(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
有機ポリマーを含む基板表面は、メタライゼーションの前に、通常、基板表面とめっき金属との間に良好な密着性を実現するためにエッチングされる。長年にわたって、多くの化学物質供給業者やめっき産業が、現在使用されている有毒なエッチング液の代わりを見付けようと努力を重ねてきたにもかかわらず、6価クロム、すなわちCr(VI)を含有しない市販製品は、現在市場に出回っていない。
【0003】
Cr(VI)含有化合物には、発がん性の疑いがある。したがって、これらの化合物の取扱いは、厳しい環境規制の対象となっている。Cr(VI)放出化合物に起因する潜在的な危険性がある中で、Cr(VI)含有化合物の産業利用の禁止は排除され得ない。
【0004】
有機ポリマー表面を改質するウェットエッチング工程においてクロムフリー酸化剤を使用するために、長年にわたって、業界ではさまざまな化学種が提案されてきた。そのような酸化剤には、Mn(VII)、Mn(VI)、Mn(IV)、Ce(IV)、過硫酸塩、H
2O
2、有機溶媒、例えばジオキサン、金属ハロゲン化物ならびにFe、Cu、Ti、Zn、およびMgの硝酸塩がある。酸化剤は、エッチング工程によって、または酸化剤の不安定さが原因で消費される。したがって、頻繁な補充または再生法が必要となる。再生法は、特に産業環境で好まれる。Mn(VII)は、もっともよく使用されている酸化剤の1つである。溶液中には、通常、イオン種MnO
4−の形で存在する。アルカリ溶液中でのMn(VII)の電気化学的再生が、回路基板の製造などさまざまな産業で用いられている。酸性媒質中では、Mn(VII)の再生は、アルカリ媒体中よりも難しいように思われる。電気化学的酸化のためにAg(I)またはBi(III)などの触媒を使用する既刊文献はわずかである。Fleischmann et al.の研究(J.Appl.Electrochem.Vol.1,pp.1,1971)は、Ag(I)が、有機種と無機種の両方を電気化学的に酸化させるのに有効な触媒であることを示している。Park et al.(J.Electrochem.Soc.Vol.151,pp.E265,2004)は、ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)電極上のBi(III)も、Mn(II)を酸化してMn(VII)にする電子移動メディエーターとして機能する可能性があることを開示している。Boardman(J.Electroanal.Chem.Vol.149,pp.49,1983)およびComninellis(Electrochimica Acta,Vol.36,No.8,pp.1363,1991)は、Ag(I)の存在下で硫酸媒体中でのMn(II)からMn(VII)の電気化学的生成の可能性、およびMn(VII)生成の電流効率を向上させる実験条件を示している。米国特許出願公開第2011/0140035号明細書は、プラスチック表面の前処理用の過マンガン酸塩の酸洗液で使用するための同様の方法を開示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書を通して使用される以下に示す略語は、別途文中で明確に指定しない限り、次の意味を有する:℃=セ氏温度;g=グラム;L=リットル;M=モル濃度またはモル数/リットル;mM=ミリモル濃度;mol=モル;mmol=ミリモル;mL=ミリリットル;g/L=1リットル当たりのグラム数;m=メートル;A=アンペア;mA=ミリアンペア;dm=デシメートル;UV=紫外線;nm=ナノメートル;cm=センチメートル;質量%=重量百分率;Tg=ガラス転移点;ASTM=American Standard Testing Method(米国標準試験法);Mn=マンガン元素;Mn(II)=2価マンガン;Mn(III)=3価マンガン;Mn(IV)=4価マンガン;Mn(VI)=6価マンガン;Mn(VII)=7価マンガン;Cr(VI)=6価クロム;Ag=銀;Bi=ビスマス;Ce=セリウム;Pb=鉛;Ir=イリジウム;H
2SO
4=硫酸;MnO
4−=過マンガン酸塩;KMnO
4=過マンガン酸カリウム;Ag
2SO
4=硫酸銀;Ag
2O=酸化銀;O
3=オゾン;H
2O
2=過酸化水素;MSA=メタンスルホン酸;SEM=走査型電子顕微鏡;mbar=ミリバール;吸光度は−log(I/I0)で、I0=入射光強度、I=透過光強度;FE−SEM=高解像度電界放射型走査型電子顕微鏡。
【0011】
「化学量論的」という用語は、通常は、物理的または化学的な変化(化学反応が終了または安定する点)を経る2つ以上の化学物質間の比率として表される、定量的関係を意味する。数値の範囲はすべて、論理的に当該数値の範囲が合計すると100%になると解釈される場合を除き、包括的であり、かつ、任意の順序で組み合わせることが可能である。別途言及のない限り、量はすべて重量百分率であり、比率はすべて重量比である。「a」および「an」は、単数および複数の両方を含むものと解釈される。
【0012】
溶液は、基本的にMn(II)イオンおよびMn(III)イオン、硫酸および1つまたは複数の有機酸から成る。溶液中で、1つまたは複数のポリマーをエッチングおよび粗面化するための活性エッチング剤は、溶解Mn(III)イオンである。溶液中のMn(II)イオンおよびMn(III)イオンの最大濃度は、所定の酸濃度と温度におけるその溶解性によって制限される。所定の溶液成分の飽和濃度を測定するために、簡単な実験を行ってもよい。1つまたは複数のMn(II)イオン源およびMn(III)イオン源を、その飽和濃度直前まで溶液に加えてもよい。酸性水溶液は、懸濁液、分散液、コロイド溶液ではない。酸性水溶液の溶質はすべて、溶媒に実質的に溶解している。この溶液はクロムフリーである。十分な水を加え、溶液を100質量%にする。添加する水の量は、溶液の最大45質量%、好ましくは最大25質量%であってよい。水分濃度が高すぎる場合、溶液のエッチング性能、および溶液中のMn(III)イオンの安定性が低下する。
【0013】
Mn(II)イオンの存在により、Mn(III)イオンがMn(II)より酸化状態が高い実質的に唯一のMn種であることが可能となる。酸性媒体において、Mn(III)よりも酸化状態が高い他のMn種が溶液中に生じると、それらは以下の酸化還元反応によってMn(III)に還元される:
Mn(VII)+4Mn(II)→5Mn(III) 式1
Mn(VI)+3Mn(II)→4Mn(III) 式2
Mn(IV)+Mn(II)→2Mn(III) 式3
エッチング組成物のpHは、1未満から6、好ましくは1未満から3、より好ましくは1未満である。Mn(II)イオンの存在下で、溶液は実質的にMn(VI)、Mn(VII)および不溶性MnO
2を含まない。
【0014】
好ましくは、Mn(II)イオンの濃度が、Mn(II)塩の沈殿または結晶化の直前で0.1mmol/Lであり、より好ましくは、Mn(II)イオンの濃度が、Mn(II)塩の沈殿の直前で1mmol/Lである。もっとも好ましくは、Mn(II)イオンの濃度が、1mmol/L〜50mmol/Lである。溶液中のMn(II)イオンの最大濃度は、温度と組成物の酸含有量によって異なってよい;しかしながら、これは、溶液を目視検査した後に原子吸光分析法(AAS)で総Mn濃度を測定することによって、容易に決定することができる。その後、溶液中のMn(II)イオン濃度を、530nm〜520nmの波長でのUV−VIS分析により決定される溶液中の総Mn濃度と溶液中のMn(III)イオン濃度との差により決定する。UV−VISとAASは、当該技術分野でよく知られており、溶液中の金属濃度を分析するのにもっともよく用いられる分析法である。
【0015】
好ましくは、Mn(III)イオンの濃度が、Mn(III)塩の沈殿の直前で0.01mmol/Lであり、より好ましくは、Mn(III)イオンの濃度が、Mn(III)塩の沈殿の直前で1mmol/Lである。もっとも好ましくは、Mn(III)イオンの濃度が、1mmol/L〜70mmol/Lである。溶液中のMn(III)イオンの最大濃度は、温度と組成物の酸含有量によって異なってよい;しかしながら、これは、溶液を目視検査した後に前述のUV−VIS分析を用いてMn(III)イオン濃度を測定することにより容易に決定できる。
【0016】
溶液中のMn(III)イオン源には、硫酸Mn(III)、酢酸Mn(III)、アセチルアセトナートMn(III)、フッ化Mn(III)、メタンスルホン酸Mn(III)、酸化Mn(III)、オキシ水酸化Mn(III)、リン酸Mn(III)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンおよび2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H−23H−ポルフィンなどのポルフィンならびにフタロシアニンなどの窒素キレートを含有するマンガン(III)種があるが、これに限定されない。前記化合物は、当該技術分野および文献で周知であり、一部は市販されている。これらは、溶液中に所望のMn(III)イオン濃度をもたらす量を溶液に加える。
【0017】
Mn(II)イオン源には、硫酸Mn(II)、リン酸Mn(II)、リン酸水素Mn(II)、次リン酸Mn(II)、炭酸Mn(II)、酸化Mn(II)、水酸化Mn(II)、ハロゲン化Mn(II)、硝酸Mn(II)、酢酸Mn(II)、乳酸Mn(II)、蓚酸Mn(II)、クエン酸Mn(II)、アセチルアセトナートMn(II)、硫化Mn(II)、ギ酸Mn(II)、Mn(II)−エチレンジアミンテトラアセテート錯体(EDTA)、Mn(II)−ニトリロ三酢酸(NTA)錯体、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンおよび2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H−23H−ポルフィンなどのポルフィンならびにフタロシアニンなどの窒素キレートを含有するマンガン(II)種があるが、これに限定されない。前記マンガン化合物は、当該技術分野で周知であり、文献で周知であり、一部は市販されている。これらは、溶液中に所望のMn(II)イオン濃度をもたらす量を溶液に加える。
【0018】
Mn(III)種は、1つまたは複数のMn(II)化合物および1つまたは複数の酸化剤を用いることで、エッチング液に化学的にもたらしてもよい。酸化剤には、KMnO
4、MnO
2、過硫酸塩、例えば、アンモニウムおよびOXONE(登録商標)を含むアルカリ金属過硫酸塩、過酸化水素またはその他の無機過酸化物、例えばアルカリ、アルカリ土類金属過酸化物、有機過酸化物、例えばペルオキシ炭酸またはヒドロペルオキシド、亜塩素酸塩、例えばアルカリおよびアルカリ土類金属亜塩素酸塩、亜塩素酸銀または鉛亜塩素酸塩、塩素酸塩、例えばアルカリおよびアルカリ土類金属塩素酸塩、過塩素酸塩、例えば、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、過塩素酸銀、過塩素酸銅、過塩素酸ニッケル、過塩素酸亜鉛、過塩素酸カドミウム、過塩素酸鉛、過塩素酸水銀または過塩素酸鉄などのアルカリおよびアルカリ土類金属過塩素酸塩、ならびに次亜塩素酸塩、例えばアルカリおよびアルカリ土類金属次亜塩素酸塩、四酸化オスミウム、酸化銀(II)、オゾン、セリウム(IV)、例えば硝酸セリウムアンモニウム(IV)、酸化セリウム(IV)、硫酸セリウム(IV)、フッ化セリウム(IV)または硫酸四アンモニウムセリウム(IV)二水和物、ならびに酢酸鉛があるが、これに限定されない。溶液に添加する酸化剤またはそれらの混合物の量は、酸化剤が実質的にすべて反応した後で、発生するMn(III)イオンの量が、Mn(II)塩の沈殿直前の濃度で0.01mmol/Lとなるように、好ましくは、Mn(II)イオン濃度が、沈殿直前に0.1mmol/Lとなるように、Mn(II)化合物の化学量論的量未満の量で添加する。もっとも好ましくは、Mn(II)イオン濃度が1mmol/L〜50mmol/Lの範囲となるように、酸化剤を溶液に加える。
【0019】
Mn(III)イオンは、電気分解によってMn(II)イオンから発生させてもよい。1つまたは複数のMn(II)化合物を、硫酸、1つまたは複数の有機酸を含む酸性水溶液に加える。電気分解は、1つのコンパートメントセル、または、陽極液と陰極液が、膜または多孔セラミック管もしくは板を用いて分離されている2つのコンパートメントセルで行うことができる。陽極液は、Mn(II)イオン、硫酸および1つまたは複数の有機酸を含有し、陰極液は、硫酸および1つまたは複数の有機酸を含有する。さまざまな材料の陽極と陰極を使用することができ、これらは例えば、ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)、黒鉛、白金、白金めっきチタン、白金めっきニオブ、鉛、鉛合金、PbO
2、IrO
2または混合酸化物陽極であるが、これに限定されない。電気分解は、その後のメタライゼーションに備えて有機ポリマーをエッチングするために所望の量のMn(III)イオンが生成されるまで実施する。電流密度は、電極材料およびMn(III)イオン発生率によって異なってよい。通常、電流密度は、0.1A/dm
2〜100A/dm
2である。Mn(III)イオンが所望の量を下回るときは、エッチング液中のMn(III)イオンが所望の量に達するまで、電気分解を再度開始する。電気分解により、例えば、特定の産業にとって時間、効率、費用が重要なパラメータである産業環境において、作業中にエッチング液を補充しなければならないという問題が軽減または排除される。また、電気分解法で用いられる装置の設置費用も削減される。1つまたは複数の酸化剤、電気分解ならびに1つまたは複数のMn(II)塩源およびMn(III)塩源の使用の組合せも、所望のMn(II)/Mn(III)イオン濃度を得るために利用することができる。
【0020】
別法として、1つまたは複数の触媒を、電気分解法を適用するときに、溶液に加えてもよい。Mn(II)/Mn(III)酸化反応の陽極電流効率を向上させ、また、組成物のエッチング活性を高めるために、0.01mmol/L〜1mmol/Lの濃度の1つまたは複数の触媒を使用してもよい。そのような触媒には、Ag(I)、Bi(III)、Ce(III)およびPb(II)イオンがあるが、これに限定されない。そのような触媒イオン源は、当該技術分野および文献で周知であり、多くが市販されている。
【0021】
エッチング液中の無機酸は、好ましくは硫酸に限定される。好ましくは、硫酸の塩などの無機酸の塩は溶液から排除される。硫酸は、酸性水溶液中に1質量%〜89質量%、好ましくは15質量%〜70質量%の量で含まれる。有機酸には、アルカンスルホン酸、例えばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、例えばフェニルスルホン酸およびナフチルスルホン酸、カルボン酸、例えば酢酸、乳酸、クエン酸、ギ酸およびアスコルビン酸があるが、これに限定されない。好ましくは、有機酸はアルカンスルホン酸およびアリルスルホン酸である。より好ましくは、有機酸はアルカンスルホン酸である。もっとも好ましくは、有機酸はエタンスルホン酸およびメタンスルホン酸である。有機酸は、酸性水溶液中に1質量%〜89質量%、好ましくは15質量%〜70質量%の量で含まれる。好ましくは、硫酸と有機酸の溶液中の濃度は同じではない。好ましくは、含水量が変化しないように、片方の濃度がもう片方よりも高い。有機酸の塩は、好ましくは、酸性水溶液から排除する。
【0022】
1つまたは複数の有機ポリマーを含む
基体を酸性水溶液中に浸すか、または、
基体に溶液を噴霧する。有機ポリマーのエッチングは、10℃〜135℃、好ましくは20℃〜100℃、より好ましくは30℃〜80℃の溶液温度で行う。
【0023】
有機ポリマーには、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、低Tg樹脂、高Tg樹脂およびそれらの組合せがあるが、これに限定されない。熱可塑性樹脂には、アセタール樹脂、アクリル樹脂、例えばアクリル酸メチル、セルロース樹脂、例えば酢酸エチル、セルロースプロピオネート、酢酸酪酸セルロースおよび硝酸セルロース、ポリエーテル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレンブレンド、例えばアクリロニトリルスチレンおよびコポリマーならびにアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)コポリマー、ポリカーボネート(PC)、ポリクロロトリフルオロエチレン、ならびにビニルポリマーおよびコポリマー、例えば酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルブチラール、塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸コポリマー、塩化ビニリデンならびにビニルホルマールがあるが、これに限定されない。
【0024】
熱硬化性樹脂には、フタル酸アリル、フラン、メラミン・ホルムアルデヒド、フェノール・ホルムアルデヒドおよびフェノール・フルフラールコポリマー、単独またはブタジエン・アクリロニトリルコポリマーもしくはアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)コポリマーと混合で、ポリアクリル酸エステル、シリコーン、尿素ホルムアルデヒド、エポキシ樹脂、アリル樹脂、フタル酸グリセリルおよびポリエステルがあるが、これに限定されない。
【0025】
溶液は、低Tg樹脂および高Tg樹脂の両方をエッチングするのに使用してもよい。低Tg樹脂はTgが160℃未満、高Tg樹脂はTgが160℃以上である。通常、高Tg樹脂は、Tgが160℃〜280℃である。高Tgポリマー樹脂には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリテトラフルオロエチレンブレンドがあるが、これに限定されない。そのようなブレンドは、例えば、PTFEとポリフェニレンオキシドおよびシアン酸エステルとのブレンドである。Tgが高い樹脂を含むポリマー樹脂の他のクラスには、エポキシ樹脂、例えば二官能性および多官能性エポキシ樹脂、ビスマレイミド/トリアジンおよびエポキシ樹脂(BTエポキシ)、エポキシ/ポリフェニレンオキシド樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSU)、ポリアミド(PA)、ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリウレタン(PU)、ポリエーテルイミド(PEI)、エポキシおよびその混合物があるが、これに限定されない。
【0026】
有機ポリマーを含む
基体を、溶液で10秒〜30分間、好ましくは2分〜15分間処理する。
基体の有機ポリマーをエッチングした後で、
基体を水で洗い、それから、メタライゼーションに備えて、通常の方法で処理する。その後で、通常の金属めっき工程、および無電解ニッケルや無電解銅などの金属めっき浴を用いてメタライゼーションを行う。
【0027】
以下、本発明を詳しく説明するために実施例を挙げるが、これらはその範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0028】
実施例1(比較)
20質量%のH
2Oを含有するが、H
2SO
4およびMSAの含有量は異なる4種類のH
2SO
4/MSA混合物を、H
2O、18M H
2SO
4、および9.8M MSAを混合して調製し、以下の表のように1.8リットルの酸性混合水溶液を得た:
【表1】
【0029】
混合液は、周囲環境(23℃、相対湿度20%)にさらした2リットルビーカー中で、65℃で24時間、緩やかに撹拌し、各溶液中の酸性混合物の吸湿性により増えた重量を、撹拌前および24時間後の溶液の重量差を測定して決定した。MSAおよびH
2SO
4の蒸気圧は水蒸気圧よりはるかに低いので(65℃のとき、MSAが0.07mbar、H
2SO
4が0.005mbar、H
2Oが250mbar)、溶液の重量変化は、主に、大気の水分の吸着、またはエッチング液からの水分蒸発によるものであった。
図1は、MSA含有量の関数として、さまざまな混合物について測定した吸水量を示している。正の値は、重量増加、すなわち吸湿水量を示すのに対し、負の値は重量減少、すなわち水分蒸発を示す。MSAを含有しない混合物の吸水量は、約2100g/m
2/日の増加であった。対照的に、MSAを含有する混合物の吸水量は、0g/m
2/日をわずかに下回る値から約−1300g/m
2/日という負の値であった。このデータから、H
2SO
4の一部を20質量%〜40質量%のMSAに置き換えることにより、混合物の吸水量または吸湿性が減少することが明確に示された。
【0030】
実施例2(比較)
4.97gのMnSO
4・H
2O(29.6mmol)を120mLの水に溶解し、Mn(III)イオンの原液を調製した。9.6M H
2SO
4を585mL加えて、8M H
2SO
4に中に29.6mmolのMn(II)イオンを含有する溶液700mLを得た(溶液A)。1.162g(7.3mmol)のKMnO
4を35mLの水に溶解し、水溶液を生成した(溶液B)。溶液Bを、撹拌しながら溶液Aに滴加した。その後さらに2時間、室温で撹拌を続けた。この間に、MnSO
4が、式1に従ってKMnO
4と反応し、7.6M硫酸中に50mMのMn(III)イオンを含有する濃い赤色の溶液を得た。
【0031】
2mLのMn(III)イオン原液のアリコートと35.3mLの濃硫酸(18M)とを、100mL容量フラスコに入れ、14M硫酸を加え、Mn(III)イオンの1mmol/L溶液を作った。溶液のpHは1未満であった。10mLのアリコートを、1mMのMn(III)溶液から取り出し、石英キュベットに入れた。それから、キュベットをダブルビームUV−VIS分光光度計(日立U−2010分光光度計)に入れ、その吸光度を測定した。UV吸光度を350nm〜700nmでスキャンし、吸光度を520nm〜525nmで測定した。1mMのMn(III)イオン溶液の吸光度スペクトルを、
図2に点線で示す。
【0032】
粉末KMnO
4を1リットルの脱イオン水に溶解して10mmol(1.58g)のKMnO
4の水性原液を調製し、Mn(VII)イオンの10mmol/L溶液を作った。10mLのアリコートを、1リットル容量フラスコに入れ、脱イオン水を加え、Mn(VII)イオンの0.1mmol/L溶液を作った。10mLの0.1mmol/L溶液を石英キュベットに入れてから、UV−VIS分光光度計に入れ、その吸光度を測定した。UV吸光度を350nm〜700nmでスキャンし、吸光度を450nm〜600nmで測定した。
図2の実線は、0.1mmol/LのMn(VII)イオンの吸光度スペクトルを示す。各マンガン種のピーク最大は、同じ450nm〜600nmのスペクトル領域内にあったものの、400nm未満の波長におけるMnO
4−イオンの特徴的な振動下部構造とMn(III)イオンの吸光度の強さから、この2種が区別できた。
【0033】
実施例3
白金めっきチタン製の陽極を、10.14g(60mmol)のMnSO
4・H
2Oおよび0.36g(1.15mmol)のAg
2SO
4の無色の溶液に入れ、また、65℃で18mLのH
2O、639mLの9.8Mメタンスルホン酸および343mLの18M硫酸を含有する混合酸溶液に入れて、39.72質量%の硫酸、39.72質量%のメタンスルホン酸、19.93質量%の水、0.6質量%のMnSO
4を含む酸性水溶液を用意した。白金線製の陰極は、14M硫酸を含む別のコンパートメントに入れた。陽極液と陰極液とを分離するために、多孔セラミック管を用い、コンパートメント間を電流が流れるようにした。電極は、電流源を用意するために通常の整流器に接続した。陽極電流密度を8A/dm
2にすると、溶液が、無色から濃い青紫色に変わり、Mn(III)イオンが生成されていることを示した。Mn(III)イオン濃度が49.4mMに達してから、電流の電源を切った。Mn(III)イオンまたはMn(II)イオンが、不溶性塩として溶液から沈殿し始めたという徴候は見られなかった。14M硫酸で10倍に希釈した溶液のUV−VIS分析から、
図3に示すように、525〜535nmの範囲内で、ピーク最大が531nmである単一の吸光度ピークが示された。これにより、電解質でMn(VII)種が生成されないことが明らかとなった。
図3は、実線がMn(VII)イオンの存在を示している
図2と対照をなしていると思われる。
【0034】
BAYBLEND(登録商標)T45PGポリマーブレンド(Bayerより入手可能)として知られるABS/PCポリマーの射出成形試片を、上記溶液に65℃で10分間浸し、試片の表面をエッチングした。溶液のpHは、通常のpH計を用いて1未満であった。エッチングした試片は、その後脱イオン水で洗ってから、CONDUCTRON(登録商標)DP−H活性剤コロイド状パラジウム溶液(Dow Advanced Materials[マサチューセッツ州マールボロウ]より入手可能)に30℃で3分間浸した。その後、試片を脱イオン水で洗い、ACCELERATOR(登録商標)PM−964溶液(Dow Advanced Materialsより入手可能)に45℃で5分間浸した。試片は、脱イオン水で洗った後に、NIPOSIT(登録商標)PM−980無電解ニッケルめっき浴(Dow Advanced Materialsより入手可能)に30℃で10分間浸し、試片上に導電性金属層を形成した。ニッケルめっきを施した試片は、洗浄した後に、110g/Lのピロリン酸銅、400g/Lのピロリン酸カリウム、10g/Lのクエン酸および3g/Lのアンモニウムイオンを含む通常のピロリン酸銅電気めっき浴で、pH8.5、40℃、電流密度1A/dm
2で6分間、銅層のめっきを施した。次の手順で、高電流密度で銅電気めっきしやすいように、薄い銅層を追加して無電解ニッケル層の伝導性を向上させた。別の銅層を、COPPER GLEAM(登録商標)DL 900銅電気めっき浴(Dow Advanced Materialsより入手可能)を用いてピロリン酸銅層上に電気めっきした。銅電気めっきは、電流密度5A/dm
2で50分間行った。試片は、ニッケルの完全な被覆を示した。金属層のABS/PC試片への密着性は、ASTM D3359クロスハッチおよびテープ試験法を用いて試験した。ABS/PCと金属層との間に良好な密着性が確認された。試片から引き離した後のテープに金属は認められなかった。
【0035】
実施例4
7gのMnSO
4・H
2O(42mmol)を200mLの水に溶解した。発熱性反応であることから、この溶液に、162mLの9.8Mメタンスルホン酸と564mLの18M H
2SO
4をゆっくり加えた。その後で、75mLの水に1.26gのKMnO
4(8mmol)を含む溶液を、激しく撹拌しながら加えた。8mmolのKMnO
4が、以下のように、32mmolのMnSO
4と反応し:
8 MnSO
4+2 KMnO
4+8 H
2SO
4→5 Mn
2(SO
4)
3+K
2SO
4+8 H
2O
64.53質量%のH
2SO
4、9.93質量%のメタンスルホン酸および24.88質量%のH
2Oを含有する混合酸溶液中に、40mmolのMn(III)イオンと10mMのMn(II)イオンを得た。溶液は、濃い青紫色で、そのUV−VISスペクトルは、
図3と実質的に同じで、単一のピークを示し、ピーク最大が530nmであった。これは、Mn(III)が、酸化状態が+2より高い唯一のMn種であったことの実質的証拠となった。
【0036】
NOVODUR(登録商標)P2MC ABSポリマー(Styrolution Group Corporationから入手可能)の射出成形試片を、65℃で10分間酸溶液に浸し、その後で、脱イオン水で洗った。試片は室温で乾燥させた後、Balzers Union SCD 040、金源および2分間の15mA電流を用いて、薄い金層でスパッタし、SEM画像を得るのに適した導電面を得た。
図4に示すように、ZeissのSIGMA VP FE−SEMで、25,000倍拡大で撮影したSEM画像から、酸溶液によってメタライゼーションに適した粗面が得られたことが明らかである。
【0037】
実施例5
NOVODUR(登録商標)P2MC ABSポリマーの射出成形試片を、実施例4の酸性水溶液に、65℃で10分間浸し、試片表面をエッチングした。その後で、エッチングした試片を脱イオン水で洗ってから、実施例3に記載した工程によりめっきした。金属層のABS試片への密着性は、ASTM D3359クロスハッチおよびテープ試験法を用いて試験した。ABSと金属層との間に良好な被覆と良好な密着性が確認された。試片の金属層から引き離した後のテープに金属は認められなかった。