御部42)からの異常報知信号を受信した場合に、空気ばねの異常を報知する報知手段をなす。
【0048】
以上説明した本実施形態の空気ばね異常検知システム40によれば、空気ばねの左右差だけでなく対角差も算出して空気ばねの異常を判定するので、軌道の形状によっては空気ばねが正常であるにもかかわらず異常であると判定してしまうような誤判定を抑制することができ、空気ばねの異常を的確に検知することが可能となる。
なお、左右アンバランスが大きいか否かの判断のタイミングは適宜変更可能であり、例えば、対角アンバランスが大きいか否かの判断よりも前に行ってもよい。
【0049】
また、本実施形態の空気ばね異常検知システム40によれば、第一判断手段(制御部42)によって対角方向のアンバランス(対角アンバランス)が大きいと判断される対角アンバランス状態が所定のアンバランス時間以上継続したか否か判断する第三判断手段(制御部42)を備え、異常判定手段(制御部42)は、第三判断手段(制御部42)によって対角アンバランス状態がアンバランス時間以上継続しなかったと判断された場合に、空気ばねが異常でないと判定するように構成することが可能である。
【0050】
このように構成することによって、車体10が緩和曲線路のうち左右アンバランスが小さくなる区間(左右アンバランスが大きくならない区間)を走行中である場合や分岐器上を走行中である場合も除外することができるので、空気ばねの異常をより的確に検知することが可能となる。
なお、対角アンバランス状態がアンバランス時間以上継続したか否かの判断のタイミングは適宜変更可能であり、例えば、左右アンバランスが大きいか否かの判断よりも前に行ってもよい。
【0051】
また、本実施形態の空気ばね異常検知システム40によれば、車体10の走行速度が所定の低速範囲内であるか否か判断する第四判断手段(制御部42)と、対角アンバランス状態がアンバランス時間よりも長い所定の第二アンバランス時間以上継続したか否か判断する第五判断手段(制御部42)と、を備え、異常判定手段(制御部42)は、第四判断手段(制御部42)によって車体10の走行速度が低速範囲内であると判断され、かつ、第五判断手段(制御部42)によって対角アンバランス状態が第二アンバランス時間以上継続しなかったと判断された場合に、空気ばねが異常でないと判定するように構成することが可能である。
【0052】
このように構成することによって、車体10が緩和曲線路のうち左右アンバランスが小さくなる区間を低速で走行中である場合も除外することができるので、空気ばねの異常をより的確に検知することが可能となる。
なお、対角アンバランス状態が第二アンバランス時間以上継続したか否かの判断のタイミングは適宜変更可能であり、例えば、左右アンバランスが大きいか否かの判断よりも前に行ってもよい。
【0053】
また、本実施形態の空気ばね異常検知システム40によれば、停車中であるか否か判断する第六判断手段(制御部42)を備え、異常判定手段(制御部42)は、第六判断手段(制御部42)によって停車中であると判断された場合に、空気ばねが異常でないと判定するように構成することが可能である。
【0054】
このように構成することによって、車体10が緩和曲線路のうち左右アンバランスが小さくなる区間で停車中である場合も除外することができるので、空気ばねの異常をより的確に検知することが可能となる。
なお、停車中であるか否かの判断のタイミングは適宜変更可能である。例えば、停車中であるか否かの判断は、対角アンバランス状態が第二アンバランス時間以上継続したか否かの判断よりも後に行ってもよい。また、停車中は異常検知が困難なため、停車中は正常と判定して走行開始後に異常検知を開始するよう構成しても、すなわち、停車中であるか否かの判断を、対角アンバランスや左右アンバランスの判断よりも前に行ってもよい。
【0055】
以上説明した本実施形態の鉄道車両1によれば、空気ばね異常検知システム40と、信号出力手段(制御部42)からの異常報知信号を受信した場合に、空気ばねの異常を報知する報知手段(報知装置50)と、を備えるように構成されているため、空気ばねの異常を的確に検知して報知することが可能となる。
【0056】
以上説明した本実施形態の空気ばね異常検知方法によれば、空気ばねの左右差だけでなく対角差も算出して空気ばねの異常を判定するので、軌道の形状によっては空気ばねが正常であるにもかかわらず異常であると判定してしまうような誤判定を抑制することができ、空気ばねの異常を的確に検知することが可能となる。
【0057】
また、本実施形態の空気ばね異常検知方法によれば、第二判断工程(ステップS3)で左右方向のアンバランス(左右アンバランス)が大きくないと判断された場合に、対角方向のアンバランス(対角アンバランス)が大きいと判断される対角アンバランス状態が所定のアンバランス時間以上継続したか否か判断する第三判断工程(ステップS4)と、第三判断工程(ステップS4)で対角アンバランス状態がアンバランス時間以上継続しなかったと判断された場合に、空気ばねが異常でないと判定する第三判定工程(ステップS9)と、を有するように構成することが可能である。
【0058】
このように構成することによって、車体10が緩和曲線路のうち左右アンバランスが小さくなる区間を走行中である場合や分岐器上を走行中である場合も除外することができるので、空気ばねの異常をより的確に検知することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態の空気ばね異常検知システム40によれば、第三判断工程(ステップS4)で対角アンバランス状態がアンバランス時間以上継続したと判断された場合に、車体10の走行速度が所定の走行閾値を上回るか否か判断する第四判断工程(ステップS5)と、第四判断工程(ステップS5)で車体10の走行速度が走行閾値を上回ると判断された場合に、空気ばねが異常であると判定する第四判定工程(ステップS8)と、第四判断工程(ステップS5)で車体10の走行速度が走行閾値を上回らないと判断された場合に、停車中であるか否か判断する第五判断工程(ステップS6)と、第五判断工程(ステップS6)で停車中であると判断された場合に、空気ばねが異常でないと判定する第五判定工程(ステップS9)と、を有するように構成することが可能である。
【0060】
このように構成することによって、車体10が緩和曲線路のうち左右アンバランスが小さくなる区間で停車中である場合も除外することができるので、空気ばねの異常をより的確に検知することが可能となる。
【0061】
また、本実施形態の空気ばね異常検知方法によれば、第五判断工程(ステップS6)で停車中でないと判断された場合に、対角アンバランス状態がアンバランス時間よりも長い所定の第二アンバランス時間以上継続したか否か判断する第六判断工程(ステップS7)と、第六判断工程(ステップS7)で対角アンバランス状態が第二アンバランス時間以上継続しなかったと判断された場合に、空気ばねが異常でないと判定する第六判定工程(ステップS9)と、第六判断工程(ステップS7)で対角アンバランス状態が第二アンバランス時間以上継続したと判断された場合に、空気ばねが異常であると判定する第七判定工程(ステップS8)と、を有するように構成することが可能である。
【0062】
このように構成することによって、車体10が緩和曲線路のうち左右アンバランスが小さくなる区間を低速で走行中である場合も除外することができるので、空気ばねの異常をより的確に検知することが可能となる。
【0063】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。また、前述の実施形態の各構成を組み合わせて適用しても良い。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0064】
1 鉄道車両
10 車体
20 前側台車
30 後側台車
40 空気ばね異常検知システム
42 制御部(第一判断手段、第二判断手段、第三判断手段、第四判断手段、第五判断手段、第六判断手段、異常判定手段、信号出力手段)
50 報知装置(報知手段)
AS1 前左空気ばね(前側台車の左空気ばね)
AS2 前右空気ばね(前側台車の右空気ばね)
AS3 後左空気ばね(後側台車の左空気ばね)
AS4 後右空気ばね(後側台車の右空気ばね)
図1
図2
図3
図4
図5
図6