特許第6444318号(P6444318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6444318-聴覚遅延を改善する装置及び方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444318
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】聴覚遅延を改善する装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 25/00 20060101AFI20181217BHJP
   H04R 1/10 20060101ALI20181217BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   H04R25/00 H
   H04R1/10 104Z
   H04R3/00 310
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-556546(P2015-556546)
(86)(22)【出願日】2014年1月21日
(65)【公表番号】特表2016-510183(P2016-510183A)
(43)【公表日】2016年4月4日
(86)【国際出願番号】FI2014050047
(87)【国際公開番号】WO2014125163
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2016年12月14日
(31)【優先権主張番号】20135125
(32)【優先日】2013年2月12日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】515141861
【氏名又は名称】オーディオバランス エクセレンス オサケイティエ
【氏名又は名称原語表記】AUDIOBALANCE EXCELLENCE OY
(74)【代理人】
【識別番号】100087594
【弁理士】
【氏名又は名称】福村 直樹
(74)【復代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】ハーティネン,ハンヌ
【審査官】 下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−262094(JP,A)
【文献】 特開2010−154432(JP,A)
【文献】 特開平09−116999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 25/00 − 25/04
H04R 3/00 − 3/14
H04R 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの音声再生要素(109,110)を有すると共に第一のチャンネル(111)と第二のチャンネル(112)とを備える音声再生手段と、
入って来る音声信号のための入力部(120)と、
入って来る音声信号の該入力部(120)を前記第一のチャンネル(111)から前記第二のチャンネル(112)に切り替えるようになっている切り替え回路と
を有し、
該切り替え回路には、第一の遅延素子(105)と第二の遅延素子(106)とがあり、該第一の遅延素子(105)は前記第一のチャンネル(111)用の遅延を形成し、該第二の遅延素子(106)は前記第二のチャンネル(112)用の遅延を形成し、
該第二の遅延素子(106)によって形成された前記第二のチャンネルの遅延は約25〜85msの範囲で調節可能になっており、
前記第一のチャンネルの遅延と前記第二のチャンネルの遅延とが相互に独立に調節可能であり、
前記第一のチャンネル及び第二のチャンネルにおける信号を増幅する手段(107,108)をさらに有しており、増幅は2つのチャンネルに対して別々に調節可能である、ことを特徴とする、聴力欠損を改善する装置。
【請求項2】
前記第一のチャンネル及び第二のチャンネルの周波数応答を調節する手段(103,104)をさらに有する、請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項3】
前記第一のチャンネルの周波数応答と前記第二のチャンネルの周波数応答とが相互に独立に調節可能である、請求項に記載の装置。
【請求項4】
前記第一のチャンネル(111)が左側のチャンネルであり、前記第二のチャンネル(112)が右側のチャンネルである、請求項1〜のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記音声再生手段がスピーカー装置又はイヤホーンである、請求項1〜のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
入って来る音声の前記入力部(120)に接続された1つ以上のマイクをさらに有している、請求項1〜のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
2つの音声再生要素(109,110)を有すると共に第一のチャンネル(111)と第二のチャンネル(112)とを備える音声再生手段と、入って来る音声信号のための入力部(120)と、入って来る音声信号の該入力部(120)を前記第一のチャンネル(111)から前記第二のチャンネル(112)に切り替えるようになっている切り替え回路とを有し、該切り替え回路には、第一の遅延素子(105)と第二の遅延素子(106)とがある装置を用い方法であって、
前記第一の遅延素子(105)は前記第一のチャンネル(111)用の遅延を形成し、前記第二の遅延素子(106)は前記第二のチャンネル(112)用の遅延を形成し、
該第二の遅延素子(106)によって形成された前記第二のチャンネルの遅延は約25〜85msの範囲で調節可能になっており、
前記第一のチャンネルの遅延と前記第二のチャンネルの遅延とが相互に独立に調節され、
前記第一のチャンネル及び第二のチャンネルにおける信号が増幅され、2つのチャンネルに対して別々に増幅を調節することができることを特徴とする方法。
【請求項8】
前記第一のチャンネル及び第二のチャンネルの周波数応答が調節される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記第一のチャンネルの周波数応答と前記第二のチャンネルの周波数応答とが相互に独立に調節される、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、聴覚学習の改善に関し、また、聴覚遅延を改善する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
聴覚、聴覚の問題、及び個人の状況に応じた聴覚刺激については長期に亘って研究されてきた。個人の状況に応じた聴覚刺激の理論的前提は、1950年代に実施された聴覚過敏に関する研究に基づいている。聴覚のアンバランスは、言語発達及び読みの学習の初期段階に影響し、さらに、精神的な問題も生じることが観察されている。
【0003】
例えば、フランスの内科医アルフレッド・トマティスは、周波数の低い音声を音声刺激から濾波して、このように加工された音声を聴覚の訓練に使用する方法を開発してきた。学習障害に苦しむ多くの人々は、聴覚処理障害があると診断され、特に低周波数での聞き取りにくさがある。
【0004】
特に聴覚刺激の時間的構造と継続時間が非常に短いことに起因する聴覚認知障害は、読字障害にも関連していることが多い。観察によると、聴覚処理障害は、幼児期に言語発達遅滞として見られるが、問題となる特徴は多くの人によって成人期まで持ち続けられ、学習障害を生じる。
【0005】
聴覚処理障害の一例としては、両耳から入った音声を脳で同期させるのがうまく行かないことに起因する聴覚遅延を挙げることができる。音声を同期させることができないと、片方の耳から入った音声が遅れ、結果として、人の言語学習技量に本質的な影響を与えることになる。
【0006】
この分野で知られているのは、例えば、吃音を解消する装置及び方法である。特許公報US 3101081は吃音を解消する装置について記載している。特許公報US 3101081による装置は、片方の耳の入ってくる音声の音量を調節することにより、偏倚における攪乱を低減するためのものである。
【0007】
米国特許出願公開公報US2010172506には、補聴器についても記載されており、この補聴器の目的は、片方の耳の聴覚障害を改善するためのものである。米国特許出願公開公報US2010172506に記載されている補聴器は、2つの耳に配置されるマイク(1R, 1L)によって機能する。両方の耳においてマイクが発生した電気信号が結び付けられ、結果として、聴力の良い方の側で出力音が繰り返される。左側のマイクと右側のマイクとによって発生した信号が、まず、組み合わされ、然る後に、左側のマイクによって発生した信号SL(t)が両方の信号を組み合わせるために遅延される。
【0008】
米国特許出願公開公報US201131331からも知られているのは、偏倚の処理についての課題解決方法であり、この方法によって、瞬間に受信する音声と音声の高さとが左の耳と右の耳との間で相違していたとしても、音声信号を識別して局在化するシステムが作られている。このシステムは、ITD及びILDは音源に向かって頭の右側と左側とにある耳の位置の相違によって起こる、自然に存在するITD及びILD(Interaural Time Difference(両耳間時間差)/Interaural Level Difference(両耳間強度差))のみの数値を置換するようになっている。
【0009】
従来技術に開示の課題解決方法によっては、耳に入ってくる音声信号を使用者のニーズに応じたものすることはできない。また、従来技術に係る刊行物では、耳によって周波数応答に相違があるかもしれないことは考慮されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】US 3101081
【特許文献2】US 2010/172506
【特許文献3】US 201131331
【発明の概要】
【0011】
本発明による課題解決方法の目的は、従来技術の欠陥を改善し、聴覚学習の改善を図ることである。本発明は、耳に入ってくる音声信号を使用者の事情に応じたものにすることのできる装置及び方法に関する。本発明による装置においては、聴覚遅延及び/又は周波数応答の両方に対する音声チャンネルを調節する。聴覚学習を改善するためには、両方の耳に入ってくる音声が同期するように、両方の耳に入る信号を個別に調節することが可能でなければならない。本発明による課題解決方法においては、一方の耳に入ってくる音声の遅延を他方の耳に入ってくる音声の遅延と比較して補償することができる。
【0012】
聴力欠損を改善する本発明による装置は、2つの音声再生要素を有すると共に第一のチャンネルと第二のチャンネルとを備える音声再生手段を有し、該装置は、さらに、入って来る音声信号のための入力部と、入って来る音声信号の入力部を前記第一のチャンネルから前記第二のチャンネルに切り替えるように形成された切り替え回路とを有している。この切り替え回路には、第一の遅延素子と第二の遅延素子とがある。第一の遅延素子は第一のチャンネル用の遅延を形成し、第二の遅延素子は第二のチャンネル用の遅延を形成する。第二の遅延素子によって形成された第二のチャンネルの遅延は調節可能になっている。
【0013】
本発明による装置においては、相互に分離されている前記2つの音声チャンネルを相互に独立に調節することができ、また、ある状況においては、両方のチャンネルに共に調節を加えることができる。本発明による装置においては、差動増幅と最終的な信号の増幅とを調節することもできる。
【0014】
本発明の一態様においては、耳に入って行く音声信号の周波数応答を調節することができる。本発明の一態様においては、周波数応答も相互に独立に調節することができる。
【0015】
本発明による課題解決手段においては、耳に入って行く音声信号を相互に独立に遅延させることができる。これは、従来技術の課題解決手段によっては可能ではなかったことである。両耳の遅延を単独で又は共に変更することのできる、音声信号の遅延要素も従来技術には開示されていない。さらに、例えば、一方の遅延要素による遅延が一定で他方の遅延要素による遅延を調節することのできる2つの遅延要素も従来技術には開示されていない。
【0016】
したがって、公知の技術及び装置では、耳の音声反応及び/又は音声遅延は同期させることはできない。特定の耳と特定の患者との両方に対して調節を行うことは、耳の包括的な聴覚改善反応を調節し、聴覚学習を容易にするのに有用である。
【0017】
以下において、当該態様のいくつかの例の助けによって、本発明について図面を参照してより詳細に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明による課題解決手段をブロック図として示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による課題解決手段においては、音源から来る信号は両方の耳用に別々に処理される。音声信号は相互に分離されて増幅され、この増幅は両方の耳に入って行く信号において個別に調節することができ、また、共通に調節することができる。本発明による課題解決手段は、また、音声信号の周波数応答を改善することもできる。周波数応答の加工処理は、両方の耳に対して別々に行うことができる。周波数応答を状況に応じて加工処理する段階に加えて、音声信号の遅延を調節することができる。この調節は、両方のチャンネルに対して別々に行われる。最終段階は増幅段階であってもよいが、本発明の課題解決手段においては、最終増幅段階は任意である。チャンネルの最後には、そこから音声信号が出てくる、例えば、イヤホーン又はスピーカー等の音声再生装置が配置されている。
【0020】
図1は、本発明による課題解決手段の1つを示している。本発明による装置は、入って来る音声信号の入力部120を介して信号を受け取る。入って来る音声信号の入力部120には、例えば、1以上のマイク又は他の音源が接続されていればよい。両方の耳に対するチャンネル111, 112は、相互に分離されている。チャンネルは、例えば、該チャンネルの分離段階101, 102で相互に分離することができる。チャンネル111, 112の信号の周波数応答は、各チャンネルがそれぞれ有する周波数応答調節段階103, 104で変えることができ、2つのチャンネルの周波数応答調節操作は相互に完全に独立している。チャンネル111, 112の信号は遅延させることができる。即ち、遅延要素105, 106で各チャンネルの信号に遅延を形成することができる。遅延要素105, 106は、例えば、遅延回路であってもよい。本発明による課題解決手段においては、遅延は独立に調節することができ、また、2つのチャンネルについて相互に独立に調節することができる。
【0021】
前記装置は増幅段階107, 108を有していてもよく、これによって信号を増幅することができる。増幅は、2つのチャンネル111, 112に対して同じ大きさで行うことができ、また、第二の態様においては、2つのチャンネルについて異なる大きさで相互に独立して行うことができる。この増幅も特定のチャンネルについて調整可能であり、第二の態様においては、両方のチャンネルについて同じものとして(as the same)同時に増幅を調節することができる。信号は、装置の音声再生手段で再生され、該音声再生手段は2つの音声再生要素109, 110を有している。音声再生手段としてはイヤホーン又はスピーカーを用いることができる。
【0022】
このように、本発明は、聴力欠損を改善する装置に係り、該装置は、2つの音声再生要素109, 110を有すると共に、第一のチャンネル111と第二のチャンネル112とがある音声再生手段を有している。この装置は、さらに、入って来る音声信号のための入力部と、該音声信号の入力部を音声再生手段の前記第一のチャンネルから前記第二のチャンネルに切り替えるように形成された切り替え回路とを有している。この切り換え回路には第一の遅延素子105と第二の遅延素子106とがあり、第一の遅延素子105は第一のチャンネル111用の遅延を形成し、第二の遅延素子106は第二のチャンネル112用の遅延を形成する。第二の遅延素子106によって形成された第二のチャンネルの遅延は調節可能になっている。
【0023】
本発明の一態様においては、第一の遅延素子105によって形成される第一のチャンネル111の遅延は一定である。
【0024】
本発明の一態様においては、第一のチャンネルの遅延と第二のチャンネルの遅延とは、相互に独立に調節可能であるようになっている。
【0025】
本発明の一態様においては、第二のチャンネルの遅延は、約25〜85 msの範囲で調節可能であるようになっている。
【0026】
本発明の一態様においては、装置は、第一及び第二のチャンネルの周波数応答を調節する手段103, 104をさらに有している。
【0027】
本発明の一態様においては、第一のチャンネルの周波数応答と第二のチャンネルの周波数応答とは、相互に独立に調節可能になっている。
【0028】
本発明の一態様においては、第一のチャンネル111が左側のチャンネルであり、第二のチャンネル112が右側のチャンネルである。
【0029】
本発明の一態様においては、装置は、第一のチャンネル及び第二のチャンネルにおける信号を増幅する手段107, 108をさらに有しており、増幅は2つのチャンネルに対して別々に調節可能であり、また、両チャンネルに対して共通に増幅可能である。
【0030】
本発明の一態様においては、音声再生手段はスピーカー装置又はイヤホーンである。
【0031】
本発明の一態様においては、装置は、入って来る音声の入力部120に接続された1つ以上のマイクをさらに有している。
【0032】
本発明は、このように、装置を用いて聴力欠損を改善する方法にも関し、該装置は、2つの音声再生要素109, 110を有すると共に、第一のチャンネル111と第二のチャンネル112とがある音声再生手段を有している。この装置は、さらに、入って来る音声信号のための入力部120と、切り替え回路とを有しており、この切り替え回路には、第一の遅延素子105と第二の遅延素子106とがある。この方法においては、入って来る音声信号の入力部102を音声再生手段の前記第一のチャンネルから前記第二のチャンネルに切り替え、第一の遅延素子105は第一のチャンネル111用の遅延を形成し、第二の遅延素子106は第二のチャンネル112用の遅延を形成する。第二の遅延素子106によって形成された第二のチャンネルの遅延は調節可能になっている。
【0033】
本発明の一態様においては、第一のチャンネルの遅延と第二のチャンネルの遅延とは相互に独立に調節される。
【0034】
本発明の一態様においては、第一及び第二のチャンネルの周波数応答が調節される。
【0035】
本発明の一態様においては、第一のチャンネルの周波数応答と第二のチャンネルの周波数応答とが相互に独立に調節される。
【0036】
本発明の一態様においては、第一のチャンネルの信号と第二のチャンネルの信号とが増幅される。この増幅を2つのチャンネルについて別々に調節することができ、また、両方のチャンネルに共通の調節として増幅を調節することができる。
【0037】
本発明の様々な態様が前記例のみに限定されず、これらの理由により、様々な態様は以下に示される請求の範囲内で変更することができることは、当業者には明らかである。明細書において、他の特徴と結び付けて示されている可能性のある特徴は、必要であれば、相互に独立に用いることができる。
図1