特許第6444692号(P6444692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6444692
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】多価ヒドロキシ化合物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/03 20060101AFI20181217BHJP
   C07C 43/23 20060101ALN20181217BHJP
   C08G 59/32 20060101ALN20181217BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20181217BHJP
   C07D 303/30 20060101ALN20181217BHJP
【FI】
   C07C41/03
   !C07C43/23 D
   !C08G59/32
   !C07B61/00 300
   !C07D303/30
【請求項の数】3
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-216590(P2014-216590)
(22)【出願日】2014年10月23日
(65)【公開番号】特開2016-84295(P2016-84295A)
(43)【公開日】2016年5月19日
【審査請求日】2017年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 輝久
(72)【発明者】
【氏名】鬼塚 賢三
(72)【発明者】
【氏名】谷口 範洋
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 一
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05300589(US,A)
【文献】 米国特許第05354907(US,A)
【文献】 特開2003−040998(JP,A)
【文献】 特公昭36−020393(JP,B1)
【文献】 特開2003−246837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 41/03
C07C 43/23
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で表される多価フェノール化合物に、反応溶媒を用いてアルキレンオキシドを付加させる第一の付加工程と、
前記第一の付加工程で得られた付加物に、さらにアルキレンオキシドを付加させることにより、多価フェノール化合物に対するアルキレンオキシドの合計付加モル数の平均値を、5以上7.5以下の範囲とする第二の付加工程と、
を含み、
前記第一の付加工程における前記アルキレンオキシドの使用量が、前記多価フェノール化合物に対して3.0〜3.9当量であり、
得られる多価ヒドロキシ組成物が、下記一般式(1)で表される多価ヒドロキシ化合物の組成物であり、当該多価ヒドロキシ組成物において、多価フェノール化合物に対して付加させたアルキレンオキシドのモル数(下記式(1)中のa+b+cに相当する)の平均値が、5以上7.5以下の範囲である、多価ヒドロキシ組成物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0〜3の整数であり、(a+b+c)個のR1は、それぞれ独立に、エチレン基又はプロピレン基を表す。)
【化2】
【請求項2】
前記第一及び第二の付加工程の間に、反応溶媒を留去させる工程を含む、請求項1に記載の多価ヒドロキシ組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第一及び/又は第二の付加工程が、アルカリ性化合物の存在下で行われる、請求項1又は2に記載の多価ヒドロキシ組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多価ヒドロキシ化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂と硬化剤とからなるエポキシ樹脂組成物の硬化物は、半導体パッケージや半導体チップの電子部材等をはじめとする、様々な用途に使用されている。例えば、特許文献1には、アルキレンオキシ基からなる繰り返し単位が6未満のポリエーテル基を有するエポキシ樹脂の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−246837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、半導体パッケージや半導体チップについては、小型化及び薄型化の要請が強くなっている。そのため、これらの材料として用いられるエポキシ樹脂については、低粘度でありながら優れた接着性を有し、その硬化物は優れた可撓性を有することが望まれている。さらには、耐熱性や電気信頼性の観点から、エポキシ樹脂は硬化時に優れた反応性を有し、かつその硬化物は高いガラス転移温度を有することが求められている。しかしながら、従来のエポキシ樹脂では、このような要求に十分に応えることができず、未だ開発の余地がある。
【0005】
例えば、特許文献1に開示されたエポキシ樹脂の硬化物は、可撓性が十分でない場合があり、さらなる耐熱性の向上が望まれる。さらに、このエポキシ樹脂は、両末端エポキシ基の含有割合が少ないため反応性が十分でない場合がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、例えば、液状でありながら優れた反応性を有するエポキシ樹脂であって、その硬化物が優れた可撓性及び耐熱性を有する、エポキシ樹脂を製造可能な多価ヒドロキシ化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の工程により製造された多価ヒドロキシ化合物を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0009】
[1]
下記一般式(1)で表される多価ヒドロキシ化合物であって、多価フェノール化合物にアルキレンオキシドを付加させることにより製造され、多価フェノール化合物に対して付加させたアルキレンオキシドのモル数(下記式(1)中のa+b+cに相当する)の平均値が、5以上7.5以下の範囲である、多価ヒドロキシ化合物。
【化1】
(式(1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0〜3の整数であり、(a+b+c)個のR1は、それぞれ独立に、エチレン基又はプロピレン基を表す。)
[2]
下記一般式(2)で表される多価フェノール化合物に、反応溶媒を用いてアルキレンオキシドを付加させる第一の付加工程と、
前記第一の付加工程で得られた付加物に、さらにアルキレンオキシドを付加させることにより、多価フェノール化合物に対するアルキレンオキシドの合計付加モル数の平均値を、5以上7.5以下の範囲とする第二の付加工程と、
を含む、前記[1]に記載の多価ヒドロキシ化合物の製造方法。
【化2】
[3]
前記第一及び第二の付加工程の間に、反応溶媒を留去させる工程を含む、前記[2]に記載の多価ヒドロキシ化合物の製造方法。
[4]
前記第一及び/又は第二の付加工程が、アルカリ性化合物の存在下で行われる、前記[2]又は[3]に記載の多価ヒドロキシ化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多価ヒドロキシ化合物によれば、例えば、液状でありながら優れた反応性を有するエポキシ樹脂であって、その硬化物が優れた可撓性及び耐熱性を有する、エポキシ樹脂を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】比較例1で得られたエポキシ樹脂のUPLCチャートである。
図2】比較例1で得られたエポキシ樹脂のマススペクトルである。
図3】比較例1で得られたエポキシ樹脂のマススペクトルから求められるα+β+γの個数別のUPLC面積比である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその趣旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0013】
≪多価ヒドロキシ化合物≫
本実施形態の多価ヒドロキシ化合物は、下記一般式(1)で表される多価ヒドロキシ化合物であって、多価フェノール化合物にアルキレンオキシドを付加させることにより製造され、多価フェノール化合物に対して付加させたアルキレンオキシドのモル数(下記式(1)中のa+b+cに相当する)の平均値が、5以上7.5以下の範囲である。
【0014】
【化3】
(式(1)中、a、b及びcは、それぞれ独立に、0〜3の整数であり、(a+b+c)個のR1は、それぞれ独立に、エチレン基又はプロピレン基を表す。)
【0015】
また、本実施形態の多価ヒドロキシ化合物の製造方法は、
下記一般式(2)で表される多価フェノール化合物に、反応溶媒を用いてアルキレンオキシドを付加させる第一の付加工程と、
前記第一の付加工程で得られた付加物に、さらにアルキレンオキシドを付加させることにより、多価フェノール化合物に対するアルキレンオキシドの合計付加モル数の平均値を、5以上7.5以下の範囲とする第二の付加工程と、
を含む。
【0016】
【化4】
【0017】
また、本実施形態の多価ヒドロキシ化合物の製造方法は、前記第一及び第二の付加工程の間に、反応溶媒を留去させる工程を含むことが好ましい。
【0018】
なお、本実施形態の多価ヒドロキシ化合物は、上記アルキレンオキシドの付加モル数(上記式(1)中のa+b+cに相当する)が同じ1種単独で存在していてもよいが、通常、当該アルキレンオキシドの付加モル数が異なる2種以上が混合した状態で存在する。
【0019】
以下、当該第一及び第二の付加工程について詳細に説明する。
【0020】
本実施形態の多価ヒドロキシ化合物の製造方法の具体例としては、特に限定されないが、例えば、フェノール性水酸基を3つ有する多価フェノール化合物に、反応溶媒とアルカリ性化合物とを加えた後、密閉加圧下で、かつ加熱条件下でアルキレンオキシドを付加させて製造する方法が挙げられる。
【0021】
第一の付加工程及び第二の付加工程の反応圧力は、好ましくは、0.5MPa以下である。当該反応圧力が0.5MPa以下の場合、反応制御が容易となり、内圧の上昇や内温の上昇を抑制できる。本実施形態に用いるアルキレンオキシドは、エチレンオキシド又はプロピレンオキシドである。
【0022】
前記第一の付加工程は、具体的には、例えば、融点が248℃であり高結晶体である多価フェノール化合物を反応溶媒に分散させ、多価フェノール化合物にアルキレンオキシドを付加反応させることにより、多価フェノール化合物のフェノール性水酸基をアルコール性水酸基へ変換する工程である。
【0023】
本実施形態に用いる反応溶媒は、特に制限されず、例えば、テトラヒドロフラン等のエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノールなどの炭素数1〜6のアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメトルスルホキシド等の極性非プロトン性溶媒が挙げられる。
【0024】
反応溶媒の使用量は、多価フェノール化合物の質量に対して20〜200質量%とすることが好ましく、30〜100質量%とすることがより好ましい。反応溶媒の使用量が前記下限値以上であると反応系内が十分に攪拌され、多価フェノール化合物を均一に分散できるため反応効率が向上する傾向があり、反応溶媒の使用量が前記上限値以下であるとコストに見合う効果が得られ易い。
【0025】
第一の付加工程におけるアルキレンオキシドの使用量は、多価フェノール化合物に対して3.0〜3.9当量、すなわち、多価フェノール化合物のフェノール性水酸基に対して1.0〜1.3当量とすることが好ましい。
【0026】
第一の付加工程における反応温度は、100℃〜150℃の範囲が好ましく、110〜130℃がさらに好ましい。この温度範囲であれば、フェノール性水酸基へのアルキレンオキシドの付加反応がほぼ選択的に進行し、アルコール性水酸基へ変換することができる。一方、反応温度が前記下限値未満であると付加反応の進行が遅くなる傾向があり、前記上限値を超えると、多価フェノール化合物の分解が生じ、その分解物に由来する副生成物が生成しやすい傾向がある。
【0027】
また、本実施形態の多価ヒドロキシ化合物の製造方法において、第一及び/又は第二の付加工程は、アルカリ性化合物の存在下で行われることが好ましい。
【0028】
アルカリ性化合物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物類;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物類が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。アルカリ性化合物として好適には水酸化カリウムが用いられる。アルカリ性化合物の状態は、特に限定されず、例えば、固体状、液状、水溶液、アルコール溶液等であってもよい。アルカリ性化合物の添加量は、多価フェノール化合物に対し好ましくは、0.5〜15mol%であり、より好ましくは0.7〜10mol%であり、さらに好ましくは1〜3mol%である。アルカリ性化合物の添加量がこの範囲であると、アルキレンオキシドの付加反応の制御が容易である。一方、アルカリ性化合物の添加量が0.5mol%未満では、反応の進行が遅く最後まで付加が進行しないおそれがある。また、アルカリ性化合物の添加量が15mol%より多くなると多価フェノール化合物が分解したり、得られる多価ヒドロキシ化合物が著しく着色するおそれがある。
【0029】
第一の付加工程の付加反応が終了した後、必要に応じて、反応溶媒を留去することができる。反応溶媒を留去する方法は、特に限定されないが、例えば、減圧下で昇温する方法が挙げられる。
【0030】
次に、本実施形態の多価ヒドロキシ化合物の製造方法では、第二段階目のアルキレンオキシドの付加を行う。この第二の付加工程においては、第一の付加工程でフェノール性水酸基から変換されたアルコール性水酸基にアルキレンオキシドを適当量付加させることにより、多価フェノール化合物に対するアルキレンオキシドの合計付加モル数(上記式(1)中のa+b+cに相当する)の平均値を5以上7.5以下の範囲とした多価ヒドロキシ化合物を得ることができる。当該アルキレンオキシドの合計付加モル数の平均値は、5.50〜7.25であることが好ましく、6.0〜7.0であることがより好ましい。当該アルキレンオキシドの合計付加モル数の平均値が前記範囲内である多価ヒドロキシ化合物は、液状でありながら優れた反応性を有するエポキシ樹脂であって、その硬化物が優れた可撓性及び耐熱性を有する、エポキシ樹脂を提供することができる。
【0031】
第二の付加工程の反応温度は、120℃〜170℃の範囲が好ましく、130〜160℃とすることがさらに好ましい。第二の付加工程は、第一の付加工程でフェノール性水酸基から変換されたアルコール性水酸基へのアルキレンオキシドの付加であるため、第一の付加工程より反応温度を高くすることができる。第二の付加工程の反応温度が上記範囲内であると反応の制御が容易となる。第二の付加工程の反応温度が前記下限温度より低い場合には付加反応の進行が遅く、前記上限温度より高い場合には副生成物が生成し、反応物が着色するおそれがある。
【0032】
第二の付加工程におけるアルキレンオキシドの添加量は、最初の多価フェノール化合物のフェノール性水酸基に対して0.60〜1.50当量とすることが好ましく、0.62〜1.45当量とすることがより好ましく、0.64〜1.40当量とすることがさらに好ましい。
【0033】
本実施形態の多価ヒドロキシ化合物の製造方法は、触媒としてアルカリ性化合物を用いた場合、付加反応の終了後に触媒であるアルカリ性化合物を除去する工程を有してもよい。触媒を除去する工程としては、通常のアルキレンオキシドの付加反応により得られるポリエーテルポリオールの方法を用いればよい。具体的には、例えば、触媒がアルカリ金属水酸化物の場合には、合成珪酸マグネシウムや合成珪酸アルミニウムなどのアルカリ金属イオンの吸着剤を用いるか、あるいは、触媒をリン酸、酢酸及び硫酸などで中和し、生じた塩をろ過により除去する方法などが挙げられる。触媒を除去した後、次工程での反応に与える影響を考慮し、減圧状態下110〜140℃で脱水を行い、水分は0.1%以下にするのが好ましい。
【0034】
次いで、例えば、反応液を常圧或いは減圧下で加熱することによって、残留する溶媒や過剰量のアルキレンオキシドを反応液から除去し、多価ヒドロキシ化合物を回収する工程を有していてもよい。
【0035】
≪エポキシ樹脂≫
本実施形態のエポキシ樹脂は、上記多価ヒドロキシ化合物を用いて得られ、下記一般式(3)で表される。
【0036】
【化5】
【0037】
式(3)中、R1は、樹脂の粘度や硬化後の弾性率の観点から、エチレン基、プロピレン基であり、硬化後の靱性の観点からより好ましくはエチレン基である。
【0038】
式(3)中のα、β及びγは、それぞれ独立に、0〜3の整数である。
【0039】
また、本実施形態のエポキシ樹脂は、式(3)中の(α+β+γ)の平均値が5以上7.5以下の範囲であることが好ましく、5.50〜7.25の範囲であることがより好ましく、6.0〜7.0の範囲であることがさらに好ましい。
【0040】
本実施形態のエポキシ樹脂は、式(3)中の(α+β+γ)の平均値が前記下限値以上であると、粘度が低くなり、さらに硬化物にした際に、十分な可撓性が得られる傾向にある。また、本実施形態のエポキシ樹脂は、式(3)中の(α+β+γ)の平均値が前記上限値以下であると、硬化物にした際に、十分な耐熱性が得られる傾向にある。
【0041】
本実施形態のエポキシ樹脂の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上記多価ヒドロキシ化合物とエピハロヒドリンとを、アルカリ性化合物の存在下で反応させる方法等が挙げられる。この方法の場合、反応促進の観点から、アルカリ性化合物と相間移動触媒とを併用することが好ましい。以下、当該方法について詳細に説明する。
【0042】
エピハロヒドリンとしては、特に限定されないが、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン等が挙げられる。エピハロヒドリンの添加量は、上記多価ヒドロキシ化合物の水酸基1当量に対し、好ましくは、1〜10当量であり、より好ましくは2〜8当量である。
【0043】
アルカリ性化合物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。アルカリ性化合物の状態は、特に限定されず、例えば、固体状、液状、水溶液であってもよい。アルカリ性化合物の添加量は、上記多価ヒドロキシ化合物の水酸基1当量に対し、通常、0.8〜10当量であり、好ましくは1.0〜7.5当量であり、より好ましくは1.2〜5当量である。
【0044】
本実施形態では、反応を促進させる観点から、エポキシ樹脂の製造の際、相間移動触媒を用いることが好ましい。特に、上記したアルカリ性化合物と相間移動触媒とを併用することがより好ましい。
【0045】
相間移動触媒としては、特に限定されないが、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムクロリド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨージド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロミド、フェニルトリメチルアンモニウムクロリド等の四級アンモニウム塩類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド等の四級アンモニウム水酸化物類;15−クラウン−5、18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、ジアザ−18−クラウン−6等のクラウンエーテル類;[2.1.1]−クリプタンド、[2.2.1]−クリプタンド、[2.2.2]クリプタンド、[2.2.2]−デシルクリプタンド、[2.2.2]−ベンゾクリプタンド等のクリプタンド類が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。相間移動触媒の状態は、特に限定されず、例えば、固体状、液状、水溶液、アルコール溶液等であってもよい。
【0046】
相間移動触媒の添加量は、上記多価ヒドロキシ化合物の水酸基1モルに対し、好ましくは、0.001〜0.1モルであり、より好ましくは0.005〜0.05モルである。
【0047】
上記多価ヒドロキシ化合物とエピハロヒドリンとの反応温度は、好ましくは、20〜100℃であり、より好ましくは30〜80℃である。当該反応温度を20℃以上とすることで反応の進行が早くなるため、上記多価ヒドロキシ化合物にエピハロヒドリンのグリシジル基を効率よく導入できる傾向にある。当該反応温度を100℃以下とすることで、エピハロヒドリン同士の高分子化反応を効率よく抑制できるため、上記多価ヒドロキシ化合物にエピハロヒドリンのグリシジル基を効率よく導入できる傾向にある。
【0048】
上記多価ヒドロキシ化合物とエピハロヒドリンとの反応時間は、好ましくは、1〜12時間であり、より好ましくは1.5〜8時間であり、さらに好ましくは2〜6時間である。
【0049】
上記多価ヒドロキシ化合物とエピハロヒドリンとの反応終了後、水洗等によって、生成塩、残留するアルカリ性化合物や相間移動触媒等を反応液から除去する。次いで、常圧或いは減圧下で加熱することによって、残留するエピハロヒドリンを除去し、エポキシ樹脂を回収することができる。
【0050】
エポキシ樹脂の全塩素量を一層低減したい場合には、例えば、上記で回収したエポキシ樹脂を、トルエンやメチルイソブチルケトン等の溶媒に溶解させた後、アルカリ性化合物(固体状でも、液状でも、溶液等でもよい)を新たに加える。これにより、エピハロヒドリンの閉環反応が進行し、加水分解性塩素量を一層低減させることもできる。この場合、アルカリ性化合物の添加量は、加水分解性塩素1当量に対し、好ましくは、0.5〜5当量であり、より好ましくは1〜3当量である。通常、エピハロヒドリンの閉環反応の反応温度は60〜120℃であることが好ましく、エピハロヒドリンの閉環反応の反応時間は0.5〜3時間であることが好ましい。
【0051】
本実施形態のエポキシ樹脂は、相溶性に優れるため、その他の成分を添加したエポキシ樹脂組成物としても、好適に用いることができる。以下、エポキシ樹脂組成物について説明する。
【0052】
≪エポキシ樹脂組成物≫
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、例えば、上述のエポキシ樹脂と硬化剤と組み合わせることにより得ることができる。すなわち、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、例えば、上述のエポキシ樹脂と、硬化剤と、を含有する。本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、上述のエポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂成分、硬化促進剤等を更に含有してもよい。
【0053】
硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、アミド系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
硬化剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、イミダゾール類、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ポリアルキレングリコールポリアミン、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等のアミン系硬化剤;ジシアンジアミド等のアミド系硬化剤;無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物系硬化剤;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂、ビフェニル変性フェノールアラルキル樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、アミノトリアジン変性フェノール樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール−フェノール共縮合ノボラック樹脂、ナフトール−クレゾール共縮合ノボラック樹脂等の多価フェノール化合物類及びこれらの変性物等のフェノール系硬化剤;BF3−アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられる。これらの硬化剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
上記硬化剤の中でも、可撓性や反応性を重視する場合は、アミン系硬化剤が好ましい。また、耐熱性を重視する場合は、フェノール系硬化剤が好ましい。
【0056】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂のグリシジル基1当量に対して、0.7〜1.5当量であることが好ましい。硬化剤の含有量がこの範囲内であれば、硬化反応が効率よく進み、一層良好な硬化物性が発現する傾向にある。
【0057】
他のエポキシ樹脂成分として併用することができるエポキシ樹脂成分の構造の具体例としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、テトラブロモビフェニル型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ベンゾフェノン型エポキシ樹脂、フェニルベンゾエート型エポキシ樹脂、ジフェニルスルフィド型エポキシ樹脂、ジフェニルスルホキシド型エポキシ樹脂、ジフェニルスルホン型エポキシ樹脂、ジフェニルジスルフィド型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ヒドロキノン型エポキシ樹脂、メチルヒドロキノン型エポキシ樹脂、ジブチルヒドロキノン型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、メチルレゾルシン型エポキシ樹脂、カテコール型エポキシ樹脂、N,N−ジグリシジルアニリン型エポキシ樹脂等の2官能型エポキシ樹脂類;N,N−ジグリシジルアミノベンゼン型エポキシ樹脂、o−(N,N−ジグリシジルアミノ)トルエン型エポキシ樹脂、トリアジン型エポキシ樹脂等の3官能型エポキシ樹脂類;テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジアミノベンゼン型エポキシ樹脂等の4官能型エポキシ樹脂類;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ブロモ化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂類;及び脂環式エポキシ樹脂類が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。さらに、これらをイソシアネート等で変性したエポキシ樹脂等も併用することができる。
【0058】
他のエポキシ樹脂成分の含有量は、本実施形態のエポキシ樹脂組成物中の全エポキシ樹脂成分中の75質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。
【0059】
また、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、硬化促進剤を更に含有してもよい。硬化促進剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4―メチルイミダゾール等のイミダゾール系硬化促進剤;2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の3級アミン系硬化促進剤;トリフェニルホスフィン等のリン系硬化促進剤;有機酸金属塩;ルイス酸;アミン錯塩等が挙げられる。これらは上記した硬化剤と併用することで硬化反応を促進させることができる。上記した硬化剤の種類に応じて、適切な硬化促進剤の種類を選択することができる。
【0060】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、硬化促進剤の含有量は、本実施形態の効果が得られる範囲であれば特に限定されない。硬化促進剤の含有量は、通常、エポキシ樹脂の総量100質量部に対して0.1〜5.0質量部であることが好ましい。硬化促進剤の含有量を上記範囲とすることにより、硬化反応が十分に促進するとともに、一層良好な硬化物性が得られる傾向にある。
【0061】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて無機充填剤を更に含有してもよい。無機充填剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、タルク、窒化ケイ素、窒化アルミ等が挙げられる。
【0062】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、無機充填剤の含有量は、本実施形態の効果が得られる範囲であれば特に限定されない。本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、無機充填剤の含有量は、通常、90質量%以下であることが好ましい。無機充填剤の含有量を上記範囲とすることにより、エポキシ樹脂組成物の粘度が十分低く、取扱性に優れる傾向にある。
【0063】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、難燃剤、シランカップリング剤、離型剤、顔料等の他の配合剤を更に含有してもよい。これらは、本実施形態の効果が得られる範囲であれば、適宜好適なものを選択することができる。難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン化物、リン原子含有化合物、窒素原子含有化合物、無機系難燃化合物等が挙げられる。
【0064】
≪硬化物≫
本実施形態の硬化物は、上記のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物である。
【0065】
本実施形態の硬化物は、上記のエポキシ樹脂組成物を、例えば、従来公知の方法等により熱硬化させることで得られる。具体的には、例えば、以下の方法により本実施形態の硬化物を得ることができる。まず、上記のエポキシ樹脂と、硬化剤と、更に必要に応じて硬化促進剤、無機充填剤、及び/又は配合剤等とを、押出機、ニーダ、ロール等を用いて均一になるまで充分に混合してエポキシ樹脂組成物を得る。その後、エポキシ樹脂組成物を注型あるいはトランスファー成形機、コンプレッション成形機、射出成形機等を用いて成形し、80〜200℃程度で2〜10時間程度の条件で更に加熱することにより、硬化物を得ることができる。
【0066】
また、例えば、以下の方法により本実施形態の硬化物を得ることができる。まず、上記のエポキシ樹脂組成物を、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解させ、溶液を得る。得られた溶液を、ガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維、紙等の基材に含浸させ加熱乾燥してプリプレグを得る。次に、得られたプリプレグを熱プレス成形することにより、硬化物を得ることもできる。
【実施例】
【0067】
次に、本発明を、合成例、実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、以下において「部」及び「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0068】
各物性の測定法は以下のとおりとした。
【0069】
(1)(a+b+c)個数
合成実施例1〜6で得られた多価ヒドロキシ化合物(PH−1〜PH−6)および合成比較例1〜5で得られた多価ヒドロキシ化合物(PH−7〜PH−11)の(a+b+c)個数は、JIS-K0070(1992)の水酸基価の測定に基づき、以下のとおり測定した。
【0070】
電位差滴定法により多価ヒドロキシ化合物の水酸基価を求め、分子量を算出し、アルキレンオキシド付加前の分子量との差から、a、b及びcに基づく(a+b+c)個数の確認を行った。
【0071】
(2)(α+β+γ)個数
【0072】
多価ヒドロキシ化合物(PH−1〜PH11)のエポキシ化後のエポキシ樹脂(EP−1〜EP−11)の(α+β+γ)個数は、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)及び質量分析装置(MS)を用いて、α、β及びγに基づく(α+β+γ)個数の確認を行った。
【0073】
UPLCの測定条件は、以下のとおりとした。
・日本ウォーターズ株式会社製「ACQUITY UPLC H−Class」システム
・カラム:Phenomenex社製「Kinetex XB−C18 2.6μm」
・移動相:10mM 酢酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル(混合割合は、エポキシ樹脂の場合、0分〜10分の間において、10mM 酢酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル=55/45〜50/50(体積比)、10分〜20分の間において、10mM 酢酸アンモニウム水溶液/アセトニトリル=55/45となるよう変化させた。)
・流量:0.3mL/分
・分検出器:276nm
・測定サンプルの調製:エポキシ樹脂5mgに対し、アセトニトリル1ml加え、0.5質量%−アセトニトリル溶液に調製した。
【0074】
MSの測定条件は、以下のとおりとした。
・日本ウォーターズ株式会社製「Synapt G2」装置
・イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)
・スキャンレンジ:m/z=50〜2000
・測定サンプルの調製:エポキシ樹脂5mgに対し、アセトニトリル1ml加え、0.5質量%−アセトニトリル溶液に調製した。
【0075】
なお、上記式(3)の(α+β+γ)の平均値等は、図3に示すように、MSで同定されたUPLCの該当するピーク面積比より求めた。
【0076】
(3)エポキシ当量
JIS K7236に準拠して、エポキシ当量を測定した。
【0077】
(4)全塩素量
JIS K7423−3に準拠して、全塩素量を測定した。
【0078】
(5)粘度
JIS K7117−2(E型粘度計)に準拠して、粘度を測定した。
【0079】
(6)ゲルタイム
JACT試験法 RS−5及びJIS K−6910−1995に準拠して、ゲルタイムを測定した。具体的には、後述の実施例及び比較例で得られたエポキシ樹脂組成物を測定試料とし、ゲル化試験機を用いてゲルタイムを測定した。測定試料を、170℃のホットプレート上で撹拌しながら加熱し、試料と撹拌棒との間で糸を引かなくなるまでの時間をゲルタイムとした。
【0080】
(7)ガラス転移点(Tg)測定
後述の実施例及び比較例で得られたエポキシ樹脂硬化物から、ダイヤモンドカッターを用いて、10mm×30mm×2mmの試験片を作製した。該試験片を固体粘弾性測定装置(DMA;オリエンテック社製「レオバイブロンDDV−25FP」)にセットし、温度範囲40〜300℃(昇温速度:2℃/分)、周波数10Hzの測定条件で測定した。tanδが最大値になったときの温度をガラス転移点(Tg)とした。
【0081】
(8)引張伸度
JIS K7115に準拠して、後述の実施例及び比較例で得られたエポキシ樹脂硬化物の引張伸度を測定した。
【0082】
(9)粘弾性弾性率(DMA弾性率)
JIS K7115に準拠して、後述の実施例及び比較例で得られたエポキシ樹脂硬化物の粘弾性弾性率(DMA弾性率)を測定した。
【0083】
(10)破壊靭性(KIc)試験
JIS K6911に準拠して、後述の実施例及び比較例で得られたエポキシ樹脂硬化物の破壊靱性を測定した。
【0084】
[合成実施例1]
EO付加体6.3モル (PH−1)
【0085】
第一の付加工程
ガラス製オートクレーブに4,4’,4”−エチリジントリスフェノール(本州化学工業株式会社製:商品名 TrisP−HAP)390.0g(1.27mol)、2−ブタノール160.0g、及び水酸化カリウム水溶液(48質量%)2.3g(TrisP−HAPに対し1.5mol%)を加え、オートクレーブの窒素置換を行った後、オートクレーブの内温を110℃まで昇温した。
【0086】
オートクレーブの内容物の攪拌を開始し、TrisP−HAPが分散している状態でエチレンオキシド180g(4.09mol)を、110〜115℃、反応圧0.4MPa以下の範囲でオートクレーブに導入し、TrisP−HAPに付加反応させた。付加反応が進行すると共に内容物は無色透明粘液状になった。エチレンオキシドの導入時間は4時間、オートクレーブの内圧が一定となる熟成時間は2時間であった。
【0087】
第二の付加工程
オートクレーブの内圧を減圧し、内温を140℃まで昇温し2−ブタノールを留去した。次いで、エチレンオキシド185g(4.20mol)を、140〜145℃、反応圧0.4MPa以下の範囲でオートクレーブに導入し、前記第一の付加工程で得られた付加物に、さらに付加反応させた。エチレンオキシドの導入時間は4時間、オートクレーブの内圧が一定となる熟成時間は2時間であった。オートクレーブの内温を120℃まで降温し、オートクレーブの内圧を減圧にし、低沸点物を留去した。
【0088】
精製工程
オートクレーブの内温を80℃まで降温し、オートクレーブの内圧を窒素で常圧に戻してからオートクレーブに水10gを加え内容物を1時間攪拌した。吸着剤としてキョーワード600Sを2.0g(協和化学株式会社製、合成珪酸マグネシウム)、オートクレーブに加え、内容物を80〜90℃で1時間攪拌した後、加圧ろ過処理を行い、ろ液を得た。得られたろ液を、120〜130℃で、内圧を減圧して脱水処理を行い、水分が0.1%以下になったところで冷却し、多価ヒドロキシ化合物(PH−1)717gを得た。
【0089】
[合成実施例2]
EO付加体7.2モル(PH−2)
【0090】
第一の付加工程
ガラス製オートクレーブに4,4’,4”−エチリジントリスフェノール(本州化学工業株式会社製:商品名 TrisP−HAP)390.0g(1.27mol)、トルエン160.0g、及び水酸化カリウム水溶液(48質量%)2.3g(TrisP−HAPに対し1.5mol%)を加え、オートクレーブの窒素置換を行った後、オートクレーブの内温を120℃まで昇温した。
【0091】
オートクレーブの内容物の攪拌を開始し、TrisP−HAPが分散している状態でエチレンオキシド180g(4.09mol)を、120〜125℃、反応圧0.4MPa以下の範囲でオートクレーブに導入し、TrisP−HAPに付加反応させた。付加反応が進行すると共に内容物は無色透明粘液状になった。エチレンオキシドの導入時間は4時間、オートクレーブの内圧が一定となる熟成時間は2時間であった。
【0092】
第二の付加工程
オートクレーブの内温を135℃まで昇温させ、エチレンオキシド234g(5.32モル)を、135〜140℃、反応圧0.4MPa以下の範囲でオートクレーブに導入し、前記第一の付加工程で得られた付加物に、さらに付加反応させた。エチレンオキシドの導入時間は4時間、オートクレーブの内圧が一定となる熟成時間は2時間であった。オートクレーブの内圧を減圧にし、トルエン及び低沸点物を留去した。
【0093】
精製工程
オートクレーブの内温を80℃まで降温し、オートクレーブの内圧を窒素で常圧に戻してからオートクレーブに水10gを加え内容物を1時間攪拌した。吸着剤としてキョーワード600Sを2.0g(協和化学株式会社製、合成珪酸マグネシウム)、オートクレーブに加え、内容物を80〜90℃で1時間攪拌した後、加圧ろ過処理を行い、ろ液を得た。得られたろ液を、120〜130℃、内圧を減圧して脱水処理を行い、水分が0.1%以下になったところで冷却し、多価ヒドロキシ化合物(PH−2)763gを得た。
【0094】
[合成実施例3]
EO付加体5.2モル(PH−3)
【0095】
第二の付加工程に用いるエチレンオキシドの量を128g(2.91モル)に変更した以外は合成実施例1と同様に行い、多価ヒドロキシ化合物(PH−3)663gを得た。
【0096】
[合成実施例4]
PO付加体6.1モル(PH−4)
【0097】
第一の付加工程
ガラス製オートクレーブに4,4’,4”−エチリジントリスフェノール(本州化学工業株式会社製:商品名 TrisP−HAP)390g(1.27mol)、メチルイソブチルケトン160g、及び水酸化カリウム水溶液(48質量%)2.3g(TrisP−HAPに対し2mol%)を加え、オートクレーブの窒素置換を行った後、オートクレーブの内温を110℃まで昇温した。
【0098】
オートクレーブの内容物の攪拌を開始し、TrisP−HAPが分散している状態でプロピレンオキシド244g(4.21mol)を、110〜120℃、反応圧0.4MPa以下の範囲でオートクレーブに導入し、TrisP−HAPに付加反応させた。付加反応が進行すると共に内容物は無色透明粘液状になった。プロピレンオキシドの導入時間は6時間、オートクレーブの内圧が一定となる熟成時間は3時間であった。オートクレーブの内圧を減圧にし、メチルイソブチルケトンを留去した。
【0099】
第二の付加工程
オートクレーブの内温を130℃まで昇温させ、プロピレンオキシド238g(4.10mol)を、130〜135℃、反応圧0.4MPa以下の範囲でオートクレーブに導入し、前記第一の付加工程で得られた付加物に、さらに付加反応させた。プロピレンオキシドの導入時間は4時間、オートクレーブの内圧が一定となる熟成時間は2時間であった。オートクレーブの内温を120℃まで降温し、オートクレーブの内圧減圧にし、低沸点物を留去した。
【0100】
精製工程
オートクレーブの内温を80℃まで降温し、オートクレーブの内圧を窒素で常圧に戻してからオートクレーブに水10gを加え内容物を1時間攪拌した。吸着剤としてキョーワード600Sを2g(協和化学株式会社製)、オートクレーブに加え、内容物を80〜90℃で1時間攪拌した後、加圧ろ過処理を行いろ液を得た。得られたろ液を、120〜130℃、内圧を減圧して脱水処理を行い、水分が0.1%以下になったところで冷却し、多価ヒドロキシ化合物(PH−4)810gを得た。
【0101】
[合成実施例5]
PO付加体7.1モル(PH−5)
【0102】
第二の付加工程に用いるプロピレンオキシドの量を302g(5.21モル)に変更した以外は合成実施例4と同様に行い、多価ヒドロキシ化合物(PH−5)870gを得た。
【0103】
[合成実施例6]
PO付加体5.1モル(PH−6)
【0104】
第二の付加工程に用いるプロピレンオキシドの量を151g(2.60モル)に変更した以外は合成実施例4と同様に行い、多価ヒドロキシ化合物(PH−6)730gを得た。
【0105】
[合成比較例1]
温度計、滴下ロート、冷却管及び撹拌機を備えたフラスコに、4,4’,4”−エチリジントリスフェノール(本州化学工業株式会社製:商品名 TrisP−HAP)50g(163mmol)、及びジメチルホルムアミド150gを加え溶解させた。その後、前記フラスコに、炭酸カリウム101.5g(734mmol)を加え、前記フラスコ内の溶液を120℃で撹拌させた。前記フラスコに備えられた滴下ロートに、2−ブロモエタノール20.4g(163mmol)、2−(2−クロロエトキシ)エタノール30.5g(245mmol)及び2−[2−(2−クロロエトキシ)エトキシ]エタノール55.0g(326mmol)を加え、滴下ロート内の混合溶液を1時間かけて前記フラスコに滴下させた。滴下終了後、さらに3時間反応させた。なお、該反応温度は120℃とし、該反応時間は合計4時間とした。得られた反応生成物の水洗を繰り返して反応生成物から無機塩類を除去した。また、反応生成物から、ジメチルホルムアミド、過剰の2−ブロモエタノール、2−(2−クロロエトキシ)エタノール及び2−[2−(2−クロロエトキシ)エトキシ]エタノールを減圧下で蒸留して除去し、多価ヒドロキシ化合物(PH−7)88.6gを得た。
【0106】
[合成比較例2]
反応温度を100℃、反応時間を6時間にした変更した以外は合成比較例1と同様に行い、多価ヒドロキシ化合物(PH−8)66.1gを得た。
【0107】
[合成比較例3]
2−ブロモエタノール20.4g(163mmol)、2−(2−クロロエトキシ)エタノール30.5g(245mmol)及び2−[2−(2−クロロエトキシ)エトキシ]エタノール55.0g(326mmol)を、2−ブロモエタノール10.2g(82mmol)、2−(2−クロロエトキシ)エタノール30.5g(245mmol)及び2−[2−(2−クロロエトキシ)エトキシ]エタノール110.0g(652mmol)に変更した以外は合成比較例1と同様に行い、多価ヒドロキシ化合物(PH−9)62.4gを得た。
【0108】
[合成比較例4]
2−ブロモエタノール20.4g(163mmol)、2−(2−クロロエトキシ)エタノール30.5g(245mmol)及び2−[2−(2−クロロエトキシ)エトキシ]エタノール55.0g(326mmol)を、2−[2−(2−クロロエトキシ)エトキシ]エタノール165.2g(980mmol)のみに変更し、反応時間を6時間に延ばした以外は合成比較例1と同様に行い、多価ヒドロキシ化合物(PH−10)80.7gを得た。
【0109】
[合成比較例5]
2−ブロモエタノール20.4g(163mmol)、2−(2−クロロエトキシ)エタノール30.5g(245mmol)及び2−[2−(2−クロロエトキシ)エトキシ]エタノール55.0g(326mmol)を、2−(2−クロロエトキシ)エタノール127.8g(1026mmol)のみに変更した以外は合成比較例1と同様に行い、多価ヒドロキシ化合物(PH−11)63.8gを得た。
【0110】
[実施例1]
温度計、滴下ロート、冷却管及び撹拌機を備えたフラスコ(反応器)に、多価ヒドロキシ化合物(PH−1)100g、エピクロロヒドリン258.8g(PH−1の水酸基1molに対してエピクロロヒドリン5mol)、及び50質量%テトラメチルアンモニウムクロリド水溶液(5g)を混合し、得られた混合物を、減圧下に加熱して60〜65℃で還流を行った。そして、前記反応器に、50質量%水酸化ナトリウム水溶液134.3gを2時間かけて滴下した。滴下の際、水をエピクロロヒドリンとの共沸混合物として連続的に除去するとともに、凝縮したエピクロロヒドリン層のみを連続的に反応器に戻した。滴下後、さらに2時間反応させた後、混合物(反応生成物)を冷却した。得られた反応生成物の水洗を繰り返して、反応生成物から、副生した塩化ナトリウムを除去した。また、反応生成物から、過剰のエピクロロヒドリンを減圧下で蒸留して除去し、粗樹脂を得た。得られた粗樹脂をメチルイソブチルケトン100gに溶解し、得られた溶液に、0.18gの50質量%水酸化ナトリウム水溶液を加え、80℃で2時間反応させた。反応終了後、反応生成物の水洗を繰り返して、反応生成物から、副生した塩化ナトリウムを除去した。また、反応生成物から、メチルイソブチルケトンを減圧下で蒸留して除去しエポキシ樹脂(EP−1)115.8gを得た。
【0111】
[実施例2]
多価ヒドロキシ化合物(PH−1)を(PH−2)に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂(EP−2)117.2gを得た。
【0112】
[実施例3]
多価ヒドロキシ化合物(PH−1)を(PH−3)に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂(EP−3)104.3gを得た。
【0113】
[実施例4]
多価ヒドロキシ化合物(PH−1)を(PH−4)に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂(EP−4)98.2gを得た。
【0114】
[実施例5]
多価ヒドロキシ化合物(PH−1)を(PH−5)に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂(EP−5)97.5gを得た。
【0115】
[実施例6]
多価ヒドロキシ化合物(PH−1)を(PH−6)に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂(EP−6)93.1gを得た。
【0116】
[比較例1]
多価ヒドロキシ化合物(PH−1)を(PH−7)に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂(EP−7)104.3gを得た。
【0117】
[比較例2]
多価ヒドロキシ化合物(PH−1)を(PH−8)に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂(EP−8)106.5gを得た。
【0118】
[比較例3]
多価ヒドロキシ化合物(PH−1)を(PH−9)に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂(EP−9)102.1gを得た。
【0119】
[比較参考例1]
多価ヒドロキシ化合物(PH−1)を(PH−10)に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂(EP−10)91.7gを得た。
【0120】
[比較参考例2]
多価ヒドロキシ化合物(PH−1)を(PH−11)に変更した以外は実施例1と同様に行い、エポキシ樹脂(EP−11)92.2gを得た。
【0121】
[各種測定結果]
合成実施例1〜6及び合成比較例1〜5で得られた多価ヒドロキシ化合物(PH−1〜11)の(a+b+c)個数、並びに実施例1〜6で得られたエポキシ樹脂(EP−1〜6)、比較例1〜3で得られたエポキシ樹脂(EP−7〜9)及び比較参考例1、2で得られたエポキシ樹脂(EP−10、11)の(α+β+γ)個数、エポキシ当量、全塩素及び粘度を測定した。この結果を表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
[実施例7〜12]
表2に示すとおり、実施例1〜6で得られたエポキシ樹脂(EP−1〜6)に、エポキシ基1当量に対してジアミノジフェニルメタンをアミノ基1当量の割合で添加し、エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を、180℃、2時間の条件で硬化させてエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について、ガラス転移点(Tg)、引張伸度、DMA弾性率、及び破壊靭性(KIc)の測定を行った。そして、硬化前のエポキシ樹脂組成物についてはゲルタイムを測定した。
【0124】
[比較例4〜7、比較参考例3、4]
エポキシ樹脂として、比較例1〜3で得られたエポキシ樹脂(EP−7〜9)、比較参考例1、2で得られたエポキシ樹脂(EP−10、11)及びビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製:商品名 YL983U(エポキシ当量170g/eq.))をそれぞれ用いた点以外は、実施例7〜12と同様にして、エポキシ樹脂組成物及びエポキシ樹脂硬化物を得て、それらの物性を評価した。
【0125】
[各種評価結果]
実施例7〜12及び比較例4〜7、比較参考例3、4の評価結果を、表2に示す。
【0126】
【表2】
【0127】
[実施例13〜18]
実施例1〜6で得られたエポキシ樹脂(EP−1〜6)に、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製:商品名 YL983U(エポキシ当量170g/eq.))を、表3に記載の配合比で混合して、エポキシ樹脂の混合物を調製した。
【0128】
表3に示すとおり、得られたエポキシ樹脂の混合物に、エポキシ基1当量に対してジアミノジフェニルメタンをアミノ基1当量の割合で添加し、エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を、180℃、2時間の条件で硬化させてエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物について、ガラス転移点(Tg)、引張伸度、DMA弾性率、破壊靭性(KIc)の測定を行った。そして、硬化前のエポキシ樹脂組成物についてはゲルタイムを測定した。
【0129】
[比較例8〜10、比較参考例5、6]
エポキシ樹脂(EP−1〜6)に代えて、比較例1〜3で得られたエポキシ樹脂(EP−7〜9)、比較参考例1、2で得られたエポキシ樹脂(EP−10、11)をそれぞれ用いた点以外は、実施例13〜18と同様にして、エポキシ樹脂組成物及びエポキシ樹脂硬化物を得て、それらの物性を評価した。
【0130】
[各種評価結果]
実施例13〜18及び比較例7〜10、比較参考例5、6の評価結果を、表3に示す。
【0131】
【表3】
【0132】
表1の結果から、多価フェノール化合物にアルキレンオキシドを付加させることにより製造された多価ヒドロキシ化合物を用いて製造されたエポキシ樹脂は、塩素量が低く、電子部品接着に用いるのに好適であることがわかった。
【0133】
表2及び3の結果から、実施例1〜6で得られたエポキシ樹脂(EP−1〜6)は、液状でありながら優れた反応性を有し、実施例7〜18で得られたエポキシ樹脂硬化物は、少なくとも可撓性に優れ、さらには高耐熱性であることが確認された。
図1
図2
図3