【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。したがって、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
【0012】
(車両用ステアリングシステム)
図1は、本発明に従う制御装置16が適用された車両用ステアリングシステム10の構成例を示す。
図1に示されるように、車両用ステアリングシステム10(車両用ステアリング装置と呼んでもよい。)は、一例として、自動車等の車両の操舵輪11の操舵入力が生じる操舵部12と、左右の転舵車輪13,13を転舵する転舵部14と、操舵部12と転舵部14との間に介在しているクラッチ15(広義には、連結装置)と、制御装置(車両用ステアリング制御装置)16と、を含む。クラッチ15が開放状態となる通常時には、操舵部12と転舵部14との間が機械的に分離されている。このように、車両用ステアリングシステム10は、通常時において、クラッチ15を開放状態とし、操舵輪11の操舵量に応じて転舵用アクチュエータ39(広義には、転舵力発生装置)を作動させることにより、左右の転舵車輪13,13を転舵する方式、いわゆるステアバイワイヤ式(steer-by-wire、略称「SBW」)を採用している。
【0013】
操舵部12は、ユーザである例えば運転手が操作する操舵輪11と、この操舵輪11に連結されているステアリング軸21と、操舵輪11に対して操舵反力(反力トルク)を付加する反力付加アクチュエータ22(広義には、反力発生装置)と、を含む。この反力付加アクチュエータ22は、運転者が操舵輪11の操舵力に抵抗する操舵反力を発生することによって、運転者に操舵感を与える。
【0014】
図1の例において、反力付加アクチュエータ22は、操舵反力を発生する反力モータ23と、操舵反力をステアリング軸21に伝達する反力伝達機構24と、を含む。反力モータ23は、例えば電動モータによって構成される。反力伝達機構24は、例えばウォームギア機構によって構成される。このウォームギア機構24(反力伝達機構24)は、反力モータ23のモータ軸23aに設けられたウォームギヤ24aと、ステアリング軸21に設けられたウォームホイール24bとからなる。反力モータ23が発生した操舵反力は、反力伝達機構24を介して、ステアリング軸21に付加される。
【0015】
図1の転舵部14は、ステアリング軸21に自在軸継手31,31及び連結軸32とによって連結されている入力軸33と、この入力軸33にクラッチ15を介して連結されている出力軸34と、この出力軸34に操作力伝達機構35によって連結されている転舵軸36と、この転舵軸36の両端にタイロッド37,37及びナックル38,38を介して連結されている左右の転舵車輪13,13と、転舵軸36に転舵用動力を付加する転舵用アクチュエータ39と、を含む。
【0016】
図1の例において、操作力伝達機構35は、例えばラックアンドピニオン機構によって構成される。このラックアンドピニオン機構35(操作力伝達機構35)は、出力軸34に設けられたピニオン35aと、転舵軸36に設けられたラック35bとからなる。転舵軸36は、軸方向(車幅方向)へ移動可能である。
【0017】
図1の転舵用アクチュエータ39は、転舵用動力を発生する転舵モータ(転舵動力モータ)41と、転舵用動力を転舵軸36に伝達する転舵動力伝達機構42とからなる。転舵モータ41が発生した転舵用動力は、転舵動力伝達機構42によって転舵軸36に伝達される。この結果、転舵軸36は車幅方向にスライドする。転舵モータ41は、例えば電動モータによって構成される。
【0018】
転舵動力伝達機構42は、例えばベルト伝動機構43とボールねじ44とからなる。ベルト伝動機構43は、転舵モータ41のモータ軸41aに設けられた駆動プーリ45と、ボールねじ44のナットに設けられた従動プーリ46と、駆動プーリ45と従動プーリ46とに掛けられたベルト47とからなる。ボールねじ44は、回転運動を直線運動に変換する変換機構の一種であって、転舵モータ41が発生した駆動力を前記転舵軸36に伝達する。なお、転舵動力伝達機構42は、ベルト伝動機構43とボールねじ44の構成に限定されるものではなく、例えばウォームギヤ機構やラックアンドピニオン機構であってもよい。
【0019】
(車両用ステアリング制御装置)
図1に示されるように、制御部と呼んでもよい制御装置(車両用ステアリング制御装置)16は、一例として、操舵角センサ91、操舵トルクセンサ92、モータ回転角センサ(反力モータ回転角センサ)93、出力軸回転角センサ94、モータ回転角センサ(転舵モータ回転角センサ)95、車速センサ96、ヨーレートセンサ97、加速度センサ98、その他の各種センサ99からそれぞれ検出信号を受けて、クラッチ15、反力モータ23、転舵モータ41及びソレノイド71に制御信号を発する。
【0020】
図1の例において、操舵角センサ91は、操舵輪11の操舵角を検出する。操舵トルクセンサ92は、ステアリング軸21に発生する操舵トルクを検出する。モータ回転角センサ93は、反力モータ23の回転角を検出する。出力軸回転角センサ94は、ピニオン35aを有した出力軸34の回転角を検出する。モータ回転角センサ95は、転舵モータ41の回転角を検出する。車速センサ96は、車両の走行速度を検出する。ヨーレートセンサ97は、車両のヨー角速度(ヨー運動の角速度)を検出する。加速度センサ98は、車両の加速度を検出する。
【0021】
本発明に従う制御装置(車両用ステアリング制御装置)16では、反力モータ23及び転舵モータ41の駆動状態を監視するたけで、入力軸33とラック35bを機械的に連結可能な連結装置(例えばクラッチ15)が故障しているか否かを判定することができる。本発明に従う制御装置16を含むステアリングシステムでは、特許文献1に開示されるようなギャップセンサを備える必要がなく、ステアリングシステムの製造コストを低減することができる。
【0022】
(第1の実施形態)
図2(A)、
図2(B)及び
図2(C)は、それぞれ、クラッチ15が正常な状態で転舵モータ41を位置保持駆動する時の、反力モータ23の電流値の変化、転舵モータ41の電流値の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
図2(C)に示されるように、例えば車両を始動可能にさせるイグニッションスイッチ(図示せず)がONされる時に、制御装置16は、クラッチ15を開放状態から係合状態に切り替える。この時に、
図2(A)に示されるように、制御装置16は、反力モータ23を制御して、ステアリング軸21の回転を開始することができる。言い換えれば、クラッチ15が係合状態である時に、制御装置16は、ステアリング軸21の回転を緩やかに開始させるために、反力モータ23に流れる電流(駆動電流とも言える)の電流値Iを例えば線形に又は直線的に増加させ、その後、ステアリング軸21の回転を継続又は開始させるために、反力モータ23に流れる、増加した電流値Iを例えば一定に維持することができる(
図2(A)参照)。
【0023】
なお、増加した電流値Iを一定に維持した状態というのは、例えば反力モータ23の出力の最大出力であることを例示することができる。電流値が小さく設定される場合と比較して、反力モータ23の出力を最大出力に設定する一定電流(維持電流)に電流が設定される場合には、確度高く故障を推定することができる。
【0024】
本発明に従う制御装置16の特徴の1つは、転舵モータ41を位置保持駆動することにある。具体的には、制御装置16は、クラッチ15が故障しているか否かを判定するために、ラック35b(つまり、転舵軸36)の位置が保持されるように、転舵モータ41を制御することができる。より具体的には、一例として、制御装置16は、クラッチ15の係合に伴ってステアリング軸21が回転するように、反力モータ23の電流が増加する。しかしながら、転舵モータ41が位置保持駆動されるので、
図2(B)に示されるように、制御装置16は、ラック35bの位置が保持されるように、転舵モータ41に流れる電流(駆動電流とも言える)の電流値Iを例えば線形に又は直線的に増加させる。
【0025】
クラッチ15が正常な状態である時に、クラッチ15の係合によって、ステアリング軸21が回転するように、反力モータ23の電流が増加するが、転舵モータ41が位置保持駆動されるので、転舵モータ41の電流も増加する。したがって、実際には、反力モータ23の電流が増加する状況であっても、ステアリング軸21は回転せず、出力軸34も回転せず、且つ、ラック35bも移動しない。
【0026】
加えて、
図2(B)に示されるように、制御装置16は、ラック35bの位置が保持されるように、転舵モータ41に流れる、増加した電流値Iを例えば一定に維持することができる。反力モータ23に流れる、増加した電流値Iが例えば一定に維持される時に、ラック35bの位置が保持されるので、転舵モータ41に流れる、増加した電流値Iも例えば一定に維持されることになる。
【0027】
次に、
図2(C)に示されるように、その後、制御装置16は、クラッチ15を係合状態から開放状態に切り替える。
図2(A)に示されるように、反力モータ23は、ステアリング軸21の回転を試みている。すなわち、制御装置16は、ラック35bの位置を保持するために、クラッチ15が係合状態である時に、転舵モータ41に流れる、増加した電流値Iも例えば一定に維持されることになる(
図2(B)参照)。しかしながら、クラッチ15が係合状態から開放状態に切り替えられた後は、ステアリング軸21の回転とは無関係に、制御装置16は、転舵モータ41を位置保持駆動すればよい。具体的には、制御装置16は、転舵モータ41に流れる、一旦増加した電流値Iをクラッチ15の開放に伴って急激に減少させて、例えば初期値まで戻すことができる(
図2(B)参照)。
【0028】
このように、転舵モータ41が位置保持駆動される時に、クラッチ15の状態(係合/開放)及びステアリング軸21の状態(停止/回転)とは無関係に、ラック35bの位置が保持される。したがって、左右の転舵車輪13,13も動かずに、より一層安全である。
【0029】
特に、反力モータ23の出力を最大出力に設定する一定電流(維持電流)に電流が設定される場合であっても、転舵モータ41が位置保持駆動される時に、左右の転舵車輪13,13は、動くことがなく、確度高く故障を推定することができる。加えて、どのような路面(任意の摩擦係数μ)であっても、左右の転舵車輪13,13が動かないので、どのような環境(例えば低温下も含む)であっても、安全に故障判定が可能である。
【0030】
図2(A)〜
図2(C)の状況とは異なり、
図2(D)、
図2(E)及び
図2(F)は、それぞれ、クラッチ15が係合故障した(開放状態から係合状態に切り替わらない)時の、反力モータ23の電流値の変化、転舵モータ41の電流値の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
図2(E)に示されるように、クラッチ15が開放状態から係合状態に切り替えられ、且つ、ステアリング軸21が回転するように反力モータ23の電流が増加する時に、制御装置16は、転舵モータ41に流れる電流(初期値)を増加させる必要がない(
図2(E)中の矢印A参照)。クラッチ15が係合故障する状況では、クラッチ15が係合するように、制御装置16がクラッチ15に指示又は制御信号を出力しても、クラッチ15は開放状態であり続けるので、ステアリング軸21の回転は、出力軸34を回転させる力として伝達しない。したがって、ラック35bを移動させる力も存在しない。
【0031】
言い換えれば、クラッチ15が開放状態から係合状態に切り替えられた後に、転舵モータ41が位置保持駆動され、且つ反力モータ23が位置移動駆動される状態で、制御装置16は、転舵モータ41に流れる電流(初期値)が閾値(例えば閾値電流I1)を超えるか否かを判定することができる。このように、制御装置16は、転舵モータ41の電流値Iに基づき、クラッチ15が係合故障しているか否かを判定することができる。
【0032】
なお、転舵モータ41に流れる電流が閾値を超えるか否かを判定することの代わりに、制御装置16は、例えば転舵モータ41の電流の増加度等の閾値以外の他の値に基づき、クラッチ15が係合故障しているか否かを判定してもよい。
【0033】
図3(A)、
図3(B)及び
図3(C)は、それぞれ、
図2(A)、
図2(B)及び
図2(C)に対応し、具体的には、クラッチ15が正常な状態で転舵モータ41を位置保持駆動する時の、反力モータ23の電流値の変化、転舵モータ41の電流値の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
図3(D)、
図3(E)及び
図3(F)は、それぞれ、クラッチ15が開放故障した(係合状態から開放状態に切り替わらない)時の、反力モータ23の電流値の変化、転舵モータ41の電流値の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
【0034】
図3(E)に示されるように、開放故障したクラッチ15が係合状態から開放状態に切り替えられ、且つ、ステアリング軸21が回転するように反力モータ23の電流が維持又は印加される時に、制御装置16は、ラック35bの位置が保持されるように、転舵モータ41に流れる電流を維持する必要がある(
図3(E)中の矢印B参照)。クラッチ15が開放故障する状況では、クラッチ15が開放するように、制御装置16がクラッチ15に指示又は制御信号を出力しても、クラッチ15は係合状態であり続けるので、ステアリング軸21の回転の試みに基づく、出力軸34を回転させる力が存在する。したがって、ラック35bを移動させない力を維持する必要がある。
【0035】
言い換えれば、クラッチ15が係合状態から開放状態に切り替えられた後に、転舵モータ41が位置保持駆動され、且つ反力モータ23が位置移動駆動される状態で、制御装置16は、転舵モータ41に流れる電流が閾値(例えば閾値電流I2)を下回るか否かを判定することができる。このように、制御装置16は、転舵モータ41の電流値Iに基づき、クラッチ15が開放故障しているか否かを判定することができる。
【0036】
図4は、転舵モータ41を位置保持駆動し、且つ反力モータ23を位置移動駆動する時の本発明に従う制御装置16の動作例を表すフローチャートを示す。
図1の制御装置16は、例えば各種センサ99で、或いは、イグニッションスイッチのON/OFFに基づく車載バッテリの電圧の変化で、イグニッションスイッチがONされているか否かを判定することができる(
図4のステップS1参照)。
【0037】
(クラッチの係合)
図4の例において、イグニッションスイッチがONである時に、制御装置16は、クラッチ15を係合させ(ステップS2参照)、反力モータ23及び転舵モータ41の電源をONすることができる(ステップS3参照)。
【0038】
(転舵モータの位置保持駆動)
図4のステップS4に示されるように、制御装置16は、転舵モータ41を位置保持駆動する。具体的には、制御装置16は、例えばモータ回転角センサ(転舵モータ回転角センサ)95からの出力を入力し、それを監視しながら、転舵モータ41のモータ軸の回転角が一定に保持されるように、転舵モータ41を制御することができる。代替的に、制御装置16は、モータ回転角センサ95に代えて、或いは、モータ回転角センサ95に加えて、例えば出力軸回転角センサ94からの出力を入力・監視しながら、ラック35bの位置が保持されるように、転舵モータ41の駆動を制御することができる。
【0039】
(反力モータの位置移動駆動)
図4のステップS5に示されるように、制御装置16は、反力モータ23を位置移動駆動する。制御装置16は、一例として、反力モータ23の電流又は駆動電流の元である設定値又は電流設定値を生成・監視又は参照しながら、反力モータ23の電流値Iを例えば
図2(A)のように増加・保持することができる。言い換えれば、制御装置16は、反力モータ23の駆動によって、ステアリング軸21の回転を試みる。
【0040】
なお、制御装置16は、ステアリング軸21の回転が実際に発生しているか否かを判定又は監視するために、例えばモータ回転角センサ(反力モータ回転角センサ)93及び/又は例えば操舵角センサ91からの出力を入力・監視しながら、反力モータ23を位置移動駆動してもよい。
【0041】
クラッチ15が係合故障していない時に、ステアリング軸21の回転の試みに基づく出力軸34を回転させる力が存在し、したがって、ラック35bを移動させる力が存在するが、制御装置16は、反力モータ23を位置移動駆動するので、ラック35bの位置は、保持されることになる。したがって、クラッチ15が係合故障していない時に、ステアリング軸21の回転の試みが実行されて、言い換えれば、反力モータ23の位置移動駆動が実行されても、ステアリング軸21の位置(回転角)は、保持されることになる。
【0042】
(クラッチ係合故障の判定)
図4のステップS6に示されるように、制御装置16は、一例として、転舵モータ41に流れる電流又は駆動電流が、反力モータ23に流れる電流又は駆動電流の増加に起因して、増加するか否かを判定することができる。例えば
図2(B)に示されるように、転舵モータ41に流れる電流又は駆動電流の電流値Iが増加する時に、或いは、閾値(例えば閾値電流I1)を超える時に、制御装置16は、クラッチ15が係合故障していないことを判定することができる。このように、制御装置16は、転舵モータ41が位置保持駆動され、且つ反力モータ23が位置移動駆動される時に、転舵モータ41の電流値Iに基づき、クラッチ15が故障しているか否を判定することができる(
図4のステップS6参照)。
【0043】
(クラッチの開放)
クラッチ15が故障していない時に、制御装置16は、例えば
図2(C)に示されるように、クラッチ15を開放させることができる(
図4のステップS7参照)。
【0044】
(クラッチ開放故障の判定)
図4のステップS8に示されるように、制御装置16は、一例として、転舵モータ41に流れる電流又は駆動電流が、クラッチ15の開放に起因して、減少するか否かを判定することができる。例えば
図2(B)に示されるように、転舵モータ41に流れる電流又は駆動電流の電流値Iが減少する時に、或いは、閾値(例えば閾値電流I1)を下回る又は初期値に戻る時に、制御装置16は、クラッチ15が開放故障していないことを判定することができる。このように、制御装置16は、転舵モータ41が位置保持駆動され、且つ反力モータ23が位置移動駆動される時に、転舵モータ41の電流値Iに基づき、クラッチ15が故障しているか否を判定することができる(
図4のステップS8参照)。
【0045】
(通常制御)
図4のステップS9に示されるように、クラッチ15が係合故障しておらず、且つ、クラッチ15が開放故障していない時に、クラッチ15が正常であることを判定又は確定し、その後に、制御装置16は、車両用ステアリングシステム10の通常制御を実行することができる。言い換えれば、クラッチ15が正常であることを確定した後に、制御装置16は、ステアバイワイヤ式のステアリング制御を実行することができる。
【0046】
(フェール処理)
図4のステップS6を実行した結果、例えば
図2(E)に示されるように、転舵モータ41に流れる電流又は駆動電流の電流値Iが一定である時に、或いは、閾値(例えば閾値電流I1)を超えない時に、制御装置16は、クラッチ15が係合故障していることを判定することができる。同様に、
図4のステップS8を実行した結果、例えば
図3(E)に示されるように、転舵モータ41に流れる電流又は駆動電流の電流値Iが減少しない時に、或いは、閾値(例えば閾値電流I2又はI1)を超えている時に、制御装置16は、クラッチ15が開放故障していることを判定することができる。
【0047】
図4のステップS10に示されるように、クラッチ15が故障している時に、具体的には、例えばクラッチ15が係合故障している時に、制御装置16は、運転手へのクラッチ15の故障検知を行うフェール処理を実行することができる。その後、制御装置16は、車両用ステアリングシステム10を停止させることができる。
【0048】
なお、
図4のステップS6を実行した結果、クラッチ15が係合故障していることを判定し、ステップS10を実行するのではなく、クラッチ15が係合故障している時も、制御装置16は、ステップS7及びS8を実行し、クラッチ15が開放故障しているか否かを判定することができる。クラッチ15が係合される期間及びクラッチ15が開放される期間の双方において、クラッチ15の係合故障及び開放故障の双方の存在を確認することによって、制御装置16は、転舵モータ41の誤作動又は反力モータ23の誤作動ではなく、クラッチ15が正常であることを確度高く推定することができる。
【0049】
第1の実施形態では、クラッチ15の係合非故障(正常)及び開放非故障(正常)の双方の存在を確認することによって、確度高く、クラッチ15が正常であると言える。
【0050】
(車両発進禁止)
好ましくは、
図4のステップS11に示されるように、制御装置16は、車両発進禁止処理を実行し、或いは、車両の発進を管理又は制御する他の電子制御ユニット又はメイン制御ユニットに車両発進禁止を実行させるための指示を送信することができる。
【0051】
(第2の実施形態)
図5(A)、
図5(B)及び
図5(C)は、それぞれ、クラッチ15が正常な状態で反力モータ23を位置保持駆動する時の、反力モータ23の電流値の変化、転舵モータ41の電流値の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
図5(C)に示されるように、例えば、イグニッションスイッチがONされる時に、制御装置16は、クラッチ15を開放状態から係合状態に切り替える。この時に、
図5(B)に示されるように、制御装置16は、転舵モータ41を制御して、ラック35b(出力軸34)の移動(回転)を開始することができる。言い換えれば、クラッチ15が係合状態である時に、制御装置16は、出力軸34の回転を緩やかに開始させるために、転舵モータ41に流れる電流(駆動電流とも言える)の電流値Iを例えば線形に又は直線的に増加させ、その後、出力軸34の回転を継続又は開始させるために、転舵モータ41に流れる、増加した電流値Iを例えば一定に維持することができる(
図5(B)参照)。
【0052】
なお、増加した電流値Iを一定に維持した状態というのは、例えば転舵モータ41の出力の最大出力であることを例示することができる。電流値が小さく設定される場合と比較して、転舵モータ41の出力を最大出力に設定する一定電流(維持電流)に電流が設定される場合には、確度高く故障を推定することができる。
【0053】
第2の実施形態では、本発明に従う制御装置16の特徴の1つは、反力モータ23を位置保持駆動することにある。具体的には、制御装置16は、クラッチ15が故障しているか否かを判定するために、ステアリング軸21の位置(回転角)が保持されるように、反力モータ23を制御することができる。より具体的には、一例として、制御装置16は、クラッチ15の係合に伴って出力軸34(ラック35b)が回転(移動)するように、転舵モータ41の電流が増加する。しかしながら、反力モータ23が位置保持駆動されるので、
図5(A)に示されるように、制御装置16は、ステアリング軸21の回転角が保持されるように、反力モータ23に流れる電流(駆動電流とも言える)の電流値Iを例えば線形に又は直線的に増加させる。
【0054】
クラッチ15が正常な状態である時に、クラッチ15の係合によって、ラック35bが移動するように、転舵モータ41の電流が増加するが、反力モータ23が位置保持駆動されるので、反力モータ23の電流も増加する。したがって、実際には、転舵モータ41の電流が増加する状況であっても、ラック35bは移動せず、出力軸34も回転せず、且つ、ステアリング軸21も回転しない。
【0055】
加えて、
図5(A)に示されるように、制御装置16は、ステアリング軸21の位置(回転角)が保持されるように、反力モータ23に流れる、増加した電流値Iを例えば一定に維持することができる。転舵モータ41に流れる、増加した電流値Iが例えば一定に維持される時に、ステアリング軸21の回転角が保持されるので、反力モータ23に流れる、増加した電流値Iも例えば一定に維持されることになる。
【0056】
次に、
図5(C)に示されるように、その後、制御装置16は、クラッチ15を係合状態から開放状態に切り替える。
図5(B)に示されるように、転舵モータ41は、ラック35bの移動を試みている。すなわち、制御装置16は、ステアリング軸21の回転角を保持するために、クラッチ15が係合状態である時に、反力モータ23に流れる、増加した電流値Iも例えば一定に維持されることになる(
図5(A)参照)。しかしながら、クラッチ15が係合状態から開放状態に切り替えられた後は、ラック35bの移動とは無関係に、制御装置16は、ステアリング軸21を位置保持駆動すればよい。具体的には、制御装置16は、反力モータ23に流れる、一旦増加した電流値Iをクラッチ15の開放に伴って急激に減少させて、例えば初期値まで戻すことができる(
図5(A)参照)。
【0057】
このように、ステアリング軸21が位置保持駆動される時に、クラッチ15の状態(係合/開放)及びラック35bの状態(停止/移動)とは無関係に、ステアリング軸21の位置が保持される。
【0058】
図5(A)〜
図5(C)の状況とは異なり、
図5(D)、
図5(E)及び
図5(F)は、それぞれ、クラッチ15が係合故障した時の、反力モータ23の電流値の変化、転舵モータ41の電流値の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
【0059】
図5(D)に示されるように、クラッチ15が開放状態から係合状態に切り替えられ、且つ、ラック35bが移動するように転舵モータ41の電流が増加する時に、制御装置16は、反力モータ23に流れる電流(初期値)を増加させる必要がない(
図5(D)中の矢印A’参照)。クラッチ15が係合故障する状況では、クラッチ15が係合するように、制御装置16がクラッチ15に指示又は制御信号を出力しても、クラッチ15は開放状態であり続けるので、ラック35b(出力軸34)の移動(回転)は、ステアリング軸21を回転させる力として伝達しないからである。
【0060】
言い換えれば、クラッチ15が開放状態から係合状態に切り替えられた後に、反力モータ23が位置保持駆動され、且つ転舵モータ41が位置移動駆動される状態で、制御装置16は、反力モータ23に流れる電流(初期値)が閾値(例えば閾値電流I1)を超えるか否かを判定することができる。このように、制御装置16は、反力モータ23の電流値Iに基づき、クラッチ15が係合故障しているか否かを判定することができる。
【0061】
なお、反力モータ23に流れる電流が閾値を超えるか否かを判定することの代わりに、制御装置16は、例えば反力モータ23の電流の増加度等の閾値以外の他の値に基づき、クラッチ15が係合故障しているか否かを判定してもよい。
【0062】
図6(A)、
図6(B)及び
図6(C)は、それぞれ、
図5(A)、
図5(B)及び
図5(C)に対応し、具体的には、クラッチ15が正常な状態で転舵モータ41を位置保持駆動する時の、反力モータ23の電流値の変化、転舵モータ41の電流値の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
図6(D)、
図6(E)及び
図6(F)は、それぞれ、クラッチ15が開放故障した時の、反力モータ23の電流値の変化、転舵モータ41の電流値の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
【0063】
図6(D)に示されるように、開放故障したクラッチ15が係合状態から開放状態に切り替えられ、且つ、ラック35b(出力軸34)が移動(回転)するように転舵モータ41の電流が維持又は印加される時に、制御装置16は、ステアリング軸21の回転角が保持されるように、反力モータ23に流れる電流を維持する必要がある(
図6(D)中の矢印B’参照)。クラッチ15が開放故障する状況では、クラッチ15が開放するように、制御装置16がクラッチ15に指示又は制御信号を出力しても、クラッチ15は係合状態であり続けるので、ラック35bの移動の試みに基づく、出力軸34を回転させる力が存在する。したがって、ステアリング軸21を回転させない力を維持する必要がある。
【0064】
言い換えれば、クラッチ15が係合状態から開放状態に切り替えられた後に、反力モータ23が位置保持駆動され、且つ転舵モータ41が位置移動駆動される状態で、制御装置16は、反力モータ23に流れる電流が閾値(例えば閾値電流I2)を下回るか否かを判定することができる。このように、制御装置16は、反力モータ23の電流値Iに基づき、クラッチ15が開放故障しているか否かを判定することができる。
【0065】
図7は、反力モータ23を位置保持駆動し、且つ転舵モータ41を位置移動駆動する時の本発明に従う制御装置の動作例を表すフローチャートを示す。
図1の制御装置16は、イグニッションスイッチがONされているか否かを判定することができる(
図7のステップS21参照)。
【0066】
(クラッチの係合)
図7の例において、イグニッションスイッチがONである時に、制御装置16は、クラッチ15を係合させ(ステップS22参照)、反力モータ23及び転舵モータ41の電源をONすることができる(ステップS23参照)。なお、例えば
図5(A)及び
図5(B)に示されるように、イグニッションスイッチがONである前から、制御装置16は、反力モータ23及び転舵モータ41の電源をONし、例えば初期値又はステアリング軸21及びラック35bが動かない程度の微量の電流を流してもよい。
【0067】
(反転モータの位置保持駆動)
図7のステップS24に示されるように、制御装置16は、反力モータ23を位置保持駆動する。具体的には、制御装置16は、例えばモータ回転角センサ(反力モータ回転角センサ)93からの出力を入力し、それを監視しながら、反力モータ23のモータ軸の回転角が一定に保持されるように、反力モータ23を制御することができる。代替的に、制御装置16は、モータ回転角センサ93に代えて、或いは、モータ回転角センサ93に加えて、例えば操舵角センサ91からの出力を入力・監視しながら、ステアリング軸21bの位置(回転角)が保持されるように、転舵モータ41の駆動を制御することができる。
【0068】
(転舵モータの位置移動駆動)
図7のステップS25に示されるように、制御装置16は、転舵モータ41を位置移動駆動する。制御装置16は、一例として、転舵モータ41の電流又は駆動電流の元である設定値又は電流設定値を生成・監視又は参照しながら、転舵モータ41の電流値Iを例えば
図5(B)のように増加・保持することができる。言い換えれば、制御装置16は、転舵モータ41の駆動によって、ラック35b(出力軸34)の移動(回転)を試みる。
【0069】
なお、制御装置16は、ラック35bの移動が実際に発生しているか否かを判定又は監視するために、例えばモータ回転角センサ(駆動モータ回転角センサ)95及び/又は例えば出力軸回転角センサ94からの出力を入力・監視しながら、転舵モータ41を位置移動駆動してもよい。
【0070】
クラッチ15が係合故障していない時に、ラック35bの移動の試みに基づく出力軸34を回転させる力が存在し、したがって、ステアリング軸21を回転させる力が存在するが、制御装置16は、反力モータ23を位置移動駆動するので、ステアリング軸21の位置(回転角)は、保持されることになる。したがって、クラッチ15が係合故障していない時に、ラック35bの移動の試みが実行されて、言い換えれば、転舵モータ41の位置移動駆動が実行されても、ラック35b(出力軸34)の位置(回転角)は、保持されることになる。
【0071】
(クラッチ係合故障の判定)
図7のステップS26に示されるように、制御装置16は、一例として、反力モータ23に流れる電流又は駆動電流が、転舵モータ41に流れる電流又は駆動電流の増加に起因して、増加するか否かを判定することができる。例えば
図5(A)に示されるように、反力モータ23に流れる電流又は駆動電流の電流値Iが増加する時に、或いは、閾値(例えば閾値電流I1)を超える時に、制御装置16は、クラッチ15が係合故障していないことを判定することができる。このように、制御装置16は、反力モータ23が位置保持駆動され、且つ転舵モータ41が位置移動駆動される時に、反力モータ23の電流値Iに基づき、クラッチ15が故障しているか否を判定することができる(
図7のステップS26参照)。
【0072】
(クラッチの開放)
クラッチ15が故障していない時に、制御装置16は、例えば
図5(C)に示されるように、クラッチ15を開放させることができる(
図7のステップS27参照)。
【0073】
(クラッチ開放故障の判定)
図7のステップS28に示されるように、制御装置16は、一例として、反力モータ23に流れる電流又は駆動電流が、クラッチ15の開放に起因して、減少するか否かを判定することができる。例えば
図5(A)に示されるように、転舵モータ41に流れる電流又は駆動電流の電流値Iが減少する時に、或いは、閾値(例えば閾値電流I1)を下回る又は初期値に戻る時に、制御装置16は、クラッチ15が開放故障していないことを判定することができる。このように、制御装置16は、反力モータ23が位置保持駆動され、且つ転舵モータ41が位置移動駆動される時に、反力モータ23の電流値Iに基づき、クラッチ15が故障しているか否を判定することができる(
図7のステップS28参照)。
【0074】
図7のステップS29に示されるように、クラッチ15が係合故障しておらず、且つ、クラッチ15が開放故障していない時に、クラッチ15が正常であることを判定又は確定し、その後に、制御装置16は、車両用ステアリングシステム10の通常制御を実行することができる。
【0075】
図7のステップS26を実行した結果、例えば
図5(D)に示されるように、反力モータ23に流れる電流又は駆動電流の電流値Iが一定である時に、或いは、閾値(例えば閾値電流I1)を超えない時に、制御装置16は、クラッチ15が係合故障していることを判定することができる。同様に、
図7のステップS28を実行した結果、例えば
図6(D)に示されるように、反力モータ23に流れる電流又は駆動電流の電流値Iが減少しない時に、或いは、閾値(例えば閾値電流I2又はI1)を超えている時に、制御装置16は、クラッチ15が開放故障していることを判定することができる。
【0076】
第2の実施形態では、クラッチ15の係合非故障(正常)及び開放非故障(正常)の双方の存在を確認することによって、制御装置16は、クラッチ15が正常であることを確度高く推定することができる。
【0077】
(第3の実施形態)
図8(A)、
図8(B)及び
図8(C)は、それぞれ、クラッチ15が正常な状態で転舵モータ41を位置保持駆動する時の、反力モータ23の回転速度の変化、転舵モータ41の回転速度の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
図8(C)に示されるように、例えば、イグニッションスイッチがONされる時に、制御装置16は、クラッチ15を開放状態から係合状態に切り替える。
【0078】
この時に、制御装置16は、反力モータ23を制御して、ステアリング軸21の回転を開始することができる。言い換えれば、クラッチ15が係合状態である時に、制御装置16は、ステアリング軸21の回転を緩やかに開始させるために、例えば
図2(A)に示されるように、反力モータ23に流れる電流(駆動電流とも言える)の電流値Iを例えば線形に又は直線的に増加させ、その後、ステアリング軸21の回転を継続又は開始させるために、反力モータ23に流れる、増加した電流値Iを例えば一定に維持することができる。なお、制御装置16は、反力モータ23を電圧駆動して、ステアリング軸21の回転を試みてもよい。
【0079】
第3の実施形態に従う制御装置16の特徴の1つは、転舵モータ41を位置保持駆動することにある。具体的には、制御装置16は、クラッチ15が故障しているか否かを判定するために、ラック35b(出力軸34)の位置(回転角)が保持されるように、転舵モータ41を制御することができる。より具体的には、一例として、制御装置16は、転舵モータ41の駆動を開始し、ステアリング軸21の回転を試みても、反力モータ23が位置保持駆動されるので、
図8(B)に示されるように、転舵モータ41の回転速度ωはゼロである。なお、転舵モータ41の回転速度ωがゼロである時に、転舵モータ41の回転角は一定である。
【0080】
クラッチ15が正常な状態である時に、クラッチ15の係合によって、ステアリング軸21が回転するように、反力モータ23が駆動されるが、転舵モータ41が位置保持駆動されるので、転舵モータ41の回転速度ωはゼロであり、したがって、
図8(A)に示されるように、反力モータ23の回転速度ωもゼロである。ここで、反力モータ23の回転速度ωがゼロである時に、反力モータ23の回転角は一定である。したがって、実際には、反力モータ23が駆動される状況であっても、ステアリング軸21は回転せず、出力軸34も回転せず、且つ、ラック35bも移動しない。
【0081】
次に、
図8(C)に示されるように、その後、制御装置16は、クラッチ15を係合状態から開放状態に切り替える。この時に、反力モータ23は、ステアリング軸21の回転を試みている。したがって、クラッチ15が係合状態から開放状態に切り替えられた後は、転舵モータ41の位置保持駆動とは無関係に、制御装置16は、ステアリング軸21を回転させるために、反力モータ23を駆動させる。
【0082】
このように、反力モータ23が駆動される時に、
図8(A)に示されるように、反力モータ23の回転速度ωは、例えば線形に又は直線的に増加し、その後、例えば一定に維持される。
【0083】
なお、増加した回転速度ωを一定に維持した状態というのは、例えば反力モータ23の出力の最大出力であることを例示することができる。回転速度が小さく設定される場合と比較して、反力モータ23の出力を最大出力に設定する一定回転速度(維持回転速度)に回転速度が設定される場合には、確度高く故障を推定することができる。
【0084】
図8(A)〜
図8(C)の状況とは異なり、
図8(D)、
図8(E)及び
図8(F)は、それぞれ、クラッチ15が係合故障した時の、反力モータ23の回転速度の変化、転舵モータ41の回転速度の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
図8(D)に示されるように、クラッチ15が開放状態から係合状態に切り替えられ、且つ、ステアリング軸21が回転するように反力モータ23が駆動される時に、反力モータ23の回転速度ωは、例えば線形に又は直線的に増加する(
図8(D)中の矢印C参照)。
【0085】
言い換えれば、クラッチ15が開放状態から係合状態に切り替えられた後に、転舵モータ41が位置保持駆動され、且つ反力モータ23が位置移動駆動される状態で、制御装置16は、反力モータ23の回転速度ω(初期値)が閾値(例えば閾値回転速度ω1又はω2)を超えるか否かを判定することができる。このように、制御装置16は、反力モータ23の回転速度ωに基づき、クラッチ15が係合故障しているか否かを判定することができる。なお、制御装置16は、反力モータ23の回転速度ωの代わりに、反力モータ23の回転角に基づき、クラッチ15が係合故障しているか否かを判定してもよい。
【0086】
加えて、
図8(D)に示されるように、制御装置16は、一例として、反力モータ23の回転速度ωを初期値から目標値に増加させて、その目標値で一定に維持することができる。例えばクラッチ15の係合故障を判定し、クラッチ15を係合状態から開放状態に切り替える時に、制御装置16は、一例として、反力モータ23の回転速度ωを初期値に戻す又は反力モータ23の駆動を停止することができる(
図8(D)及び
図8(F)参照)。
【0087】
図9(A)、
図9(B)及び
図9(C)は、それぞれ、
図8(A)、
図8(B)及び
図8(C)に対応し、具体的には、クラッチ15が正常な状態で転舵モータ41を位置保持駆動する時の、反力モータ23の回転速度の変化、転舵モータ41の回転速度の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
図9(D)、
図9(E)及び
図9(F)は、それぞれ、クラッチ15が開放故障した時の、反力モータ23の回転速度の変化、転舵モータ41の回転速度の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
【0088】
図9(D)に示されるように、開放故障の状態にあるクラッチ15が係合状態から開放状態に切り替えられ、且つ、ステアリング軸21が回転するように反力モータ23が駆動される時に、制御装置16は、ラック35bの位置が保持されるように、転舵モータ41を駆動している。したがって、クラッチ15が開放故障する状況では、クラッチ15が開放するように、制御装置16がクラッチ15に指示又は制御信号を出力しても、クラッチ15は係合状態であり続けるので、反力モータ23の回転速度ωは、増加しないで、初期値のままである(
図9(D)中の矢印D参照)。
【0089】
言い換えれば、クラッチ15が係合状態から開放状態に切り替えられた後に、転舵モータ41が位置保持駆動され、且つ反力モータ23が位置移動駆動される状態で、制御装置16は、反力モータ23の回転速度ωが閾値(例えば閾値回転速度ω1)を下回るか否かを判定することができる。このように、制御装置16は、反力モータ23の回転速度ωに基づき、クラッチ15が開放故障しているか否かを判定することができる。
【0090】
第3の実施形態では、クラッチ15の係合非故障(正常)及び開放非故障(正常)の双方の存在を確認することによって、制御装置16は、クラッチ15が正常であることを確度高く推定することができる。
【0092】
図10(A)、
図10(B)及び
図10(C)は、それぞれ、クラッチ15が正常な状態で転舵モータ41を位置保持駆動する時の、反力モータ23の回転速度の変化、転舵モータ41の電流値の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
図10(C)に示されるように、例えば、イグニッションスイッチがONされる時に、制御装置16は、クラッチ15を開放状態から係合状態に切り替える。
【0093】
この時に、制御装置16は、反力モータ23を制御して、ステアリング軸21の回転を開始することができる。言い換えれば、クラッチ15が係合状態である時に、制御装置16は、ステアリング軸21の回転を緩やかに開始させるために、例えば
図2(A)に示されるように、反力モータ23に流れる電流(駆動電流とも言える)の電流値Iを例えば線形に又は直線的に増加させ、その後、ステアリング軸21の回転を継続又は開始させるために、反力モータ23に流れる、増加した電流値Iを例えば一定に維持することができる。なお、制御装置16は、反力モータ23を電圧駆動して、ステアリング軸21の回転を試みてもよい。
【0094】
第4の実施形態に従う制御装置16の特徴の1つは、転舵モータ41を位置保持駆動することにある。具体的には、制御装置16は、クラッチ15が故障しているか否かを判定するために、ラック35b(出力軸34)の位置(回転角)が保持されるように、転舵モータ41を制御することができる。より具体的には、一例として、制御装置16は、転舵モータ41の駆動を開始し、ステアリング軸21の回転を試みても、転舵モータ41が位置保持駆動されるので、
図10(B)に示されるように、転舵モータ41の電流値Iは、反力モータ23の駆動に応じて、増加する。
【0095】
クラッチ15が正常な状態である時に、クラッチ15の係合によって、ステアリング軸21が回転するように、反力モータ23が駆動されるが、転舵モータ41が位置保持駆動されるので、
図10(A)に示されるように、反力モータ23の回転速度ωは、ゼロである。ここで、反力モータ23の回転速度ωがゼロである時に、反力モータ23の回転角は一定である。したがって、実際には、反力モータ23が駆動される状況であっても、ステアリング軸21は回転せず、出力軸34も回転せず、且つ、ラック35bも移動しない。
【0096】
次に、
図10(C)に示されるように、その後、制御装置16は、クラッチ15を係合状態から開放状態に切り替える。この時に、反力モータ23は、ステアリング軸21の回転を試みている。したがって、クラッチ15が係合状態から開放状態に切り替えられた後は、転舵モータ41の位置保持駆動の影響がなくなり、したがって、反力モータ23の回転速度ωは、ゼロ(初期値)から増加する(
図10(A)参照)。
【0097】
このように、反力モータ23が駆動される時に、
図10(A)に示されるように、反力モータ23の回転速度ωは、例えば線形に又は直線的に増加し、その後、例えば一定に維持される。
【0098】
図10(A)〜
図10(C)の状況とは異なり、
図10(D)、
図10(E)及び
図10(F)は、それぞれ、クラッチ15が係合故障(具体的には、これに限定されないが、例えば不完全係合故障)した時の、反力モータ23の回転速度の変化、転舵モータ41の電流値の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。ここで、「不完全係合故障」とは、クラッチ15が開放状態から係合状態へ完全には切り替わらない状況のことである。この不完全係合故障の場合には、クラッチ15の係合力は、完全に係合している状態に比べて低下する。
図10(D)に示されるように、クラッチ15が開放状態から係合状態に切り替えられ、且つ、ステアリング軸21が回転するように反力モータ23が駆動される時に、転舵モータ41の電流値Iは、例えば線形に又は直線的に増加し(
図10(E)中の矢印E1参照)、反力モータ23の回転速度ωも、例えば線形に又は直線的に増加する(
図10(D)中の矢印E2参照)。
【0099】
言い換えれば、クラッチ15が開放状態から係合状態に切り替えられた後に、転舵モータ41が位置保持駆動され、且つ反力モータ23が位置移動駆動される状態で、制御装置16は、転舵モータ41の電流値I(初期値)が2つの閾値(例えば閾値電流I1及びI2)を超えるか否かを判定することができる。
図10(E)の例において、クラッチ15が例えば不完全係合故障であるので、言い換えれば、例えば摩擦式のクラッチ15の係合力(摩擦力)が例えば経時変化によって劣化しているので、転舵モータ41の電流値I(初期値)は、閾値電流I1を超えても閾値電流I2を超えることができない(
図10(E)中の矢印E1参照)。同様に、
図10(D)の例において、クラッチ15が例えば不完全係合故障であるので、反力モータ23の回転速度ω(初期値)は、閾値回転数ω1を超えても閾値回転数ω2を超えることができない(
図10(D)中の矢印E2参照)。
【0100】
このように、制御装置16は、転舵モータ41の電流値Iと反力モータ23の回転速度ωとに基づき、クラッチ15が係合故障しているか否かを判定することができる。好ましくは、制御装置16は、クラッチ15の劣化による係合故障の有無を判定することができる。
【0101】
図11(A)、
図11(B)及び
図11(C)は、それぞれ、
図10(A)、
図10(B)及び
図10(C)に対応し、具体的には、クラッチ15が正常な状態で転舵モータ41を位置保持駆動する時の、反力モータ23の回転速度の変化、転舵モータ41の電流値の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。
図11(D)、
図11(E)及び
図11(F)は、それぞれ、クラッチ15が開放故障(具体的には、不完全開放故障)した時の、反力モータ23の回転速度の変化、転舵モータ41の電流値の変化及びクラッチ15の係合/開放の状態を示す。ここで、「不完全開放故障」とは、クラッチ15が係合状態から開放状態へ完全には切り替わらない状況のことである。この不完全開放故障の場合には、クラッチ15の係合力はゼロ(零)にはならない。
【0102】
図11(E)に示されるように、クラッチ15が係合状態から開放状態に切り替えられ、且つ、ステアリング軸21が回転するように反力モータ23が駆動される時に、転舵モータ41の電流値Iは、減少し(
図11(E)中の矢印F1参照)、反力モータ23の回転速度ωは、増加する(
図11(D)中の矢印F2参照)。
【0103】
言い換えれば、クラッチ15が係合状態から開放状態に切り替えられた後に、転舵モータ41が位置保持駆動され、且つ反力モータ23が位置移動駆動される状態で、制御装置16は、転舵モータ41の電流値I(初期値)が2つの閾値(例えば閾値電流I1及びI2)を下回るか否かを判定することができる。
図11(E)の例において、クラッチ15が例えば不完全開放故障であるので、言い換えれば、例えば摩擦式のクラッチ15の係合力(摩擦力)が例えば経時変化によって劣化しているので、転舵モータ41の電流値Iは、閾値電流I2を下回っても閾値電流I1を下回ることができない(
図11(E)中の矢印F1参照)。同様に、
図11(D)の例において、クラッチ15が例えば不完全係合故障であるので、反力モータ23の回転速度ωは、閾値回転数ω1を超えても閾値回転数ω2を超えることができない(
図11(D)中の矢印F2参照)。
【0104】
このように、制御装置16は、転舵モータ41の電流値Iと反力モータ23の回転速度ωとに基づき、クラッチ15が開放故障しているか否かを判定することができる。好ましくは、制御装置16は、クラッチ15の劣化による開放故障の有無を判定することができる。
【0105】
第4の実施形態では、クラッチ15の係合故障(異常)及び開放故障(異常)の時に、反力モータ23の回転速度ωと転舵モータ41の電流値Iの、両方の関連値をみることによって、制御装置16は、クラッチ15が異常であることを確度高く推定することができる。言い換えると、第4の実施形態では、クラッチ15の係合故障(異常)及び開放故障(異常)の双方の存在を確認することによって、制御装置16は、クラッチ15が異常であることを確度高く推定することができる。
【0106】
なお、第4の実施形態では、係合不完全故障や不完全開放故障の推定について説明をしたが、当然のことながら、通常の係合故障や開放故障の推定にも、同様に用いることができる。
【0107】
(変形例1)
第4の実施形態に従う制御装置16の特徴の1つは、転舵モータ41を位置保持駆動することにある。しかしながら、第2の実施形態と同様に、第4の実施形態に従う制御装置16は、転舵モータ41ではなく、反力モータ23を位置保持駆動してもよい。この場合において、反力モータ23の電流値Iと転舵モータ41の回転速度ωとに基づき、クラッチ15が係合故障及び/又は開放故障しているか否かを判定することができる。好ましくは、制御装置16は、クラッチ15の劣化による係合故障及び/又は開放故障の有無を判定することができる。
【0108】
(変形例2)
第1〜第4の実施形態及び変形例1等の変形例に従う制御装置16では、イニシャルチェックの失敗をユーザに報知可能である。言い換えれば、ユーザの手が操舵輪11等のステアリングハンドルに触れている等のクラッチ15の故障判定に悪影響を及ぼすおそれがある時に、制御装置16は、その故障判定を実施しない又はその実施を中止又は延期することができる。
【0109】
具体的には、例えば
図4のステップS1とS2との間に、制御装置16は、クラッチ15の故障判定を実施するか否かを追加し、実施しない場合に、その旨をユーザに報知することができる。以下に、
図12を用いて説明する。
【0110】
図12は、転舵モータ41を位置保持駆動し、且つ反力モータ23を位置移動駆動する前に、イニシャルチェックの失敗をユーザに報知可能である、本発明に従う制御装置16の動作例を表すフローチャートを示す。制御装置16は、
図12のステップS41でイグニッションスイッチのONを確認後、ユーザが操舵輪11を操作しているか否かを判定するために、例えば操舵トルクセンサ92の出力を入力し、それを監視することができる(
図12のステップS42参照)。操舵トルクセンサ92の出力に基づき、ユーザが操舵輪11からその手を放している時に、制御装置16は、
図4のステップS2〜S11と同様に、
図12のステップS43〜S52を実行することができる。
【0111】
なお、操舵トルクセンサ92の代わりに、操舵輪11に設けられたタッチセンサ(図示せず)、車室内に設けられたカメラ(図示せず)等の他の検出部で、ユーザの手放しが判定されてもよい。また、手放しの判定は、
図12のステップS43〜S49の実行中に、実施されてもよい。
【0112】
例えばイグニッションスイッチがONされた直後から、ユーザによって操舵輪11が操作されている時に、制御装置16は、一例として、例えば
図12のステップS53、S54及びS56で示されるように、tnをカウントアップし、tnが例えば0(初期値)からnまでインクリメントされるまで、ユーザが操舵輪11からその手を放していないこと、即ちイニシャルチェックの失敗をユーザに報知することができる。具体的には、制御装置16は、音声信号を車載スピーカに出力し、或いは、音声信号、表示信号、画像信号等の報知信号をオーディオ、ナビゲーション、メータ等を制御する電子制御ユニットに出力することができる。
【0113】
他方、イグニッションスイッチがONされた後に、例えばtn(=n)に対応する所定期間内に、ユーザが操舵輪11からその手を放す場合には、制御装置16は、
図12のステップS43〜S52を実行することができる。
【0114】
(変形例3)
図2〜
図12を通して、制御装置16は、イグニッションスイッチがONされた後に、クラッチ15の故障の有無を判定することができる。しかしながら、ユーザが車両の運転を開始する前にクラッチ15の故障の有無を判定すればよく、具体的には、制御装置16は、一例として、例えばスマートキー又はキーフォブ(fob)を携帯するユーザの車両への接近を検出し、ユーザが車両に乗り込むことを判定又は推定した後に、クラッチ15の故障の有無を判定してもよい。或いは、制御装置16は、ユーザが運転席側のドアノブをタッチした後に、クラッチ15の故障の有無を判定してもよい。
【0115】
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。
ステアリングシステムの製造コストを低減可能である、車両用ステアリング制御装置が提供される。車両用ステアリング制御装置16は、転舵モータ41又は反力モータ23の何れか一方(例えば転舵モータ41)が位置保持駆動され、且つ転舵モータ41又は反力モータ23の何れか他方(例えば反力モータ23)が位置移動駆動されるように、転舵モータ41及び反力モータ23を制御する。車両用ステアリング制御装置16は、転舵モータ41及び反力モータ23の少なくとも一方の駆動状態(例えば転舵モータ41の電流値I)に基づき、連結装置15が故障しているか否かを判定することができる。