【文献】
アモルファス扁平状粉末の調製,原川 義夫,外4名,色材協会誌,日本,一般社団法人色材協会,1994年12月20日,67巻12号,頁817−822
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱処理工程で、前記アモルファス薄帯を前記上側ヒータと前記下側ヒータとで挟み込む前に、前記上側ヒータと前記下側ヒータは加熱されている請求項2記載の積層磁芯の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
適切な組成比のFe−B−Si−P−Cu−C合金は、高いアモルファス形成能を有する。また、この合金から作製したFe基アモルファス薄帯は、優れた磁気特性を有する。従って、このようなFe基アモルファス薄帯を用いて製造された磁心は優れた磁気特性を有するものと期待される。
【0005】
しかしながら、このような組成のFe基アモルファス薄帯は、熱処理を行ってbccFe結晶粒を析出すると脆くなり易い。そのため、熱処理後の薄帯を加工しようとすると、当該薄帯に割れ・欠けなどが生じ易い。例えば、形状が複雑なモータ用磁芯に熱処理された後の薄帯を使用しようとしても、熱処理後の薄帯を所望する複雑形状に切断することは困難である。一方、形状加工したFe基アモルファス薄帯を積層した後に熱処理を行う場合、磁芯が大型化するにつれ、磁芯全体を均一に熱処理することが困難になる。このため、均質な組織を磁芯に持たせることができず、磁芯が十分な磁気特性を有さないおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、Fe−B−Si−P−Cu−C合金からなる薄帯を使用した積層磁芯の製造方法であって、十分な磁気特性を有する磁芯の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の側面は、積層磁芯の製造方法として、
アモルファス薄帯を形状加工する形状加工工程と、
前記形状加工されたアモルファス薄帯を熱処理する熱処理工程と、
前記熱処理されたアモルファス薄帯を積層する積層工程と、
を含み、前記熱処理工程における昇温速度は、毎秒80℃以上である積層磁芯の製造方法を提供する。
【0008】
また、本発明の他の側面は、積層磁芯の製造方法として、
アモルファス薄帯を形状加工する形状加工工程と、
前記形状加工されたアモルファス薄帯を熱処理する熱処理工程と、
前記熱処理されたアモルファス薄帯を積層する積層工程と、
を含み、前記熱処理工程において、前記アモルファル薄帯の両面を実質的にヒータと接触させて、前記アモルファス薄帯を加熱する積層磁芯の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱処理により脆弱化する前の薄帯に形状加工を施す。このため、モータのステータコア等の複雑形状を精度良く形成することができる。この後、形状加工された薄帯を積層する前に夫々熱処理する。これにより、各部位の温度偏差を抑えてbccFe結晶粒を均質に析出させることで、磁気特性のばらつきの無い薄帯を得ることができる。さらに夫々熱処理された薄帯を積層することで優れた磁気特性を有する磁芯が得られる。
【0010】
詳しくは、熱処理において、昇温速度を従来よりもかなり速くすることにより、均質な組織を有する薄帯を得ることができる。例えば、毎分100℃のように比較的ゆっくりとした昇温速度で昇温すると、熱処理前から含まれていた結晶核が先に大粒の結晶に成長してしまい、結晶粒のサイズにバラつきが生じてしまう。これに対して、昇温速度を速くすると、熱処理前に含まれていた微結晶が大粒化する前に新たな結晶核が生成され、それらが共に成長していくことから、最終的に結晶粒のサイズにバラつきが生じない。従って、均質な組織を有する薄帯を得ることができる。加えて、昇温速度を速くすると、製造時間を短縮することができ、生産性の向上を図ることもできる。
【0011】
特に、熱処理工程における昇温速度を毎秒80℃以上とすると、均質な結晶粒を成長させることができると共に、結晶粒の平均粒径を小さくすることができる。ここで、均質であることの基準は、例えば、熱処理によって得られたFe基ナノ結晶合金薄帯内において確認できる結晶粒の粒径が平均粒径±5nmの範囲に収まっていることである。このようなバラつきの少ない組織を有するFe基ナノ結晶合金薄帯は、良好な磁気特性を有している。また、そのようなFe基ナノ結晶合金薄帯を複数積層して得られた積層磁芯を備えるモータは、低い鉄損と高いモータ効率を有する。
【0012】
モータなどの工業製品に本発明を適用する場合、熱処理の対象となるアモルファス薄帯のサイズは比較的大きい。実験試料のようなサイズの小さなアモルファス薄帯を熱処理するような場合、昇温速度を制御するのは比較的容易であるが、サイズの大きいアモルファス薄帯の熱処理において昇温速度を適切に制御することは一般的には困難である。しかし、アモルファス薄帯の両面を実質的にヒータと接触させてアモルファス薄帯を加熱することとすれば、昇温速度を速くするといった制御も適切に行うことができ、所望とする均質な組織を有する薄帯を得ることができる。このような加熱方法、即ち、アモルファス薄帯に対するヒータの直接接触加熱は、上述したような昇温制御を容易に可能とするものであり、量産処理に適している。なお、アモルファス薄帯とヒータが直接接触するように配置するのが好ましいが、量産においては、充分に薄く、熱伝導率が高い支持部で薄帯を支持し、その支持部を介して薄帯を加熱してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明については多様な変形や様々な形態にて実現することが可能であるが、その一例として、図面に示すような特定の実施の形態について、以下に詳細に説明する。図面及び実施の形態は、本発明をここに開示した特定の形態に限定するものではなく、添付の請求の範囲に明示されている範囲内においてなされる全ての変形例、均等物、代替例をその対象に含むものとする。
【0015】
本発明の実施の形態による合金組成物は、Fe基ナノ結晶合金の出発原料として好適であり、組成式Fe
aB
bSi
cP
xC
yCu
zのものである。ここで、79≦a≦86at%、5≦b≦13at%、0<c≦8at%、1≦x≦8at%、0≦y≦5at%、0.4≦z≦1.4at%、及び0.08≦z/x≦0.8。なお、Feの3at%以下を、Ti、Zr,Hf,Nb,Ta,Mo,W,Cr,Co,Ni,Al,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Bi,Y,N,O及び希土類元素のうち、1種類以上の元素で置換しても良い。
【0016】
上記合金組成物において、Fe元素は主元素であり、磁性を担う必須元素である。飽和磁束密度の向上及び原料価格の低減のため、Feの割合が多いことが基本的には好ましい。Feの割合が79at%より少ないと、望ましい飽和磁束密度が得られない。Feの割合が86at%より多いと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成が困難になり、結晶粒径がばらついたり、粗大化したりする。即ち、Feの割合が86at%より多いと、均質なナノ結晶組織が得られず、合金組成物は劣化した軟磁気特性を有することとなる。従って、Feの割合は、79at%以上、86at%以下であるのが望ましい。特に1.7T以上の飽和磁束密度が必要とされる場合、Feの割合が81at%以上であることが好ましい。
【0017】
上記合金組成物において、B元素はアモルファス相形成を担う必須元素である。Bの割合が5at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成が困難になる。Bの割合が13at%より多いと、ΔTが減少し、均質なナノ結晶組織を得ることができず、合金組成物は劣化した軟磁気特性を有することとなる。従って、Bの割合は、5at%以上、13at%以下であることが望ましい。特に量産化のため合金組成物が低い融点を有する必要がある場合、Bの割合が10at%以下であることが好ましい。
【0018】
上記合金組成物において、Si元素はアモルファス形成を担う必須元素であり、ナノ結晶化にあたってはナノ結晶の安定化に寄与する。Siを含まないと、アモルファス相形成能が低下し、更に均質なナノ結晶組織が得られず、その結果、軟磁気特性が劣化する。Siの割合が8at%よりも多いと、飽和磁束密度とアモルファス相形成能が低下し、更に軟磁気特性が劣化する。従って、Siの割合は、8at%以下(0を含まない)であることが望ましい。特にSiの割合が2at%以上であると、アモルファス相形成能が改善され連続薄帯を安定して作製でき、また、ΔTが増加することで均質なナノ結晶を得ることができる。
【0019】
上記合金組成物において、P元素はアモルファス形成を担う必須元素である。本実施の形態においては、B元素、Si元素及びP元素の組み合わせを用いることで、いずれか一つしか用いない場合と比較して、アモルファス相形成能やナノ結晶の安定性を高めることとしている。Pの割合が1at%より少ないと、液体急冷条件下におけるアモルファス相の形成が困難になる。Pの割合が8at%より多いと、飽和磁束密度が低下し軟磁気特性が劣化する。従って、Pの割合は、1at%以上、8at%以下であることが望ましい。特にPの割合が2at%以上、5at%以下であると、アモルファス相形成能が向上し、連続薄帯を安定して作製することができる。
【0020】
上記合金組成物において、C元素はアモルファス形成を担う元素である。本実施の形態においては、B元素、Si元素、P元素、C元素の組み合わせを用いることで、いずれか一つしか用いない場合と比較して、アモルファス相形成能やナノ結晶の安定性を高めることとしている。また、Cは安価であるため、Cの添加により他の半金属量が低減され、総材料コストが低減される。但し、Cの割合が5at%を超えると、合金組成物が脆化し、軟磁気特性の劣化が生じるという問題がある。従って、Cの割合は、5at%以下が望ましい。特にCの割合が3at%以下であると、溶解時におけるCの蒸発に起因した組成のばらつきを抑えることができる。
【0021】
上記合金組成物において、Cu元素はナノ結晶化に寄与する必須元素である。Cu元素は基本的に高価であり、Feの割合が81at%以上である場合には、合金組成物の脆化や酸化を生じさせやすい点に注意すべきである。なお、Cuの割合が0.4at%より少ないと、ナノ結晶化が困難になる。Cuの割合が1.4at%より多いと、アモルファス相からなる前駆体が不均質になり、そのためFe基ナノ結晶合金の形成の際に均質なナノ結晶組織が得られず、軟磁気特性が劣化する。従って、Cuの割合は、0.4at%以上、1.4at%以下であることが望ましく、特に合金組成物の脆化及び酸化を考慮すると、Cuの割合は1.1at%以下であることが好ましい。
【0022】
P原子とCu原子との間には強い引力がある。従って、合金組成物が特定の比率のP元素とCu元素とを含んでいると、10nm以下のサイズのクラスターが形成され、このナノサイズのクラスターによってFe基ナノ結晶合金の形成の際にbccFe結晶は微細構造を有するようになる。本実施の形態において、Pの割合(x)とCuの割合(z)との特定の比率(z/x)は、0.08以上、0.8以下である。この範囲以外では、均質なナノ結晶組織が得られず、従って合金組成物は優れた軟磁気特性を有せない。なお、特定の比率(z/x)は、合金組成物の脆化及び酸化を考慮すると、0.08以上0.55以下であることが好ましい。
【0023】
本実施の形態による合金組成物は、主相としてアモルファス相を有しており、且つ、厚さ15〜40μmの連続薄帯形状を有している。連続薄帯形状の合金組成物は、Fe基アモルファス薄帯などの製造に使用されている単ロール製造装置や双ロール製造装置のような従来の装置を使用して形成することができる。
【0024】
本実施の形態による合金組成物は、形状加工工程の後に熱処理される。この熱処理の温度は本実施の形態による合金組成物の結晶化温度以上である。これら結晶化温度は、例えば、DSC装置を用い、40℃/分程度の昇温速度で熱分析を行うことで評価可能である。また、熱処理された合金組成物に析出するbccFe結晶の体積分率は50%以上である。この体積分率は、
図1に示すDSC分析結果で得られる第一ピーク面積の熱処理前後での変化により評価できる。
【0025】
アモルファス薄帯を熱処理すると脆化することが知られている。そのため、熱処理後に薄帯を磁芯形状に加工するのは困難である。そこで、本実施の形態においては、形状加工の後に熱処理を行う。詳しくは、
図2に示されるように、本実施の形態による磁芯の製造方法においては、まず、アモルファス薄帯工程で、アモルファス薄帯を作製する。次に、形状加工工程で、アモルファス薄帯を形状加工する。次に、熱処理工程で、形状加工されたアモルファス薄帯を熱処理する。このようにして、形状加工されたFe基ナノ結晶合金薄帯を得る。次に、積層工程で、熱処理後の複数の薄帯、即ち、夫々に形状加工された複数のFe基ナノ結晶合金薄帯を積層して、積層磁芯を得る。
【0026】
以下、上述した熱処理工程について、詳しく説明する。本実施の形態による合金組成物の熱処理方法は、昇温速度、熱処理温度下限及び上限を規定している。
【0027】
予め形状加工された本実施の形態による合金組成物は、昇温、保持、降温の手順で熱処理される。本実施の形態による合金組成物の昇温過程は毎秒80℃以上の速度と規定される。このように昇温速度を速くすると、熱処理によって得られるFe基ナノ結晶合金薄帯の組織を均質なものとすることができる。なお、昇温速度が毎秒80℃未満の場合、析出するbccFe相(結晶構造がbccの鉄の相)の平均結晶粒径が20nm超となり、最終的に得られる磁芯の保磁力が10A/mを超え、磁芯に適した軟磁気特性が低下する。
【0028】
図3は、本実施の形態による熱処理工程における薄帯の温度変化と、これに伴う飽和磁束密度と保磁力の変化を模式的に示す図である。合金組成物の熱処理温度の下限は、合金組成物の結晶化温度以上であって430℃以上と規定される。熱処理温度が430℃未満の場合、析出するbccFe結晶の体積分率が50%未満となり、最終的に得られる磁芯の飽和磁束密度が
図3に示すように1.75Tに達しない。飽和磁束密度が1.75T以下であると、磁芯としての力が小さく、適用できるモータも制約される。
【0029】
本実施の形態による合金組成物の熱処理温度の上限は、500℃以下と規定される。熱処理温度が500℃超の場合、急速に析出するbccFe相を制御することができず結晶化発熱による熱暴走が起こり、最終的に得られる磁芯の保磁力が
図3に示すように10A/mを超えてしまう。
【0030】
本実施の形態による合金組成物の等温保持時間は熱処理温度により決まり、好ましくは3秒から5分である、さらに、降温速度についても炉冷で得られる毎秒80℃程度が好ましく用いられる。しかしながら、本発明は、これらの等温保持時間及び降温速度に限定されない。
【0031】
本実施の形態による合金組成物の熱処理における雰囲気としては、例えば、大気、窒素、不活性ガスが考えられる。しかしながら、本発明は、これらの雰囲気に限定されない。特に、大気中で熱処理すると、熱処理後の薄帯、即ちFe基ナノ結晶合金薄帯は熱処理前のFe基アモルファス薄帯の有していた金属光沢を失い、その表裏両面は熱処理前と比較して変色している。これは、表面に酸化膜が形成されたためと考えられる。上記の適切な条件で処理された薄帯について、肉眼で見える色は、褐色から青色、紫色の範囲である。また、表裏では若干色が異なる。これは、薄帯の表面状態の差異に起因したものと考えられる。このように、酸素を含む雰囲気、例えば大気中で熱処理すると、熱処理によって得られるFe基ナノ結晶合金薄帯の表裏表面には、視認可能な酸化膜が形成される。また、500℃超の場合には、白色または灰白色になる。これは、結晶化発熱による熱暴走により酸化膜の形成が進んだためと考えられる。
【0032】
なお、Fe基ナノ結晶合金薄帯の両面に積極的に酸化膜を形成すると、Fe基ナノ結晶合金薄帯の表面抵抗が大きくなる。表面抵抗の大きいFe基ナノ結晶合金薄帯を積層すると薄帯間の層間絶縁が高くなり、渦電流損失が小さくなる。結果、最終製品であるモータの効率が高くなる。
【0033】
また、製造の面では、上記酸化により、薄帯の結晶化状態の良否を目視(非破壊)で簡易的に判断できる。例えば、色が薄かったり、金属光沢が残っていると温度が低いと判断できる。
【0034】
本実施の形態による合金組成物の熱処理における具体的な加熱方法としては、例えば、充分な熱容量をもったヒータのような固体伝熱体への接触が好ましい。特に、Fe基アモルファス薄帯の両面に固体伝導体を接触させて固体伝導体によりFe基アモルファス薄帯を挟み込むことにより加熱することが好ましい。このような加熱方法によれば、工業製品用のアモルファス薄帯のようにサイズの大きなものも適切に昇温制御することが容易に可能となる。しかしながら、本発明は、これらの加熱方法に限定されない。適切な昇温制御が可能である限り、例えば、具体的な加熱方法として、赤外線や高周波による非接触加熱など他の熱処理方法を採用することとしてもよい。
【0035】
<熱処理装置>
本実施の形態による合金組成物の熱処理方法を具現化した装置の模式図を用いて熱処理工程の手順を説明する。
【0036】
図4は、本発明の製造方法を具現化するために構築した装置の構造模式図である。予め形状加工された薄帯7は、搬送機構1により加熱部6に移動する。
【0037】
本実施の形態の加熱部6は、上側ヒータ2及び下側ヒータ3を備えている。上側ヒータ2及び下側ヒータ3は予め所望温度に昇温されており、所定の位置に移動した薄帯7を上下から挟み込み加熱する。即ち、本実施の形態においては、薄帯7の両面をヒータと接触させた状態で薄帯7を加熱する。このときの昇温速度は薄帯7と上側ヒータ2,下側ヒータ3の熱容量比で決まる。上側ヒータ2と下側ヒータ3とで挟まれ、所望昇温速度で加熱された薄帯7は、そのまま所定時間保持され、その後、排出機構4により取り出され、別に設置された積層治具5内に自動積層される。この一連動作を繰り返すことで規定の磁気特性の揃った熱処理薄帯を得ることができる。
【0038】
特に、上側ヒータ2,下側ヒータ3で薄帯7を挟んで、熱処理、昇温、冷却をするので、急速に昇温、冷却ができる。具体的には、昇温速度を1秒間に80℃以上にできる。上述したように、昇温速度を速くすることで、結晶粒のサイズのバラつきの少ない薄帯を得ることができる共に、製造時間が短縮でき、生産性が上がる。特に、この装置では、薄帯にヒータを接触させているので、適切な昇温制御を容易に行うことができる。なお、
図4に示される搬送機構1のうち、薄帯7を支持する支持部(薄帯7が載置されている部分)は、厚みを有するように描かれているが、実施に際しては、支持部は、加熱に支障がない程度に、充分に薄く、且つ、熱伝導率の高い材質で構成されており、上側ヒータ2と下側ヒータ3とで薄帯7と支持部とを挟み込むようにして薄帯7を昇温加熱している。
【0039】
以上のようにして好ましく作製された本実施の形態による磁芯は、20nm以下、より好ましくは17nm以下のbccFe相平均結晶粒径を有すると共に、1.75T以上の高い飽和磁束密度と10A/m以下の低い保磁力を有する。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について、複数の実施例及び複数の比較例を参照しながら、更に詳細に説明する。
【0041】
(実施例1〜8及び比較例1〜12)
まず、Fe,Si,B,P,Cu,Cの原料を合金組成Fe
84.3Si
0.5B
9.4P
4Cu
0.8C
1となるように秤量し、高周波誘導溶解処理により溶解した。その後、溶解した合金組成物を大気中において単ロール液体急冷法にて処理し、厚さ約25μm程度の厚さを持つ薄帯状合金組成物を作製した。これらの薄帯状合金組成物を幅10mm、長さ50mmに切り出し(形状加工工程)、X線回折法により相を同定した。これらの加工された薄帯状合金組成物は、いずれも主相としてアモルファス相を有していた。次に、表1記載の熱処理条件の下で、実施例1〜8及び比較例1〜12の条件で
図4に示す装置を用いて熱処理した(熱処理工程)。熱処理前後での薄帯状合金組成物をDSC装置により40℃/分程度の昇温速度で熱分析評価し、得られた第一ピーク面積比により析出したbccFe結晶の体積分率を算出した。さらに、加工・熱処理された薄帯状合金組成物夫々の飽和磁束密度(Bs)は振動試料型磁力計(VMS)を用いて800kA/mの磁場にて測定した。各合金組成物の保磁力(Hc)は直流BHトレーサーを用い2kA/mの磁場にて測定した。測定結果を表1に併せて示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1から理解されるように、実施例の薄帯状合金組成物はすべてアモルファスを主相とするものであり、本発明の製造方法で熱処理した試料のbcc−Fe相組織は50%以上の体積分率と20nm以下の平均粒径を有していた。また、少なくとも確認できた結晶粒の粒径は平均粒径±5nmの範囲に収まっていた。このような所望組織が得られた結果、1.75T以上の高い飽和磁束密度と10A/m以下の低い保磁力を示した。
【0044】
比較例1及び2の薄帯状合金組成物は厚みが厚く、主相としてアモルファス相とbcc−Fe相の混相組織であった。これを本発明の製造方法で熱処理しても、析出bcc−Fe相の平均粒径が21nm超となった。この結果、保磁力が10A/m超と劣化した。
【0045】
比較例3及び4の薄帯状合金組成物を、本発明の製造方法で規定する昇温速度以下で熱処理した。この結果、析出bcc−Fe相の平均粒径が21nm超となった。この結果、保磁力が10A/m超と劣化した。
【0046】
実施例2及び3と同一の薄帯状合金組成物を用い、本発明の製造方法で規定する熱処理温度以下で熱処理した例を比較例5〜12に示す。何れの比較例も析出bcc−Fe相の体積分率が50%未満となった。この結果、飽和磁束密度が1.75T未満であった。熱処理温度が低いため、bcc−Fe相の析出が少なくなったためと考えられる。析出bcc−Fe相の体積分率は、少なくとも50%以上、好ましくは、70%以上がよい。
【0047】
同様に、実施例2と同一の薄帯状合金組成物を用い、本発明の製造方法で規定する温度を超えて熱処理した例を比較例13及び14に示す。この結果、析出bcc−Fe相の平均粒径が30nm超となった。この結果、保磁力が45A/m超と著しく劣化した。
【0048】
(実施例9及び比較例15及び16)
モータ用磁芯として、より実用的な形状に加工した薄帯状合金組成物を、本発明で規定する条件で
図4に示した装置を用いて実施例2及び比較例3の条件で熱処理する。
図2の製造方法のフローチャートに従い、これらを複数積層する。
【0049】
図5は、本発明の実施例で作製したモータ用磁芯の積層状態の外観図である。上下には、仮固定用の端板があり、その間に磁芯材料である熱処理された薄帯が積層されている。外周の直径は70mmである。この積層された薄帯を固定用部品上に組付け、内径側に突き出た所定位置に巻線することでステータとなる。磁芯材料のみを変え、ステータの性能評価を行った。磁芯に使用した合金組成物とモータ性能を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2から理解されるように、実施例2の条件で熱処理した薄帯状合金組成物を磁芯として使用した実施例9のモータは、他の材料のモータに比べ、0.4Wの低い鉄損と91%もの高いモータ効率を示した。
【0052】
本発明は2015年7月3日に日本国特許庁に提出された日本特許出願第2015−134309号に基づいており、その内容は参照することにより本明細書の一部をなす。
【0053】
本発明の最良の実施の形態について説明したが、当業者には明らかなように、本発明の精神を逸脱しない範囲で実施の形態を変形することが可能であり、そのような実施の形態は本発明の範囲に属するものである。