(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6444558
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】プレキャスト製残存型枠パネルの塩害及び凍害を抑止する残存型枠の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 29/02 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
E02D29/02 310
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-135164(P2018-135164)
(22)【出願日】2018年7月18日
【審査請求日】2018年7月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】393010215
【氏名又は名称】山下 譲二
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】山下 譲二
【審査官】
亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】
特許第6278378(JP,B1)
【文献】
特開2011−017216(JP,A)
【文献】
特開2017−124950(JP,A)
【文献】
特開平09−144034(JP,A)
【文献】
特開2016−135980(JP,A)
【文献】
特開平10−169388(JP,A)
【文献】
特開2002−322656(JP,A)
【文献】
米国特許第09856622(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/02
E21D 11/00−19/06
E21D 23/00−23/26
E04C 2/00−2/54
E04G 9/00−25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に毛細管空隙を有し、背面から突出するように所定の位置に設けられた、ステンレス鋼材の被連結金具が設けられたプレキャスト製残存型枠パネル本体の背面及び前記被連結金具に防水機能を有する塗料を塗布することで、前記プレキャスト製残存型枠パネル本体の背面に、前記毛細管空隙の入口、前記プレキャスト製残存型枠パネル本体と前記被連結金具の埋設部との間に形成された空隙の入口、及び前記プレキャスト製残存型枠パネル本体の背面を一体に被覆する隔離塗布膜が設けられたプレキャスト製残存型枠パネルを用いて、残存型枠を構築する残存型枠構築工程と、
前記残存型枠を構築した後に、前記プレキャスト製残存型枠パネルの背面に、コンクリート等のセメント系固結材を打設するセメント系固結材打設工程と、
前記セメント系固結材を打設した後に、前記セメント系固結材を硬化させるセメント系固結材硬化工程と、を含み、
前記隔離塗布膜を形成することで、前記毛細管空隙から、前記セメント系固結材の水分が、前記プレキャスト製残存型枠パネル本体から放出され、蒸発することが抑制され、前記セメント系固結材の乾燥収縮ひび割れが抑止されることで、施工した後に、前記プレキャスト製残存型枠パネル本体にひび割れが生じることが抑止され、かつ、硬化した前記セメント系固結材側に侵入した雨水や融雪剤から溶出した塩水が、前記プレキャスト製残存型枠パネル本体の前記毛細管空隙、及び前記プレキャスト製残存型枠パネル本体と前記被連結金具の埋設部との間に形成された空隙の入口へ浸水することを防止することにより、前記プレキャスト製残存型枠パネルの凍害や塩害を抑止する、
ことを特徴とする残存型枠の施工方法。
【請求項2】
隣接する前記プレキャスト製残存型枠パネルの背面に設けられた前記隔離塗布膜の端部同士をシーリング材でつなぎ合わせることで、前記プレキャスト製残存型枠パネルの背面全域を、前記隔離塗布膜と前記シーリング材とで覆い、
つなぎ合わされた隔離塗布膜によって、前記プレキャスト製残存型枠パネルの背面全域と前記セメント系固結材とが隔離されることで、打設された前記セメント系固結材から生じる汚染物を含有した汚染水、硬化した前記セメント系固結材側に侵入した水や融雪剤から溶出した塩水が、前記プレキャスト製残存型枠パネル側に流れ込むことを防止することにより、前記プレキャスト製残存型枠パネル本体の前記毛細管空隙や目地部の隙間への浸水を防止することにより、前記プレキャスト製残存型枠パネルの表面の汚染、及び凍害や塩害を抑止する、
ことを特徴とする請求項1に記載の残存型枠の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャスト製残存型枠パネルの塩害及び凍害を抑止できる残存型枠の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート壁面を化粧被覆する工法として、プレキャスト製残存型枠パネルを立設し、そのプレキャスト製残存型枠パネルの背面にコンクリートを打設する残存型枠構築方法が知られている。
従来の残存型枠構築方法では、
図6(a)に示すように、背面に被連結金具103が設けられたプレキャスト製残存型枠パネル101が使用されている。このプレキャスト製残存型枠パネル101の背面には、クレーターUやレイタンス層Lが多く存在する。被連結金具103は、プレキャスト製残存型枠パネル101の背面から突出し、露出されている。
【0003】
この残存型枠構築方法は、
図6(a)及び(b)に示すように、例えば、鋼矢板104の前面に、プレキャスト製残存型枠パネル101を幅方向X、及び高さ方向Yに積み重ね、鋼製の連結金具(セパレータ)111を介して、被連結金具103と鋼矢板104とを連結し、残存型枠110を構築した後に、プレキャスト製残存型枠パネル101の背面と鋼矢板104との間にコンクリート112を打設し、硬化させる。硬化する際、コンクリート112が収縮し、ひび割れ変位が生じ、コンクリート112にはひび割れC2が生じる。そして、このひび割れC2が生じると、プレキャスト製残存型枠パネル101に対し幅方向Xに引き裂く力が生じるため、プレキャスト製残存型枠パネル101には、ひび割れC1が生じる。プレキャスト製残存型枠パネル101の表面にひび割れC1が生じると、外観上好ましくないことに加え、プレキャスト製残存型枠パネル101の長期耐久性が低下するおそれがある。具体的には、
図7に示したように、プレキャスト製残存型枠パネルの表面に複数のひび割れが生じる。
【0004】
このひび割れは、コンクリートの原料に含まれる水分が蒸発し、コンクリートが収縮することで生じる。構造物に生じるひび割れが許容される範囲は、「許容ひび割れ幅」として、日本工業規格やACI委員会によって規定されている(非特許文献1)。この許容ひび割れ幅は、構造物の種類や構造物の周囲の環境によって異なるが、約0.05から0.40mmである。
【0005】
コンクリートのひび割れは、コンクリートの骨材、乾燥収縮、温度等のコンクリート特有の性質によって生じる自己ひずみひび割れと、建築物の重量や地震力などによる荷重を受けることによって生じる構造ひび割れに分けられている。この自己ひずみひび割れは、主に、乾燥収縮ひび割れ、沈みひび割れ、温度ひび割れ、凍結融解ひび割れに分類される。中でも、乾燥収縮ひび割れは、コンクリートのひび割れの中でも最も頻度が多いことが知られている。
【0006】
乾燥収縮ひび割れとは、例えば、壁などの部材にコンクリートの収縮が生じないように拘束されると、コンクリートには引張力が生じ、この引張力がコンクリートの引張強度を超えたときに生じるひび割れである。そして、この乾燥収縮ひび割れは、面積が広い構造物や、端部が剛性の高い構造物で拘束された場合に生じやすい。この乾燥収縮ひび割れを防止するために、例えば、コンクリートの水分量を減らしたり、収縮量に対応した膨張剤をコンクリートに混合したりする方法が行われている(例えば、特許文献1)。
【0007】
特許文献1のように、セメント材の水分量を減らしたり、収縮量に対応した膨張剤をセメント材に混合したりする方法では、膨張剤を混合させる分だけコストがかかることに加え、コンクリートの水分量を減少させるため、コンクリートの流動性が悪くなり、複雑な隙間(空間)に適切にコンクリートが打設できないおそれがあることに加え、硬化後、所望の強度が得られないおそれもある。また、プレキャスト製残存型枠パネルの表面までひび割れが生じた場合、外観を損なわないようにひび割れ部分に粉体を塗布し、ひび割れを化粧する対応がなされている。しかし、粉体を塗布する作業時間とコストが生じるという問題に加え、時間が経過すると粉体が残存型枠から剥がれ落ちてしまい、再度ひび割れが露出するという問題があった。
【0008】
上記問題点を解消するために、発明者は、プレキャスト製残存型枠パネルのひび割れ抑止方法を提案している(特許文献2)。特許文献2のプレキャスト製残存型枠パネルのひび割れ抑止方法は、プレキャスト製残存型枠パネルのパネル本体の背面から少なくとも10mmの範囲を弾性樹脂製カバー材で覆われた被連結金具がプレキャスト製残存型枠パネル本体の背面の所定の位置に設けられ、被連結金具と鋼製の連結金具(セパレータ)とを連結して残存型枠を構築した後に、プレキャスト製残存型枠パネルの背面にコンクリートを打設するコンクリート打設工程と、コンクリートを打設した後、コンクリートを硬化させるコンクリート硬化工程を含むものである。このプレキャスト製残存型枠パネルのひび割れ抑止方法において、被連結金具の弾性樹脂製カバー材で覆われた部分は、コンクリートによって固められず、コンクリート硬化工程においてコンクリートの収縮によって生じるひび割れ変位が、弾性樹脂製カバー材の弾性変位追従機能と被連結金具の弾性変位追従機能によって、パネル本体にほとんど伝わらないことにより、施工した後に、プレキャスト製残存型枠パネルにひび割れが生じ、劣化することが抑止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017−105670号公報
【特許文献2】特許第6278378号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】鉄筋コンクリート造のひび割れ対策(設計・施工)指針・同解説 第2版第9刷、社団法人日本建築学会、2000年3月1日、p.30−33
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
プレキャスト製残存型枠パネルの劣化する要因は、コンクリートの収縮によって生じるひび割れ以外に、塩害や凍害が挙げられる。プレキャスト製残存型枠パネル本体は、一般的に、コンクリートで構成され、内部に補強材としての鉄筋が組み込まれている。このプレキャスト製残存型枠パネル本体に、例えば、融雪剤から溶出した塩水が侵入した場合、塩害を引き起こし、
図8(a)及び(b)に示すように、コンクリートの破損や鉄筋の腐食を進行させ、コンクリートの耐久性が低下する。また、寒冷地では、プレキャスト製残存型枠パネル本体の内部に侵入した水の凍結・融解が繰り返されることで、凍害が生じる。このような塩害や凍害が生じると、ひび割れ、変形、剥離が生じ、プレキャスト製残存型枠パネルの耐久性が低下したり、残存型枠の外観を損ねたりするおそれがあり、残存型枠を長期間、所望の状態で維持できなくなるおそれがある。
【0012】
さらに、打設されたセメント系固結材から生じる汚染物を含有した余剰水が、プレキャスト製残存型枠パネルの背面からおもて面にしみ出したり、隣接するプレキャスト製残存型枠パネル本体同士の目地部から漏れ出したりすることで、プレキャスト製残存型枠パネル本体の表面が汚染される(
図8)。このように、プレキャスト製残存型枠の表面が汚染されると、構築後の残存型枠の外観が著しく損なわれる。
【0013】
本発明は、残存型枠を長期間、安定して維持できることに加え、残存型枠の外観が損なわれることを回避できる残存型枠の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る残存型枠の施工方法は、内部に毛細管空隙を有するプレキャスト製残存型枠パネル本体の背面に防水機能を有する塗料を塗布することで、プレキャスト製残存型枠パネル本体の背面に、毛細管空隙の入口を覆う隔離塗布膜が設けられたプレキャスト製残存型枠パネルを用いて、残存型枠を構築する残存型枠構築工程と、残存型枠を構築した後に、プレキャスト製残存型枠パネルの背面に、コンクリート等のセメント系固結材を打設するセメント系固結材打設工程と、セメント系固結材を打設した後に、セメント系固結材を硬化させるセメント系固結材硬化工程とを含み、隔離塗布膜を形成することで、プレキャスト製残存型枠パネル本体の背面とセメント系固結材とが固着されないと共に、隔離塗布膜とセメント系固結材との間に、肌別れ隙間が形成され、セメント系固結材硬化工程において、セメント系固結材の収縮によって生じるひび割れ変位がプレキャスト製残存型枠パネル本体にほとんど伝わらず、施工した後に、プレキャスト製残存型枠パネル本体にひび割れが生じることが抑止され、かつ、硬化したセメント系固結材側に侵入した雨水や融雪剤から溶出した塩水が、プレキャスト製残存型枠パネル本体の毛細管空隙へ浸水することを防止することにより、プレキャスト製残存型枠パネルの凍害や塩害を抑止することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る残存型枠の施工方法は、隣接するプレキャスト製残存型枠パネルの隔離塗布膜の端部同士をシーリング材でつなぎ合わせることで、プレキャスト製残存型枠パネルの背面全域を、隔離塗布膜とシーリング材とで覆い、つなぎ合わされた隔離塗布膜によって、プレキャスト製残存型枠パネルの背面全域とセメント系固結材とが隔離されることで、打設されたセメント系固結材から生じる汚染物を含有した汚染水、硬化したセメント系固結材側に侵入した水や融雪剤から溶出した塩水が、プレキャスト製残存型枠パネル側に流れ込むことを防止することにより、プレキャスト製残存型枠パネル本体の毛細管空隙や目地部の隙間への浸水を防止することにより、プレキャスト製残存型枠パネルの表面の汚染、及び凍害や塩害を抑止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る残存型枠の施工方法は、プレキャスト製残存型枠パネル本体の背面に、防水機能を有する塗料を塗布し、プレキャスト製残存型枠パネル本体の背面に隔離塗布膜を設ける。この隔離塗布膜を設けることで、プレキャスト製残存型枠パネル本体の内部に形成される毛細管空隙の入り口を塞ぐ。そうすると、硬化したセメント系固結材側に侵入した雨水や融雪剤から溶出した塩水が、プレキャスト製残存型枠パネル本体の毛細管空隙(プレキャスト製残存型枠パネル本体の内部)へ浸水することが防止される。そのため、プレキャスト製残存型枠パネル本体に対する凍害や塩害を抑止することができ、プレキャスト製残存型枠パネル本体が劣化、破損、変形すること、及びプレキャスト製残存型枠パネルの補強材である鉄筋が腐食することを回避できる。
したがって、本発明に係る残存型枠の施工方法により施工した後、残存型枠の外観を保つと共に、長期間、耐久性能を低下させずに、安定して、残存型枠を維持できる。
【0017】
本発明に係る残存型枠の施工方法は、隔離塗布膜を背面に設けたプレキャスト製残存型枠パネルを使用する。この隔離塗布膜は、防水機能を有する塗料を塗布して毛細管空隙の入り口を覆うように設けられる。そうすると、隔離塗布膜が形成されるため、セメント系固結材が固着されないと共に、隔離塗布膜とセメント系固結材との間に、肌別れ隙間が形成される。
この肌別れ隙間が形成されると、セメント系固結材硬化工程において、セメント系固結材の収縮により、幅方向にひび割れ変位(プレキャスト製残存型枠パネルが引き裂かれる力)が生じても、このひび割れ変位はプレキャスト製残存型枠パネル本体にほとんど伝わらない。
したがって、残存型枠を施工した後、プレキャスト製残存型枠パネル本体にひび割れが生じることが抑止される。
【0018】
プレキャスト製残存型枠パネル本体に形成された毛細管空隙は、プレキャスト製残存型枠パネル本体の背面と表面を連通している。セメント系固結材硬化工程において、セメント系固結材に含まれている水分は、この毛細管空隙を介して、プレキャスト製残存型枠パネル本体の外側に放出され、蒸発する。
本実施形態に係る残存型枠の施工方法は、背面に形成されている毛細管空隙の入り口が塞がれているプレキャスト製残存型枠パネルを使用するため、毛細管空隙からセメント系固結材の水分が蒸発することが抑制される。そうすると、セメント系固結材は、急激に固結することが抑制され、徐々に固結されるため、ひび割れが生じにくくなる。
したがって、残存型枠を施工した後、プレキャスト製残存型枠パネル本体にひび割れが生じることが抑止される。
【0019】
本発明の残存型枠の施工方法は、隣接するプレキャスト製残存型枠パネルの隔離塗布膜の端部同士をシーリング材でつなぎ合わされ、プレキャスト製残存型枠パネルの背面全域が隔離塗布膜とシーリング材で覆われる。このつなぎ合わされた隔離塗布膜によって、プレキャスト製残存型枠パネルの背面全域とセメント系固結材とが隔離されるため、打設されたセメント系固結材から生じる汚染物を含有した汚染水、硬化したセメント系固結材側に侵入した水や融雪剤から溶出した塩水が、プレキャスト製残存型枠パネル側に流れ込むことを防止できる。そうすると、汚染水や塩水が、プレキャスト製残存型枠パネル本体の毛細管空隙や目地部の隙間へ侵入することを防止でき、プレキャスト製残存型枠パネルの表面が汚染されること、及びプレキャスト製残存型枠に対し、凍害や塩害が生じることを抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルを示す図である。(a)断面図、(b)背面図
【
図2】本発明の実施形態に係る残存型枠の施工方法によって構築された残存型枠を示す図である。(a)断面図、(b)正面図
【
図3】本発明の実施形態に係る残存型枠の施工方法によって構築された残存型枠の背面図である
【
図4】従来の残存型枠の施工方法で構築されたプレキャスト製残存型枠パネルのひび割れ変位を説明するための残存型枠の断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る残存型枠の施工方法によって構築された残存型枠の断面図である。
【
図6】従来の残存型枠の施工方法によって、鋼矢板の前面に構築された残存型枠にひび割れが生じる過程を説明するための図である。(a)断面図、(b)正面図
【
図7】従来の残存型枠の施工方法によって構築された残存型枠のプレキャスト製残存型枠パネルにひび割れが生じた様子を示す写真である。
【
図8】従来の残存型枠の施工方法によって構築された残存型枠のプレキャスト製残存型枠パネルの凍害や塩害により生じた表面汚染及び破損の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態に係る残存型枠の施工方法(以下、「施工方法」と記す。)は、プレキャスト製残存型枠パネルを用いて残存型枠を構築するものである。
以下、本実施形態に係る施工方法、及びこの施工方法に使用するプレキャスト製残存型枠パネルを、
図1から
図3を参照し、説明する。
なお、図面上、プレキャスト製残存型枠の横方向を幅方向X、縦方向を高さ方向Y、厚み方向を前後方向Zと記す。
【0022】
本実施形態に係る施工方法では、
図1に示したプレキャスト製残存型枠パネル1を使用する。このプレキャスト製残存型枠パネル1は、
図1(a)に示すように、プレキャスト製残存型枠パネル本体2と、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aの所定の位置に設けられた複数の被連結金具3と、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aに密着して形成された隔離塗布膜4とを備えている。
【0023】
[プレキャスト製残存型枠パネル本体2]
プレキャスト製残存型枠パネル本体2は、
図1(a)及び(b)に示すように、矩形状であり、その背面2aには、クレーターU及びレイタンス層Lが形成されている。そして、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aには、幅方向X及び高さ方向Yに2つずつ被連結金具3が設けられている。この被連結金具3は、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aから突出するように設けられている。
プレキャスト製残存型枠パネル本体2のサイズは、例えば、高さ300mm、幅900mmものが使用される。また、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の内部の幅方向X及び高さ方向Yには、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の強度を確保するために、複数の鉄筋5が設けられている。
また、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の内部には、製造の際に毛細管空隙9が形成される。
【0024】
[被連結金具3]
被連結金具3は、フック部6と、このフック部6の両端に連結された埋設部7とを備えている。被連結金具3は、埋設部7がプレキャスト製残存型枠パネル本体2の内部に埋め込まれ、フック部6をプレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aから突出させ、プレキャスト製残存型枠パネル本体2に設けられる。この被連結金具3には、金属製のものを使用でき、耐食性に優れた素材を使用することが好ましく、例えば、ステンレス鋼材(SUS304)が使用できる。
被連結金具3が背面2aから突出している部分は、隔離塗布膜4aで被覆されている。本実施形態では、この隔離塗布膜4aは、後述する隔離塗布膜4と同じものを使用する。
【0025】
[隔離塗布膜4]
隔離塗布膜4は、防水機能を有する樹脂塗料をプレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面に塗布し、乾燥させることで形成される。隔離塗布膜4は、防水機能に加え、弾性機能、耐アルカリ性を備えていることが好ましい。この樹脂塗料には、例えば、塩化ビニル樹脂塗料、アクリルウレタン樹脂塗料、カチオンエポキシ樹脂塗料を使用することができる。
【0026】
次に、プレキャスト製残存型枠パネル1を使用した施工方法について、説明する。
なお、残存型枠の施工方法で使用するセメント系固結材には、水分を含み、経時的に固化するものであれば使用でき、例えば、コンクリート、モルタル、気泡モルタル等を使用することができる。本実施形態では、セメント系固結材として、コンクリート12を使用した例について説明する。
【0027】
[残存型枠構築工程]
本実施形態に係る施工方法は、
図2(b)に示すように、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aに隔離塗布膜4が設けられたプレキャスト製残存型枠パネル1を積み重ね、残存型枠10を構築する。この際、被連結金具3と木製型枠(コンパネ)13に接続された鋼製の連結金具(セパレータ)11によって連結することで、木製型枠13の前面にプレキャスト製残存型枠パネル1が固定される。
【0028】
[シーリング材被覆工程]
次に、
図3に示すように、隣接するプレキャスト製残存型枠パネル1の隔離塗布膜4の上下左右の端部をシーリング材14によって、隔離塗布膜4の端部同士をつなぎ合わせる。隔離塗布膜4の端部同士をつなぎ合わせることで、プレキャスト製残存型枠パネル1の背面2a全域が、つなぎ合わされた隔離塗布膜4とシーリング材14で完全に覆われる。このシーリング材14には、例えば、シリコンシーリング材や防水テープを使用することができる。
【0029】
[セメント系固結材打設工程]
プレキャスト製残存型枠パネル1の背面2a全域をつなぎ合わされた隔離塗布膜4で覆った後、プレキャスト製残存型枠パネル1と木製型枠13との間にコンクリート12を打設する(
図2(a))。プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2a全域が隔離塗布膜4とシーリング材14によって覆われているため、コンクリート12は、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aに接触することなく打設される。
【0030】
[セメント系固結材硬化工程]
コンクリート12を打設した後、コンクリート12を硬化させる。硬化の際、コンクリート12は収縮する。
【0031】
次に、本実施形態に係る施工方法、及びこの施工方法に使用するプレキャスト製残存型枠パネル1の作用効果について、説明する。
【0032】
従来の残存型枠の施工方法は、背面に多くのクレーターUを有し、レイタンス層Lが存在するプレキャスト製残存型枠パネル101を使用していた。この残存型枠の施工方法では、
図4に示すように、コンクリート112が硬化する際に、コンクリート112が収縮する変位が幅方向Xに加わり、コンクリート112にひび割れC2が発生する。
さらに、プレキャスト製残存型枠パネル101の背面にレイタンス層Lが存在すると、プレキャスト製残存型枠パネル101のひび割れは生じにくくなるが、プレキャスト製残存型枠パネル101の目地部やプレキャスト製残存型枠パネル101に形成された毛細管空隙102から、コンクリート112側から発生する汚水等が漏れ出す。そうすると、プレキャスト製残存型枠パネル101の表面が汚染される。
【0033】
本実施形態に係る施工方法は、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aに隔離塗布膜4を設け、かつ、隣接するプレキャスト製残存型枠パネル1の隔離塗布膜4の端部同士をシーリング材14でつなぎ合わせ、残存型枠10の背面2a全域を、つなぎ合わされた隔離塗布膜4とシーリング材14で覆う。
そうすると、
図5に示すように、隔離塗布膜4によって毛細管空隙9の入り口9aが完全に塞がれ、かつ隔離塗布膜4とシーリング材14によって、残存型枠10の背面2a全域とコンクリート12とが完全に遮断される。
そのため、硬化したコンクリート12側に侵入した雨水や融雪剤から溶出した塩水が、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の毛細管空隙9(プレキャスト製残存型枠パネル本体2の内部)へ侵入することが抑制される。そうすると、プレキャスト製残存型枠パネル本体2に対して生じる凍害や塩害を抑止することができ、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の劣化、破損、変形すること、及びプレキャスト製残存型枠パネル本体2の補強材である鉄筋5が腐食することを回避できる。
したがって、本実施形態に係る施工方法により施工した後、残存型枠10の外観を保つと共に、長期間、耐久性能を低下させずに、安定して、残存型枠10を維持できる。
【0034】
また、残存型枠10の背面2a全域を、つなぎ合わされた隔離塗布膜4とシーリング材14で覆われているため、プレキャスト製残存型枠パネル1の目地部8の隙間からの水漏れ及びプレキャスト製残存型枠パネル本体2に形成された毛細管空隙9を介して、水分がプレキャスト製残存型枠パネル1の表面に漏れ出すことを長期に亘り防止し、水漏れ防止の信頼性を飛躍的に向上させることができる。
【0035】
コンクリート112には、上述したとおり、収縮によって生じるひび割れ変位が、幅方向Xに生じる。
本実施形態に係る施工方法では、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の背面2aとコンクリート12との間に、コンクリート12の収縮により、隔離塗布膜4とコンクリート12との間に、肌別れ隙間が形成される。この肌別れ隙間が形成されると、セメント系固結材硬化工程において、コンクリート12の収縮により、幅方向にひび割れ変位が生じても、このひび割れ変位はプレキャスト製残存型枠パネル本体2にほとんど伝わらない。
したがって、残存型枠10を施工した後に、プレキャスト製残存型枠パネル本体2にひび割れが生じることを抑止することができ、残存型枠10の外観を維持することができる。
【0036】
また、本実施形態で使用するプレキャスト製残存型枠パネル1には隔離塗布膜4が設けられ、プレキャスト製残存型枠パネル本体2の毛細管空隙9の入り口9aが塞がれているため、セメント系固結材硬化工程において、毛細管空隙9からコンクリート12の水分が放出されることが抑制される。そうすると、コンクリート12は、徐々に固結し、ひび割れが生じにくくなる。そのため、残存型枠10を施工した後、プレキャスト製残存型枠パネル本体2にひび割れが生じることが抑止される。
このように、コンクリート12が徐々に固結することで、ひび割れが生じにくくなる効果は、夏場に残存型枠を施工する場合や、日当たりが良い位置に残存型枠10を構築する場合に、有効である。
【0037】
以上説明した通り、本実施形態に係る施工方法を用いることによって、塩害や凍害によってプレキャスト製残存型枠パネルが劣化することを防止でき、プレキャスト製残存型枠にひび割れが生じることを抑止し、さらに、残存型枠の表面が汚染されることを防止できる。そのため、本実施形態に係る施工方法は、非常に有用性の高いものであると共に、汎用性の高いものである。
【0038】
以上、本実施形態について説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
例えば、背面2a全域に隔離塗布膜4を設けた場合が最も顕著な効果を生じさせるが、背面2a全域でなくても、所望の効果が生じれば、隔離塗布膜4を設ける領域は限定されない。
さらに、本実施形態では、被連結金具3がフック状のものを例に示したが、連結金具11と連結させることができれば、フック状に限定されない。
【0039】
本実施形態では、プレキャスト製残存型枠パネル2の背面2aに設けられる隔離塗布膜は、背面2aに形成される毛細管空隙9の入り口9aを防ぐことができるものであればよい。また、本実施形態の残存型枠の施工方法は、例えば、鋼矢板の前面に構築したり、残存型枠10同士を互いに向き合わせたりして、構築できる。
【符号の説明】
【0040】
1 プレキャスト製残存型枠パネル(パネル)
2 プレキャスト製残存型枠パネル本体(パネル本体)
2a 背面(裏面)
3 被連結金具
4,4a 隔離塗布膜
5 鉄筋
6 フック部
7 埋設部
8 目地部
9 毛細管空隙
9a 入り口(毛細管空隙の入り口)
10 残存型枠
11 連結金具(セパレータ)
12 コンクリート(セメント系固結材)
13 木製型枠(コンパネ)
14 シーリング材
101 プレキャスト製残存型枠パネル
102 毛細管空隙
103 被連結金具
104 鋼矢板
110 残存型枠
111 連結金具(セパレータ)
112 コンクリート
C1,C2 ひび割れ
L レイタンス層
U クレーター
X 幅方向
Y 高さ方向
Z 前後方向
【要約】
【課題】残存型枠を長期間、安定して維持できることに加え、残存型枠の外観が損なわれることを回避する残存型枠の施工方法を提供する。
【解決手段】残存型枠の施工方法は、パネル本体2の背面2aに形成された毛細管空隙の入り口9aとレイタンス層Lを覆うように、防水機能を有する塗料を塗布し、パネル本体2の背面に隔離塗布膜4を設けたパネル1を用いて、残存型枠10を構築し、パネル1の背面に、コンクリート12を打設し、硬化させる。そして、隔離塗布膜4により、パネル本体2の背面2aとコンクリート12とが固着されないと共に、施工した後に、パネル本体2にひび割れが生じることが抑止され、侵入した雨水や融雪剤から溶出した塩水が、パネル本体2の毛細管空隙9へ浸水することを防止することで、パネル1の凍害や塩害を抑止する構成をとる。
【選択図】
図1