【文献】
YONETAKE, Koichiro; AWANO, Hiroshi; HABA, Osamu; KIDO, Junji,Structures and Properties of Liquid Crystalline Materials Oriented under Magnetic Field,Materials Research Society of Japan,日本,Transactions of the Materials Research Society of Japan,2003年10月13日,2004年, 29巻、3号,pp 997-1000
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、低駆動電圧、低消費電力及び軽量などの特性を有していることから、時計の表示板や携帯電話のディスプレイのほか、コンピュータやテレビのディスプレイなどでの用途が拡がっている。
現在主流の液晶表示装置では、TN(twisted nematic)モード、VA(vertical alignment)モード、IPS(in-plane switching)モードなどが採用されているが、これらの種類や仕様によって液晶材料に要求される物性(例えば、屈折率異方性、誘電率異方性、粘度、相転位温度など)が異なる。そのため、所望の物性を満たすために、単一の液晶成分ではなく、2種以上の液晶成分を含む混合液晶が液晶材料として一般的に使用されている。また、最近では、液晶材料に微粒子を含有させることによって様々な物性を向上させ得ることも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、上記駆動方式の液晶表示装置ではいずれも、液晶分子の配向を制御する手段が必要であり、ポリイミドなどからなる配向膜を形成する手段が一般的に使用されている。例えば、TNやIPSモードの液晶表示装置では、ラビング処理を施した配向膜によって、基板に対して平行な方向に液晶分子を配向制御している。他方、ラビング処理が不要なVAモードの液晶表示装置では、配向膜によって基板に対して垂直な方向に液晶分子を配向制御している。
ここで、従来の一般的なVAモード液晶表示装置の断面図を
図3及び
図4に示す。なお、
図3は平面型電極6を用いたもの、
図4は櫛型電極7を用いたものである。これらの図からわかるように、従来の一般的なVAモード液晶表示装置は、対向した一対のガラス基板などの基板1a,1bと、基板1aと基板1bとの間に挟持された、液晶分子3を含む液晶層2とを備えており、基板1a,1bの液晶層2と直に接する面には、液晶分子を配向制御する配向膜8が形成されている。また、基板1aには、所望のカラーを実現するためのカラーフィルタ層4及びカラーフィルタ層4を保護するためのオーバーコート層5が形成されており、シール材9によって液晶層2が封止されている。
【0004】
平面型電極6を用いたVAモード液晶表示装置では、(A)電界OFFの場合、配向膜8によって液晶層2中の液晶分子(n型液晶分子)3が基板1a,1bに対して垂直に配向し、(B)電界ONの場合、液晶分子(n型液晶分子)3が電気力線(図中の矢印)に垂直に配向、すなわち基板1a,1bに対して平行に配向する。
櫛型電極7を用いたVAモード液晶表示装置では、(A)電界OFFの場合、配向膜8によって液晶層2中の液晶分子(p型液晶分子)3が基板1a,1bに対して垂直に配向し、(B)電界ONの場合、液晶分子(p型液晶分子)3が電気力線(図中の矢印)に平行に配向、すなわち基板1a,1bに対して平行に配向する。
【0005】
しかしながら、
図3及び4のようなVAモード液晶表示装置に代表される従来の一般的な液晶表示装置では、配向膜8によって液晶分子3の配向制御を行っているため、配向膜8の形成に起因する様々な問題がある。例えば、配向膜8を形成する際にゴミやピンホールによって印刷上の製造歩留まりが低下したり、製造工程のガラス基板の大型化に伴って配向膜8の形成工程の投資コストが増大するなどの問題がある。そのため、他の液晶配向制御手段の開発が強く望まれている。
【0006】
他の液晶配向制御手段としては、非特許文献1において、ナノ粒子を分散させた液晶材料を液晶層に用いる方法が提案されている。また、非特許文献2において、光重合性モノマーを配合した液晶材料をガラス基板間に注入した後に光照射する方法が提案されている。さらに、非特許文献3において、ITO電極にイオンビームを直接照射することで配向膜を形成することなく垂直配向を誘起させる方法が提案されている。
しかしながら、非特許文献1の方法は、液晶材料に分散させたナノ粒子が凝集し易く、凝集した部分から光漏れが生じるため、液晶表示装置のコントラストが低下するという問題がある。また、非特許文献2の方法は、光照射工程が必要であるため、新たな設備投資が要求されると共に作業時間が長くなり、コストアップに繋がるという問題がある。さらに、非特許文献3の方法は、イオンビーム照射工程が必要であるため、真空容器を備えた新たな設備投資が必要となる上、ITO櫛型電極を使用する場合(
図2参照)、ITOが形成されていない部分において垂直配向を誘起させることができないという根本的な問題が発生する。
【0007】
そこで、本発明者らは、特許文献2において、コントラストなどの表示性能を低下させずに液晶配向制御を行うことが可能な液晶配向剤として、特定の構造を有するデンドリマーを使用することを提案した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
本実施の形態の耐熱性液晶配向剤は、コアと、コアに連結したデンドロンとを有するデンドリマーからなる。
ここで、「コア」とは、デンドリマーの中心部分を意味し、「デンドロン」とは、コアから規則的に枝分かれした側鎖部分を意味し、「液晶配向剤」とは、配向膜に頼ることなく、それ自体で液晶分子の配向制御が可能なものを意味する。また、「耐熱性液晶配向剤」とは、液晶のNI点よりも高い温度に加熱した後であっても、その特性を維持することが可能な液晶配向剤のことを意味する。
【0015】
本実施の形態の耐熱性液晶配向剤として用いられるデンドリマーは、デンドロンの末端に2つ以上のフッ素及び1つ以上のアルコキシ基を有する。
このような官能基をデンドロンの末端に有するデンドリマーは、液晶層中において基板との間の相互作用が増大し、基板に対する吸着力が高くなる。液晶層中のデンドリマーは、液晶層を挟持する基板に吸着して配向膜と同様の作用効果を与え、液晶層中の液晶分子を基板に対して垂直に配向させると考えられているが、このような構造を有するデンドリマーを用いることにより、基板に対する吸着力が高くなるため、高温に曝された場合であっても基板から離れ難くなる。その結果、上記のような構造を有するデンドリマーは、高温(特に、液晶のNI点よりも高い温度)に曝された場合であっても、液晶配向制御を安定して行うことが可能になる。デンドリマーが、デンドロンの末端に2つ以上のフッ素及び1つ以上のアルコキシ基を有していない場合、液晶層中において基板との間の相互作用が小さくなる結果、高温に曝された際に基板から離れてしまい、液晶配向制御が難しくなる。
【0016】
本実施の形態の耐熱性液晶配向剤として用いられるデンドリマーは、液晶成分に対して相溶性であることが好ましい。液晶成分と相溶性がないと、デンドリマーが沈殿し、均一な配向制御性(垂直配向)が得られないことがある。ここで、「液晶成分に対して相溶性である」とは、液晶成分にデンドリマーを配合し、これをオーブンで液晶成分の相転移温度以上の温度まで上昇させて等方相にした際にデンドリマーが溶解しており(すなわち、液晶成分とデンドリマーとの混合物が透明であり)、室温(25℃)まで戻してもデンドリマーの沈殿が確認されないものを意味する。
【0017】
本実施の形態の耐熱性液晶配向剤として用いられるデンドリマーを構成するコアは、以下の式(1)を有することが好ましい。
【0019】
本実施の形態の耐熱性液晶配向剤として用いられるデンドリマーを構成するデンドロンは、以下の一般式(2)を有することが好ましい。
【0021】
式中、a及びbは2〜5の整数、好ましくは2〜4の整数、より好ましくは3の整数であり;Rは以下の一般式(3)により表される。
【0023】
式中、cは3〜12の整数、好ましくは4〜10の整数、より好ましくは5〜8の整数であり;Aは、2つ以上のフッ素及び1つ以上のアルコキシ基を有するフェニル基である。好ましいRは以下の一般式(4)により表される。
【0025】
式中、cは3〜12の整数、好ましくは4〜10の整数、より好ましくは5〜8の整数であり;nは1〜12、好ましくは2〜10、より好ましくは3〜8の整数である。
【0026】
本実施の形態の耐熱性液晶配向剤として用いられるデンドリマーは、各種文献に記載の公知の方法に準じて合成することができ、一般に、コアを与える化合物と、この化合物と結合してデンドロンを与える化合物とを有機溶剤中で反応させればよい。また、デンドリマーの世代を制御するために、デンドロンの分岐鎖となる部分を、コアを与える化合物に予め形成しておいてもよい。
【0027】
本実施の形態の耐熱性液晶配向剤として用いられるデンドリマーの合成方法の具体例としては、多官能性アミン化合物と、アクリル酸エステル誘導体とを有機溶剤中で反応させる方法が挙げられる。
多官能性アミン化合物としては、ポリプロピレンテトラミンデンドリマー第1世代(Polypropylene tetramine Dendrimer, Generation 1.0)、ポリプロピレンオクタミンデンドリマー第2世代(Polypropylene octaamine Dendrimer, Generation 2.0)などであり、アルドリッチ社製のDAB−Am−4やDAB−Am−8などの市販品を使用することもできる。また、この多官能性アミン化合物は、エチレンジアミン及びアクリロニトリルを出発原料として合成することもできる。
アクリル酸エステル誘導体としては、合成するデンドリマーの種類に応じて適宜選択する必要があるが、例えば、上記の一般式を有するコア及びデンドロンを有するデンドリマーを合成する場合、下記の式(5)で表される化合物を原料として用いることができる。
【0029】
上記の式(5)中、A及びcは、上記で定義した通りである。
多官能性アミン化合物とアクリル酸エステル誘導体との反応比は、特に限定されないが、多官能性アミン化合物1モルに対して、アクリル酸エステル誘導体が1.0〜3.0モル、好ましくは1.1〜1.5モルである。
【0030】
有機溶剤としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。有機溶剤の例としては、1,2−ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル系溶剤;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤;N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
また、有機溶剤の量は、多官能性アミン化合物やアクリル酸エステル誘導体の量などに応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。
【0031】
反応温度としては、特に限定されないが、−50〜150℃、好ましくは25〜80℃である。反応温度が−50℃未満であると、反応速度が著しく低下することがある。また、反応温度が150℃を超えると、多官能性アミン化合物やアクリル酸エステル誘導体の安定性が低下することがある。
反応時間としては、特に限定されないが、2〜200時間、好ましくは48〜100時間である。反応時間が2時間未満であると、反応が十分に進行しないことがある。反応時間が200時間を超えると、時間がかかりすぎて実用的でない。
反応終了後は溶剤を除去することにより、目的とするデンドリマーを得ることができる。また、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサン、トルエンなどの貧溶剤を加えて加熱し、上澄みを除去することによって精製してもよい。
【0032】
実施の形態2.
本実施の形態の液晶組成物は、液晶成分と、上記の耐熱性液晶配向剤とを含む。
本実施の形態の液晶組成物を液晶層に用いる場合、液晶組成物中の耐熱性液晶配向剤(デンドリマー)は、液晶層を挟持する基板に吸着し、液晶層と液晶層を挟持する基板との界面に存在して配向膜と同様の作用効果を与え、液晶層中の液晶分子を基板に対して垂直に配向させる。したがって、本実施の形態の液晶組成物中の耐熱性液晶配向剤の含有量は、基板に吸着し、液晶層と液晶層を挟持する基板との界面に存在するような量であればよい。この液晶組成物中の耐熱性液晶配向剤の含有量は、液晶層を挟持する基板の面積に依存するため一義的に定義することはできないが、一般的に0.01〜50質量%である。耐熱性液晶配向剤の含有量が0.01質量%未満であると、当該界面に存在する耐熱性液晶配向剤の量が少なすぎてしまい、液晶分子の配向制御に対する長期信頼性が低下することがある。一方、耐熱性液晶配向剤の含有量が50質量%を超えると、液晶成分の量が少なくなり、応答時間の増大や駆動電圧の増加などのような液晶表示装置としての所望の性能が得られないことがある。
【0033】
本実施の形態の液晶組成物に耐熱性液晶配向剤を含有させる方法としては、特に限定されず、公知の方法に準じて行うことができる。例えば、耐熱性液晶配向剤を液晶成分に加えた後、周知の混合手段を用いて混合させればよい。
【0034】
本実施の形態の液晶組成物に用いられる液晶成分としては、特に限定されないが、2種以上の液晶成分を含む混合液晶であることが好ましい。この混合液晶は、使用用途にあわせて所望の物性(例えば、屈折率異方性、誘電率異方性、粘度、相転位温度など)を満たすように幾つかの液晶成分を混合することによって調製されるため、一義的に定義することは難しいが、フッ素系混合液晶やシアノ系混合液晶などと一般的に称される混合液晶であり得る。これらの中でも、現在、液晶表示装置に一般的に使用されているフッ素系混合液晶を用いることが好ましい。ここで、「フッ素系混合液晶」とは、1種以上のフッ素系液晶を含む混合液晶を意味し、「シアノ系混合液晶」とは、1種以上のシアノ系液晶を含む混合液晶を意味する。
上記の混合液晶は、一般的に公知であると共に商業的に利用可能であり、例えば、フッ素系混合液晶は、ZLI−4792(p型)やMLC−6608(n型)という商品名でメルクジャパン株式会社によって販売されている。また、シアノ系混合液晶は、JC−5066XX(p型)という商品名でJNC石油化学株式会社によって販売されている。
【0035】
本実施の形態の液晶組成物は、液晶表示装置の実用性の観点から、室温において液晶性を示し、液晶相から等方相又は別の液晶相への相転移温度が50℃以上120℃以下であることが好ましい。
【0036】
本実施の形態の液晶組成物は、液晶表示装置の液晶層として用いた場合に、液晶層を挟持する基板に吸着し、液晶層と液晶層を挟持する基板との界面に存在し、配向膜と同じ作用効果を与えることができる。したがって、本実施の形態の液晶組成物を用いれば、配向膜を設けなくてもよい。また、本実施の形態の液晶組成物は、高温に曝された場合であっても液晶配向制御を安定して行うことが可能であるので、液晶表示装置及びこれを用いたモジュールの製造工程における製造条件(熱処理条件)の制約を少なくすることができ、既存の設備及び製造条件を利用することができると共に、長期信頼性を高めることが可能になる。
【0037】
実施の形態3.
本実施の形態の液晶表示装置は、上記の液晶組成物を液晶層として備えている。ここで、液晶層は、上記の液晶組成物から構成されるため、液晶層の組成についての説明は省略する。
以下、図面を参照して本実施の形態の液晶表示装置について詳細に説明する。なお、本実施の形態の液晶表示装置は、液晶層の構成以外は公知の液晶表示装置の構成を採用することができ、以下の構成に限定されるものではない。また、この液晶層の構成を採用すれば、配向膜を形成しなくてもよいが、配向膜と併用して液晶配向制御を行ってもよい。この場合においても、コントラストなどの特性を低下させることなく液晶配向制御を行うことが可能である。ここで、「配向膜」とは、液晶の配列状態を制御する膜であり、一般的にポリイミドなどの樹脂からなる膜を意味する。
【0038】
図1は、平面型電極を用いた本実施の形態のVAモード液晶表示装置の断面図である。
図1において、(A)は電界OFFの場合、(B)は電界ONの場合を表す。この液晶表示装置は、対向した一対のガラス基板などの基板1a,1bと、基板1aと基板1bとの間に形成された液晶層2とを備えている。基板1aには、所望のカラーを実現するためのカラーフィルタ層4、カラーフィルタ層4を保護するためのオーバーコート層5及び平面型電極6が順次形成されており、基板1bには、平面型電極6が形成されている。そして、液晶層2は、基板1a,1bに形成された平面型電極6と直に接していると共に、シール材9によって封止されている。液晶層2に配合された耐熱性液晶配向剤10は、液晶層2と液晶層2が接する部材(平面型電極6)との界面に主に存在して配向膜と同様の作用効果を与え、液晶層2中の液晶分子3を基板に対して垂直に配向させる。したがって、このVAモード液晶表示装置では、(A)電界OFFの場合、液晶層2中の液晶分子(n型液晶分子)3が基板1a,1bに対して垂直に配向し、(B)電界ONの場合、液晶分子(n型液晶分子)3が電気力線(図中の矢印)に垂直に配向、すなわち基板1a,1bに対して平行に配向する。
【0039】
図2は、櫛型電極を用いた本実施の形態のVAモード液晶表示装置の断面図である。
図2において、(A)は電界OFFの場合、(B)は電界ONの場合を表す。この液晶表示装置は、対向した一対のガラス基板などの基板1a,1bと、基板1aと基板1bとの間に形成された液晶層2とを備えている。基板1aには、所望のカラーを実現するためのカラーフィルタ層4、及びカラーフィルタ層4を保護するためのオーバーコート層5が順次形成されており、基板1bには、櫛型電極7が形成されている。そして、液晶層2は、基板1bに形成された櫛型電極7と直に接していると共に、シール材9によって封止されている。なお、櫛型電極構造には、FFS(フリンジフィールドスィッチング)モード(例えば、特開2008−51846号公報参照)を用いることも可能である。液晶層2に配合された耐熱性液晶配向剤10は、液晶層2と液晶層2が接する部材(オーバーコート層5、基板1b及び櫛型電極7)との界面に主に存在して配向膜と同様の作用効果を与え、液晶層2中の液晶分子3を基板に対して垂直に配向させる。したがって、このVAモード液晶表示装置では、(A)電界OFFの場合、液晶層2中の液晶分子(p型液晶分子)3が基板1a,1bに対して垂直に配向し、(B)電界ONの場合、液晶分子(p型液晶分子)3が電気力線(図中の矢印)に平行に配向、すなわち基板1a,1bに対して平行に配向する。
【0040】
上記のように、VAモード液晶表示装置では、耐熱性液晶配向剤10を液晶層2に配合することにより、液晶層2と液晶層2と接する部分(
図1では平面型電極6、
図2ではオーバーコート層5、基板1b及び櫛型電極7)との界面に耐熱性液晶配向剤10を主に存在させ、液晶分子3の配向制御を行う。すなわち、耐熱性液晶配向剤10は、液晶層2と接する部分に吸着し、液晶層2と液晶層2と接する部分との界面に存在して配向膜と同じ作用効果を与えるため、
図3及び
図4に示すような従来のVAモード液晶表示装置とは異なり、配向膜8を設けなくても液晶分子3の配向制御が可能である。また、耐熱性液晶配向剤10を用いているので、高温に曝された場合であっても液晶配向制御を安定して行うことができ、液晶表示装置及びこれを用いたモジュールの製造工程における製造条件(熱処理条件)の制約を少なくすることができ、既存の設備及び製造条件を利用することができると共に、長期信頼性を高めることが可能になる。加えて、配向膜8を設けない場合には、液晶層2を平面型電極6や櫛型電極7と直に接触させることができるため、配向膜8による電力ロスを低減して液晶表示装置の駆動電圧を低下させることもできる。さらに、配向膜8のスペースの削減によって、印刷による配向膜8の端の位置のバラツキを考慮する必要がなくなる。つまり、基板1a,1b同士を接着しているシール材9と配向膜8との重なりがあるほどシール材9の接着力を低下させてしまうが、配向膜8がなくなることにより、シール材9の幅を狭くして、位置を表示エリアに近づけることが可能となり、液晶表示装置の狭額縁化を達成することができる。
【0041】
次に、本実施の形態の液晶表示装置の製造プロセスフロー、及び従来の液晶表示装置の製造プロセスフローを表す図を
図5に示す。なお、このフローは、例示的なものであるため、ODF(液晶滴下注入法)以外の方法にて液晶セルを作製する方法、例えば、毛細管現象を利用する方法(すなわち、予め張り合わせた基板間に液晶組成物を注入する方法)などを除外することを意味するものではない。
【0042】
従来の液晶表示装置の製造プロセスでは、液晶配向制御のための配向膜を形成するために、一般的に、(1)基板上へのポリイミド(以下、PIという)の塗布、(2)仮焼成、(3)本焼成、(4)ラビング処理及び(5)ラビング処理後の基板洗浄(
図5における点線枠内の工程)を行う必要があった。なお、駆動方式によっては、(4)ラビング処理及び(5)ラビング処理後の基板洗浄の工程が行われない場合もある。
これに対して本実施の形態の液晶表示装置の製造プロセスでは、液晶組成物に含有される耐熱性液晶配向剤によって液晶配向制御を行うことができるため、配向膜を形成しなくてもよく、またラビング処理も行わなくてもよい。したがって、配向膜の形成やラビング処理を行う際に必要となる上記(1)〜(5)の工程を要しないため、製造方法の簡素化及び設備投資の大幅な削減が可能になると共に、ゴミやピンホールによって印刷上の製造歩留まりが低下したり、製造工程のガラス基板の大型化に伴って配向膜の形成工程の投資コストが増大するなどの問題も生じない。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
まず、上記の式(1)で表されるコアと、以下の式(I)で表されるデンドロンとからなるデンドリマーAを次のようにして合成した。
【0044】
【化6】
【0045】
式(I)中、Rは以下の式(II)で表される。
【0046】
【化7】
【0047】
<6−[4−(3,5−ジフルオロ−4−ヘキシロキシフェニル)フェノルキシ]ヘキサノールの合成>
200mLのナスフラスコに、4−(3,5−ジフルオロ−4−ヘキシロキシフェニル)フェノール(2.46g,8.03mol)、6−ブロモヘキサノール(2.18g、12.0mmol)、炭酸カリウム(1.64g、12.0mmol)及び2−ブタノン(20mL)を入れて溶解し、24時間加熱還流した。加熱還流が終了した後、減圧下で2−ブタノンを除去して得られた残渣をジエチルエーテルに溶解し、この溶液を水で3回洗浄した。次に、この溶液に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、ジエチルエーテルを減圧下で留去し、カラムクロマトグラフィー(固定相:シリカゲル、移動相:クロロホルム)により精製した。次に、得られた残渣をn−ヘキサンで再結晶させることで、白色結晶を収量4.92g(収率61.6%)で得た。この白色結晶の
1H−NMR(CDCl
3,400MHz)を測定したところ、7.42ppm(d,2H,ArH)、7.106ppm(d,2H,ArH)、6.95ppm(d,2H,ArH)、4.16ppm(t,2H,OCH
2)、4.02ppm(t,2H,OCH
2)、3.69ppm(q,2H,OCH
2)、1.85〜1.28ppm(m,16H,CH
2)、0.90ppm(t,3H,CH
3)のδが観測された。
【0048】
<6−[4−(3,5−ジフルオロ―4−ヘキシロキシフェニル)フェノルキシ]ヘキシルアクリレートの合成>
100mLの三口フラスコに、6−[4−(3,5−ジフルオロ―4−ヘキシロキシフェニル)フェノルキシ]ヘキサノール(2.00g、4.92mmol)、トリエチルアミン(0.60g,5.9mol)及びクロロホルム(20mL)を入れて溶解し、氷で0℃に冷却した。この溶液に塩化アクリロイル(0.53g,5.9mmol)を注射器を用いてゆっくり加え、室温で24時間撹拌した。生じた白色固体をろ別し、ろ液を減圧下で濃縮した後、得られた残渣をクロロホルムに溶解し、食塩水で2回、水で2回洗浄した。次に、有機相に無水硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、減圧下で濃縮した。次に、残渣をカラムクロマトグラフィー(固定相:シリカゲル、移動相:ヘキサン/酢酸エチル(容積比率4:1))により精製し、無色透明な液体を収量2.88g(収率59%)で得た。この液体の
1H−NMR(CDCl
3,400MHz)を測定したところ、7.42ppm(d,2H,ArH)、7.05ppm(d,2H,ArH)、6.93ppm(d,2H,ArH)、6.43ppm(dd,1H,=CH
2)、6.15ppm(dd,1H,−CH=)、5.85ppm(dd,1H,=CH
2)、4.20ppm(t,2H,COOCH
2)、4.17ppm(t,2H,ArOCH
2)、4.06ppm(t,2H,OCH
2)、1.87〜1.22ppm(m,16H,CH
2)、0.90ppm(t,3H,CH
3)のδが観測された。
【0049】
<デンドリマーAの合成>
50mLのナスフラスコに、アルドリッチ社製DAB−Am−8(0.046g、0.059mmol)、6−[4−(3,5−ジフルオロ―4−ヘキシロキシフェニル)フェノルキシ]ヘキシルアクリレート(0.60g、1.30mmol)及びクロロホルム(1.5mL)を入れ、40℃で1週間加熱した。次に、この溶液を減圧下で濃縮した後、残渣を少量のクロロホルムに溶解して100mLのn−ヘキサンに加え、上澄みをデカンテーションによって除去し、沈殿物を回収した。この操作を2回繰り返すことによって精製し、ペースト状の淡黄色固体を収量0.16g(収率33%)で得た。この淡黄色固体の
1H−NMR(CDCl
3,400MHz)を測定したところ、7.44〜6.89ppm(m,64H,ArH)、4.18〜4.00ppm(m,32H,OCH
2)、3.94ppm(d,32H,PhOCH
2)、2.75ppm(t,32H,N−CH
2)、2.41ppm(t,84H,N−CH
2,CH
2C=O)、1.90〜1.20ppm(m,284H,CH
2)、0.90ppm(s,48H,CH
3)のδが観測された。また、この淡黄色固体のMALDI−TOF−MSによる分子量を測定したところ、理論値m/Z=8165(M+Na)に対して、実測値m/Z=8162.2(M+Na)であった。さらに、この淡黄色固体のDSC測定を行ったところ、昇温過程においては32.1℃に吸熱ピークが観測され、また降温過程においては29.2℃に発熱ピークが観測された。
【0050】
次に、比較のために、上記の式(1)で表されるコアと、以下の式(III)で表されるデンドロンとからなるデンドリマーBを次のようにして合成した。
【0051】
【化8】
【0052】
式(III)中、Rは以下の式(IV)で表される。
【0053】
【化9】
【0054】
<6−[4−(trans−4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシ]ヘキサノールの合成>
200mLのナスフラスコに、4−(trans−4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシフェノール(10g、41mmol)、6−ブロモヘキサノール(8.8g、49mmol)、炭酸カリウム(11g、80mmol)及び2−ブタノン(50mL)を入れて溶解し、60時間加熱還流した。加熱還流が終了した後、減圧下で2−ブタノンを除去して得られた残渣を酢酸エチルに溶解し、この溶液を水で3回洗浄した。次に、この溶液に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、酢酸エチルを減圧下で留去し、得られた残渣をn−ヘキサンで再結晶させることで、白色結晶を収量6.2g(収率44%)で得た。この白色結晶は、IRにより、3340cm
−1(OH)、2922cm
−1(C−H)、1245cm
−1(PhO−)の特性吸収が観測された。
【0055】
<6−[4−(trans−4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシ]ヘキシルアクリレートの合成>
200mLの三口フラスコに、6−[4−(trans−4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシ]ヘキサノール(6.0g、17mmol)、トリエチルアミン(2.2g、22mmol)及びTHF(50mL)を入れて溶解し、氷で0℃に冷却した。この溶液に塩化アクリロイル(1.9g、21mmol)を注射器を用いてゆっくり加え、室温で12時間撹拌した。生じた白色固体をろ別し、ろ液を減圧下で濃縮した後、得られた残渣を酢酸エチルに溶解し、100mLの水で3回洗浄した。次に、有機相に無水硫酸マグネシウムを加えて水分を除去した後、減圧下で濃縮した。次に、残渣をカラムクロマトグラフィー(固定相:シリカゲル、移動相:ヘキサン/クロロホルム(容積比率50:1))により精製し、無色透明な液体を収量6.4g(収率93%)で得た。この液体は、IRにより、2920cm
−1(C−H)、1716cm
−1(C=O)、1245cm
−1(PhO−)の特性吸収が観測された。
【0056】
<デンドリマーBの合成>
20mLのナスフラスコに、アルドリッチ社製DAB−Am−8(0.16g、0.21mmol)、6−[4−(trans−4−ペンチルシクロヘキシル)フェノキシ]ヘキシルアクリレート(4.0g、10mmol)及びTHF(5mL)を入れ、50℃で72時間加熱した。次に、この溶液を減圧下で濃縮した後、残渣を少量のクロロホルムに溶解して100mLのメタノールに加え、上澄みをデカンテーションによって除去し、沈殿物を回収した。この操作を2回繰り返すことによって精製し、ペースト状の淡黄色固体を収量0.45g(収率30%)で得た。この淡黄色固体は、IRにより、2921cm
−1(C−H)、1736cm
−1(C=O)、1247cm
−1(PhO−)の特性吸収が観測された。また、この淡黄色固体の元素分析値は、C
456H
736N
14O
48として計算した値と0.5%の範囲内で一致した。(計算値〜C:76.25%、H:10.33%、N:2.73%、実測値〜C:76.09%、H:10.52%、N:2.80%)また、この淡黄色固体のMALDI−TOF−MSによる分子量を測定したところ、理論値m/Z=7183(M+H)に対して、実測値m/Z=7181.2(M+H)であった。さらに、この淡黄色固体のDSC測定を行ったところ、昇温過程においては−24℃にTg、14℃及び73℃に吸熱ピークが観測され、また、降温過程においては69℃及び15℃に発熱ピーク、−26℃にTgが観測された。
【0057】
次に、上記で合成したデンドリマーと、フッ素系混合液晶ZLI−4792(P型、メルクジャパン株式会社)とをバイアル瓶に入れて混合することによって液晶組成物を調製した。この液晶組成物におけるデンドリマーの含有量は1質量%とした。
調製した液晶組成物を110℃で10分間放置したところ、デンドリマーA及びデンドリマーBはいずれも完全に溶解していることを目視にて確認した。また、室温に冷却した後も、デンドリマーの分離や沈殿などは確認されなかった。
【0058】
次に、上記で調製した液晶組成物を用いて配向膜のない液晶セルを作製した。
まず、一方のガラス基板上にクロム櫛型電極(イーエッチシー社製、電極間距離10μm、電極面積2cm
2)、ドット状カラムスペーサー(JSR株式会社製、型番JNPC−123−V2、高さ約5μm)を配置し、注入口エリアとなる部分を除くガラス基板の周辺に熱硬化型シール材(三井化学株式会社製、型番XN21−S)を塗布した後、他方のガラス基板と重ね合わせ、バネ式冶具加圧環境下、160℃で5時間加熱することによりガラス基板同士を接着した。次に、液晶組成物を注入口からキャピラリーで注入した後、UV接着剤(スリーボンド製、型番3027D)で注入口を封止した。このようにして得られた液晶セルのセルギャップは約3.0μmであった。
【0059】
デンドリマーAを用いて作製した液晶セル、及びデンドリマーBを用いて作製した液晶セルについて、DC電圧を印加したところ、いずれの液晶セルにおいても暗視野から明視野への切り替えが可能であり、配向制御が可能であったことを確認した。
【0060】
次に、これらの液晶セルについて温度に対する輝度(透過率)の変化を調べた。具体的には、10Vを印加しながら昇温し、NI点以上の温度で一定時間保持した後、室温(25℃)に戻した際の輝度の変化を測定した。その結果を
図6に示す。
図6に示されているように、デンドリマーAを用いて作製した液晶セルでは、NI点以上の温度で一定時間保持した後であっても、NI点以上の温度に昇温する前の輝度と同程度であった。これに対してデンドリマーBを用いて作製した液晶セルでは、NI点以上の温度に昇温する前の輝度に比べて、NI点以上の温度(120℃)で一定時間保持した後の輝度が低下した。
【0061】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、液晶組成物を液晶のNI点よりも高い温度に加熱した後にNI点以下の温度に下げても、液晶配向制御を安定して行うことが可能な耐熱性液晶配向剤及び液晶組成物を提供することができる。また、本発明によれば、長期信頼性に優れた液晶表示装置を提供することができる。