特許第6445345号(P6445345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6445345
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/51 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   H02K3/51 Z
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-29424(P2015-29424)
(22)【出願日】2015年2月18日
(65)【公開番号】特開2016-152707(P2016-152707A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2017年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】宮武 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】関根 裕一
(72)【発明者】
【氏名】山本 幸弘
【審査官】 三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公告第01474439(GB,A)
【文献】 特表2014−525222(JP,A)
【文献】 特開2006−320113(JP,A)
【文献】 実開昭62−070649(JP,U)
【文献】 特開平08−149736(JP,A)
【文献】 特開昭56−136149(JP,A)
【文献】 特開昭60−229643(JP,A)
【文献】 米国特許第04091301(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0125192(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0052321(US,A1)
【文献】 特開昭50−033401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/51
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子と、該回転子の外周側に所定の空隙を介して対向配置された固定子とから成り、前記回転子は、シャフトと、該シャフトの外周側に、軸方向に伸延し周方向に所定間隔をもって複数形成されたスロットと、該スロット内の各々に装着され、前記シャフトの両端から軸方向に張り出している端部を有する回転子コイルと、前記シャフトの端部に焼嵌めされ、前記回転子コイルの前記シャフトの両端から軸方向に張り出している端部を外周側から保持する保持環とを備え、
前記保持環は、前記回転子コイルの前記シャフトの両端から軸方向に張り出している端部の外周側に配置された内層側保持環と、該内層側保持環の外周側に配置された外層側保持環の2層から成り、少なくとも前記内層側保持環と前記シャフトとの焼嵌め部分を含む範囲の前記内層側保持環と前記外層側保持環を構成する材料の平均線膨張係数が、前記シャフトを構成する材料の線膨張係数と同等以下であり、
前記内層側保持環は、前記内層側保持環と前記シャフトとの焼嵌め部分を含むと共に、前記回転子コイルの前記シャフトの両端から軸方向に張り出している端部の外周側全長を覆うように配置され、かつ、前記外層側保持環は軸方向に2分割され、そのうちの第1の外層側保持環は、前記内層側保持環と前記シャフトとの焼嵌め部分を含む範囲の前記内層側保持環の外周側を覆い、他の第2の外層側保持環は、前記内層側保持環の軸方向端部の外周側を覆うように配置されていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項に記載の回転電機において、
前記第1の外層側保持環と前記第2の外層側保持環の間に、前記内層側保持環の外周側を覆うように第3の外層側保持環が配置されていることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
回転子と、該回転子の外周側に所定の空隙を介して対向配置された固定子とから成り、前記回転子は、シャフトと、該シャフトの外周側に、軸方向に伸延し周方向に所定間隔をもって複数形成されたスロットと、該スロット内の各々に装着され、前記シャフトの両端から軸方向に張り出している端部を有する回転子コイルと、前記シャフトの端部に焼嵌めされ、前記回転子コイルの前記シャフトの両端から軸方向に張り出している端部を外周側から保持する保持環とを備え、
前記保持環は、前記回転子コイルの前記シャフトの両端から軸方向に張り出している端部の外周側に配置された内層側保持環と、該内層側保持環の外周側に配置された外層側保持環の2層から成り、少なくとも前記内層側保持環と前記シャフトとの焼嵌め部分を含む範囲の前記内層側保持環と前記外層側保持環を構成する材料の平均線膨張係数が、前記シャフトを構成する材料の線膨張係数と同等以下であり、
前記内層側保持環は、前記内層側保持環と前記シャフトとの焼嵌め部分を含むと共に、前記回転子コイルの前記シャフトの両端から軸方向に張り出している端部の外周側全長を覆うように配置され、かつ、前記内層側保持環と前記シャフトとの焼嵌め部分を含む該内層側保持環の外周側軸方向両端部にそれぞれ段差部を設け、一方、前記外層側保持環は軸方向に2分割され、そのうちの第1の外層側保持環は、前記シャフトの軸方向端部に渡って前記段差部に配置され、他の第2の外層側保持環は、前記内層側保持環の他方の軸端部の前記段差部に配置されていることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項に記載の回転電機において、
前記内層側保持環の段差部以外の外径と、前記第1及び第2の外層側保持環の外径とが同一であることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項に記載の回転電機において、
前記第2の外層側保持環の径方向の厚さが、前記第1の外層側保持環の径方向の厚さより大きいことを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の回転電機において、
前記内層側保持環の軸方向端部の内周側に、円環状の保持環支えが配置されていることを特徴とする回転電機。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の回転電機において、
前記内層側保持環は金属材料から成り、前記外層側保持環は繊維強化複合材料から成ることを特徴とする回転電機。
【請求項8】
請求項に記載の回転電機において、
前記金属材料は非磁性鋼であり、前記繊維強化複合材料は炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維のいずれかであることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転電機に係り、例えば、蒸気タービン発電機やガスタービン発電機などのように、回転子から軸方向に張り出した回転子コイルの端部の外周側を保持環で保持する構成に好適な回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機の一例として、大容量のタービン発電機の概略構成を図1に示す。
【0003】
該図に示す如く、タービン発電機は、回転子1と、この回転子1の外周側に所定の空隙を介して対向配置された固定子2とから成り、回転子1は、シャフト3と、このシャフト3の外周側に、軸方向に伸延し周方向に所定間隔をもって複数形成されたスロット(図示せず)と、このスロット内の各々に装着され、シャフト3の両端から軸方向に張り出している端部5Aを有する回転子コイル5と、シャフト3の端部に焼嵌めされ、回転子コイル5のシャフト3の両端から軸方向に張り出している端部5Aを外周側から保持する保持環6とから概略構成されている。
【0004】
詳述すると、シャフト3のスロットには、角柱状の回転子コイル5が複数挿入されている。シャフト3の両端から軸方向に張り出している回転子コイル5の端部5Aは、シャフト3からオーバーハングする構造となっており、このオーバーハングしている回転子コイル5の端部5Aの外周側に保持環6を配置して回転子コイル5の端部5Aの変形を抑える必要がある。この保持環6が破損すると、直ちに重大な事故につながる可能性が高く、非常に高い信頼性が必要とされる。
【0005】
一般的に、上記保持環6は非磁性鋼で製作され、また、保持環6はシャフト3の軸方向端部に焼嵌めされており、その保持環6の軸方向他端の内周側には、保持環支え7が嵌合されている。その保持環6及び保持環支え7は、円筒状の構造になっている。
【0006】
通常、タービン発電機の回転子1は、高速で回転するため巨大な遠心力が生じる。近年、タービン発電機の大容量化が進んできており、これは回転子径を大型化するなどにより実現可能だが、回転子径の大型化が遠心力の増加につながり、保持環6の信頼性を確保することがタービン発電機容量の制限になってきている。
【0007】
上述したように、タービン発電機等の回転電機では、非磁性鋼製の保持環6を、シャフト3の端から軸方向に張り出した回転子コイル5の端部5Aの外周側に固定するために、保持環6をシャフト3に焼嵌める構造となっている。
【0008】
この保持環6は、回転子コイル5に生じる遠心力を受けるため、回転子1の回転数が増加するほど径方向に押し広げられ、それに伴い、保持環6とシャフト3の焼嵌め部も変形し、焼嵌めによる締結力が小さくなる。
【0009】
また、保持環6の表面の周速は、回転子1の径の増加に比例して高速化する。保持環6の表面の周速が高速化するほど、保持環6の表面と隣接する気体との間の摩擦により生じる発熱が大きくなり、それによる保持環6の温度上昇も大きくなる。保持環6に一般的に用いられる非磁性鋼材(例えば、18Mn−18Cr鋼)の線膨張係数は、16×10−6/℃程度である。一方でシャフト3に用いられる材料(一般的なロータ材料、例えば、3.5%NiCrMoV鋼、又はCrMoV鋼など)の線膨張係数は、それより小さい11×10−6/℃程度のものが使用されることが一般的である。
【0010】
そのため、保持環6とシャフト3が同じように温度上昇した場合でも熱膨張差が生じて、実質的な焼嵌め代が減少する。また、シャフト3の端部の主な発熱源は、前記した摩擦発熱のため、保持環6の温度上昇のほうが高くなりやすく、シャフト3の温度上昇が保持環6よりも大きい場合には、更に熱膨張差が大きくなることになる。
【0011】
回転子1の回転時の実質的な保持環6とシャフト3の焼嵌め代が小さくなりすぎると、保持環6とシャフト3の間の固定が不十分になり、変速時や事故時に、両者の間にトルクが生じた場合にはすべりが生じ、回転子コイル5の端部5Aの損傷につながる恐れがある。
【0012】
これを防ぐために、回転子1の組立時の保持環6とシャフト3の焼嵌め代は、上述したような遠心力や熱膨張差による焼嵌め代の減少を見込んだ上で決定されるが、回転子1の組立時の保持環6とシャフト3の焼嵌め代を大きくしすぎた場合には、保持環6やシャフト3が塑性変形してしまう恐れがあり、塑性変形による保持環6とシャフト3の焼嵌め代の低下が問題となる。従って、保持環6とシャフト3の焼嵌め代は、組立時(静止時)は小さくした方が望ましく、一方で回転時には必要な摩擦力を確保するために、保持環6とシャフト3の焼嵌め代は、大きくした方が望ましい。
【0013】
なお、シャフトから軸方向に張り出した回転子コイルの端部の外周側を保持環で保持する技術として、特許文献1に記載されたものがある。
【0014】
この特許文献1には、ロータが外周面と、半径方向端面と、外周面にある軸方向に延出する溝穴と、溝穴の中にある界磁巻線とを有し、界磁巻線はロータの端面から半径方向に突出し、溝穴の外側で界磁巻線終端巻により接続され、終端巻きは保持システムにより包囲されており、保持システムは終端巻きを包囲するシールド部材と、シールド部材を包囲する保持器部材と、ロータに対する保持システムの軸方向の動きを阻止する手段とを備えたダイナモエレクトリック機械のロータの保持システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005−117890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
タービン発電機等の回転電機の大容量化に伴い、保持環に生じる負荷はますます増加しているため、遠心力による負荷が大きく、温度上昇が大きくなった場合でも、回転子コイルの端部の外周側に配置されている保持環とシャフトを剛に結合させ、保持環が変形しにくい構造とすることが必要である。
【0017】
しかしながら、特許文献1では、シャフト側との係合部の構造について、軸方向の動きを阻止するための構造についての記載がある一方、径方向については、保持環と補助環の間についての記載はあるが、補助環とシャフトとの間についての記載はない。
【0018】
従って、特許文献1の構造では、補助環とシャフトとの間は、保持環の動きを阻止する構造とはなっていないため、回転時の温度上昇により補助環とシャフトとの間にはゆるみが生じ、両者の拘束が不十分になる恐れがある。
【0019】
これにより、保持システム全体の変形が大きくなると、それに伴い回転子コイルの変形も大きくなり、場合によっては保持システムと回転子コイルが離れる現象が発生する恐れがあり、回転子コイルに対する負荷が増加して損傷の可能性が増加することが懸念される。
【0020】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、回転時に温度が上昇した場合にも保持環とシャフトの締結力が向上でき、保持環の変形や応力を小さくして信頼性の向上を図り、結果的に回転子コイルの変形が大きくなることを防止できる回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の回転電機は、上記目的を達成するために、回転子と、該回転子の外周側に所定の空隙を介して対向配置された固定子とから成り、前記回転子は、シャフトと、該シャフトの外周側に、軸方向に伸延し周方向に所定間隔をもって複数形成されたスロットと、該スロット内の各々に装着され、前記シャフトの両端から軸方向に張り出している端部を有する回転子コイルと、前記シャフトの端部に焼嵌めされ、前記回転子コイルの前記シャフトの両端から軸方向に張り出している端部を外周側から保持する保持環とを備え、
前記保持環は、前記回転子コイルの前記シャフトの両端から軸方向に張り出している端部の外周側に配置された内層側保持環と、該内層側保持環の外周側に配置された外層側保持環の2層から成り、少なくとも前記内層側保持環と前記シャフトとの焼嵌め部分を含む範囲の前記内層側保持環と前記外層側保持環を構成する材料の平均線膨張係数が、前記シャフトを構成する材料の線膨張係数と同等以下であり、前記内層側保持環は、前記内層側保持環と前記シャフトとの焼嵌め部分を含むと共に、前記回転子コイルの前記シャフトの両端から軸方向に張り出している端部の外周側全長を覆うように配置され、かつ、前記外層側保持環は軸方向に2分割され、そのうちの第1の外層側保持環は、前記内層側保持環と前記シャフトとの焼嵌め部分を含む範囲の前記内層側保持環の外周側を覆い、他の第2の外層側保持環は、前記内層側保持環の軸方向端部の外周側を覆うように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、運転時に温度が上昇した場合にも保持環とシャフトの締結力が向上でき、保持環の変形や応力を小さくして信頼性の向上を図り、結果的に回転子コイルの変形が大きくなることを防止できるので、この種、回転電機には非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の対象である回転電機の全体構成を上半分の一部を断面して示す図である。
図2】本発明の回転電機の実施例1を示す回転電機端部の部分断面図である。
図3】本発明の回転電機の実施例2を示す回転電機端部の部分断面図である。
図4】本発明の回転電機の実施例3を示す回転電機端部の部分断面図である。
図5】本発明の回転電機の実施例4を示す回転電機端部の部分断面図である。
図6】本発明の回転電機の実施例5を示す回転電機端部の部分断面図である。
図7】本発明の回転電機の実施例6を示す回転電機端部の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の回転電機を説明する。なお、符号は、従来と同一のもの及び各実施例において同一構成のものは同符号を使用する。
【実施例1】
【0025】
図2に、本発明の回転電機の実施例1を示す。本実施例の回転電機の概略構成は、図1に示す構成と略同一であり、図2には、本実施例に関連する部分のみを図示して説明する(以下に説明する他の実施例も同様である)。
【0026】
図2に示す如く、本実施例の回転電機は、回転子コイル5のシャフト3の外周部両端から軸方向に張り出している端部5Aを外周側から保持する保持環(図1の符号6)が、回転子コイル5のシャフト3の外周部両端から軸方向に張り出している端部5Aの外周側に配置された内層側保持環6Aと、この内層側保持環6Aの外周側に配置された外層側保持環6Bの2層から成り、しかも、後述するが、内層側保持環6Aとシャフト3との焼嵌め部分(図2のLの範囲)を含む範囲の内層側保持環6Aと外層側保持環6Bを構成する材料の平均線膨張係数が、シャフト3を構成する材料の線膨張係数と同等以下である構成となっている。
【0027】
また、内層側保持環6Aは、内層側保持環6Aとシャフト3との焼嵌め部分(図2のLの範囲)を含むと共に、回転子コイル5のシャフト3の外周部両端から軸方向に張り出している端部5Aの外周側全長を覆うように配置され、かつ、外層側保持環6Bは、内層側保持環6Aの外周側の軸方向全長を覆うように配置されている。内層側保持環6Aの端部の内周側には、径方向の変形を抑制するための円環状の保持環支え7が配置されており、内層側保持環6Aは、シャフト3の外周部における端部に焼嵌めされ、その内層側保持環6Aの他端には、上記した保持環支え7が嵌合されている。
【0028】
上述した内層側保持環6Aは、回転子コイル5の端部5Aの変形を抑え込むために、回転子コイル5の端部5Aの外周側を包み込むように配置され、シャフト3と焼嵌めにより一体化されている。また、内層側保持環6Aは、従来の保持環6に用いられる金属材料である非磁性(一般的には、18Mn−18Cr鋼)を用いると、従来と同等以上の信頼性が得られる。
【0029】
一方、外層側保持環6Bは、保持環全体の剛性を向上させ、回転子コイル5の端部5Aの径方向への変形を抑制するために配置するものであり、このため、外層側保持環6Bは、相対的に低密度で、かつ、強度の高い繊維強化複合材料を用いることが望ましい。
【0030】
繊維強化複合材料は、樹脂(例えば、エポキシ樹脂)と繊維(例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維)の材料及びその比率を調整し、内層側保持環6Aと外層側保持環6Bの平均線膨張係数が、シャフト3の材料の線膨張係数と同等以下となるような組合せとするものである。繊維強化複合材は、繊維の構成により高い異方性を持つが、ここでいう線膨張係数は、保持環の周方向の線膨張係数である。
【0031】
具体的には、例えば、内層側保持環6Aに従来と同等の非磁性鋼を用いる場合、この材料の線膨張係数は16×10−6/℃で、弾性率は200GPa程度である。一方、外層側保持環6Bの材料に炭素繊維を用いたCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)を用いるとすると、繊維量を調整することにより線膨張係数を設計することが可能であるが、ここでは、例として線膨張係数が3×10−6/℃のCFRPを用いる場合で考える。この時の弾性率は130GPaとする。
【0032】
内層側保持環6Aと外層側保持環6Bの平均線膨張係数は、基本的には複合則と呼ばれる関係で求められ、各材料の断面積の比率と弾性率及び線膨張係数から求められる。内層側保持環6Aと外層側保持環6Bのトータル厚さを“1”とした時、内層側保持環6Aの厚さの比率を“D”とすると、外層側保持環6Bの厚さの比率は“1−D”となる。この場合、平均線膨張係数αaは、以下の式から求められる。
【0033】
αa=(200×D×16×10−6+130×(1−D)×3×10−6)/(200×D+130×(1−D)
αaをシャフト3に用いられる材料(一般的なロータ材料、例えば、3.5%NiCrMoV鋼、又はCrMoV鋼など)の線膨張係数の11×10−6/℃より小さくするためには、内層側保持環6Aの厚さの比率Dを0.51より小さくすればよいことがわかる。この場合、例えば、内層側保持環6Aの厚さの比率Dを0.4とし、外層側保持環6Bの厚さを0.6とすれば、この条件を満たすことができる。
【0034】
このような本実施例の構成にすることにより、回転時にシャフト3や保持環(内層側保持環6A及び外層側保持環6B)の温度が上昇した場合に、保持環(内層側保持環6A及び外層側保持環6B)の熱膨張量がシャフト3の熱膨張量よりも小さくなるため、両者の間の実質的な焼嵌め代が増えることになり、両者はより剛に嵌合されることになる。
【0035】
従来の構造では、本実施例の構造とは逆に保持環6の膨張量の方が大きく、温度が上昇するほど実質的な焼嵌め代が減少する傾向であるため、嵌合が緩くなり回転時にシャフト3と保持環6全体を合わせた剛性が低下することにより、径方向の変形が過大になる恐れがあったが、本実施例の構造では、回転電機が大容量化し、摩擦により生じる発熱が増加し温度上昇が増大した場合でも、上述したような剛性低下が起こらず変形を抑制することが可能となる。
【0036】
また、従来構造では、回転時の剛性低下を防ぐために、遠心力や熱膨張差による減少を見込んで、組立時の焼嵌め代を大きく設定する必要がある。そのため、保持環6やシャフト3は、それにより過大な塑性変形が生じて焼嵌め代の低下を避けるために、高価な高強度材で作成する必要があった。しかし、本実施例の構造では、焼嵌め代の低下を抑えることができるため、組立時の焼嵌め代を従来構造より小さくすることができる。
【0037】
これにより、焼嵌めする際に必要な内層側保持環6Aの温度上昇量を小さくすることができ、保持環(内層側保持環6A及び外層側保持環6B)に不要な温度履歴を加える恐れがなくなり組立も容易になる。また、基本的に保持環(内層側保持環6A及び外層側保持環6B)は遠心力により押し広げられるため、回転数が高くなるほどシャフト3側の負荷は低くなる。従って、シャフト3に対する負荷は組立時が最も大きい。そのため、組立時の焼嵌め代を低減することができれば、シャフト3にかかる最大負荷を下げることができ、高価な高強度材を使う必要がなくなる。
【0038】
外層側保持環6Bは、周方向を強化方向とした複合材を円環状にすることが望ましく、このような部材の製造方法としては、パイプなどに一般的に用いられるフィラメントワインディング法などの手法を用いて製作することができる。この場合、内層側保持環6Aをシャフト3に焼嵌めた後、その外周側にはめ込み、樹脂などにより接着することにより一体化させる方法が望ましい。
【0039】
また、外層側保持環6Bを内層側保持環6Aの外周側にはめ込む際に、外層側保持環6Bを複合材の樹脂の強度などに影響しない程度まで温度を上げて焼嵌める構造とすると、両者がより剛に一体化することができる。
【0040】
なお、外層側保持環6Bは線膨張係数が小さいことが望まれ、また、温度上昇量も限られるため、従来の非磁性鋼材を焼嵌める場合に比べて締め代は小さくなるが、回転時には停止時より両者の実質的な締め代は増加するため、特に問題とならない。
【0041】
また、内層側保持環6Aをボビンとみなして、これに直接繊維を巻き付けて製作することも可能である。この場合、別部材として製作し後から接着する場合に必要となる嵌め合い部の製作精度を考慮する必要がなく、形状作成や一体化の調整が容易である。
【0042】
更に、本実施例の構造を採用することにより、組立に要する工程を削減でき、シャフト3の材料も安価な材料を選択することができるため、安価で信頼性の高い回転電機を提供することができる。
【0043】
なお、本実施例では、材料やその組合せについて一例を示したが、これ以外の厚さの組み合わせや材料の組み合わせでも、同様の要件を満たしている構成であればよいことは自明である。
【0044】
このような本実施例とすることにより、回転時に温度が上昇した場合に保持環(内層側保持環6A及び外層側保持環6B)とシャフト3の締結力が向上できることから、保持環(内層側保持環6A及び外層側保持環6B)の変形や応力を小さくすることができ、保持環(内層側保持環6A及び外層側保持環6B)の信頼性を向上することができるので、結果的に回転子コイル5の変形が大きくなることを防止できる。また、従来のように、温度上昇時の緩みによる締結力低下を考慮しなくてよいため、組立時の締結力(焼嵌め代)を適正化することにより、シャフト3の材料の仕様を下げ低コスト化を図ることができる。
【実施例2】
【0045】
図3に、本発明の回転電機の実施例2を示す。
【0046】
該図に示す本実施例では、内層側保持環6Aは、内層側保持環6Aとシャフト3との焼嵌め部分(図3のLの範囲)を含むと共に、回転子コイル5のシャフト3の外周部両端から軸方向に張り出している端部5Aの外周側全長を覆うように配置され、かつ、外層側保持環6Bは軸方向に2分割され、そのうちの第1の外層側保持環6B1は、内層側保持環6Aとシャフト3との焼嵌め部分(図3のLの範囲)を含む範囲の内層側保持環6Aの外周側を覆い、他の第2の外層側保持環6B2は、内層側保持環6Aの軸方向端部(保持環支え7側の焼嵌め部を含む範囲)の外周側を覆うように配置されているものである。他の構成は、実施例1と同様である。
【0047】
このような本実施例の構成とすることにより、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、焼嵌め部の範囲で材料の平均線膨張係数をシャフト3より小さくすることにより、回転時の実質的な焼嵌め代の減少を抑制する機能を持たせる一方で、第1及び第2の外層側保持環6B1及び6B2の材料や組み立て工程を低減することができ、より効率的に作成することができる。
【実施例3】
【0048】
図4に、本発明の回転電機の実施例3を示す。
【0049】
該図に示す本実施例は、図3に示した実施例2の改良案であり、第1の外層側保持環6B1と第2の外層側保持環6B2の間に、内層側保持環6Aの外周側を覆うように第3の外層側保持環6B3を配置したものである。
【0050】
このような本実施例の構成とすることにより、実施例2と同様な効果が得られることは勿論、第1及び第2の外層側保持環6B1及び6B2が配置されていない部分については剛性が小さくなることが懸念されるが、この部分に、第3の外層側保持環6B3を部分的に追加することで剛性を高めることができる。
【実施例4】
【0051】
図5に、本発明の回転電機の実施例4を示す。
【0052】
該図に示す本実施例は、内層側保持環6Aは、内層側保持環6Aとシャフト3との焼嵌め部分(図5のLの範囲)を含むと共に、回転子コイル5のシャフト3の外周部両端から軸方向に張り出している端部5Aの外周側全長を覆うように配置され、かつ、内層側保持環6Aとシャフト3との焼嵌め部分(図5のLの範囲)を含む範囲と保持環支え7側の焼嵌め部を含む範囲の内層側保持環6Aの外周側軸方向両端部にそれぞれ段差部6A´、6A"を設け、一方、外層側保持環6Bは軸方向に2分割され、そのうちの第1の外層側保持環6B1´は、シャフト3の軸方向端部に渡って段差部6A´に配置されていると共に、他の第2の外層側保持環6B2´は、内層側保持環6Aの他方の軸端部の段差部6A"に配置され、しかも、内層側保持環6Aの段差部6A´、6A"以外の外径と、第1及び第2の外層側保持環6B1´及び6B2´の外径とが同一、つまり、内層側保持環6Aの焼嵌め部(図5のLの範囲)以外(第1及び第2の外層側保持環6B1´及び6B2´が配置されていない部分の内層側保持環6A)の厚さを大きくして構成している。
【0053】
このような本実施例の構成とすることにより、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、内層側保持環6Aの焼嵌め部(図5のLの範囲)以外の厚さを大きくして、焼嵌め部のゆるみの影響がない部分は一様材料で形成することができるし、温度上昇による実質焼嵌め代の減少を防ぐとともに、部材の材料を最小限に抑えることができ、安価で信頼性の高い回転電機を得ることができる。
【0054】
なお、本実施例では、段差部6A´、6A"を矩形状に形成しているが、応力集中部が生じないように、段差部6A´、6A"を円弧状の形状やテーパ状の形状にしても同等の特性が得られることは言うまでもない。
【実施例5】
【0055】
図6に、本発明の回転電機の実施例5を示す。
【0056】
該図に示す本実施例は、図2に示した実施例2の改良案であり、外層側保持環6Bは、その径方向厚さが、シャフト3とは反対側の軸方向に向かうに従い順次大きくなっているものである。即ち、外層側保持環6Bは、軸端(保持環支え7)側に行くほど板厚が増加する構造となっている。
【0057】
このような本実施例の構成とすることにより、実施例1と同様な効果が得られることは勿論、回転子コイル5の端部5Aは、通常、周方向に曲げられてL字型に配置されているため、回転子コイル5の端部5Aに行くほど重量は増加する傾向となる。従って、この重量に起因する遠心力も端部に行くほど増大することになる。
【0058】
これによる径方向変位の違いを均一化するために、遠心力が大きい端部ほど保持環(内層側保持環6A及び外層側保持環6B)の板厚を増加させ剛性を高くすることにより、回転子コイル5の端部5A全体の変形による負荷を平均化できるため、保持環(内層側保持環6A及び外層側保持環6B)に必要な材料強度の最大値を低減させることができ、保持環(内層側保持環6A及び外層側保持環6B)に材料強度の低い低コスト材を用いることができる。
【実施例6】
【0059】
図7に、本発明の回転電機の実施例6を示す。
【0060】
該図に示す本実施例は、図5に示した実施例4の改良案であり、第2の外層側保持環6B2´の径方向の厚さを、第1の外層側保持環6B1´の径方向の厚さより大きくしたものである。即ち、保持環を第1の外層側保持環6B1´と第2の外層側保持環6B2´から成る2層構造で構成し、第2の外層側保持環6B2´は軸端部の厚さを大きくし、保持環支え7を代替する機能を持つ部材として配置したものである。
【0061】
このような本実施例の構成とすることにより、実施例4と同様な効果が得られることは勿論、保持環支え7の機能を第2の外層側保持環6B2´に持たせることにより、部材点数を減少させるとともに、保持環支え7と内層側保持環6Aの焼嵌めによる組立工程を減少させることが可能になり、安価で信頼性の高い回転電機を得ることができる。
【0062】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、回転軸部材に回転子鉄心を焼嵌めしてシャフト3を構成しても良い。また、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…回転子、2…固定子、3…シャフト、5…回転子コイル、5A…回転子コイルの端部、6…保持環、6A…内層側保持環、6A´、6A"…段差部、6B…外層側保持環、6B1、6B1´…第1の外層側保持環、6B2、6B2´…第2の外層側保持環、6B3…第3の外層側保持環、7…保持環支え。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7