特許第6444531号(P6444531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6444531-滑り軸受け 図000002
  • 特許6444531-滑り軸受け 図000003
  • 特許6444531-滑り軸受け 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444531
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】滑り軸受け
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/10 20060101AFI20181217BHJP
   F16H 1/32 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   F16C17/10 Z
   F16H1/32 B
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-549905(P2017-549905)
(86)(22)【出願日】2015年11月10日
(86)【国際出願番号】JP2015081633
(87)【国際公開番号】WO2017081753
(87)【国際公開日】20170518
【審査請求日】2018年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 実開平6−22621(JP,U)
【文献】 特開平2−203011(JP,A)
【文献】 特開2002−31150(JP,A)
【文献】 米国特許第5820270(US,A)
【文献】 特開2009−257346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00− 17/26
F16C 33/00− 33/28
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、
前記外輪の内側に同心状態に配置した内輪と、
前記外輪の内周面の全周に亘って形成した外輪側V溝と、
前記内輪の外周面の全周に亘って形成した内輪側V溝と、
前記外輪側V溝および前記内輪側V溝によって規定される4つの軌道面を備えた円環形状の軌道と、
前記軌道に装着されている摺動体と、
を有しており、
前記摺動体の外周面は、前記軌道面のそれぞれに対して摺動可能な状態で接触しており、
前記摺動体は、エンドレスコイルばねである滑り軸受け。
【請求項2】
請求項1において、
前記外輪は、軸受け中心軸線の方向に分割可能な2つの分割外輪から構成されている滑り軸受け。
【請求項5】
請求項1において、
前記エンドレスコイルばねは、円周方向に複数に分割して得られる複数本の円弧形状をしたコイルばねから構成されている滑り軸受け。
【請求項6】
剛性内歯歯車と、
可撓性外歯歯車と、
前記可撓性外歯歯車を非円形に撓めて前記剛性内歯歯車に対して部分的にかみ合わせると共に、両歯車のかみ合い位置を円周方向に移動させる波動発生器と、
前記剛性内歯歯車および前記可撓性外歯歯車を相対回転自在の状態に支持している支持軸受けと、
を有しており、
前記支持軸受けは、請求項1に記載の滑り軸受けである波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーメント荷重を受けることのできる滑り軸受けに関する。
【背景技術】
【0002】
モーメント荷重が作用する部分に用いる軸受けとしては、例えば、波動歯車装置における入力軸あるいは出力軸を支持する支持軸受けがある。波動歯車装置において、一般的に、入力側には、組み合わせアンギュラ玉軸受けの使用が推奨され、出力側には、組み合わせアンギュラ玉軸受け、4点接触玉軸受け、クロスローラー軸受けなどの使用が推奨されている。特許文献1、2には、出力側にクロスローラー軸受けあるいは4点接触玉軸受けを用いた波動歯車装置が記載されている。
【0003】
玉、ローラを備えた転動タイプの軸受けは潤滑剤が不可欠であり、シール機構が必要である。また、潤滑剤の大きな粘性抵抗、シール機構のオイルシールリップ部の大きな摩擦抵抗等が原因となって、波動歯車装置の高速回転時の効率が低下する。
【0004】
このような弊害を解消するために、転動タイプの軸受けの代わりに、モーメント荷重を受けることのできる滑り軸受けを用いることが考えられる。これにより、高速回転時の効率が向上し、振動・騒音を低下でき、さらに、無潤滑化に対応できる。
【0005】
モーメント荷重を受けることのできる滑り軸受けとしては、特許文献3、4に記載されているフランジタイプの複合軸受けが知られている。この形式の滑り軸受けは、ラジアル方向およびスラスト方向に延びるL形状をした金属製等の滑り軸受片を備えている。
【0006】
しかしながら、モーメント荷重を受けることのできる滑り軸受けとして、十分な負荷容量を備えたコンパクトな構成のものは提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−031150号公報
【特許文献2】特開2005−308131号公報
【特許文献3】特開2013−19517号公報
【特許文献4】特開2013−96534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、モーメント荷重を受けることのできるコンパクトな構成の滑り軸受けを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の滑り軸受けは、
外輪と、
前記外輪の内側に同心状態に配置した内輪と、
前記外輪の内周面の全周に亘って形成した外輪側V溝と、
前記内輪の外周面の全周に亘って形成した内輪側V溝と、
前記外輪側V溝および前記内輪側V溝によって規定される4つの軌道面を備えた円環形状の軌道と、
前記軌道に装着されている摺動体と、
を有しており、
前記摺動体の外周面は、前記軌道面のそれぞれに対して摺動可能な状態で接触していることを特徴としている。
【0010】
ここで、組立の容易さを考慮して、前記外輪は、軸受け中心軸線の方向に分割可能な2つの分割外輪から構成されていることが望ましい。
【0011】
本発明において、前記摺動体として、エンドレスコイルばね、または、円形断面の環状体を用いることができる。また、前記摺動体として、矩形断面あるいはひし形断面の環状体を用いることができ、この場合には、前記摺動体の4つの面が前記軌道の4つの前記軌道面に対して面接触するように、摺動体の断面形状を設定すればよい。
【0012】
ここで、組立の容易さを考慮して、前記摺動体として、円環形状の部材を円周方向に複数に分割した場合に得られる複数本の円弧形状の部材を用いることができる。
【0013】
上記構成の滑り軸受けは、波動歯車装置において、剛性内歯歯車と可撓性外歯歯車を相対回転自在の状態で支持するための支持軸受けとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明を適用した滑り軸受けの一例を示す半断面図、部分拡大断面図、および摺動部材の二例を示す斜視図である。
図2】本発明を適用した滑り軸受けの別の例を示す半断面図および摺動部材を示す斜視図である。
図3図1の滑り軸受けが組み込まれた波動歯車装置の一例を示す縦断面図および端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明を適用した滑り軸受けの実施の形態を説明する。
【0016】
(実施の形態1)
図1(a)、(b)は実施の形態1に係る滑り軸受けを示す半断面図および部分拡大断面図であり、図1(c)、(d)は、その摺動体の二例を示す斜視図である。
【0017】
滑り軸受け1は、図1(a)、(b)に示すように、外輪2と、この内側に同心状態に配置した内輪3とを備えている。外輪2および内輪3の間には、円環形状の軌道4が形成されている。軌道4には、円環形状の摺動体5が装着されている。本例の軌道4はほぼ正方形断面をしており、摺動体5は円形輪郭をしている。摺動体5は、軌道4を規定している第1〜第4軌道面6〜9に内接し、これらの軌道面6〜9に沿って摺動可能である。
【0018】
外輪2の円形内周面には、その全周に亘って外輪側V溝11が形成されており、その一方の溝側面が第1軌道面6であり、他方の溝側面が第2軌道面7である。同様に、内輪3の円形外周面には、その全周に亘って内輪側V溝12が形成されており、その一方の溝側面が第3軌道8であり、他方の溝側面が第4軌道9である。
【0019】
本例の外輪2は、軸受け中心軸線1aの方向の中央において二分割された分割外輪13、14から構成されている。分割外輪13、14は実質的に左右対称な形状をしており、分割外輪13に第1軌道面6が形成され、分割外輪14に第2軌道面7が形成されている。分割外輪13、14は円周方向において所定の間隔で締結ボルト(図示せず)によって、相互に締結固定されて、外輪2が構成される。
【0020】
本例の摺動体5は、図1(c)に示すように、エンドレスコイルばねからなる。エンドレスコイルばねのコイル巻き径は、第1〜第4軌道面6〜9に対して4点接触する大きさに設定されており、その巻き密度、線径を適切に設定することにより、コイル直径方向に十分な剛性が備わっている。組立の容易さ等の観点からは、エンドレスコイルばねを、円周方向に複数に分割して得られる複数本の円弧形状をしたコイルばねから、摺動体5を構成してもよい。一般的には、同一円弧形状の3本以上のコイルばねを用いればよい。
【0021】
上記の滑り軸受け1の組立は次のようにすればよい。まず、摺動体5を、内輪3のV溝12の側に装着する。次に、分割型の外輪2を装着し、仮止めボルトで締め付け、規定の予圧状態となるようにする。
【0022】
ここで、図1(d)は、摺動体5の別の例を示す斜視図である。この図に示す摺動体25は、円形断面をした円環形状の剛体である。この場合には、組立の容易さ等の点から、円周方向に複数、例えば、3つ以上に分割して得られる円弧形状の摺動片を用いることが望ましい。例えば、図において破線で示すように等角度間隔で摺動体25を三分割する。これによって得られる3本の円弧形状の摺動片25a〜25cを用いる。
【0023】
このように、滑り軸受け1では、転動タイプのクロスローラベアリング形状と同様な形状の軌道を形成し、この軌道に摺動体を装着している。これにより、ラジアル荷重、スラスト荷重およびモーメント荷重を受けることのできるコンパクトな滑り軸受けを実現できる。
【0024】
(実施の形態2)
次に、図2(a)は実施の形態2に係る滑り軸受けを示す半断面図であり、図2(b)はその摺動体の斜視図である。
【0025】
滑り軸受け31の外輪32、内輪33は、上記の滑り軸受け1の外輪2、内輪3と同様である。外輪32は、分割型外輪であり、分割外輪43、44から構成されている。分割外輪43、44の円形内周面には第1軌道面36、第2軌道面37が形成されている。分割外輪43、44を締結固定すると、それらの内周面には、第1、第2軌道面36、37によってV溝41が形成される。内輪33の円形外周面には、第3軌道面38、第4軌道面39によって規定されるV溝42が形成されている。V溝41、42によって構成される円環形状の矩形断面の軌道34に、円環形状の摺動体35が摺動可能な状態で配置されている。
【0026】
本例の摺動体35は、図2(b)に示すように、矩形断面をした円環形状の剛体であり、その矩形断面の一方の対角線の方向が半径方向に一致し、他方の対角線の方向が軸受け中心軸線31aの方向に一致する。摺動体35の矩形断面の大きさは、軌道34の矩形断面とほぼ同一であり、摺動体35の4つの外周面46〜49が対応する軌道34の第1〜第4軌道面36〜39に面接触状態で当たる。摺動体35においても、組立の容易さ等の点から、円周方向に複数、例えば、3つ以上に分割して得られる円弧形状の摺動片を用いることが望ましい。例えば、図において破線で示すように等角度間隔で摺動体35を三分割する。これによって得られる3本の円弧形状の分割摺動片35a〜35cを用いる。
【0027】
(各部の材質)
ここで、外輪2、32、内輪3、33の材質は、鋼、ステンレススチール、プラスチックなど、各種の材質とすることができる。滑り軸受け1、31に必要とされる圧縮強度、ヤング率、線膨張係数等の機械的性質に基づき、適切な材質を選択すればよい。
【0028】
また、摺動体5、25、35の材質は、内外輪に対する耐摩耗性を考慮して選択することができる。また、必要に応じて、各種の表面改質を行うことも有効である。特に、図1(d)、図2(b)に示す摺動体25、35の材質は、高強度で耐摩耗性に優れるRBセラミックス(三和油脂株式会社製)を用いることができる。RBセラミックスは、圧縮強度が180〜300MPa、ヤング率が10〜15GPaであり、例えば、米国特許第5916499号明細書(日本特許第3530329号公報)に記載されている。
【0029】
(滑り軸受けを備えた波動歯車装置の例)
図3(a)は本発明を適用した滑り軸受けを備えたシルクハットタイプの波動歯車装置の一例を示す縦断面図であり、図3(b)はその端面図である。
【0030】
波動歯車装置51は、円環状の剛性内歯歯車52と、この内側に同軸に配置したシルクハット形状の可撓性外歯歯車53と、可撓性外歯歯車53の内側に同軸に嵌めたウエーブジェネレータ54とを備えている。また、剛性内歯歯車52に対して可撓性外歯歯車53を相対回転自在の状態で支持している支持軸受けとして、滑り軸受け55を備えている。滑り軸受け55は、例えば、図2に示す滑り軸受け35と同一構造である。
【0031】
可撓性外歯歯車53は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部56と、この円筒状胴部56の一方の端から半径方向の外方に広がっているダイヤフラム57と、円筒状胴部56における他方の開口端の側の外周面部分に形成した外歯58とを備えている。剛性内歯歯車52は、滑り軸受け55を介して、可撓性外歯歯車53を相対回転自在の状態で支持している。本例では、剛性内歯歯車52の円形外周面に滑り軸受け55の内輪軌道面55aが形成されている。滑り軸受け55の外輪55bには、可撓性外歯歯車53が同軸に締結されている。内輪軌道面55a(内輪側V溝)と外輪55bに形成した外輪軌道面55c(外輪側V溝)との間に、摺動可能な状態で、円環形状の摺動体55dが装着されている。
【0032】
可撓性外歯歯車53の外歯58の形成部分は、ウエーブジェネレータ54によって、非円形状、一般的には楕円状に撓められて、その楕円形状の長軸両端の外歯58の部分が、剛性内歯歯車52の内歯59の部分にかみ合っている。ウエーブジェネレータ54は不図示のモーターによって回転駆動される。ウエーブジェネレータ54は、剛性のウエーブプラグ61と、このウエーブプラグ61の楕円状のウエーブプラグ外周面62に装着されて楕円状に撓められているウエーブベアリング63とを備えている。ウエーブプラグ61にはその中心部を中心軸線51aの方向に貫通する中空部64が形成されている。
【0033】
ウエーブジェネレータ54が回転すると、両歯車52、53の間のかみ合い位置が円周方向に移動する。両歯車52、53には歯数差があるので、滑り軸受け55に滑りが生じて、両歯車の間に相対回転が生じる。滑り軸受け55は、運転時において作用するラジアル荷重、スラスト荷重、モーメント荷重を受けることができる。
図1
図2
図3