特許第6444534号(P6444534)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444534
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】治療計画装置および放射線治療システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   A61N5/10 P
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-551417(P2017-551417)
(86)(22)【出願日】2015年11月17日
(86)【国際出願番号】JP2015082210
(87)【国際公開番号】WO2017085780
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2017年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 裕介
(72)【発明者】
【氏名】花川 和之
【審査官】 松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−018522(JP,A)
【文献】 特開2010−220659(JP,A)
【文献】 特開2013−78479(JP,A)
【文献】 特開2005−111151(JP,A)
【文献】 特開2001−161839(JP,A)
【文献】 特表2009−526620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射対象である患者の患部のX線画像を撮像するX線撮像装置により撮像されたX線画像のデータに基づいて治療用放射線を患者に照射して患部を治療する放射線治療システムの治療計画を行う治療計画装置であって、
前記X線撮像装置のX線強度を仮定して、仮定したX線強度により得られるX線画像の鮮明度を予測して、このX線画像による前記患部の位置不確定性を演算するX線画像位置不確定性演算部と、このX線画像位置不確定性演算部により演算された患部の位置不確定性に基づいて前記治療用放射線の照射パラメータを演算する治療用放射線照射パラメータ演算部と、前記仮定したX線強度により前記X線撮像装置が前記患者に照射するX線照射量を演算するX線照射量演算部と、前記治療用放射線照射パラメータ演算部により演算された前記治療用放射線の照射パラメータを用いて前記放射線治療システムが前記患者に照射する前記治療用放射線の線量分布を演算する治療用放射線線量分布演算部と、前記X線照射量演算部により演算されたX線照射量と前記治療用放射線線量分布演算部により演算された治療用放射線線量分布とを表示するディスプレイとを備えたことを特徴とする治療計画装置。
【請求項2】
前記仮定するX線強度は複数のX線強度であり、前記X線画像位置不確定性演算部において前記複数のX線強度のそれぞれのX線強度に対応した前記患部の位置不確定性を演算し、前記治療用放射線照射パラメータ演算部は、前記複数のX線強度のそれぞれのX線強度に対応した前記患部の位置不確定性に基づいて前記治療用放射線の照射パラメータを演算し、前記ディスプレイは、前記複数のX線強度のそれぞれについて前記X線照射量および前記治療用放射線線量分布を表示することを特徴とする請求項1に記載の治療計画装置。
【請求項3】
前記X線照射量演算部は前記X線照射量に加えてX線照射線量分布を演算し、前記ディスプレイは、表示するX線照射量として前記X線照射線量分布を表示することを特徴とする請求項1または2に記載の治療計画装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の治療計画装置を備えたことを特徴とする放射線治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像誘導放射線治療における治療計画を支援する治療計画装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線治療において、治療用の放射線を患部に精度良く照射するために、患部の位置をX線画像などの画像で確認しながら治療用の放射線を照射する、画像誘導放射線治療(IGRT:Image Guided Radiation Therapy)が提案されている(例えば特許文献1)。IGRTとしてX線画像を用いる場合、患者は治療用放射線以外に画像取得用のX線を被ばくすることになる。この被ばくはできるだけ少ないことが望ましい。
【0003】
X線撮像装置を用いて臓器位置を確認しながら治療放射線の照射を行う画像誘導放射線治療において、治療計画立案の時点で撮像X線による被曝線量を見積もることが出来ず、治療計画立案者にとって不便であった。例えば、撮像X線の強度が高いほど撮像の画質は良くなり臓器位置の推定精度は向上するが、被曝線量も増えるというトレードオフがあり、治療計画の段階で治療時間がある程度わかれば丁度良い撮像X線強度を選択すると言うことが可能である。
【0004】
また、従来の放射線治療では、治療計画立案の時点で治療の所要時間を見積もることが出来ず、治療計画立案者にとって不便であった。例えば、治療放射線の強度が高いほど治療は短時間で終了するが、強度が低いほど精度の高い照射が出来るというトレードオフがあり、治療計画の段階で治療時間がある程度わかれば丁度良い治療ビーム強度を選択するということが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−252420号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】川崎他、「前立腺癌IMRT治療計画における最適な膀胱容積」、日本診療放射線技師会誌 2015. vol.62 no.751, pp22-26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、X線画像を用いたIGRTにおいては、撮像X線の強度が高いほど撮像の画質は良くなり臓器位置の推定精度は向上するが、被曝線量も増えるというトレードオフがあり、被曝線量ができるだけ少なくなるような撮像X線の強度を、簡便に決定できる治療計画装置が望まれていた。
【0008】
この発明は、医師などのユーザーが、放射線の被ばく線量および治療時間を考慮した適切な治療計画を策定できるよう支援する治療計画装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の治療計画装置は、照射対象である患者の患部のX線画像を撮像するX線撮像装置を備え、このX線撮像装置により撮像されたX線画像のデータに基づいて治療用放射線を患者に照射して患部を治療する放射線治療システムの治療計画を行う治療計画装置であって、X線撮像装置のX線強度を仮定して、仮定したX線強度により得られるX線画像の鮮明度を予測して患部の位置不確定性を演算するX線画像位置不確定性演算部と、このX線画像位置不確定性演算部により演算された患部の位置不確定性に基づいて治療用放射線の照射パラメータを演算する治療用放射線照射パラメータ演算部と、仮定したX線強度によりX線撮像装置が前記患者に照射するX線照射量を演算するX線照射量演算部と、治療用放射線照射パラメータ演算部により演算された治療用放射線の照射パラメータを用いて前記患者に照射される治療用放射線の線量分布を演算する治療用放射線線量分布演算部と、X線照射量演算部により演算されたX線照射量と治療用放射線線量分布演算部により演算された治療用放射線線量分布とを表示するディスプレイとを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、医師などのユーザーが、放射線の被ばく線量および治療時間を考慮した適切な治療計画を策定できるよう支援する治療計画装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態1による治療計画装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態1による治療計画装置のハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の実施の形態1による治療計画装置の動作を示すフローチャートである。
図4】本発明の治療計画装置を含む放射線治療システムの一例としての粒子線治療システムの構成を示す概念図である。
図5】本発明の治療計画装置を含む放射線治療システムの動作を説明する線図である。
図6】本発明の実施の形態1による治療計画装置を含む放射線治療システムの動作を説明する概念図である。
図7】本発明の実施の形態1による治療計画装置による表示の一例を示す図である。
図8】本発明の実施の形態1による治療計画装置による表示の他の例を示す図である。
図9】本発明の実施の形態1による治療計画装置による表示のさらに他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
まず、本発明の治療計画装置を含む放射線治療システムの例として、粒子線治療システムを説明する。図4は本発明の治療計画装置を含む粒子線治療システムの一例の構成を概念的に示すブロック図である。荷電粒子を加速する加速器1から高エネルギー荷電粒子ビームとして出射された粒子線2は、真空ダクト3内を通って、真空ダクト3の下流に設けられた照射ノズル4に輸送される。ここで、真空ダクト3が曲がっている部分には、粒子線2の進行方向を変化させるための偏向電磁石が設けられるが、図4では省略して図示している。粒子線2は、照射ノズル4に備えられた走査電磁石によって、粒子線2の進行方向に垂直な2次元方向に走査される。走査された粒子線2aは治療台に載せられた照射対象である患者の患部5に照射される。照射する際の、種々の照射パラメータは治療計画装置10で設定され、その照射パラメータで照射するための加速器1および照射ノズル4の各機器のパラメータが、システム制御装置20で設定されて、加速器制御装置21や照射系制御装置22へ送信され、加速器1や照射ノズル4の各機器に対してそれぞれの指令が出力される。
【0013】
一方、例えば、X線画像を取得して照射対象である患部5の動きなどを確認するために、X線管51a、51b、フラットパネル検出器(FPD)52a、52bによって構成されるX線撮像装置50が設置されている。X線管51aから照射されたX線はFPD52aで検出され、X線管51bから照射されたX線はFPD52bで検出される。X線管51a、51b、FPD52a、52bはX線撮像制御・画像情報取得装置23により制御され、X線画像情報を取得する。
【0014】
以上の粒子線治療システムにより患者の患部5に治療用の放射線である粒子線を照射して腫瘍などの患部を治療する方法を簡単に説明する。まず、治療計画装置10において、患部5に照射する照射線量を決定する。照射線量は、患部5の形状に合わせた3次元の分布、すなわち照射線量分布として決定される。照射線量分布が決定されると、治療計画装置10において、患部に照射線量分布を与えるための加速器1や照射ノズル4の種々のパラメータのセットである照射パラメータを決定することができる。ただし、粒子線の強度やビームの径などによって照射パラメータのセットは一意には決定できない。このため、医師などのユーザーが適切と考える照射パラメータを決定する。
【0015】
粒子線治療の場合、患部への粒子線の照射は1日1回、数十回に分けて行われる。照射当日は、例えば、X線撮像制御・画像情報取得装置23により取得された患者の患部5の画像中の、予め設定された患者アイソセンタが、照射ノズル4により決定されている機器のアイソセンタに合うように、治療台の位置を制御して、治療台に載っている患者の位置が位置決めされる。位置決めが終わると、加速器1や照射ノズル4の予め決定されたパラメータにより、加速器制御装置21や照射系制御装置22を介して各機器が制御され、患部5に粒子線が照射される。このとき、X線撮像制御・画像情報取得装置23がX線画像をリアルタイムに取得して、患部5の位置や動きを監視しながら、例えば呼吸位相における患部5の動き量が小さくなるような位相において粒子線を照射するようにする。その日予定されている照射線量が患部に照射されるとその日の照射は終了する。
【0016】
加速器1がシンクロトロンの場合、粒子線は加速器の中に蓄積された荷電粒子の量だけしか取り出すことができない。したがって、加速器は、加速、ビーム出射、減速、を一動作サイクルとして、動作サイクルを繰り返し、ビーム出射のときのみ照射が可能となる。一人の患者1回の照射に対して、複数の動作サイクルが必要となることが多い。この様子を図5に示す。図5はいわゆるスキャニング照射法による照射の方法を示している。スキャニング照射法とは、照射ノズル4に備えられた走査電磁石で荷電粒子の束である粒子線を被照射物上にてビームの進行方向に垂直な2次元方向に走査しながら照射する方法である。ビームの進行方向、すなわち深さ方向の照射位置は、照射する荷電粒子のエネルギーで決定されるため、荷電粒子のエネルギーを変えることにより深さ方向の照射位置を変えることができる。このようにして、照射される3次元の位置を制御して照射する。一般的には、スキャニング照射法においては、照射位置毎の線量管理を行って照射を行う。スキャニング照射法による照射では、荷電粒子のエネルギーに対応した患部の深さ方向の位置が照射されるため、荷電粒子のエネルギー毎に走査電磁石で2次元に走査して照射することにより、エネルギーを変えるごとに層状の照射領域が順番に照射されることになる。この層状の照射領域をスライスと呼ぶことにする。
【0017】
図5は、患部5に照射する粒子線の荷電粒子のエネルギーを変化させて、スライス毎に患部5を照射するときの様子を示す線図である。図5の横軸は時間である。加速器のビーム出射可の時間は、上述のように一動作サイクル毎に、所定の時間となる。また、患者の呼吸により、患部の動きが少なくなる時間に照射することで、照射の位置精度が良くなるため、この時間に照射するようにする。この時間を呼吸ゲートと呼ぶ。ビーム出射可と呼吸ゲートが重なった時間が、患者に粒子線を照射できる患者照射可の時間となる。図5に示すように、時刻t1sに第1スライスの照射を開始し、第1スライスの全ての位置を走査しながら照射して時刻t1eに照射を終了し、次の第2スライスを照射するために粒子線のエネルギーを切替える切り替え時間後の時刻t2sに第2スライスの照射を開始する。第2スライスの全ての位置を走査しながら照射して時刻t2eに第2スライスの照射を終了する。この時点で、残りの患者照射可の時間が少ないため、次の第3スライスの照射は、次に患者照射が可となる時刻t3sに開始し、第3スライスの全ての位置を走査しながら照射し、時刻t3eに第3スライスの照射を終了する。
【0018】
本発明は、以上のような照射を行うことにより、X線照射による被ばく、および粒子線照射による被ばく、特に患部5以外の部分の被ばくがどのようになるかを予測して、被ばくが少なく、患部5への照射がより確実に行える治療計画を作成するための支援を行う治療計画装置を提供する。図1は、本発明の実施の形態1による治療計画装置の要部を示すブロック図である。上記で説明した実際の照射の様子は、予め治療計画装置10で予測することができる。この予測を行うことで、照射中に、患部5の動きを観測・監視するX線画像取得のためのX線照射時間を予測することができる。なお、治療計画装置10は、図2に示すような、プロセッサー11、メモリ12、キーボードやタッチパネルなどの入力インターフェース13、出力インターフェースとしてのディスプレイ14などを備えた一般的な計算機により実現される。
【0019】
X線画像取得のためのX線強度は、患者の被ばく線量の観点からは、低強度が好ましい。しかし、X線強度が弱いと、FPDで得られる画像の鮮明度が低くなり、患部の位置不確定性が高くなる。このように、X線強度と患部の位置不確定性はトレードオフの関係にある。X線強度が弱いと、X線の線量は低くなり患者の被ばく線量も低くなるが、位置不確定性が高いと、患部の周囲がぼやけて不明瞭となるため、粒子線照射のマージンを大きく取る必要がある。すなわち、図6に示すように、確実に患部5に粒子線の線量を与えるために、例えば破線で示す領域5aのように患部周辺のより広い範囲まで照射する必要がある。患部周辺のより広い範囲まで照射する場合、患部周辺の正常組織まで粒子線を照射することになる。反対に、X線強度が強いと、位置不確定性は低く、すなわち患部の位置を明確に判別できるため、粒子線照射のマージンは低く設定、すなわち患部周辺への粒子線の照射を少なくすることができる。このように、X線の照射量と、患部以外の部分への粒子線の照射線量はトレードオフの関係にある。
【0020】
このトレードオフの関係にあるX線の照射量と、患部以外の部分への粒子線の照射線量を提示して、治療計画時に、X線の強度を決定するための支援を行うための治療計画装置を提供するのが本発明である。以下、本発明の実施の形態1による治療計画装置10を図1のブロック図、図3のフローチャートを参照して説明する。前述のように、治療計画装置10は、図2のような計算機により実現されるのであって、以下の各部、ステップはメモリ12に格納されたプログラムをプロセッサー11が実行することにより実現される。
【0021】
まず、X線強度設定部101において、X線強度の範囲、およびX線強度のステップを決定する(ST1)。次に、最も弱いX線強度にX線強度値を設定する(ST2)。X線画像位置不確定性演算部102において、設定されたX線強度値により得られるX線画像の予測から位置不確定性を演算する(ST3)。
【0022】
次に、X線画像位置不確定性演算部102において演算された位置不確定性に基づいて、治療用放射線照射パラメータ演算部103において、患部治療用放射線線量分布決定部110で決定された患部の線量分布を満足するよう、治療用粒子線照射パラメータを設定する(ST4)。治療用放射線照射パラメータ演算部103において設定された照射パラメータによる、粒子線照射の時間パターン、治療時間を、放射線治療時間演算部104において予測演算する(ST5)。ここで、粒子線のスキャニング照射や積層原体照射など、複数の照射箇所に分割して放射線の照射をする場合において、照射箇所(スライス)を切り替えるときの所要時間を考慮して、必要なビーム出射可ゲートあるいは患者照射可ゲート数を見積り、治療の所要時間を推測する。照射箇所の切り替え時間を反映して、治療の所要時間を知ることができる。
【0023】
また、多門照射、IMRT、IMPTなどの複数のガントリー角度からの放射線の照射を行う場合において、1つの角度からの照射が終了した後、寝台から患者を降ろさず、位置決めもやり直さずに2つめの角度の照射をするような場合、ガントリー角度を変更するために必要な時間を考慮して、必要なビーム出射可ゲートあるいは患者照射可ゲート数を見積り、治療の所要時間を推測する。ガントリー回転にかかる時間を反映して、治療の所要時間を知ることができる。
【0024】
さらに、呼吸性移動を伴う臓器に対して呼吸同期照射を行う場合、呼吸周期を安定させる呼吸コーチングシステムを導入することもできる。呼吸コーチングシステムを導入することにより呼吸周期が安定することで、治療時間の予測精度が向上することが期待できる。
【0025】
次に、予測演算された粒子線照射の時間パターンに基づいて、X線照射の時間パターンを決定する(ST6)。以上により決定された各パラメータや予測した時間を用いて、治療用放射線線量分布演算部105において治療用に照射される粒子線の線量分布、すなわち治療用放射線照射線量分布を、X線照射量演算部106において撮像用に照射されたX線照射量を演算する(ST7)。X線照射量演算部106においてはX線照射量と合わせてX線照射線量分布を演算してもよい。当該位置不確定性に基づいた、別の粒子線照射パラメータが設定できる場合(ST8 NO)、ステップST4に戻って、粒子線の強度や線量制約条件などを変更した別の粒子線照射パラメータを設定する。当該位置不確定性に基づいた、可能な粒子線照射パラメータについての演算が終了したら(ST8 YES)、ステップST2に戻り、次のX線強度を設定し、当該X線強度について、得られるX線画像の予測から位置不確定性を演算する(ST3)。ST1で決定したX線強度の範囲全てについての演算が終了したら(ST9 YES)、演算したX線照射量および治療用放射線線量分布をはじめ、種々の情報を、ディスプレイ14に表示する(ST 10)。このとき、治療予測時間も合わせて表示してもよい。医師などのユーザーは、この表示結果を見て、適切なX線の強度、および粒子線照射パラメータを決定し、治療計画装置は、決定されたX線強度および粒子線照射パラメータに基づいて治療計画を生成する。
【0026】
表示装置への表示は、被曝線量値であるX線照射量だけでなくX線照射量演算部106において演算されたX線照射量の3次元分布を表示してもよい。さらに、治療計画が算出した治療用放射線線量分布と並べて表示する、または、治療用放射線線量分布と撮像のX線照射線量分布との合算分布を表示する。これらにより、被曝線量が患者に与える影響を、治療計画立案者がより視覚的に知ることが出来る。
【0027】
以上により、放射線治療計画の情報(治療ビーム量)と、治療ビーム発生装置の情報(治療ビーム強度とビーム出射可能期間の周期)と、に基づき、ビーム出射可ゲートがいくつ必要かを見積り、さらにX線撮像装置のX線強度に関する情報(撮像1回あたりの被曝線量値と撮像の頻度)に基づき、撮像X線による被曝線量(X線照射量)を推測し、ディスプレイ14にて表示する。X線照射量は、患者全体への線量の積分値でも良いし、代表点(たとえばアイソセンタ)での局所的な線量値でも良い。治療計画の段階で治療計画立案者がX線被曝線量の予測値を知ることができる。
【0028】
また、複数のX線強度値に対し、期待される位置不確定性と予測されるX線照射量とをそれぞれ表示するようにすれば良い。例えば、横軸にX線強度、縦軸に位置不確定性をプロットしたグラフを表示し、プロット点を選択した時に、そのプロット点における予測X線照射量、予測治療時間などを表示するようにすればよい。図7から図9にディスプレイ14に表示する表示画面の例を示す。
【0029】
図7は、ディスプレイ表示の典型的な一例である。横軸にX線強度、縦軸に位置不確定性を表示したグラフ71が表示されており、生成された全ての治療計画に対応して点がプロットされる。ユーザーは、プロットされた点のうちのひとつを選択し、例えばマウスポインタ72等のインターフェースを用いてそれを指定すれば、同表示画面内のサマリ情報表示窓73にサマリ情報が表示される。ここで、サマリ情報とは例えばX線強度、位置不確定性、予想されるX線照射量、予想される治療時間、などである。
【0030】
さらに、患者CT74に重ねて、計画された治療用放射線線量分布75が表示される。同時に、標的(PTV:Planning Target Volume)に対する線量体積ヒストグラム(DVH:Dose Volume Histogram)76と、リスク臓器(OAR:Organ At Risk)に対するDVH77とが図示される。
【0031】
ここでは一例として、患者CTは3次元CT情報のある断面を切り取った情報をディスプレイに表示しているが、3次元の各方向に対応する3断面を並べて表示しても良い。また、ここでは一例として、DVHはPTV1つ、OAR1つの表示になっているが、OARが複数ある場合は複数表示しても良い。またこの例では、全ての情報をひとつのディスプレイに表示しているが、複数のディスプレイに分割して表示しても良い。あるいは、ひとつのディスプレイにより画面を切替えて表示するようにしても良い。
【0032】
図8に、図7の例からさらに情報量を増やした表示例を示す。治療放射線の照射線量分布75だけでなく、撮像用X線の照射線量分布78を表示する。さらに、図9に、表示するグラフの変形例を示す。図7および図8の左側に表示しているグラフとして、図9に示すグラフ79、すなわち横軸に予想されるX線照射量を、縦軸にOAR線量評価値を、それぞれプロットするグラフであっても良い。
【0033】
ここでOAR線量評価値とは例えばV20などの値である。V20とは、OAR体積のうち、線量が20Gyを超える部分の体積の割合をパーセント表示した値であり、線量制約を決定するために一般的に用いられている指標である。治療計画立案時にはこの値が治療施設ごとに定められた基準値より小さくなることが重要となる。例えば、非特許文献1には前立腺がんの治療において直腸壁のV67.1が25%未満、V42.0が40%未満になることなどの基準の例が示されている。このような臨床的パラメータをディスプレイに表示することで、トレードオフ関係が臨床的な観点を持つユーザーにとってより分かり易くなることが期待できる。
【0034】
以上のような情報を表示することにより、被曝線量と位置推定精度のトレードオフ関係が明確になり、最適なX線強度値を簡単に選択することが出来る。
【0035】
さらに、複数の撮像X線強度値に対し、予測される患部の位置不確定性に基づいてそれぞれ標的マージンを決定し、その標的マージンを用いて治療計画を行い、それぞれの治療計画結果(線量分布やDVHなど)を並べて表示するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
10 治療計画装置、14 ディスプレイ、50 X線撮像装置、102 X線画像位置不確定性演算部、103 治療用放射線照射パラメータ演算部、105 治療用放射線線量分布演算部、106 X線照射量演算部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9