(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444579
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】薬剤収容具
(51)【国際特許分類】
B65D 83/00 20060101AFI20181217BHJP
A01M 1/20 20060101ALI20181217BHJP
A01N 25/18 20060101ALI20181217BHJP
A61J 1/05 20060101ALI20181217BHJP
A61L 9/12 20060101ALI20181217BHJP
B65D 85/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
B65D83/00 F
A01M1/20 D
A01N25/18 102A
A61J1/05 311
A61L9/12
B65D85/00 A
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-245476(P2012-245476)
(22)【出願日】2012年11月7日
(65)【公開番号】特開2014-94752(P2014-94752A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年8月24日
【審判番号】不服2017-6458(P2017-6458/J1)
【審判請求日】2017年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 和之
(72)【発明者】
【氏名】田中 智子
【合議体】
【審判長】
渡邊 豊英
【審判官】
井上 茂夫
【審判官】
西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−87816(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3071108(JP,U)
【文献】
特開平10−16156(JP,A)
【文献】
特開平10−7996(JP,A)
【文献】
特開平7−26224(JP,A)
【文献】
特開2011−16036(JP,A)
【文献】
特表2012−523303(JP,A)
【文献】
特開2012−147715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D83/00
A01M 1/20
A01N25/18
A61J 1/05
A61L 9/12
B65D85/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性を有する着色された液状の薬剤を収容するとともに、収容した薬剤を視認可能にする無色透明なポリエチレンテレフタラート製の容器と、
上記容器の開放部分を覆うように配設され、揮発した薬剤を通し、かつ、揮発していない薬剤を通さないように構成された揮発薬剤透過フィルムとを備えた薬剤収容具において、
上記薬剤収容具は、上記揮発薬剤透過フィルムが上下方向に延びる姿勢で使用され、
上記薬剤が含有する溶剤が、
メタノールのみ、
エタノールのみ、
メタノール及びエタノールのみ、
メタノール及び/又はエタノールと、1−プロパノール、1−デカノール、1−ドデカノール(ドデシルアルコール)、イソブチルアルコール(2−メチルプロピルアルコール,イソブタノール)、イソアミルアルコール(3−メチル−1−ブタノール)、1−ペンタノール、2−ブチル−1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、2−プロパノール、2−ヘプタノール、エチレングリコール(エタン−1,2−ジオール)、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(2−Ethyl−3−propyl−1,3−propanediol)、1,3−ブタンジオール(b−ブチレングリコール )、へキシレングリコール(2−メチル−2,4−ペンタンジオール)、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール(2,2’−Ethylenedioxybis(ethanol))、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジイソブチルカルビノール(2,6−Dimethyl−4−heptanol)、ジアセトンアルコール(4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン,アセトニルジメチルカルビノール)、ベンジルアルコール(フェニルメタノール)、2−フェニルエタノール、3−メチル−3−メトキシ1−ブタノール(ソルフィット,2−メトキシエタノール)、ハイソルブMC(エチレングリコールモノメチルエーテル)、ハイソルブDM(ジエチレングリコールモノメチルエーテル,2−(2−Methoxyethoxy)ethanol)、ハイモールTM(トリエチレングリコールモノメチルエーテル,2−[2−(2−Methoxyethoxy)ethoxy]ethanol)、ハイモールPM(ポリエチレングリコールモノメチルエーテル)、ハイソルブDB(ジエチレングリコールモノブチルエーテル,2−(2−Butoxyethoxy)ethanol)、ハイソルブMP(プロピレングリコールモノメチルエーテル,1−Methoxy−2−propanol)、ハイソルブDPM(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル,(2−Methoxymethylethoxy)−propanol)、DOWANOL PM(プロピレングリコールモノメチルエーテル,1−Methoxy−2−propanol)、DOWANOL DPM(ジプロピレングリコールメチルエーテル,(2−Methoxymethylethoxy)−propanol)、DOWANOL TPM(トリプロピレングリコールモノメチルエーテル,3−[3−(3−Methoxypropoxy)propoxy]−1−propanol)、DOWANOL PNP(プロピレングリコールモノプロピルエーテル,1−Propoxy−2−propanol)、DOWANOL DPNP(ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル,1−(1−Methyl−2−propoxyethoxy)−2−propanol)、DOWANOL PNB(プロピレングリコールモノブチルエーテル,1−Ethoxy−2−propanol)、DOWANOL DPNB(ジプロピレングリコールモノブチルエーテル,(2−Methoxymethylethoxy)−propanol)、DOWANOL TPNB(トリプロピレングリコールブチルエーテル)、シーホゾールMG(セロソルブ,エチレングリコールモノエチルエーテル,2−Ethoxyethanol)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(1−Ethoxy−2−propanol)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(イソプロピルセロソルブ,2−Propoxyethanol)、プロピルセロソルブ(2−プロポキシエタノール,エチレングリコールモノプロピルエーテル)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルオキシトール,2−Butoxyethanol)、アイソパーM、アイソパーL、アイソパーH、アイソパーG、ソルベッソ200、ソルベッソ150、ペガソール3040、エクソールD130、イソホロン及びn−メチルピロリドンの少なくとも1種以上とを混合したもののみのうち、いずれか1つであり、
上記揮発薬剤透過フィルムは、上記溶剤成分による膨潤率が5%以下である直鎖状低密度ポリエチレンからなることを特徴とする薬剤収容具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性を有する薬剤を収容する薬剤収容具に関し、特に、収容した薬剤を徐々に拡散させる構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば
図4に示すように、揮発性を有する薬剤Aを収容するトレイ形状の容器1と、容器1の開放した部分を覆うフィルム2とを備えた薬剤収容具3が知られている(例えば、特許文献1参照)。フィルム2は、揮発した薬剤は透過させるが、揮発していない薬剤は透過させない性質を持った樹脂製のものである。また、容器1は、透光性を有している。従って、内部の薬剤Aの残量を容器1の外部から視認することが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−147715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フィルム2の原料となるポリマーは、結晶部と非結晶部とが存在することから、薬剤Aの成分のうち、特に溶剤の分子がポリマーの非結晶部に入り込むことがある。こうなると、ポリマーの体積が増大してフィルム2が膨潤する。
【0005】
本発明者らは、このフィルム2の膨潤が問題となる場合があることを発見した。すなわち、特許文献1では、薬剤Aを着色し、容器1を上下方向に長い形状として透光性を持たせることによって薬剤Aの残量を使用者が把握できるように、インジケーターとして利用可能にしている。このような前提構成のもとでフィルム2が膨潤すると、フィルム2に弛みが発生することになる。すると、
図4に示すように、重力の影響で内部の薬剤Aが下に多く溜まるようになり、フィルム2の下側が容器1の外方へ膨らむようになる。このことでフィルム2の膨潤前に比べて下側の容積が増大するので、使用開始直後にもかかわらず薬剤Aの液面が低下して薬剤の残量が減った状態に見え、使用者は違和感を感じる。また、薬剤Aの減り方が初期は速く、終わりに近づくにつれて遅くなり、インジケーターとしての正確性を担保できない。さらに、
図5に示すように容器1を正面から見ると、薬剤の色が下へ行くほど濃くなり、正確な残量の把握ができなくなるという問題もある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、透光性を有する容器内の薬剤を、揮発薬剤透過部材を用いて徐々に拡散させる場合に、薬剤の残量を正確に、かつ、違和感を感じることなく把握できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、揮発薬剤透過部材の膨潤率を所定以下とした。
【0008】
第1の発明は、揮発性を有する着色された液状の薬剤を収容するとともに、収容した薬剤を視認可能にする無色透明なポリエチレンテレフタラート製の容器と、
上記容器の開放部分を覆うように配設され、揮発した薬剤を通し、かつ、揮発していない薬剤を通さないように構成された揮発薬剤透過部材とを備えた薬剤収容具において、
上記薬剤が含有する溶剤が、
メタノールのみ、
エタノールのみ、
メタノール及びエタノールのみ、
メタノール及び/又はエタノールと、
メタノール、エタノール、1−プロパノール、1−デカノール、1−ドデカノール(ドデシルアルコール)、イソブチルアルコール(2−メチルプロピルアルコール,イソブタノール)、イソアミルアルコール( 3−メチル−1−ブタノール)、1−ペンタノール、2−ブチル−1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、2−プロパノール、2−ヘプタノール、エチレングリコール(エタン−1,2−ジオール)、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(2−Ethyl−3−propyl−1,3−propanediol)、1,3−ブタンジオール(b−ブチレングリコール )、へキシレングリコール(2−メチル−2,4−ペンタンジオール)、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール(2,2’−Ethylenedioxybis(ethanol))、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジイソブチルカルビノール(2,6−Dimethyl−4−heptanol)、ジアセトンアルコール(4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン,アセトニルジメチルカルビノール)、ベンジルアルコール(フェニルメタノール)、2−フェニルエタノール、3−メチル−3−メトキシ1−ブタノール(ソルフィット,2−メトキシエタノール)、ハイソルブMC(エチレングリコールモノメチルエーテル)、ハイソルブDM(ジエチレングリコールモノメチルエーテル,2−(2−Methoxyethoxy)ethanol)、ハイモールTM(トリエチレングリコールモノメチルエーテル,2−[2−(2−Methoxyethoxy)ethoxy]ethanol)、ハイモールPM(ポリエチレングリコールモノメチルエーテル)、ハイソルブDB(ジエチレングリコールモノブチルエーテル,2−(2−Butoxyethoxy)ethanol)、ハイソルブMP(プロピレングリコールモノメチルエーテル,1−Methoxy−2−propanol)、ハイソルブDPM(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル,(2−Methoxymethylethoxy)−propanol)、DOWANOL PM(プロピレングリコールモノメチルエーテル,1−Methoxy−2−propanol)、DOWANOL DPM(ジプロピレングリコールメチルエーテル,(2−Methoxymethylethoxy)−propanol)、DOWANOL TPM(トリプロピレングリコールモノメチルエーテル,3−[3−(3−Methoxypropoxy)propoxy]−1−propanol)、DOWANOL PNP(プロピレングリコールモノプロピルエーテル,1−Propoxy−2−propanol)、DOWANOL DPNP(ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル,1−(1−Methyl−2−propoxyethoxy)−2−propanol)、DOWANOL PNB(プロピレングリコールモノブチルエーテル,1−Ethoxy−2−propanol)、DOWANOL DPNB(ジプロピレングリコールモノブチルエーテル,(2−Methoxymethylethoxy)−propanol)、DOWANOL TPNB(トリプロピレングリコールブチルエーテル)、シーホゾールMG(セロソルブ,エチレングリコールモノエチルエーテル,2−Ethoxyethanol)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(1−Ethoxy−2−propanol)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(イソプロピルセロソルブ,2−Propoxyethanol)、プロピルセロソルブ(2−プロポキシエタノール,エチレングリコールモノプロピルエーテル)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルオキシトール,2−Butoxyethanol)、アイソパーM、アイソパーL、アイソパーH、アイソパーG、ソルベッソ200、ソルベッソ150、ペガソール3040、エクソールD130、イソホロン及びn−メチルピロリドンの少なくとも1種以上
とを混合したもののみのうち、いずれか1つであり、
上記揮発薬剤透過部材は、上記溶剤成分による膨潤率が5%以下である直鎖状低密度ポリエチレンからなることを特徴とするものである。
【0009】
すなわち、揮発薬剤透過部材が薬剤の溶剤成分に触れて膨潤する場合、その膨潤率が5%を越えると、上述したように揮発薬剤透過部材が上下に延びるような姿勢で薬剤収容具を配置した際に、使用者が違和感を感じるとともに、残量を正確に把握できなくなる。本発明では、揮発薬剤透過部材が5%以下の範囲で膨潤することになるので、揮発薬剤透過部材の弛み量が十分に少なくなり、揮発薬剤透過部材が上下に延びるような姿勢で薬剤収容具を配置しても、薬剤が下側に溜まる量を抑制することが可能になる。これにより、使用開始直後であるのに液面が大きく低下することが無くなるとともに、上下で薬剤の色が大きく違って見えることはなく、しかも、使用期間中の初期と終わりとで薬剤の減り方に大きな差が生じることもない。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、揮発薬剤透過部材の膨潤率を5%以下に設定したので、薬剤の残量を正確に、かつ、違和感を感じることなく把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る薬剤収容具の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る薬剤収容具3の使用中における縦断面図であり、
図2は、薬剤収容具3の使用前における縦断面図である。薬剤収容具3は、トレイ形状の容器1と、容器1の開放部分を覆うように配設された揮発薬剤透過フィルム2(揮発薬剤透過部材)とを備えている。使用前は、
図2に示すように薬剤非透過シート4が揮発薬剤透過フィルム2に貼り付けられている。
【0014】
容器1は全体として板状をなしており、薬剤Aが収容される空間となる凹部1aと、凹部1aの開口周縁部から外方へ延出する平坦な延出板部1bとを備えている。凹部1aの底面1cは略平坦に形成されており、周面1dは底面1cに対して90゜に近い角度をなしている。凹部1aの全体が開放されており、この開放部分の全体が揮発薬剤透過フィルム2によって覆われている。
【0015】
この容器1では、凹部1aの深さが全体的に略均一であるが、これに限らず、部分的に深い所や浅い所を形成してもよい。また、容器1は、棒状や柱状の細長い形状であってもよい。
【0016】
容器1の材料としては、例えばポリエチレン‐テレフタラート(PET)等の無色透明な樹脂材を挙げることができる。容器1は、PET製の板材を加熱プレス成形して得ることができる。
【0017】
揮発薬剤透過フィルム2は、半透明の樹脂材からなり、揮発した薬剤を通し、かつ、揮発していない薬剤を通さないように構成されている。揮発薬剤透過フィルム2は、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)で構成することができる。揮発薬剤透過フィルム2を構成する樹脂材は、その非結晶部に薬剤Aの溶剤の分子が入り込むことで体積が増加する性質、即ち、膨潤する性質を有している。
【0018】
薬剤非透過シート4は、揮発した薬剤及び液状の薬剤を通さない性質を有しており、例えば、アルミニウムフィルム、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアセタールフィルム等を挙げることができる。この薬剤非透過シート4は、揮発薬剤透過フィルム2における凹部1aに臨む側と反対側の面の全体に密着した状態で剥離可能に貼り付けられている。
【0019】
容器1には、揮発性を有する液状の薬剤Aが収容されている。薬剤Aは、例えば、殺虫剤や害虫忌避剤と、着色剤と、溶剤とを少なくとも含有している。溶剤は、例えばトランスフルトリン等の殺虫剤、忌避剤及び着色剤を溶解させることができるものであり、かつ、後述する測定方法で揮発薬剤透過フィルム2の膨潤率を5%以下、好ましくは3%以下に設定することができるものであればよい。着色剤は、薬剤Aを着色するためのものであり、各種色素等を用いることができる。薬剤Aの色は特に限定されないが、透光性を有する程度に薄く着色するのが好ましい。
【0020】
揮発薬剤透過フィルム2の膨潤率の測定方法は以下のとおりであり、この測定方法で測定された膨潤率が本願発明の膨潤率である。
【0021】
まず、揮発薬剤透過フィルム2を5cm×5cmの正方形に切り取って試験片を作製する。試験片の厚みは、70μmである。溶剤を約8ml用意し、この溶剤中に試験片を2時間浸漬する。この時間内で溶剤の分子が揮発薬剤透過フィルム2の非結晶部に入り込んでいき、揮発薬剤透過フィルム2が膨潤する。2時間経過する前に膨潤が飽和状態となる。
【0022】
その後、試験片を溶剤中から取り出して試験片に付着している溶剤を濾紙で拭き取り、試験片の重量を測定する。この測定結果をWa(g)とする。
【0023】
重量測定後の試験片を105℃の雰囲気中で2時間放置して完全に乾燥させ、再び重量を測定する。この測定結果をWb(g)とする。
【0025】
膨潤率(%)=(Wa−Wb)/Wb×100
【0026】
すなわち、揮発薬剤透過フィルム2に溶剤の分子が入り込むことで揮発薬剤透過フィルム2の体積が増加し、これが膨潤という形で現れる。そして、溶剤の分子が多く入り込むほど揮発薬剤透過フィルム2が大きく膨潤することになり、溶剤の分子がどのくらいの量、揮発薬剤透過フィルム2に入り込んでいるかは、乾燥前の試験片の重量Waから完全乾燥後(溶剤の分子が試験片から抜け出た後)の重量Wbを差し引くことで得ることができる。これに基づいて膨潤率を算出することで、膨潤のメカニズムに合致した適切な値を得ることができる。
【0027】
溶剤の種類によって揮発薬剤透過フィルム2の膨潤率が異なり、本実施形態では、揮発薬剤透過フィルム2の膨潤率が5%以下となる溶剤を用いることができる。樹脂材と溶剤との親和性は、一般的には、SP値(溶解パラメータ)から判断することができ、SP値が近いほど膨潤が起こりやすいと考えがちであるが、本発明者らの実験によると、それが必ずしも当てはまらないことが分かった。
【0028】
薬剤透過フィルム2の膨潤率が5%以下となる溶剤としては以下のものがある。例えば、メタノール、エタノール(膨潤率0.00%)、1−プロパノール(膨潤率2.27%)、1−デカノール(膨潤率4.73%)、1−ドデカノール(ドデシルアルコール)、イソブチルアルコール(2−メチルプロピルアルコール,イソブタノール)(膨潤率1.57%)、イソアミルアルコール( 3−メチル−1−ブタノール)(膨潤率1.78%)、1−ペンタノール(膨潤率2.46%)、2−ブチル−1−オクタノール(膨潤率2.96%)、2−エチルヘキサノール(膨潤率1.40%)、2−プロパノール(膨潤率2.25%)、2−ヘプタノール(膨潤率3.15%)、エチレングリコール(エタン−1,2−ジオール)(膨潤率0.23%)、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(2−Ethyl−3−propyl−1,3−propanediol)、1,3−ブタンジオール(b−ブチレングリコール )、へキシレングリコール(2−メチル−2,4−ペンタンジオール)(膨潤率2.29%)、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール(2,2’−Ethylenedioxybis(ethanol))、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジイソブチルカルビノール(2,6−Dimethyl−4−heptanol)、ジアセトンアルコール(4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン,アセトニルジメチルカルビノール)、ベンジルアルコール(フェニルメタノール)、2−フェニルエタノール(膨潤率1.96%)、3−メチル−3−メトキシ1−ブタノール(ソルフィット,2−メトキシエタノール)、ハイソルブMC(エチレングリコールモノメチルエーテル)(膨潤率1.53%)、ハイソルブDM(ジエチレングリコールモノメチルエーテル,2−(2−Methoxyethoxy)ethanol)(膨潤率1.55%)、ハイモールTM(トリエチレングリコールモノメチルエーテル,2−[2−(2−Methoxyethoxy)ethoxy]ethanol)(膨潤率2.15%)、ハイモールPM(ポリエチレングリコールモノメチルエーテル)(膨潤率1.59%)、ハイソルブDB(ジエチレングリコールモノブチルエーテル,2−(2−Butoxyethoxy)ethanol)(膨潤率2.78%)、ハイソルブMP(プロピレングリコールモノメチルエーテル,1−Methoxy−2−propanol)(膨潤率1.84%)、ハイソルブDPM(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル,(2−Methoxymethylethoxy)−propanol)(膨潤率2.42%)、ハイソルブEPH(エチレングリコールモノフェニルエーテル,2−Phenoxyethanol)(膨潤率0.97%)、DOWANOL PM(プロピレングリコールモノメチルエーテル,1−Methoxy−2−propanol)(膨潤率2.00%)、DOWANOL DPM(ジプロピレングリコールメチルエーテル,(2−Methoxymethylethoxy)−propanol)(膨潤率1.81%)、DOWANOL TPM(トリプロピレングリコールモノメチルエーテル,3−[3−(3−Methoxypropoxy)propoxy]−1−propanol)(膨潤率2.29%)、DOWANOL PNP(プロピレングリコールモノプロピルエーテル,1−Propoxy−2−propanol)(膨潤率2.17%)、DOWANOL DPNP(ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル,1−(1−Methyl−2−propoxyethoxy)−2−propanol)(膨潤率3.45%)、DOWANOL PNB(プロピレングリコールモノブチルエーテル,1−Ethoxy−2−propanol)(膨潤率1.94%)、DOWANOL DPNB(ジプロピレングリコールモノブチルエーテル,(2−Methoxymethylethoxy)−propanol)(膨潤率3.95%)、DOWANOL TPNB(トリプロピレングリコールブチルエーテル)(膨潤率3.52%)、シーホゾールMG(セロソルブ,エチレングリコールモノエチルエーテル,2−Ethoxyethanol)(膨潤率0.66%)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(1−Ethoxy−2−propanol)(膨潤率1.79%)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(イソプロピルセロソルブ,2−Propoxyethanol)(膨潤率1.59%)、プロピルセロソルブ(2−プロポキシエタノール,エチレングリコールモノプロピルエーテル)(膨潤率1.00%)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルオキシトール,2−Butoxyethanol)(膨潤率2.07%)、ハイソルブMMM(エチレングリコールジメチルエーテル,1,2−ジメトキシエタン)(膨潤率4.23%)、ハイソルブMDM(ジエチレングリコールジメチルエーテル,2−メトキシエチルエーテル)(膨潤率3.41%)、ハイソルブMTM(トリエチレングリコールジメチルエーテル,2,5,8,11−Tetraoxadodecane Triglyme 1,2−bis(2−Methoxyethoxy)ethane)(膨潤率3.35%)、ハイソルブMTEM(テトラエチレングリコールジメチルエーテル,2,5,8,11,14−Pentaoxapentadecane,1,11−Dimethoxy−3,6,9−trioxaundecane)(膨潤率1.72%)、ハイソルブMPM(ポリエチレングリコールジメチルエーテル)(膨潤率2.27%)、ハイソルブEDE(ジエチレングリコールジエチルエーテル,1,1’−Oxybis(2−ethoxy−ethane))(膨潤率4.31%)、ハイソルブEDM(ジエチレングリコールエチルメチルエーテル,−ethoxy−2−(2−methoxyethoxy)ethane)(膨潤率4.31%)、ハイソルブBTM(トリエチレングリコールブチルメチルエーテル)(膨潤率4.49%)、ハイソルブMDPOM(ジプロピレングリコールジメチルエーテル,1,5−Dimethoxy−2−methyl−3−oxahexane)(膨潤率3.37%)、ハイソルブMTPOM(トリプロピレングリコールジメチルエーテル)、アイソパーM、アイソパーL、アイソパーH、アイソパーG、ソルベッソ200、ソルベッソ150、ペガソール3040、エクソールD130、イソホロン、n−メチルピロリドン、エクアミドM100、エクアミドB100等を挙げることができる。これら溶剤を1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記溶剤を用いることで、揮発薬剤透過フィルム2の溶剤による膨潤率を5%以下に設定することができる。揮発薬剤透過フィルム2の膨潤率が3%以下となる溶剤を用いるのがより好ましい。さらに好ましいのは、揮発薬剤透過フィルム2の膨潤率が2%以下となる溶剤である。
【0030】
この実施形態では、容器1をPET製としており、溶剤によっては容器1を白化させることがある。容器1を白化させないようにするには、上記溶剤のうち、ハイソルブEPH、ハイソルブMMM、ハイソルブMDM、ハイソルブMTM、ハイソルブMTEM、ハイソルブMPM、ハイソルブEDE、ハイソルブEDM、ハイソルブBTM、ハイソルブMDPOM、ハイソルブMTPOM、エクアミドM100、エクアミドB100以外の溶剤を用いるのが好ましい。
【0031】
さらに好ましい溶剤としては、人の周囲で拡散させるものであることから、低臭性をもつものである。また、蒸散速度が速すぎると薬剤Aがすぐに無くなってしまうので、例えば、薬剤Aが数十日以上持つ程度の蒸散速度が好ましい。
【0032】
薬剤Aには、例えば、防虫剤、芳香剤、消臭剤等を含有させてもよいし、これらを2種以上含有させてもよい。
【0033】
上記構成の薬剤収容具3を製造する要領は、まず、容器1に薬剤Aを注入し、薬剤非透過シート4が一体化した揮発薬剤透過フィルム2を容器1の延出板部1bに全周に亘って接着する。このとき、揮発薬剤透過フィルム2に薬剤Aの溶剤が触れるので、溶剤の分子が揮発薬剤透過フィルム2の非結晶部分に入り込み、揮発薬剤透過フィルム2が膨潤する。
【0034】
上記構成の薬剤収容具3を使用する場合には、薬剤非透過シート4を揮発薬剤透過フィルム2から剥がす。揮発薬剤透過フィルム2は既に膨潤しているので、若干弛むようになることがあるが、膨潤率が5%以下なので、弛み量は十分に小さい。
【0035】
使用時には、薬剤収容具3を図示しないホルダに保持して立てた姿勢、すなわち、揮発薬剤透過フィルム2が上下に延びる姿勢とする。この状態で、容器1内の薬剤Aは気体成分が揮発薬剤透過フィルム2から放出されて周囲に拡散する。これにより、殺虫効果や害虫忌避効果を得ることができる。また、薬剤Aの残量は、容器1が透光性を有しているので、外部から容易に把握することが可能である。
【0036】
使用時には、重力の影響によって薬剤Aが下に溜まろうとするが、揮発薬剤透過フィルム2の膨潤率が5%以下となっていて揮発薬剤透過フィルム2の弛み量が十分に小さいので、薬剤Aが下に溜まりにくくなる。よって、使用開始直後に薬剤Aの液面が著しく低下してしまうことはなく、使用者が違和感を感じにくい。また、
図3に示すように、薬剤Aが下に溜まりにくくなるので、容器1の上から下まで薬剤Aの色が同じように見える。さらに、使用期間中の初期と終わりとで薬剤の減り方に大きな差が生じることもない。
【0037】
すなわち、揮発薬剤透過フィルム2が薬剤Aの溶剤成分に触れて膨潤する場合、仮にその膨潤率が5%を越えていたとすると、揮発薬剤透過フィルム2が上下に延びるような姿勢で薬剤収容具3を配置した際に、
図4に示すように薬剤Aが下に多く溜まって使用開始直後であるにもかかわらず、液面が下がり、使用者が違和感を感じるとともに、残量を正確に把握できなくなる。
【0038】
本実施形態では、揮発薬剤透過フィルム2の膨潤率を5%以下に設定したので、薬剤Aの残量を正確に、かつ、違和感を感じることなく把握できる。
【0039】
揮発薬剤透過フィルム2の膨潤率を3%以下に設定すれば、揮発薬剤透過フィルム2の弛み量がより一層少なくなるので、使用開始直後の液面の低下をより一層抑制できるとともに、上下で薬剤Aの色を略同じにすることができ、しかも、使用期間中の初期と終わりとで薬剤Aの減り方に殆ど差が生じなくなる。
【0040】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明したように、本発明に係る薬剤収容具は、例えば殺虫剤や害虫忌避剤等を拡散させるのに使用できる。
【符号の説明】
【0042】
1 容器
2 揮発薬剤透過フィルム(揮発薬剤透過部材)
3 薬剤収容具
4 薬剤非透過シート
A 薬剤