(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両走行中に電源部の異常を検知し、エンジンを停止させると、車両の挙動が急激に変化してしまうおそれがある。また、モトクロス走行に特有なジャンプ中にエンジンを停止させると、エンジン回転によるジャイロ効果が変化するため、車両の態勢が崩れてしまうおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、バッテリの電圧異常が検出されたときに、車両の挙動の変化を抑制することができるエンジン制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点によるエンジン制御装置は、
エンジンの動力で発電された電力によって充電されるバッテリの電圧に応じた信号が入力される電圧情報入力端子と、
前記エンジンの回転数に依存する信号が入力される回転数情報入力端子と、
前記エンジンのスロットル開度に応じた信号が入力されるスロットル開度入力端子と、
前記エンジンの点火制御及び燃料供給制御を行う処理装置と
を有し、
前記処理装置は、
前記バッテリの電圧に基づいて前記バッテリに電圧異常が発生しているか否かを判定し、
前記バッテリに電圧異常が発生していると判定され、かつエンジン停止許容条件が満たされている場合には、前記エンジンを停止させる停止処理を実行し、
前記バッテリに電圧異常が発生していると判定され、かつ前記エンジン停止許容条件が満たされていない場合には、前記エンジンの回転数を徐々に低下させる回転数下降処理を実行し、
前記エンジンの回転数が回転数判定閾値より大きいとき、前記エンジン停止許容条件が満たされないと判定し、
前記エンジンのスロットル開度がスロットル開度判定閾値より大きいとき、前記エンジン停止許容条件が満たされないと判定し、
前記エンジンの回転数が前記回転数判定閾値以下であり、かつ、前記エンジンのスロットル開度が
前記スロットル開度判定閾値以下のときには、前記エンジン停止許容条件が満たされると判定する。
【0007】
本発明の第2の観点によるエンジン制御装置は、第1の観点によるエンジン制御装置の構成に加えて、
前記処理装置が、前記回転数下降処理において、燃料カット回転数及び点火カット回転数の少なくとも一方を徐々に低下させる。
【0009】
本発明の第
3の観点によるエンジン制御装置は、第1
及び第2の観点によるエンジン制御装置の構成に加えて、
前記処理装置が、
前記バッテリの電圧が過電圧判定閾値以上である状態の継続時間が、異常判定継続時間を超過したことを検出すると、前記バッテリに電圧異常が発生していると判定する。
【発明の効果】
【0010】
第1の観点によるエンジン制御装置においては、エンジン停止許容条件が満たされていない場合、エンジン回転数を徐々に低下させるため、エンジンの停止による車両の挙動の変化が抑制される。
【0011】
第2の観点によるエンジン制御装置においては、燃料カット回転数及び点火カット回転数の少なくとも一方が徐々に低下することにより、エンジン回転数も徐々に低下する。
【0012】
第3の観点によるエンジン制御装置においては、エンジン停止許容条件が満たされるか否かの判定に、乗員のスロットル操作が反映される。
【0013】
第4の観点によるエンジン制御装置においては、一時的な電圧異常に基づくエンジン回転数の低下を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に、実施例によるエンジン制御装置、及びその他のエンジン関連部品のブロック図を示す。
【0016】
クランク角センサ11が、エンジン10のクランクシャフトの回転角に応じて、エンジンの回転数に依存する信号であるクランクパルスを発生する。クランクパルスの周期がエンジン10の回転数に依存する。クランクパルスは、電子制御装置(ECU)30の回転数情報入力端子31に入力される。
【0017】
エンジン10は、例えばガソリンエンジン等の内燃機関である。インジェクタ13が、エンジン10に燃料を供給する。点火コイル12に誘起される高電圧によって、エンジン10の点火プラグで火花放電が生じ、エンジン10が点火される。
【0018】
エンジン10の動力によって発電機14が駆動される。発電機14で発電された電力が、整流回路15を通してバッテリ16に供給されることにより、バッテリ16が充電される。バッテリ16の電圧に応じた電圧信号が、ECU30の電圧情報入力端子32に入力される。スロットル開度センサ18が、スロットルバルブ17の開度を検知し、スロットル開度に応じたスロットル開度信号を出力する。スロットル開度信号が、ECU30のスロットル開度入力端子33に入力される。
【0019】
次に、ECU30の構成及び機能について説明する。回転数情報入力端子31に入力されたクランクパルスが、入力回路34でフィルタリング処理された後、波形整形回路35に入力される。波形整形回路35は、クランクパルスの波形を整形する。整形されたクランクパルスが、中央処理装置(CPU)50に入力される。CPU50のエンジン回転数算出部51が、整形されたクランクパルスに基づいて、エンジン回転数NEを算出する。
【0020】
電圧情報入力端子32に入力された電圧信号が、入力回路36を経由してA/D変換回路37に入力される。入力回路36は、A/D変換回路37に入力される電圧がA/D変換可能範囲に収まるように、バッテリ16の電圧を分圧する。A/D変換回路37でA/D変換されたデータがCPU50に入力される。CPU50のバッテリ電圧算出部52が、入力されたデータに基づいて、バッテリ電圧VBを算出する。
【0021】
スロットル開度入力端子33に入力されたスロットル開度信号が、入力回路38でフィルタリング処理された後、A/D変換回路39に入力される。A/D変換回路39でA/D変換されたデータがCPU50に入力される。CPU50のスロットル開度算出部53が、入力されたデータに基づいて、スロットル開度THを算出する。
【0022】
CPU50は、さらに、電圧異常判断部54及びエンジン停止処理部55を含む。電圧異常判断部54及びエンジン停止処理部55の処理については、後に
図2A及び
図2Bを参照して説明する。
【0023】
点火回路41が、点火コイル12を駆動する。インジェクタ駆動回路42が、インジェクタ13を駆動する。点火回路41及びインジェクタ駆動回路42は、CPU50により制御される。すなわち、CPU50は、エンジン10の点火制御、及び燃料供給制御を行う。
【0024】
ROM44に、CPU50のエンジン回転数算出部51、バッテリ電圧算出部52、スロットル開度算出部53、電圧異常判断部54、及びエンジン停止処理部55等の機能を実現するコンピュータプログラムが格納されている。RAM45が、CPU50で実行される処理で使用される種々のデータを記憶する。CPU50で実行される処理において、タイマ46が使用される。
【0025】
図2Aに、電圧異常判断部54で実行される処理のフローチャートを示す。電圧異常判断部54は、一定の周期、例えば100msの周期で起動される。
【0026】
ステップSA1において、バッテリ電圧算出部52で算出されたバッテリ電圧VBを読み込む。ステップSA2において、バッテリ電圧VBのフィルタリング処理を行う。フィルタリング処理では、例えば電圧変動のノイズ成分が除去される。
【0027】
ステップSA3において、バッテリ16(
図1)に電圧異常が発生したか否かを判定する。ステップSA3は、ステップSA31及びステップSA32を含む。まず、ステップSA31において、バッテリ電圧VBが過電圧判定閾値以上か否かを判定する。バッテリ電圧VBが過電圧判定閾値未満である場合、処理が終了する。バッテリ電圧VBが過電圧判定閾値以上である場合、ステップSA32において、継続タイマが異常判定継続時間を超過したか否かを判定する。継続タイマは、バッテリ電圧VBが過電圧判定閾値以上になったことを最初に検出した時点でセットされ、計時を開始する。過電圧判定閾値として、例えばバッテリ16の定格電圧よりもやや高い値が採用される。
【0028】
ステップSA32において、継続タイマが異常判定継続時間を超過していない場合、処理を終了する。継続タイマが異常判定継続時間を超過した場合、バッテリ16に電圧異常が発生していると判定される。バッテリ16に電圧異常が発生していると判定された場合、ステップSA4において、バッテリ状態に「過電圧異常確定」を設定する。バッテリ状態の記憶領域がRAM45(
図1)に確保されている。
【0029】
バッテリ状態に「過電圧異常確定」が設定されると、この設定は自動では解除されない。例えば、車両の乗員または保守点検者等の介入により、バッテリ状態に「正常状態」が設定される。
【0030】
図2Bに、エンジン停止処理部55(
図1)で実行される処理のフローチャートを示す。エンジン停止処理部55は、例えばエンジン10のストロークサイクルごとに起動される。
【0031】
ステップSB1において、バッテリ状態が「過電圧異常確定」であるか否かを判定する。バッテリ状態が「過電圧異常確定」ではない場合、処理を終了する。バッテリ状態が「過電圧異常確定」である場合、ステップSB2において、エンジン回転数NE及びスロットル開度THがエンジン停止許容条件を満たしているか否かを判定する。
【0032】
図3Aを参照して、エンジン停止許容条件について説明する。
図3Aは、エンジン回転数NEとスロットル開度THとを変数とする二次元空間において、エンジン停止許容条件が満足される領域56を示す。エンジン回転数NEが回転数判定閾値NEt以下であり、かつスロットル開度THがスロットル開度判定閾値THt以下である場合、エンジン停止許容条件が満たされる。エンジン回転数NEが回転数判定閾値NEtより大きい場合、またはスロットル開度THがスロットル開度判定閾値THtより大きい場合には、エンジン停止許容条件が満たされない。
【0033】
ステップSB2(
図2B)において、エンジン停止許容条件が満たされていると判定された場合、ステップSB3において、エンジン停止処理を実行する。具体的には、ステップSB3において、点火コイル12(
図1)及びインジェクタ13(
図1)の駆動が停止される。これにより、エンジン10(
図1)への燃料の供給及び点火が停止され、エンジン10の回転数が低下する。
【0034】
ステップSB2において、エンジン停止許容条件が満たされていないと判定された場合、ステップSB4において、回転数下降処理を実行する。ステップSB4は、ステップSB41〜SB43を含む。ステップSB4が起動されると、ステップSB41において、引き去りタイマが満了したか否かを判定する。引き去りタイマは、セット後、一定の時間tsが経過した時点で満了する。引き去りタイマがセットされていない場合は、引き去りタイマが満了したと判定される。
【0035】
ステップSB41において、引き去りタイマが満了していないと判定された場合、処理を終了する。ステップSB41において、引き去りタイマが満了したと判定された場合は、ステップSB42において、引き去りタイマをセットする。引き去りタイマがセットされると、直ちに計時が開始される。
【0036】
ステップSB42の後、ステップSB43において、点火カット回転数及び燃料カット回転数を、回転数引き去りの刻み幅ΔNEだけ低下させる。点火カット回転数は、エンジン10(
図1)の点火がカットされないエンジン回転数NEの上限値を意味する。燃料カット回転数は、エンジン10(
図1)への燃料供給が停止されないエンジン回転数NEの上限値を意味する。すなわち、エンジン回転数NEが点火カット回転数を超過すると点火カットが行われ、燃料カット回転数を超過すると、エンジン10(
図1)への燃料の供給が停止される。一例として、点火カット回転数と燃料カット回転数とは同一である。ステップSB42が完了すると、エンジン停止処理部55(
図1)の処理が終了する。
【0037】
図3B及び
図3Cを参照して、点火カット回転数及び燃料カット回転数の時間変化について説明する。
図3B及び
図3Cは、それぞれ点火カット回転数及び燃料カット回転数の時間変化の一例を示す。
図3B及び
図3Cの横軸は経過時間を表し、
図3Bの縦軸は点火カット回転数を表し、
図3Cの縦軸は燃料カット回転数を表す。
図3Bの実線が、点火カット回転数を示し、
図3Cの実線が、燃料カット回転数を示す。
【0038】
バッテリ状態が「過電圧異常確定」であり、かつエンジン停止許容条件が満たされていない場合、ステップSB4(
図2B)が実行されることにより、一定の時間tsが経過するごとに、点火カット回転数及び燃料カット回転数が、刻み幅ΔNEだけ減算される。
図3B及び
図3Cに示されているように、点火カット回転数及び燃料カット回転数は、時間の経過とともに階段状に低下する。現在のエンジン回転数NEが、点火カット回転数及び燃料カット回転数より少ない場合、通常通りの点火及び燃料の供給が行われる。燃料の供給量は、スロットル開度THに応じて算出される。
【0039】
時刻t1において、点火カット回転数が現在のエンジン回転数NE以下になる。この時点で点火コイル12への電流の供給が停止され、点火がカットされる。同様に、時刻t1において、燃料カット回転数が現在のエンジン回転数NE以下になる。この時点で、エンジン10(
図1)への燃料の供給が停止される。点火がカットされ、燃料供給が停止されることにより、エンジン回転数NEが低下する。
【0040】
時刻t2において、現在のエンジン回転数NEが点火カット回転数及び燃料カット回転数を下回ると、点火及び燃料の供給が再開される。乗員がエンジン回転数の低下に気付き、スロットルグリップを閉じ方向に操作すると、エンジン回転数NEが、乗員の操作に応じて低下する。
【0041】
時刻t3において、点火カット回転数及び燃料カット回転数がさらに低下し、現在のエンジン回転数NEを下回る。この時点で、点火のカット及び燃料供給の停止が再開される。その結果、エンジン回転数NEがさらに低下する。乗員が、スロットルグリップを、さらに閉じ方向に操作すると、破線NE1で示すように、エンジン回転数NEが低下する。
【0042】
時刻t4において、エンジン回転数NEが回転数判定閾値NEtまで低下する。この時点で、スロットル開度THがスロットル開度判定閾値THt(
図3A)以下まで閉じられている場合、エンジン停止許容条件が満たされる。このため、ステップSB3(
図2B)が実行され、エンジンが停止する。
【0043】
時刻t3の後も、乗員がスロットルグリップを閉じ方向に操作しない場合には、破線NE2で示すように、エンジン回転数NEが点火カット回転数及び燃料カット回転数の低下に追随して低下する。時刻t5において、エンジン回転数NEが回転数判定閾値NEtまで低下しても、スロットル開度THがスロットル開度判定閾値THtよりも大きい場合には、ステップSB3のエンジン停止処理は実行されない。このため、時刻t5以降も、エンジン回転数NEは、エンジン回転数NEが点火カット回転数及び燃料カット回転数の低下に追随して低下する。
【0044】
スロットル開度THがスロットル開度判定閾値THtよりも大きい状態が継続する場合には、時刻t6において点火カット回転数及び燃料カット回転数が0になった時点で、エンジンが停止する。
【0045】
上記実施例では、エンジン停止許容条件(ステップSB2)が満たされるか否かの判定に、エンジン回転数NE及びスロットル開度THの両方が用いられた。他の方法として、エンジン回転数NEのみに基づいて、エンジン停止許容条件(ステップSB2)が満たされるか否かを判定してもよい。この場合には、エンジン回転数NEが点火カット回転数及び燃料カット回転数まで低下した時刻t5において、ステップSB3(
図2B)が実行される。これにより、
図3B及び
図3Cに破線NE3で示したように、エンジンが停止する。
【0046】
上記実施例では、バッテリ状態が「過電圧異常確定」になっても、エンジンが直ちに停止することがなく、回転数下降処理(ステップSB4)が実行される。このため、エンジン回転数NEが徐々に低下する。ここで、「徐々に」とは、点火のカット、及び燃料供給の停止を行うことによって、エンジンが直ちに停止する場合の回転数の低下に比べて、緩やかに回転数が低下することを意味する。
【0047】
バッテリ状態が「過電圧異常確定」になった時点で、エンジン10(
図1)が直ちに停止することがないため、車両の挙動の急激な変化を防止することができる。また、エンジン回転数NEが徐々に低下するため、バッテリ16の過電圧異常に起因する劣化のさらなる進行を抑制することができる。
【0048】
さらに、上記実施例では、ステップSA32(
図2A)において、バッテリ電圧が過電圧判定閾値以上となっている期間が異常判定継続時間を超過した場合に、バッテリ状態が「過電圧異常確定」に設定される。このため、一時的に過電圧の発生によるエンジン回転数の低下を防止することができる。また、エンジン停止許容条件(
図3A)に、スロットル開度THが含まれる。このため、エンジン回転数を低下させる処理に、乗員によるスロットルの操作が反映される。一例として、バッテリ16(
図1)の電圧異常が発生した後、乗員がスロットルグリップを閉じ方向に操作すると、早期のエンジン停止が実現される。バッテリ16の電圧異常が発生した後も、乗員がスロットルグリップを閉じ方向に操作しない場合は、エンジン回転数の低下が緩やかになる。
【0049】
上記実施例では、バッテリ状態が「過電圧異常確定」になった後、点火カット回転数及び燃料カット回転数の双方を、徐々に低下させた。他の方法として、点火カット回転数及び燃料カット回転数のいずれか一方を低下させ、他方は一定値に維持してもよい。この場合、点火のカット及び燃料供給の停止のいずれか一方が実行されることにより、エンジン回転数NEが徐々に低下する。
【0050】
図4A及び
図4Bを参照して、実施例の変形例について説明する。上記実施例では、
図3B及び
図3Cに示したように、点火カット回転数及び燃料カット回転数を、時間の経過とともに階段状に低下させた。
図4A及び
図4Bに示した変形例では、時間の経過とともに、点火カット回転数及び燃料カット回転数が滑らかに低下する。点火カット回転数と経過時間との対応関係、及び燃料カット回転数と経過時間との対応関係は、例えばROM44(
図1)に格納されている。
【0051】
図4A及び
図4Bに示した変形例においても、
図3B及び
図3Cに示した実施例と同様の効果が得られる。点火カット及び燃料カットが車両の挙動に与える影響を軽減する観点、及びバッテリ16(
図1)が過電圧によって劣化する度合いを小さくする観点から、点火カット回転数と経過時間との対応関係、及び燃料カット回転数と経過時間との対応関係を最適化することが好ましい。
【0052】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。