(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所望のトルク指令値に基づいて、モータに電流を出力する電力変換装置の動作を制御するモータ駆動装置であって、前記電力変換装置を構成するスイッチング素子に電気的に接続され、直流電流又は交流電流を伝達する主回路配線と、前記モータの回転子に取り付けられたセンサ磁石の磁束変化を検出する磁気センサと、前記磁気センサによって検出された前記回転子の位置情報に基づいて、前記電力変換装置から前記モータに出力する電流指令値を演算する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記主回路配線に流れる電流によって発生する磁束成分を検出または演算する、磁束誤差補正部を有し、
前記磁気センサは前記センサ磁石から与えられる磁束ベクトルの、面内方向の大きさを出力することを特徴とするモータ駆動装置。
請求項1に記載のモータ駆動装置であって、前記磁束誤差補正部は、前記主回路配線に流れる電流の大きさと向きから、前記主回路配線に流れる電流によって発生する磁束成分を演算することを特徴とするモータ駆動装置。
請求項1に記載のモータ駆動装置であって、前記磁束誤差補正部は、前記主回路配線と前記磁気センサの位置情報を有し、前記主回路配線に流れる電流の大きさと向きと前記位置情報から、前記主回路配線に流れる電流によって発生する磁束成分を演算することを特徴とするモータ駆動装置。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や産業向けのモータ駆動装置では、モータと電力変換装置を接続するハーネスの削除や小型化を目的に、モータおよび電力変換装置を共通筐体に内蔵する、または筐体を直接接続する、機電一体化が進んできている。この機電一体実装構造では、モータと電力変換装置間の電気配線の接点数を削減するために、非接触センサなどが採用され始めている。モータの回転子位置を検出するための非接触位置センサとしては、従来のレゾルバに替わりホール素子やMR素子などの、磁気センサが多く用いられるようになってきている。
【0003】
磁気センサを用いたシステムとして、例えば特許文献1がある。特許文献1では、磁界方向に感応する磁気センサと、前記磁気センサからの出力が入力される検出部と、を備えた回転角計測装置であって、前記回転角計測装置は、磁束発生体を備えた回転体とともに用いられるものであり、前記磁気センサの出力は、前記磁界方向に対応した原角度信号セットであり、前記検出部は、前記回転体の回転速度を引数とする補正関数が出力する補正値を用いて前記磁気センサの近傍に配置された非磁性の導体の影響を補正した補正角度を出力することを特徴とする回転角計測装置とある。
【0004】
また近年、機電一体化を実現するための電力変換装置の高密度実装の結果として、前述した磁気センサ近傍に、電源からモータの間を電気的に接続し、モータを駆動するための電流を流すための主回路配線が配置される。
【0005】
高密度化されたモータ駆動装置の一例として、特許文献2がある。特許文献2では、複数の巻線が巻回されるステータと、前記ステータの径方向内側に回転可能に設けられるロータと、前記ロータと同軸に設けられ、前記ロータとともに回転するシャフトと、前記シャフトの一端に設けられ、前記ロータおよび前記シャフトとともに回転するマグネットと、前記マグネットと対向するよう前記シャフトの軸方向に設けられ、前記マグネットが発生する磁気を検出することで前記ロータの回転角度を検出する磁気センサと、前記磁気センサで検出した前記ロータの回転角度に基づき前記巻線に供給する電力を制御する制御装置と、前記シャフトの軸を中心とする仮想円に交わるとともに前記軸に対し平行に延びて前記制御装置と前記複数の巻線のそれぞれとを接続するよう設けられ、前記巻線に供給される電流が流れる第1の導線および第2の導線と、を備え、前記第1の導線および前記第2の導線のそれぞれに流れる電流は、任意の時点における大きさおよび向きが同じであり、前記仮想円と前記第1の導線および前記第2の導線とのそれぞれの交点をp1およびp2とし、前記仮想円の弧p1p2の中心角をα(°)とすると、前記第1の導線および前記第2の導線は、α=180の関係を満たすようにして配置されていることを特徴とするモータとある。
【0006】
ここで、特許文献1に記載の内容は、位置検出用磁石が高速に回転することで、磁石近傍に配置された金属に発生する渦電流が磁気センサへ与える影響を軽減する手法である。しかし、位置センサ近傍に配置される非磁性体として、例えば銅などから成る主回路配線が配置され、主回路配線に電流が流れた際にビオ・サバールの法則に基づいて発生する磁束が、磁気センサに与える影響を軽減することはできない。
【0007】
一方、特許文献2に記載の内容は、2つの3相インバータに接続する6本のモータ配線において、6本のモータ配線が接続するモータ巻き線は同一筐体内に配置される。また、回転子の位置を磁気センサで検出するシステムで、磁気センサを中心に同じ相の2本のモータ配線を180°対向させる構造とする。このように配置すると、一方のモータ配線に電流が流れた際に発生する磁束ベクトルと、他方のモータ配線に同じ大きさ・向きの電流が流れた際に発生する磁束ベクトルは、磁気センサの検出点で互いに打ち消しあい、主回路配線に電流が流れた際に発生する磁束の影響を軽減することが可能となる。しかし、特許文献2の形態では、一方のインバータが故障し他方のインバータのみで動作を継続する場合では、他方のモータ配線から発生する磁束を磁気センサの検出点で打ち消しあうことができなくなるため、位置検出精度が悪化しモータ制御が不安定となる課題がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係る電力変換装置の実施の形態について説明する。なお、各図において同一要素については同一の符号を記し、重複する説明は省略する。
【実施例1】
【0014】
図1を用いて、第1の実施形態に係る電力変換装置およびモータ駆動装置について説明をする。
図1は、第1の実施例に係るモータ駆動装置10の全体構成を示す回路図である。
【0015】
直流電源400の電力を直流から交流へ変換する電力変換装置300は、電気エネルギーを機械エネルギーへ変換し駆動するモータ200に接続される。ここでは、電力変換装置300とモータ200とで、駆動装置10を構成している。モータ200は、例えば三相モータで構成され、回転子201の位置を検出するためのセンサ磁石202が、回転子201の先端に取り付けられている。
【0016】
電力変換装置300には、電力を直流から3相交流へ変換するための3相ブリッジ回路301を構成する半導体素子が6個備えられている。半導体素子としては、MOSFET(metal−oxide−semiconductor field−effect transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのパワー半導体素子がある。
【0017】
なお図示していないが、3相ブリッジ回路301より直流電源400側の正負極配線間には、電源電圧平滑化のための平滑コンデンサが一つ以上備えられている。平滑コンデンサとしては、十分な容量を有している電解コンデンサや導電性高分子ハイブリッド電解コンデンサなどが用いられる。また、3相ブリッジ回路301と平滑コンデンサの間の正極または負極配線に、モータの相電流を検出するための電流検出器が設けられる。電流検出器としては、損失の小さな低抵抗器がよく用いられているが、カレントトランスなど他の電流検出器を用いても構わない。さらに、平滑コンデンサより直流電源400側には、ノイズ対策としてノーマルモードチョークコイルやコンデンサなどのフィルタ部品が配置されている。
【0018】
次に、電力変換装置の制御部に関し説明する。電力変換装置300は、制御部310を有している。制御部310は電流制御部312を有しており、モータ200の動作を所望の値に制御するための電流指令値がモータ駆動装置10から与えられる。また制御部310は、電力変換装置300内に備えられる電流検出器から得る電圧値をフィルタリングおよび増幅するための電流検出部311を有しており、電流検出部311は電流制御部312にモータ200の電流情報を出力する。さらに、モータ駆動装置10に実装された磁気センサ302は、回転子201に取り付けられたセンサ磁石202の磁束変化を検出し、電流制御部312に回転子位置情報を出力する。磁気センサ302としては、ホールICやGMR(Giant Magneto Resistive effect)センサやTMR(Tunnel Magneto Resistance effect)センサなどが考えられる。また磁気センサ302は、電流検出部311やPWM生成部313が実装される、即ちOPアンプ、マイコン、ドライバICや電源ICなどの部品が実装されるプリント基板に搭載されていても、磁気センサ302用の専用基板に実装され、電力変換装置300またはモータ200のいずれかに取り付けられていても良い。
【0019】
電流制御部312は、前述した電流検出値と回転子位置検出値および電流指令値を元に、3相ブリッジ回路301へ与える電圧指令値V*を生成し、PWM生成部313へ出力する。PWM生成部313は、電圧指令値V*に基づいて、3相ブリッジ回路301のそれぞれの半導体素子へゲート電圧指令を出力する。その結果、電力変換装置300はモータ200へ3相交流電流を供給し、モータは電気エネルギーを機械エネルギーに変換することで仕事をする。
【0020】
また、センサ磁石202の着磁量にばらつきが生じることや、センサ磁石202または磁気センサ302が取り付けの際に位置ずれなどを発生する恐れがあるため、制御部310は設計値に対する初期ずれを補正するための、初期位置補正部315を有している。初期位置補正部315で得られた誤差量は位置補正部316に与えられ、モータ駆動装置10に個体差があっても回転子201の正確な位置情報を得ることができる。
【0021】
次に、センサ磁石202を用いて回転子201の位置情報を検出する手法を、
図2および
図3を用いて説明する。
図2に示すように、モータ200の回転子201の先端には、回転子201の位置を検出するためのセンサ磁石202が取り付けられている。ここでセンサ磁石202は、2極に着磁されていることとする。一方、基板に実装された磁気センサ302は、センサ磁石202に対向する位置に、一定の距離だけ離し配置される。
【0022】
2極に着磁されたセンサ磁石202のN極からS極の方向には、着磁量に応じた磁石磁束ベクトル210が出ており、磁石磁束ベクトル210は磁気センサ302を貫通する。ここで、磁石磁束ベクトルをBsと定義し、磁気センサ302の検出位置において面内(X、Y)方向に分解した磁束ベクトルを、それぞれBx_s、By_sとする。
【0023】
磁石磁束ベクトルBsは、磁気センサ302の検出位置のXY平面において、回転子201が回転すると共に0度から360度に変化する。この磁石磁束ベクトルBsのベクトル図に関し、第一象限のみを取り出したものを
図3に示す。変化する磁石磁束ベクトルBsに対し、X方向の磁束Bx_sとY方向の磁束量By_sをそれぞれ検知することができると、式(1)より、
【数1】
回転子201の角度θsを検出することが可能となる。
【0024】
ホール素子やMR素子では、センサ磁石202から発生する磁束Bx_s、By_sに応じた、それぞれの電圧値を出力することが可能であるため、制御部300内では出力された電圧値を元に回転子201の角度θsを演算している。
【0025】
次に
図4に、機電一体化に伴う高密度実装が行われた場合の、モータ駆動装置10の内部構造を示す。高密度実装を実現するために、磁気センサ302と主回路配線501の距離が近接している。ここで、主回路配線とは、直流電源400からモータ200の間に流れる、モータ200を駆動するためのエネルギーが通る全ての配線を指している。具体的には、電力変換装置300内に備えられるバスバなどの電気配線や、基板上に実装される3次元配線、およびモータ200に接続される3相配線などが挙げられる。
【0026】
主回路配線501に電流が流れると、ビオ・サバールの法則に基づく磁束ベクトルBdが、式(2)に従って発生する。
【0027】
【数2】
【0028】
図中では、主回路電流Idが右方向に流れた結果、主回路配線501から発生する磁束ベクトルBdの向きは、紙面の手前から奥の方、すなわちY方向となる。ここで、主回路配線501から発生する磁束ベクトルを、磁気センサの検出位置で面内(XY)方向に分解した磁束をそれぞれ、Bx_d、By_dと定義する。
【0029】
次に、改めて
図3のベクトル図を参照する。主回路配線501が磁気センサ302近傍に配置される場合、磁気センサ302で検出される回転子201の位置、即ち磁束ベクトルは、センサ磁石202が発生する磁石磁束ベクトルBsに、主回路配線501に電流が流れたことで発生する外乱磁束ベクトルBdが加算された値となる。その結果、磁気センサ302が出力した値を元に演算される回転子位置をθcと定義すると、電力変換装置300は式(3)の位置情報を得ることとなる。
【0030】
【数3】
【0031】
なおここで、磁石磁束ベクトルと外乱磁束ベクトルの和をBcと定義する。
【0032】
このように、主回路配線501が磁気センサ302近傍に配置されるモータ駆動装置10では、磁気センサ302は外乱磁束ベクトルBdの影響で回転子201の正確な位置情報を得ることができず、その結果モータ200を安定して制御することが困難となる。
【0033】
そこで本実施例における制御部310は、主回路配線501から発生する外乱磁束ベクトルBdを演算する磁束誤差算出部314と、磁気センサ302から出力された位置情報θcまたはBcから前述した外乱磁束ベクトルBdの影響を補正する、位置補正部316を有している。
【0034】
磁束誤差算出部314には、電流検出部311より得られた主回路配線501の電流の大きさと、PWM生成部313より得ることができる電流の向きと、磁気センサ302から出力される回転子201の位置情報が与えられる。磁束誤差算出部314は、与えられた電流の大きさ・電流の向き・センサ磁石位置に関する情報の全て、またはいずれかの値を元に、主回路配線501から発生する外乱磁束ベクトルBdまたは位置誤差θdを演算し、位置補正部316は磁気センサ302の出力から外乱磁束の影響を取り除くことで、回転子201の正確な位置情報を電流制御部312へ出力する。
【0035】
以上のような構成とすることで、以下の効果が得られる。
(1)主回路配線から発生する外乱磁束ベクトルが磁気センサへ与える影響を制御部で補正することで、電力変換装置は誤差の無い位置情報を得ることができ、その結果、高性能で且つ安定したモータ制御を実現するモータ駆動装置を実現できる。
(2)主回路配線から発生する外乱磁束が磁気センサを貫通することを抑制するための、例えば磁性体で構成された遮蔽板などの追加部品を不要とする。
(3)主回路配線を磁気センサ近傍に実装することを可能とし、モータ駆動装置の高密度実装と更なる小型化を実現する。
【0036】
なお、本実施の形態では、磁気センサはセンサ磁石に対向する位置に備えられているが、回転子の位置をセンサ磁石と磁気センサで検出することが可能であるならば、例えばセンサ磁石の側面方向で一定の距離を置いて配置されていても構わない。
【0037】
また、本実施の形態は、電力変換装置に予め備えられた磁束誤差算出部および位置補正部を用いて、主回路配線から発生する外乱磁束ベクトルの影響を補正する。そのため、例えば主回路配線と磁気センサの間に磁性体の異物などが介入すると、電力変換装置は不要な位置補正を実施することとなり、PWM指令値が変化することや、不安定なモータ制御となる恐れがある。そのため、異物の混入には極めて注意が必要である。
【実施例2】
【0038】
以下の実施例では、実施例1に関し、磁気センサが磁束ベクトルに比例したそれぞれの値を出力する場合の、特に磁束誤差算出部の動作に関し説明する。
【0039】
図5に、本実施の形態における補正方式の流れを示す。モータ駆動装置10はその開発において、電力変換装置300の主回路配線501およびその他部品のレイアウトを決定する。モータ駆動装置10のレイアウトが決まると、全ての主回路配線と磁気センサの位置関係がそれぞれ一意に決定される。そこで、主回路配線に電流が流れた際に発生する外乱磁束ベクトルを、式2や市販の磁場解析ツールを用いることで算出することが可能となる。磁場解析ツールとしては、例えば(株)JSOL殿のJMAGなどが挙げられる。
【0040】
電流と磁束の関係を算出することで、磁束誤差算出部314はそれぞれの主回路配線501に電流が流れた際に発生する外乱磁束ベクトルBdの情報を、主回路配線外乱磁束として内部に備える。その結果、モータ駆動装置10が動作している場合には、電流検出部311とPWM生成部313から与えられる電流の向きと大きさから、磁束誤差算出部314はそれぞれの主回路配線501から発生する外乱磁束ベクトルBd_iを推定できる。ここで、iは主回路配線の番号を示している。そして、磁束誤差算出部314は全ての外乱磁束ベクトルBd_iを足し合わせ、外乱磁束ベクトルBx_d、By_dを位置補正部316へ出力する。位置補正部316は、磁気センサ302から出力される位置情報Bx_c、By_cから、外乱磁束Bx_d、By_dの影響を取り除き、即ちBx_s,By_sを算出することで、回転子201の位置を演算することが可能となる。
【0041】
また、外乱磁束ベクトルBdは流れた電流の大きさに対し線形であるため、磁束誤差算出部314は任意の電流値に対する外乱磁束ベクトルの値を有していれば、内挿または外挿で全ての電流値に対する外乱磁束ベクトルBdを推定可能である。
【0042】
以上のような構成とすることで、電力変換装置は、主回路配線から発生する外乱磁束ベクトルの影響を磁気センサの出力から補正することを可能とし、高精度で且つ安定したモータ制御を実現する。なお、本実施例では理解を容易にするため磁束ベクトルを用いて説明してきたが、実際の磁気センサは磁束ベクトルを電圧値に変換して出力するものが多いため、磁束誤差算出部314は主回路配線外乱磁束と等価な電圧値を備えていても良い。
【0043】
さらに、本実施例で述べた補正方法は、例えば形状データより得られる主回路配線と磁気センサの距離rを磁束誤差算出部に記憶させておくことで、モータ駆動装置の動作中に得られる電流値の情報と合わせて、式2を直接解くこともできる。この場合、
図5に示すように、磁束誤差算出部314は主回路配線位置情報を有することとなる。その結果、リアルタイムに外乱磁束ベクトルの補正をすることも可能である。
【0044】
また、主回路配線に流れる電流が高周波で、且つ主回路配線501近傍に導電体が配置されている場合には、導電対に発生する渦電流の影響も予測される。そのような場合には、式4に示すように、直流電流が流れた際の外乱磁束に対し、1/fに比例するように補正すれば良い。
【0045】
【数4】
【0046】
さらに、磁束誤差算出部に入力する電流値には、電流検出部から与えられる値だけではなく、電流指令部で演算された電流指令値を用いても良い。
【実施例3】
【0047】
以下の実施例では、実施例2に関し、外乱磁束ベクトルの大きさに閾値を設けた場合の動作に関し説明する。
【0048】
電力変換装置300は、外乱磁束ベクトルBdに、閾値として最小磁束ベクトルBmを定義する。最小磁束ベクトルBmは、磁石磁束ベクトルBsに対し許容可能な検出誤差で決まる。そのため、モータ駆動装置10が必要とする回転子201の電気角誤差の許容値や、磁気センサの検出精度、実装時の位置精度などから、各システムにおいて任意に決定されるものである。
【0049】
次に、それぞれの主回路配線501に最大電流を通電した際に発生する外乱磁束ベクトルBd_iを、例えば実施例2で示した手法で算出する。すると、最大外乱磁束ベクトルBd_iと最小磁束ベクトルBmを比較することができ、最大外乱磁束ベクトルが最小磁束ベクトルに対し十分に無視できる大きさである場合には、その主回路配線501を磁束誤差算出部314の対象から削除することが可能となる。
【0050】
さらに、最小磁束ベクトルBmを定義することで、主回路配線501に流れた電流が、ある一定以上の場合にのみ、磁束誤差算出部314を用いて磁気センサ302の出力を補正するようにしても、安定したモータ制御を実現することが可能となる。
【0051】
以上のような構成とすることで、電力変換装置は不要な主回路配線外乱磁束情報を削減でき、さらに位置補正を実施する動作領域も制限することが出来る。その結果、制御部の演算負荷を軽減することが可能となる。
【実施例4】
【0052】
本実施例は、磁束誤差算出部の動作に関し、実施例2とは別の方法に関し説明する。特に、実施例2では電力変換装置内部の構造情報を有していることを前提とした手法であったのに対し、本実施例は電力変換装置の内部構造情報を有していない場合に関するものである。
【0053】
図6は、3相インバータにおける一般的な電圧ベクトルを示している。電圧ベクトルは、MOSFETのオン・オフ状態を表しており、合計8種類の電圧ベクトルがある。また、各電圧ベクトルにおいて考えられる電流の向きは、モータ3相線の電流和は零であることから最大6ケースとなる。即ち、電力変換装置の内部構造情報がなくとも、ある電圧ベクトルで電力変換装置を動作させることで、磁束誤差算出部は主回路配線の外乱磁束ベクトルの影響を推定することが可能となる。以下では、具体的な手法を説明する。
【0054】
<ケース1:モータ3相線の外乱磁束が影響する場合>
図7に、モータ200の3相線の電流波形を示す。PWM制御を実施する電力変換装置300は、PWM生成部313がある電圧指令値を出力すると、
図7の横軸のある点における電流値が出力されることとなる。なお、
図7の縦軸の電流値は規格化された値であり、ピーク電流の大きさは任意である。この場合、電流が0Aの時の磁気センサ出力に対する、電流を通電した場合の磁気センサ出力の差分delta Bo_dは、式5で表される(o = u, v, w)。
【0055】
【数5】
【0056】
ここで、Bxo_d1、Byo_d1は未知数で、それぞれの主回路配線における単位電流当りの外乱磁束の大きさを示しており、X,Y方向に対してそれぞれ3個となる。そのため、
図8に示すように、ある電圧ベクトルにおいて電流の大きさを少なくとも3条件で変化させ、磁気センサ202の出力をそれぞれ得ることで、式(2)に示す連立方程式を解くことができる。その結果、内部構造が不明であっても、モータ200の3相線に電流が流れた際に発生する外乱磁束ベクトルを推定することが可能となる。
【0057】
なお、連立方程式を解く手法としては、電圧ベクトルを固定し電流の大きさを変化させるだけではなく、例えば電圧ベクトルを変化させてもよく、いずれの条件においても磁気センサ302のそれぞれの出力を得ればよい。また、実際に外乱磁束ベクトルの推定をする方法としては、外部からモータ200の回転子201を強制的にロックさせても、q軸指令を零としd軸指令のみでモータ200を駆動させても、モータ200が回転状態であっても構わない。
【0058】
<ケース2:直流母線の外乱磁束も影響する場合>
主回路配線は正極と負極の2本となるため、直流母線に電流が通電した際の外乱磁束ベクトルは、4つの未知数で決まる。また、直流母線に流れる電流値は、電流検出器で検出するモータ200の3相電流を一定以上の時定数でフィルタリングした値と等しく、これまでに説明してきた電流検出部を用いて直流母線の電流値を検出することができる。そのため、ケース1の場合と同様の手法を用いることができ、直流母線の影響も考慮する場合には、電流の大きさまたは電圧ベクトルの数を、ケース1に対し必要なだけ増加させることで、連立方程式を解くことが可能となる。
【0059】
<ケース3:スイッチング電流の外乱磁束も影響する場合>
図9に、3相ブリッジ回路を示す。MOSFETおよびMOSFETを接続する配線部に流れる電流の向きは、電圧ベクトルとそれ以前に流れていたモータ電流の向きで決定される。そのため、
図9に示すスイッチング電流が発生する外乱磁束の影響まで考慮しなければいけない場合には、ケース2と比較しさらに多くの電圧ベクトルにおける磁気センサ302の出力を取得し、ケース2にスイッチング電流に関する方程式を追加した連立方程式を解くことが必要となる。また、平滑コンデンサから流出入する電流は、モータ電流値から直流母線の電流値を差し引いた値に等しいため、平滑コンデンサ部の影響も加味することが可能である。
【0060】
なお、スイッチング電流は高周波で、またスイッチング電流が流れる配線の近傍には低インダクタンスを実現するために導電体が近接されていることが多い。そのため、スイッチング電流が外乱磁束となる可能性は低く、前述したケース1,2で多くの場合は補正が可能となると考えられる。
【0061】
以上のように、ケース1から3のいずれかにおいて作成された外乱磁束の情報を、磁束誤差補正部314は有する。次に、磁束誤差算出部314は電流検出部311から得られる電流の大きさとPWM生成部313から得られる電流の向きの情報を用い、外乱磁束ベクトルの影響を演算し、結果を出力する。そして、位置補正部316は磁気センサ302が出力する磁束ベクトル情報と、磁束誤差補正部314が出力する外乱磁束の情報から、回転子201の正確な位置情報を演算する。
【0062】
その結果、電力変換装置300は安定したモータ制御を実現する。なお、本実施例においても、実施例3に示したように、モータ制御に影響を与えない範囲の外乱磁束の大きさであれば、補正を実施しない電圧ベクトルや電流の大きさが備えられても良い。
【0063】
以上のような構成とすることで、モータ駆動装置の内部情報が分からない状況においても、各主回路配線の外乱磁束の影響を取り除くことができ、高性能で安定したモータ制御を実現できる。
【実施例5】
【0064】
これまでの実施例では、磁気センサおよび外乱磁束の面内方向に関する大きさが分かる状況下での、回転子位置を補正する方式を説明してきた。しかし、例えばICが内蔵された磁気センサでは、IC内部で磁束ベクトルに関する演算が実施され、センサ磁石の位置情報θのみが出力されるものもある。この場合、これまでの実施例で述べてきたように、外乱磁束ベクトルのみを用いて位置情報θを補正することは難しい。そこで本実施例では、磁気センサからの出力が位置情報θである場合の、磁束誤差算出部の動作に関し説明する。
【0065】
図10に、センサ磁石の磁束ベクトルがX方向、
図11にはセンサ磁石の磁束ベクトルがY方向で、それぞれのケースにおいて、主回路配線に電流が流れた際に発生する外乱磁束ベクトルがX方向である場合を示す。
図10では、磁石磁束ベクトルと外乱磁束ベクトルの向きが同一であるため、磁気センサから出力される位置情報θは、外乱磁束ベクトルの影響を受けない。一方、
図11では磁石磁束ベクトルと外乱磁束ベクトルの向きが90度異なるため、磁気センサから出力される位置情報θは、外乱磁束ベクトルの影響を大きく受けていることとなる。このように、磁気センサから位置情報θのみが出力される磁気センサでは、センサ磁石の位置によって外乱磁束ベクトルの影響が大きく変化する。そのため、これまでの実施例のように、主回路配線に流れた電流の向きと大きさの情報のみから、回転子の位置情報を正確に補正することは難しい。
【0066】
次に、外乱磁束ベクトルがX方向に一定であると仮定し、センサ磁石が360度回転した場合の回転子位置の真値θsを横軸にとり、外乱磁束ベクトルの影響を含む磁気センサ出力θcとθsの差分、即ち外乱磁束による位置ずれ量θdを試算した結果を
図12に示す。
図12から明らかなように、磁石磁束ベクトルがX軸から離れていくほど外乱磁束の影響は大きくなり、また外乱磁束ベクトルの影響θdは概ね正弦波となって現れている。ここで、外乱磁束ベクトルの向きが異なる条件であった場合には、正弦波のピークおよびゼロクロスの位相が、外乱磁束ベクトルに応じてずれることとなる。
【0067】
<ケース1:モータ3相線の外乱磁束が影響する場合>
磁束誤差算出部314が、
図7の各電流位相における磁石位置θsと外乱磁束ベクトルの影響θdの関係を有していると、θdと磁気センサから出力される位置情報θcを元に、外乱磁束ベクトルの影響を補正することが可能となる。以下では、位置情報の補正方法を説明する。
【0068】
ある時刻における磁気センサ203から出力される位置情報θcは、
【数6】
である。一方、電力変換装置300は、ある時刻における電流検出値からモータ電流の位相を決定し、磁束誤差算出部314内に備えている磁石位置θsと外乱磁束の影響θdのデータを導出する。そして、同じ電流位相であれば、ピーク電流の大きさに対しθdは線形に変化するため、主回路配線の電流の大きさから外乱磁束の影響を線形補完し、補正された影響をθd'とする。
【0069】
すると、磁束誤差算出部314内部で推定する磁石位置θs'に対する外乱磁束の影響θd'が任意に決まるため、式7に示す条件を満たすθs'がセンサ磁石の真値となる。
【0070】
【数7】
【0071】
ここで、磁束誤差算出部314はある電流値におけるθdの情報を有していれば良い。また、
図12に示すように、θdは概ね正弦波であるため、磁束誤差算出部314はθdのピーク値およびその位相情報を有していれば、θsに対し外挿することが可能である。その結果、磁束誤差算出部314が有するθdの情報量を、極めて少なくすることが可能となる。
【0072】
なお、磁束誤差算出部314が有するθsとθdに関する情報は、これまでの実施例にて説明してきたいずれかの方法で得ることができる。
【0073】
<ケース2:直流母線の外乱磁束が影響する場合>
直流母線の電流は単一方向で、且つ正極側と負極側の電流の大きさは一致する。そのため、外乱磁束ベクトルの向きは一意に決まる。その結果、磁束誤差算出部314は、センサ磁石位置θsに対し、ある電流値における位置ずれ量θd''のみを有すれば良い。即ち、直流母線に対するθsとθd''のデータは1つで良い。
【0074】
磁束誤差算出部314は、電流検出部から与えられるモータ電流値および直流母線電流値を用いて、前述したモータ電流値による位置ずれθd'と、直流母線による位置ずれθd''の双方を出力することとなる。
【0075】
以上のように、ケース1から3のいずれかにおいて作成された外乱磁束による位置情報を、磁束誤差補正部314は有する。次に、磁束誤差算出部314は電流検出部311から得られる電流の大きさとPWM生成部313から得られる電流の向きの情報を用い、センサ磁石位置と外乱磁束による位置ずれの大きさを演算し出力する。そして、位置補正部316は磁気センサ302が出力するセンサ磁石位置情報と、磁束誤差補正部314が出力するセンサ磁石位置と外乱磁束による位置ずれの情報から、回転子201の正確な位置情報を演算する。
【0076】
その結果、電力変換装置300は安定したモータ制御を実現する。なお、本実施例においても、実施例3に示したように、モータ制御に影響を与えない範囲の外乱磁束の大きさであれば、補正を実施しない電圧ベクトルや電流の大きさが備えられても良い。
【0077】
以上のような構成とすることで、磁気センサが位置情報θのみを出力するようなシステムにおいても、外乱磁束ベクトルの影響を取り除くことを実現できる。
【実施例6】
【0078】
図13に、実施例6における回路図を示す。本実施例では、二つの電力変換装置で一つ以上のモータを駆動するシステムを考える。本システムは冗長系を実現するものであり、たとえ一方の3相ブリッジ回路が故障した場合でも、他方の3相ブリッジ回路を継続して動作させることでモータを駆動し続けるシステムである。
【0079】
モータ200は、一つの金属筐体に2つの3相巻き線が配置された冗長モータであり、回転子はそれぞれの巻き線に共通で、回転子の先端にはセンサ磁石が取り付けられている。電力変換装置300には、モータ200の3相巻き線201と電気的に接続される3相ブリッジ回路301と、3相巻き線202と電気的に接続される3相ブリッジ回路350が備えられえいる。また、3相ブリッジ回路301および3相ブリッジ回路350の電流を検出する電流検出部311,351がそれぞれ備えられている。さらに、3相ブリッジ回路301、350へ電圧指令を出力するための電流制御部312,352およびPWM生成部313,353もそれぞれ備えられており、モータ駆動装置10より与えられる電流指令値に対し、それぞれ独立して制御をすることが可能なシステムである。一方、センサ磁石202は共通であるため、磁気センサ302および磁束誤差算出部314、初期位置補正部315、位置補正部316は電力変換装置内300に1つである。なお、直流電源400が二つ図示されているが、これは個別に二つ備えられていても共通であっても構わない。
【0080】
3相ブリッジ回路301および350、およびこれらを制御するための制御部310は、高密度実装を実現するため共通の1つの筐体に実装される。すると、3相ブリッジ回路301および350の主回路配線からは外乱磁束ベクトルBdが発生し、これまでに述べてきたように外乱磁束ベクトルが磁気センサ302に影響を与える。
【0081】
そこで、磁束誤差算出部314は、それぞれの3相ブリッジ回路の電流の大きさおよび向きから、これまでの実施例で説明してきた外乱磁束ベクトルの補正量を抽出し、位置補正部316へ出力する。その結果、位置補正部316は磁気センサ302の出力から外乱磁束の影響を取り除くことができ、電力変換装置300は安定したモータ制御を実現する。また、本実施例の方式を適用することで、一系統が故障した場合であっても、他方の電流検出値のみから磁束誤差補正部は外乱磁束の影響を補正しようとするため、継続して安定したモータ駆動を実現できる。
【実施例7】
【0082】
図14に、実施の形態7を示す。実施形態7は、本発明を電動パワーステアリング装置に適用した例である。
図11に示すように、モータ駆動装置10は、車両のステアリング1の回転軸に取り付けられたギア4を介しトルクを発生させ、ステアリング1による操舵をアシストする。ここで、駆動装置10はこれまでに説明した制御技術を適用したものである。
【0083】
以上のように、電動パワーステアリング装置は小型化された電力変換装置を備えることで、搭載スペースの少ない車にも適用でき、様々な車種展開を可能とする。
なお、以上の実施例では、3相モータおよび3相ブリッジ回路に関し説明してきたが、例えば直流モータや交流から直流に電力を変換する電力変換装置などの組み合わせなど、回転体の位置を検出し電流または電圧を制御する電力変換装置であれば、どのような形態でも同様の効果を得ることができる。