【実施例1】
【0014】
実施例1は、ドプラモード撮像時に、ドプラの送受信ビームとは異なる方向に、1本以上のドプラ補助ビームを送受信し、受信したデータをもとに、構造体が存在する部位を検出したうえで、構造体が存在する部位における、2方向のビームが交差する位置での構造体の運動速度ベクトルを、2方向のドプラデータから得られた情報を用いて算出し、表示する超音波診断装置の実施例である。すなわち、本実施例は、超音波診断装置であって、被検体に対し超音波を送受信する探触子を用い、ドプラモード撮像時に送受信されるドプラビームとは異なる方向に1本以上のドプラ補助ビームを送受信することが可能な送受信部と、送受信部が得た受信信号に基づき、被検体内で構造体が存在する部位を検出し、構造体が存在する部位における、ドプラビームとドプラ補助ビームが交差する位置の構造体の運動速度ベクトルを算出する演算部とを備える超音波診断装置、及び超音波撮像方法の実施例である。
【0015】
まず、
図3の超音波診断像の模式図を用いて、本実施例の超音波診断装置を用いた撮像方法について概要を説明する。
図3では超音波を送受信する探触子としてリニアプローブを用いてプローブと並行する血管を撮像したときの超音波診断像を一例として用いるが、本実施例はこのような用途に限られたものではなく、超音波を送受信する探触子として、セクタ、コンベックスなどほかの形状のプローブを用いて、撮像、及び、超音波が撮像しうるあらゆる血管、心臓及び消化器などの臓器一般を対象とする。
【0016】
リニアプローブを用いてプローブと並行する血管を撮像する場合、ドプラビーム31は任意の角度でステアリングを行う。この時、ドプラのデータで得られるのはプローブからの超音波送受ビームに対して平行方向の動きのみである。次に、別の角度からドプラ補助ビームを照射する。一例として1本のドプラ補助ビーム32が図示されているが、ドプラ補助ビーム32はドプラビームと重なる。このドプラ補助ビームは、少なくとも1本以上の超音波送受ビームを用いるが、好適には1〜3本の超音波送受ビームを用いる。
【0017】
図中省略されているが、ドプラビーム31はドプラ補助ビーム32と同様の走査線の集合体であり、これら多数のドプラビーム31がドプラ補助ビーム32と交差する。交差した点のうち、血管壁33に相当する部分を、壁の場所を検出することで確定し、交差した交点35、36(図中、黒い四角で現す)において、2方向のドプラデータから得られた情報を用いて当該部分の運動速度ベクトル(v
x、v
y)を算出する。同図において、34は血管内腔を示している。
【0018】
図1に本実施例の超音波診断装置の一構成例のブロック図を示す。装置は超音波診断装置本体1、入力部24、被検体2に対して超音波を送受信するプローブ3、表示部23より構成される。
【0019】
被検体2の体表面に設置させた超音波を送受信するプローブ3に対して、超音波信号を生成する送信回路4から送信パルス用電気信号が、図時を省略したデジタルアナログ(D/A)変換器を経てプローブ3に送られる。プローブ3に入力された電気信号は内部に設置されたセラミック素子にて、電気信号から音響信号に変換され被検体2に送信される。送信は複数のセラミック素子で行い、検査対象物内の所定の深度で収束するように各素子には所定の時間遅延がかけられる。
【0020】
検査対象の内部を伝搬する過程で反射した音響信号は再びプローブ3にて受信され、送信時とは逆に電気信号に変換され、図示を省略したアナログデジタル(A/D)変換器を経て、受信した超音波受信信号からRFデータを生成する受信回路5に受信データとして送られる。受信回路5では複数の素子で受信した信号に対して、送信時に掛けた時間遅延を考慮した加算処理が行われ、減衰補正等の処理がなされたのち、RFデータとして直交検波部8に送られる。
【0021】
送受信の切り替えは送受シーケンス制御部6によって制御される。また、送受シーケンス制御部6は断層像ビーム、ドプラモードなどの切り替えを行う。すなわち、送受シーケンス制御部6は、ドプラビーム及びドプラ補助ビームの送受信の切り替え制御を行うドプラ・ドプラ補助ビーム送受シーケンス制御部7を備えている。このドプラ・ドプラ補助ビーム送受シーケンス制御部7では、ドプラ・ドプラ補助ビームの切り替え、及び順序の制御、ドプラの照射角度であるステア角度の設定を行う。ドプラビームのステア角度、照射対象領域は、入力部24を通じてユーザが任意に設定することができる。ドプラ補助ビームのステア角度および照射位置についても同様に、ユーザが任意に設定することができる。あるいは、予め設定・保存したドプラビームのステア角度及び位置に基づいて、自動的にドプラビームのステア角度、照射位置を設定する機構を有する。
【0022】
また、送受シーケンス制御部6内のドプラ・ドプラ補助ビーム送受シーケンス制御部7では、ドプラ補助ビームの本数の切り替えを行う機構を有する。さらに、送受シーケンス制御部3にある血流・組織送受シーケンス制御部27では、ドプラビーム、ドプラ補助ビームの双方における、血流と構造体信号を同時取得するための適したシーケンスの切り替えを行う。適したシーケンスの詳細については、
図4−7を用いて後述する、
ドプラ・ドプラ補助ビーム送受シーケンス制御部7は、フィードバック機構26を有し、後段の演算結果を受けて補助ビームの位置を適切な位置に変更することを行う。フィードバック機構26は本実施例の実現において、必ずしも必要な構成ではない。なお、本明細書において、送信回路4、受信回路5、及び送受シーケンス制御部6を纏めて送受信部と呼ぶ。
【0023】
送受信部から直交検波部8に送られたRFデータは送信・受信パラメータ、もしくは入力部24より任意に設定された値に基づき、RFデータの直交検波を行い、複素Base Bandデータとし、装置本体1の演算処理部に送られる。すなわち、ドプラビームの複素Base Bandデータはドプラ演算部9へ、ドプラ補助ビームの複素Base Bandデータはドプラ補助ビーム演算部12へ、断層像の複素Base Bandデータは断層画像演算部15へと送られる。本明細書においては、直交検波部8の後段に示した、ドプラ演算部9、ドプラ補助ビーム演算部12、断層画像演算部15、メモリ部25、組織速度演算部16、更には血流ベクトル算出部21、表示画像生成部22を総称して演算部と呼ぶこととする。
【0024】
この超音波診断装置本体1内の演算部の構成において、メモリ部25より前段の演算部の処理、即ち、ドプラ演算部9、ドプラ補助ビーム演算部12、断像画像演算部15は、専用のハードウェア処理、或いは装置本体1内に設置された、図示を省略した中央処理部(CPU)とメモリ部からなるコンピュータ構成を使ったソフトウェア処理の何れでも実現できる。メモリ部25より後段の演算部の処理、即ち、組織速度演算部16、血流ベクトル演算部21、表示画像生成部22の処理は、好適には、メモリ部25よりデータを取出し、本体内のCPUのプログラム処理で実現される。
【0025】
さて、ドプラ演算部9は血流速度演算部10と組織速度演算部11を有し、ドプラビームより計算された複素Base Bandデータより、従前の方式によりビームと平行方向のドプラ速度、パワ、分散を計算し、メモリ部25に送信する。
【0026】
血流速度演算部10では、ドプラビームから血流の動きを計算する。図示されていないフィルタ処理部により、血流以外の動きの成分を取り除くフィルタ処理がなされたのち、図示されていない複素相関器によって複素自己相関処理が行われる。フィルタは主に構造体由来の音響成分を取り除くことを目的としており、信号強度、および周波数などにより規定される。複素自己相関処理では、ドプラシフトによる位相の解析を行う。そのデータを用いて、平均ドプラ速度演算、分散演算及びパワ演算を行う。なお、血流の検出では、血球の動きを検出するために、複数回同じ場所にドプラビームの送受信(複数回パケット送信)を行い加算処理を行うことが一般的であり、そのための加算回路が血流速度演算部10に含まれる。
【0027】
組織速度演算部11においては、ドプラビームより組織の動きを計算する。概略は血流速度演算部10と同等の機構を有するが、フィルタ処理は組織の動きを残し血流の成分を取り除くように改良してある。血流速度演算よりは少ないが二回以上の送信データをもとに、血流速度演算部10同様に複素自己相関処理が行われる。
【0028】
ドプラ演算部9では組織速度演算部11で演算された組織の平均ドプラ速度、パワ、分散の情報をもとに、血流速度演算部10の計算結果に対してさらにフィルタ処理を加えることができる。
【0029】
ドプラ補助ビーム演算部14は、ドプラ演算部9と同様、血流速度演算部13と組織速度演算部14を有し、ドプラビームより計算された複素Base Bandデータより、従前の方式によりビームと平行方向の平均ドプラ速度、パワ、分散を計算し、メモリ部25に送信する。ドプラ補助ビーム演算部14は、血流速度演算部13と組織速度演算部14の概略は、上述ドプラ演算部9、血流速度演算部10と組織速度演算部11と同等である。
【0030】
断層画像演算部15では、断層像ビームより計算された複素Base Bandデータより、信号の振幅値を計算し、振幅情報をもとに、ゲイン制御、対数圧縮など普及している超音波診断装置で一般的に用いられているポストプロセス処理が実施され、検査対象の内部の形態情報を示す断層像が生成され、メモリ部25に送られる。
【0031】
メモリ部25に蓄積されたドプラデータ、ドプラ補助ビームデータ、断層画像データは最終的に表示部23に表示される画像データのうち、超音波の送受信方向に沿った特定の1ラインの要素データとなる。検査対象に対する超音波の送受信を、プローブ2を構成するセラミック素子の配列方向に順次切り替えて実施することに依り、画像データの構成要素となるすべての受信データとして取得される。
【0032】
組織速度演算部16は、演算部指定機構17、組織交点ベクトル算出部18、組織運動検出部19、組織ベクトル計算部20から成り、メモリ部25に蓄積されたドプラビーム、ドプラ補助ビーム、場合によっては断層画像情報の1フレーム分のデータを用いて、組織速度ベクトルの演算を行い、血流ベクトル演算部21もしくは表示画像生成部22へと送る。
【0033】
まず、
図2の機能説明図を利用して、本実施例の超音波診断装置の構成における組織速度演算部16の機能について説明する。まず、メモリ部25から与えられたデータより血管組織など構造体の境界検出を行う(f1)。構造体と血流の境界線を検出した後、まず、境界線上におけるドプラビームとドプラ補助ビームの交点位置を検出し、計算位置を割り当てる(f2)。f2で割り当てられた位置での、二つの異なる角度から照射したドプラビームから得られた組織ドプラ速度を用いて、組織交点での2次元運動速度を計算する(f3)。f2、f3と並行して、ドプラビームもしくは断層画像情報からf1で検出された構造体の境界線上での、ビームと平行方向の動きを検出する(f4)。これらをもとに、最終的に構造体境界全体の2次元ベクトルを算出する(f5)。
【0034】
なお、
図2に記載されたf1とf2は
図1中の演算部指定機構17によって、f3は
図1中の組織交点ベクトル算出部18によって、f4は
図1中の組織運動検出部19によって、f5は
図1中の組織ベクトル計算部20によって行われる。これら機能についての詳しい手法については、
図8−13を用いて後述する。
【0035】
血流ベクトル算出部21は、組織速度演算部16より送られた組織速度ベクトルなどの組織運動ベクトル情報、及びメモリ部25より送られたドプラビームおよびドプラ補助ビーム演算部の情報を用いて、従前の方式を用いて血流ベクトルの算出を行う機構である。本実施例の実現において、血流ベクトル算出部21は必ずしも必要な構成ではない。
【0036】
表示画像生成部22は、これまでに生成された組織ベクトル情報を、超音波断層情報、ドプラ速度情報、血流ベクトル情報のうちいずれかもしくは全てに重畳して表示をするよう画像データを生成する。図示していないが、スキャンコンバータを備え、表示するデータのピクセル合成を行い、検査対象全体を映す一枚の2次元画像に再構成され、表示部23の画面上に表示される。すなわち、表示部23は、得られた構造体の運動速度ベクトルを、ドプラビームによって得られた血流情報、断層像データによって得られる断層像情報と重畳して表示することができる。
【0037】
図1に示した本実施例の超音波診断装置の構成において、メモリ部25より後段の処理、即ち、組織速度演算部16、血流ベクトル演算部21、表示画像生成部22の処理は、装置本体1内のコンピュータ構成に代え、メモリ部25よりデータを取出し、別途、CPUとメモリ部を備える通常のコンピュータ構成を用いてオフラインのプログラム処理でも実現可能である。
【0038】
次に、
図4−7を用いて、血流由来のドプラ信号と組織由来ドプラ信号を同時取得するための適したシーケンスの詳細について説明する。
【0039】
まず、超音波におけるカラードプラ撮像の原理について述べる。カラードプラ撮像は、超音波パルスを対象物に照射したとき、対象物の動きによって、プローブから対象物までの距離が変わるので、受波パルス信号が時間軸上でずれる現象を利用している。時間軸上のある一点で考えると、この移動量は位相の回転でとらえられる。この現象を利用し、複数回送受信ドプラ信号間の位相回転量の差から位相の解析を行い、対象物の動きの速度を推定し、画像化するのがカラードプラ撮像である。
【0040】
ここで、動き推定に信号の位相角を用いるため、求められる最大の流速はドプラ信号の繰り返し波数の半分であり、それ以上の速度ではベクトル位相が一周以上回転してしまう(折り返し現象)。そのため、測定したい対象物の速度にパルスの繰り返す周波数を合わせる必要性がある。これは、血流と組織では対象とする速度が大きく違うために問題である。例えば成人頸動脈のドプラ撮像では、血流に最適な速度レンジはおおむね30〜50cm/secなのに対し、組織に最適な速度レンジは2〜5cm/secである。
【0041】
次に、血流由来のドプラ信号と組織由来のドプラ信号の強度の違いについて述べる。血流は即ち血球の動きであるが、血球からの信号のS/Nが低いため、通常血球の動きを捉えるために、パケット送受信と呼ばれる、同一部位に対して信号を複数回セットで送受信を行う。複数パケット分の情報を取得し終えると、隣の走査線に移り、同じ操作を行い、一画面分の情報を取得、断層像を表示する。通常の超音波断層像撮像に比べ、同一部位に複数回送受波を行うため、複数パケットの送受波回数の分だけフレームレートが低下する。さらに、S/Nを上げるために、空間分解能の低下につながるが、長い波長の超音波パルスが用いられることが通常である。対して、組織は繊維組織、筋肉組織など構造を有し信号のS/Nが高いため、多くのパケットを必要とせず、波長も短い超音波パルスが用いられる。
【0042】
これらを鑑み、血流由来のドプラ信号と組織由来ドプラ信号を同時取得するための適したシーケンスの詳細について説明する。
図4にシーケンスの一例の模式図を表示する。図中の一つの4*8のマス各々は一つの送信パケットを表し、横方向に走査方向のライン番号(Line No.)を表し、4*8のマス各々の内に送信番号を表してある。同図に見るように、血流の取得に必要なパケットが8回だとし、すべてのラインに8回超音波を照射する。32個のマスは、血流にのみ使用するパケット41と、組織・血流両方に使用するパケット42に分けられる。このうち、血流の速度を計算するためには、すべてのパケットを、組織信号では同一ライン中の最初と最後のパケット42のみを使用することで、繰り返し周波数をパケット数分変えることが可能である。即ち、検出最大速度をv
max, パケット数をNとした場合、式1のように表される。
【0043】
【数1】
【0044】
図4の例の場合、組織の速度レンジは、血流の速度レンジの1/7となる。
【0045】
この時、撮像に要するフレームレート(FR
CFM)は通常血流のみを撮像する場合と変更はなく、断層像(FR
B)と比較し、式2のように表される。
【0046】
【数2】
【0047】
図4の方式であると、撮像に際し、パルスの長い、即ち狭帯域の、血流に最適な条件を用いるために、通常の短い、即ち広帯域の超音波パルスを用いて撮像する場合と比較して組織の空間分解能が劣化する。そこで、
図5の方式では、ライン毎、狭帯域の血流用パケット51の前後に、広帯域の組織用パケット52を送信する手法を示す。本手法でも、組織用パケット52の繰り返し周波数が血流より低くなるように間引いて信号を使用するため、最大検出速度v
maxは、式3のように表される。
【0048】
【数3】
【0049】
図5の例の場合、組織の速度レンジは血流の速度レンジの1/9となる。
【0050】
この時、撮像に要するフレームレート(FR
CFM)は式4のように表される。
【0051】
【数4】
【0052】
その結果、通常血流のみを撮像する場合より低くなり、
図5の場合、血流のみの場合に比較し19%低下する。
【0053】
以上説明したように、本実施例の超音波診断装置の送受シーケンス制御部6は、組織などの構造体の動きを算出するための信号と、血流の動きを算出するための信号を振り分け、組織などの構造体の動きを算出するための信号の取得用の送受信号は、血流の動きを算出するための信号の取得用の送受信号を間引きして使用するよう制御する。また、送受シーケンス制御部6は、広帯域の周波数特性を持つ組織などの構造体の動き取得用の信号の送受の間に、狭帯域の周波数特性を持つ血流の動き取得用の信号の送受を行うよう制御する。
【0054】
図4の手法を改良して組織の空間分解能を向上するもう一つの例を挙げる。パケットの送信手法及び使用手法は
図4の方式と同等であるが、
図6に示すような送信波形の合成パルスを使用する手法である。すなわち、1回の送信トリガ61に対し、狭帯域の血流用超音波パルスと広帯域の組織用超音波パルスの合成パルス62を送受する。望ましくは、プローブの許容比帯域幅内で、広帯域のパルスはより高周波で、狭帯域のパルスはより低周波のものを照射する。
【0055】
この時、受信信号の周波数帯域は
図7の模式図に示すように、低周波側に狭帯域の、高周波側に広帯域のバンド71、72が現れる。周波数フィルタ処理等などにより、信号の分離を行い、広帯域のバンド72の情報は組織信号(図中f
tissue)として、狭帯域のバンド71の情報は血流信号(図中f
blood)として用いることで、分解能とS/Nの最適化を図ることが可能である。すなわち、送受シーケンス制御部6は、広帯域の周波数特性と狭帯域の周波数特性とを併せ持つパルスの送受を行い、受信信号から周波数特性によって信号を分別する構成とすることができる。
【0056】
これにより、本実施例の超音波診断装置の組織速度演算部16における詳細な処理手法について述べる。組織速度演算部16は、ドプラビーム、或いは断層像データを利用し、組織などの構造体全体のドプラビーム、或いは走査ビームに平行方向の一次元速度情報を演算し、得られた一次元速度情報と、交差する位置の構造体の運動速度ベクトルとを用いて、構造体全体の運動速度ベクトルを演算する構成を備える。そのため、まず演算部指定機構17では組織などの構造体の境界を検出する。この構造体境界の検出方法は、手動で行う手法、例えば、装置のオペレータが入力部24を介して表示部23に表示された画像上で関心領域として指定する場合の指定情報を利用する手法があげられる。
【0057】
自動で境界の検出を行う手法として、断層像データを用いる手法、例えば、輝度値情報をもとに閾値を設定し認識を行う手法があげられる。もう一例としては自動的に血流と組織の境界部をスネーク(Snake)などの境界認識アルゴリズム用いて検出を行う。このときモルフォロジフィルタなど対象とする組織形状を抽出するためのフィルタを用いてもよい。また、輝度値に応じて2値化、3値化するなどの処理を経てから境界検出を行ってもよい。
【0058】
自動で境界の検出を行うもう一つの手法として、ドプラビームの輝度値情報・周波数帯域情報、すなわち、ドプラビームから演算した血流ドプラ速度および組織ドプラ速度情報を用いる手法があげられる。一例としては、血流ドプラ速度が存在する場所と組織ドプラ速度が存在する場所の中間地点を境界と認識するなどがあげられる。もしくは、組織ドプラ速度のパワに閾値を設けて構造体と定義してもよい。
【0059】
このように、演算部指定機構17では、まず、断層像データの輝度値情報、もしくはドプラビームの輝度値情報・周波数帯域情報に基づき、組織などの構造体が存在する部位を検出し、その後、ドプラビームとドプラ補助ビームが交差する位置を特定する。
【0060】
すなわち、構造体の境界を定義した後、境界線上におけるドプラビームとドプラ補助ビームの交点位置を検出し、計算位置を割り当てる。
図8の模式図の例では、ドプラ補助ビーム82と構造体である血管の前壁83、後壁84の境界87との交点85、86に当たるのは、それぞれドプラ81の19番目のラインと8番目のラインである。使用するラインと交差するビーム方向の距離を定義したら、その場所の組織ドプラ速度情報を用いて組織交点ベクトル算出部18にて交点85、86(図中黒い四角で現す)の2次元速度ベクトルの演算を行う。
【0061】
図9に、
図8中の黒い四角で現す交点部分の拡大図を示す。同図に示すように、組織交点ベクトル算出部18は、ドプラ81の19番目のラインの方向のドプラ速度ベクトル91と、ドプラ補助ビーム82の方向のドプラ補助ビーム速度ベクトル92の合成ベクトルにより、交点85における2次元速度ベクトル93を得ることができる。
【0062】
本実施例の超音波診断装置にあっては、以上説明した交点におけるベクトル算出と並行して、もしくは次のステップとして、
図1の組織運動検出部19は、ドプラビームもしくは断層画像情報から境界線上に存在する組織など構造体の、ドプラビーム81と平行方向の動きを検出する。
【0063】
図10にドプラビーム81を用いた場合の構造体の運動検出法の模式図を示す。既にドプラ演算部9の組織速度演算部11において、組織ドプラ速度の情報を演算しているので、その情報のうち血管の前壁83、後壁84などの構造体の境界87に相当する部位を検出するのみで、一次元速度情報である、ドプラビームと平行方向の動きベクトル101、102の検出が可能である。
【0064】
図11に、ドプラビームに代え、断層像を用いた組織運動検出法の模式図を示す。ここでの前壁113、後壁114などの構造体の境界112の一次元速度情報である動きの検出法はいくつかあるが、最も単純には、組織運動検出部19は、断層画像演算部15で得られた断層像の一走査線(走査ビーム)111ごとの輝度情報を用い、血管の前壁113、後壁114の境界112を検出し、自己相関手法などの手法によってフレームごとの境界112の動きベクトル115、116を検出することにより、一元速度情報としての動きを演算する方法があげられる。
【0065】
次に、
図1の組織ベクトル計算部20において、構造体の境界面に存在するドプラビームとドプラ補助ビームの交点での2次元ベクトル、そして構造体の境界面のビームに平行方向の速度情報を用いて、最終的に構造体境界全体の2次元速度ベクトルを算出するための演算を、以下のいずれかの手法で行う。
【0066】
まず、構造体の境界面の2次元速度ベクトルを求める第一の手法として、補正係数を用いる例について述べる。第一のステップとして、ビーム方向の動きに対する、方位方向の動き比率(補正係数)を、ビーム交点で演算して得られたベクトルをもとに計算する。すなわち、構造体全体の一次元速度情報に対して、ドプラビーム、或いは走査ビームに平行方向に対する構造体の垂直方向の動き比率を、交差する位置の構造体の運動速度ベクトルから演算する。
【0067】
図10の例ではドプラビーム81と平行方向の速度に対する、その垂直方向の速度の比を、
図11の例では断層像と走査線(走査ビーム)111に並行な方向の速度に対する垂直方向の速度の比を補正係数として計算する。第二のステップとして、ある1フレーム内の構造体の動きは、同等であると仮定し、上記の補正係数を用いて、すべての点のビーム81、111に垂直方向の速度を計算し、両方向の速度から構造体の境界の2次元速度ベクトルを算出する。すなわち、得られた動き比率を用いて、構造体全体の一次元速度情報から構造体全体の運動速度ベクトルを演算する。
【0068】
なお、本手法で与えられる動き比率(補正係数)は、特に撮像面に対して並行する血管や、腸管などの円管状の組織を対象とした場合、円管の短軸方向の動きに対する長軸方向の動きの割合の指標となる。本実施例の超音波診断装置では、表示画像生成部22の画像生成により、動き比率などの指標を数値やインデックスとして、表示部23等を用いて、ユーザに別途提示することが可能となる。
【0069】
図12に、本実施例における構造体の境界面の2次元速度ベクトルを求める手法のもう一つの例の模式図を示す。組織ベクトル計算部20は、交差する位置での構造体の運動速度ベクトルを始点として、構造体全体の一次元速度情報を用いて、逐次的に構造体全体の運動速度ベクトルを演算する。すなわち、本手法は、組織交点ベクトル算出部18で求められた2次元速度ベクトルを始点とし、質量保存則などを用いて逐次的に2次元速度ベクトルを算出する。図中では
図8の前壁83、後壁84の境界87上の交点85、86に対応するAとBが計算開始点88となり、それぞれ構造部境界面に沿って右と左に逐次的に計算を行っていく。計算開始点88の隣の点での、ドプラビームと平行方向の速度の変化量は既知である。以下、2次元上での質量保存則が成り立つとした場合、ドプラビームと垂直方向の速度の変化量は、ドプラビームと平行方向の速度の変化量と同じであるため、隣の点でのドプラビームと平行方向の速度の変化量が求まり、開始点のドプラビームと垂直方向の速度に変化量を積算することでその位置のドプラビームと垂直方向の速度が求まる。このように逐次的に積算しながら垂直方向速度を求めていくことで、構造体全体の2次元速度ベクトルを求めることができる。
【0070】
図13に本実施例の組織ベクトル計算部20における補間による組織ベクトル計算手法の一例を示す。組織ベクトル計算部20は、交差する位置での構造体の運動速度ベクトルの補間による内挿および外挿で、構造体全体の運動速度ベクトルを演算する。本手法は、特に、1本以上のドプラ補助ビームを用いた場合に有用な方式である。
図13の例では3本のドプラ補助ビームに対して、前壁83、後壁84でそれぞれ3か所の黒い四角で現す交点85、86おいて、2次元速度ベクトルが、組織交点ベクトル算出部18で求まっている。そして、これら3か所の交点85、86を基準とし、フィッティング関数などを用いたインターポレーション(補間)でそれぞれ壁速度を推定し、内挿および外挿して演算を行う。内挿、外挿で得られる箇所を黒丸131で図示した。このインターポレーションでは、前述の補正係数、即ちドプラビームと平行方向の速度に対するドプラビームと垂直方向の速度の比率を用いる手法が一例として挙げられる。本手法では、まずフィッティング関数などを用いて各計測地点における補正係数を求める。そのうえで、ビーム垂直方向の成分は、インターポレーション後に計算された各計測地点における補正係数を用いて各々演算を行う。
【0071】
もう一つの補間手法例を述べる。内挿する場合、2つの交差位置に囲まれた場合の計測地点(図中の黒丸131)において、各補助ビームとドプラビームの交差位置の距離を計算し、距離に応じて重みづけを行う。重みづけに応じて、交差位置で計算された補正係数の反映比率を変えながら、各計測地点のドプラビームと平行方向の速度から、垂直方向の速度を計算する。外挿する場合は、最近傍の交差位置の補正係数を用いて、垂直方向の速度を計算する。
【0072】
以上詳述した本実施例によれば、ドプラビームを二回照射しなくとも、組織など構造体の2次元速度ベクトルを演算することが可能である。
図14に、ドプラビームを二回照射する方式、および本実施例によるドプラビーム・ドプラ補助ビームを併用する手法、通常のドプラ撮像(ドプラビーム一回照射式)、及び超音波断層像によるフレーム1枚の取得にかかる時間の比較を示す。同図において、縦軸はフレーム1枚取得にかかる時間(ms)を示す。なおこの図はパルス送信の繰り返し周波数8kHz、断層像は1フレームにつき128走査、ドプラはそれぞれ1フレームにつき64走査、8パケット送信、補助ビームは3本照射した例を仮定して計算した。
【0073】
図14に明らかなようにドプラ2回送信の場合はドプラ1回送信に比較し80%多くの時間がかかる(即ちフレームレートが45%低下)。それに対して、本実施例のドプラビーム・ドプラ補助ビームを併用した場合、4%の時間増加(即ちフレームレートが4%低下)であり、本方式のフレームレートは通常のドプラ撮像である一方向のドプラモードと同等といえる。
【0074】
また、本実施例の構成によれば、
図3、10、12などに示されるように、視野角についても、計算可能な対象領域は、従来の一方向のドプラモードと同等である。更に、
図11に示した断層像を使用した演算手法によれば、視野角は断層像と同等であり、従来の一方向ドプラモードよりも向上する。
【0075】
図17に本実施例の超音波診断装置における表示手法の一例を示す。前述の手法により、超音波診断装置の表示画像生成部22は、得られた構造体の運動速度ベクトル(図中の矢印171)、前述ドプラデータによって得られた血流情報173、血流速度カラーバー174、断層像情報などと重畳して、同図のように表示する。さらに、表示画像生成部22は、前述に記載の、ビーム平行方向に対する構造物の垂直方向の動き比率を、すべり指標172などとして数値で表示(図中のXX)する。すべり指標172は、補助ビームとドプラビームの交点での速度を用い、以下の式で算出することができる。
すべり指標 = ビームと垂直方向の速度/ビームと平行方向の速度
なお、図示は省略するが、すべり指標172を新たなカラーマップとして、表示画像生成部22により、上述の断層像情報などに重畳して表示することも可能である。
【0076】
本実施例によれば、フレームレート、視野角を低下することなく、リアルタイム処理が可能であって、血管組織などの構造体の2次元速度ベクトルを血流情報と同時に精度高く算出して表示することが可能な超音波診断装置を提供することができる。