【文献】
XUE, G.-X. ET AL.,Pulping And Bleaching Of Plantation Fast-Growing Acacias (Part 1) Chemical Composition And Pulpability,Japan Tappi Journal, 31 March 2001, Vol. 55, No. 3 ,日本,366-372
【文献】
BALODIS, V.,Tropical acacias−The new pulpwood, APPITA JOURNAL:JOURNAL OF THE TECHNICAL ASSOCIATION OF THE AUSTRALIAN AND NEW ZEALAND PULP AND INDUSTRY, 1998, Vol.51,179-181
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
塩基処理が水性水酸化ナトリウムで溶解パルプを処理すること;処理された溶解パルプを老成すること;および老成した溶解パルプを二硫化炭素と反応させて、キサントゲン酸セルロースを形成させることを含む、請求項14に記載の方法。
中和する工程が、キサントゲン酸セルロースを硫酸浴における湿式紡糸プロセスに付すことによって、再生セルロース繊維を製造することを含む、請求項14または15に記載の方法。
【発明の概要】
【0009】
第1局面では、アカシア・クラシカルパ(Acacia crassicarpa)のセルロース系材料を含む溶解パルプが提供される。有利なことに、アカシア・クラシカルパは、分類学的に近い他の種、例えばアカシア・マンギウム(Acacia mangium)とは異なり、意外にも、親油性含有物または親油性抽出分の含有量が比較的低く、それゆえに、厳格な産業上の要求を満たす溶解パルプの調製に使用するのに適していることが見いだされた。
【0010】
第2局面では、アカシア・クラシカルパのパルプを含むセルロース系組成物であって、アカシア・クラシカルパ・パルプが固形分で該組成物の少なくとも50重量%であることを特徴とする組成物が提供される。
【0011】
第3局面では、アカシア・クラシカルパ木材チップと、少なくとも1つの加水分解媒質とを含む組成物が提供される。
【0012】
第4局面では、溶解パルプを調製するための前記組成物の使用が提供される。
【0013】
第5局面では、溶解パルプを調製する方法であって、(a)アカシア・クラシカルパのセルロース系またはリグノセルロース系材料を含む組成物を加水分解する工程であって、それによって、処理されたセルロース系またはリグノセルロース系組成物を形成する、工程、(b)処理された組成物を、溶解パルプを製造するための条件下で加熱する工程を含む方法が提供される。
【0014】
第6局面では、再生セルロース繊維を製造する方法であって、(a)アカシア・クラシカルパの溶解パルプを塩基処理して、キサントゲン酸セルロースを製造する工程、(b)再生セルロース繊維を製造するために該キサントゲン酸セルロースを中和する工程を含む方法が提供される。
【0015】
第7局面では、アカシア・クラシカルパのセルロース系材料を含む再生セルロース繊維が提供され、該アカシア・クラシカルパのセルロース系材料は0〜0.20重量%の親油性成分含量を特徴とする。
【0016】
第8局面では、本明細書において開示する再生セルロース繊維を含むテキスタイルが提供される。
【0017】
定義
本明細書において使用する以下の単語および用語は、以下に示す意味を有するものとする。
【0018】
用語「親油性構成成分」は、木材中に存在しかつ有機溶剤に可溶である、脂肪酸、ステロール、炭化水素、ステロイド炭化水素およびケトンを包含する。親油性構成成分は、ジクロロメタン(DCM)やアセトンなどの有機溶剤によって抽出することができる。したがって親油性構成成分は「親油性抽出分」、より具体的には「DCM抽出分」または「アセトン抽出分」ということもできる。本明細書においては用語「親油性含有物」も可換的に使用される。
【0019】
用語「セルロース」またはその文法上の変形は、線状鎖を形成するβ(1→4)結合したD-グルコース単位のホモポリマーを指す。セルロースは数百〜数千個またはそれ以上のグルコース単位を含有することができるので、セルロースは多糖になる。セルロースは、植物の細胞壁など、多くの天然物に見いだされるので、例えば木材、パルプおよび綿などに見いだすことができる。いくつかの態様では、「セルロース」は、リグニンを実質的に含まない有機材料またはバイオマスを指す。
【0020】
用語「リグノセルロース」またはその文法上の変形は、本明細書では、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを含有する有機材料またはバイオマスを指すために使用される。炭水化物ポリマー(セルロースおよびヘミセルロース)はリグニンに強固に結合している。一般にこれらの材料は、キシラン、タンパク質、および/または他の炭水化物、例えばデンプンも含有しうる。リグノセルロース系材料は、例えば植物の茎、葉、殻(hull)、皮(husk)、および穂軸、または木の葉、枝、および木質部に見いだされる。リグノセルロース系材料としては、バージン植物バイオマスおよび/または非バージン植物バイオマス、例えば農業バイオマス、産業有機物、建設廃材および解体廃材、都市固形廃棄物、紙くず、ならびに庭くずを挙げることができる。一般的な形態のリグノセルロース系材料としては、木、低木、草、コムギ、麦わら、サトウキビバガス、トウモロコシ、トウモロコシの皮、穀粒からの繊維を含むトウモロコシ穀粒、トウモロコシ、イネ、コムギ、およびオオムギなどの穀物の製粉(湿式製粉および乾式製粉を含む)による製品および副生成物、ならびに都市固形廃棄物、紙くず、および庭くずが挙げられる。リグノセルロース系材料として、草本性材料、農業残渣、林業残渣、製紙工場残渣も挙げることができるが、それらに限定されるわけではない。さらなる例として、枝、灌木、籐類(cane)、トウモロコシおよびトウモロコシの皮、エネルギー作物、森林樹木、果実、花、穀物、草、草本作物、葉、樹皮、針葉、丸太、根、若木、短期輪作木質作物、低木、スイッチグラス、木、野菜、果実の皮、つる植物、サトウダイコンパルプ、シャープス(wheat middlings)、オーツ麦の殻、広葉樹および針葉樹、農場活動および林業活動を含む農業プロセスから生じる有機廃棄物材料、特に林業木材廃棄物、またはそれらの混合物が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。リグノセルロース系材料は、漂白材料、例えば漂白パルプ、または未漂白材料を含みうる。
【0021】
本明細書において使用する用語「ヘミセルロース」は、例えば限定するわけではないがキシロース、マンノース、ガラクトース、ラムノースおよびアラビノースなどといった異なる糖質単位を含有するヘテロポリマーを指す。ヘミセルロースは、数百〜数千個の糖単位を有する分岐ポリマーを形成する。ヘミセルロースはペントース糖とヘキソース糖をどちらも含むことができる。
【0022】
「実質的に」という単語は「完全に」を排除するものではなく、例えばYを「実質的に含まない」組成物は、Yを全く含まなくてもよい。必要であれば、本発明の定義から「実質的に」という単語を省いてもよい。
【0023】
別段の明記がある場合を除き、用語「を含む」(「comprising」および「comprise」)ならびにその文法上の変形は、言明した要素を包含するが、言明されていない追加の要素の包含も許すという、「非排他的(open)」または「包含的(inclusive)」語法を表すものとする。
【0024】
本明細書において使用する用語「約」は、配合物の構成要素の濃度に関連する場合には、典型的には、明示した値の±5%、より典型的には明示した値の±4%、より典型的には明示した値の±3%、より典型的には明示した値の±2%、さらに典型的には明示した値の±1%、さらに典型的には明示した値の±0.5%を意味する。
【0025】
本開示の全体を通して、一定の態様を、範囲表示の形式で開示する場合があるが、範囲表示の形式による説明は、単に便宜的なもの、かつ簡潔な説明のためのものであるに過ぎず、開示した範囲への硬直的な限定であると解釈してはならないと理解するべきである。したがって範囲の説明は、考えうる部分範囲ならびに範囲内の個々の数値を全て具体的に開示していると見なすべきである。例えば1〜6という範囲の記載は、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6などの部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数字、例えば1、2、3、4、5、および6を具体的に開示していると見なすべきである。このことは範囲の幅に関係なく適用される。
【0026】
本明細書では一定の態様を広く上位概念によって記載する場合もある。上位概念の開示に包含される下位概念および下位分類のそれぞれも、本開示の一部を形成する。これには、削除される事項が本明細書において具体的に言明されているか否かにかかわらず、上位概念からいずれかの対象事項を除外する但し書きまたは消極的限定を伴う上位概念による態様の説明が包含される。
【0027】
より具体的には、本発明は以下を提供する:
[1] アカシア・クラシカルパのセルロース系材料を含む溶解パルプ;
[2] 0.25重量%未満の親油性成分含量を特徴とする、[1]に記載の溶解パルプ;
[3] 0〜0.20重量%の親油性成分含量を特徴とする、[1]または[2]に記載の溶解パルプ;
[4] 少なくとも90〜99重量%のα-セルロース含量を特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の溶解パルプ;
[5] ペントサンの量が2.0重量%〜3.0重量%である、[1]〜[4]のいずれかに記載の溶解パルプ;
[6] アカシア・クラシカルパのパルプを含むセルロース系組成物であって、アカシア・クラシカルパ・パルプが固形分で該組成物の少なくとも50重量%であることを特徴とする、セルロース系組成物;
[7] パルプがリグニンを実質的に含まないことを特徴とする、[6]に記載のセルロース系組成物;
[8] パルプが0〜0.20重量%の親油性成分含量を有することを特徴とする、[6]または[7]に記載のセルロース系組成物;
[9] リグニンと、炭水化物と、ヘミセルロースと、無機塩とを含む液状混合物をさらに含む、[6]〜[8]のいずれかに記載のセルロース系組成物;
[10] アカシア・クラシカルパ木材チップと少なくとも1つの加水分解媒質とを含む組成物;
[11] 木材チップが樹皮、茎、根、およびそれらの混合物からなる群より選択される、[10]に記載の組成物;
[12] 加水分解媒質が加圧蒸気である、[10]または[11]に記載の組成物;
[13] 溶解パルプを調製するための、[6]〜[12]のいずれかに記載の組成物の使用;
[14] 溶解パルプを調製する方法であって、以下の工程を含む、方法:
(a)アカシア・クラシカルパのセルロース系またはリグノセルロース系材料を含む組成物を加水分解する工程であって、それによって、処理されたセルロース系またはリグノセルロース系組成物を形成する、工程;および
(b)処理された組成物を、溶解パルプを製造するための条件下で加熱する工程;
[15] 加水分解する工程が、アカシア・クラシカルパのセルロース系またはリグノセルロース系材料を蒸気で処理することを含む、[14]に記載の方法;
[16] 加水分解物のpHが3以下になるまで加水分解する工程が行われる、[15]に記載の方法;
[17] 加熱する工程が、処理された組成物をアルカリ溶液の存在下で加熱することを含む、[14]〜[16]のいずれかに記載の方法;
[18] アルカリ溶液がNaOHとNa
2Sとの混合物を含む、[17]に記載の方法;
[19] 再生セルロース繊維を製造する方法であって、以下の工程を含む、方法:
(a)アカシア・クラシカルパの溶解パルプを塩基処理して、キサントゲン酸セルロースを製造する工程;
(b)再生セルロース繊維を製造するために該キサントゲン酸セルロースを中和する工程;
[20] 塩基処理が水性水酸化ナトリウムで溶解パルプを処理すること;処理された溶解パルプを老成すること;および老成した溶解パルプを二硫化炭素と反応させて、キサントゲン酸セルロースを形成させることを含む、[19]に記載の方法;
[21] 中和する工程が、キサントゲン酸セルロースを硫酸浴における湿式紡糸プロセスに付すことによって、再生セルロース繊維を製造することを含む、[19]または[20]に記載の方法;
[22] 0.25重量%未満の親油性成分含量を特徴とするアカシア・クラシカルパの溶解パルプを提供する工程をさらに含む、[19]〜[21]のいずれかに記載の方法;
[23] 0〜0.20重量%の親油性成分含量を特徴とするアカシア・クラシカルパのセルロース系材料を含む再生セルロース繊維;
[24] [23]に記載の再生セルロース繊維を含むテキスタイル。
【発明を実施するための形態】
【0030】
詳細な説明
本開示は、溶解パルプの製造にアカシア属を使用することができるかどうか、またビスコース繊維の製造にアカシア・クラシカルパから製造された前加水分解クラフト溶解パルプを使用することができるかどうかを探究するのに役立つ。
【0031】
工業用クラフトパルプの製造には多くの木材種が使用されてきた。しかしアカシア種は工業用溶解グレードパルプの製造には使用されてこなかった。溶解パルプからはリグニンおよびヘミセルロースが除去されている点で、クラフトパルプは溶解パルプとは区別される。リグニンおよびヘミセルロースの除去はパルプを可溶性にするので、「溶解」パルプである。さらにまた、リグニンおよびヘミセルロースの除去は、パルプのセルロース系含量を増加させて、より強い機械的性質を有するパルプをもたらす。
【0032】
したがって溶解パルプは、原木材料のセルロース系パルプを含む組成物である。溶解パルプまたは溶解グレードパルプは、本明細書において開示するプロセスを使って、木材から製造することができる。
【0033】
溶解グレードパルプには、その応用に応じて、異なる工業的仕様がある。ビスコースレーヨン製造に使用される溶解グレードパルプの典型的なパルプ仕様を下記表1に示す。
【0035】
アカシア・クラシカルパは親油性構成成分の含有量が低く、したがって溶解グレードパルプに要求されるパルプ仕様を満たしうることが、見いだされた。親油性構成成分(または親油性抽出分)には、木材中に存在しかつ有機溶剤に可溶である脂肪酸、ステロール、炭化水素、ステロイド炭化水素およびケトンが含まれる。木材における親油性含有物の存在はパルプ化プロセスおよび製造される溶解パルプの品質に負の効果を有する。例えば、パルプの還元特性は、ステロールおよび炭素鎖長がC
20未満である飽和脂肪酸によって左右される。ステロール残基の量が増えるとパルプの粘度が増加して、パルプ化プロセスの操作性に困難をきたしうる。さらに、親油性含有物の量の増加は、α-セルロースの収率に負の影響を及ぼしうる。α-セルロースは、ヘミセルロース、β-セルロースおよびγ-セルロースとの比較で、最も高い重合度を有し、最も安定であることから、α-セルロースが望ましい。ヘミセルロースは非晶質であるため、パルプまたは繊維の機械的強度に寄与する効果がセルロースと比較すると低い。
【0036】
したがって、いくつかの態様では、アカシア・クラシカルパのセルロース系材料を含む溶解パルプが提供される。
【0037】
木材中の親油性構成成分は、ジクロロメタン、アセトン、クロロホルムおよびジエチルエーテルなどの有機溶剤によって抽出される。アカシア・クラシカルパのジクロロメタン(DCM)抽出分は、木材の約1重量%未満、または約0.5重量%未満、または約0.4重量%未満、または約0.33重量%以下、または約0.3重量%未満、または約0.25重量%未満、または約0.2重量%未満、または約0.1重量%未満、または0〜約0.2重量%、そしてパルプの約0.2重量%未満、または約0.1重量%以下でありうる。ちなみに、アカシア・マンギウムのDCM抽出分は、材木の約1.21重量%およびパルプの約0.29重量%である。アカシア・クラシカルパのアセトン抽出分は、パルプの約0.5重量%未満、または約0.4重量%未満、または約0.3重量%未満、または約0.2重量%以下でありうる。
【0038】
したがって、アカシア・クラシカルパは、有利なことに、他のアカシア種と比較してすぐ得た化学的性質を有している。さらに有利なことに、アカシア・クラシカルパは親油性構成成分が少ないので木材繊維を容易に分離することができ、サプライチェーンおよび製造プロセス全体にわたって、木材およびパルプの操作性を容易に管理することができる。態様では、アカシア・クラシカルパを、溶解パルプの製造における原材料として使用する。
【0039】
加水分解時にペントース糖を与える多糖はペントサンと呼ばれる。キシラン(ヘミセルロースの一タイプ)は、ペントサンの一例である。本明細書において開示する酸性前加水分解工程は、原木材料中のヘミセルロースを分解する。したがって、溶解パルプ中のペントサンの量は、製造された溶解パルプ中に残されたヘミセルロースの量を示す。アカシア・クラシカルパを含む溶解パルプは、原木材料100mgあたり約2.0mg〜約3.0mgのペントサンを有しうる。したがって、ここに開示する溶解パルプは約2.0重量%〜約3.0重量%の量のペントサンを有しうる。態様では、ペントサンの量は、約2.9重量%未満、または約2.8重量%未満、または約2.7重量%未満、または約2.6重量%未満、または約2.5重量%未満、および約3.0重量%超である。
【0040】
ここに開示する溶解パルプは、溶解パルプ中の全炭水化物の約90重量%超、または約95重量%超、または約96重量%超の全α-セルロース系含量を有しうる。ここに開示する溶解パルプは、溶解パルプ中の全炭水化物の約90重量%超、または約91重量%超、または約92重量%超、または約93重量%超、または約94重量%以上、または約95重量%以上、または約96重量%以上のα-セルロース含量を有しうる。ここに開示する溶解パルプは、溶解パルプ中の全炭水化物の少なくとも約90重量%〜約99重量%のα-セルロース含量を有しうる。ある態様において、ここに開示する溶解パルプは、溶解パルプ中の全炭水化物の約96.4重量%のα-セルロース含量を有しうる。
【0041】
溶解パルプ中に存在するヘミセルロースの量は、溶解パルプ中の全炭水化物の約2.5%超、または約3%超、または約3.1%超、または約3.2%超でありうる。
【0042】
アルカリ耐性は、生成物収率と、高分子量セルロース画分の比率とを予測するのに重要である。18%水酸化ナトリウム溶液に対する溶解パルプ中のセルロースの耐性は「R18」と称され、一方、10%水酸化ナトリウム溶液に対する溶解パルプ中のセルロースの耐性は「R10」と称される。18%水酸化ナトリウム溶液(R18)がヘミセルロースを溶解するのに対し、10%水酸化ナトリウム溶液(R10)は低分子量セルロースとヘミセルロースをどちらも溶解する。高分子量セルロースの比率、例えばα-セルロースの比率は、高い方が望ましいので、R18値は高い方が望ましい。18%水酸化ナトリウム溶液における溶解パルプ中のセルロースの耐性は、約95%超、または約96%超、または約97%超、または約98%超でありうる。
【0043】
R18値とR10値の間の差が大きいほど、溶解パルプ中の分解されたセルロースの量が多い。ある態様では、ここに開示する溶解パルプのR18値とR10値の間の差が、約0.5超、または約0.6超、または約0.7超、または約0.8超、または約0.9超、または約1.0超である。
【0044】
18%水酸化ナトリウムにおける溶解パルプ中のセルロースの溶解度は「S18」と称され、一方、10%水酸化ナトリウム溶液に対する溶解パルプ中のセルロースの溶解度は「S10」と称される。S10値とS18値はパルプの溶解度を表しており、水酸化ナトリウム溶液の使用を通例伴うパルプ加工中の材料の損失量を示す。S10値とS18値は、それぞれR10値およびR18値の逆であり、それぞれR10値およびR18値を100%から差し引くことによって計算される。18%水酸化ナトリウム溶液におけるセルロースの溶解度は、約5%未満、または約4%未満、または約3%未満、または約2%未満でありうる。10%水酸化ナトリウム溶液における溶解パルプ中のセルロースの溶解度は、約10%未満、または約8%未満、または約7%未満、または約6%未満、または約5%未満でありうる。溶解パルプは、本明細書において開示する前加水分解クラフトプロセスを使って、木材から製造することができる。
【0045】
クラフトプロセス(別名サルフェートプロセス)は、よく使用されるパルプ化プロセスであり、このプロセスでは、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムとの水性アルカリ混合物を使って、木材が処理され、蒸煮される。この処理によって、木材繊維内および木材繊維間のリグニンが分解されて可溶性になり、繊維分離が可能になる。
【0046】
「パルプ化」は、一般に、繊維分離を達成するためのプロセスを指す。木材および他の有機植物材料は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンおよび他の微量構成要素を含む。リグニンは個々の繊維間に散在するポリマーのネットワークであり、個々の木材繊維を一つにつなぐ細胞間接着因子として機能する。パルプ化プロセスでは、リグニン高分子が断片化され、それによって個々のセルロース系繊維を遊離させ、紙または他の最終製品の変色と将来の崩壊とを引き起こしうる不純物を溶解する。
【0047】
クラフトプロセスを用いる溶解パルプの製造では追加の酸性前加水分解処理工程を利用する(この工程は木材が含有するヘミセルロースを分解するために使用される)ので、この製造プロセスは「前加水分解クラフトプロセス」と呼ばれる。この酸性前加水分解工程は、アルカリ媒質における分解に対するヘミセルロース構成要素の耐性ゆえに必要になる。生成する酸性液は、分解されたヘミセルロース構成要素を含有し、通例、蒸発乾燥させて、エネルギー生産のために燃やされるか、廃棄物として捨てられる。
【0048】
したがって、態様では、溶解パルプを調製する方法は、(a)アカシア・クラシカルパのセルロース系またはリグノセルロース系材料を含む組成物を加水分解する工程であって、それによって、処理されたセルロース系またはリグノセルロース系組成物を形成する、工程、(b)処理された組成物を、溶解パルプを製造するための条件下で加熱する工程を含む。
【0049】
ここに開示する方法に従って調製される溶解パルプの収率は、原木材料に基づいて、約30重量%超、または約35重量%超、または約36重量%超、または約37重量%超、または約38重量%超、または約39重量%超でありうる。
【0050】
本開示の一態様による溶解パルプを調製するための前加水分解クラフトプロセスを
図1に図解する。
【0051】
図1を参照して説明すると、第1工程は、原木材料を、蒸解釜を満たすのに適したサイズの木材チップに切断することである。例えば木材チップの約80重量%超は、約7mm以上のサイズで、約7mm以下の厚さを有しうる。蒸解釜を満たすのに適する典型的な木材チップサイズ分布は次のとおりである:約45mm以上のサイズを有する過大チップは多くて0.5重量%である;約8mm以上の厚さを有する過厚チップは多くて8重量%である;約7mm以上のサイズおよび約7mm以下の厚さを有するチップ(「アクセプト」と称する)は少なくとも82.5重量%である;約3mm〜約7mmのサイズを有するチップ(「スモールアクセプト」と称する)は多くて7重量%である;約3mm未満のサイズを有するチップ(「細粒」と称する)は多くて1重量%である;樹皮は最大1重量%まで存在しうる。
【0052】
木材チップのサイズとは、実質的に球状であればチップの直径を指し、球状でなければ球状チップとの比較でそのチップの等価な直径を指す。
【0053】
木材チップは、樹皮、茎、根およびそれらの混合物からなる群より選択することができる。木材は、0.25重量%未満の親油性成分含量を特徴とする植物から選択することができる。木材はアカシア属(Acacia)から選択することができる。木材はアカシア・クラシカルパから選択することができる。
【0054】
102では木材チップを蒸解釜に加える。ここでは、木材チップを軟化させるために、低圧(LP)蒸気を加えることができる。LP蒸気は約4.0〜4.2bargの圧力を有しうる。
【0055】
蒸解釜は、前加水分解クラフトプロセスにおいて木材を加熱し蒸煮するのに適した任意の蒸解器であってよい。蒸解釜は、比較的高い耐熱性と比較的高い耐食性を有するように、適当に選択することができる。
【0056】
態様では、加水分解する工程は、アカシア・クラシカルパのセルロース系またはリグノセルロース系材料を加水分解媒質で処理する工程を含む。加水分解媒質は、アカシア・クラシカルパのセルロース系またはリグノセルロース系材料と反応することで、ヘミセルロースを破壊しうる。セルロースまたはヘミセルロースの多糖は加水分解されて低分子量のカルボン酸または有機酸を形成する。加水分解は、水を使った分子内の結合の破壊を伴う反応である。この反応は、主に、イオン(多糖残基のカチオン対イオンなど)と水分子との間で起こり、しばしば溶液のpHを変化させる。したがって、加水分解プロセスでは有機酸などの酸性反応生成物が形成されて、酸性加水分解物をもたらす。
【0057】
加水分解媒質の一例は蒸気または加圧蒸気である。一態様では、加水分解媒質が、本質的に蒸気から構成される。蒸気は本明細書において開示する圧力および温度でありうる。一態様では、蒸気による処理を1つまたは2つまたは複数の圧力で行うことができる。例えば104では、木材を加熱するために、低〜中圧の蒸気を蒸解器に加えることができる。加えられる蒸気は約4barg〜約12bargの圧力を有しうる。加えられる蒸気は、約150℃〜約200℃の温度を有しうる。蒸気はLP蒸気源に由来して、約4.0〜4.2bargの圧力と約150〜153℃の温度とを有することができる。蒸気は、中圧(MP)蒸気源に由来して、約11.0〜11.5bargの圧力と約190〜200℃の温度とを有することができる。蒸気はLP蒸気源とMP蒸気源とを交互に繰り返してもよい。蒸気は蒸解器の底部に加えることができる。
【0058】
加水分解する工程は、単一の工程/段階または複数の工程/段階で行うことができる。一態様において、木材チップは、圧力条件および温度条件を変えて、蒸気により、逐次的に処理することができる。
【0059】
加水分解する工程は一定の条件が満たされるまで行うことができる。木材は、予め決定された時間にわたって、一定の条件下で処理することができる。この一定の条件には、例えば木材チップの温度が約160〜約175℃になり、蒸解器の圧力が約7bargになるまで蒸気を加えること、およびこれらの条件を約60分〜約120分、または約75分〜約120分、または約90分〜約120分、または約105分〜約120分、または約60分〜約105分、または約60分〜約90分、または約75分〜約105分、または約90分〜約105分、または約90分〜約100分の継続時間にわたって維持することを含めることができる。
【0060】
加水分解する工程は、加水分解物のpHが約3未満、または約2未満、または約pH1〜約pH3、または約pH2〜約pH3になるまで行うことができる。木材は、加水分解物のpHが約3未満、または約2未満、または約pH1〜約pH3、または約pH2〜約pH3になるまで処理することができる。一態様では、加水分解物が凝縮蒸気加水分解物である。
【0061】
104では、蒸気が木材中の構成成分と反応することで、酸性の反応生成物を生成させうる。例えば、木材中のヘミセルロースが分解されることで、酸性前加水分解工程なしで製造されたパルプと比較して有利なことにα-セルロース含量が高く、しかもより一様なセルロース分子量分布を有するパルプが得られる。これらの性質は、特に、合成ビスコースレーヨン繊維の製造に要求される性質である。生成した酸は、ヘミセルロースの多糖の加水分解をさらに強化しうる。
【0062】
いくつかの態様では、酸加水分解を受ける組成物が、アカシア・クラシカルパ木材チップと、少なくとも1つの加水分解媒質とを含む。ここに開示する組成物は、溶解パルプを調製するために使用することができる。
【0063】
106では、アルカリ溶液、例えば熱白液(HWL)を蒸解釜に加えることによって、酸性組成物を中和することができる。HWLは容器HWL ACCに貯蔵することができる。HWLは、約100℃〜約150℃、または約110℃〜約140℃、または約135℃の温度で加えることができる。HWLは、例えばHWLをHWL源からポンプ送出することによって、蒸解釜に導入することができる。白液は、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムとの水性アルカリ混合物である。水酸化ナトリウムは白液中に約60g/L〜約80g/L、または約70g/L〜約75g/Lの濃度で存在しうる。硫化ナトリウムは白液中に約30g/L〜約40g/L、または約34g/L〜約35g/Lの濃度で存在しうる。蒸解釜にはHWLを木材材料に対して向流方向または並流方向に供給することができる。ある態様では、HWLが木材材料と向流方向に接触するのを助けるために、HWLを蒸解釜の底部に供給する。
【0064】
蒸解器からの廃棄生成物は黒液と称される。この時点で、熱黒液(HBL)はヘミセルロースが分解されて生じる炭水化物を含みうる。HBLは蒸解器の頂部から取り出すことができる。HBLは容器HBL ACC IIに収集することができる。熱白液を入れる容器と熱黒液を入れる容器は、前加水分解クラフトプロセスに適した任意の容器であってよい。熱白液を入れる容器と熱黒液を入れる容器は、比較的高い耐熱性と比較的高い耐食性を有するように、それぞれ適当に選択することができる。
【0065】
クラフトプロセスは工程104および106を含まない。
【0066】
108では、例えば容器HWL ACCから、蒸解釜へと熱白液を追加する。HWLは、木材繊維内および木材繊維間のリグニンを分解して可溶性にし、よって繊維分離を可能にすることで、処理された液を生成させる。リグニン分解は106において開始し、108まで続けるか、または108において初めて開始することができる。HWLは、約100℃〜約150℃、または約110℃〜約140℃、または約135℃の温度で加えることができる。HWLは、例えばHWLをHWL源からポンプ送出することによって、蒸解釜に導入することができる。蒸解釜にはHWLを木材材料に対して向流方向または並流方向に供給することができる。ある態様では、HWLが木材材料と向流方向に接触するのを助けるために、HWLを蒸解釜の底部に供給する。
【0067】
108では、HWLの添加前に、またはHWLの添加と同時に、またはHWLの添加後に、熱黒液(HBL)を蒸解釜に加えることができる。HBLは容器HBL ACC Iに貯蔵することができる。HBLは、リグニンの分解を強化するために加えることができる。HBLは、蒸解器中のHWLの量を補足する量で加えることができる。HBLは、蒸煮プロセス中に要求される量を補うために加えることができる。108において加えられるHBLは、蒸煮プロセスに役立つように、より高濃度のアルカリを含みうる。HBLは、例えばHBLをHBL源からポンプ送出することによって、蒸解釜に導入することができる。蒸解釜にはHBLを木材材料に対して向流方向または並流方向に供給することができる。ある態様では、HBLが木材材料と向流方向に接触するのを助けるために、HBLを蒸解釜の底部に供給する。HBLとHWLは、蒸解器に加える前に混合してもよい。HBLとHWLは蒸解器に別々に加えてもよい。
【0068】
この時点で、蒸解器から取り出された熱黒液は、ヘミセルロースの分解によって生じた炭水化物および/または分解されたリグニンを含有しうる。HBLは、蒸解器の頂部から取り出すことができる。HBLは容器HBL ACC IIに収集することができる。
【0069】
110では、組成物を加熱および蒸煮して溶解パルプを製造するために、蒸解器に中圧(MP)蒸気を加えることができる。MP蒸気は、約10.5〜11.5barg、または約11.0〜11.5bargの圧力、および約180〜200℃、または約190〜200℃の温度を有しうる。蒸解器には、例えば注入によって、蒸解器の頂部および/または底部に、および/または反応が起こる蒸解器の中央部に、蒸気を加えることができる。蒸気は、一定の条件が満たされるまで加えることができる。アルカリ溶液中で処理されるセルロース系またはリグノセルロース系組成物は、予め決定された時間にわたって、一定の条件下で、加熱または蒸煮することができる。この一定の条件には、例えば組成物の温度が約160〜約170℃になるまで蒸気を加えること、およびこれらの条件を約30分〜約60分、または約40分〜約60分、または約50分〜約60分、または約30分〜約50分、または約30分〜約40分、または約40分〜約50分、または約45分〜約60分の継続時間にわたって維持することを含めることができる。
【0070】
したがって加熱または蒸煮工程は、処理される組成物をアルカリ溶液の存在下で加熱することを含みうる。アルカリ溶液は白液および/または黒液を含みうる。アルカリ溶液はNaOHとNa
2Sとの混合物を含みうる。
【0071】
いくつかの態様では、蒸煮工程後に得られるセルロース系組成物が、アカシア・クラシカルパのパルプを含み、アカシア・クラシカルパが固形分でセルロース系組成物の少なくとも50重量%、または少なくとも55重量%、または少なくとも60重量%であることを特徴とする。このセルロース系組成物は、ここに開示する溶解パルプを得るために、洗浄するか、またはさらに精製することができる。
【0072】
いくつかの態様において、ここに開示するセルロース系組成物は、アカシア・クラシカルパのパルプがリグニンを実質的に含まないことを特徴とする。いくつかの態様において、ここに開示するセルロース系組成物は、アカシア・クラシカルパのパルプがリグニンを実質的に含まず、少量の、例えば本明細書において開示するような量の、ヘミセルロースを有することを特徴とする。いくつかの態様において、ここに開示するセルロース系組成物は、アカシア・クラシカルパのパルプが本明細書において開示する(例えば0〜約0.20重量%の)親油性成分含量を有することを特徴とする。
【0073】
いくつかの態様において、本セルロース系組成物は、リグニン、炭水化物、ヘミセルロースおよび無機塩を含む液状混合物を、さらに含む。
【0074】
蒸煮プロセス後は、溶解パルプを異なるパルプ処理プロセスに付すことができる。パルプ処理プロセスは必要に応じて選択することができる。パルプ処理プロセスは、必要に応じて、ある順序で配置することができる。例えば溶解パルプは、酸素および苛性アルカリをパルプに適用する酸素脱リグニンに付すことができる。溶解パルプは、二酸化塩素をパルプに適用する二酸化塩素漂白プロセス(「D」で表される)に付すことができる。溶解パルプは、苛性アルカリ(「E」で表される)、酸素(「O」で表される)および過酸化水素(「P」で表される)を同時にパルプに適用する(それゆえに「EOP」で表される)別の漂白プロセスに付すことができる。
【0075】
ある態様では、溶解パルプを、酸素脱リグニンに付し、次に、シーケンスOD(EOP)DPを使った漂白に付すことができる。
【0076】
ここに開示するセルロース系組成物は、溶解パルプを調製するために使用することができる。
【0077】
112では、製造されたパルプを洗浄するために置換液を加えることができる。置換液は、蒸解器から熱黒液を取り出すために加えることができる。本プロセスの無機化学品は再使用またはリサイクルのために回収することができる。有機構成要素はエネルギー生成のために回収することができる。置換液はブラウンストック洗浄溶液であってもよい。ブラウンストック洗浄溶液は、蒸解器蒸煮プラントの下流にある第1ブラウンストックパルプ洗浄段階からの圧縮液である。置換液は蒸解器の底部に加えることができる。HBLは、蒸解器の頂部から取り出して、容器HBL ACC IおよびHBL ACC IIに集めることができる。
【0078】
114では、製造された溶解パルプを置換液によって蒸解器から排出させ、排出槽へと取り出すことができる。溶解パルプは蒸解器の底部で取り出すことができる。
【0079】
別の例では、酸性亜硫酸塩プロセスを使って木材から溶解パルプを製造することができる。
【0080】
酸性亜硫酸塩プロセスでは、亜硫酸とカルシウムまたはマグネシウムなどの塩基化学品の塩との水溶液で木材を処理することができる。酸性亜硫酸塩パルプ化の目的はリグニンを分解または断片化することではなく、リグニンの親水性を向上させることによってリグニンを可溶化することである。酸性亜硫酸塩法パルプは、リグニン含量が同じぐらいの前加水分解クラフトパルプと比べて、比較的低いヘミセルロース含量および比較的高いセルロース含量を有しうる。酸性亜硫酸塩法パルプは比較的容易に漂白することができる。ここに開示する酸性亜硫酸塩プロセスは、セルロース含量が溶解パルプ中の全炭水化物の約90%超、または約91%超、または約92%超である溶解パルプを製造する能力を有しうる。
【0081】
しかし、酸性亜硫酸塩プロセスは、大気に排出されるSO
2の量が多くなりうるので、クラフトプロセスおよび前加水分解クラフトプロセスと比較して多くの汚染を生じうる。酸性亜硫酸塩プロセスは抽出分を効率よく溶解することができない場合があるので、その使用を応用することができる木材原材料種の範囲は小さくなりうる。酸性亜硫酸塩プロセスを使って溶解パルプを製造することができる。
【0082】
有利なことに、ここに開示する前加水分解クラフトプロセスの蒸煮工程では、酸性亜硫酸塩プロセスの蒸煮工程より短い継続時間で、同じような溶解パルプ品質を達成することができる。有利なことに、ここに開示する前加水分解クラフトプロセスは、酸性亜硫酸塩プロセスより機械的に強いパルプを製造することができる。有利なことに、ここに開示する前加水分解クラフトプロセスでは、化学試薬の回収および再利用が酸性亜硫酸塩プロセスより容易になりうる。有利なことに、ここに開示する前加水分解クラフトプロセスでは、効率のよい漂白技術で、関連する溶解パルプ要件を満たすことが可能になる。
【0083】
ビスコースは、ここに開示する溶解パルプから製造することができる。アカシア・クラシカルパ由来のセルロース繊維をビスコース繊維に再生させることができる。したがって、態様では、再生セルロース繊維を製造する方法が提供される。本方法は、(a)アカシア・クラシカルパの溶解パルプを塩基処理して、キサントゲン酸セルロースを製造する工程を含みうる。本方法は、(b)再生セルロース繊維を製造するためにキサントゲン酸セルロースを中和する工程を含みうる。
【0084】
本開示の一態様によるビスコースプロセスを
図2に図解する。
【0085】
202では、溶解グレードパルプをアルカリ化する。溶解パルプおよび水性水酸化ナトリウムを混和することができる。溶解パルプは、水性水酸化ナトリウムの添加前、または添加と同時、または添加後に加えることができる。使用する水酸化ナトリウムの濃度は、約10重量%〜約25重量%、または約15重量%〜約25重量%、または約15重量%〜約20重量%、または約18重量%でありうる。水性水酸化ナトリウムにおける溶解パルプの処理は、約50℃〜約60℃、または約53℃〜約55℃の温度で行うことができる。アルカリ処理の圧力条件に特に制約はなく、大気圧で行うことができる。溶解パルプは本明細書において開示するものであってよい。態様では、溶解パルプはアカシア・クラシカルパを含みうる。態様では、0.25重量%未満の親油性成分含量を特徴とするアカシア・クラシカルパの溶解パルプを提供することができる。
【0086】
204では、アルカリ化されたパルプを、離解させ、圧縮し、粉砕することができる。工程202は、工程204の前に行ってもよいし、工程204と同時に行ってもよい。パルプ中のセルロース分子のアルコラート基は、水性水酸化ナトリウム溶液中でパルプを離解したときに、下記反応式1に従って水性水酸化ナトリウム溶液と反応して、アルカリセルロースを生成する。
[反応式1]
(C
6H
10O
5)
n-OH+NaOH→(C
6H
10O
5)
n-O-Na+H
2O
【0087】
その後、アルカリセルローススラリーを圧縮すると、過剰な水酸化ナトリウムが除去される。乾燥したスラリーを粉砕するとアルカリセルロース断片が生成する。
【0088】
206では、アルカリセルロース断片を老成プロセスに付すことができ、ここでは断片が酸素に曝露される。老成プロセスは、約4〜約6時間程度の継続時間、または約5時間にわたって行うことができる。酸素への曝露により、セルロースの重合度は約400〜約500に低下しうる。
【0089】
208では、老成したセルロースを二硫化炭素(CS
2)溶液で処理することで、下記反応式2に従ってキサントゲン酸セルロースを形成させることができる。工程208はキサントゲン酸化と呼ばれている。
[反応式2]
【0090】
CS
2は、老成したセルロースに、セルロース(例えばオーブン乾燥したセルロース)の乾燥重量に基づいて、約30重量%〜約40重量%の量で加えることができる。例えば1000kgのCS
2を、オーブン乾燥重量ベースで3トンのセルロースに加えることができる。あるいは、老成セルロースを、CS
2の容器にポンプ送出してもよい。
【0091】
210では、キサントゲン酸セルロースを弱水性水酸化ナトリウム溶液に溶解して、蜂蜜に似た稠性を有する橙色のシロップ状液体を生成させることができる。使用する水酸化ナトリウムの濃度は、約10g/L〜約20g/L、または約15g/L〜約17g/Lとすることができる。この橙色のシロップ状液体がビスコース溶液である。
【0092】
したがって、塩基処理工程は、水性水酸化ナトリウムで溶解パルプを処理すること、処理された溶解パルプを老成すること、および老成した溶解パルプを二硫化炭素と反応させてキサントゲン酸セルロースを形成させることを含みうる。
【0093】
異なる濃度の水酸化ナトリウム溶液を調製して、苛性ソーダステーションに貯蔵することができる。苛性ソーダステーションは、付属する配管により、反応系が入っている容器と流体接続することができる。
【0094】
212では、ビスコース溶液を、酸素の存在下で一定期間、熟成させることができる。熟成時の酸素への曝露により、溶液の粘度とセルロース重合度が低下する。溶液の粘度は約45〜55Pa・秒まで低下させることができる。重合度は約400〜約500まで低下させることができる。熟成後は、ゲルや未溶解繊維などの不純物を除去するために、溶液を濾過することができる。濾液(別名ビスコースドープ)は、主としてセルロースと水酸化ナトリウムとを含む。残渣は捨てるかリサイクルすることができる。分散ガスを除去するために、濾液を脱気してもよい。不純物および分散ガスは紡糸上の問題および最終製品の低品質の一因になるので、除去した方が有利である。工程212は、要求される品質と熟成度が達成されたときに完了する。達成される熟成度は、15〜20ホッテンロート度(すなわち、ビスコースを凝固させるのに必要な10%塩化アンモニアが15〜20ml)の範囲でありうる。水酸化ナトリウムにキサントゲン酸セルロースを溶解してから紡糸プロセスを開始するまでに要する時間は約8〜10時間程度であるだろう。
【0095】
214では、濾液を、硫酸溶液における湿式紡糸プロセスに付すことができる。紡糸浴溶液における硫酸溶液の濃度は、約108〜約112g/L、または約110g/Lとすることができる。湿式紡糸プロセスは、ビスコース濾液を紡糸口金にポンプ送出し、ビスコースを紡糸浴ステーションからの硫酸紡糸浴液中に押し出すことで、セルロースを沈殿させ再生して、繊維を形成させることを含みうる。湿式紡糸プロセスは、約45℃〜約50℃の温度で行うことができる。
【0096】
湿式紡糸プロセスにおける反応は下記反応式3に従う。
[反応式3]
【0097】
CS
2は、ガスとして放出され、硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)が主要副生成物として形成される。
【0098】
使用した紡糸浴液は、紡糸浴ステーションに還送/リサイクルして濾過し、溶解したCS
2およびH
2Sを除去するために脱気し、プロセス温度まで温めることができる。紡糸浴組成物を維持するために、ビスコース溶液から持ち込まれた水を蒸発させることができる。上記反応式3に従って紡糸反応によって形成された硫酸ナトリウム副生成物と紡糸浴中の硫酸は、結晶化によって除去することができる。新しい硫酸を紡糸浴組成物に加えることができる。
【0099】
繊維形成中および処理プロセス後に発生した二硫化炭素(CS
2)は、収集し、凝縮し、再使用することができる。痕跡量のCS
2およびH
2Sを含む廃棄ガスは酸化して、元素状硫黄(S)、二酸化硫黄(SO
2)または硫酸(H
2SO
4)にするか、または吸着プラントにおいてさらに処理することができる。
【0100】
したがって中和する工程は、キサントゲン酸セルロースを硫酸浴における湿式紡糸プロセスに付すことによって、再生セルロース繊維を製造することを含みうる。
【0101】
216では、再生セルロース系ビスコース繊維を延伸することができる。218では、延伸された繊維を所望の長さに切断することができる。切断機から重力によって落とされた切断済みの繊維は、トラフの幅全体に機械的に分配され、トラフ中の熱水上を「浮動」するフリースを形成することになる。残存するCS
2およびH
2Sを全て繊維から放出させるために、蒸気が熱水に注入される。放出されたガスは泡を形成し、それが繊維フリースを熱水上で「浮動」させる。切断機からの継続的な新しい供給により、繊維フリースは、徐々に前方に押し出されて後処理装置に到達する。
【0102】
220では、切断された繊維が後処理機に供給され、ここでは繊維を、洗浄、脱硫、漂白および/または軟化に供することができる。
【0103】
後処理は、通例、以下の洗浄区画と処理区画とに分割することができる:
a)無酸洗浄(約70℃);
b)痕跡量の酸が全て除去されていることを保証するための第1洗浄(約70℃);
c)熱NaOH-Na
2S溶液(2〜3g/L、約65℃)による脱硫;
痕跡量の元素状硫黄および他の硫黄化合物がここで除去される。繊維上に分散した最後の硫黄は、次式に従って溶液中のNaOHと反応する。
[反応式4]
6NaOH+12S→2Na
2S
2O
3+2H
2OまたはNa
2S→Na
2S
5
形成されるポリ硫化物は水溶性であり、したがって洗い流すことができる。洗浄水の温度が45℃を上回るように注意する必要がある。
d)脱硫浴を除去するための第2洗浄(約60℃);
e)次亜塩素酸ナトリウムの溶液(1〜2g/Lの活性塩素)による、pH9〜10および温度20〜25℃における漂白;
NaOCl(次亜塩素酸ナトリウム)の作用は、NaOClが加水分解して次亜塩素酸になり、それが、酸素を切り離して、極めて強力な酸化剤として作用するという事実によるものである。加水分解の程度はpHと温度に依存する。加速は低いpHおよび高い温度によって達成される。しかし過激な漂白が繊維を損傷しないように注意しなければならない。したがって浴内の条件は一定に維持されなければならない。
衛生用または食品用ビスコース繊維が必要な場合は、通例、無塩素漂白が必要になる。この目的には、通例、過酸化水素が使用される。この漂白作用も酸化反応に基づく。
f)第3洗浄(約30℃);
g)最終洗浄(約60℃);
h)軟化(約50℃);
ここでは、以後のテキスタイル事業に必要な特徴を有する繊維を与える軟化剤を、繊維に適用する。柔軟剤のタイプは以後のテキスタイル事業を考慮して選択しなければならない。
【0104】
どの洗浄区画と処理区画の間でも、過剰な液分を除去するために圧搾ローラーを使用することができる。これらのローラーの重さは、したがって圧縮比は、それらを満たす水を必要に応じて増減することによって調節することができる。
【0105】
軟化区画の前または後に、付着している水を可能な限り除去するために圧縮ローラーを使用してもよい。圧縮ローラーは、必要に応じて、空気圧で調節することができる。
【0106】
・軟化浴を希釈しないように、
・繊維中の湿気を可能な限り乾燥機に持ち込まないように(蒸気節約)
検討することが重要である。
【0107】
222では、処理されたビスコース繊維を乾燥し、圧縮し、梱包することができる。
【0108】
したがって態様では、アカシア・クラシカルパのセルロース系材料を含む再生セルロース繊維が提供される。アカシア・クラシカルパのセルロース系材料は、0〜0.20重量%の親油性成分含量を特徴としうる。態様では、本明細書において開示する再生セルロース繊維を含むテキスタイルが提供される。
【0109】
上記の開示を読めば、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく、本発明の他のさまざまな変更態様および改変態様も、当業者には明白になることは明らかであるだろう。また、そのような変更態様および改変態様は全て、添付の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【実施例】
【0110】
以下に、本発明の非限定的実施例および比較例を、具体的実施例を参照して、さらに詳しく説明するが、これらが本発明をいかなる形でも限定していると解釈してはならない。
【0111】
実施例1
アカシア・クラシカルパを用いる前加水分解クラフト溶解パルプの製造を検討するために、実験室での研究を行った。工業用溶解パルプを製造するために、消費量ならびに結果として得られるパルプの品質データを確立した。ユーカリから製造される溶解パルプを標準として使用した。
【0112】
詳細な実験室煮沸条件およびその結果は、下記表2に見ることができる。
【0113】
【表2】
【0114】
前加水分解因子(Pファクター)により、同じパルプ化度を与えるために必要な、また予め決定された特徴を有するパルプを製造するために必要な、蒸煮時間および/または蒸煮温度の調節が予測される。アカシア・クラシカルパの場合、前加水分解時間は、ユーカリよりもわずかに(5分)長い。ペントサン目標値を達成するために、より高いPファクターが必要だからである。しかし総蒸煮サイクル時間は、典型的な工業用溶解パルプの標準内である。
【0115】
良質なパルプが、アカシア・クラシカルパ原木材料に基づいて39%超という比較的高い収率で達成された。未漂白パルプの場合、アカシア・クラシカルパは97.3%のR18値と2.6%のペントサン含量を有していた。
【0116】
この結果は工業用ユーカリ溶解パルプに匹敵する。
【0117】
蒸煮プロセス後に、溶解パルプを酸素脱リグニンに付し、次に、シーケンスOD(EOP)DPを使った漂白を行った。漂白パルプの分析結果を下記表3に示す。
【0118】
【表3】
【0119】
上述した実験室での研究により、表3に示すように、アカシア・クラシカルパの制御された蒸煮および漂白により、工業用溶解パルプに要求される重要なパラメータの全てを満たしうることが明らかになった。
【0120】
実施例2
工業グレードのビスコース紡糸溶液の調製に関して、実験室で調製したアカシア・クラシカルパおよびユーカリの前加水分解クラフト溶解パルプの適性を決定するために、実験室での研究を行った。結果を、市販のユーカリ溶解パルプ(参照パルプ)を使って得られたものと比較した。
【0121】
図2に図解したフローチャートに従ってビスコース繊維を調製した。
【0122】
溶解グレードのアカシア・クラシカルパから調製された工程204の調製済みアルカリセルロースパルプの圧縮挙動は、溶解グレード広葉樹パルプに典型的なものと一致した。
【0123】
次に、アルカリセルロース試料を工程206において予備的老成に供した。アカシア・クラシカルパおよびユーカリの前加水分解クラフト溶解パルプの重合度および粘度(DP/粘度)の出発値は類似していたが、パルプの予備的老成応答には相違があった。
図3は、アルカリセルロース老成工程中は、アカシア・クラシカルパ前加水分解クラフト溶解パルプよりもユーカリ前加水分解クラフト溶解パルプの方が粘度が低く、速い速度でDPが低下することを示している。しかし、DP調整濾過指数および濾過性の挙動は、工業グレードのビスコース溶液の予期される標準内にあった(下記表4参照)。
【0124】
工程212における濾過後に、3つのパルプ試料から調製されたビスコース溶液内に未溶解繊維または溶解が不十分なゲルは存在しないことが、顕微鏡分析(未掲載)によって示された。
【0125】
工程212における熟成後に、アカシア・クラシカルパから調製されたビスコース溶液は、試験した他のパルプよりも高い平均粒度および広い分布を有していたことが、
図4からわかる。
【0126】
ビスコース溶液の後熟成挙動にほとんど相違はなかった。ただし、
図5に示すように、アカシア・クラシカルパ溶液では、開始時に、わずかに速い速度が見られた。
【0127】
この実施例における研究室での検討の結果は、アカシア・クラシカルパ前加水分解クラフト溶解パルプから調製されたビスコース溶液が、ビスコース繊維の工業生産において使用するのに適した一般的要件を満たすことを示している。
【0128】
【表4】