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特許6444517車両用無段変速機構の制御装置および制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444517
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】車両用無段変速機構の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20181217BHJP
   F16H 59/22 20060101ALI20181217BHJP
   F16H 59/54 20060101ALI20181217BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H59/22
   F16H59/54
   F16H61/662
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-539161(P2017-539161)
(86)(22)【出願日】2016年9月6日
(86)【国際出願番号】JP2016076066
(87)【国際公開番号】WO2017043458
(87)【国際公開日】20170316
【審査請求日】2018年2月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-177961(P2015-177961)
(32)【優先日】2015年9月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】川本 佳延
(72)【発明者】
【氏名】浅井 詔生
(72)【発明者】
【氏名】田中 寛康
【審査官】 星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−082707(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/176559(WO,A1)
【文献】 特開2003−130195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用駆動源と駆動輪との間に配置され、供給油圧を制御することにより、プライマリプーリ及びセカンダリプーリのベルト容量が制御される無段変速機構と、
前記無段変速機構に直列配置され、且つ、少なくとも前進2速段以上の変速段を有する有段変速機構と、
少なくともアクセル開度がゼロとなってから、ブレーキペダル踏み込みによる制動力が発生するまでの間に、前記ベルト容量を、前記アクセル開度がゼロである場合に設定されるベルト容量より増大させる制御手段と、
を備える車両用無段変速機構の制御装置であって、
前記制御手段は、前記有段変速機構の変速比がハイ変速比側であるほど、前記アクセル開度がゼロである場合に設定されるベルト容量に対する増大量を小さくする、
車両用無段変速機構の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両用無段変速機構の制御装置において、
前記制御手段は、前記アクセル開度がゼロとなってから前記制動力が発生するまでに、前記ベルト容量の増大を完了する、
車両用無段変速機構の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された車両用無段変速機構の制御装置において、
前記制御手段は、前記ベルト容量の増大量増加を所定勾配にて行う、
車両用無段変速機構の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載された車両用無段変速機構の制御装置において、
前記制御手段は、前記アクセル開度がゼロとなると同時に前記ベルト容量の増大を開始すると共に、前記制動力が発生するまでに前記増大量の増大が完了するよう前記所定勾配を設定する、
車両用無段変速機構の制御装置。
【請求項5】
走行用駆動源と駆動輪との間に配置され、供給油圧を制御することにより、プライマリプーリ及びセカンダリプーリのベルト容量が制御される無段変速機構と、
前記無段変速機構に直列配置され、且つ、少なくとも前進2速段以上の変速段を有する有段変速機構と、
を備える車両用無段変速機構の制御方法であって、
少なくともアクセル開度がゼロとなってから、ブレーキペダル踏み込みによる制動力が発生するまでの間に、前記ベルト容量を、前記アクセル開度がゼロである場合に設定されるベルト容量より増大させ、
ここで、前記有段変速機構の変速比がハイ変速比側であるほど、前記アクセル開度がゼロである場合に設定されるベルト容量に対する増大量を小さくする、
車両用無段変速機構の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速機構と直列に、2段以上の変速段を有する有段変速機構を備える車両用無段変速機構の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクセルペダルが解放されたことに基づいてベルト容量を増大させる無段変速機の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。ベルト容量の増大により、アクセルペダル解放後にブレーキペダルが踏み込まれた場合に、駆動輪からベルトへの入力トルクに対して、ベルト容量が不足することを防止し、ベルト滑りを防止している。
【0003】
しかしながら、バリエータと直列に2段以上の変速段を有する有段変速機構を備えた変速機に上記従来技術を適用した場合、有段変速機構の変速段によらず、ベルト容量の増大量を固定値とするため、不要にベルト容量を増大させることがあり、燃費が悪化する、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−082707号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、コースト走行中、有段変速機構が最ロー変速比でない場合にベルト容量を低く抑えることにより燃費を向上させる車両用無段変速機構の制御装置を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の車両用無段変速機構の制御装置は、無段変速機構と、有段変速機構と、制御手段と、を備える。
無段変速機構は、走行用駆動源と駆動輪との間に配置され、供給油圧を制御することにより、プライマリプーリ及びセカンダリプーリのベルト容量が制御される。
有段変速機構は、前記無段変速機構に直列配置され、且つ、少なくとも前進2速段以上の変速段を有する。
制御手段は、少なくともアクセル開度がゼロとなってから、ブレーキペダル踏み込みによる制動力が発生するまでの間に、前記ベルト容量を、前記アクセル開度がゼロである場合に設定されるベルト容量より増大させる。そして、有段変速機構の変速比がハイ変速比側であるほど、アクセル開度がゼロである場合に設定されるベルト容量に対する増大量を小さくする。
【0007】
よって、本発明では、無段変速機構に直列配置された有段変速機構の変速比がハイ変速比側であるほど、アクセル開度がゼロである場合に設定されるベルト容量に対する増大量を小さくする制御が行われる。
即ち、有段変速機構の変速比がハイ変速比側であるほど、ベルト容量に対する増大量を小さくするため、有段変速機構の変速比が最ロー変速比でない場合、不要にベルト容量を大きくすることがない。
この結果、コースト走行中、有段変速機構が最ロー変速比でない場合にベルト容量を低く抑えることにより燃費を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例の制御装置が適用された副変速機付き無段変速機が搭載されたエンジン車を示す全体構成図である。
図2】実施例の変速機コントローラの内部構成を示すブロック図である。
図3】実施例の変速機コントローラの記憶装置に格納されている変速マップの一例を示す変速マップ図である。
図4】実施例の変速機コントローラで実行されるコースト時プーリ圧制御でのコースト容量細分化を示すブロック図である。
図5】コースト時プーリ圧制御で用いられるバリエータ変速比と必要SEC油圧の関係特性による1速時マップと2速時マップを示すマップ図である。
図6】実施例の変速機コントローラで実行されるコースト時プーリ圧制御処理の流れを示すフローチャートである。
図7】アクセル足放しアップシフト減速時におけるコースト時プーリ圧制御をあらわすアクセル開度・ブレーキ・ギア位置・エンジン回転数・SEC圧の各特性を示すタイムチャートである。
図8】アクセル足放しダウンシフト停車時におけるコースト時プーリ圧制御をあらわすアクセル開度・ブレーキ・ギア位置・エンジン回転数・SEC圧の各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の車両用無段変速機構の制御装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【0010】
まず、構成を説明する。
実施例における制御装置は、副変速機付き無段変速機と呼ばれる変速機を搭載したエンジン車に適用したものである。以下、実施例におけるエンジン車用バリエータの制御装置の構成を、「全体システム構成」、「変速マップによる変速制御構成」、「コースト時プーリ圧制御処理構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は、実施例の制御装置が適用された副変速機付き無段変速機が搭載されたエンジン車の全体構成を示し、図2は、変速機コントローラの内部構成を示す。以下、図1及び図2に基づき、全体システム構成を説明する。
なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最ロー変速比」は当該変速機構の最大変速比を意味し、「最ハイ変速比」は当該変速機構の最小変速比を意味する。
【0012】
図1に示すエンジン車は、走行駆動源として、エンジン始動用のスタータモータ15を有するエンジン1を備える。エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ9を有するトルクコンバータ2、リダクションギア対3、副変速機付き無段変速機4(以下、「自動変速機4」という。)、ファイナルギア対5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。ファイナルギア対5には、駐車時に自動変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。油圧源として、エンジン1の動力により駆動されるメカニカルオイルポンプ10と、モータ51の動力により駆動される電動オイルポンプ50と、を備える。そして、メカニカルオイルポンプ10又は電動オイルポンプ50からの吐出圧を調圧して自動変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11と、油圧制御回路11を制御する変速機コントローラ12と、統合コントローラ13と、エンジンコントローラ14と、が設けられている。以下、各構成について説明する。
【0013】
前記自動変速機4は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に対して直列に設けられる副変速機構30とを備える。ここで、「直列に設けられる」とは、動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギア列)を介して接続されていてもよい。
【0014】
前記バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21,22の間に掛け回されるVベルト23とを備えるベルト式無段変速機構である。プーリ21,22は、それぞれ固定円錐板と、この固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され、固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、この可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させるプライマリ油圧シリンダ23aとセカンダリ油圧シリンダ23bを備える。プライマリ油圧シリンダ23aとセカンダリ油圧シリンダ23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21,22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0015】
前記副変速機構30は、前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニヨ型遊星歯車機構31と、ラビニヨ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(ローブレーキ32、ハイクラッチ33、リバースブレーキ34)と、を備える。
【0016】
前記副変速機構30の変速段は、各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると変更される。例えば、ローブレーキ32を締結し、ハイクラッチ33とリバースブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は前進1速段(以下、「低速モード」という。)となる。ハイクラッチ33を締結し、ローブレーキ32とリバースブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな前進2速段(以下、「高速モード」という。)となる。また、リバースブレーキ34を締結し、ローブレーキ32とハイクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進段となる。なお、副変速機構30のローブレーキ32とハイクラッチ33とリバースブレーキ34の全てを解放すれば、駆動輪7への駆動力伝達経路が遮断される。なお、ローブレーキ32とハイクラッチ33を、以下、「フォワードクラッチFwd/C」という。
【0017】
前記変速機コントローラ12は、図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125と、から構成される。この変速機コントローラ12は、バリエータ20の変速比を制御すると共に、副変速機構30の複数の摩擦締結要素(ローブレーキ32、ハイクラッチ33、リバースブレーキ34)を架け替えることで所定の変速段を達成する。
【0018】
前記入力インターフェース123には、アクセルペダルの踏み込み開度(以下、「アクセル開度APO」という。)を検出するアクセル開度センサ41の出力信号、自動変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ回転速度、以下、「プライマリ回転数Npri」という。)を検出する回転速度センサ42の出力信号、車両の走行速度(以下、「車速VSP」という。)を検出する車速センサ43の出力信号、自動変速機4のライン圧(以下、「ライン圧PL」という。)を検出するライン圧センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、ブレーキ状態を検出するブレーキスイッチ46の出力信号、などが入力される。さらに、入力インターフェース123には、変速機作動油の温度を検出するCVT油温センサ48の出力信号などが入力される。
【0019】
前記記憶装置122には、自動変速機4の変速制御プログラム、および、この変速制御プログラムで用いる変速マップ(図3)が格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されている変速制御プログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して変速制御信号を生成し、生成した変速制御信号を、出力インターフェース124を介して油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0020】
前記油圧制御回路11は、複数の流路、および、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、変速機コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り替える。
【0021】
前記統合コントローラ13は、変速機コントローラ12による変速機制御やエンジンコントローラ14によるエンジン制御などが適切に担保されるように、複数の車載コントローラの統合管理を行う。この統合コントローラ13は、変速機コントローラ12やエンジンコントローラ14などの車載コントローラとCAN通信線25を介して情報交換が可能に接続される。
【0022】
前記エンジンコントローラ14は、アクセル解放操作時におけるエンジン1のフューエルカット制御、スタータモータ15を用いてエンジン1を始動するエンジン始動制御、などを行う。このエンジンコントローラ14には、エンジン1の回転数(以下、「エンジン回転数Ne」という。)を検出するエンジン回転数センサ47の出力信号、などが入力される。
【0023】
[変速マップによる変速制御構成]
図3は、変速機コントローラの記憶装置に格納される変速マップの一例を示す。以下、図3に基づき、変速マップによる変速制御構成を説明する。
【0024】
前記自動変速機4の動作点は、図3に示す変速マップ上で車速VSPとプライマリ回転速度Npriとに基づき決定される。自動変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが自動変速機4の変速比(バリエータ20の変速比vRatioに、副変速機構30の変速比subRatioを掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比Ratio」という。)を表している。
この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、自動変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、図3には簡単のため、全負荷線F/L(アクセル開度APO=8/8のときの変速線)、パーシャル線P/L(アクセル開度APO=4/8のときの変速線)、コースト線C/L(アクセル開度APO=0のときの変速線)のみが示されている。
【0025】
前記自動変速機4が低速モードのときには、自動変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる低速モード最ロー線LL/Lと、バリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる低速モード最ハイ線LH/Lと、の間で変速することができる。このとき、自動変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、自動変速機4が高速モードのときには、自動変速機4はバリエータ20の変速比vRatioを最大にして得られる高速モード最ロー線HL/Lと、バリエータ20の変速比vRatioを最小にして得られる高速モード最ハイ線HH/Lと、の間で変速することができる。このとき、自動変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0026】
前記副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最ハイ線LH/Lに対応する変速比(低速モード最ハイ変速比)が高速モード最ロー線HL/Lに対応する変速比(高速モード最ロー変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとり得る自動変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である低速モードレシオ範囲LREと、高速モードでとり得る自動変速機4のスルー変速比Ratioの範囲である高速モードレシオ範囲HREと、が部分的に重複する。自動変速機4の動作点が高速モード最ロー線HL/Lと低速モード最ハイ線LH/Lで挟まれるB領域(重複領域)にあるときは、自動変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0027】
前記変速機コントローラ12は、この変速マップを参照して、車速VSP及びアクセル開度APO(車両の運転状態)に対応するスルー変速比Ratioを到達スルー変速比DRatioとして設定する。この到達スルー変速比DRatioは、当該運転状態でスルー変速比Ratioが最終的に到達すべき目標値である。そして、変速機コントローラ12は、スルー変速比Ratioを所望の応答特性で到達スルー変速比DRatioに追従させるための過渡的な目標値である目標スルー変速比tRatioを設定し、スルー変速比Ratioが目標スルー変速比tRatioに一致するようにバリエータ20及び副変速機構30を制御する。
【0028】
前記変速マップ上には、副変速機構30のアップ変速を行うモード切替アップ変速線MU/L(副変速機構30の1→2アップ変速線)が、低速モード最ハイ線LH/L上に略重なるように設定されている。モード切替アップ変速線MU/Lに対応するスルー変速比Ratioは、低速モード最ハイ線LH/L(低速モード最ハイ変速比)に略等しい。また、変速マップ上には、副変速機構30のダウン変速を行うモード切替ダウン変速線MD/L(副変速機構30の2→1ダウン変速線)が、高速モード最ロー線HL/L上に略重なるように設定されている。モード切替ダウン変速線MD/Lに対応するスルー変速比Ratioは、高速モード最ロー変速比(高速モード最ロー線HL/L)に略等しい。
【0029】
そして、自動変速機4の動作点がモード切替アップ変速線MU/L又はモード切替ダウン変速線MD/Lを横切った場合、すなわち、自動変速機4の目標スルー変速比tRatioがモード切替変速比mRatioを跨いで変化した場合やモード切替変速比mRatioと一致した場合には、変速機コントローラ12はモード切替変速制御を行う。このモード切替変速制御では、変速機コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比vRatioを副変速機構30の変速比subRatioが変化する方向と逆の方向に変化させるというように2つの変速を協調させる「協調制御」を行う。
【0030】
前記「協調制御」では、自動変速機4の目標スルー変速比tRatioがモード切替アップ変速線MU/LをB領域側からC領域側に向かって横切ったときや、B領域側からモード切替アップ変速線MU/Lと一致した場合に、変速機コントローラ12は、1→2アップ変速判定を出し、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを最ハイ変速比からロー変速比側に変化させる。逆に、自動変速機4の目標スルー変速比tRatioがモード切替ダウン変速線MD/LをB領域側からA領域側に向かって横切ったときや、B領域側からモード切替ダウン変速線MD/Lと一致した場合、変速機コントローラ12は、2→1ダウン変速判定を出し、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更するとともに、バリエータ20の変速比vRatioを最ロー変速比からハイ変速比側に変化させる。
【0031】
前記モード切替アップ変速時又はモード切替ダウン変速時において、バリエータ20の変速比vRatioを変化させる「協調制御」を行う理由は、自動変速機4のスルー変速比Ratioの段差により生じる入力回転数の変化に伴う運転者の違和感を抑えることができるとともに、副変速機構30の変速ショックを緩和することができるからである。
【0032】
[コースト時プーリ圧制御処理構成]
図4は、実施例の変速機コントローラ12で実行されるコースト時プーリ圧制御でのコースト容量細分化を示し、図5は、1速時マップと2速時マップを示す。以下、図4及び図5に基づき、コースト時プーリ圧制御でのコースト容量細分化について説明する。
【0033】
コースト時プーリ圧制御では、副変速機構30が1速段(1st)のときのコースト時ベルト容量を決める場合と、副変速機構30が2速段(2nd)のときのコースト時ベルト容量を決める場合とを分け、コースト容量1st・2nd細分化を図っている。
即ち、図4のブロック図に示すように、ブロックBL1とブロックBL2とブロックBL3を有し、ブロックBL1では、バリエータ変速比を入力し、図5に示す1速時マップに基づき、バリエータ変速比に対応する1速時必要SEC油圧を決める。ブロックBL2では、バリエータ変速比を入力し、図5に示す2速時マップに基づき、バリエータ変速比に対応する2速時必要SEC油圧を決める。「SEC油圧」とは、後述するバリエータ20のセカンダリプーリ圧である。ブロックBL3では、1速時必要SEC油圧と2速時必要SEC油圧と1速ギア位置情報を入力し、1速時必要SEC油圧と2速時必要SEC油圧の何れかを選択し、必要SEC油圧を得る指令を出力することで、コースト時ベルト容量とする。
【0034】
ここで、図5に示す1速時マップは、バリエータ変速比がロー変速比側に移行するにしたがって、ベルト滑りを抑える勾配α1により、1速時必要SEC油圧を徐々に高くする特性に設定されている。図5に示す2速時マップは、バリエータ変速比がロー変速比側に移行するにしたがって、ベルト滑りを抑える勾配α2(<α1)により、2速時必要SEC油圧を徐々に高くする特性に設定されている。つまり、同じバリエータ変速比のときには、2速時必要SEC油圧(ベルト容量)が1速時必要SEC油圧(ベルト容量)より低くなる。
【0035】
図6は、実施例の変速機コントローラ12で実行されるコースト時プーリ圧制御処理構成の流れを示す(制御手段)。以下、コースト時プーリ圧制御処理構成をあらわす図6の各ステップについて説明する。
【0036】
ステップS1では、エンジン1を走行駆動源とし、フォワードクラッチFwd/C(ローブレーキ32又はハイクラッチ33)を締結しての走行中、アクセル解放操作が行われたか否かを判断する。YES(アクセルOFF)の場合はステップS2へ進み、NO(アクセルON)の場合はステップS1の判断を繰り返す。
ここで、アクセル解放操作が行われたか否かの判断は、アクセル開度センサ41からのアクセル開度信号により行い、アクセル開度=0であるとき、アクセル解放操作によるコースト走行時であると判断する。
【0037】
ステップS2では、ステップS1でのアクセルOFFであるとの判断に続き、副変速機構30のギア位置が1速(1st)であるか否かを判断する。YES(副変ギア位置=1st)の場合はステップS3へ進み、NO(副変ギア位置が1st以外)の場合はステップS4へ進む。
ここで、副変速機構30のギア位置は、副変速機構30への変速指令値として、アップシフトやダウンシフトの変速要求がなく、1速指令値が出力中である場合、ギア位置が1速(1st)であると判断する。または、副変速機構30の入力回転速度と出力回転速度とから変速比を演算して、ギア位置が1速(1st)であると判断してもよい。
【0038】
ステップS3では、ステップS2での副変ギア位置=1stであるとの判断に続き、図5に示す1速時マップに基づき、そのときのバリエータ変速比に対応する1速時必要SEC油圧を設定し、ステップS9へ進む。
【0039】
ステップS4では、ステップS2での副変ギア位置が1st以外であるとの判断に続き、副変速機構30のギア位置が2速(2nd)であるか否かを判断する。YES(副変ギア位置=2nd)の場合はステップS5へ進み、NO(副変ギア位置が2nd以外)の場合はステップS6へ進む。
ここで、副変速機構30のギア位置は、副変速機構30への変速指令値として、アップシフトやダウンシフトの変速要求がなく、2速指令値が出力中である場合、ギア位置が2速(2nd)であると判断する。または、副変速機構30の入力回転速度と出力回転速度とから変速比を演算して、ギア位置が2速(2nd)であると判断してもよい。
【0040】
ステップS5では、ステップS4での副変ギア位置=2ndであるとの判断に続き、図5に示す2速時マップに基づき、そのときのバリエータ変速比に対応する2速時必要SEC油圧を設定し、ステップS9へ進む。
【0041】
ステップS6では、ステップS4での副変ギア位置が2nd以外であるとの判断に続き、1速→2速へのアップシフト変速中であるか否かを判断する。YES(1→2アップシフト中)の場合はステップS7へ進み、NO(2→1ダウンシフト中)の場合はステップS8へ進む。
ここで、変速中の判断は、副変速機構30へのアップシフトやダウンシフトの変速要求中であるとの変速指令値に基づいて行う。
【0042】
ステップS7では、ステップS6での1→2アップシフト中であるとの判断に続き、図5に示す1速時マップに基づき、バリエータ変速比の変化に対応する1速時必要SEC油圧を設定し、ステップS9へ進む。
ここで、副変速機構30の1→2アップシフト中においては、バリエータ20のダウンシフトが行われ、スルー変速比を変えないようにしている。
【0043】
ステップS8では、ステップS6での2→1ダウンシフト中であるとの判断に続き、図5に示す2速時マップに基づき、バリエータ変速比の変化に対応する2速時必要SEC油圧を設定し、ステップS9へ進む。
ここで、副変速機構30の2→1ダウンシフト中においては、バリエータ20のアップシフトが行われ、スルー変速比を変えないようにしている。
【0044】
ステップS9では、ステップS3,S5,S7,S8の何れかによる必要SEC油圧の設定に続き、必要SEC油圧の設定に対応する油圧指令を油圧制御回路11へ出力し、エンドへ進む。
ここで、セカンダリプーリ22への必要SEC油圧が設定されると、バリエータ20の目標バリエータ変速比に応じたバランス推力比を得るように、プライマリプーリ21への必要PRI油圧が設定される。
【0045】
次に、作用を説明する。
実施例のエンジン車用バリエータの制御装置における作用を、「コースト時プーリ圧制御処理作用」、「コースト時プーリ圧制御作用」、「コースト時プーリ圧制御の特徴作用」に分けて説明する。
【0046】
[コースト時プーリ圧制御処理作用]
実施例のコースト時プーリ圧制御処理作用を、図6に示すフローチャートに基づき説明する。
【0047】
まず、ローブレーキ32を締結しての1速走行中、アクセル解放操作を行うと、図6のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS9→エンドへと進む。ステップS3では、図5に示す1速時マップに基づき、そのときのバリエータ変速比に対応する1速時必要SEC油圧が設定され、ステップS9では、必要SEC油圧の設定に対応する油圧指令が油圧制御回路11へ出力される。
【0048】
ハイクラッチ33を締結しての2速走行中、アクセル解放操作を行うと、図6のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS4→ステップS5→ステップS9→エンドへと進む。ステップS5では、図5に示す2速時マップに基づき、そのときのバリエータ変速比に対応する2速時必要SEC油圧が設定され、ステップS9では、必要SEC油圧の設定に対応する油圧指令が油圧制御回路11へ出力される。
【0049】
ローブレーキ32の締結からハイクラッチ33の締結へと架け替えるアップシフト走行中、アクセル解放操作を行うと、図6のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS4→ステップS6→ステップS7→ステップS9→エンドへと進む。ステップS7では、図5に示す1速時マップに基づき、バリエータ変速比の変化に対応する1速時必要SEC油圧が設定され、ステップS9では、必要SEC油圧の設定に対応する油圧指令が油圧制御回路11へ出力される。
【0050】
ハイクラッチ33の締結からローブレーキ32の締結へと架け替えるダウンシフト走行中、アクセル解放操作を行うと、図6のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS4→ステップS6→ステップS8→ステップS9→エンドへと進む。ステップS8では、図5に示す2速時マップに基づき、バリエータ変速比の変化に対応する2速時必要SEC油圧が設定され、ステップS9では、必要SEC油圧の設定に対応する油圧指令が油圧制御回路11へ出力される。
【0051】
このように、実施例では、アクセル解放操作によるコースト走行中、副変速機構30のギア位置が1速であるか、2速であるか、副変速機構30が1→2アップシフト中であるか、2→1ダウンシフト中であるか、により、必要SEC油圧の設定を異ならせている。
即ち、バリエータ変速比が同じであれば、副変速機構30のギア位置が1速のときより2速のときの方が、必要SEC油圧を低く設定する。そして、副変速機構30が1→2アップシフト中であるとき、バリエータ変速比に応じて1速時の必要SEC油圧を設定する。副変速機構30が2→1ダウンシフト中であるとき、バリエータ変速比に応じて2速時の必要SEC油圧を設定する。
【0052】
[コースト時プーリ圧制御作用」
アクセルペダル解放後にブレーキペダルが踏み込まれた場合、駆動輪からベルトへの入力トルクに対してベルト容量が不足すると、バリエータでのベルト滑りが発生する。このベルト滑りの発生を防止するには、アクセルペダルが解放操作されたことに基づき、ベルト容量を増大させる必要がある。
【0053】
ベルト滑りの発生を防止するため、アクセル解放操作に基づき、ベルト容量を増大するに際し、ベルト容量の増大量を固定値とすると、固定値は、最も高い増大量に合わせて設定することになる。このため、有段変速機構の変速比が最ロー変速比である場合に必要とされるベルト容量に設定する必要があり、有段変速機構の変速比が最ロー変速比でない場合は不要にベルト容量を増大させることとなり、フリクションの増大に伴い燃費が悪化する。
【0054】
これに対し、実施例では、アクセル解放操作によるコースト走行において、副変速機構30の変速比が2速のとき、1速の時のベルト容量の増大量に比べ、ベルト容量の増大量を小さくするようにした。なお、コースト走行時の「ベルト容量」は、セカンダリプーリ圧(SEC圧)により決まり、「ベルト容量の増大量」は、セカンダリプーリ圧の増加量により決まる。
【0055】
即ち、アクセル解放操作によるコースト走行において、副変速機構30の変速比が2速のとき、駆動輪7側からエンジン1側を見た場合、副変速機構30が1速のときに比べ、プライマリプーリ回転数Npriを低下させるのに必要な回転差分が小さくなる。このため、駆動輪7側から同一トルクが入力された場合(同一の制動操作が行われた場合)、バリエータ20においてベルト23が滑らないために必要なベルト容量は、副変速機構30が2速のとき、1速のときに比べて小さくなる点に着目した。
【0056】
このため、コースト走行中、副変速機構30が最ロー変速比でない2速の場合にベルト容量を低く抑えることにより燃費を向上させることができる。以下、アクセル足放しアップシフト減速時(図7)と、アクセル足放しダウンシフト停車時(図8)とに分け、実施例のコースト時プーリ圧制御による燃費向上作用を説明する。
【0057】
(アクセル足放しアップシフト減速時:図7
副変速機構30でのギア位置が1速状態での走行中、アクセル足放し操作とブレーキ踏み込み操作を行うと、運転点(APO,VSP)は、図3に示すように、D点→E点→F点へと移動する。ここで、D点は1速ギア領域での運転点であり、E点は1→2アップシフト要求が出る低速モード最ハイ線LH/Lを横切る位置であり、F点はコースト線C/Lに沿った車速VSPが減速した位置である。
このように、副変速機構30でのギア位置が1速状態での走行中、図7に示すように、時刻t1にてアクセル足放し操作を行い、時刻t2にブレーキ踏み込み操作を行うと、SEC圧が通常圧からコースト1st圧まで上昇する。つまり、時刻t1〜時刻t2の所要時間Δtを、アクセル/ブレーキ踏み換え最小時間とすると、SEC圧はこの最小時間Δtを考慮し、指示圧を所定傾きで増加させる。即ち、SEC圧は、時刻t1にて上昇を開始し、時刻t2にてコースト1st圧となる所定傾きで増加させる。
そして、時刻t3にて1→2アップシフト要求に基づいて、1→2アップシフトが開始されると、変速終了時刻t4までは、バリエータ変速比を変えない限りコースト1st圧が維持される。時刻t4からはSEC圧に対して2段減少率リミッタが印加されるため、コースト1st圧が緩やかな勾配にて低下し、時刻t5にてコースト2nd圧とされる。そして、副変速機構30でのギア位置が2速状態の間は、コースト2nd圧が維持される。
従って、アクセル足放しアップシフト減速時には、図7に示すように、コースト時にコースト1st圧による増大量Jを維持する場合に比べ、矢印Kで示すハッチング領域が、SEC圧の削減分となり、この削減分により燃費が向上する。
【0058】
(アクセル足放しダウンシフト停車時:図8
副変速機構30でのギア位置が2速状態での走行中、アクセル足放し操作とブレーキ踏み込み操作を行うと、運転点(APO,VSP)は、図3に示すように、G点→H点→I点へと移動する。ここで、G点は2速ギア領域での運転点であり、H点は2→1ダウンシフト要求が出る高速モード最ロー線HL/Lを横切る位置であり、I点はコースト線C/Lに沿った車速VSPが減速した後の停車位置である。
このように、副変速機構30でのギア位置が2速状態での走行中、図8に示すように、時刻t1にてアクセル足放し操作を行い、時刻t2にブレーキ踏み込み操作を行うと、SEC圧が通常圧からコースト2nd圧まで上昇する。つまり、時刻t1〜時刻t2の所要時間Δtを、アクセル/ブレーキ踏み換え最小時間とすると、SEC圧はこの最小時間Δtを考慮し、指示圧を所定傾きで増加させる。即ち、SEC圧は、時刻t1にて上昇を開始し、時刻t2にてコースト2nd圧となる所定傾きで増加させる。
そして、時刻t3にて2→1ダウンシフト要求に基づいて、2→1ダウンシフトが開始されると、時刻t4にて停車するが、変速終了時刻t5までは、バリエータ変速比を変えない限りコースト2nd圧が維持される。時刻t5からはSEC圧に対して減少率リミッタが印加されることなく、コースト2nd圧がコースト1st圧に向かって所定の勾配にて上昇し、時刻t6にてコースト1st圧とされる。
従って、アクセル足放しアップシフト減速時には、図8に示すように、コースト時にコースト1st圧による増大量Jを維持する場合に比べ、矢印Lで示すハッチング領域が、SEC圧の削減分となり、この削減分により燃費が向上する。
【0059】
[コースト時プーリ圧制御の特徴作用]
実施例では、バリエータ20に直列配置された副変速機構30の変速比がハイ変速比側であるほど、アクセル開度APOがゼロである場合に設定されるベルト容量に対する増大量を小さくする制御を行う。
即ち、副変速機構30の変速比がハイ変速比側であるほど、ベルト容量に対する増大量を小さくするため、副変速機構30の変速比が最ロー変速比でない場合、不要にベルト容量を大きくすることがない。
この結果、コースト走行中、副変速機構30が最ロー変速比でない場合にベルト容量を低く抑えることにより燃費が向上される。
【0060】
実施例では、アクセル開度APOがゼロとなってから制動力が発生するまでに、ベルト容量の増大を完了する。
例えば、ベルト容量の増大を完了する前に制動力が発生すると、ベルト容量が不足している状態で駆動輪7からベルト23に制動トルクが入力されることになり、ベルト滑りが発生することがある。
これに対し、制動力の発生により駆動輪7からベルト23にトルクが入力されるまでに、ベルト容量に対して増大量の増大を完了させておくことで、アクセル解放とブレーキ踏み込みの運転者によるペダル踏み換え操作があったとき、ベルト滑りが防止される。
なお、増大量の増大開始が、アクセル開度APOがゼロとなってから制動力が発生するまでの期間内のいつ開始され、いつ増大完了するかは問わない。要するに、アクセル開度APOがゼロとなってから制動力が発生するまでの期間内であればよい。
【0061】
実施例では、ベルト容量の増大量増加を、所定勾配にてプライマリプーリ圧とセカンダリプーリ圧を増大することで行う。
例えば、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22への油圧をステップ的に増大させることでベルト容量を増大させると、両プーリ圧の差圧が一時的に低減する。場合によっては、差圧がゼロとなる。これにより、ベルト容量の増大途中に変速比が変動し、運転者に違和感を与える。
これに対し、ステップ的ではなく、所定勾配にて両プーリ圧を増大することで、変速比の変動が抑制され、運転者へ与える違和感が低減される。
【0062】
実施例では、アクセル開度APOがゼロとなると同時にベルト容量の増大を開始すると共に、制動力が発生するまでに増大量の増大が完了するよう所定勾配を設定する。
例えば、ステップ的にベルト容量を増大させるように、ベルト容量の増大勾配を大きく与えると、変速比の変動が発生し、運転者に違和感を与える。
これに対し、ベルト容量の増大勾配を設定する時間を、アクセル開度APOがゼロとなってから制動力が発生するまでの期間内で最も長い時間にすることで、所定勾配を最大限に小さい勾配に設定することができる。
従って、ベルト容量を増大する所定勾配を最大限に小さい勾配に設定することで、変速比の変動が最大限に抑制され、運転者へ与える違和感も小さく抑えられる。
【0063】
ここで、“所定勾配”について説明する。右足にて踏み込んでいたアクセルペダルを解放し、右足にてブレーキペダルを踏み込むようなペダル踏み換え操作における、運転者によるペダル踏み換え操作の最短時間を設定する(予め実験等により得た情報に基づき設定する)。この最短時間にて増大量の増大が完了するように所定勾配を設定している。
例えば、踏み込んでいたアクセルペダルを解放し、しばらく両ペダルが解放された状態が続き、その後、ブレーキペダルを踏み込まれるようなシーンにおけるペダル踏み換え操作時間に基づいては所定時間を設定しない。
アクセルペダル解放後、いつブレーキペダルが踏み込まれるかは不明である。従って、ペダル踏み換え操作時間が最も短くなるシーンで、増大量の増大が完了するように所定勾配を設定しておくことで、所定勾配を最も小さく設定できると共に、どのようなペダル踏み換え操作であってもベルト滑りを防止することができる。
【0064】
次に、効果を説明する。
実施例のエンジン車用バリエータの制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0065】
(1) エンジン1と駆動輪7との間に配置され、供給油圧を制御することにより、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22のベルト容量が制御される無段変速機構(バリエータ20)と、
無段変速機構(バリエータ20)に直列配置され、且つ、少なくとも前進2速段以上の変速段を有する有段変速機構(副変速機構30)と、
少なくともアクセル開度APOがゼロとなってから、ブレーキペダル踏み込みによる制動力が発生するまでの間に、ベルト容量を、アクセル開度APOがゼロである場合に設定されるベルト容量より増大させる制御手段(変速機コントローラ12)と、
を備える車両用無段変速機構(エンジン車用バリエータ)の制御装置であって、
制御手段(変速機コントローラ12)は、有段変速機構(副変速機構30)の変速比がハイ変速比側であるほど、アクセル開度APOがゼロである場合に設定されるベルト容量に対する増大量を小さくする。
このため、コースト走行中、有段変速機構(副変速機構30)が最ロー変速比でない場合にベルト容量を低く抑えることにより燃費を向上させることができる。
ここで、“少なくともアクセル開度APOがゼロとなってから、ブレーキペダル踏み込みによる制動力が発生するまでの間に、”とは、この間の一部でベルト容量を増大させる形態と、この間の全部でベルト容量を増大させる形態と、の両方を含む。
なお、“増大量”は、有段変速機構(副変速機構30)の変速比によって得られるベルト滑りが発生しないために必要なベルト容量の最小値に設定される。予め実験等により得られたベルト容量となるようプーリ油圧を制御する。
【0066】
(2) 制御手段(変速機コントローラ12)は、アクセル開度APOがゼロとなってから制動力が発生するまでに、ベルト容量の増大を完了する。
このため、(1)の効果に加え、運転者によるペダル踏み換え操作があったとき、ベルト滑りを防止することができる。
【0067】
(3) 制御手段(変速機コントローラ12)は、ベルト容量の増大量増加を、所定勾配にてプライマリプーリ圧(PRI圧)とセカンダリプーリ圧(SEC圧)を増大することで行う。
このため、(2)の効果に加え、ステップ的ではなく、所定勾配にて両プーリ圧(PRI圧、SEC圧)を増大することで、変速比の変動を抑制し、運転者へ与える違和感を低減することができる。
【0068】
(4) 制御手段(変速機コントローラ12)は、アクセル開度APOがゼロとなると同時にベルト容量の増大を開始すると共に、制動力が発生するまでに増大量の増大が完了するよう所定勾配を設定する。
このため、(3)の効果に加え、ベルト容量を増大する所定勾配を最大限に小さい勾配に設定することで、変速比の変動を最大限に抑制し、運転者へ与える違和感を小さく抑えることができる。
【0069】
以上、本発明の車両用無段変速機構の制御装置を実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0070】
実施例では、制御手段として、路面摩擦係数とは無関係に、副変速機構30の変速比がハイ変速比側であるほど、アクセル開度APOがゼロである場合に設定されるベルト容量に対する増大量を小さくする例を示した。その理由は、ブレーキペダル踏み込みによるベルトへの入力トルクは通常路面に比べて低μ路のほうが大きくなる。低μ路では、運転車により制動操作されると通常路面に比べて駆動輪の回転低下速度が速い。場合によっては低μ路では駆動輪がロックする。即ち、低μ路は通常路面に比べて、制動操作時に駆動輪から入力されるトルクが大きくなる。このような場合はベルト容量が不足して、ベルトが滑るおそれがある。従って、本制御を低μ路である場合のみ実施することが考えられる。しかしながら、加速走行中に前方の信号が赤となるなど、アクセルペダルが解放されてからすぐにブレーキペダルを踏み込む場合、アクセルペダルが解放されたことに基づき現在の路面が低μ路であるかを検知し、低μ路であると検知されるとベルト容量を増大していては、ブレーキ踏み込みによる制動力発生までにベルト容量の増大が間に合わず、ベルト滑りが発生するおそれがある。そのため、本制御は路面の状況に関係なく実行するようにした。
【0071】
しかし、アクセルペダルが解放される前に路面が低μ路であるか否かを検知している場合であっては、本制御を、低μ路でのみ実施しても良い。その結果、このように制動操作により駆動輪から入力されるトルクが大きい低μ路のみ、本制御を実施することで、ベルト滑りを防止することができると共に、通常路面では不要にベルト容量を大きくすることがなく、フリクション増大による燃費の悪化を低減することができる。路面の検知方法として、例えば、外気温センサから検知された外気温が所定温度以下である場合や車載カメラによる路面状態の検知などにより、低μ路であるか否かを検知する。
【0072】
実施例では、無段変速機構に直列に配置される有段変速機構として、バリエータ20の下流位置に配置される2速の変速段を有する副変速機構30の例を示した。しかし、有段変速機構としては、2速以上の変速段を有する変速機構であっても良いし、有段変速機構は無段変速機構の上流側であっても下流側であっても良い。
【0073】
実施例では、本発明の車両用無段変速機構の制御装置を、副変速機付き無段変速機を搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明の制御装置は、走行用駆動源として、モータジェネレータを備える電気自動車、走行用駆動源としてエンジンとモータジェネレータとの組み合わせたハイブリッド車に対しても適用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8