特許第6445152号(P6445152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 京セラ株式会社の特許一覧

特許6445152弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置
<>
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000002
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000003
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000004
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000005
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000006
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000007
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000008
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000009
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000010
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000011
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000012
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000013
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000014
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000015
  • 特許6445152-弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6445152
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20181217BHJP
   H03H 9/64 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   H03H9/145 Z
   H03H9/64 Z
【請求項の数】15
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2017-520562(P2017-520562)
(86)(22)【出願日】2017年1月27日
(86)【国際出願番号】JP2017002974
(87)【国際公開番号】WO2017131170
(87)【国際公開日】20170803
【審査請求日】2017年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-16102(P2016-16102)
(32)【優先日】2016年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135828
【弁理士】
【氏名又は名称】飯島 康弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幹
(72)【発明者】
【氏名】岸野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】仲井 剛
【審査官】 竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/080278(WO,A1)
【文献】 特開2010−103803(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/047112(WO,A1)
【文献】 特開2003−243965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00−9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上において弾性波の伝搬方向に配列されている複数の電極指を有しているIDT電極と、
前記圧電基板上において前記複数の電極指に対して前記伝搬方向の両側に位置している1対の反射器と、
を有しており、
前記IDT電極は、前記複数の電極指が複数ずつ分配されている、共振周波数が互いに異なる複数のエリアを有しており、
前記複数のエリアは、少なくとも、全てのエリア内で最も低い共振周波数を有するエリアと、全てのエリア内で最も高い共振周波数を有するエリアと、前記最も低い共振周波数よりも高く、全てのエリア内で2番目に高い共振周波数を有するエリアとを含んでおり、
前記2番目に高い共振周波数は、前記最も低い共振周波数と前記最も高い共振周波数との中間値よりも低い
弾性波共振子。
【請求項2】
前記複数のエリアのそれぞれにおいて、電極指ピッチは一定であり、
前記最も低い共振周波数を有するエリアは、全てのエリア内で最も大きい電極指ピッチを有し、
前記最も高い共振周波数を有するエリアは、全てのエリア内で最も小さい電極指ピッチを有し、
前記2番目に高い共振周波数を有するエリアは、全てのエリア内で2番目に小さい電極指ピッチを有し、
前記2番目に小さい電極指ピッチは、前記最も大きい電極指ピッチと前記最も小さい電極指ピッチとの中間値よりも大きい
請求項1に記載の弾性波共振子。
【請求項3】
前記複数のエリアの前記伝搬方向における大きさが互いに等しく、かつ前記最も高い共振周波数と前記IDT電極の反共振周波数との中間の周波数の電圧を前記IDT電極に印加したと仮定したときに、前記複数のエリアのうち最も振動強度が大きくなるエリアは、前記複数のエリア内で前記伝搬方向における大きさが最も大きい
請求項1または2に記載の弾性波共振子。
【請求項4】
前記最も高い共振周波数を有するエリアは、前記複数のエリア内で前記伝搬方向における大きさが最も大きい
請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波共振子。
【請求項5】
前記最も高い共振周波数を有するエリアは、前記複数の電極指の間引きがなされている部分を有している
請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波共振子。
【請求項6】
前記間引きがなされている部分は、前記最も高い共振周波数を有するエリアの中央に位置している
請求項5に記載の弾性波共振子。
【請求項7】
前記複数のエリアのうちの互いに隣り合ういずれか2つのエリアの間において、一方のエリアの他方のエリア側の端部の電極指と、前記他方のエリアの前記一方のエリア側の端部の電極指とは、互いに隣り合う2本の電極指であり、これら2本の電極指の電極指ピッチは、前記2つのエリアのいずれの電極指ピッチとも大きさが異なり、かつ前記2つのエリアの電極指ピッチの中間値よりも小さい
請求項2に記載の弾性波共振子。
【請求項8】
前記1対の反射器の一方の反射器は、前記伝搬方向に配列された複数のストリップ電極を有しており、
前記一方の反射器の前記IDT電極側の端部に位置するストリップ電極と、前記複数のエリアのうち前記一方の反射器に隣接するエリアの、前記一方の反射器側の端部に位置する電極指とのピッチは、前記複数のストリップ電極のピッチおよび前記隣接するエリアにおける電極指ピッチのいずれとも大きさが異なり、かつ前記複数のストリップ電極のピッチと前記隣接するエリアにおける電極指ピッチとの中間値よりも小さい
請求項2に記載の弾性波共振子。
【請求項9】
前記1対の反射器それぞれは、前記伝搬方向に配列された複数のストリップ電極を有しており、
前記複数のストリップ電極のピッチは、前記最も小さい電極指ピッチを有するエリアの電極指ピッチよりも大きく、かつ前記2番目に小さい電極指ピッチを有するエリアの電極指ピッチよりも小さい
請求項2に記載の弾性波共振子。
【請求項10】
前記複数のエリアにおいて、前記最も電極指ピッチが小さいエリアの両側に他のエリアが位置している
請求項2に記載の弾性波共振子。
【請求項11】
圧電基板と、
前記圧電基板上において弾性波の伝搬方向に配列されている複数の電極指を有しているIDT電極と、
前記圧電基板上において前記複数の電極指に対して前記伝搬方向の両側に位置している1対の反射器と、
を有しており、
前記IDT電極は、前記複数の電極指が複数ずつ分配されており、それぞれにおいては電極指ピッチが一定で、かつ電極指ピッチが互いに異なる複数のエリアを有しており、
前記複数のエリアのうち互いに隣り合ういずれか2つのエリアの間において、一方のエリアの他方のエリア側の端部の電極指と、前記他方のエリアの前記一方のエリア側の端部の電極指とは、互いに隣り合う2本の電極指であり、これら2本の電極指の電極指ピッチは、前記2つのエリアのいずれの電極指ピッチとも大きさが異なり、かつ前記2つのエリアの電極指ピッチの中間値よりも小さく、
前記複数のエリアのうち最も高い共振周波数を有するエリアは、前記複数のエリア内で前記伝搬方向における大きさが最も大きい
弾性波共振子。
【請求項12】
ラダー型に接続された1以上の直列共振子および1以上の並列共振子を有しており、
前記1以上の並列共振子の少なくとも1つは、請求項1〜11のいずれか1項に記載の弾性波共振子からなる
弾性波フィルタ。
【請求項13】
それぞれ、請求項1〜10のいずれか1項に記載の弾性波共振子からなる、複数の前記並列共振子を有しており、
前記最も低い共振周波数を有するエリアの共振周波数についての、前記複数の並列共振子間における最小値と最大値との差の、これら最小値および最大値の中間値に対する比率は、前記最も高い共振周波数を有するエリアの共振周波数についての、前記複数の並列共振子間における最小値と最大値との差の、これら最小値および最大値の中間値に対する比率よりも大きい
請求項12に記載の弾性波フィルタ。
【請求項14】
アンテナ端子と、
送信信号をフィルタリングして前記アンテナ端子に出力する送信フィルタと、
前記アンテナ端子からの受信信号をフィルタリングする受信フィルタと、
を有しており、
前記送信フィルタおよび前記受信フィルタの少なくとも一方は、請求項12または13に記載の弾性波フィルタを含んでいる
分波器。
【請求項15】
アンテナと、
前記アンテナに前記アンテナ端子が接続されている請求項14に記載の分波器と、
前記送信フィルタおよび前記受信フィルタに接続されているICと、
を有している通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)等の弾性波を利用する弾性波共振子、弾性波フィルタ、分波器および通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電基板と、圧電基板の主面(板状部材の最も広い面(表面または裏面))上に設けられたIDT(InterDigital Transducer)電極とを有する弾性波共振子が知られている(例えば特許文献1〜3)。IDT電極は、1対の櫛歯電極を有している。各櫛歯電極は、互いに並列に延びる複数の電極指を有している。1対の櫛歯電極は、互いの電極指が弾性波の伝搬方向に交互に配列されるように設けられている。すなわち、1対の櫛歯電極は互いに噛み合うように設けられている。
【0003】
上記のような弾性波共振子において、複数の電極指のピッチ(電極指ピッチ)は、基本的には一定とされる。1対の櫛歯電極に電圧が印加されると、圧電基板において電極指ピッチを半波長(λ/2)とする弾性波が励振される。この弾性波の周波数が共振周波数(fr)となる。また、反共振周波数(fa)は、共振周波数およびIDT電極の容量比(γ)によって規定される(fa=fr×√(1+1/γ))。ここで、IDT電極の容量比γとは、IDT電極を等価回路に置き換えたときの機械振動を表すC0と、静電容量C1との比(C1/C0)で表される。共振周波数と反共振周波数との差(Δf=fa−fr)は、例えば、弾性波共振子によって弾性波フィルタを構成したときに、通過帯域とその外側の帯域との境界における減衰量の変化の急峻性に影響を及ぼす。
【0004】
特に先行文献を挙げないが、Δfを小さくしたい場合、IDT電極に対して並列に容量素子を接続することが行われている。このような容量素子が設けられると、IDT電極の容量比が見掛け上大きくなることから、反共振周波数が共振周波数に対して小さくなる。ひいては、Δfが小さくなる。
【0005】
なお、特許文献1〜3は、Δfを小さくすることを目的とした技術ではない。これらの文献は、IDT電極内に、電極指ピッチが互いに異なるエリアを設けたり、電極指ピッチが他の部分よりも小さい狭ピッチ部を設けたりすることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−88112号公報
【特許文献2】特開2012−156741号公報
【特許文献3】特開2015−73207号公報
【発明の概要】
【0007】
本開示の一態様に係る弾性波共振子は、圧電基板と、IDT電極と、1対の反射器とを有している。前記IDT電極は、前記圧電基板上において弾性波の伝搬方向に配列されている複数の電極指を有している。前記1対の反射器は、前記圧電基板上において前記複数の電極指に対して前記伝搬方向の両側に位置している。前記IDT電極は、複数のエリアを有している。当該複数のエリアは、前記複数の電極指が複数ずつ分配されており、共振周波数が互いに異なる。また、前記複数のエリアは、少なくとも、全てのエリア内で最も低い共振周波数を有するエリアと、全てのエリア内で最も高い共振周波数を有するエリアと、前記最も低い共振周波数よりも高く、全てのエリア内で2番目に高い共振周波数を有するエリアとを含んでいる。前記2番目に高い共振周波数は、前記最も低い共振周波数と前記最も高い共振周波数との中間値よりも低い。
【0008】
本開示の一態様に係る弾性波共振子は、圧電基板と、IDT電極と、1対の反射器とを有している。前記IDT電極は、前記圧電基板上において弾性波の伝搬方向に配列されている複数の電極指を有している。前記1対の反射器は、前記圧電基板上において前記複数の電極指に対して前記伝搬方向の両側に位置している。前記IDT電極は、複数のエリアを有している。当該複数のエリアは、前記複数の電極指が複数ずつ分配されている。それぞれのエリアにおいては電極指ピッチは一定である。前記複数のエリア間では電極指ピッチは互いに異なる。前記複数のエリアのうち互いに隣り合ういずれか2つのエリアの間において、一方のエリアの他方のエリア側の端部の電極指と、前記他方のエリアの前記一方のエリア側の端部の電極指とは、互いに隣り合う2本の電極指である。これら2本の電極指の電極指ピッチは、前記2つのエリアのいずれの電極指ピッチとも大きさが異なり、かつ前記2つのエリアの電極指ピッチの中間値よりも小さい。
【0009】
本開示の一態様に係る弾性波フィルタは、ラダー型に接続された1以上の直列共振子および1以上の並列共振子を有しており、前記1以上の並列共振子の少なくとも1つは、上記のいずれかの弾性波共振子からなる。
【0010】
本開示の一態様に係る分波器は、アンテナ端子と、送信信号をフィルタリングして前記アンテナ端子に出力する送信フィルタと、前記アンテナ端子からの受信信号をフィルタリングする受信フィルタと、を有している。前記送信フィルタおよび前記受信フィルタの少なくとも一方は、上記の弾性波フィルタを含んでいる。
【0011】
本開示の一態様に係る通信装置は、アンテナと、前記アンテナに前記アンテナ端子が接続されている上記の分波器と、前記送信フィルタおよび前記受信フィルタに接続されているICと、を有している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の実施形態に係るSAW共振子を示す平面図である。
図2図1のSAW共振子における電極指ピッチの変化を示す模式図である。
図3図3(a)および図3(b)は図1のSAW共振子のインピーダンスの絶対値および位相を示す図である。
図4図1のSAW共振子におけるエリアの大きさの設定例について説明するための図である。
図5図1のSAW共振子においてエリア外のピッチが特性に及ぼす影響を調査するためのシミュレーションの条件および結果の一覧を示す図である。
図6図6(a)〜図6(f)は図5のシミュレーション結果の一部についてインピーダンスの位相を示す図である。
図7】エリア外のピッチが特性に及ぼす影響を調査するための他のシミュレーションの条件および結果の一覧を示す図。
図8図8(a)〜図8(f)は図7のシミュレーション結果の一部についてインピーダンスの位相を示す図である。
図9図1のSAW共振子の利用例としてのラダー型SAWフィルタを示す模式図である。
図10図10(a)〜図10(d)は図9のSAWフィルタの並列共振子におけるピッチの設定例を示す図である。
図11図11(a)〜図11(e)は図9のSAWフィルタの特性を示す図である。
図12図1のSAW共振子の利用例としての分波器を示す模式図である。
図13図1のSAW共振子の利用例としての通信装置を示す模式図である。
図14】変形例に係るSAW共振子を示す平面図である。
図15図15(a)〜図15(c)は図14のSAW共振子の振動強度およびインピーダンスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0014】
同一または類似する構成については、「第1エリア19A」、「第2エリア19B」のように、同一名称に対して互いに異なるアルファベットを付して呼称することがあり、また、この場合において、単に「エリア19」といい、これらを区別しないことがある。
【0015】
<SAW共振子>
(基本構成)
図1は、本開示の実施形態に係るSAW共振子1の構成を示す平面図である。
【0016】
SAW共振子1は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下の説明では、便宜的に、D1軸、D2軸およびD3軸からなる直交座標系を定義し、D3軸の正側(図1の紙面手前側)を上方として、上面等の語を用いることがあるものとする。なお、D1軸は、後述する圧電基板3の上面(紙面手前側の面。通常は主面。)に沿って伝搬するSAWの伝搬方向に平行になるように定義され、D2軸は、圧電基板3の上面に平行かつD1軸に直交するように定義され、D3軸は、圧電基板3の上面に直交するように定義されている。
【0017】
SAW共振子1は、いわゆる1ポートSAW共振子を構成しており、例えば、模式的に示す第1端子51Aおよび第2端子51Bの一方から所定の周波数の電気信号が入力されると共振を生じ、その共振を生じた信号を第1端子51Aおよび第2端子51Bの他方から出力する。なお、後述するバスバーまたは当該バスバーから延びる配線が端子51として機能してもよい。
【0018】
このような1ポートSAW共振子としてのSAW共振子1は、例えば、圧電基板3と、圧電基板3上に設けられたIDT電極5と、IDT電極5の両側に位置する第1反射器7Aおよび第2反射器7Bとを有している。
【0019】
圧電基板3は、例えば、圧電性を有する単結晶からなる。単結晶は、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO)単結晶またはタンタル酸リチウム(LiTaO)単結晶である。カット角は、利用するSAWの種類等に応じて適宜に設定されてよい。例えば、圧電基板3は、回転YカットX伝搬のものである。すなわち、X軸は圧電基板3の上面(D1軸)に平行であり、Y軸は、圧電基板3の上面の法線に対して所定の角度で傾斜している。なお、圧電基板3は、比較的薄く形成され、裏面(D3軸負側の面)に無機材料または有機材料からなる支持基板が貼り合わされたものであってもよい。
【0020】
IDT電極5および反射器7は、圧電基板3上に設けられた層状導体によって構成されている。IDT電極5および反射器7は、例えば、互いに同一の材料および厚さで構成されている。これらを構成する層状導体は、例えば、金属である。金属は、例えば、AlまたはAlを主成分とする合金(Al合金)である。Al合金は、例えば、Al−Cu合金である。層状導体は、複数の金属層から構成されてもよい。層状導体の厚さは、SAW共振子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。一例として、層状導体の厚さは50nm〜600nmである。
【0021】
IDT電極5は、第1櫛歯電極9Aおよび第2櫛歯電極9Bを有している。各櫛歯電極9は、バスバー11と、バスバー11から互いに並列に延びる複数の電極指13とを有している。1対の櫛歯電極9は、複数の電極指13が互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。すなわち、1対の櫛歯電極9の2本のバスバー11は互いに対向して配置され、第1櫛歯電極9Aの電極指13と第2櫛歯電極9Bの電極指13とはその幅方向に基本的に交互に配列されている。なお、各櫛歯電極9は、上記の他、例えば、電極指13間においてバスバー11から他方の櫛歯電極9のバスバー11側へ突出し、他方の櫛歯電極9の電極指13の先端と対向する、いわゆるダミー電極を有していてもよい。
【0022】
バスバー11は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向(D1軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。そして、一対のバスバー11は、SAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)において互いに対向している。なお、バスバー11は、幅が変化したり、SAWの伝搬方向に対して傾斜したりしていてもよい。
【0023】
各電極指13は、例えば、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。複数の電極指13は、例えば、SAWの伝搬方向に配列されており、また、互いに同等の長さである。なお、IDT電極5は、複数の電極指13の長さ(別の観点では交差幅)が伝搬方向の位置に応じて変化する、いわゆるアポダイズが施されていてもよい。
【0024】
電極指13の本数は、SAW共振子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。なお、図1等は模式図であることから、電極指13の本数は少なく示されている。実際には、図示よりも多く(例えば100本以上)の電極指13が配列されてよい。後述する反射器7のストリップ電極17についても同様である。
【0025】
反射器7は、例えば、格子状に形成されている。すなわち、反射器7は、互いに対向する1対のバスバー15と、1対のバスバー15間において延びる複数のストリップ電極17とを有している。
【0026】
バスバー15およびストリップ電極17の形状は、ストリップ電極17の両端が1対のバスバー15に接続されていることを除いては、IDT電極5のバスバー11および電極指13と同様とされてよい。例えば、バスバー15は、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向(D1軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。各ストリップ電極17は、概ね一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。また、複数のストリップ電極17は、例えば、SAWの伝搬方向に配列されており、また、互いに同等の長さである。1対の反射器7は、SAWの伝搬方向においてIDT電極5の両側に位置しており、複数のストリップ電極17は、複数の電極指13の配列に続いて配列されている。
【0027】
なお、特に図示しないが、圧電基板3の上面は、IDT電極5および反射器7の上から、SiO等からなる保護膜によって覆われていてもよい。保護膜は、単にIDT電極5等の腐食を抑制するためのものであってもよいし、温度補償に寄与するものであってもよい。また、保護膜が設けられる場合等において、IDT電極5および反射器7の上面または下面には、SAWの反射係数を向上させるために、絶縁体または金属からなる付加膜が設けられてもよい。
【0028】
また、SAW共振子1を含むSAW装置では、例えば、特に図示しないが、圧電基板3の上面の振動を許容してSAWの伝搬を容易化する空間が圧電基板3上に構成される。この空間は、例えば、圧電基板3の上面に被せられる箱型のカバーを形成することによって、または、回路基板の主面と圧電基板3の上面とをバンプを介在させつつ対向させることによって構成される。
【0029】
(電極指ピッチの設定)
複数の電極指13のピッチPt(電極指ピッチ)は、例えば、互いに隣り合う2本の電極指13の中心間距離である。同様に、複数のストリップ電極17のピッチPt、または電極指13とストリップ電極17とのピッチPtも、例えば、中心間距離である。ピッチPtは、基本的には距離であるが、以下の説明では、便宜上、電極指13間の領域と概ね同義で用いることがある。例えば、「ピッチPtの数」などの表現を用いることがある。
【0030】
従来のSAW共振子においては、複数の電極指13および複数のストリップ電極17のピッチPtは、基本的に、SAW共振子全体に亘って一定とされている。このような従来のSAW共振子における作用は、以下のとおりである。
【0031】
IDT電極5の電極指13によって圧電基板3に電圧が印加されると、圧電基板3の上面付近において上面に沿ってD1軸方向に伝搬する所定のモードのSAWが励起される。励起されたSAWは、電極指13によって機械的に反射される。その結果、電極指13のピッチを半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、電極指13によって取り出される。このようにしてSAW共振子は共振子として機能する。その共振周波数は、電極指ピッチを半波長として圧電基板3上を伝搬するSAWの周波数と概ね同一の周波数である。
【0032】
なお、本実施形態の説明において共振周波数という場合においては、上記のような、意図した周期およびモードのSAWによって生じる共振(主共振)の周波数を指し、いわゆるスプリアスまたは副共振の周波数は指さない。
【0033】
IDT電極5において励起されたSAWは、反射器7のストリップ電極17によって機械的に反射される。また、互いに隣接するストリップ電極17がバスバー15によって互いに接続されていることから、IDT電極5からのSAWは、電気的にもストリップ電極17によって反射される。これにより、SAWの発散が抑制され、IDT電極5における定在波が強く立ち、SAW共振子1の共振子としての機能が向上する。
【0034】
本実施形態のSAW共振子1においても、従来と同様に、ピッチPtによって共振周波数が規定される。ただし、本実施形態のSAW共振子1は、大きさが互いに異なる複数種類のピッチPt(別の観点では複数の共振周波数)が存在するように構成されていることを特徴の一つとしている。具体的には、以下のとおりである。
【0035】
IDT電極5は、電極指13(ピッチPt)が複数ずつ分配されて構成されており、かつピッチPtの大きさが互いに異なる複数(図示の例では3つ)のエリア19(第1エリア19A〜第3エリア19C)を有している。各エリア19においては、複数のピッチPtの大きさは一定である。ピッチPt×2(波長λ)は、例えば、1.5μm以上6μm以下である。
【0036】
複数のエリア19の数とピッチPtの大きさの種類の数とは同一であってもよいし、異なっていてもよい。換言すれば、全てのエリア19が互いに異なる大きさのピッチPtを有していてもよいし、一部のエリア19間で互いに同一の大きさのピッチPtを有していてもよい。ただし、本実施形態の説明では基本的に前者を例に取る。複数のエリア19間におけるピッチPtの大小関係と複数のエリア19の相対位置との関係(例えば最も小さいピッチPtのエリア19が外側か内側か等)は、適宜に設定されてよい。
【0037】
図1の例では、ピッチPtが小さいエリアから大きいエリアへの順が、第2エリア19B、第3エリア19Cおよび第1エリア19Aとなっている。また、別の観点では、ピッチPtが最も小さい第2エリア19Bが、他のエリア19(第1エリア19Aおよび第3エリア19C)の間に配置されている。
【0038】
電極指13(ピッチPt)の数は、複数のエリア19間で同一であってもよいし、異なっていてもよい。後者の場合において、ピッチPtの数は、全てのエリア19間で異なっていてもよいし、一部のエリア間では同一であってもよい。図1の例では、ピッチPtの数は、全てのエリア19間で互いに異なっている。具体的には、ピッチPtが小さいエリア19ほどピッチPtの数が多くなっている。
【0039】
電極指13の幅は、ピッチPtの大きさに応じて設定され、複数のエリア19間で異なっていてもよいし、ピッチPtの大きさによらずに設定され、複数のエリア19間で共通であってもよく、図1では、前者の場合を例示している。例えば、電極指13の幅は、ピッチPtの大きさに対する比率(デューティー比)が複数のエリア19間で共通とされており、ひいては、複数のエリア19間で大きさ(絶対値)が異なっている。電極指13の幅は、例えば、ピッチPtの大きさの0.4以上0.7以下である。
【0040】
また、IDT電極5は、互いに隣り合う2つのエリア19間(第1エリア19Aと第2エリア19Bとの間、および第2エリア19Bと第3エリア19Cとの間)に、エリア間ギャップ21(第1エリア間ギャップ21Aおよび第2エリア間ギャップ21B)を有している。各エリア間ギャップ21は、複数のピッチPtを含むエリア19とは異なり、ピッチPtを1つのみ含む。この1つのピッチPtは、両側の2つのエリア19の一方のエリア19の他方のエリア19側の端部に位置する電極指13と、他方のエリア19の一方のエリア19側の端部に位置する電極指13とのピッチであり、また、両側の2つのエリア19のいずれのピッチPtとも大きさが異なる。
【0041】
1対の反射器7のピッチPtは、1対の反射器7間で互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよく、本実施形態の説明においては主として前者を例に取る。また、反射器7のピッチPtの大きさは、複数のエリア19のピッチPtのいずれかと同一の大きさであってもよいし、複数のエリア19のピッチPtのいずれとも異なる大きさであってもよく、本実施形態では主として後者を例に取る。
【0042】
ストリップ電極17の幅は、適宜に設定されてよい。ストリップ電極17のデューティー比は、電極指13のデューティー比と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0043】
SAW共振子1は、IDT電極5と反射器7との間(第1エリア19Aと第1反射器7Aとの間、および第3エリア19Cと第2反射器7Bとの間)に、外側ギャップ23(第1外側ギャップ23Aおよび第2外側ギャップ23B)を有している。各外側ギャップ23は、IDT電極5と反射器7との間の領域であるから、反射器7のIDT電極5側の端部に位置するストリップ電極17と、反射器7に隣接するエリア19の反射器7側の端部に位置する電極指13とのピッチPt(1つ)のみを含んでいる。このピッチPtの大きさは、当該ピッチPtに隣接する反射器7のストリップ電極17または当該ピッチPtに隣接するエリア19の電極指13のピッチPtと同一でもよいし、異なっていてもよい。本実施形態の説明では主として後者を例に取る。
【0044】
図2は、SAW共振子1の複数のピッチPtの大小関係の一例を示す図である。
【0045】
この図において、横軸(n)は、SAWの伝搬方向(D1軸方向)における位置を示し、縦軸は、ピッチPtの大きさを示している。横軸の単位は、SAW共振子1の端から数えたピッチPtの数である。縦軸の単位は、絶対値として捉えられてもよいし、基準となるピッチPtの大きさに対する比率として捉えられてもよい。プロットされた複数の点がピッチPtの位置および大きさを示しており、複数の点を結ぶ線は図を見やすくするためのものである。
【0046】
図1を参照して述べたように、複数のエリア19間においては、ピッチPtの大きさが互いに異なっている。図2でも、図1と同様に、3つのエリア19の全てにおいてピッチPtの大きさが互いに異なり、ピッチPtが最も小さい第2エリア19BがIDT電極5の中央に位置している場合を例示している。
【0047】
エリア間ギャップ21のピッチPtの大きさは、その両側の2つのエリア19のピッチPtの大きさの中間値、当該中間値よりも大きい値、または前記の中間値よりも小さい値とされてよい。
【0048】
なお、中間値は、2つの値の真ん中の値をいうものとする。例えば、一方のエリア19のピッチPtの大きさをaとし、他方のエリア19のピッチPtの大きさをbとしたときに、中間値は、(a+b)/2である。すなわち、中間値は、aとbとの間でaおよびbのいずれかに偏った値でもなければ、2つのエリア19のピッチPtの大きさの総和を2つのエリアのピッチPtの数の合計で割った平均値でもない。ただし、製造の精度に起因する偏りがあってもよいことは当然である。後述する他の中間値についても同様である。
【0049】
図示の例では、エリア間ギャップ21のピッチPtは、その両側の2つのピッチPtの中間値(点線L1およびL2で示す)よりも小さい。具体的には、第1エリア間ギャップ21AのピッチPtは、第1エリア19AのピッチPtと第2エリア19BのピッチPtとの中間値(点線L1)よりも小さい。第2エリア間ギャップ21BのピッチPtは、第2エリア19BのピッチPtと第3エリア19CのピッチPtとの中間値(点線L2)よりも小さい。このようにエリア間ギャップ21のピッチPtがその両側のピッチPtの中間値よりも小さい場合において、その小さくする程度は、適宜に設定されてよい。
【0050】
反射器7のピッチPtの大きさは、既に述べたように適宜に設定されてよいが、例えば、図2に示すように、ピッチPtが最小のエリア19(図示の例では第2エリア19B)のピッチPtを最小ピッチPt_minとし、ピッチPtが2番目に小さいエリア19(図示の例では第3エリア19C)のピッチPtをピッチPt_2ndとしたときに、Pt_min以上Pt_2nd以下である。
【0051】
外側ギャップ23のピッチPtの大きさは、隣接するエリア19のピッチPtと隣接する反射器7のピッチPtとの中間値、当該中間値よりも大きい値、または前記の平均値よりも小さい値とされてよい。
【0052】
図示の例では、外側ギャップ23のピッチPtは、その両側の2つのピッチPtの中間値(点線L3およびL4で示す)よりも小さい。具体的には、第1外側ギャップ23AのピッチPtは、第1エリア19AのピッチPtと第1反射器7AのピッチPtとの中間値(点線L3)よりも小さい。第2外側ギャップ23BのピッチPtは、第3エリア19CのピッチPtと第2反射器7BのピッチPtとの中間値(点線L4)よりも小さい。このように外側ギャップ23のピッチPtがその両側のピッチPtの平均値よりも小さい場合において、その小さくする程度は、適宜に設定されてよい。
【0053】
(複数のエリアの作用)
図3(a)および図3(b)は、SAW共振子1の作用を説明するためにSAW共振子1のインピーダンスを示す図である。
【0054】
図3(a)において、横軸(f(Hz))は周波数を示し、縦軸(|Z|(Ω))はSAW共振子1のインピーダンスの絶対値を示している。図3(b)において、横軸(f(Hz))は周波数を示し、縦軸(θ(°))はSAW共振子1のインピーダンスの位相を示している。なお、図3(a)および図3(b)の横軸の縮尺は互いに概ね一致している。
【0055】
図3(a)において、点線L11は、ピッチPtの大きさがIDT電極5の全体に亘って一定とされた、従来のSAW共振子の特性を示している。従来のSAW共振子においては、ピッチPtの大きさを半波長とするSAWの周波数(共振周波数fr′)において、インピーダンスの絶対値が極小値となる(共振点が現れる。)。また、共振周波数fr′とIDT電極5の容量比とによって規定される反共振周波数fa′において、インピーダンスの絶対値が極大値となる(反共振点が現れる。)。
【0056】
図3(a)において、実線L13は、実施形態のSAW共振子1の特性を示している。SAW共振子1のIDT電極5は、複数のエリア19によって分割されて並列に接続されているような構成となっている。一方、共振点は、直列共振回路としての共振点である。従って、SAW共振子1に関しては、複数のエリア19のピッチPtが互いに異なることに対応して複数の共振点が現れる。
【0057】
例えば、一の共振点は、最もピッチPtが小さい第2エリア19BのピッチPtを半波長とするSAWの周波数(共振周波数fr3)において現れる。他の共振点は、次にピッチPtが小さい第3エリア19CのピッチPtを半波長とするSAWの周波数(共振周波数fr2)において現れる。さらに他の共振点は、最もピッチPtが大きい第1エリア19AのピッチPtを半波長とするSAWの周波数(共振周波数fr1)において現れる。
【0058】
一方、反共振点は並列共振回路としての共振点である。従って、実施形態のSAW共振子1においても、反共振点(反共振周波数fa)は基本的に1つのみ現れる。反共振周波数faは、概して言えば、各エリア19のみによってIDT電極5を構成したときの反共振周波数を全てのエリア19に関して平均化したものに近くなる。
【0059】
そして、SAW共振子1は、最も周波数が高い共振周波数fr3と、反共振周波数faとによってΔfが規定される共振子として利用されることが可能である。
【0060】
従って、例えば、実施形態のSAW共振子1の最小ピッチPt_minが従来のSAW共振子のピッチPtと同等で、かつ実施形態のIDT電極5の容量が従来のIDT電極5の容量と同一であると仮定すると、実施形態のSAW共振子1と従来のSAW共振子とは共振周波数(fr3、fr′)が一致する。その一方で、実施形態のSAW共振子1の反共振周波数faは、最小ピッチPt_minよりも大きいピッチPtを有するエリア19の作用によって、従来のSAW共振子の反共振周波数fa′よりも低くなる。その結果、実施形態のΔfは、従来のΔf′よりも小さくなる。
【0061】
別の観点では、従来のSAW共振子では、ピッチPtを小さく(または大きく)すると、共振周波数fr′および反共振周波数fa′の双方が小さく(または大きく)なり、Δfの変化は比較的小さい。その一方で、本実施形態では、ピッチPtが大きいエリア19を挿入することによって反共振周波数faのみが大きくされる。またはピッチPtが小さいエリア19を挿入することによって、反共振周波数faが高くなる比率よりも大きい比率で共振周波数frが高くされる。その結果、Δfが好適に小さくされる。
【0062】
また、このように付加容量素子のような新たな構成を用いずにΔfを小さくできることにより、例えば、付加容量素子により発生する虞のあった圧電基板由来の歪や温度変化に伴う特性変化をなくすことができる。
【0063】
(複数の共振周波数の差(複数種類のピッチの差))
複数の共振周波数(fr1〜fr3)の差は、適宜に設定されてよい。例えば、複数の共振周波数(fr1〜fr3)の差は、比較的大きくされてよい。この場合、例えば、Δfを小さくする効果が増大する。具体的には、例えば、最も高い共振周波数(fr3)と最も低い共振周波数(fr1)との中間値fr_mid=(fr1+fr3)/2(不図示)を基準として考えることとすると、fr1(またはfr3)の、中間値fr_midからの差の中間値fr_midに対する比率(|fr1−fr_mid|/fr_mid×100)は、0.5%以上であり、または1%以上である。
【0064】
最も高い共振周波数(fr3)の低周波側において、共振周波数が存在しない禁止帯が設けられ、他の複数の共振周波数が最も高い共振周波数から離れた周波数とされてもよい。例えば、最も低い共振周波数(fr1)と最も高い共振周波数(fr3)との間の全ての共振周波数(fr2。それ以外の共振周波数があってもよい。)は、両者の中間値fr_midよりも低周波側にあってもよい。すなわち、複数のエリア19内で2番目に高い共振周波数(fr2)は、中間値fr_midよりも低くされてよい。換言すれば、2番目に高い共振周波数と最も高い共振周波数との差(fr3−fr2)は、最も低い共振周波数と最も高い共振周波数との差(fr3−fr1)の50%よりも大きい。または、前者は後者の60%よりも大きい。
【0065】
このように禁止帯を設けた場合、例えば、Δfの規定に利用される最も高い共振周波数(fr3)付近においてはインピーダンスが急峻に変化する特性を得つつ、それよりも低周波側においては広い範囲でインピーダンスを下げる特性を得ることができる。このような特性を得ると、例えば、SAW共振子1をラダー型SAWフィルタの並列共振子に利用したときに(後述)、良好なフィルタ特性が得られる。
【0066】
複数のエリア19間で、電極指ピッチ以外の、共振周波数に及ぼす条件(例えば電極指13の膜厚およびデューティー比)が同一であれば、ピッチPtの大きさの変化は共振周波数の変化に略比例する。従って、複数の共振周波数の差について上記において例示した大きさは、そのまま大きさが異なる複数種類のピッチPtの差の大きさの例として参照されてよい。
【0067】
例えば、ピッチPtが最小のエリア19(図2の例では第2エリア19B)のピッチPtを最小ピッチPt_minとし、ピッチPtが最大のエリア19(図2の例では第1エリア19A)のピッチPtを最大ピッチPt_maxとし、両者の中間値をPt_midとする。このとき、Pt_max(またはPt_min)の、Pt_midからの差のPt_midに対する比率(|Pt_max−Pt_mid|/Pt_mid×100)は、0.5%以上であり、または1%以上である。
【0068】
また、例えば、Ptが2番目に小さいエリア19(図2の例では第3エリア19C)のピッチPtをピッチPt_2ndとする。このとき、2番目に小さいピッチと最小ピッチとの差(Pt_2nd−Pt_min)は、例えば、最大ピッチと最小ピッチとの差(Pt_max−Pt_min)の50%よりも大きく、または、60%よりも大きい。
なお、Ptが最も大きいエリア19のピッチPtとPtが最も小さいエリア19のピッチPtとの差分は、SAW共振子1の共振周波数と反共振周波数との差分以下としてもよい。
【0069】
(各エリアにおけるピッチの数(各エリアの大きさ))
複数のエリア19のピッチPtは、大きさの種類毎(エリア19の数とピッチPtの種類の数とが同一の場合はエリア19毎)に十分な数が確保されてよい。この場合、例えば、上述した、最も高い共振周波数(fr3)と平均化された反共振周波数(fa)とによってΔfを小さくする効果をより確実に得ることができる。例えば、複数のエリア19のピッチPtの全ての種類に関して、1種類のピッチPtの数は、20個以上、または30個以上である。また、例えば、複数のエリア19のピッチPtの全ての種類に関して、1種類のピッチPtの数は、IDT電極5全体におけるピッチPtの数の5%以上、10%以上、または30%以上である。
【0070】
ピッチPtの数は、ピッチPtの大きさの種類間またはエリア19間において互いに概ね同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。また、別の観点では、エリア19の伝搬方向(D1軸方向)における大きさ(長さ)は、エリア19間で互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。なお、エリア19の伝搬方向における大きさが互いに同一の場合、ピッチPtが小さいエリア19ほど、ピッチPtの数は相対的に多くなる。
【0071】
エリア19の伝搬方向における大きさは、基本的にはピッチPtの整数倍である。一方で、所望の特性を得たいときに、複数のエリア19の伝搬方向における大きさを複数種類のピッチPtの公倍数のように設定できるとは限らない。従って、本実施形態の説明において、複数のエリア19間において伝搬方向における大きさが互いに等しいという場合には、ピッチPt(複数のエリア19間で相対的に大きいもの)未満の差がある場合も含まれる。
【0072】
エリア19の伝搬方向における大きさは、SAWの振動強度(振幅)を考慮して設定されてよい。例えば、複数のエリア19の伝搬方向における大きさが互いに等しく、かつΔf内またはその周辺の周波数の電圧がSAW共振子1に印加されたと仮定したときに、振動強度が大きくなるエリア19が存在する場合、そのエリア19は、伝搬方向において他のエリア19よりも大きくされる。すなわち、複数のエリア19の大きさを同等とした場合よりもピッチPtの数が多くされる。この場合、例えば、以下のような効果が奏される。
【0073】
図4は、エリア19の伝搬方向における大きさ(別の観点では電極指13またはピッチPtの数)の設定例について説明するための図である。
【0074】
この図において、横軸(D)は、SAWの伝搬方向(D1軸方向)における位置を示し、縦軸(Sv)は、振動強度を示している。ここで、振動強度とは、通過帯域近傍の周波数における振動強度を示している。横軸の単位は、図2とは異なり、距離(例えばμm)である。ただし、ピッチPtの複数のエリア19間の差(ピッチPt1〜Pt3の差)は、例えば、1%以上4%以下であり、横軸によって示される範囲が広いエリア19においては基本的にピッチPtの数が多い。
【0075】
この図では、3種類のピッチPt(ピッチPt1〜Pt3)が設けられている場合を例示している。すなわち、ピッチPtの大きさが互いに異なる3つのエリア19が設けられている場合を例示している。なお、ピッチPt1〜Pt3の範囲よりも外側は、反射器7の配置範囲である。また、この図では、エリア間ギャップ21および外側ギャップ23の図示は省略している。
【0076】
線L21は、3つのエリア19の伝搬方向における大きさが同一である場合(ピッチPt1〜Pt3の横軸(D)における範囲が、図4に示した例とは異なる場合。この場合も本開示に係る技術に含まれる。)における振動強度の例を示している。この例では、ピッチPt2のエリア19において振動強度(エリア19内の最大値。以下、エリア19間で比較する場合は同様。)が相対的に大きくなっている。なお、この例では、ピッチPt1のエリア19とピッチPt3のエリア19とでは、ピッチPt1のエリア19における振動強度が相対的に若干大きくなっているものの、両エリア19の振動強度は概ね同等である。
【0077】
このような伝搬方向の位置に対する振動強度の変化が生じる理由の一つとして、ピッチPtの大きさが互いに異なる複数のエリア19が設けられていることが挙げられる。
【0078】
例えば、ピッチPtの大きさが互いに異なる複数のエリア19が設けられていることによって、複数種類の周期のSAWが発生する。この複数種類の周期に対応した共振周波数付近の信号が印加されると、特定のエリア19において振動強度が高くなる。
【0079】
また、例えば、SAW共振子1によってラダー型SAWフィルタの並列共振子を構成すると、通過帯域に対して低周波側に隣接する周波数帯の信号は、最も高い共振周波数を有するエリア19を流れやすい。その結果、当該エリア19において振動強度が高くなる。
【0080】
なお、従来のSAW共振子においては、このような振動強度の変化は生じない、または小さく、振動強度を示す線の形状は概ね台形状(線L25に類似した形状)となる。
【0081】
振動強度が大きくなると、振動によって圧電基板3の上面に生じる電圧が高くなり、ひいては、電極指13の耐電性が低下する。従って、例えば、複数のエリア19のうちいずれかのエリア19において振動強度が相対的に大きくなると、IDT電極5内において耐電性に偏りが生じることになる。そして、耐電性が相対的に低い一部のエリア19によってIDT電極5全体としての耐電性が決定されてしまう。さらには、SAW共振子1に要求される仕様が満たされなくなるおそれがある。
【0082】
例えば、線L23は、振動強度の許容限界を示している。このような許容限界は、例えば、SAW共振子1に要求された耐電性を満たすように設定される。図示の例では、エリア19において線L21で示す振動強度が線L23を超えている。すなわち、エリア19における耐電性が低いために、他のエリア19の耐電性は許容範囲内であるにも関わらず、SAW共振子1は、要求された耐電性を満たさなくなっている。
【0083】
ここで、既述のように、線L21によって示す振動強度が大きくなっているエリア19におけるピッチPtの数(電極指13の数)は、複数のエリア19の伝搬方向における大きさを等しくした場合における数よりも多くされてよい。別の観点では、振動強度が大きいエリア19の伝搬方向における大きさは、IDT電極5が複数のエリア19によって伝搬方向において等分された場合よりも大きくされてよい。例えば、図4の例では、ピッチPt2の数が増加されている。
【0084】
このようにすることにより、例えば、線L25で示すように、振動強度のピークを低くできる。別の観点では、伝搬方向における位置に対する振動強度の偏りを緩和できる。その結果、SAW共振子1全体として耐電性が向上し、要求された仕様を満たしやすくなる。振動強度が大きいエリア19におけるピッチPtの数を増加させることによって、その振動強度を小さくできる理由としては、例えば、振動強度を大きくしていた電圧が多くの電極指13に分散されることが挙げられる。
【0085】
なお、複数のエリア19の伝搬方向における大きさが等しい場合よりも、線L21で示す振動強度が大きいエリア19を大きくするから、当該エリア19は、他のエリア19に比較して相対的に大きいことになる。また、線L21で示す振動強度が大きいエリア19を伝搬方向において大きくする際には、これに伴い、他のエリア19を伝搬方向において小さくしてよい。この場合、例えば、IDT電極5の容量等が初期の設計値から大きくずれることなどが抑制され、所望の特性が得られやすくなる。これによっても、線L21で示す振動強度が大きいエリア19は、他のエリア19よりも伝搬方向において大きくなる。
【0086】
エリア19の伝搬方向における大きさ(ピッチPtの数)の設定に際して、3つ以上のエリア19の大小関係は適宜なものとされてよい。上記のように振動強度を考慮する場合も同様である。例えば、線L21で示す振動強度が最も大きいエリア19が伝搬方向において最も大きくされ、その一方で、他の2以上のエリア19は互いに同等の大きさとされてもよい。また、例えば、全てのエリア19に関して、線L21で示す振動強度が大きい順で、伝搬方向に大きくされてもよい。
【0087】
特定のエリア19でピッチPtの数を増加させるときのその程度も適宜に設定されてよい。例えば、線L21で示す振動強度が最も大きくなるエリア19におけるピッチPtの数は、振動強度のピークが所定の許容限界を下回る必要最小限の数とされてもよいし、振動強度を示す線が線L25のように概ね台形状となる数とされてもよい(両者が満たされてもよい。)。また、ピッチPtの数を調整した後の振動強度の最大値が最も小さくなるようなピッチPtの数の配分が見出されてもよい。
【0088】
線L21で示す振動強度が大きくなるエリア19は、実験またはシミュレーションによって見出されてよい。また、振動強度が所定の許容限界を下回る、複数のエリア19の伝搬方向における大きさ(ピッチPtの数)の設定も、実験またはシミュレーションによって適宜に見出されてよい。
【0089】
ただし、既述のように、線L21で示すように振動強度のピークが現れる理由としては、通過帯域に隣接する周波数の電圧の影響が大きいことから、最も共振周波数が高い(ピッチPtが最も小さい)エリア19においてピッチPtの数を増やせば、多くの場合において耐電性が向上する。
また、上述の結果より、多くの場合において、振動強度が一番大きい領域が、結果として一番伝搬方向における大きさ(長さ)が大きくなっている。
【0090】
伝搬方向における位置(ピッチPtの変化)に対する振動強度の変化は、印加する電圧の周波数によって相違する。SAW共振子1が利用される種々の態様を考慮すると、Δfまたはその周辺の周波数の電圧が想定されてよい。従って、実施されている製品が、本実施形態のように線L21で示す振動強度が大きくなるエリア19においてピッチPtの数を増加させているか否か(伝搬方向において大きくしているか否か)は、例えば、Δfの中央の周波数(最も高い共振周波数fr3と反共振周波数fraとの中間値)の電圧を想定して判定してよい。
【0091】
(エリア間ギャップおよび外側ギャップの大きさの影響の傾向)
本願発明者は、エリア間ギャップ21および外側ギャップ23のピッチPtの大きさを種々変更して複数のケースについてシミュレーション計算を行った。その結果、エリア間ギャップ21および外側ギャップ23の各ピッチPtを、その両側の2つのピッチPtの中間値よりも小さくすると、SAW共振子1の特性が向上することを見出した。具体的には、以下のとおりである。
【0092】
複数のケースに共通する条件は、以下のとおりである。
圧電基板3:46°Y板X伝搬タンタル酸リチウム(LiTaO)単結晶
IDT電極5および反射器7に共通の条件:
膜厚:2×Ptの8%(Ptは電極指13の全ピッチの平均値とする。)
デューティー比:0.5
IDT電極5:
エリア19の数:3つ
ピッチPt:
一端のエリア19:1.025×2.55μm
中央のエリア19:1.000×2.55μm
他端のエリア19:1.027×2.55μm
電極指13の数:いずれのエリア19も41本(各エリア19のピッチPtの数は40個)
反射器7:
ピッチPt:いずれの反射器も、1.022×2.55μm
【0093】
図5は、複数のケース間で互いに異なる条件を示すとともに、シミュレーションの結果を示している。
【0094】
「モデル」の欄は、複数のケースに付した番号を示している。この欄に示すように、シミュレーションは、Ca1〜Ca19までの19ケースについて行われた。
【0095】
「内容」の欄は、複数のケース間で異なる条件の概要を示している。「Ca1」について「標準」と記され、他のケースについて「x0.9」または「x1.1」と記されているように、Ca1以外のケースは、Ca1のケースを基準として、エリア間ギャップ21および/または外側ギャップ23のピッチPtを0.9倍または1.1倍した条件で行われている。
【0096】
ここで、「Pt_R1」は、上記の一端のエリア19とその外側の反射器7との間の外側ギャップ23のピッチPtを示している。「Pt_R2」は、上記の他端のエリア19とその外側の反射器7との間の外側ギャップ23のピッチPtを示している。「Pt_I1」は、上記の一端のエリア19と中央のエリア19とのエリア間ギャップ21のピッチPtを示している。「Pt_I2」は、上記の他端のエリア19と中央のエリア19とのエリア間ギャップ21のピッチPtを示している。
【0097】
例えば、「Pt_R1x0.9」と記されているケースは、Pt_R1が、Ca1のケースのPt_R1に対して0.9倍とされていることを示している。「R1/R2」のようにスラッシュを介して2以上の「R1」、「R2」、「I1」または「I2」が記されている場合は、その記されたピッチの全てが0.9倍または1.1倍されていることを示している。
【0098】
そして、「内容」に示されているように、Ca1のケースに対して、1つのギャップのピッチPtのみを0.9倍したケース(Ca2、Ca4、Ca8、Ca10)、1つのギャップのピッチPtのみを1.1倍したケース(Ca3、Ca5、Ca9、Ca11)、同質の2つのギャップを0.9倍したケース(Ca6、Ca12)、同質の2つのギャップを1.1倍したケース(Ca7、Ca13)、4つのギャップについて0.9倍および1.1倍を適宜に組み合わせたケース(Ca14〜Ca19)について、シミュレーションを行った。
【0099】
ここで、ケースCa1における各ギャップのピッチPtの大きさは、以下のとおりである。
Pt_R1=1.024×2.55μm
Pt_I1=1.013×2.55μm
Pt_I2=1.014×2.55μm
Pt_R2=1.025×2.55μm
【0100】
なお、上述した3つのエリア19および2つの反射器7のピッチPtの条件から理解されるように、いずれのギャップも、ピッチPtの大きさは、その両側のピッチPtの中間値である。ただし、四捨五入等による微差はある。
【0101】
「計算結果」の欄は、Ca1のケースに対して、共振特性が改善されたか否かの判定結果を示している。「共振側」は共振周波数側における判定結果を示し、「反共振側」は反共振周波数側における判定結果を示している。ここで、更なる改善のなかったケースについては「−」と表示している。
【0102】
この「計算結果」の欄に示されているように、エリア間ギャップ21のピッチPtを小さくすると(Ca8、Ca10、Ca12、Ca16およびCa19)、共振側において共振特性が改善される。また、外側ギャップ23のピッチPtを小さくすると(Ca2、Ca4、Ca6、Ca16およびCa18)、反共振側において共振特性が改善される。
【0103】
図6(a)〜図6(f)は、図5で示したケースの一部について、シミュレーションによって得られたSAW共振子1の特性を示す図である。
【0104】
これらの図において、横軸は周波数(MHz)を示し、縦軸はインピーダンスの位相(°)を示している。図6(a)〜図6(c)は、Ca1のケース、およびエリア間ギャップ21のピッチPtを小さくしたケース(Ca12、Ca16およびCa19)の結果を示している。図6(d)〜図6(f)は、Ca1のケース、および外側ギャップ23のピッチPtを小さくしたケース(Ca6、Ca16およびCa18)の結果を示している。図6(b)および図6(c)は、図6(a)の一部拡大図である。図6(e)および図6(f)は、図6(d)の一部拡大図である。これらの図から、図5で示した判定結果の妥当性が確認できる。なお、いずれのケースにおいても、通常のIDT電極5全体が同一ピッチである場合に比べると、Δfを小さくできていることを確認している。
【0105】
(エリア間ギャップおよび外側ギャップの大きさの例)
次に、上記のシミュレーション結果を踏まえて、エリア間ギャップ21および外側ギャップ23のピッチPtを小さくする場合における、その小さくする程度の影響を調べるために、複数のケースについてシミュレーションを行った。
【0106】
図7は、複数のケース間で互いに異なる条件、およびシミュレーションの結果を示している。この図の形式は、図5と同様であり、形式についての説明は省略する。また、複数のケースに共通する条件は、図5のシミュレーションと同様である。
【0107】
この図の「内容」の欄に示すように、基準となるCb1のケース(Ca1のケースと同じ条件である)に対して、各ギャップのピッチPtを0.7倍〜0.9倍の範囲で変更してシミュレーションを行った。また、エリア間ギャップ21および外側ギャップ23の双方のピッチPtの大きさを変更する場合においては、一方のピッチPtを大きくしたケース(Cb11〜Cb16)についてもシミュレーションを行った。
【0108】
この図の「計算結果」の欄に示すように、外側ギャップ23に関しては、Cb1のケースに対してピッチPtを0.7倍にしても、反共振側で特性が改善することが確認された(Cb2〜Cb4およびCb8〜13)。一方、エリア間ギャップ21に関しては、ピッチPtを小さくし過ぎると、共振側で特性が改善する効果が得られなかった(Cb6、Cb7、Cb9、Cb10、Cb15およびCb16)。すなわち、ピッチPtが0.9倍以上の場合に、共振側で特性が改善する効果が得られた(Cb5、Cb8およびCb14)。
【0109】
図8(a)〜図8(f)は、図7で示したケースの一部について、シミュレーションによって得られた共振特性を示す図である。
【0110】
これらの図において、横軸は周波数(MHz)を示し、縦軸はインピーダンスの位相(°)を示している。図8(a)〜図8(c)は、Cb1のケース、および外側ギャップ23のピッチPtを0.7倍〜0.9倍の大きさとしたケース(Cb2〜Cb4)の結果を示している。図8(d)〜図8(f)は、全てのギャップのピッチPtを0.7倍〜0.9倍の大きさとした(Cb8〜Cb10)の結果を示している。図8(b)および図8(c)は、図8(a)の一部拡大図である。図8(e)および図8(f)は、図8(d)の一部拡大図である。これらの図から、図7で示した判定結果の妥当性が確認できる。
【0111】
<ラダー型SAWフィルタ>
(基本構成)
図9は、SAW共振子1の利用例としてのラダー型のSAWフィルタ109を示す模式図である。
【0112】
SAWフィルタ109は、例えば、信号が入力される入力端子105と、信号を出力する出力端子103との間で直列に接続された複数の直列共振子57と、その直列のラインと基準電位部とを接続する複数の並列共振子59(第1並列共振子59A〜第4並列共振子59D)とを有している。
【0113】
そして、紙面左上の直列共振子57においてIDT電極5、反射器7、櫛歯電極9および電極指13の符号を付していることから理解されるように、複数の直列共振子57および複数の並列共振子59の少なくともいずれか1つは、上述した本実施形態のSAW共振子1によって構成され、残りは、例えば、従来のSAW共振子(IDT電極全体に亘ってピッチPtが基本的に一定のSAW共振子)によって構成されている。
【0114】
例えば、ラダー型のSAWフィルタ109において、全ての直列共振子57は、従来のSAW共振子によって構成され、複数の並列共振子59の少なくとも一つ(全部でもよい)は、本実施形態のSAW共振子1によって構成されている。
【0115】
なお、公知のように、直列共振子57および並列共振子59は、直列共振子57の共振周波数に並列共振子59の反共振周波数が概ね一致するように、その特性が設定される。そして、両共振子のΔfを足し合わせた範囲よりも若干狭い範囲が通過帯域となる。
【0116】
複数の直列共振子57および複数の並列共振子59を構成する複数組のIDT電極5および反射器7は、例えば、同一の圧電基板3に設けられている。複数の直列共振子57および複数の並列共振子59の数は適宜に設定されてよい。また、複数の直列共振子57は、共振周波数および反共振周波数等が互いに僅かに異なるように微調整がされていてもよい。同様に、複数の並列共振子59は、共振周波数および反共振周波数等が互いに僅かに異なるように微調整がされていてもよい。SAWフィルタ109は、インダクタ等の共振子以外の構成を適宜な位置に有していてもよい。
【0117】
(ラダー型SAWフィルタにおけるピッチの設定例)
図10(a)〜図10(d)は、本実施形態のSAW共振子1によって構成された第1並列共振子59A〜第4並列共振子59DにおけるピッチPtの設定例を示す図である。
【0118】
これらの図は、図4と同様のものである。これらの図において、一点鎖線でプロットされた曲線は、複数(図示の例では3つ)のエリア19の伝搬方向における大きさを同等とした例(ピッチPt1〜Pt3の横軸(D)における範囲が、図示の例とは異なる例。これらの例も本開示に係る技術に含まれる。)の振動強度を示している。実線でプロットされた曲線は、ピッチPtの数(エリア19の伝搬方向における大きさ)を調整した例(ピッチPt1〜Pt3の横軸(D)における範囲が図示されている例)の振動強度を示している。振動強度を示す曲線は、シミュレーション計算によって得られている。これらの図に示すように、複数の並列共振子59は、ピッチPtの値が比較的近い値とされつつも、ピッチPtに関して互いに異なる構成とされてよい。具体的には、以下のとおりである。
【0119】
図10(a)は、第1並列共振子59AのピッチPtの設定例を示している。この例では、図4と同様に、中央のエリア19におけるピッチPt2が最も小さい。また、複数のエリア19を伝搬方向において同等の大きさにすると、中央のエリア19において振動強度が大きくなる。そして、ピッチPt2の数を増加させる(中央のエリア19を伝搬方向において相対的に大きくする)ことにより、振動強度を点線で示す許容限界よりも下げることができる。
【0120】
図10(b)は、第2並列共振子59BのピッチPtの設定例を示している。この例では、図4と同様に、中央のエリア19におけるピッチPt2が最も小さい。また、Pt1>Pt3である。ただし、この共振子は、図10(a)の第1並列共振子59Aに比較して、ピッチPt1〜Pt3間の差が比較的小さいことなどから、3つのエリア19の伝搬方向における大きさが等しい場合においても、振動強度の偏りは小さく、また、振動強度は許容限界を下回っている。また、偏りは、中央のエリア19だけで振動強度が大きくなるのではなく、中央のエリア19とピッチPt3のエリア19とで大きくなっている。そして、ピッチPtの数を3つのエリア19で同等とすることによって(エリア19の伝搬方向における大きさは、ピッチPt1〜Pt3の大きさの相違に応じて、3つのエリア19間で相違する)、振動強度の高い部分をさらに下げている。
【0121】
図10(c)は、第3並列共振子59CのピッチPtの設定例を示している。この例では、図4と同様に、中央のエリア19におけるピッチPt2が最も小さい。また、複数のエリア19を伝搬方向において同等の大きさにすると、中央のピッチPtにおいて振動強度が大きくなる。そして、ピッチPt2の数を増加させる(中央のエリア19を伝搬方向において相対的に大きくする)ことにより、振動強度を点線で示す許容限界よりも下げることができる。なお、図10(c)の例では、他の図との比較から理解されるように、エリア19間に、エリア19のピッチPtとは異なる大きさのピッチPtは設けられておらず、エリア19同士が直接に隣接している。エリア19と反射器7との間も同様である。
【0122】
図10(d)は、第4並列共振子59DのピッチPtの設定例を示している。この例では、Pt3<Pt1<Pt2となっている。そして、複数のエリア19を伝搬方向において同等の大きさにすると、ピッチPt3のエリア19において振動強度が大きくなる。そして、ピッチPt3の数を増加させる(ピッチPt3のエリア19を伝搬方向において相対的に大きくする)ことにより、振動強度を点線で示す許容限界よりも下げることができる。
【0123】
なお、図10(a)〜図10(d)のいずれも、複数の共振周波数の差は、SAW共振子1の説明において述べた態様となっている。すなわち、各並列共振子59において、2番目に高い共振周波数は、最も低い共振周波数と最も高い共振周波数との中間値よりも低くなっている。具体的には、最も高い共振周波数(図3(a)のfr3)と最も低い共振周波数(図3(a)のfr1)との差に対する、最も高い共振周波数と2番目に高い共振周波数(図3(a)のfr2)との差の比率((fr3−fr2)/(fr3−fr1)×100)は、62%(図10(a))、67%(図10(b))、93%(図10(c))、69%(図10(d))である。
【0124】
また、図10(a)〜図10(d)間においては、最も高い共振周波数は比較的互いに近い値であり、その一方で、2番目に高い共振周波数または最も低い共振周波数は比較的ばらついている。複数の並列共振子59の共振周波数をこのように設定することによって、通過帯域の低周波側における通過特性を示す曲線の立ち上がりを急峻にすることができ、かつ通過帯域よりも低周波側の広帯域に亘って減衰量を確保できる。
【0125】
具体的には、図10(a)〜図10(d)の例では、最も高い共振周波数(fr3)について、図10(a)〜図10(d)間で最も高いもの(fr3_maxとする)と低いもの(fr3_minとする)との中間値(fr3_mid=(fr3_max+fr3_min)/2とする)に対する両者の差の比率((fr3_max−fr3_min)/fr3_mid×100)は、0.68%である。すなわち、1%未満である。一方、2番目に高い共振周波数(fr2)について、上記と同様の比率((fr2_max−fr2_min)/fr2_mid×100)は、2.74%であり、最も低い共振周波数(fr1)について、上記と同様の比率((fr1_max−fr1_min)/fr1_mid×100)は、2.66%である。すなわち、2%以上である。
【0126】
従って、最も低い共振周波数(fr1)を有するエリア19の共振周波数についての、複数の並列共振子59間における最小値と最大値との差の、これら最小値および最大値の中間値に対する比率(2.66%)は、最も高い共振周波数(fr3)を有するエリア19の共振周波数についての、複数の並列共振子59間における最小値と最大値との差の、これら最小値および最大値の中間値に対する比率(0.68%)よりも大きい。
【0127】
(ラダー型SAWフィルタの特性)
図11(a)〜図11(e)は、上述したSAWフィルタ109についてのシミュレーション結果を示す図である。
【0128】
図11(a)において、横軸は周波数(MHz)を示し、縦軸は通過特性(dB)を示している。図11(b)は、図11(a)の通過帯域およびその周辺における拡大図である。図11(c)は、図11(b)の通過特性が高い領域の拡大図である。図11(d)は、入力端子105側における定在波比である。図11(e)は、出力端子103側における定在波比である。
【0129】
各図において、線L31は、従来のSAWフィルタの特性を示している。線L33は、本実施形態のSAWフィルタ109の特性を示している。線L33によって特性が示されるSAWフィルタ109は、全ての並列共振子59が実施形態のSAW共振子1によって構成されたものである。
【0130】
これらの図から、複数のエリア19(複数の共振点)を有する本実施形態のSAW共振子1を用いてラダー型のSAWフィルタ109を構成しても、従来と同様に、通過帯域において通過特性が高くなるフィルタ特性が得られることが確認できる。さらに、並列共振子59のΔfが小さくなっていることによって、通過帯域の低周波側において、従来よりも通過特性を示す曲線の立ち上がりが急峻になり、通過特性を向上させることができることが確認できる。また、定在波比が下がる効果も得られることが確認できる。
【0131】
<分波器>
図12は、SAW共振子1の利用例としての分波器101を示す模式図である。この図の説明では、図9に示した構成と同一または類似する構成について、異なる名称と同一の符号とを用いることがある。
【0132】
分波器101は、例えば、送信端子105からの送信信号をフィルタリングしてアンテナ端子103へ出力する送信フィルタ109と、アンテナ端子103からの受信信号をフィルタリングして1対の受信端子107に出力する受信フィルタ111とを有している。
【0133】
送信フィルタ109は、例えば、図9を参照して説明したラダー型のSAWフィルタ109と同一または類似するものである。
【0134】
受信フィルタ111は、例えば、互いに直列に接続されたSAW共振子61およびSAWフィルタ63によって構成されている。これらを構成するIDT電極5および反射器7は、例えば、同一の圧電基板3に設けられている。受信フィルタ111が構成される圧電基板3は、送信フィルタ109が構成される圧電基板3と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0135】
SAWフィルタ63は、例えば、縦結合多重モード(2重モードを含むものとする)型共振子フィルタであり、SAWの伝搬方向に配列された複数のIDT電極5と、その両側に配置された1対の反射器7とを有している。なお、SAWフィルタ63はラダー型フィルタでもよい。
【0136】
<通信装置>
図13は、SAW共振子1の利用例としての通信装置151の要部を示すブロック図である。
【0137】
通信装置151は、電波を利用した無線通信を行うものである。通信装置151は、上述した分波器101を有していることによって、SAW共振子1を利用している。具体的には、以下のとおりである。
【0138】
通信装置151において、送信すべき情報を含む送信情報信号TISは、RF−IC(Radio Frequency Integrated Circuit)153によって変調および周波数の引き上げ(搬送波周波数の高周波信号への変換)がなされて送信信号TSとされる。送信信号TSは、バンドパスフィルタ155によって送信用の通過帯以外の不要成分が除去され、増幅器157によって増幅されて分波器101(送信端子105)に入力される。そして、分波器101は、入力された送信信号TSから送信用の通過帯以外の不要成分を除去し、その除去後の送信信号TSをアンテナ端子103からアンテナ159に出力する。アンテナ159は、入力された電気信号(送信信号TS)を無線信号(電波)に変換して送信する。
【0139】
また、通信装置151において、アンテナ159によって受信された無線信号(電波)は、アンテナ159によって電気信号(受信信号RS)に変換されて分波器101に入力される。分波器101は、入力された受信信号RSから受信用の通過帯以外の不要成分を除去して増幅器161に出力する。出力された受信信号RSは、増幅器161によって増幅され、バンドパスフィルタ163によって受信用の通過帯以外の不要成分が除去される。そして、受信信号RSは、RF−IC153によって周波数の引き下げおよび復調がなされて受信情報信号RISとされる。
【0140】
なお、送信情報信号TISおよび受信情報信号RISは、適宜な情報を含む低周波信号(ベースバンド信号)でよく、例えば、アナログの音声信号もしくはデジタル化された音声信号である。無線信号の通過帯は、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)等の各種の規格に従ったものでよい。変調方式は、位相変調、振幅変調、周波数変調もしくはこれらのいずれか2つ以上の組み合わせのいずれであってもよい。回路方式は、図13では、ダイレクトコンバージョン方式を例示したが、それ以外の適宜なものとされてよく、例えば、ダブルスーパーヘテロダイン方式であってもよい。また、図13は、要部のみを模式的に示すものであり、適宜な位置にローパスフィルタやアイソレータ等が追加されてもよいし、また、増幅器等の位置が変更されてもよい。
【0141】
以上のとおり、本実施形態に係るSAW共振子1は、圧電基板3と、IDT電極5と、1対の反射器7とを有している。IDT電極5は、圧電基板3上においてSAWの伝搬方向に配列されている複数の電極指13を有している。1対の反射器7は、圧電基板3上において複数の電極指13に対して伝搬方向の両側に位置している。また、IDT電極5は、複数の電極指13が分配されている、共振周波数が互いに異なる複数のエリア19を有している。複数のエリア19は、少なくとも3つのエリア19を含んでいる。全てのエリア19内で2番目に高い共振周波数(図3(a)ではfr2)は、全てのエリア19内で最も低い共振周波数(図3(a)ではfr1)と全てのエリア19内で最も高い共振周波数(図3(a)ではfr3)との中間値よりも低い。
【0142】
従って、例えば、既に述べたように、SAW共振子1は、最も高い共振周波数と平均化された反共振周波数との差をΔfとする共振子として利用可能であり、Δfを小さくすることができる。従って、IDT電極5に並列に接続される容量素子を設けずに、または当該容量素子の容量を小さくしつつ、Δfを小さくすることができる。その結果、例えば、SAW共振子1を小型化しやすい。また、容量素子を設ける場合に比較して温度特性を向上させることもできる。
【0143】
また、例えば、本実施形態とは異なり、共振周波数が互いに異なる複数のエリア19を設けずに、IDT電極5の全体に亘って電極指ピッチを徐々に変化させることなどによってΔfを小さくしようとすると、複数の電極指ピッチに亘って一定の波長のSAWが形成されにくくなるから、共振特性が悪化する。しかし、本実施形態では、各エリア19は、通常のIDT電極と同様の構成でよいから、良好な共振特性を実現でき、ひいては、SAW共振子1全体としても、良好な共振特性を実現できる。
【0144】
さらに、これも既に述べたように、最も高い共振周波数と、2番目以降の共振周波数との差を相対的に大きくすることによって、Δfを規定する最も周波数が高い共振点が明確に現れるようにしつつ、この共振点よりも低周波側において、広帯域に亘って複数の共振点を生じさせることができる。その結果、例えば、SAW共振子1をラダー型のSAWフィルタ109の並列共振子59として利用したときに、通過帯域の低周波側において、通過特性を示す曲線の立ち上がりを急峻化しつつ、通過帯域よりも低周波側の広帯域において減衰量を確保することができる。
【0145】
また、本実施形態では、複数のエリア19のそれぞれにおいて、電極指ピッチ(電極指13のピッチPt)は一定である。最も低い共振周波数を有するエリア19(図1では第1エリア19A)は、全てのエリア19内で最も大きい電極指ピッチ(図2ではPt_max)を有している。最も高い共振周波数を有するエリア19(図1では第2エリア19B)は、全てのエリア19内で最も小さい電極指ピッチ(図2ではPt_min)を有している。2番目に高い共振周波数を有するエリア19(図1では第3エリア19C)は、全てのエリア19内で2番目に小さい電極指ピッチ(図2ではPt_2nd)を有している。2番目に小さい電極指ピッチは、最も大きい電極指ピッチと最も小さい電極指ピッチとの中間値(図2ではPt_mid)よりも大きい。
【0146】
従って、複数のエリア19の電極指ピッチを適宜に設定することによって、上述した互いに異なる複数の共振周波数を実現することができる。共振周波数は、IDT電極5の膜厚および/または電極指13のデューティー比等の他の条件によっても調整可能であるが、電極指ピッチによって調整することがSAW共振子の理論に照らして基本であり、所望の複数の共振周波数の実現が容易である。
【0147】
また、本実施形態では、1対の反射器それぞれは、伝搬方向に配列された複数のストリップ電極17を有している。複数のストリップ電極17のピッチは、複数のエリア19で最も小さい電極指ピッチ(図2ではPt_min)よりも大きく、かつ複数のエリア19で2番目に小さい電極指ピッチ(図2ではPt_2nd)よりも小さい。
【0148】
従って、例えば、Δfを規定する最も高い共振周波数に係るSAWを好適に反射しつつも、種々の波長のSAWを反射して、全体として良好な共振特性を実現することができる。
【0149】
また、本実施形態では、複数のエリア19において、最も電極指ピッチが小さいエリア19(図1では第2エリア19B)の両側に他のエリア(図1では第1エリア19Aおよび第3エリア19C)が位置している。
【0150】
従って、例えば、最も定在波が立ちやすい位置(IDT電極5の伝搬方向の中央側)にΔfを規定する共振周波数を有するエリア19が配置されることになる。その結果、例えば、Δfを規定する共振点を明確に生じさせ、SAW共振子1全体として良好な特性を実現できる。
【0151】
なお、以上の実施形態において、SAW共振子1は弾性波共振子の一例であり、SAWフィルタ109は弾性波フィルタの一例である。
【0152】
(変形例)
図14は、変形例に係るSAW共振子201の構成を示す平面図である。
【0153】
SAW共振子201は、いわゆる電極指の間引きが行われている点のみがSAW共振子1と相違し、その他は、SAW共振子1と同様である。なお、以下では、SAW共振子201についてもSAW共振子1に係る符号を用い、また、基本的にSAW共振子1との相違部分についてのみ説明する。
【0154】
図14の例では、ハッチングして示す電極指13Fの位置において間引きが行われている。IDT電極5においては、基本的に、第1櫛歯電極9Aの電極指13と、第2櫛歯電極9Bの電極指13とが交互に配列されている。間引きは、この交互に配列される規則性に照らして配置されるべき電極指13が、非配置とされることである。図14の例では、第1櫛歯電極9Aの電極指13が配置されるべき位置(電極指13Fの位置)において、第1櫛歯電極9Aの電極指13が非配置とされる(規則性に反して第2櫛歯電極9Bの電極指13が配置される)ことによって間引きが行われている。
【0155】
間引きが行われた位置には、図示の例のように、配置されるべき電極指13を有する櫛歯電極9(図示の例では第1櫛歯電極9A)と噛み合う櫛歯電極9(図示の例では第2櫛歯電極9B)の電極指13が配置されてよい。また、図示の例とは異なり、間引きが行われた位置は、いずれの櫛歯電極9の電極指13も配置されない位置とされてもよい。また、間引きが行われた位置には、幅が広い電極指13が位置していてもよい。例えば、図14の第2櫛歯電極9Bにおいて、電極指13Fの位置と、その両隣の電極指13の位置との合計3本の電極指の範囲に亘る幅を有する電極指13を設けてもよい。
【0156】
なお、間引きの概念は、エリア19内の大部分(間引きされた部分以外)の電極指13の配置について、ある程度の規則性があることが前提となっている。従って、SAW共振子1の説明で例示した各種の態様が成り立つか否かの判定は、間引き部分を除外して(あるいは間引きがなされていないと仮定して)行うことが可能であり、また、そのように判定がなされてよい。SAW共振子の特性の概略は、規則性を有する大部分によって規定されるからである。例えば、各エリア19において、電極指ピッチPtが一定か否かの判定は、間引き部分を除外して判定されてよい。また、例えば、複数のエリア間で電極指ピッチの大きさを比較する場合(例えば、最も低い共振周波数を有するエリアが、全てのエリア内で最も大きい電極指ピッチを有しているか否か判定する場合)も、間引き部分を除外して比較がなされてよい。
【0157】
間引きは、複数のエリア19のうち、いずれのエリア19においてなされてもよい。例えば、間引きが行われるエリア19は、複数のエリア19のうち、最も高い共振周波数を有するエリア19、または最も電極指ピッチが小さいエリア19(ここではいずれも第2エリア19B)である。また、間引きが行われるエリア19は、複数のエリア19のD1軸方向(SAWの伝搬方向)における大きさが互いに等しく、かつ最も高い共振周波数fr3とIDT電極5の反共振周波数faとの中間の周波数((fr3+fa)/2)の電圧をIDT電極5に印加したと仮定したときに、複数のエリア19のうち最も振動強度が大きくなるエリア19である。
【0158】
図14の例では、電極指13Fの位置のみにおいて間引きが行われている。すなわち、1本のみ間引きが行われている。ただし、電極指13Fの2つ隣りの第1櫛歯電極9Aの電極指13も間引かれるなど、2本以上の間引きが行われてもよい。また、互いに2つ隣りとなる複数の電極指13が間引かれるのではなく、第1櫛歯電極9Aの電極指13と第2櫛歯電極9Bの電極指13とが交互に配列された部分に隔てられた複数個所それぞれにおいて1本以上の間引きが行われてもよい。
【0159】
間引きは、SAWの伝搬方向(D1軸方向)において、エリア19内のいずれの位置においてなされてもよい。例えば、間引きは、エリア19の中央においてなされてよい。ここでいう中央は、例えば、エリア19のD1軸方向における距離を基準とする。ただし、エリア19内の電極指ピッチは基本的に一定であるから、電極指13の数を基準とした中央であってもよい。エリア19の中央を挟んで2本の電極指13が位置する場合(例えばエリア19内の電極指13の数が偶数の場合)においては、この2本の電極指13のうちいずれが間引かれていても、中央において間引きがなされているとみなしてよい。
【0160】
図15(a)〜図15(c)は、間引きの影響を説明するための図である。これらの図は、シミュレーション計算に基づいている。その計算条件において、Pt2<Pt1≒Pt3である。
【0161】
図15(a)は、図4と同様の図であり、D1軸方向における位置D(横軸)と、振動強度Sv(縦軸)との関係を示している。
【0162】
線L41は間引き無しの例に対応し、線L42〜L44は間引き有りの例に対応している。すなわち、線L41は、実施形態のSAW共振子1に対応し、線L42〜L44は変形例のSAW共振子201に対応している。また、線L42は1個所で間引きがなされた例に、線L43は3箇所で間引きがなされた例に、線L44は7個所で間引きがなされた例に対応している。ここでいう3箇所または7個所(複数個所)は、第1櫛歯電極9Aの電極指13と第2櫛歯電極9Bの電極指13とが交互に配列された部分に隔てられた位置の数を指す。また、1個所につき、1本の間引きがなされている。線L42〜線L44のいずれにおいても、間引きは、電極指ピッチPtが最も小さいエリア19(ピッチPt2のエリア19)においてのみなされている。
【0163】
SAW共振子1の説明で述べたように、電極指ピッチPtが小さいエリア19においては、他のエリア19に比較して振動強度が高くなりやすい。従って、図15(a)においては、線L41〜L44のいずれにおいても、電極指ピッチPt2のエリア19において、振動強度が高くなっている。
【0164】
間引き無しの線L41と、間引き有りの線L42〜L44とを比較すると、線L42〜L44は、線L41に比較して、間引きがなされた位置において振動強度が低下している。ひいては、線L42〜L44は、線L41に比較して、間引きがなされたエリア19において振動強度のピーク値が低下している。間引きがなされたエリア19は、複数のエリア19のうちで最も振動強度が高いエリア19であるから、IDT電極5全体としても、振動強度のピーク値が低下している。その結果、例えば、IDT電極5の耐電性が向上する。
【0165】
線L41においては、電極指ピッチPt2のエリア19の中央において振動強度のピーク値が現れている。一方、線L42〜L44のいずれも、電極指ピッチPt2のエリア19の中央において間引きがなされている。従って、間引きによる振動強度の低下は、間引きをしない場合において振動強度のピーク値が現れる位置において生じている。その結果、効果的に振動強度のピーク値が低下する。
【0166】
間引き有りの線L42〜L44間で振動強度を比較すると、間引きの数が多いほど、振動強度が低下する位置が多く、ひいては、振動強度のピーク値が低くなっている。
【0167】
間引きがなされたことによって、間引きがなされていないエリア19においては、間引きがなされたエリア19とは逆に、振動強度が上昇している。また、その上昇量は、間引きの数が多いほど大きい。このことから、間引きがなされたエリア19のエネルギーが間引きがなされていないエリア19に分散されていることが分かる。
【0168】
なお、図示の例では、間引きがなされていないエリア19の振動強度は、間引きによって上昇しても、間引きがなされたエリア19の振動強度よりも低い。従って、例えば、間引きがなされていないエリア19の振動強度の上昇は、IDT電極5全体としての耐電性には殆ど影響を及ぼさない。
【0169】
図15(b)は、図3(a)と同様の図であり、周波数(横軸)と、インピーダンスの絶対値(縦軸)との関係を示している。図15(c)は、図3(b)と同様の図であり、周波数(横軸)と、インピーダンスの位相(縦軸)との関係を示している。これらの図における線種と間引きとの関係は、図15(a)と同様である。
【0170】
図15(b)に示されているように、間引きを行うことによって、Δfは小さくなっている。また、間引きの数が多いほど、Δfは小さくなっている。従って、例えば、並列共振子59に変形例に係るSAW共振子201を適用することによって、通過帯域の低周波側の急峻性を向上させることができる。
【0171】
なお、図15(b)では、間引きがなされ、または間引きの数が増加すると、共振周波数におけるインピーダンスと反共振周波数におけるインピーダンスとの差が僅かであるが縮小することがわかる。また、図15(c)では、間引きがなされ、または間引きの数が増加すると、インピーダンスの位相が通過帯域内の高周波側において90°から乖離することがわかる。従って、間引きの有無およびその数は、耐電性(振動強度)、Δfおよびその他の事情を考慮して適宜に設定されてよい。
【0172】
本開示に係る技術は、以上の実施形態または変形例に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0173】
弾性波は、SAWに限定されない。例えば、弾性波は、圧電基板内を伝搬するバルク波であってもよいし、圧電基板と圧電基板を覆う絶縁層との境界部を伝搬する弾性境界波(ただし、広義にはSAWの一種である。)であってもよい。
【0174】
共振周波数のエリア間における相違は、電極指ピッチがエリア間で相違することによって実現されるものに限定されない。例えば、共振周波数のエリア間における相違は、電極膜厚またはデューティー比がエリア間で相違することによって実現されてもよい。具体的には、電極膜厚を大きくすると(別の観点では電極の質量を大きくすると)、共振周波数および反共振周波数を低くすることができる。また、電極指の幅(デューティー比)を大きくすると、共振周波数および反共振周波数を低くすることができる。また、例えば、電極指ピッチ、電極膜厚およびデューティー比のいずれか2つ以上の組み合わせがエリア間で相違し、これによって共振周波数のエリア間の相違が実現されてもよい。
【0175】
各エリアにおいては、共振周波数に影響を及ぼす条件(電極指ピッチ、電極膜厚およびデューティー比等)は、基本的には、そのエリア全体に亘って一定でよい。ただし、共振特性の微調整などのために、その一部に特異な部分が設けられてもよい。例えば、変形例で説明したように、いわゆる間引きが行われてもよい。また、比較的少ない数の電極指ピッチにおいてその大きさが変化してもよい。
【0176】
なお、変形例の説明でも言及したように、各エリアにおいて電極指ピッチ等が一定か否かは、上記のような特異部分を除外して判定されてよい。特異部分の概念は、他の大部分に規則性があることが前提であり、弾性波共振子の特性の概略は、他の大部分によって規定されるからである。例えば、エリア内の大部分について電極指ピッチが一定で、かつ複数のエリア間で電極指ピッチが異なれば、Δfを小さくするという効果を得ることができる。同様に、複数のエリア同士の電極指ピッチを比較する場合も特異部分を除外して比較を行ってよい。
【0177】
また、IDT電極は、エリア、エリア間ギャップおよび外側ギャップ以外に、電極指ピッチ(電極指)を有する部分を有していてもよい。例えば、複数のエリアの外側に、電極指ピッチが外側ほど狭くなるような狭ピッチ部が設けられてもよい。
【0178】
図10(c)で例示したように、エリア間ギャップは設けられなくてもよい。すなわち、隣り合う2つのエリアにおいて、一方のエリアの他方のエリア側の端部に位置する電極指と、他方のエリアの一方のエリア側の端部に位置する電極指とは、共用されていてもよい。この場合の共用される電極指の幅は、いずれか一方のエリアの電極指の幅と同等であってもよいし、双方のエリアの電極指の幅に対して平均的な大きさであってもよい。
【0179】
共振周波数の数(例えば電極指ピッチの大きさの種類の数)と、エリアの数とは、同一とされてよい。この場合、例えば、一定の波長の定在波が生じやすい領域がひとまとまりにされることになり、共振特性が向上する。ただし、同一の共振周波数の2以上のエリアが存在してもよい。
【0180】
また、SAWフィルタ109を構成する並列共振子59を、直列分割してもよい。この場合には、分割したそれぞれにおいて、IDT電極5の設計を上述の通りとすることにより、さらに耐電力性の優れた弾性波共振子を提供することができる。
【符号の説明】
【0181】
1…SAW共振子(弾性波共振子)、3…圧電基板、5…IDT電極、7…反射器、13…電極指、19…エリア。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15