(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444533
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】ロータ、回転電機及びロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 29/08 20060101AFI20181217BHJP
H02K 15/03 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
H02K29/08
H02K15/03 Z
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-549960(P2017-549960)
(86)(22)【出願日】2015年11月13日
(86)【国際出願番号】JP2015082026
(87)【国際公開番号】WO2017081822
(87)【国際公開日】20170518
【審査請求日】2018年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】特許業務法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴羽 純
(72)【発明者】
【氏名】並河 遼
(72)【発明者】
【氏名】山中 宏志
【審査官】
佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−295673(JP,A)
【文献】
特開平2−174543(JP,A)
【文献】
特許第4957874(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 29/08
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の挿入孔が形成された円筒状のロータコアと、
前記ロータコアと同軸上に配置された円環状のセンサマグネットと、
を備え、
前記センサマグネットは、
前記ロータコアの方向に突出する複数の突起部を有し、
前記突起部が前記挿入孔に挿入され、
前記ロータコアと、前記センサマグネットとが樹脂により固着され、
前記樹脂は、前記センサマグネットの全体を覆う、
ロータ。
【請求項2】
前記センサマグネットは、
前記突起部が設けられた面に形成された複数の切り欠きを有する、
請求項1に記載のロータ。
【請求項3】
前記センサマグネットは、
前記センサマグネットの縁部に形成され、前記ロータコアの方向を向くテーパ部を有する、
請求項1又は2に記載のロータ。
【請求項4】
前記テーパ部は、
前記センサマグネットの内周縁部に形成された、
請求項3に記載のロータ。
【請求項5】
前記テーパ部は、
前記センサマグネットの外周縁部に形成された、
請求項3に記載のロータ。
【請求項6】
前記ロータコアは、
外輪と、
前記外輪と同軸上に配置された内輪と、から形成される、
請求項1〜5のいずれか一項に記載のロータ。
【請求項7】
複数の挿入孔が形成された円筒状のロータコアと、
前記ロータコアと同軸上に配置された円環状のセンサマグネットと、
を備え、
前記センサマグネットは、
前記ロータコアの方向に突出する複数の突起部と、
前記突起部が設けられた面に形成された複数の切り欠きと、を有し、
前記突起部が前記挿入孔に挿入され、
前記ロータコアと、前記センサマグネットとが樹脂により固着された、
ロータ。
【請求項8】
複数の挿入孔が形成された円筒状のロータコアと、
前記ロータコアと同軸上に配置された円環状のセンサマグネットと、
を備え、
前記センサマグネットは、
前記ロータコアの方向に突出する複数の突起部と、
前記センサマグネットの縁部に形成され、前記ロータコアの方向を向くテーパ部と、を有し、
前記突起部が前記挿入孔に挿入され、
前記ロータコアと、前記センサマグネットとが樹脂により固着された、
ロータ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のロータを備えた、
回転電機。
【請求項10】
複数の挿入孔が形成された円筒上のロータコアと、表面から突出する複数の突起部が形成された円環状のセンサマグネットとを同軸上に配置する工程と、
前記突起部を前記挿入孔に挿入して位置決めする工程と、
位置決めされた前記ロータコアと、前記センサマグネットとを樹脂により一体成形し、前記センサマグネットの全体を前記樹脂により覆う工程と、を有する、
ロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機のロータ、回転電機及びロータの製造方法に関し、特にセンサマグネットを固定する構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転電機において、内部に磁石が埋め込まれた埋込磁石ロータを搭載し、高効率で高トルクを実現する回転電機が注目されている。以下の説明において、埋込磁石ロータは、英語表記のInterior Permanent Magnetの略称を用いて、IPMロータと称する。IPMロータにおいては、回転用のメインマグネットとは別に、ロータの回転位置検出用のセンサマグネットが装着されることがある。
【0003】
特許文献1には、センサマグネットを2つのボスで挟み、センサマグネットが取り付けられるロータのシャフトに固定する技術が開示されている。また、特許文献2には、弾性片が設けられ断面がD字状の装着部をセンサマグネットに取付け、そのセンサマグネットを、断面がD字状の装着部が設けられたロータのシャフトに取付ける技術が開示されている。センサマグネットは、センサマグネットの装着部に設けられた弾性片に生じた復元力により固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−115761号公報
【特許文献2】特開平11−289736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、センサマグネットがシャフトから抜け落ちないよう、センサマグネットを挟む2つのボスを機械的に締めなければならないため、センサマグネットを十分固定し、且つ、センサマグネットの破損を回避することが困難である。また、特許文献2の方法では、センサマグネット側の装着部と、シャフト側の装着部との少なくとも2つの部品を取り付ける必要があり、センサマグネットの装着に要する工数も、部品点数も増加することになる。
【0006】
更に、いずれの引用文献に記載された方法を採用した場合も、取付時にセンサマグネットと他の構成部品とが個別に配置されるため、精度よく位置決めし、取付することが困難である。取付時の位置決めの精度が悪く、センサマグネットとシャフトやロータとが位置ずれして隙間ができると、モータ駆動時にがたつきなどが発生し騒音や破損の原因となってしまう。
【0007】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、取付に必要な部品の点数を低減し、取付が容易で、且つ、センサマグネットとロータとの位置ずれを抑制できるロータ、回転電機及びロータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るロータは、複数の挿入孔が形成された円筒状のロータコアと、前記ロータコアと同軸上に配置された円環状のセンサマグネットと、を備え、前記センサマグネットは、前記ロータコアの方向に突出する複数の突起部を有し、前記突起部が前記挿入孔に挿入され、前記ロータコアと、前記センサマグネットとが樹脂により固着され
、前記樹脂は、前記センサマグネットの全体を覆う。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るロータによれば、ロータコアの挿入孔にセンサマグネットの突起部を挿入し、樹脂によりロータコアとセンサマグネットとを固着して一体化させる。これにより、ロータコアとセンサマグネットとを固定するために個別の部品を必要とせずに容易に固定できる上に、樹脂により固定されることで位置ずれを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図1のロータの内部構造を模式的に示す説明図である。
【
図3】
図1のロータコアを構成する外輪の上面図である。
【
図4】
図1のロータコアを構成する内輪の上面図である。
【
図5】外輪に収容されるメインマグネットの斜視図である。
【
図6】
図1のロータを構成するセンサマグネットの上面図である。
【
図8】
図3のA―A部分におけるロータとピンとの接合部を説明する図である。
【
図9】
図3のB―B部分におけるロータとテーパ部との接合部を説明する図である。
【
図10】ロータの取付構造を模式的に示す説明図である。
【
図11】ロータが用いられた回転電機の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態.
本実施の形態に係るロータは、IPMロータと称される内部に磁石が埋め込まれた埋込磁石型のロータコアと、ロータコアに固定され、ロータコアの回転位置を検出するセンサマグネットとから成る。ロータは、ロータが取り付けられるロータシャフト及びステータと共に回転電機を構成するものである。なお、IPMとは、Interior Permanent Magnetの略称である。
【0012】
図1は、本実施の形態に係るロータ10の上面図であり、
図2は、
図1のロータ10の内部構造を模式的に示す説明図である。
図2に示すように、ロータ10は、外輪5と内輪7と図示しないメインマグネットとから成るロータコア12と、ロータコア12の同軸上に固着され、ロータコア12の回転位置を検出するセンサマグネット1と、を備える。ロータコア12とセンサマグネット1とは、樹脂11により一体に固着されている。
【0013】
図3は、
図1のロータコア12を構成する外輪5の上面図であり、
図4は、
図1のロータコア12を構成する内輪7の上面図であり、
図5は、外輪5に収容されるメインマグネット9の斜視図である。
図3、及び、
図4に示すように、外輪5及び内輪7は、上面視で円環状であり、材料に、例えば、電磁鋼板などが用いられる。また、メインマグネット9は、平板状に形成されている。ロータコア12は、
図3及び
図4の形状の薄板から成る外輪5及び内輪7が所定の厚さに積層されて形成されている。薄板の外輪5、内輪7には、凹凸部5a、7aが形成されており、凹凸部5a、7aをかしめて積層する外輪5同士、内輪7同士の散逸が防止されている。また、外輪5に形成された引っかかり5bと、内輪7に形成された引っかかり7bとは互いに係合し、回転トルクの作用により外輪5と内輪7とがずれることを防止している。
【0014】
外輪5の上面には、複数のメインマグネット挿入孔6aが外輪5の円周方向に沿って形成されている。メインマグネット挿入孔6aは、メインマグネット9が挿入される孔である。それぞれのメインマグネット挿入孔6aの両端には、センサマグネット1の突起部が挿入されるセンサマグネット挿入孔6bが設けられている。なお、センサマグネット挿入孔6bは、本発明の挿入孔に相当する。外輪5の中心には、内輪7が配置される円形の空間5cが形成されている。内輪7の中心には、シャフトが挿入されるシャフト挿入孔8aが設けられている。外輪5と、外輪5の上面に配置されたメインマグネット9と、外輪5の中心に配置された内輪7とによりロータコア12が形成されている。外輪5と内輪7との個別の部品によりロータコア12を構成することでロータ10の電食が抑制される。
【0015】
図6は、
図1のロータ10を構成するセンサマグネット1の平面図である。
図7は、
図6のセンサマグネット1の側面図である。
図6、及び、
図7に示すように、センサマグネット1は、円環状であり、一方の面に上方に突出する複数のピン2と、下方に凹んだ複数の切り欠き3とが形成され、円環の内縁部がテーパ部4になっている。センサマグネット1は、ピン2が形成された面が、ロータコア12の上面に対向するように配置される。ピン2は、センサマグネット1から突出する円柱状の部分である。なお、ピン2は、本発明の突起部の一例である。切り欠き3は、ロータコア12とセンサマグネット1とを固着する際に樹脂11の流動性を向上させる目的で設けられる。
図2に示すロータ10の断面図に現れるセンサマグネット1は、切り欠き3が形成された領域のセンサマグネット1である。テーパ部4は、センサマグネット1の内縁部に形成され、ロータコア12に向く方向に、ピン2が設けられた面から他方の面に向かって内径を減少させた領域である。
【0016】
図8は、
図3のA―A部分におけるロータ10とピン2との接合部を説明する図である。
図8に示すように、ロータ10の外輪5に形成されたセンサマグネット挿入孔6bには、センサマグネット1のピン2が挿入される。ピン2により、センサマグネット1のロータコア12に対する取付位置が保障される。
【0017】
図9は、
図3のB―B部分におけるロータ10とテーパ部4との接合部を説明する図である。
図9に示すように、ロータ10とセンサマグネット1とは、センサマグネット1のテーパ部4がロータ10の方向に向くように接合されている。テーパ部4がロータコア12に向く方向に形成されることで、テーパ部4は、センサマグネット1とロータコア12との間の樹脂11によりロータコア12から離れる方向に押し上げられる。
【0018】
センサマグネット1に形成されるピン2の形状は、円柱の他、円錐、三角柱などの形状であってもよく、数も2つ以上でもよく、限定されない。また、センサマグネット1に形成される切り欠き3の場所、及び、数も限定されない。更に、テーパ部4は、センサマグネット1の内縁部に代えて、ロータコア12に向く方向に、ピン2が設けられた面の外縁部に、他方の面に向かって内径が増大するように設けてもよい。
【0019】
ロータコア12と、その上面のセンサマグネット1とは、間に介在する樹脂11により固着され、ロータ10が構成されている。なお、樹脂11として、熱可塑性のポリブチレンテレフタレート樹脂や、熱硬化性の不飽和ポリエステル樹脂などを用いることができる。
【0020】
続いて、本実施の形態に係るロータ10の製造方法について説明する。まず、一体成形金型を用意し、その一体成形金型に外輪5と、内輪7とを配置する。そして、外輪5のメインマグネット挿入孔6aのそれぞれにメインマグネット9を挿入する。次に、外輪5のセンサマグネット挿入孔6bと、センサマグネット1のピン2とを対向させ、ピン2をセンサマグネット挿入孔6bに挿入させながら、外輪5の上面にセンサマグネット1を載置する。そして、金型を閉じて内部に樹脂11を充填する。
【0021】
金型に充填される樹脂11は、金型の底部から徐々に堆積し、センサマグネット1に設けられた切り欠き3を通って流動しながらセンサマグネット1の全体をむらなく覆う。このとき、センサマグネット1のテーパ部4は、嵩が上昇する樹脂11により押し上げられることでセンサマグネット1が浮上する。そして、センサマグネット1は、センサマグネット挿入孔6bに挿入されたピン2によりロータコア12に対する位置関係を維持しながらロータコア12から離れる方向に移動し、金型内部の上面に当たって停止する。
【0022】
その後、樹脂11の充填を完了させ、樹脂11を硬化させる。これにより、
図1に示す、ロータコア12とセンサマグネット1とが固着されて一体化されたロータ10が得られる。このように、ロータコア12とセンサマグネット1とが樹脂11により一体成形されることでロータコア12とセンサマグネット1との取付を容易にし、固定に必要な部品の点数の増加を抑制できる上に、取付時にセンサマグネット1が破損しにくくなる。
【0023】
図10は、ロータ10の取付構造を模式的に示す説明図である。また、
図11は、ロータ10が用いられた回転電機100の斜視図である。
図10、及び、
図11に示すように、回転電機100は、ロータ10と、ロータ10のシャフト挿入孔8aに挿通するシャフト8と、シャフト8を支持するベアリング13と、により構成されている。ロータ10が駆動すると、シャフト8を介して接続された外部機器に回転運動が伝達される。ロータ10は、回転駆動するロータコア12と、ロータコア12の回転位置を検出するセンサマグネット1とが樹脂11により一体成形されている。一体成形されたロータ10を用いることで、ロータコア12とセンサマグネット1とが位置ずれすることなくロータ10が回転駆動することができる。
【0024】
なお、上述の説明において、ロータコア12を外輪5と内輪7とから構成した例について説明しているが、ロータコア12の構造として外輪5と内輪7とが一体となった1つの部品から形成してもよい。また、センサマグネット1とロータコア12との間の距離は、金型内面に設けた高さ位置調節ピンなどにより調整すればよい。
【0025】
以上説明した本発明に係るロータ10は、センサマグネット1にピン2が形成されており、ロータコア12に挿入されたピン2によりセンサマグネット1とロータコア12との位置関係が維持されたまま一体成形金型により固定される。これにより、センサマグネット1とロータコア12とを個別に取り付けることや、機械的な固定具により固定する必要がなくなり、ロータ10が破損してしまう可能性が低減する。
【0026】
センサマグネット1に形成された切り欠き3により、金型に充填された樹脂11が切り欠き3を流動し、センサマグネット1をくまなく覆うことができる。
【0027】
センサマグネット1の突起が形成された面の縁部にテーパ部4が形成されており、金型に樹脂11が充填されると、センサマグネット1が押し上げられ、浮上する。これにより、センサマグネット1とロータコア12との距離が一定に保たれる。
【0028】
テーパ部4は、センサマグネット1の内周縁部に設ければよい。
【0029】
テーパ部4は、センサマグネット1の外周縁部に設けられていてもよい。
【0030】
ロータコア12は、外輪5と、外輪5と同軸上の内側に配置された内輪7と、により形成されているため、ロータ10の電食を抑制することができる。
【0031】
ロータコア12とセンサマグネット1とが一体成形された回転電機100は、駆動によるがたつきが生じることがないため、駆動時の騒音を低減することができる。
【0032】
ロータ10の製造過程においては、センサマグネット1のピン2をセンサマグネット挿入孔6bに挿入した状態で金型に樹脂11が充填され、センサマグネット1とロータコア12とが固着される。このとき、センサマグネット1は、樹脂11の嵩の増加に伴い、金型内部の上面まで浮上した状態で固着されることになる。これにより、センサマグネット1とロータコア12との距離が一定なロータ10を容易に得ることができる。また、センサマグネット1とロータコア12は、一体成形されるため、それらを個別に取り付ける作業や、そのための部品を不要にできる。
【符号の説明】
【0033】
1 センサマグネット、2 ピン、3 切り欠き、4 テーパ部、5 外輪、5a、7a 凹凸部、5b、7b 引っかかり、5c 空間、6a メインマグネット挿入孔、6b センサマグネット挿入孔、7 内輪、8 シャフト、8a シャフト挿入孔、9 メインマグネット、10 ロータ、11 樹脂、12 ロータコア、13 ベアリング、100 回転電機。