特許第6444503号(P6444503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444503
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】検査方法および検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20181217BHJP
【FI】
   G01M99/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-527398(P2017-527398)
(86)(22)【出願日】2016年6月27日
(86)【国際出願番号】JP2016069001
(87)【国際公開番号】WO2017006792
(87)【国際公開日】20170112
【審査請求日】2017年5月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-135719(P2015-135719)
(32)【優先日】2015年7月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094916
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 啓吾
(74)【代理人】
【識別番号】100073759
【弁理士】
【氏名又は名称】大岩 増雄
(74)【代理人】
【識別番号】100127672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 憲治
(74)【代理人】
【識別番号】100088199
【弁理士】
【氏名又は名称】竹中 岑生
(72)【発明者】
【氏名】中田 智
(72)【発明者】
【氏名】網干 稔
(72)【発明者】
【氏名】執行 和浩
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 英治
【審査官】 萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−327937(JP,A)
【文献】 特開2013−257251(JP,A)
【文献】 特開2013−200245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00 − 13/04
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
良品ワークの測定により得た基準正常データ群に基づく基準空間に対する、被検査ワークの測定により得た測定データ群のマハラノビス距離から正常か異常かを判定し、異常であると判定した前記測定データ群を測定異常データ群とする第一判定工程と、
前記基準正常データ群および前記測定異常データ群を、特徴量を低減するフィルタにかけて補正基準正常データ群および補正測定異常データ群とするフィルタ処理工程と、
前記補正基準正常データ群に基づく補正基準空間に対する、前記補正測定異常データ群のマハラノビス距離から正常か異常かを判定する第二判定工程とを備えた検査方法であって、
前記フィルタは、特徴量の低減として、独立成分分析によって、前記基準空間に対する、被検査ワークの測定により得た測定データ群のマハラノビス距離から異常であると判定した当該測定データ群において、測定異常が現れない状態で再測定し、マハラノビス距離から正常であると判定される当該測定データ群のマハラノビス距離のみ小さくなるような測定異常係数から設定する検査方法。
【請求項2】
前記フィルタ処理工程は、前記測定異常係数を含めた行列をQR分解して得る行列による射影にて行う請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
前記フィルタ処理工程は、前記測定異常係数を指数関数の指数として得るベクトルによる除算にて行う請求項1に記載の検査方法。
【請求項4】
前記フィルタは、前記測定異常係数の絶対値の積分値があらかじめ設定された規定値よりも大きいもののみを選定する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項5】
前記フィルタは、前記測定異常係数を2次元領域で表現し、前記測定異常係数の各点における単位円内に含まれる前記測定異常係数の合計値の絶対値についての全領域での積分値が、あらかじめ設定された規定値よりも大きいもののみを選定する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項6】
良品ワークの測定により得た基準正常データ群に基づく基準空間に対する、被検査ワークの測定により得た測定データ群のマハラノビス距離から正常か異常かを判定し、異常であると判定した前記測定データ群を測定異常データ群とする第一判定部と、
前記基準正常データ群および前記測定異常データ群を、特徴量を低減するフィルタにかけて補正基準正常データ群および補正測定異常データ群とするフィルタ処理部と、
前記補正基準正常データ群に基づく補正基準空間に対する、前記補正測定異常データ群のマハラノビス距離から正常か異常かを判定する第二判定部とを備えた検査装置であって、
前記フィルタは、特徴量の低減として、独立成分分析によって、前記基準空間に対する、被検査ワークの測定により得た測定データ群のマハラノビス距離から異常であると判定した当該測定データ群において、測定異常が現れない状態で再測定し、マハラノビス距離から正常であると判定される当該測定データ群のマハラノビス距離のみ小さくなるような測定異常係数から設定する検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば振動検査や画像検査の工程における不良判定などに用いられる検査方法および検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の検査方法は、正常または異常の判定を行う検査方法において、正常データに基づく基準空間を作成し、検査対象データの基準空間におけるマハラノビス距離と閾値との大小関係により、検査対象データの正常または異常であるかの判定を行うものである(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−121639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の検査方法および検査装置は、良品ワークの正常データに基づく基準空間を作成し、基準空間に対するマハラノビス距離と閾値との大小比較により検査対象データの正常または異常を判定するものであるが、マハラノビス距離は基準空間を作成する正常データとの近似度合いを示す指標であるため、正常または異常の2値化されずにグレーゾーンが存在する。そのため、閾値の設定が適切でないと誤判定が増加するという問題点があった。
【0005】
上記問題点を解決する方法として、異常データを蓄積し、異常データに基づく基準空間を作成し、対象データの異常データに基づく基準空間におけるマハラノビス距離と、正常データに基づく基準空間におけるマハラノビス距離とを比較することで、異常モードを分類し、当該異常モードが発生しないように設計にフィードバックする方法が考えられる。
【0006】
しかし、ワークそのものが良品ワークであるにも関わらず、測定異常により異常データとなり、かつ、測定異常を除去することが困難な検査については、上記の方法で誤判定を低減させることが困難であるという問題点があった。
【0007】
また、発生頻度の少ない不良モードまたは今後発生する可能性のある未知の不良モードにおいては、異常データに基づく基準空間を作成し、閾値を設定すること自体が困難であるという問題点があった。
【0008】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたものであり、測定異常による誤判定率を低減し、また、発生頻度の少ない不良モードまたは今後発生する可能性のある未知の不良モードの誤判定率を低減する検査方法および検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の検査方法は、
良品ワークの測定により得た基準正常データ群に基づく基準空間に対する、被検査ワークの測定により得た測定データ群のマハラノビス距離から正常か異常かを判定し、異常であると判定した前記測定データ群を測定異常データ群とする第一判定工程と、
前記基準正常データ群および前記測定異常データ群を、特徴量を低減するフィルタにかけて補正基準正常データ群および補正測定異常データ群とするフィルタ処理工程と、
前記補正基準正常データ群に基づく補正基準空間に対する、前記補正測定異常データ群のマハラノビス距離から正常か異常かを判定する第二判定工程とを備えた検査方法であって、
前記フィルタは、特徴量の低減として、独立成分分析によって、前記基準空間に対する、被検査ワークの測定により得た測定データ群のマハラノビス距離から異常であると判定した当該測定データ群において、測定異常が現れない状態で再測定し、マハラノビス距離から正常であると判定される当該測定データ群のマハラノビス距離のみ小さくなるような測定異常係数から設定するものである。
【0010】
また、この発明の検査装置は、
良品ワークの測定により得た基準正常データ群に基づく基準空間に対する、被検査ワークの測定により得た測定データ群のマハラノビス距離から正常か異常かを判定し、異常であると判定した前記測定データ群を測定異常データ群とする第一判定部と、
前記基準正常データ群および前記測定異常データ群を、特徴量を低減するフィルタにかけて補正基準正常データ群および補正測定異常データ群とするフィルタ処理部と、
前記補正基準正常データ群に基づく補正基準空間に対する、前記補正測定異常データ群のマハラノビス距離から正常か異常かを判定する第二判定部とを備えた検査装置であって、
前記フィルタは、特徴量の低減として、独立成分分析によって、前記基準空間に対する、被検査ワークの測定により得た測定データ群のマハラノビス距離から異常であると判定した当該測定データ群において、測定異常が現れない状態で再測定し、マハラノビス距離から正常であると判定される当該測定データ群のマハラノビス距離のみ小さくなるような測定異常係数から設定するものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明の検査方法および検査装置によれば、測定異常による誤判定率を低減し、また、発生頻度の少ない不良モードまたは今後発生する可能性のある未知の不良モードの誤判定率を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明の実施の形態1の検査方法を説明するための図である。
図2図1に示した検査方法を実行する検査装置の構成を示したブロック図である。
図3図1に示した検査方法を示したフローチャートである。
図4図1に示した検査方法を実施するための工程を示した図である。
図5図1に示した検査方法に用いるフィルタの作成の工程を示した図である。
図6図5に示した検査方法における独立成分分析の手順を示した図である。
図7】本発明の実施の形態1における変数変換を説明するための図である。
図8図5に示した検査方法におけるフルランク行列の設定を説明するための図である。
図9図8に示したフルランク行列を用いた図5に示した検査方法におけるQR分解を示した図である。
図10図5に示した検査方法におけるフィルタ選定を説明するための図である。
図11】この発明の実施の形態2の検査方法におけるフィルタ選定を説明するための図である。
図12】この発明の実施の形態3の検査方法に用いるフィルタの作成の工程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
以下、本願発明の実施の形態について説明する。
まず、一般的な被検査ワークの検査方法について説明する。被検査ワークを製造する製造ラインにおける検査方法として、技術者が被検査ワークの状態を五感によって感じ取り良否判定する官能検査がある。例えば、被検査ワークの振動を耳で聞いたり、振動を手で触ったりして判定を行うというものである。しかし、官能検査の場合、人件費がかかり、技術者の体調によって左右されるため、安定した判定を行うことが困難である。
【0014】
また、安定した判定基準の確立のみならず、技術者の育成のコスト削減、検査工程の自動化のため、官能検査を機械による自動検査に置き換える需要が高まってきている。機械による自動検査方法は、例えば、被検査ワークの振動または音をセンサによって波形データとして取り込み、得られた波形データを数値解析することにより良否判定を行う。例えば、被検査ワークとして回転機を検査する場合であれば、検査における異常データはベアリングの傷や回転体の芯ぶれなど多種の原因によって生じる。そして、これら異常の種類によって良品ワークの波形データとは異なる周波数に異常データが現れる。
【0015】
製造ラインにおいては、限られた検査時間の中で判定を行う必要があるため、すべての異常データに対して判定を行い、分類することは不可能である。更に、発生する頻度が少ない異常データについては測定データを蓄積すること自体が困難であるため、適切な閾値を設定することが困難である。更に、今後発生する可能性がある未知の異常データについては、閾値を設定することさえできない。
【0016】
技術者による官能検査であれば、上記発生頻度の少ない異常データについても複数の正常データから構成される正常データ群との違いから異常判定を行うことは可能であるが、先にも示したように、安定した判定を行うことは困難である。また、他の検査方法として、波形データをフーリエ変換し、特定の周波数における数値が基準値の中に含まれるかによって良否判定するという方法があるが、未知の異常データの場合どこの周波数に特徴が現れるか不明であるため、複数の周波数を同時に注目する必要がある。しかし、フーリエ変換後のすべてに周波数に基準値を設定するのは困難である。また、閾値の設定に多くのデータを必要とし適切な値を設定することは困難である。
【0017】
上記のような問題を解決する方法として、良品ワークを測定した正常データ群に基づく基準空間を作成し、被検査ワークを測定した測定データ群とのマハラノビス距離をもとめる方法が知られている。マハラノビス距離は基準空間に含まれるデータとの近似度合いを示す指標であるため、異常データの種類によらず、正常データと異常データとを判別することができる。
【0018】
しかし、良品ワークであるにもかかわらず、測定異常によって正常データ群とは異なる傾向を示すデータが得られた場合、不良ワークと判定されることがある。例えば、センサによる振動データの測定の際に被検査ワークを載せている台が揺れ、センサがその揺れを拾ってしまうという場合がある。他にも、被検査ワークそのものの振動に異常がなくとも、センサの取り付け面の汚れや寸法によるセンサの位置ずれにより異常データとする場合がある。このような測定異常は除去することが困難であることも多く、良品ワークを不良ワークと誤判定する原因となっている。
【0019】
本発明においてはこのような測定異常の影響について特徴量を低減するフィルタにてフィルタ処理を行うことで、良品ワークを不良ワークと誤判定を低減し、判定率を向上することを目的としている。また、前記フィルタ処理は、不良ワークの異常データに対しての影響はほとんどなく、異常ワークと誤判定される正常ワークのマハラノビス距離のみを小さくする。よって、閾値を厳しく設定することで不良ワークの誤判定を低減させることができる。すなわち、発生頻度の少ない異常データや今後発生する可能性のある未知の異常データについても誤判定を低減させることができるものである。
【0020】
以下、図に基づいて実施の形態1の検査方法について説明する。図1はこの発明の実施の形態1における検査方法を示す工程図である。図2図1に示した検査方法を実行する検査装置の構成を示したブロック図である。図3図1に示した検査方法を示したフローチャートである。図4図1に示した検査方法に用いるフィルタを作成するためのデータ準備の工程を示した図である。図5図1に示した検査方法に用いるフィルタの作成の工程を示した図である。
【0021】
図6図5に示した検査方法のフィルタの作成における独立成分分析の手順を示した図である。図7は本発明の実施の形態1における変数変換を説明するための図である。図8図5に示した検査方法におけるフルランク行列の設定を説明するための図である。図9図8に示したフルランク行列を用いた図5に示した検査方法におけるQR分解を示した図である。図10図5に示した検査方法におけるフィルタ選定を説明するための図である。
【0022】
図2において、検査装置100は、第一判定部101と、フィルタ処理部102と、第二判定部103とから構成されている。図1に示すように、検査装置100は、あらかじめ良品であると判定されている複数の良品ワークを基準良品ワーク群1と、被検査ワークとしての良品ワーク群A200、良品ワーク群B300、不良ワーク群400との検査を行うものである。
【0023】
第一判定部101は、基準良品ワーク群1の測定10により得た基準正常データ群11に基づく基準空間30に対する、被検査ワークの測定により得た測定データ群(正常データ群A120、測定異常データ群130、および不良データ群140)のマハラノビス距離から正常か異常かの第一判定72を行い、異常であると判定した測定データ群(測定異常データ群130、および不良データ群140)を測定異常データ群とする。
【0024】
フィルタ処理部102は、基準正常データ群11および測定異常データ群(測定異常データ群130、および不良データ群140)を、特徴量を低減するフィルタとしての測定異常フィルタ71にかけるフィルタ処理を行い、補正基準正常データ群41および補正測定異常データ群(補正測定異常データ群43、および、補正不良データ群44)とする。第二判定部103は、補正基準正常データ群41に基づく補正基準空間80に対する、補正測定異常データ群(補正測定異常データ群43、および、補正不良データ群44)のマハラノビス距離から正常か異常かの第二判定73を行う。
【0025】
次に、上記のように構成された実施の形態1の検査装置100のフィルタ処理部102にて用いられるフィルタとしての測定異常フィルタ71の作成について説明する。まず、データ準備の手順を図4に基づいて説明する。あらかじめ良品であると判定されている複数の良品ワークを基準良品ワーク群1とする。また、検査するための被検査ワークとして、良品ワーク群A2と、良品ワーク群B3と、不良ワーク群4とが存在するものとする。良品ワーク群A2は、1回の測定にて良品であると判定されるワーク群である。良品ワーク群B3は、1回の測定にて異常であると判定される。そして、2回目の再測定にて良品であると判定されるワーク群である。不良ワーク群4は、複数回の測定を行ったとしても異常であると判定されるワーク群である。
【0026】
そして、これらワーク群1、2、3、4の検査を行うための測定10を行う。これら基準良品ワーク群1、良品ワーク群A2、良品ワーク群B3、および、不良ワーク群4の測定結果が、それぞれ基準正常データ群11、正常データ群A12、測定異常データ群13、および、不良データ群14であるとする(但し、この段階で、正常、測定異常、不良が判定されているものではない。また、このことは以下の実施の形態の説明においても同様であるため、その説明は適宜省略する。)。
【0027】
次に、基準正常データ群11を用いて基準空間30を生成する。次に、基準空間30に対する各データ群12、13、14のマハラノビス距離をそれぞれもとめる。そして、各マハラノビス距離と、あらかじめ設定された第一閾値とを比較する第一判定72を行う。そして、正常データ群A12は第一閾値内であるため、良品と判定される。また、測定異常データ群13および不良データ群14は第一閾値から外れているため、不良と判定される。
【0028】
次に、良品ワーク群B3および不良ワーク群4に対して、再び検査を行うための再測定10Aを行う。尚、この再測定10Aの測定方法は、先に示した測定10と同様であるが、測定異常とならないために、先に示した、被検査ワークを載せている台が揺れることを防止するなど、何らかの対処により行ったものである。これら良品ワーク群B3、および、不良ワーク群4の測定結果が、それぞれ正常データ群B23、および、不良データ群24となる。
【0029】
次に、先に作成された基準空間30に対する各データ群23、24のマハラノビス距離をそれぞれもとめる。そして、各マハラノビス距離と、上記第一閾値とを比較する再第一判定72Aを行う。そして、正常データ群B23は第一閾値内であるため、良品と判定される。また、不良データ群24は第一閾値から外れているため、不良と判定される。
【0030】
以上に示したようにして得られた、良否判定に用いる基準空間30を生成するための基準良品ワーク群1の測定結果の基準正常データ群11と、測定10において不良判定、かつ、再測定10Aにおいて良品判定される良品ワーク群B3の測定10における測定結果の測定異常データ群13とを用いてフィルタの作成を行う。また、測定10において不良判定、かつ、再測定10Aにおいて不良判定されるワークの測定10における測定結果の不良データ群14を追加してフィルタ選定を行う。
【0031】
次に、図4に示すようにして得られた各データ群11、13、14を用いたフィルタの作成の手順を図5に基づいて説明する。まず、基準正常データ群11と、測定異常データ群13とを用いて、独立成分分析40を行う。この独立成分分析40を図6に基づいて説明する。まず、図6(A)に示すように、i個の基準正常データ群11と、j個の測定異常データ群13とを軸数mで独立成分分析40を行う。ここでは、i個の基準正常データ群11と、j個の測定異常データ群13とを構成する列ベクトルはそれぞれn次元である。
【0032】
そして、独立成分分析40によって、独立成分分析40前後の変数の線形結合の関係を示す係数群からなる混合行列50と、基準正常独立成分得点31と、測定異常独立成分得点33とが得られる。混合行列50の次元はm×nであり、基準正常独立成分得点31と、測定異常独立成分得点33とを構成する列ベクトルはそれぞれm次元である。
【0033】
すなわち、独立成分得点は1データにつき、独立成分分析40を行う際の軸数mだけ、測定異常係数としての測定異常軸係数61を得ることができる(混合行列50の各行が、それぞれ測定異常軸係数61に相当する)。そして、図6(B)に示すように、この混合行列50をk個の不良データ群14に左からかけることで不良独立成分得点34が得られる。
【0034】
次に、実施の形態1におけるフィルタ処理される場合の各データ群11、13、14の変数変換について図7に基づいて説明する。尚、ここでは便宜上、3次元の場合について説明する。これら、基準正常データ群11、測定異常データ群13、不良データ群14の変数f1、f2、f3は、混合行列50によって変数g1、g2、g3に変数変換されるものである。そして、基準正常独立成分得点31、測定異常独立成分得点33、不良独立成分得点34の変数は変数g1、g2、g3(図7(A))とする。
【0035】
そして、測定異常独立成分得点33と不良独立成分得点34とを比較すると、測定異常独立成分得点33が不良独立成分得点34と同等以上の値となる変数であるg1すなわち測定異常軸60が存在する。よって、混合行列50の行ベクトルのうち、測定異常軸60における各変数の線形結合の係数を示す測定異常軸係数61は測定異常データ群13が原点に対して、測定異常軸60方向に分布するということを示す(図7(B))。
【0036】
そして、測定異常軸60に直交する軸群h2、h3である測定異常軸直交軸62に対して射影することで測定異常独立成分得点33のみを原点に近付けることができる(図7(C))。結果として、測定異常データ群13のマハラノビス距離のみを小さくすることができる。
【0037】
このことをふまえて、次のQR分解について説明する。測定異常軸60に直行する軸群をもとめる方法としてQR分解の利用が考えられる。QR分解は、行列を正規直交行列Qと上三角行列Rとの積の形に分解するものであり、単純な連立方程式を解くアルゴリズムによってもとめられる。
【0038】
すなわち、測定異常軸60の係数である測定異常軸係数61を列に含む正規直交行列Qを作ることができれば、正規直交行列Qの他の列が測定異常軸係数61と直交する。そして、正規直交行列Qがフルランクである必要があるため、フルランク行列63を生成する必要がある。そこでまず、フルランク行列63を生成する方法について図8に基づいて説明する。
【0039】
まず、基準正常データ群11の次元をnとすると、n次元の単位行列64を生成する(図8(A)。次に、測定異常軸係数61のl番目が0でないとすると、単位行列64のl列目を測定異常軸係数61に置き換える。ここでは、先にもとめた、図6(A)に示す混合行列50の一行目を、l列目に置き換える例を示す(図8(B))。そして、置き換えたl列目を、一列目に移動させた行列がフルランク行列63(B)となる(図8(C))。
【0040】
次に、このフルランク行列63(B)を用いたQR分解について図9に基づいて説明する。まず、フルランク行列63をQR分解70すると、正規直交行列Qである正規直交行列65の一列目は測定異常軸係数61の定数倍であり、一列目以外の列ベクトルは測定異常軸係数61に直交する。すなわち、正規直交行列65の一列目以外の列ベクトルは、複数の測定異常軸直交軸係数62Aから成る測定異常軸直交軸群620である。
【0041】
n次元データの右から正規直交行列65をかけることは、先に示した、測定異常軸60および測定異常軸直交軸62にn次元データを射影することと同じである。このため、基準正常データ群11、測定異常データ群13、不良データ群14の右から正規直交行列65をかけることでフィルタ処理することとなる。よって、この正規直交行列65が本実施の形態1における測定異常フィルタ71に相当する。
【0042】
しかしながら、測定異常軸60の方向に不良データ群14が分布している可能性も考えられる。その場合、不良データ群14のマハラノビス距離を小さくしてしまうこととなる。そして、結果として不良データ群14を測定異常データ群13として扱うことになるため、不良データ群14のマハラノビス距離が小さくならないように測定異常軸係数61を選定する必要がある。そこで、基準正常データ群11、測定異常データ群13、不良データ群14の右から正規直交行列65をかけたものを、補正基準正常データ群41、補正測定異常データ群43、補正不良データ群44とする。
【0043】
そして、補正基準正常データ群41により生成した補正基準空間80に対して、補正測定異常データ群43、補正不良データ群44のマハラノビス距離である、補正測定異常マハラノビス距離53、および、補正不良マハラノビス距離54をそれぞれもとめる。そして、補正測定異常マハラノビス距離53が補正不良マハラノビス距離54に対して小さくなれば、測定異常フィルタ71の効果がある。よって、測定異常軸係数61の選択が適切であり、この際にもとめられた測定異常フィルタ71が有効であるとしてフィルタ選定90にて選定される。
【0044】
これに対し、補正測定異常マハラノビス距離53が補正不良マハラノビス距離54に対して小さくならなければ、測定異常フィルタ71の効果がない。よって、測定異常軸係数61の選択が適切でないとしてフィルタ選定90にて選定される。よって、このような場合には、混合行列50の別の行ベクトルを選択し、再度、QR分解70により別の測定異常フィルタ71を生成して上記に示した動作を繰り返す。
【0045】
そして、このように選定された測定異常フィルタ71の、更なるフィルタ選定90について、図10を用いて説明する。まず、測定異常軸係数61は、例えば電気ノイズが基準正常データ群11に含まれる場合、電気ノイズを示すこともある(図10(B))。したがって測定異常フィルタ71の効果があった場合でも、電気ノイズのように再現性のない測定異常の場合、上記に示したように測定異常軸係数61を設定しても測定異常フィルタ71の効果が得られない。
【0046】
また、図10(A)に示すように、測定異常軸係数61は正であれば測定異常データ群13が元の変数において値が大きいという傾向があり、負であれば小さいという傾向を示す。また、0であれば元の変数からの影響はないということを示している。一般的に電気ノイズのように不規則な周波数において特徴が現れるような測定異常を除けば、測定異常の特徴は特定の周波数領域に集中して現れる。
【0047】
すなわち、測定異常軸係数61の絶対値を変数について積分した値があらかじめ設定された規定値より小さければ図10(B)に示すような電気ノイズによるものであるとして測定異常フィルタ71として適切ではないとして選定される。また、積分した値があらかじめ設定された規定値より大きければ図10(A)に示すように測定異常によるものであると測定異常フィルタ71として適切であるとして選定される。このようにして各測定異常フィルタ71を更に選定する。
【0048】
次に、上記のようにして選定された測定異常フィルタ71を用いた検査装置100における検査方法について図1から図3に基づいて説明する。まず、検査装置100は、先に示した基準良品ワーク群1と、被検査ワークとしての良品ワーク群A200、良品ワーク群B300、不良ワーク群400との検査を行うものである。但し、この時点において、各ワーク群が良品であるか不良品であるかは判定されていないものであり、便宜上示したものである。
【0049】
そして、各ワーク群1、200、300、400の測定10を行う。これら測定10により、基準良品ワーク群1からは基準正常データ群11が得られる。そして、良品ワーク群A200、良品ワーク群B300、不良ワーク群400の測定10により得た測定データ群は、正常データ群A120、測定異常データ群130、不良データ群140として得られる。そして、第一判定部101は、基準正常データ群11に基づいて基準空間30を設定する。
【0050】
次に、この基準空間30に対する、正常データ群A120、測定異常データ群130、および、不良データ群140のマハラノビス距離をそれぞれ算出する(図3のステップST1)。次に、これら各マハラノビス距離とあらかじめ設定された第一閾値とを比較して、正常データ群A120、測定異常データ群130、および、不良データ群140が正常か異常かを第一判定72を行う(図3のステップST2)。
【0051】
ここでは、正常データ群A120が正常であると判定される(YES)。よって、当該正常データ群A120、これ以降の判定は行われず、正常であると判定される(図3のステップST6)。また、測定異常データ群130、および、不良データ群140が異常であると判定される(NO)。よって、これらデータ群130、140は以後の判定にすすむ。そして、異常であると判定した測定データ群を測定異常データ群130とする。ここでは不良データ群140も測定異常データ群に相当する。
【0052】
次に、フィルタ処理部102は、基準正常データ群11および測定異常データ群としての測定異常データ群130と不良データ群140とを、測定異常フィルタ71にかけてフィルタ処理し、補正基準正常データ群41および補正測定異常データ群43とする(図3のステップST3)。ここでは、補正不良データ群44も補正測定異常データ群に相当する。
【0053】
次に、第二判定部103は、補正基準正常データ群41に基づいて補正基準空間80を設定する。そして、この補正基準空間80に対する補正測定異常データ群43、および、補正不良データ群44のマハラノビス距離をそれぞれ算出する(図3のステップST4)。次に、これら各マハラノビス距離とあらかじめ設定された第二閾値とを比較して、補正測定異常データ群43、および、補正不良データ群44が正常か異常かの第二判定73を行う(図3のステップST5)。
【0054】
ここでは、補正測定異常データ群43が正常であると判定され(図3のステップST6)、補正不良データ群44が異常であると判定される(図3のステップST7)。以上の結果から、良品ワーク群A200、および、良品ワーク群B300は正常であると判定され、不良ワーク群400は異常であると判定された。よって、測定異常のデータを含む良品ワーク群B300の測定結果を用いる場合であっても、正常であるとして判定することが可能となる。
【0055】
上記のように構成された実施の形態1の検査方法および検査装置によれば、第一判定部において異常判定された測定異常データ群および不良データ群に対して測定異常フィルタのフィルタ処理を行い、補正基準空間におけるマハラノビス距離をもとめ、第二判定を行うため、第一判定において異常判定される測定異常データ群は第二判定において正常と判定されるため、誤判定率を低減することができる。
【0056】
また、発生頻度の少ない不良データまたは今後発生する可能性のある未知の不良データは、第一判定における第一閾値を従来の場合より厳しくすることで異常であると判定することが容易となる。よって、誤判定率が低減する。
【0057】
また、測定異常フィルタは測定異常データ群のみに影響し、不良データ群に影響する可能性は低いため、不良データ群が測定異常フィルタにより第二判定において正常判定される可能性は低い。
【0058】
また、測定異常係数の絶対値の積分値があらかじめ設定された規定値よりも大きいもののみを選定するため、電気ノイズのように再現性のない異常を低減するフィルタの作成を避けることで、誤判定率を低減するのに有効なフィルタのみを作成できる。
【0059】
実施の形態2.
図11はこの発明の実施の形態2における検査方法および検査装置のフィルタの選定を説明するための図である。本実施の形態2においては、上記実施の形態1と異なるフィルタの選定についてのみ説明する。本実施の形態2においては、画像検査により、測定異常軸係数61を2次元領域で表した場合について説明する。
【0060】
測定異常を示す特徴量は、特定の領域に集中する傾向がある。このため、測定異常軸係数61を2次元領域で表した際に、測定異常軸係数61が正であるもの、負であるものは特定の領域に集中する。すなわち、測定異常軸係数61の各点において、単位円内に含まれる測定異常軸係数61の合計値の絶対値を、全領域において積分した値は、特定の領域に集中した係数(測定異常の場合(図11(A)))のほうが、電気ノイズ(図11(B))の場合より大きくなる。よって、これらを利用し、あらかじめ設定された規定値と比較することで、上記実施の形態1と同様にフィルタの選定を行う。
【0061】
上記のように行われた実施の形態2の検査方法によれば、上記実施の形態1と同様に、画像検査において、電気ノイズのように再現性のない異常を低減するフィルタを除くことで、誤判定率を低減するのに有効なフィルタのみを作成できる。
【0062】
実施の形態3.
図12はこの発明の実施の形態3における検査方法におけるフィルタの作成を示した図である。本実施の形態3においては、上記各実施の形態と異なるフィルタの作成箇所について説明する。上記実施の形態1に示したように、QR分解によってもとめたフィルタはn×n次元の行列であるため、製造ラインにおいて運用する際に、演算時間がかかってしまいタクトタイムに収まらないという場合が生じる場合が考えられる。
【0063】
そこで、本実施の形態3においては、測定異常軸係数61は正であれば測定異常データ群13が元の変数において値が大きいという傾向があり、負であれば小さいという傾向を示すということを利用して、測定異常軸係数61を指数関数の指数とすることで、フィルタとしてのフィルタ係数67を近似的にもとめる(図12(A))。そして、測定異常データ群13をフィルタ係数67にてフィルタ処理し、補正測定異常データ群43とする(図12(B))。これ以外の方法は、上記各実施の形態と同様であるため、その説明は適宜省略する。
【0064】
すなわち、指数が正であれば1より大きいので除算することで、測定異常データ群13を小さく補正することができ、指数が負であれば、1より小さいので除算することで測定異常データ群13を大きく補正することができる。
【0065】
上記のように行われた実施の形態3の検査方法によれば、フィルタはn次元の列ベクトルであるため、QR分解でもとめたフィルタよりも演算時間を短縮することができる。
【0066】
尚、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12