(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
再生器、凝縮器、蒸発器、吸収器、熱交換器を含み、冷媒として水が使用されるとともに、吸収液として臭化リチウム水溶液が使用される吸収冷温水機のメンテナンス方法であって、
前記吸収器に備えられている投入部から、腐食抑制剤として、モリブデン酸塩と、濃度改善剤として、亜硫酸ナトリウムまたは二亜硫酸ナトリウムと、分散剤として、オクチルジメチルエチルアンモニウム塩またはラウリルジメチルエチルアンモニウム塩と、の混合剤である追加液が投入される工程
を有することを特徴とする吸収冷温水機のメンテナンス方法。
【背景技術】
【0002】
吸収冷温水機は、蒸発器、吸収器、再生器、凝縮器などを備える装置であり、ビルなどの大型建築物向けの冷暖房装置として広く実用化されている。冷媒として水を使用する場合、吸収液として臭化リチウムの濃厚水溶液(濃厚臭化リチウム水溶液)が適している。吸収液の主成分である臭化リチウムは、吸湿性に優れる反面、強い腐食性を有している。そのため、臭化リチウムは、吸収冷温水機の構成部材の腐食の原因となる。
【0003】
これを解決するため、濃厚臭化リチウム水溶液中に、腐食抑制剤を添加する方法が従来用いられてきた。一般的には、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、硝酸リチウムなどの硝酸塩、モリブデン酸リチウムなどのモリブデン酸塩を組み合わせた、混合系腐食抑制剤が用いられている。モリブデン酸塩は、吸収冷温水機の主要構成材料である炭素鋼表面に、鉄酸化物とモリブデン酸化物の複合皮膜である、防食酸化皮膜を形成する。そのため、モリブデン酸塩は、混合系腐食抑制剤の中でも、全面腐食及び局部腐食双方の抑制に優れており、吸収冷温水機の耐食における信頼性の向上に寄与している。
【0004】
しかしながら、モリブデン酸塩は、濃厚臭化リチウム水溶液(吸収液)中における溶解度が小さいという欠点がある。また、モリブデン酸塩によって形成された防食酸化皮膜が吸収液の流れ等で破壊され、その破壊された箇所に再度モリブデン酸塩によって防食酸化皮膜が形成されるため、吸収冷温水機の稼働に伴い、モリブデン酸塩は防食酸化皮膜の形成のために消費される。そのため、吸収冷温水機の稼働に伴い、吸収液中のモリブデン酸塩の濃度は経時的に低下する。
【0005】
そのため、十分な腐食抑制効果を長期間にわたって維持するためには、適切なモリブデン酸塩の濃度管理及び定期的な補充が必要となり、メンテナンスが繁雑となる。さらに、一般的には溶解度、または、それを少し上回る程度のモリブデン酸塩が濃厚臭化リチウム水溶液(吸収液)に添加されている。しかし、溶解度を大幅に超える濃度のモリブデン酸塩が濃厚臭化リチウム水溶液に添加されると、沈殿が生じてしまう。そのため、吸収冷温水機の稼働に支障をきたす、という問題が生じる。つまり、モリブデン酸塩により、腐食抑制効果を得ることができるのだが、モリブデン酸塩の投入量には限界がある。
【0006】
そのため、濃厚臭化リチウム水溶液におけるモリブデン酸塩を高濃度化する添加剤(高濃度化剤)を使用することが、これまでに提案されてきた(例えば、特許文献1参照)。このような高濃度化剤を濃厚臭化リチウム水溶液に投入することで、モリブデン酸塩の投入量を増加させることができる。
特許文献1には、「晶癖改変剤とモリブデン酸リチウムとをハロゲン化リチウム含有水溶液に導入することを含む」ハロゲン化リチウム水溶液と接触する金属の腐食を遅らせる方法が開示されている(要約参照)。
また、特許文献1の実施例においては、晶癖改変剤を導入することにより、モリブデン酸リチウムを700mg/Lに高濃度化すること、及び、鉄系材料である軟鋼ST37の腐食速度を従来の約半分程度に抑制する(11.5mpyから4.1mpyに低減)ことが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
[吸収冷温水機Z]
図1は本実施形態に係る吸収冷温水機Zの構成を概念的に示す図である。なお、
図1に示す吸収冷温水機Zは一例であり、他の吸収冷温水機が用いられてもよい。
本実施形態に係る吸収冷温水機Zは、蒸発器11、吸収器12、凝縮器13、低温再生器(再生器)14、高温再生器(再生器)15、冷媒ポンプ16、溶液循環ポンプ17及びこれらを接続する複数の配管から基本的に構成されている。なお、
図1において、冷媒Rは水である。
【0016】
蒸発器11内には冷水伝熱管24が配管されている。また、蒸発器11内の上部には冷媒スプレー配管22の一端(散水口)が設置されている。冷媒スプレー配管22には、蒸発器11内の冷媒Rを冷媒スプレー配管22に供給する冷媒ポンプ16の出力側の配管が接続されている。また、冷媒ポンプ16の出力側配管の接続部16aの下流側には、冷媒ポンプ吐出圧力計52が接続され、冷媒ポンプ16から吐出される冷媒Rの圧力を計測することができる。
【0017】
冷媒スプレー配管22の他端側は接続部16aで希釈配管54の一端側に接続されている。希釈配管54は、他端側が高温再生器15内に開放され、冷媒Rを高温再生器15内に供給できるようになっている。また、希釈配管54には、希釈バルブ53aと逆止弁50が設置されている。なお、希釈バルブ53aは冷媒スプレー配管22側に、逆止弁50は高温再生器15側にそれぞれ配置されている。
【0018】
吸収器12は蒸発器11に隣接して設けられ、吸収器12内の上部には濃溶液スプレー配管23の一端(散水口)が設置されている。なお、濃溶液とは濃厚臭化リチウム水溶液(吸収液(吸収冷温水機用吸収液)L1)のことである。吸収液L1は、運転開始に伴い冷媒Rである水が水蒸気となって分離されるため、吸収冷温水機Zの機器への導入時に比して濃縮される。例えば、運転前に吸収冷温水機Zの機器に投入した液の臭化リチウム濃度が40〜60%である場合、運転開始に伴い高温再生器15内(濃溶液)では60〜80%程度、吸収器12内(稀溶液)では50〜70%に濃度が上昇している。
濃溶液スプレー配管23の他端は、高温熱交換器19及び低温熱交換器18を介して高温再生器15のフロート室20に接続されている。一方、吸収器12の底部からフロート室20を通って高温再生器15に戻る稀溶液配管17aは、低温熱交換器18及び高温熱交換器19を通っている。ここで、稀溶液とは稀臭化リチウム水溶液L1aのことである。低温熱交換器18及び高温熱交換器19において、濃溶液スプレー配管23との間で熱交換が行われる。また、吸収器12内にも冷却水伝熱管25が配管されている。
【0019】
低温再生器14には、高温再生器15からの高再(高温再生器)蒸気配管26が接続され、高再蒸気配管26には、高再(高温再生器)圧力計51が設置されている。また、低温再生器14の底部から高温熱交換器19と低温熱交換器18との間の濃溶液スプレー配管23に低温再生された濃厚臭化リチウム水溶液(吸収液L1)を供給する濃溶液配管14aが接続されている。他方、高温熱交換器19と低温熱交換器18との間の稀溶液配管17aには、低温再生器14内に散水口が設定された稀溶液配管14bが接続されている。稀溶液配管17aはフロート室20内においてフロート弁21に接続されている。フロート弁21は、フロート室20における濃厚臭化リチウム水溶液(吸収液L1)の液面高さに応じて弁の開閉が制御され、ひいては高温再生器15内の液量が制御される。凝縮器13で凝縮され、液化した冷媒Rは蒸発器11側に凝縮液配管13aを介して供給される。
【0020】
このように構成された吸収冷温水機Zの冷凍サイクルでは、冷媒(水)Rは冷媒ポンプ16によって循環し、蒸発器11内の冷水伝熱管24の表面に散布される。ここで、冷媒Rは蒸気に変化し、気化冷却により冷水伝熱管24の冷却を行う。発生した冷媒蒸気は吸収器12に送られ、吸収器12内の冷却水伝熱管25の表面に散布された濃厚臭化リチウム水溶液(吸収液L1)に吸収される。冷媒蒸気を吸収した稀臭化リチウム水溶液L1aは、溶液循環ポンプ17により稀溶液配管17aによって低温熱交換器18を経て、一部は稀溶液配管14bから低温再生器14に送られる。稀臭化リチウム水溶液L1aの残りは稀溶液配管17aから高温熱交換器19を経て高温再生器15に送られる。
【0021】
高温再生器15においては、蒸気や燃焼装置による入熱を加熱源10として、冷媒蒸気(水蒸気)が分離される。冷媒蒸気が分離された濃厚臭化リチウム水溶液(吸収液L1)は、高温再生器15から濃溶液スプレー配管23に導かれる。その後、濃厚臭化リチウム水溶液(吸収液L1)は、高温熱交換器19、低温熱交換器18で熱交換した後、吸収器12に送られ、散布される。低温再生器14において、稀臭化リチウム水溶液L1aは高温再生器15で発生した冷媒蒸気を加熱源として冷媒蒸気を分離する。冷媒蒸気が分離された濃厚臭化リチウム水溶液(吸収液L1)は、濃溶液配管14aから低温熱交換器18、濃溶液スプレー配管23を経て吸収器12に送られ、散布される。低温再生器14で発生した冷媒蒸気は、凝縮器13へ送られ、冷却水伝熱管25の表面で凝縮する。凝縮した冷媒Rは前記のようにして蒸発器11に送られる。
【0022】
本実施形態における吸収液L1は、濃厚臭化リチウム水溶液に、腐食抑制剤、濃度改善剤及び分散剤が混合されているものである。
腐食抑制剤は、所定量のアルカリ金属水酸化物、所定量の硝酸塩及びモリブデン酸塩を含むものである。腐食抑制剤の濃度は、吸収液L1の濃縮率に応じて変化するが、例えば、55%臭化リチウム水溶液においては、モリブデン酸塩の添加量は78ppmから520ppmが好ましい。
また、濃度改善剤は、還元性を有する、酸化数が+5以下の硫黄酸素酸塩またはスルホン酸塩であり、吸収液L1におけるモリブデン酸塩を高濃度化するものである。具体的には、酸化数が+5以下の硫黄酸素酸塩は、亜硫酸塩や二亜硫酸塩が好ましい。この他にも、チオ硫酸塩、次亜硫酸塩、ジチオン酸塩等が酸化数が+5以下の硫黄酸素酸塩として使用可能である。また、スルホン酸塩はドデシルベンゼンスルホン酸塩が好ましい。これに加えて、1―オクタンスルホン酸塩、p―トルエンスルホン酸塩、1,2―エタンジスルホン酸塩、1,3―ベンゼンジスルホン酸塩等がスルホン酸塩として使用可能である。なお、濃度改善剤の添加量は、380ppmから2300ppmが好ましい。
【0023】
分散剤は、第4級アンモニウム塩である。
具体的には、オクチルジメチルエチルアンモニウム塩及びラウリルジメチルエチルアンモニウム塩が好ましい。この他にも、テトラメチルアンモニウム塩、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ベヘニルトリメチルアンモニウム塩、フェニルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、セチルジメチルエチルアンモニウム塩、ジデシルジメチルアンモニウム塩、ジラウリルジメチルアンモニウム塩、ジオレイルジメチルアンモニウム塩、ジステアリルジメチルアンモニウム塩、ステアリルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム塩、ベンジルジメチルラウリルアンモニウム塩、ベンジルジメチルミリスチルアンモニウム塩、トリオキシエチレンメチルアンモニウム塩、オレイルビスヒドロキシエチルメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩が分散剤として使用可能である。なお、分散剤の添加量は、10ppmから1200ppmが好ましい。
【0024】
このように、分散剤として、第4級アンモニウム塩を用いることで、吸収液L1中のモリブデン酸塩や、濃度改善剤を分散させることができる。これにより、モリブデン酸塩、濃度改善剤、モリブデン酸塩と濃度改善剤との混合物による析出物の沈殿を抑制することができる。
【0025】
このように、濃度改善剤が吸収液L1に加えられることで、腐食抑制剤を高濃度化することができる。さらに、分散剤が吸収液L1に加えられることで、腐食抑制剤、濃度改善剤、及び、腐食抑制剤及び濃度改善剤の混合による析出物が沈殿することを抑制することができる。
【0026】
なお、本実施形態では、冷媒Rまたは稀臭化リチウム水溶液L1aを高温再生器15に流入させる希釈配管54の高温再生器15への接続先が、逆止弁50から高温再生器15内部へ繋がる配管としている。しかしながら、高温再生器15の内部であれば直接液層部に投入しても、気層部となる高再蒸気配管26を接続先としてもよい。逆止弁50は、本実施形態において必須ではないが、制御不良時の安全装置として設けたものである。
【0027】
前記のように、吸収冷温水機Zでは、希釈配管54を冷媒スプレー配管22から分岐させ、希釈配管54の途中に冷媒ポンプ吐出圧力計52と希釈バルブ53aを設置している。また、高温再生器15から低温再生器14に至る高再蒸気配管26には、高再圧力計51が設けられている。
【0028】
また、
図1に示すように、吸収器12には、稀臭化リチウム水溶液L1aを取得して、分析するためのサンプリング管(投入部)61が備えられている。そして、サンプリング管61には、バルブ62が備えられている。
【0029】
そして、腐食抑制剤、濃度改善剤、分散剤の混合剤の機器への追加(追加液(吸収冷温水機用追加液)L2(
図2参照の追加)は、各成分がそれぞれ追加されるようにしてもよいし、予め特定の割合で混合された追加液L2を用いてもよい。
図2に示すように、吸収冷温水機Zの稼働中、または、冷暖房の切替時期における吸収冷温水機Zの長期停止中等に、作業員は、容器C(
図2参照)をサンプリング管61に接続し、バルブ62を開弁する。すると、容器Cの中の追加液L2がサンプリング管61を介して吸収器12(
図1参照)内に吸入される。これは、吸収冷温水機Zの稼働中、または、冷暖房の切替時期における吸収冷温水機Zの長期停止中では、吸収器12内が、真空になっているためである。なお、柔軟性のある容器Cは、追加液L2が全量充填されていて内部に気体は含まれない。吸入に伴って容器Cが潰れることで、空気を入れず、吸収冷温水機Z内に追加液L2を導入することができる。これにより、吸収器12内部の真空状態を維持できる。ただし、容器Cがサンプリング管61に接続される際に、微量の空気または追加液L2中の溶存酸素が吸収冷温水機Z内に取り込まれる場合がある。しかし、このように取り込まれた空気または溶存酸素は、図示しない抽気ラインから排出される。
なお、新規に設置した吸収冷温水機Zでは、内部が真空になっていない。従って、吸収液L1をサンプリング管61とは別の手法で吸収冷温水機Zの内部に投入した後、内部をを真空にする作業が行われる。
【0030】
ここで、容器Cに封入されている追加液L2は、予め特定の割合で混合された腐食抑制剤、濃度改善剤、分散剤の水溶液である。追加液L2に含まれる物質(腐食抑制剤、濃度改善剤、分散剤)は吸収液L1と同じである。すなわち、追加液L2には、腐食抑制剤としてモリブデン酸塩が含まれ、濃度改善剤として酸化数が+5以下の硫黄酸素酸塩またはスルホン酸塩が含まれ、分散剤として第2アンモニウム塩が含まれる。また、酸化数が+5以下の硫黄酸素酸塩は、亜硫酸塩及び二亜硫酸塩のうち、少なくとも1つである。分散剤の具体的な物質は吸収液L1と同様であるので、ここでの記載を省略する。
【0031】
このような追加液L2は、追加前の吸収冷温水機Zの吸収液L1の成分を勘案し、それぞれの成分の比を特定して調製される。臭化リチウムを含まない水へのモリブデン酸塩の溶解度は高く、追加液L2を吸収液L1よりも濃い溶液にすることができる。従って、濃厚な追加液L2を使用することで、吸収冷温水機Zへの追加投入量を少なくし、運搬や保管等のメンテナンスコストを低減することが可能となる。例えば、吸収液L1への追加液L2の投入による希釈を想定し、目標組成の5〜100倍程度の濃度の水溶液とすることが可能である。
【0032】
一般に、稼働前や、濃厚臭化リチウム水溶液(吸収液L1)の全量交換時には、濃厚臭化リチウム水溶液が、稼働を停止している吸収冷温水機Z内部に投入される。
それに対して、本実施形態においては、吸収冷温水機Zが稼働している時に、腐食抑制剤、濃度改善剤、及び、分散剤を追加封入する場合は、追加液L2を吸収器12に吸入させる。このようにすることで、吸収冷温水機Zの稼働を停止することなく、腐食抑制剤、濃度改善剤、及び、分散剤の追加封入が可能となる。
【0033】
そして、一般的に、吸収冷温水機Zが長期間停止していると、吸収液L1の温度の低下に伴いモリブデン酸塩溶解度が低下する。つまり、モリブデン酸塩等からなる析出物の沈殿が生じる可能性が、運転時と比較して大きくなる。このような場合に、予め、吸収冷温水機Zの運転中または停止中に、分散剤を含む追加液L2を吸収器12に吸入しておくことにより、モリブデン酸塩等からなる析出物の沈殿を抑制することができる。
【0034】
これまでは、例えば、添加剤の追加等、吸収冷温水機Zの吸収液成分を変更する際は、濃厚臭化リチウム水溶液(吸収液L1)の全量交換によって、旧液から添加剤がが添加された新液に交換していた。濃厚臭化リチウム水溶液をを全量交換する場合、(X1)吸収冷温水機Zの停止、(X2)旧液の取り出し、(X3)新液の封入、(X4)調整、(X5)運転開始の流れで交換が行われ、全体でおよそ4〜6日程度かかっていた。また、濃厚臭化リチウム水溶液を全量交換する際にかかる手間及び費用は、大半が濃厚臭化リチウム水溶液自体に依拠する。本実施形態では、全量交換する必要がないので、腐食抑制剤、濃度改善剤、分散剤を追加補充する際にかかるコストのみになり、全体のコストを大幅に軽減することができる。
【0035】
一般に、吸収冷温水機Zの稼働時間が経つにつれて、モリブデン酸塩が減少していくので、モリブデン酸塩の追加補充を行う必要がある。本実施形態による追加液L2の追加手法では、吸収冷温水機Zを停止させることなく、かつ、吸収液L1を全量交換せずに、容器Cをサンプリング管61に接続するだけで追加液L2を追加補充できる。この結果、腐食抑制剤、濃度改善剤や、分散剤の添加に要する時間を大幅に短縮するだけでなく、手順数を大幅に減らすことができる。また、モリブデン酸塩の追加補充の頻度を従来と比べて大幅に低減させることが出来る。これにより、作業員の負担を大幅に低減することができる。また、メンテナンスコストも低減することができる。
また、吸収冷温水機Zに元々備わっているサンプリング管61を利用することができるので、機器の入れ替えや改造は不要である。
なお、本実施形態による追加液L2の投入に要する時間は、0.5〜1h程度である。ちなみに、追加液L2中の濃度改善剤及び分散剤は、モリブデン酸塩のように経時的に減少するものではないため、一度投入すれば、原則として、その後再投入する必要はない。
【0036】
ここで、本実施形態における追加液L2の追加は以下の手順で行われることが望ましい。
(Y1)吸収冷温水機Zが状態チェックされる。
(Y2)吸収器12におけるモリブデン酸塩(腐食抑制剤)量が確認される。これは、サンプリング管61から取得された吸収器12での稀臭化リチウム水溶液L1a(
図1参照)を用いて行われる。
(Y3)(Y2)で確認されたモリブデン酸塩量を基に、追加されるモリブデン酸塩量が決定される。
(Y4)(Y3)で決定されたモリブデン酸塩量を基に、どのくらいの追加液L2が追加されるか決定される。
(Y5)(Y4)で決定された量の追加液L2が吸収器12に追加される。このとき、前記したように、サンプリング管61に容器Cが接続される。
(Y6)追加液L2の追加後に臭化リチウムの濃度の調整が必要な場合、必要に応じて余剰水が除去される。余剰水の除去は、冷媒ポンプ16の吐出側に設けられた余剰水排出管(不図示)から排出される。
【0037】
大型の吸収冷温水機Zでは、濃厚臭化リチウム水溶液の総量は30tにもなる。これを全量交換することは、大きな負担とコストを要する。これに対して、本実施形態では、腐食抑制剤、濃度改善剤及び分散剤が含まれている追加液L2を、吸収器12内に導入するだけであるので、負担や、コストを大きく軽減することができる。
【0038】
ここで、追加液L2は、以下の濃度構成であることが望ましい。
モリブデン酸塩(腐食抑制剤):0.8〜5.2%
酸化数が+5以下の硫黄酸素酸塩、またはスルホン酸塩(濃度改善剤):3.8〜23%
第4級アンモニウム塩(分散剤):0.1〜12%
【0039】
なお、これまでは、例えば、モリブデン酸塩としてモリブデン酸リチウムを採用する際、200ppm程度までしか溶解させることができなかったが、本実施形態の濃度改善剤を使用することにより、520ppmまで溶解または分散させることができる。これにより、吸収冷温水機Zの腐食抑制効果を大幅に向上させることができる。
また、容器C中の追加液L2に含まれる腐食抑制剤、濃度改善剤、及び、分散剤は、100倍濃縮等、濃縮された状態であるとよい。濃縮とは、吸収冷温水機Z内の吸収液L1中よりも腐食抑制剤、濃度改善剤、及び、分散剤の濃度が高い状態である。
【0040】
また、吸収液L1は、濃厚臭化リチウム水溶液に、追加液L2に含まれるモリブデン酸塩(腐食抑制剤)、酸化数が+5以下の硫黄酸素酸塩、またはスルホン酸塩(濃度改善剤)、及び、第4級アンモニウム塩(分散剤)を溶解、または、分散させる。
前記したように、追加液L2は、予め各成分を調製した上で、容器Cに封入される。それにより、追加液L2の吸収液L1への封入の際に、腐食抑制剤、濃度改善剤、及び、分散剤が同時に封入されるようにする。これは、腐食抑制剤を単独で濃厚臭化リチウム水溶液に添加すると、腐食抑制剤(とくに、モリブデン酸リチウム)が添加直後に沈殿する可能性があるためである。
【0041】
ちなみに、吸収液L1の追加(補充)は原則として行われない。長期間にわたって、吸収冷温水機Zが稼働していることにともない、何らかのトラブルによって吸収液L1が減少した時には吸収液L1の追加が行われる。
【0042】
(実験)
図3は、本実施形態の濃度改善剤と、本実施形態の濃度改善剤に該当しない化合物であるアミノメチレンホスホン酸(AMPと記載)及び1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDPと記載)を添加した吸収液L1とにおけるモリブデン酸リチウム(モリブデン酸塩の一)濃度の経時変化の比較を行った結果を示すグラフである。
図3において、横軸は経過時間(日)を示し、縦軸は水溶液中のモリブデン酸リチウム濃度(ppm)を示す。
また、実験者は、本実施形態で用いられている濃度改善剤の中から、亜硫酸ナトリウム及び二亜硫酸ナトリウムの2種を選択した。なお、濃度改善剤は、亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸ナトリウムのうち、少なくとも1つが含まれていればよい。
【0043】
本実験では、まず、実験者は、ベースとなる水溶液として、以下の各成分濃度を有する水溶液(濃厚臭化リチウム水溶液)を調製した。
臭化リチウム:60%
水酸化リチウム:960ppm
モリブデン酸リチウム:210ppm
【0044】
次に、実験者は、この水溶液に以下の濃度で各成分を添加させた溶液(溶液A1〜A5)を調製した。
溶液A1:添加なし
溶液A2:AMP:1200ppm
溶液A3:HEDP:820ppm
溶液A4:亜硫酸ナトリウム:500ppm
溶液A5:二亜硫酸ナトリウム:760ppm
【0045】
ここで、溶液A1はコントロール、溶液A2,A3が比較対象となる化合物を含有する濃厚臭化リチウム水溶液に該当し、溶液A4,A5が本実施形態の濃度改善剤を含有する濃厚臭化リチウム水溶液に該当する。また、亜硫酸ナトリウム、二亜硫酸ナトリウムは、酸化数が+5以下の硫黄酸素酸塩である。
そして、調製された溶液A1〜A5は、調製後速やかにポリプロピレン製容器に封入され、40℃で保管された。その後、一定時間経過後に溶液A1〜A5は分取され、水溶液中のモリブデン酸リチウム濃度が吸光光度法により測定された。
【0046】
前記した実験の結果が
図3のグラフである。グラフ中の符号A1〜A5は、溶液A1〜A5の結果を示す。
なお、
図3のグラフにおいて、日数が経過するに従ってモリブデン酸リチウム濃度が下がっていることは、モリブデン酸リチウムの析出物の沈殿が生じていることを示す。すなわち、モリブデン酸リチウムの沈殿が生じているため、上澄み液のモリブデン酸リチウム濃度が低下していることを示している。
逆に、日数が経過してもモリブデン酸リチウム濃度が下がっていないことは、モリブデン酸リチウムの沈殿があまり生じていないことを示す。すなわち、モリブデン酸リチウムの沈殿が生じていないため、上澄み液のモリブデン酸リチウム濃度が低下していないことを示している。
【0047】
なお、
図3に示すように、0〜1日の間における溶液A1〜A5中のモリブデン酸リチウム濃度の減少速度が、それ以降の期間と比較すると大きくなった。これは、溶液A1〜A5を調製する段階で、各添加物の全量が溶解できなかったことが影響していると考えられる。
【0048】
図3に示すように、溶液A1と比較して、比較対象となる化合物を添加した溶液A3、及び、本実施形態の濃度改善剤を添加した溶液A4,A5では、モリブデン酸リチウム濃度を長期間維持する効果が見られた。それに対し、比較対象となる化合物を添加した溶液A2では、モリブデン酸リチウム濃度を維持する効果が劣ることが確認された。
【0049】
このように、濃度改善剤(酸化数が+5以下の硫黄酸素酸塩、または、スルホン酸塩)を濃厚臭化リチウム水溶液に添加することにより、腐食抑制剤(モリブデン酸塩)を、長期間、高濃度化することができる。これにより、腐食抑制剤の追加補充の頻度を大幅に低減することができ、メンテナンスコストを削減することができる。また、多量の腐食抑制剤を投入することができるので、吸収冷温水機Zの耐食性向上による信頼性向上を図ることができる。
【0050】
図4は、濃厚臭化リチウム水溶液(吸収液L1)に対して、腐食抑制剤(モリブデン酸リチウム)を加えた溶液(溶液B1)、腐食抑制剤と濃度改善剤とを加えた溶液(溶液B2)、及び、腐食抑制剤と、濃度改善剤と、分散剤とを加えた溶液(溶液B3およびB4)における、モリブデン酸リチウム濃度の経時変化の比較を行った結果を示すグラフである。この実験は、濃厚臭化リチウム水溶液における、濃度改善剤と分散剤を併用添加することによる、腐食抑制剤の沈殿を抑制する効果を調べるために行われたものである。
図4において、横軸は経過時間(日)を示し、縦軸は濃厚臭化リチウム水溶液中のモリブデン酸リチウムの濃度(ppm)を示す。
【0051】
本実験では、55%の臭化リチウム水溶液を主成分とし、モリブデン酸リチウム(腐食抑制剤)を520ppm含有する溶液を溶液B1とする。この溶液B1に、630ppmの亜硫酸ナトリウム(本実施形態の濃度改善剤)を加えた溶液を溶液B2とする。
さらに、溶液B2に、100ppmのオクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート(本実施形態の分散剤)を加えた溶液を溶液B3とする。
また、溶液B2に、100ppmのラウリルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート(本実施形態の分散剤)を加えた溶液を溶液B4とする。
また、これらの溶液には、ph調整等の目的で0.1〜0.5%の水酸化リチウムを適宜添加した。
そして、調製した溶液B1〜B4は、大気開放状態で、室温(約23度)の下、静置した。その後、一定時間経過後に溶液B1〜B4を分取し、水溶液中のモリブデン酸リチウム濃度を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定した。
【0052】
この実験の結果が
図4のグラフである。グラフ中の符号B1〜B4は、溶液B1〜B4の結果を示す。
図4より、溶液B1と比較して、亜硫酸ナトリウム(濃度改善剤)を添加した溶液B2では、より高いモリブデン酸リチウム(腐食抑制剤)の濃度が維持された。これより、本実施形態の濃度改善剤の添加により、濃厚臭化リチウム水溶液中の腐食抑制剤が高濃度化されることが分かる。
【0053】
また、亜硫酸ナトリウムとオクジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート(分散剤)を添加した溶液B3、及び亜硫酸ナトリウムとラウリルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート(分散剤)を添加した溶液B4では、溶液B2よりも高いモリブデン酸リチウム濃度が維持された。これより、濃度改善剤に分散剤を加えることにより、濃厚臭化リチウム水溶液中のモリブデン酸リチウムは、溶解度を超えて析出したとしても、分散剤の効果によって、より長期間にわたり、分散した状態で溶液(上澄み液)中に維持される、つまり、沈殿の発生が抑制されることが分かる。
【0054】
これより、濃度改善剤と分散剤を含有する吸収液L1(及び追加液L2)は、濃度改善剤の腐食抑制剤を高濃度化する効果、及び、分散剤の腐食抑制剤等からなる析出物の沈殿を抑制する効果により、濃厚臭化リチウム水溶液中の腐食抑制剤を、長期間にわたり、安定に維持することができる。
【0055】
(炭素鋼及び銅に対する腐食影響)
後記する表1は、本実施形態の濃度改善剤と、他の化合物とにおける炭素鋼及び銅に対する腐食影響を比較する表である。
なお、炭素鋼及び銅は吸収冷温水機Zの主要構成材料である。
【0056】
本実験では、まず、ベースとなる水溶液として、以下の各成分濃度を有する水溶液を調製した。
臭化リチウム:65%
水酸化リチウム:0.1〜0.5%の範囲で調製
モリブデン酸リチウム:520ppm
【0057】
次に、この水溶液に以下の濃度で各成分を溶解させた溶液(溶液C1,C2)が調整された。
溶液C1:HEDP(他の化合物):2100ppm
溶液C2:二亜硫酸ナトリウム(本実施形態の濃度改善剤):1900ppm
【0058】
次に、溶液C1及び溶液C2のそれぞれを、冷却管を上部に取り付けたガラス容器2つ(計4つ)に封入した。続いて、各2つずつのガラス容器について、1つには炭素鋼(SS400)の試験片(50×10×2mm)が封入され、残りの1つには銅(C1220)の試験片(50×10×2mm)が封入された。
そして、封入後、溶液温度が160℃となるようにホットプレートで加熱を行うとともに、溶存酸素の影響を取り除くため、常時アルゴンガスによるバブリングを行うことで、脱気処理をした。この試験前後による炭素鋼及び銅の試験片の重量差から、試験片の腐食量(mg/dm
2)が算出された。試験時間は、100hで行った。つまり、腐食量が大きいほど、腐食が進んでいることを示している。
【0061】
表1では、溶液C1,C2に浸漬させた炭素鋼及び銅の試験片の腐食量が示されている。表1より、溶液C1及び溶液C2に浸漬させた炭素鋼試験片の腐食量は、同程度になった。これより、炭素鋼に対する腐食抑制効果は、HEDPと二亜硫酸ナトリウムとを添加した溶液C1,C2で同程度と考えられる。
【0062】
それに対し、溶液C1,C2に浸漬させた銅試験片の腐食量を比較すると、溶液C2(本実施形態)における腐食量は溶液C1における腐食量より大幅に小さい値となった。これより、本実施形態の濃度改善剤の1つである二亜硫酸ナトリウムの添加により、銅に対する高い腐食抑制効果が得られる。また、亜硫酸ナトリウムでも同様の効果を得られた。
【0063】
後記する表2は、濃厚臭化リチウム水溶液に濃度改善剤及び分散剤を併用添加した場合における腐食抑制効果を評価したものである。
まず、55%臭化リチウム水溶液を主成分とし、水酸化リチウムを0.1〜0.5%の範囲で含有し、さらに、腐食抑制剤であるモリブデン酸塩の1つとしてモリブデン酸リチウムを200ppm含有する溶液を溶液D1とする。ここで、モリブデン酸リチウムの添加濃度は、これまでの技術で添加可能な範囲の上限付近とみなされる濃度である。この溶液D1に、モリブデン酸リチウムを追加し、濃度を520ppmとするとともに、以下の添加物を加えた溶液を溶液D2とする。
亜硫酸ナトリウム:630ppm(亜硫酸塩の一、本実施形態の濃度改善剤)
オクチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート:100ppm(オクチルジメチルエチルアンモニウム塩の一:本実施形態の分散剤)
すなわち、溶液D1は、比較例であって、腐食抑制剤を含み、かつ、濃度改善剤、及び、分散剤を加えていない濃厚臭化リチウム水溶液である。そして、溶液D2は、腐食抑制剤、濃度改善剤、及び、分散剤を含む、本実施形態の吸収液L1である。
【0064】
次に、調製された溶液D1及び溶液D2それぞれが、冷却管を上部に取り付けたガラス容器に封入された。そして、各ガラス容器に、炭素鋼(SS400)の試験片(50×10×2mm)及び銅(C1220)の試験片(50×10×2mm)が封入された。
各試験片の封入後、溶液D1,D2の温度が100℃となるようにホットプレートで加熱を行った。また、実際の吸収冷温水機Z(実機)において空気漏れが発生している状況を模擬するため、常時300ppmの酸素ガス(窒素ガスでバランス)によるバブリングを行い、腐食影響を評価した。この試験前後による炭素鋼及び銅の試験片の重量差から、試験片の腐食量(mg/dm
2)が算出された。すなわち、腐食量が大きいほど、腐食が進んでいることになる。試験時間は、1000hとし、長時間試験による腐食に対する信頼性を評価した。
【0065】
前記した実験の結果が表2の表である。すなわち、表2は、実機の空気漏れを模擬した環境における炭素鋼及び銅の試験片の腐食量を示す。
【0067】
表2に示されるように、炭素鋼及び銅の両方において、これまで用いられてきた濃厚臭化リチウム水溶液である溶液D1より、腐食抑制剤に加えて、濃度改善剤及び分散剤を添加した溶液D2(本実施形態に係る吸収液L1)の方が腐食量を大幅に低減することができる。
これより、酸化数が+5以下の硫黄酸素酸塩またはスルホン酸塩(濃度改善剤)及び第4級アンモニウム塩(分散剤)の併用添加は、長期間にわたってモリブデン酸リチウムを吸収液L1中に安定に維持する効果に加え、長期間の腐食に対する信頼性を担保することが確認された。
【0068】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。
【0069】
また、本実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【解決手段】低温再生器14、高温再生器15、凝縮器13、蒸発器11、吸収器12、低温熱交換器18及び高温熱交換器19を含み、冷媒Rとして水が使用されるとともに、吸収液L1として、臭化リチウム水溶液が使用され、吸収液L1は、腐食抑制剤としてモリブデン酸塩と、濃度改善剤として酸化数が+5以下の硫黄酸素酸塩またはスルホン酸塩と、分散剤として第4級アンモニウム塩である分散剤と、を含むことを特徴とする。