特許第6444568号(P6444568)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6444568青色を呈する酸化アルミニウム単結晶およびその酸化アルミニウム単結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444568
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】青色を呈する酸化アルミニウム単結晶およびその酸化アルミニウム単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/20 20060101AFI20181217BHJP
   C30B 11/10 20060101ALI20181217BHJP
   C30B 15/04 20060101ALI20181217BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   C30B29/20
   C30B11/10
   C30B15/04
   C30B33/02
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-514094(P2018-514094)
(86)(22)【出願日】2016年4月25日
(86)【国際出願番号】JP2016063616
(87)【国際公開番号】WO2017187647
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2018年5月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391049530
【氏名又は名称】株式会社信光社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真紀
(72)【発明者】
【氏名】浅賀 翔平
(72)【発明者】
【氏名】川南 修一
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−524326(JP,A)
【文献】 特開昭60−231490(JP,A)
【文献】 特開昭60−191098(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101941727(CN,A)
【文献】 SAITO, Yukinori, et al.,Coloration of sapphire by Co ion implantation,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B:Beam Interactions with Materials and Atoms,1991年,vol.59-60, Part 2,p.1173-1176
【文献】 KEIG, G.A.,Influence of the valence state of added impurity ions on the observed color in doped aluminum oxide single crystals,Journal of crystal growth,1968年,vol.2,p.356-360,ISSN 0022-0248
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
CAplus(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発色剤としてコバルトを含有し、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が50ppmから130ppmであり、光の吸収ピークの波長が、440nm、550nm、590nmおよび630nmであり、吸収される光の波長が、510nmから740nmであり、
波長590nmにおける吸収係数が60m−1から570m−1であり、
青色である、
ことを特徴とする酸化アルミニウム単結晶。
【請求項2】
酸化アルミニウムを主原料とし、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が1700ppmから13700ppmである原料から、火炎溶融法によって請求項1に記載の酸化アルミニウム単結晶を育成する、
ことを特徴とする酸化アルミニウム単結晶の製造方法
【請求項3】
酸化アルミニウムを主原料とし、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が5000ppmから20000ppmである原料から、回転引上げ法によって請求項1に記載の酸化アルミニウム単結晶を育成する、
ことを特徴とする酸化アルミニウム単結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の酸化アルミニウム単結晶を育成する手順を経た後、
酸素分圧が10−6atmから10−9atmの雰囲気下、所定の温度で熱処理する手順を経る、
ことを特徴とする酸化アルミニウム単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青色を呈する酸化アルミニウム単結晶、およびその酸化アルミニウム単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然のブルーサファイアには、鉄とチタンが含まれていることが知られている。また、工業的にも、古くから発色剤として鉄とチタンを結晶中に固溶させたブルーサファイアが製造されている。発色剤として鉄とチタンを結晶中に固溶させた場合、製造されたブルーサファイアは、赤味のある青色となることが知られている(特許文献1)。
また、鉄とチタンに加えて、発色剤としてニッケルを結晶中に固溶させ、赤味のないスカイブルーに発色させる製造方法が提案されている(特許文献2)。
一方、スパッタリングなどのイオン注入法によって、コバルトを結晶中に固溶させることで、青色に発色することが知られている。このイオン注入法では、コバルトは結晶の表面付近にのみ固溶する(特許文献3および非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3940581号
【特許文献2】特許第4828285号
【特許文献3】特許第5463352号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms, Volumes 59−60, Part 2, 1 July 1991, Pages 1173−1176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スカイブルー、マリンブルーと呼ばれるような鮮やかな青色を呈し、かつ結晶の内部まで青色となった酸化アルミニウム単結晶はこれまでに報告されていない。
発色剤として鉄とチタンを固溶させた酸化アルミニウム単結晶は、450nmから700nmにブロードな吸収帯を有する。そのため、この酸化アルミニウム単結晶は、400nmから450nmの波長を持つ青色の光が透過し、少し紫色がかった深い紺色となる。この発色は、鉄とチタンの電荷移動によるものと言われており、鉄のみを固溶させた場合では発色せず、4価のチタンが存在することが必要である。
酸化アルミニウム単結晶の結晶中に複数の発色剤を固溶させた場合、発色剤が結晶の外周部に偏析しやすく、酸化アルミニウム単結晶の色が不均一になり、鮮やかに発色する酸化アルミニウム単結晶を得ることが困難であるという問題があった。
また、イオン注入法によって、コバルトを結晶に固溶した場合、結晶の表面部分は青色に着色するが、結晶の内部は青色に着色しない。そのため、結晶の内部まで青色である酸化アルミニウム単結晶を得ることはできていない。さらに、イオン注入装置は高価で、処理能力が低いため、目的の酸化アルミニウム単結晶の生産性が低い。
【0006】
本発明は、結晶の内部まで、スカイブルー、マリンブルーと呼ばれるような鮮やかな青色を呈する酸化アルミニウム単結晶を、工業的に妥当なコストで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
青色を呈する酸化アルミニウム単結晶を得るために、種々のドーパントについて、その量を変更して実験を行った。その結果、アルミニウムの原子数に対して50ppmから130ppmのコバルトを含む酸化アルミニウム単結晶は青色を呈することがわかった。
この酸化アルミニウム単結晶は、吸収ピークを、波長440nm、550nm、590nmおよび630nmに有し、510nmから740nmの波長の光を吸収することを特徴とする。さらに、この酸化アルミニウム単結晶は、吸収波長590nmにおける吸収係数αが、60m−1から570m−1であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る酸化アルミニウム単結晶の製造方法は、酸化アルミニウムを主原料とし、アルミニウムの原子数に対し1700ppmから13700ppmとなるようにコバルトを混合させた原料から火炎溶融法によって、上記の青色を呈する酸化アルミニウム単結晶を育成することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る酸化アルミニウム単結晶の製造方法は、酸化アルミニウムを主原料とし、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が5000ppmから20000ppmの原料から回転引上げ法によって、上記の青色を呈する酸化アルミニウム単結晶を育成することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明に係る酸化アルミニウム単結晶の製造方法は、火炎溶融法または回転引上げ法によって酸化アルミニウム単結晶を育成した後に、酸素分圧が10−6atmから10−9atmの雰囲気下、所定の温度で熱処理することを特徴とする。ここで、所定の温度とは、1400℃以上、酸化アルミニウム単結晶の融点以下の温度をいい、炉材などの制約から高温で雰囲気を制御することは困難な場合が多いことから、1800℃以下の温度が望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、アルミニウムの原子数に対しコバルトの濃度が50ppmから130ppmであり、青色を呈する酸化アルミニウム単結晶を提供する。この酸化アルミニウム単結晶は赤味がなく、結晶の内部まで青色を呈する。
本発明に係る酸化アルミニウム単結晶は、吸収ピークを波長440nm、550nm、590nmおよび630nmに有し、510nmから740nmの波長の光を吸収するため、緑色、黄色および赤色の光を吸収し、強く鮮やかな青色を呈する。
本発明に係る酸化アルミニウム単結晶は、波長590nmにおける吸収係数αが60m−1から570m−1であり、黄色の光が吸収され、補色である青色が強く呈色する。
本発明に係る酸化アルミニウム単結晶の製造方法は、酸化アルミニウムを主成分とし、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が1700ppmから13700ppmである原料から、火炎溶融法によって単結晶を育成することで、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が50ppmから130ppmの青色の酸化アルミニウム単結晶を製造することができる。
【0012】
また、本発明に係る酸化アルミニウム単結晶の製造方法は、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が5000ppmから20000ppmである原料から、回転引上げ法によって単結晶を育成することで、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が60ppmから110ppmの青色の酸化アルミニウム単結晶を製造することができる。
また、原料から結晶を育成させた後に、酸素分圧が10−6から10−9atmの雰囲気下、所定の温度で熱処理を行うことで、赤みがなく、内部まで鮮やかな青色を呈する酸化アルミニウム単結晶を得ることができる。
上記製造方法により、発色剤としてコバルトのみを使用し、内部まで青色を呈するサファイアを製造することができる。そのため、アクセサリーや時計などに使用できる実用サイズの青色を呈するサファイアを妥当なコストで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態に係る酸化アルミニウム単結晶の透過率測定の結果を示す図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る酸化アルミニウム単結晶の透過率測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に関する実施形態について、詳細に説明する。この実施形態は、本発明の構成を具現化した例示に過ぎず、特許請求の範囲に記載した事項を逸脱することがなければ種々の設計変更を行うことができる。
【0015】
[第1実施形態]
本実施形態に係る酸化アルミニウム単結晶の製造方法は、酸化アルミニウムを主原料とし、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が1700ppmから13700ppmである原料から、火炎溶融法によって単結晶を育成する手順と、単結晶を育成する手順を経た後、酸素分圧が10−9atmの雰囲気下、1500℃の温度で熱処理する手順を経て、酸化アルミニウム単結晶を生成する。
酸化アルミニウム単結晶の原料として、酸化アルミニウムと酸化コバルトを使用した。
【0016】
(実施例1〜実施例5)
酸化アルミニウムに、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が1700ppmから13700ppmとなるように、酸化コバルトを混合させ、原料(出発原料)を生成した。そして、この原料から水素―酸素燃焼炎による火炎溶融法によって、単結晶を育成した。
結晶育成方向:[11−20]
結晶育成速度:10mm/h
次に、この単結晶を、a面が平面となるように切断および研磨し、3mmの厚さの試料を作成した。
そして、試料を高純度アルミナチューブの管状型電気炉の中で、所定の酸素分圧(10−9atm)のガスを流しながら、1500℃で50時間熱処理を行った。
酸素分圧は、窒素ガスに、水素+水蒸気を所定の割合になるように含ませることにより、調節した。
【0017】
(比較例1〜比較例3)
比較例1では、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が850ppmである原料を生成した。そして、実施例1〜5と同様の条件で、原料から火炎溶融法によって、結晶を育成し、熱処理を行った。比較例2では、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が6400ppmである原料を生成し、原料から火炎溶融法によって結晶を育成した。なお、育成後の結晶の熱処理は行わなかった。比較例3では、アルミニウムの原子数に対する、鉄の濃度が300ppmおよびチタンの濃度が600ppmである原料を生成し、火炎溶融法によって結晶を育成した。なお、育成後の結晶の熱処理は行わなかった。
実施例および比較例で得られた酸化アルミニウム単結晶の色の観察、透過率の測定およびICP分析を行った。その結果を表1に示す。なお、表1において、コバルト濃度がカッコ書きで示されているものは、透過率測定を行い、ICP分析値と透過率の検量線から求めた推定値である。検量線は、4つの試料について大気中1650℃で熱処理した後、透過率測定およびICP分析を行い、得られたICP分析値と波長440nmの透過率から作成した。
【0018】
【表1】
【0019】
ICP分析の結果から、実施例1から実施例5で得られた酸化アルミニウム単結晶には、アルミニウムの原子数に対し50ppmから130ppmのコバルトが含有していることが確認できた。
また、酸化アルミニウム単結晶の色を観察したところ、実施例1の酸化アルミニウム単結晶は、青色で一部が緑色に呈色していた。実施例2〜実施例5の酸化アルミニウム単結晶は、青色に呈色していた。
【0020】
一方、比較例1において、熱処理後の酸化アルミニウム単結晶は、アルミニウムの原子数に対し30ppmのコバルトが含有し、青色に呈色せず、緑色に呈色していた。また、比較例2において、熱処理を行わなかった酸化アルミニウム単結晶は、青色に呈色せず、緑色で一部が茶色に呈色した。
以上の結果から、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が1700ppmから13700ppmの原料から、水素―酸素燃焼炎による火炎溶融法によって、結晶を育成し、その後、酸素分圧が10−9atmの雰囲気中、1500℃の温度で熱処理することにより、青色である酸化アルミニウム単結晶を製造することができることが分かった。
なお、熱処理工程を経ず、結晶育成時の雰囲気を制御することで、本発明の青色の酸化アルミニウム単結晶が得られることもあるが、育成時に雰囲気を制御することは困難な場合が多く、酸化アルミニウム単結晶に色むらが存在することが多い。そのため、熱処理工程を経ることで、色むらが少なく、内部まで青色を呈する酸化アルミニウム単結晶を得ることができる。
【0021】
また、熱処理後に検出されたコバルト量は、結晶の育成時に原料に含まれるコバルトの量よりも、約1桁〜2桁少ないが、これは偏析によるものと考えられる。結晶中にはそれほど多くのコバルトを固溶することができないためだと考えられる。
【0022】
[第2実施形態]
本実施形態に係る酸化アルミニウム単結晶の製造方法は、酸化アルミニウムを主原料とし、アルミニウム原子数に対するコバルトの濃度が5000ppmから20000ppmである原料から、回転引上げ法によって単結晶を育成する手順を経た後、酸素分圧が10−6atmから10−9atmの雰囲気下、所定の温度で熱処理する手順を経て、酸化アルミニウム単結晶を生成する。
ここで、所定の温度とは、1400℃以上、酸化アルミニウム単結晶の融点以下の温度をいう。1400℃より低い温度で熱処理した場合、酸化アルミニウム単結晶が青色に着色するのに長時間を要する。一方、高温で融点以下の温度で熱処理することも可能であるが、炉材などの制約から高温で雰囲気を制御することは困難な場合が多いことから、1800℃以下の温度が望ましい。そのため、本実施形態では、1400℃から1800℃の温度で熱処理を行った。
【0023】
(実施例6〜実施例13)
実施例6〜13では、酸化アルミニウムに、アルミニウム原子数に対しコバルトの濃度が5000ppmから20000ppmとなるように酸化コバルトを混合することで原料(出発原料)を生成し、坩堝に充填した。そして、回転引上装置(いわゆるチョクラルスキー法:CZ法)を使用して、以下の条件により結晶を育成した。
引き上げ方向:[001]
引き上げ速度:0.5mm/h
結晶回転数:10rpm
育成した結晶を、c面が平面となるように切断および研磨し、厚さ3mmの試料を作成した。そして、この試料に対し、1400℃から1800℃で熱処理を行った。
試料を1600℃以下の温度で熱処理する場合には、高純度アルミナチューブの管状型電気炉の中で、所定の酸素分圧(10−6atmから10−9atm)のガスを流しながら、1400℃から1600℃で50時間熱処理を行った。
試料を1800℃で熱処理する場合には、タングステンをヒーターとし、タングステンの金属板で覆われた電気炉の中で、酸素分圧が10−9atmとなるようにガスを流しながら、5時間熱処理を行った。
酸素分圧は、第1実施形態と同様に、窒素ガスに、水素+水蒸気を所定の割合になるように含ませることで、調節した。
【0024】
(比較例4〜比較例6)
比較例4では、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が3000ppmの原料を生成した。そして、実施例6〜13と同様の条件で、混合物を回転引上げ法によって結晶を育成し、酸素分圧が10−9atmの雰囲気下、1500℃で熱処理を行った。比較例5では、アルミニウムの原子数に対しコバルトの濃度が10000ppmの原料を生成し、回転引上げ法によって結晶を育成した。なお、育成後の結晶の熱処理は行わなかった。比較例6では、アルミニウムの原子数に対しコバルトの濃度が10000ppmの原料を生成し、回転引上げ法によって結晶を育成した。育成後の結晶は、酸素分圧が10−10atmの雰囲気下、1500℃で熱処理を行った。
実施例および比較例で得られた酸化アルミニウム単結晶の色の観察、透過率の測定、ICP分析を行った。その結果を表2に示す。なお、表1と同様に、得られたICP分析値と透過率から検量線を作成し、検量線から求めたコバルトの濃度の推定値をかっこ書きで示している。
【0025】
【表2】
【0026】
ICP分析の結果から、実施例6〜実施例13で得られた酸化アルミニウム単結晶には、アルミニウムの原子数に対し60ppmから110ppmのコバルトが含有していることが確認できた。
また、酸化アルミニウム単結晶の色を観察したところ、実施例6、実施例11および実施例13で得られた酸化アルミニウム単結晶は、緑色で一部が青色に呈色していた。その他、実施例で得られた酸化アルミニウム単結晶は、青色に呈色していた。また、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度を高くするにつれて青色の濃さが増すことが分かった。
【0027】
一方、比較例4において、熱処理後の酸化アルミニウム単結晶は、アルミニウムの原子数に対し26ppmのコバルトが含有され、青色に呈色せず、緑色に呈色した。このことから、出発原料において、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が5000ppmより低いとき、酸化アルミニウム単結晶は青色に呈色しないことが分かった。
また、比較例5において、熱処理を行わなかった酸化アルミニウム単結晶は、アルミニウムの原子数に対し85ppmのコバルトが含有されていたが、青色に呈色せず、緑色に呈色した。比較例6において、酸素分圧を10−10atmで熱処理をした場合、酸化アルミニウム単結晶は、茶色に呈色した。このことから、熱処理における酸素分圧が10−9atmよりも低い場合、および、酸素分圧が10−6atmよりも高い場合、酸化アルミニウム単結晶は青色に呈色しないことが分かった。
【0028】
以上の結果から、アルミニウムの原子数に対するコバルトの濃度が5000ppmから20000ppmの原料から、回転引上げ法によって酸化アルミニウム単結晶を育成し、その後、酸素分圧が10−6atmから10−9atmの雰囲気中、1400℃以上1800℃以下の温度で熱処理することにより、青色である酸化アルミニウム単結晶を製造することができることが分かった。
なお、第1実施形態と同様に、熱処理工程を経ず、結晶育成時の雰囲気を制御することで、本発明の青色の酸化アルミニウム単結晶が得られることもあるが、育成時に雰囲気を制御することは困難な場合が多く、酸化アルミニウム単結晶に色むらが存在することが多い。そのため、熱処理工程を経ることで、色むらが少なく、内部まで青色を呈する酸化アルミニウム単結晶を得ることができる。
【0029】
次に、第1実施形態および第2実施形態で作製した酸化アルミニウム単結晶の透過率を測定した結果を図1および図2に示した。
青色に呈色した酸化アルミニウム単結晶(実施例10)は、光の吸収ピークを440nm、550nm、590nmおよび630nmに有し、特に510nmから740nmの波長の光を吸収することが分かった。熱処理を行っていない緑色の酸化アルミニウム単結晶(比較例5)の吸収ピークと比較すると、青色の波長である440nmの吸収が小さくなり、500nmから670nmの吸収が大きくなることが分かった。500nmから560nmは緑色の光であり、560nmから600nmは黄色の光であり、600nmから750nmは赤色の光であることから、これらの波長の光の吸収が大きくなり、青色が強く鮮やかになっている。
【0030】
従来からブルーサファイアとして知られている鉄とチタンをドープした酸化アルミニウム単結晶(比較例3)の透過スペクトルは、500nmから700nmにブロードな吸収帯を有し、鮮やかな青色にはならないことを示している。本実施形態における酸化アルミニウム単結晶は、500nmに吸収ピークがなく、赤味のない青色になっていることを確認できた。
【0031】
次に、本実施形態で作製した酸化アルミニウム単結晶の透過率測定により得られたスペクトルから、吸収波長590nmにおける吸収係数αを算出した。590nmの波長は、吸収が大きく、緑色の結晶と対比がしやすい波長である。590nmは黄色の光の波長であるため、590nmの波長の吸収が大きいと補色である青色が強くなるため、この波長の吸収係数を算出した。
【0032】
第1実施形態に係る酸化アルミニウム単結晶の590nmにおける吸収係数αは、70m−1から570m−1であった。一方、第2実施形態に係る酸化アルミニウム単結晶の590nmにおける吸収係数αは、60m−1から260m−1であった。
このことから、青色に呈色した酸化アルミニウム単結晶の590nmにおける吸収係数αは、60m−1から570m−1の範囲であり、青色が強く呈色することが分かった。
なお、本実施形態では、発色剤として酸化コバルトを使用したが、例えば、炭酸コバルトやシュウ酸コバルト等を使用することもできる。また、熱処理で使用する酸素分圧は、アルゴン、窒素などの不活性雰囲気ガスに、水素+水蒸気または一酸化炭素+二酸化炭素を所定の割合になるように含ませることで調節することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
発色剤としてコバルトのみを使用し、内部まで青色を呈するサファイアを製造することができ、アクセサリーや時計などに使用できる実用サイズの青色を呈するサファイアを妥当なコストで製造できる。
図1
図2