特許第6445137号(P6445137)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6445137
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】X線顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/04 20180101AFI20181217BHJP
   G21K 7/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   G01N23/04 310
   G21K7/00
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-505926(P2017-505926)
(86)(22)【出願日】2015年3月17日
(86)【国際出願番号】JP2015057931
(87)【国際公開番号】WO2016147320
(87)【国際公開日】20160922
【審査請求日】2017年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 和浩
(72)【発明者】
【氏名】米山 明男
【審査官】 大門 清
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/098871(WO,A1)
【文献】 特開平02−022599(JP,A)
【文献】 特開2013−083454(JP,A)
【文献】 特開平11−133200(JP,A)
【文献】 特開平05−045304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G21K 7/00、5/02
G01N 23/04
H01J 37/285、37/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円偏光X線の偏光切り換え機構と、
最大視野を分割する複数の領域間で試料が繰り返し移動される場合に、前記試料の移動のたび、前記試料の像を含む領域と前記試料の像を含まない領域の両方を含む前記最大視野に相当する視野画像を取得する画像取得部と、
前記試料の移動に同期して前記偏光切り換え機構を制御して前記円偏光X線の偏光を切り換える制御部と、
前記試料の像を含まない領域と前記試料の像を含む領域の位置関係が異なる複数の前記視野画像を用いて試料吸収像を算出する処理と、取得時の偏光が異なる複数の前記試料吸収像を用いて磁気吸収像を算出する処理とを実行する演算装置と
を有するX線顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載のX線顕微鏡において、
前記試料は、平面に射影したときの面積の最大値が、前記画像取得部における最大視野の30%以下の大きさを有し、
前記試料を、前記最大視野を2等分する第1の領域と第2の領域の間で往復移動する移動機構を更に有し、
前記制御部は、前記往復移動と前記円偏光X線の偏光の切り換えとを同期させる
ことを特徴とするX線顕微鏡。
【請求項3】
請求項1に記載のX線顕微鏡において、
前記試料は、平面に射影したときの面積の最大値が、前記画像取得部における最大視野の15%以下の大きさを有し、
前記試料を、前記最大視野を4等分する第1〜第4の領域の間で順番に繰り返し移動する移動機構を更に有し、
前記制御部は、前記第1及び前記第2の領域に照射する前記円偏光X線の偏光と前記第3及び第4の領域に照射する前記円偏光X線の偏光との切り替えと、前記試料の移動とを同期させる
ことを特徴とするX線顕微鏡。
【請求項4】
請求項1に記載のX線顕微鏡において、
前記演算装置は、
前記最大視野を分割する前記複数の領域のうちの1つである第1の領域に前記試料の像を含む前記視野画像を、前記複数の領域のうちの他の1つである第2の領域に前記試料の像を含む前記視野画像で割り算して得られる複数の画像の試料位置を一致させるように補正した後、補正後の画像を積算することにより前記第1の領域に前記試料の像を含む第1の積算画像を算出する処理と、
前記第2の領域に試料の像を含む前記視野画像を、前記第1の領域に試料の像を含む前記視野画像で割り算して得られる複数の画像の試料位置を一致させるように補正した後、補正後の画像を積算することにより前記第2の領域に前記試料の像を含む第2の積算画像を算出する処理と、
前記第1の積算画像の試料位置と前記第2の積算画像の試料位置を一致させるように位置合わせした後に積算して前記試料吸収像を算出する処理と、
偏光が異なる前記円偏光X線を用いて取得された前記視野画像について、前記第1の積算画像を算出する処理、前記第2の積算画像を算出する処理、及び、前記試料吸収像を算出する処理を実行する処理と、
前記試料吸収像のそれぞれについて対数画像を算出する処理と、
偏光が異なる前記円偏光X線について算出された前記試料吸収像の対数画像間の差分画像を、偏光が異なる前記円偏光X線について算出された前記試料吸収像の対数画像同士の加算画像で規格化して前記磁気吸収像を算出する処理と
を実行することを特徴するX線顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結像型の電磁波顕微鏡に関し、例えば磁気構造を得る磁気円2色性を利用した結像型のX線顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
X線顕微鏡は、放射光の高輝度X線を利用することで、高分解能化が発展してきている。X線顕微鏡技術には、(1) 集光X線を利用し、試料を走査する走査型集光X線顕微鏡と、(2) フレネル・ゾーン・プレート(FZP)等のX線レンズを利用し、試料像をカメラ上に結像する結像型X線顕微鏡とがある。走査型集光X線顕微鏡は、試料の微小領域に大強度のX線が照射されるため、試料に照射ダメージを与えることが問題となっている。また、この顕微鏡は、試料の外部環境を変化させながら測定する場合、試料走査時間が長く、走査測定中の試料ドリフト、強度ドリフト等が問題となる。
【0003】
一方の結像型X線顕微鏡は、試料全面にX線を照射し、その試料像をカメラ上に結像して得るため、その露出時間が長くなる傾向がある。しかし、この顕微鏡は、試料ダメージの観点では、測定全体でのX線ドーズ量が集光X線顕微鏡と同じ場合でも、集光X線を利用して測定する場合と比べると弱いX線を長時間照射することになるので、試料に対する照射ダメージの低減に優れている。一方で、露光時間が長いと、試料ドリフトによる像のボケが問題となる。この問題に関しては、電子顕微鏡等で用いられている方法(全露出時間長を複数に分割して複数画像を取得した後、取得した画像間で試料位置のずれ(試料ドリフト)を補正して積算するドリフト補正法等)を用いることで改善することができる。もっとも、結像型X線顕微鏡の分解能はFZPの最外輪帯幅で決まる等、X線光学的条件だけでは決まらない部分がある。しかし、この分解能の問題を除けば、結像型X線顕微鏡は、非常に優れたX線顕微鏡技術である。
【0004】
また、X線顕微鏡技術には、放射光X線の磁気円2色性を利用する技術がある。この技術は、X線による磁気の直接測定、すなわち“Photon- in Photon-out計測”であるので、大きな外部磁場環境での測定等が可能である。しかも、この技術は、元素選択性があることから、元素識別が可能な磁気ヒステリシスや微小部での磁化変化等が測定可能な新しい磁性計測技術として注目されている。
【0005】
しかし、磁気円2色性よる吸収変化は、大きくてもX線吸収の数%しかない。このため、X線磁気円2色性を利用した磁気計測技術では、大強度X線を利用した長時間測定が必要とされる。従来、磁気円2色性を利用した顕微鏡法としては、走査型集光X線顕微鏡が用いられてきた。特に、微小領域での元素識別磁気ヒステリシス(ESMH)測定は、結晶粒や粒界での磁気変化や元素の磁気情報を得ることができる。このため、ESMH測定は、高分解能(サブミクロン〜ナノメートルオーダー)での測定に有用である。一方で、走査型集光X線顕微鏡は、磁気円2色性の信号強度が弱いため、(1) 測定時間が長くなることによる試料位置の変位、(2) 強磁場下で試料を長時間保持することによる熱ドリフト、(3) 外部磁場から受ける力による変位、(4) 外部磁場印加装置の冷却系から伝わる振動等に起因する試料振動等で構成される試料ドリフトが、集光X線を用いた高分解能測定では大きな問題となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、結像型X線顕微鏡による磁気計測には次の課題がある。磁気円2色性は、右回り円偏光X線によるX線吸収量と左回り円偏光X線によるX線吸収量との差が磁気吸収となる。ところが、円偏光を発生させるX線光学系では、右回り円偏光X線の強度と、左回り円偏光X線の強度とを同じにすることは困難なため、入射X線強度と試料を透過したX線の強度を正確に測定する必要がある。
【0007】
この課題は、集光X線を用いたX線顕微鏡であれば、試料の前後にイオンチェンバー等の透過強度測定検出器を置き、強度を同時測定することで解決できる。しかし、結像型X線顕微鏡の場合、試料の前後にカメラを置いて強度分布を同時測定することは困難である。仮に試料の前にハーフミラーを置いて入射強度の一部を別のカメラで測定したとしても、カメラの受光素子への合わせ精度、X線/光変換素子の位置でのX線の広がり、ハーフミラーの反射率精度等が問題となり現実的ではない。
【0008】
また、結像型X線顕微鏡では、照射X線の強度が空間分解能レベルで均一でない場合、入射X線強度の空間不均一さを補正する必要もある。この課題は、集光X線を用いるX線顕微鏡では問題とならないため、結像型X線顕微鏡に特有の課題である。この課題の解決方法としては、測定前に、右回り円偏光X線と左回り円偏光X線のそれぞれについて入射X線強度分布を測定しておく方法が考えられる。この場合でも、入射X線強度分布の測定が別に必要となる。また、入射光学系の時間安定性も問題となる。このため、吸収率の数%以下を信号とする磁気吸収像を得るためには十分でなく、結像型X線顕微鏡に固有の課題を解決できない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記解題を解決する発明の1つとして、(1) 最大視野を分割する複数の領域間で試料が繰り返し移動される場合に、前記試料の移動のたび、前記試料の像を含む領域と前記試料の像を含まない領域の両方を含む前記最大視野に相当する視野画像を取得する画像取得部と、(2) 前記試料の像を含まない領域と前記試料の像を含む領域の前記最大視野内の位置関係が異なる複数の前記視野画像を用いて試料吸収像を算出する演算装置とを有する電磁波顕微鏡を提案する。
【0010】
また、上記課題を解決する発明の他の1つとして、(1) 円偏光X線の偏光切り換え機構と、(2) 最大視野を分割する複数の領域間で試料が繰り返し移動される場合に、前記試料の移動のたび、前記試料の像を含む領域と前記試料の像を含まない領域の両方を含む前記最大視野に相当する視野画像を取得する画像取得部と、(3) 前記試料の移動に同期して前記偏光切り換え機構を制御して前記円偏光X線の偏光を切り換える制御部と、(4) 前記試料の像を含まない領域と前記試料の像を含む領域の前記最大視野内の位置関係が異なる複数の前記視野画像を用いて試料吸収像を算出する処理と、取得時の偏光が異なる複数の前記試料吸収像を用いて磁気吸収像を算出する処理とを実行する演算装置とを有するX線顕微鏡を提案する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の代表例によれば、照射電磁波又はX線の強度分布測定の時間を減らしながらも、試料ドリフト、照射光学系ドリフト、入射X線強度の時間変動等の影響を補正した高分解能の試料吸収像又は磁気吸収像を取得することが可能となる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例に係るX線顕微鏡による顕微鏡視野画像の取得動作を説明する図。
図2】実施例に係るX線顕微鏡による顕微鏡視野画像の他の取得動作を説明する図。
図3】実施例に係るX線顕微鏡による試料吸収像の演算原理を説明する図。
図4】実施例に係る手法で取得された磁気構造とX線顕微鏡像(磁気吸収像)のイメージを示す図。
図5】実施例に係るX線顕微鏡による試料吸収像の他の取得原理を説明する図。
図6】X線顕微鏡の概略構成例を示す図。
【発明を実施するため形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の実施例を説明する。なお、本発明の実施例は、後述する例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0014】
(1)基本的な考え方
結像型の電磁波顕微鏡(又は、X線顕微鏡)では、試料の測定前に、試料が無い状態での照射X線の強度分布の測定と、続いて実行される試料が有る状態での試料吸収像の測定とを繰り返すことで、照射X線光学系の時間変化を分解能以下に抑えることができる。また、前述したドリフト補正と組み合わせることで、試料ドリフトも補正することができる。
【0015】
しかし、この方法は、試料が有る状態での測定と試料が無い状態での測定(背景となるX線の強度分布の測定)とを繰り返す必要があるため、一対の測定(試料が有る状態での測定と試料が無い状態での測定)に要する時間が、個々の測定に要する時間の2倍になる。磁気計測は、信号強度が弱いため、ただでさえ長時間測定であるのに、測定時間が2倍となるのでは、実用上困難である。
【0016】
そこで、試料サイズの2倍以上のサイズを有する測定視野内で、移動の前後における試料位置が重ならないように試料を移動させ、その移動の前後(各試料位置)で最大視野相当の視野画像を撮影することにより、入射X線の強度分布測定と試料測定とを一度に実行する手法を採用する。更に、この手法によって取得した視野画像(背景の領域と試料像の領域の両方を含む)に画像演算と試料ドリフト補正を適用することにより、従前のように測定時間が2倍になることなく、高分解能の試料吸収像、さらには磁気吸収像を取得することが可能となる。
【0017】
(2)実施例1
(2−1)基本構成
図6に、本実施例で使用する結像型のX線顕微鏡の概略構成を示す。本実施例では、X線源として、例えばSPring-8放射光リング(不図示)に設置されたアンジュレータ(不図示)を使用する。X線源で発生したX線を、液体窒素冷却式の2結晶分光器21でネオジムL吸収端エネルギーのX線に単色化する。なお、X線の単色化は測定対象に依存する。単色化されたX線は、2結晶分光器21の下流に配置された前置鏡23によって高次光(3次光)が除去された後、ピンホール位置に集光され、入射X線の上下左右発散角とビーム形状とが成形される。ネオジムL吸収端エネルギーのX線は、ネオジム磁石(Nd-Fe-B磁石)中のネオジム元素のX線吸収と磁気吸収が測定できるように微調整した。
【0018】
X線レンズとして用いるフレネルゾーンプレート(FZP)26に対して上半分を隠すように、試料1の上流側に上流スリット24を入れる。試料1は試料台(不図示)に設置されている。試料台は、既知の移動機構(不図示)によりX線の軸方向に対して垂直な面内で試料位置を切り替えることができる。試料1の通過後にFZP26に照射されたX線が集光される位置には下流スリット25を配置される。下流スリット25は、FZP26を通過したX線のうち下半分を隠すように取り付け位置が調整される。
【0019】
下流スリット25を通過したX線は、X線カメラ27の撮像面上に結像される。X線カメラ27から演算装置28には最大視野相当の視野画像が出力される。演算装置28は、いわゆる計算機であり、予め定められた演算手順に基づいて視野画像を画像処理し、試料1の磁気吸収像を算出する。なお、演算装置28は、画像の記憶や演算処理に使用するメモリを備えている。ここで、X線の偏光方向は、2結晶分光器21と前置鏡23の間に配置したダイヤモンド位相子22で切り替える。偏光方向の切り替えは、視野内における試料1の移動に同期して制御される。この制御は制御部29が行う。本実施例の場合、FZP26の直径は約100μmであり、X線カメラ27における顕微鏡視野(最大視野)は直径100μmの半円となる。
【0020】
(2−2)顕微鏡視野画像の取得
以下、図1を用い、本実施例の結像型X線顕微鏡による顕微鏡視野画像の取得動作を説明する。図1の上段に示すように、直径100μmの半円状の顕微鏡視野2内には、25×30μmサイズのネオジム磁石の試料1が含まれている。顕微鏡視野2を半分に分割した領域内に試料1が完全に収まる必要性から、試料1の大きさは対角線が50μm以下であることが必要であり、最大視野面積(半円状の顕微鏡視野2)の30%以下である。換言すると、試料1の大きさは、顕微鏡視野2を半分に分割した前記領域の面積の60%以下となる。
【0021】
図1の下段には、実際の実験で取得された写真を配置した。最上段の写真は、直径100μmの半円状の顕微鏡視野2に相当する画像の中から、X線カメラ27上で設定したROI(region of interest)を切り出した背景画像3を表している。
【0022】
本実施例に係る結像型X線顕微鏡では、左右2つの円偏光のそれぞれについて試料1の位置が異なる(移動前後の)一対の視野画像を取得する。ここで、左右2つの円偏光は、光学系の上流に設置したダイヤモンド位相子22を利用して切り替えことができる。左右円偏光の切り替え時には、ダイヤモンド位相子22とX線の角度が変化するため、視野全体の強度が5%程度変動する。本実施例の場合、この切り換えは、最速20Hzで可能である。このため、本実施例では、試料1の移動よりも、偏光の切り換えの方が高速に行われる。
【0023】
以下では、右回り円偏光を+(プラス)と表記し、左回り円偏光を-(マイナス)と表記する。また、顕微鏡視野2内の左半分の領域を視野Aと表記し、同右半分の領域を視野Bと表記する。
【0024】
まず、試料1を視野Aに配置し、右回り円偏光で顕微鏡視野2の画像を得る。これにより、試料1が含まれている視野A+と、試料1が含まれていない背景B+とを同時に得ることができる。2段目左側の写真は、右回り円偏光で視野Aに配置された試料4を含む視野画像に対応する。
【0025】
次に、試料1の位置はそのままに、偏光だけを左回りに切り替えて顕微鏡視野2の画像を得る。これにより、試料1が含まれている視野A-と、試料1が含まれていない背景B-とを同時に得ることができる。2段目右側の写真は、左回り円偏光で視野Aに配置された試料5を含む視野画像に対応する。
【0026】
続いて、試料位置を視野Bに移動させ、偏光を右回り円偏光に切り替えて顕微鏡視野2の画像を得る。これにより、試料1が含まれている視野B+と、試料1が含まれていない背景A+とを同時に得ることができる。3段目左側の写真は、右回り円偏光で視野Bに配置された試料6を含む視野画像に対応する。
【0027】
更に、試料1の位置はそのままに、偏光だけを左回りに切り替えて顕微鏡視野2の画像を得る。これにより、試料1が含まれている視野B-と、試料1が含まれていない背景A-とを同時に得ることができる。3段目右側の写真は、左回り円偏光で視野Bに配置された試料7を含む視野画像に対応する。
【0028】
この後、結像型X線顕微鏡は、前述した処理を最初から繰り返す。すなわち、試料1を視野Aに移動させ、偏光を右回り円偏光に切り換えて顕微鏡視野2の画像を取得する。この動作を、十分なS/Nを有する画像が得られるまで繰り返し実行する。図1の下段に示した各写真は、195秒露光で得た画像である。実施例では、195秒露光での画像の取得を22回ループし、計88(=22×4)枚の画像を得た。
【0029】
ただし、円偏光の発生にアップル型等のアンジュレータ(図示せず)を利用している場合には、偏光切り換えに時間がかかる。また、永久磁石を利用するアンジュレータでは、左右円偏光で同じ強度を得ることは不可能である。偏光切り換えよりも、試料1の移動の方が高速に行える場合、図2に示すように測定順番を組み替えることで若干の高速化を図ることができる。
【0030】
図2の場合、まず、試料1を視野Aに配置し、右回り円偏光で顕微鏡視野2の画像を得る。次に、試料1の位置を視野Bに移動させ、右回り偏光のまま顕微鏡視野2の画像を得る。この後、試料1の位置を視野Aに再び移動させる共に、偏光を左回り偏光に切り替えて顕微鏡視野2の画像を得る。さらに、試料1を視野Bに移動させ、左回り偏光のまま顕微鏡視野2の画像を得る。このループを繰り返す場合、1ループ内での偏光の切り換えが2回となる。この切替回数は、図1の場合(4回)の半分となる。なお、図1の取得動作の場合も図2の取得動作の場合も、得られる画像に違いは無く、同じ効果が得られる。
【0031】
(2−3)試料吸収像の算出処理
図3を用い、1ループ分4枚の視野画像から試料1の試料吸収像を算出するための手法について説明する。
【0032】
まず、演算装置28は、右回り円偏光で視野Aに配置された試料4を含む視野画像を、右回り円偏光で視野Bに配置された試料6を含む視野画像で除算することにより、視野Aと視野Bのそれぞれに対応する試料吸収像を算出する。この除算演算により、視野Aでは、I1/I0が計算される。I1は、試料1を含む測定領域の強度分布であり、I0は、背景領域の強度分布である。これにより、演算装置28は、視野Aの入射強度で規格化された右回り円偏光を用いて視野Aに配置された試料4を観察する場合の試料吸収像8を得る。
【0033】
一方、視野Bでは、この除算演算により、I0/I1が計算される。この計算式では、測定領域の強度分布が分母となる一方、背景領域の強度分布が分子となっている。そこで、演算装置28は、視野Bについては、更に、I0/I1で計算された結果の逆数を求める。これにより、演算装置28は、視野Bの入射強度で規格化された右回り円偏光を用いて視野Bに配置された試料6を観察した試料吸収像9を得る。
【0034】
左回り円偏光の画像に関しても同様である。演算装置28は、左回り円偏光で視野Aに配置された試料5を含む顕微鏡視野3の画像を、左回り円偏光で視野Bに配置された試料7を含む顕微鏡視野3の画像で除算することにより、視野Aと視野Bのそれぞれに対応する吸収像を算出する。この除算演算により、視野Aでは、I1/I0が計算される。これにより、視野Aの入射強度で規格化された左回り円偏光を用いて視野Aに配置された試料5を観察する場合の試料吸収像10を得る。
【0035】
一方、視野Bでは、この演算により、I0/I1が計算される。この計算式は、測定領域の強度分布が分母となる一方、背景領域の強度分布が分子となっている。そこで、演算装置28は、視野Bについては、更にI0/I1で計算された結果の逆数を求める。これにより、演算装置28は、視野Bの入射強度で規格化した左回り円偏光を用いて視野Bに配置された試料7を観察する場合の試料吸収像11を得る。
【0036】
この演算により、入射X線の強度分布、偏光切り換えによる強度変動、時間変化による強度変化を補正した試料吸収像が得られ、試料位置に関するドリフト補正が可能となる。本実施例では、右回り円偏光で視野Aに配置された試料の試料吸収像8、右回り円偏光で視野Bに配置された試料の試料吸収像9、左回り円偏光で視野Aに配置された試料の試料吸収像10、左回り円偏光で視野Bに配置された試料の試料吸収像11が、それぞれについて22枚ずつ得られる。演算装置28は、これらをドリフト補正し、試料位置を合わせる。
【0037】
ドリフト補正には、例えば電子顕微鏡用のドリフト補正プログラムを利用する。演算装置28は、各視野について、それぞれドリフト補正された画像を積算することにより、右回り円偏光で視野Aに配置された試料の積算試料吸収像12、右回り円偏光で視野Bに配置された試料の積算試料吸収像13、左回り円偏光で視野Aに配置された試料の積算試料吸収像14、左回り円偏光で視野Bに配置された試料の積算試料吸収像15を得る。これら積算試料吸収像12、13、14、15は、それぞれ4290(=195秒×22枚)秒露出の画像に相当する。
【0038】
さらに、本実施例における演算装置28は、右回り円偏光で視野Aに配置された試料の積算試料吸収像12と、右回り円偏光で視野Bに配置された試料の積算試料吸収像13の位置合わせを行って加算し、右回り円偏光積算試料吸収画像を得る。同様に、演算装置28は、左回り円偏光で視野Aに配置された試料の積算試料吸収像14、左回り円偏光で視野Bに配置された試料の積算試料吸収像15を加算することで、左回り円偏光積算試料吸収画像を得る。この演算により、試料部分に関しては、8580秒露出相当の画像が得られることになる。このとき、2枚の画像が重ならない部分はトリミングをした。
【0039】
図4(A)に、右回り円偏光試料吸収画像と左回り円偏光試料吸収画像とを位置合わせして加算した結果(試料のX線吸収顕微鏡像16)を示す。図に示すように、背景の強度分布が無くなり、試料上のコントラストが明瞭に確認できている。また、試料の薄い領域で発生している屈折コントラスト17も確認できる。ドリフト補正が正しく動作しているため、積算による画像のボケもない。図4(A)に示すX線吸収顕微鏡像16の対数を演算することで、μt像(μ:線吸収係数、t:膜厚)を得ることができる。
【0040】
(2−4)磁気吸収像の算出処理
磁気吸収像は、右回り円偏光での線吸収係数をμ(+)、左回り円偏光での線吸収係数をμ(-)とすると、{μ(+)t -μ(-)t} / {μ(+)t +μ(-)t}の演算により求めることができる。例えばμ(+)tの画像は、右回り円偏光で視野Aに配置された試料の積算試料吸収像12と右回り円偏光で視野Bに配置された試料の積算試料吸収像13との加算結果である右回り円偏光試料吸収画像の対数画像である。同様に、μ(-)tの画像は、左回り円偏光で視野Aに配置された試料の積算試料吸収像14と左回り円偏光で視野Bに配置された試料の積算試料吸収像15との加算結果である左回り円偏光試料吸収画像の対数画像である。{μ(+)t +μ(-)t}の画像は、図4(A) 示すX線吸収顕微鏡像16の対数画像である。
【0041】
演算装置28は、これら3枚の画像を用い、{ μ(+)t -μ(-)t } / { μ(+)t +μ(-)t }を計算し、図4(B)に示した試料のX線磁気吸収像18を計算する。図4(B)は、特許図面用に磁化領域を斜線で表している。図4(B)では、左右円偏光の差分により、屈折コントラスト17が消去されている。また、紙面に垂直な磁化のうち、磁化ベクトルが法線方向に出ている(+)磁化領域19と、磁化ベクトルが紙面を貫通する方向に出ている(-)磁化領域20との区別ができる。また、X線磁気吸収像18のうち濃度の濃い領域は、Nd濃度の高い領域でネオジム酸化析出物である。この領域は常磁性であり、磁化が殆ど無い。逆にNd濃度の低い領域はNd-Fe-B結晶領域であり、磁化が計測されている。
【0042】
(2−5)まとめ
以上の通り、本実施例に係る結像型X線顕微鏡を用いれば、X線吸収顕微鏡像16や試料の磁気構造であるX線磁気吸収像18を、従来に比して短時間のうちに計測することができる。
【0043】
(3)実施例2
X線吸収顕微鏡像16の算出方法は、実施例1の手法に限らない。例えば、右回り円偏光で視野Aに配置された試料の積算試料吸収像12と左回り円偏光で視野Aに配置された試料の積算試料吸収像14の位置合わせを行って加算すれば、視野Aにおける試料のX線吸収顕微鏡像16を得ることができる。同様に、右回り円偏光で視野Bに配置された試料の積算試料吸収像13と左回り円偏光で視野Bに配置された試料の積算試料吸収像15の位置合わせを行って加算すれば、視野Bにおける試料のX線吸収顕微鏡像16を得ることができる。ここでのX線吸収顕微鏡像16は、いずれも8580秒露出相当の画像である。
【0044】
また、右回り円偏光で視野Aに配置された試料の積算試料吸収像12の対数画像と、左回り円偏光で視野Aに配置された試料の積算試料吸収像14の対数画像との差分を演算することにより、視野Aについては{μ(+)t -μ(-)t} / {μ(+)t +μ(-)t}で与えられるX線磁気吸収像18を得ることができる。同様の演算を視野Bで実施することにより、視野Bについては{μ(+)t -μ(-)t} / {μ(+)t +μ(-)t}で与えられるX線磁気吸収像18を得ることができる。
【0045】
(4)実施例3
ここでは、前述した実施例よりも測定時間を更に短縮できる結像型X線顕微鏡について説明する。具体的には、図6に示したX線顕微鏡のうち前置鏡23の形状を最適化して、高次光(3次光)の除去と試料付近にX線を集光するコンデンサーレンズとして利用すれば、実施例1の20倍程度のX線強度を試料1に照射することが可能となる。また、ネオジムL2吸収端エネルギーに膜厚を最適化したFZP26により回折効率を1.8倍にすることもできた。これら光学系の最適化により、X線磁気吸収像18を得るのに必要な露出時間を300秒程度にすることができた。ただし、X線カメラ27のダイナミックレンジの限界から、23秒露光13枚の積算となった。
【0046】
(5)実施例4
実施例1では、顕微鏡視野2(図1)を2分割して利用しているが、顕微鏡視野を3分割以上しても良い。図5に、円形状の顕微鏡視野を4分割する例を示す。図5の場合、試料1の大きさは、円形状の全体視野30の16%より小さいことが必要である。ここでは、全体視野30を4分割した各領域を第1視野31、第2視野32、第3視野34、第4視野33という。この場合に、試料1を、例えば時計回りに順番に、第1視野31、第2視野32、第3視野34、第4視野33に移動させ、各位置に移動するたびに全体視野30の画像を得る。このとき、第1視野31と第2視野32に試料1がある間は右回り円偏光とし、第3視野34と第4視野33に試料1がある間は左回り円偏光とすれば、図3と同様の画像演算が可能となり、右回り円偏光で第1視野31に配置された試料1の試料吸収像、右回り円偏光で第2視野32に配置された試料1の試料吸収像、左回り円偏光で第3視野34に配置された試料1の試料吸収像、左回り円偏光で第4視野33に配置された試料1の試料吸収像をそれぞれ得ることができる。
【0047】
これ以降の演算処理の内容は、実施例1と同じである。本実施例では、右回り円偏光で第1視野31に配置された試料1の試料吸収像、右回り円偏光で第2視野32に配置された試料1の試料吸収像、左回り円偏光で第3視野34に配置された試料1の試料吸収像、左回り円偏光で第4視野33に配置された試料1の試料吸収像が22枚ずつ得られる。これらの画像をドリフト補正し、試料位置を合わせる。ドリフト補正には、例えば電子顕微鏡用のドリフト補正プログラムを利用する。それぞれドリフト補正された画像を積算することで、右回り円偏光で第1視野31に配置された試料を測定した積算試料吸収像、右回り円偏光で第2視野32に配置された試料を測定した積算試料吸収像、左回り円偏光で第3視野34に配置された試料を測定した積算試料吸収像、左回り円偏光で第4視野33に配置された試料を測定した積算試料吸収像を得ることができる。
【0048】
次に、右回り円偏光で第1視野31に配置された試料1を測定した積算試料吸収像と右回り円偏光で第2視野32に配置された試料1を測定した積算試料吸収像との位置合わせを行って加算すれば、右回り円偏光試料吸収画像を得ることができる。同様に、左回り円偏光で第3視野34に配置された試料1を測定した積算試料吸収像と左回り円偏光で第4視野33に配置された試料を測定した積算試料吸収像との位置合わせを行って加算すれば、左回り円偏光試料吸収画像を得ることができる。
【0049】
さらに、右回り円偏光試料吸収画像と左回り円偏光試料吸収画像との位置合わせを行って加算すれば、図4(A)と同様の試料1のX線吸収顕微鏡像16が得られる。また、X線吸収顕微鏡像16の対数を計算することで、μt像(μ:線吸収係数、t:膜厚)を得ることができる。μ(+)tの画像は、右回り円偏光で第1視野31に配置された試料1を測定した積算試料吸収像と右回り円偏光で第2視野32に配置された試料1を測定した積算試料吸収像を加算した右回り偏光試料吸収画像の対数画像である。同様に、μ(-)tの画像は、左回り円偏光で第3視野34に配置された試料1を測定した積算試料吸収像と左回り円偏光で第4視野33に配置された試料1を測定した積算試料吸収像を加算した左回り円偏光試料吸収画像の対数画像である。{μ(+)t -μ(-)t} / {μ(+)t +μ(-)t}の画像演算により、図4(B)と同様の試料のX線磁気顕微鏡像18が得られる。
【0050】
(6)その他
本発明は、上述した実施例に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば、上述した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要はない。また、ある実施例の一部を他の実施例の構成に置き換えることができる。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることもできる。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成の一部を追加、削除又は置換することもできる。
【符号の説明】
【0051】
1:試料
2:強度分布のある顕微鏡視野
3:顕微鏡視野2から切り出した強度分布のある背景画像
4:右回り円偏光で視野Aに配置された試料
5:左回り円偏光で視野Aに配置された試料
6:右回り円偏光で視野Bに配置された試料
7:左回り円偏光で視野Bに配置された試料
8:右回り円偏光で視野Aに配置された試料の試料吸収像
9:右回り円偏光で視野Bに配置された試料の試料吸収像
10:左回り円偏光で視野Aに配置された試料の試料吸収像
11:左回り円偏光で視野Bに配置された試料の試料吸収像
12:右回り円偏光で視野Aに配置された試料の積算試料吸収像
13:右回り円偏光で視野Bに配置された試料の積算試料吸収像
14:左回り円偏光で視野Aに配置された試料の積算試料吸収像
15:左回り円偏光で視野Bに配置された試料の積算試料吸収像
16:試料のX線吸収顕微鏡像
17:屈折コントラスト
18:試料のX線磁気顕微鏡像
19:+磁化領域
20:-磁化領域
21:2結晶分光器
22:ダイヤモンド位相子
23:前置鏡
23A:ピンホール
24:上流スリット
25:下流スリット
26:フレネルゾーンプレート
27:X線カメラ
28:演算装置
29:制御部
30:全体視野
31:第1視野
32:第2視野
33:第4視野
34:第3視野
図1
図2
図3
図4
図5
図6