特許第6444420号(P6444420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444420
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】放電装置
(51)【国際特許分類】
   H01T 19/04 20060101AFI20181217BHJP
   H01T 23/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   H01T19/04
   H01T23/00
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-546364(P2016-546364)
(86)(22)【出願日】2015年6月26日
(86)【国際出願番号】JP2015068483
(87)【国際公開番号】WO2016035431
(87)【国際公開日】20160310
【審査請求日】2016年7月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-178141(P2014-178141)
(32)【優先日】2014年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大江 信之
(72)【発明者】
【氏名】西田 弘
【審査官】 太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−539591(JP,A)
【文献】 特開2011−175949(JP,A)
【文献】 特開平09−035890(JP,A)
【文献】 特開平07−282953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 19/04
H01T 23/00
H05F 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分を含む大気環境で使用される放電装置であって、
正電圧を印加されて放電する正極放電電極と、
負電圧を印加されて放電する負極放電電極とを備え、
前記正極放電電極の外周面と、前記負極放電電極の外周面とが、異なる材質で構成されており、
前記正極放電電極の前記外周面は、塩化物イオンに耐性のある材料で構成されており、
前記負極放電電極の前記外周面は、ナトリウムイオンに耐性のある材料で構成されており、
前記正極放電電極および前記負極放電電極の根元部を封止する絶縁物と、
前記絶縁物が充填される筐体と
前記正極放電電極および前記負極放電電極との間に電位差を生じさせることで、前記正極放電電極および前記負極放電電極の尖端から放電を発生させる、誘導電極と、
前記正極放電電極および前記負極放電電極を支持する基板と、をさらに備え、
前記誘導電極および前記基板は、その全部が前記絶縁物の内部に埋め込まれており、前記絶縁物によって密閉されており、
前記正極放電電極および前記負極放電電極、前記絶縁物、ならびに前記筐体のみが外部に露出している、放電装置。
【請求項2】
前記正極放電電極と前記負極放電電極との全体が異なる材質で構成されている、請求項1に記載の放電装置。
【請求項3】
前記正極放電電極および前記負極放電電極は、導電性の本体部と、前記本体部の表面を被覆する被覆層とを有し、
前記正極放電電極の前記被覆層と、前記負極放電電極の前記被覆層とが、異なる材質で構成されている、請求項1に記載の放電装置。
【請求項4】
前記正極放電電極の前記外周面は、前記負極放電電極の前記外周面よりも、耐消耗性に優れる材料で構成されている、請求項1〜のいずれか1項に記載の放電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電装置に関し、特に、電圧が印加されて放電する放電電極を備える放電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放電現象を利用したイオン発生装置を搭載した機器は多種多様であり、その使用環境も様々である。現在、放電電極を固定した基板や放電電極そのものを樹脂などの構造物に固定し、その周辺を絶縁物で覆う構造を持った、放電装置が開発されている。
【0003】
放電現象で使用している電極は現在、金属針が主流となっており、SUS、タングステン、またはニッケル合金製などの放電電極が実用化されている。放電電極の少なくとも胴体部分は、基板への半田付けのため、錫、ニッケルメッキなどが表面に加工されている。金属針の先端でコロナ放電を発生させて、イオンを生成している。
【0004】
特開平5−21131号公報(特許文献1)に開示されているクリーンルーム用イオナイザには、一対の正負の針状電極が取り付けられている。この電極は、タングステン電極の表面にニッケルによる被覆がメッキにより設けられ、積層構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−21131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の放電装置では、正電圧を印加される正極放電電極と、負電圧を印加される負極放電電極とは、同一の材料により構成されている。電極を構成している金属材料を被覆するメッキの材料も同一である。正極放電電極と負極放電電極とを同一の材料で構成すると、生産量が増加するためコストを低減でき、また正極と負極との取り違えが発生しないので、生産性において優れている。
【0007】
一方、放電現象を発生させる放電電極のうち、正電圧を印加される正極放電電極と、負電圧を印加される負極放電電極とは、放電時に異なる挙動を示す。本発明者らは、従来のように正極放電電極と負極放電電極とを同一材料で構成すると、放電時に発生する現象に対する耐性において、正極放電電極および負極放電電極のうちいずれか一方の耐性が不十分になる課題を見出した。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、正極放電電極と負極放電電極との両方の性能を長期間に亘って維持できる、放電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、結露の発生し得る高湿度環境、特に海岸近辺などの塩分を含む過酷環境において、金属を部材とする放電電極を使用して放電すると、正極放電電極と負極放電電極とにおいて異なる電気分解が発生し、その結果、正極放電電極に使用している金属の一部が周囲に溶出し、一方、負極放電電極にはナトリウムを含む化合物が析出することを見出した。
【0010】
また本発明者らは、金属を部材とする放電電極は放電の発生により消耗するが、正極放電電極および負極放電電極のうち、正極放電電極の方が消耗がより大きい場合があることを見出した。
【0011】
これらを踏まえて、本発明者らは、正極放電電極と負極放電電極との各々を最適な材質で構成すれば、過酷環境への対応、および電極の消耗の均一化が可能であるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る放電装置は、正電圧を印加されて放電する正極放電電極と、負電圧を印加されて放電する負極放電電極とを備えている。正極放電電極の外周面と、負極放電電極の外周面とが、異なる材質で構成されている。
【0013】
好ましくは、正極放電電極と負極放電電極との全体が異なる材質で構成されている。
好ましくは、正極放電電極および負極放電電極は、導電性の本体部と、本体部の表面を被覆する被覆層とを有している。正極放電電極の被覆層と、負極放電電極の被覆層とが、異なる材質で構成されている。
【0014】
好ましくは、正極放電電極の外周面は、塩化物イオンに耐性のある材料で構成されており、負極放電電極の外周面は、ナトリウムイオンに耐性のある材料で構成されている。
【0015】
好ましくは、正極放電電極の外周面は、負極放電電極の外周面よりも、耐消耗性に優れる材料で構成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の放電装置によれば、正極放電電極を構成する金属成分の溶出または消耗を抑制できるので、正極放電電極と負極放電電極との両方の放電性能を長期に亘って安定して維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の形態1の放電装置の構成を示す斜視図である。
図2図1に示す放電装置の、正極放電電極付近を示す断面図である。
図3図1に示す放電装置の、負極放電電極付近を示す断面図である。
図4】実施の形態2の放電装置の、正極放電電極付近を示す断面図である。
図5】実施の形態2の放電装置の、負極放電電極付近を示す断面図である。
図6】実施の形態3の放電装置の、正極放電電極付近を示す断面図である。
図7】実施の形態3の放電装置の、負極放電電極付近を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0019】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の放電装置100の構成を示す斜視図である。図1を参照して、放電装置100は、正極放電電極11と、負極放電電極21と、本体ケース2とを備えている。正極放電電極11および負極放電電極21は、針状の形状に形成されている。
【0020】
本体ケース2は、放電装置100の外観をなす筺体として設けられている。本体ケース2は、矩形状の容器部1を有している。容器部1は、その内部に、有底の中空空間を規定している。容器部1の内部空間には、樹脂材料である絶縁物14が充填されている。本体ケース2はまた、電極保護壁3を有している。電極保護壁3は、正極放電電極11および負極放電電極21の周囲に配置されている。電極保護壁3は、正極放電電極11および負極放電電極21を保護するために設けられている。
【0021】
図2は、図1に示す放電装置100の、正極放電電極11付近を示す断面図である。図2を参照して、正極放電電極11は、基板15により支持された根元部11aと、尖鋭な形状の尖端11bと、根元部11aから尖端11bへ向けて先細るテーパ部11cとを有している。根元部11aは、尖端11bに対し反対側の正極放電電極11の基端を有している。根元部11aの一部は、絶縁物14の内部に埋め込まれている。根元部11aの下方部分は、絶縁物14により封止されている。尖端11bは、絶縁物14の表面14sから突出している。
【0022】
絶縁物14の内部には、誘導電極(対向電極)12および基板15が埋め込まれている。正極放電電極11は、基板15によって支持されている。誘導電極12は、正極放電電極11の周囲の、正極放電電極11から離れた位置に配置されている。基準電位をなす誘導電極12は、金属などの導体材料により形成されている。誘導電極12および基板15は、その全部が絶縁物14の内部に埋め込まれており、絶縁物14によって密閉されている。
【0023】
絶縁物14としては、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、または、ゴム系高分子材料を溶剤にとかしたコーティング材料を充填するのが好ましい。絶縁物14は、誘導電極12および基板15を十分に密閉できる程度の厚さを有していることが好ましい。
【0024】
基板15は、平板状の形状を有しており、本体ケース2の容器部1の底面と平行に配置されている。基板15は、放電側の表面をなす主表面15aと、主表面15aに対して反対側の裏面15bとを有している。基板15の主表面15aおよび裏面15bは、絶縁物14によって覆われている。基板15には、基板15を厚み方向に貫通して主表面15aから裏面15bに至る貫通孔が形成されている。基板15に形成されている貫通孔は、その内壁面に導体が形成されたスルーホールビアであってもよい。
【0025】
正極放電電極11は、基板15に形成された貫通孔に挿通されている。正極放電電極11の根元部11aが、たとえば半田付けにより基板15に固定されることで、正極放電電極11は基板15により支持されている。正極放電電極11の、尖端11bと反対側の他方端は、基板15の裏面15bから突出している。正極放電電極11は、基板15を貫通した状態で基板15に支持されている。基板15の主表面15aおよび裏面15bには、配線パターンが形成されている。正極放電電極11は、半田により、基板15に形成された配線パターンまたはリード線に、電気的に接続されている。
【0026】
図2に示す例では、基板15を貫通する状態の正極放電電極11が図示されているが、基板15の主表面15a上に正極放電電極11が搭載されているような状態でも構わない。
【0027】
放電装置100は、正極放電電極11にプラスの高電圧を印加し誘導電極12との間に電位差を生じさせることで、正極放電電極11の尖端11bからコロナ放電を発生させ、正イオンを発生する。正極放電電極11の尖端11bが絶縁物14の表面14sから突出していることにより、尖端11bで発生したイオンを速やかに搬送できる構成とされている。
【0028】
正極放電電極11に印加する高電圧を生成する回路は、放電装置の本体ケース2内に存在するのであれば、本体ケース2で覆われるか、絶縁物14で密閉されているのが望ましい。そうすることで、高電圧を生成する回路が過酷環境に触れるのを防ぎ、電極部以外のところでリークが発生するのを抑制することができる。また、基板15を介して正極放電電極11に電圧を印加するようにしてもよい。
【0029】
また、正極放電電極11に印加する高電圧を、放電装置100の外部より供給しても構わない。その場合、正極放電電極11に高電圧を供給するための基板やコネクタなどの経路を、絶縁物、耐水性のゲル、または絶縁チューブ等で密閉させるとよい。そうすることで、当該経路周辺が過酷環境に触れるのを防ぎ、電極部以外のところでリークが発生するのを抑制することができる。
【0030】
正極放電電極11に印加する高電圧はパルス電圧を基本としているが、直流電圧でも構わない。また、電圧は放電が起こる限り、どの大きさでも構わない。
【0031】
図3は、図1に示す放電装置100の、負極放電電極21付近を示す断面図である。負極放電電極21は、図2に示す正極放電電極11と同様の形状を有している。図3を参照して、負極放電電極21は、基板15により支持された根元部21aと、尖鋭な形状の尖端21bと、根元部21aから尖端21bへ向けて先細るテーパ部21cとを有している。根元部21aは、尖端21bに対し反対側の負極放電電極21の基端を有している。根元部21aの一部は、絶縁物14の内部に埋め込まれている。根元部21aの下方部分は、絶縁物14により封止されている。尖端21bは、絶縁物14の表面14sから突出している。
【0032】
放電装置100は、負極放電電極21にマイナスの高電圧を印加し誘導電極12との間に電位差を生じさせることで、負極放電電極21の尖端21bからコロナ放電を発生させ、負イオンを発生する。図1に示すように、放電装置100が正極放電電極11と負極放電電極21との両方を備えており、正極放電電極11にはプラスの電圧を印加し、負極放電電極21にはマイナスの電圧を印加することで、正イオンと負イオンとの両方を同時に発生させることが可能とされている。
【0033】
図2,3に示す例では、誘導電極12は、正極放電電極11および負極放電電極21に対し左右二か所に位置しているが、電位の基準になれば、形状、配置は問わない。なお、誘導電極12は、正極放電電極11および負極放電電極21から等距離で配置されるよう、略円形であれば好ましい。また、誘導電極12は、板金、針金などといった金属物であってもよいし、基板15上に印刷したパターンでもよく、電位の基準になるのであれば、誘導電極12の材質は問わない。
【0034】
正極放電電極11および負極放電電極21は、本実施例では針形状であるが、細線や極細線でも構わない。また、放電可能な形状であれば、細い板状で先がとがった形状でも構わない。
【0035】
正極放電電極11および負極放電電極21は、その全体が金属などの導体材料により形成されている。正極放電電極11と負極放電電極21とは、その全体が異なる材質で構成されている。そのため、正極放電電極11の外周面11sと、負極放電電極21の外周面21sとは、異なる材質で構成されている。
【0036】
正極放電電極11は、塩化物イオンに耐性のある材料で構成されている。そのため、正極放電電極11の外周面11sは、塩化物イオンに耐性のある材料で構成されている。正極放電電極11は、タングステン、または、金もしくは白金などの貴金属で構成されてもよい。
【0037】
負極放電電極21は、ナトリウムイオンに耐性のある材料で構成されている。そのため、負極放電電極21の外周面21sは、ナトリウムイオンに耐性のある材料で構成されている。負極放電電極21は、たとえばインコネルなどの、鉄の含有量の少ないニッケル合金で構成されてもよい。
【0038】
インコネルは一般的には耐食性に優れ海水中における使用に適した合金とされているが、放電電極として用いる場合には、放電に伴う化学反応を考慮して材料を選定する必要がある。塩分を含む環境において放電すると、正極放電電極11と負極放電電極21とにおいて異なる電気分解が発生する。負極放電電極21を構成する材料をインコネルとすれば十分な耐食性が得られ、一方、正極放電電極11を構成する材料はインコネルでも不十分である。そのため、塩化物イオンに対してさらなる耐性のあるタングステンなどの材料を、正極放電電極11の構成材料とする必要がある。
【0039】
以上説明した、実施の形態1の放電装置100によると、正極放電電極11の外周面11sは塩化物イオンに耐性のある材料で構成されており、負極放電電極21の外周面21sはナトリウムイオンに耐性のある材料で構成されている。
【0040】
塩分を含む環境においては、空気中に塩化ナトリウムが含まれている。そのため、塩分を含む環境において放電すると、正極放電電極11では塩化物イオンが生成されやすく、負極放電電極21ではナトリウムイオンが生成されやすい。この塩化物イオンによって正極放電電極11に使用している金属の一部が周囲に溶出すると、正極放電電極11と異極性となる誘導電極12、または放電装置100の本体ケース2など、放電部以外の部分に電流が流れ、本来の放電部での放電性能を低下させることになる。
【0041】
正極放電電極11の外周面11sと負極放電電極21の外周面21sとを異なる材質で構成し、正極放電電極11の外周面11sを塩化物イオンに耐性のある材料で構成することにより、正極放電電極11の外周面11sを構成する金属が溶出しにくくなっている。したがって、正極放電電極11の外周面11sを構成する金属成分の溶出を抑制することができる。正極放電電極11の成分の溶出に伴うリークの発生を抑制できるので、高湿度環境や塩分を含む大気環境においても、放電装置100の放電性能を長期に亘って安定して維持することができる。
【0042】
負極放電電極21の外周面21sをナトリウムイオンに耐性のある材料で構成することにより、負極放電電極21にナトリウムを含む化合物が析出しても、負極放電電極21の錆の発生を抑制することができる。正極放電電極11とは異なり、負極放電電極21を構成する材料の溶出が発生することはないため、負極放電電極21を正極放電電極11と同じ塩化物イオンに耐性のある材料で構成する必要はない。負極放電電極21を過剰品質とせずに、正極放電電極11と比べて安価な材料で負極放電電極21を構成することにより、コスト面においても優れた放電装置100を実現することができる。
【0043】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2の放電装置の、正極放電電極11付近を示す断面図である。図5は、実施の形態2の放電装置の、負極放電電極21付近を示す断面図である。実施の形態2の放電装置と、上述した実施の形態1の放電装置100とは、基本的に同様の構成を備えている。しかし、実施の形態2の放電装置は、正極放電電極11および負極放電電極21の構成において、実施の形態1とは異なっている。
【0044】
本実施の形態では、正極放電電極11は、導電性の本体部11mと、本体部11mの表面を被覆する被覆層13とを有している。実施の形態2の正極放電電極11では、被覆層13の外周面13sが、正極放電電極11の外周面を構成している。被覆層13は、本体部11mの表面にメッキ加工を施すことにより、形成されている。被覆層13は、塩化物イオンに耐性のある材料で構成されている。被覆層13は、金メッキにより形成されていてもよい。
【0045】
負極放電電極21は、導電性の本体部21mと、本体部21mの表面を被覆する被覆層23とを有している。実施の形態2の負極放電電極21では、被覆層23の外周面23sが、負極放電電極21の外周面を構成している。被覆層23は、本体部21mの表面にメッキ加工を施すことにより、形成されている。被覆層23は、ナトリウムイオンに耐性のある材料で構成されている。被覆層23は、ニッケルメッキにより形成されていてもよい。
【0046】
正極放電電極11の被覆層13と、負極放電電極21の被覆層23とは、異なる材質で構成されている。そのため、正極放電電極11の外周面と、負極放電電極21の外周面とは、異なる材質で構成されている。
【0047】
以上説明した、実施の形態2の放電装置によると、被覆層13の外周面13sが正極放電電極11の外周面を構成している。被覆層13は、塩化物イオンに耐性のある材料で形成されている。被覆層23の外周面23sが負極放電電極21の外周面を構成している。被覆層23は、ナトリウムイオンに耐性のある材料で形成されている。
【0048】
正極放電電極11の被覆層13と負極放電電極21の被覆層23とを異なる材質で構成し、正極放電電極11の外周面を塩化物イオンに耐性のある材料で構成することにより、正極放電電極11の外周面を構成する金属が溶出しにくくなっている。したがって、正極放電電極11の外周面を構成する金属成分の溶出を抑制することができる。正極放電電極11の成分の溶出に伴うリークの発生を抑制できるので、高湿度環境や塩分を含む大気環境においても、放電装置の放電性能を長期に亘って安定して維持することができる。
【0049】
負極放電電極21の外周面をナトリウムイオンに耐性のある材料で構成することにより、負極放電電極21にナトリウムを含む化合物が析出しても、負極放電電極21の錆の発生を抑制することができる。正極放電電極11とは異なり、負極放電電極21を構成する材料の溶出が発生することはないため、負極放電電極21の被覆層23を正極放電電極11の被覆層13と同じ塩化物イオンに耐性のある材料で構成する必要はない。負極放電電極21の被覆層23を過剰品質とせずに、正極放電電極11の被覆層13と比べて安価な材料で被覆層23を構成することにより、コスト面においても優れた放電装置を実現することができる。
【0050】
本実施の形態では、正極放電電極11が導電性の本体部11mと本体部11mの表面を被覆する被覆層13とを有していると記載したが、正極放電電極11の尖端11bおよびテーパ部11cが本体部11mと同一の被覆層13により被覆されていてもよい。また、正極放電電極11のうち、絶縁物14の内部に埋め込まれている部分が、本体部11mと同一の被覆層13により被覆されていてもよい。同様に、負極放電電極21が導電性の本体部21mと本体部21mの表面を被覆する被覆層23とを有していると記載したが、負極放電電極21の尖端21bおよびテーパ部21cが本体部21mと同一の被覆層23により被覆されていてもよい。また、負極放電電極21のうち、絶縁物14の内部に埋め込まれている部分が、本体部21mと同一の被覆層23により被覆されていてもよい。
【0051】
(実施の形態3)
図6は、実施の形態3の放電装置の、正極放電電極11付近を示す断面図である。図7は、実施の形態3の放電装置の、負極放電電極21付近を示す断面図である。実施の形態3の放電装置では、上述した実施の形態1の放電装置100と異なり、容器部1の内部空間に絶縁物は充填されておらず、正極放電電極11および負極放電電極21の根元部11a,21aは絶縁物により封止されていない。
【0052】
基板15の主表面15a上にパターンが形成されており、このパターンが誘導電極12として機能している。容器部1の内部空間に絶縁物が充填されていないため、誘導電極12および基板15は絶縁物によって密閉されていない。容器部1の内面には図示しない支持部が設けられており、この支持部によって基板15は容器部1に対して支持されている。
【0053】
正極放電電極11および負極放電電極21は、その全体が金属などの導体材料により形成されている。正極放電電極11と負極放電電極21とは、その全体が異なる材質で構成されている。そのため、正極放電電極11の外周面11sと、負極放電電極21の外周面21sとは、異なる材質で構成されている。
【0054】
正極放電電極11は、負極放電電極21よりも、耐消耗性に優れる材料で構成されている。そのため、正極放電電極11の外周面11sは、負極放電電極21の外周面21sよりも、耐消耗性に優れる材料で構成されている。正極放電電極11の構成材料は、負極放電電極21の構成材料と比較して、耐熱性に優れる材料であってもよい。正極放電電極11の構成材料は、負極放電電極21の構成材料と比較して、融点が高い材料であってもよく、熱伝導率が低い材料であってもよい。負極放電電極21がステンレスで構成されている場合、正極放電電極11はインコネルで構成されていてもよい。
【0055】
以上説明した、実施の形態3の放電装置によると、正極放電電極11の外周面11sは、負極放電電極21の外周面21sよりも、耐消耗性に優れる材料で構成されている。
【0056】
実施の形態3の放電装置は、実施の形態1,2とは異なり、塩分を含まない通常の環境での使用が想定されている。空気中に塩化ナトリウムが含まれていないか、含まれていても微量であるため、正極放電電極11を構成する材料の溶出を考慮する必要はない。一方、放電に伴って、正極放電電極11および負極放電電極21の消耗が発生する。正極放電電極11および負極放電電極21のうち、正極放電電極11の方がより激しく消耗する場合がある。
【0057】
正極放電電極11の外周面11sと負極放電電極21の外周面21sとを異なる材質で構成し、消耗の激しい正極放電電極11の外周面11sを、負極放電電極21の外周面21sよりも耐消耗性に優れる材料で構成する。これにより、正極放電電極11の消耗量と負極放電電極21の消耗量との差を小さくできるので、正極放電電極11および負極放電電極21における放電状態の均一性を向上できる。したがって、放電装置の放電性能を長期に亘って安定して維持することができ、正極放電電極11で発生する正イオンと負極放電電極21で発生する負イオンとのバランスを向上することができる。
【0058】
負極放電電極21を、正極放電電極11と比較して耐消耗性の小さい材料で構成することにより、負極放電電極21を過剰品質とせずに、正極放電電極11と比べて安価な材料で負極放電電極21を構成できる。したがって、コスト面においても優れた放電装置を実現することができる。
【0059】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、各実施の形態の構成を適宜組み合わせてもよい。また、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、イオン発生装置、オゾン発生装置、除電装置などの、放電装置を備える各種の装置に広く適用され得る。
【符号の説明】
【0061】
1 容器部、2 本体ケース、3 電極保護壁、11 正極放電電極、11a,21a 根元部、11b,21b 尖端、11c,21c テーパ部、11m,21m 本体部、11s,13s,21s,23s 外周面、12 誘導電極、13,23 被覆層、14 絶縁物、14s 表面、15 基板、15a 主表面、15b 裏面、21 負極放電電極、100 放電装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7