【文献】
MESTERS, R. M. et al.,Identification of a sequence of human activated protein C (residues 390-404) essential for its anticoagulant activity,Journal of Biological Chemistry,1991年,Vol.266, No.36,p.24514-24519
【文献】
SUZUKI, K. et al.,Monoclonal Antibodies to Human Protein C :Effects on the Biological Activity of Activated Protein C and the Thrombin-Catalyzed Activation of Protein C,Journal of Biochemistry,1985年,Vol.97, No.1,p.127-138
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
血友病 Aは、血液凝固第VIII因子(FVIII)または血液凝固第IX因子(FIX)の先天的欠損又は機能不全に起因する出血性疾患である。前者は血友病A、後者は血友病Bと称される。いずれの遺伝子もX染色体上に存在し、遺伝子異常は伴性劣性遺伝により伝搬されるため、発症患者の99%以上は男性である。有病率はおおよそ出生1万人につき1人で、血友病Aと血友病Bの比率は、おおよそ5:1であることが知られる。
【0003】
主な出血部位としては、関節内、筋肉内、皮下、口腔内、頭蓋内、消化管、鼻腔内などが挙げられる。中でも関節内への繰返し出血は、関節障害、歩行困難を伴う血友病性関節症に進展し、最終的には関節置換術が必要となる場合もあることから、血友病患者のQOLを低下させる大きな要因となっている。
【0004】
血友病の重症度は、血液中のFVIII活性あるいはFIX活性により規定されており、活性1%未満の患者が重症、1%以上5%未満の患者が中等症、5%以上40%未満の患者が軽症と分類される。血友病患者の約60%を占める重症患者においては、月に数回の出血症状を呈するが、これは中等症患者及び軽症患者に比べ顕著に高頻度である。このことから、重症血友病患者においては、血液中のFVIII活性あるいはFIX活性を1%以上に維持することが、出血症状の発現阻止に有効と考えられている(非特許文献1)。
【0005】
関連する出血異常症として、血友病、後天性血友病のほかに、vWFの機能異常または欠損に起因するフォンビルブランド病が知られている。フォンビルブランド因子(vWF)は、血小板が、血管壁の損傷部位の内皮下組織に正常に粘着するのに必要であるだけでなく、FVIIIと複合体を形成し、血漿中FVIIIレベルを正常に保つのにも必要である。フォンビルブランド病患者では、これらの機能が低下し、止血機能異常を来たしている。
【0006】
血友病患者における出血の予防及び/または治療には、主として、血漿から精製された若しくは遺伝子組換え技術により作製された血液凝固因子が使用される。
【0007】
血液凝固因子は、持続性が十分でなく(半減期は数時間から数十時間)、例えば、FVIII製剤及びFIX製剤の血中半減期は、それぞれ12時間及び24時間程度である。それ故、継続的な予防のためには、FVIII製剤を週に3回程度、あるいはFIX製剤を週2回程度投与する必要がある。これは、FVIII活性あるいはFIX活性として、概ね1%以上を維持することに相当する。この予防投与により、頻回の関節内出血に起因する血友病性関節障害を未然に防ぐことができ、その結果、血友病A患者のQOL向上に大きく寄与するとの報告がある。
【0008】
また、出血時の補充療法においても、出血が軽度な場合を除き、再出血を防ぎ、完全な止血を行うため、一定期間、FVIII製剤あるいはFIX製剤を定期的に追加投与する必要がある。
【0009】
さらに、血液凝固因子は、静脈内投与が必要であるという欠点を有する。FVIII製剤及びFIX製剤を静脈内投与するには、技術的な困難さが存在する。特に年少の患者に対する投与においては、投与に用いられる静脈が細い故、困難さが一層増す。
【0010】
前述の、予防投与や、出血の際の緊急投与においては、多くの場合、家庭療法・自己注射が用いられる。頻回投与の必要性と、投与の際の技術的困難さは、投与に際し患者に苦痛を与えるだけでなく、家庭療法・自己注射の普及を妨げる要因となっている。
【0011】
従って、現存の凝固因子製剤に比し、投与間隔が広い薬剤、あるいは投与が簡単な薬剤が、強く求められていた。
【0012】
さらに、血友病患者、特に重症血友病患者には、インヒビターと呼ばれるFVIIIあるいはFIXに対する抗体が発生する場合がある。インヒビターが発生すると、凝固因子製剤の効果がインヒビターにより妨げられる。その結果、大量の凝固因子製剤を用いる中和療法か、複合体製剤(complex concentrate)あるいは活性化血液凝固第VII因子(FVIIa製剤)を用いるバイパス療法が実施される。ただ、いずれにおいても、定期補充予防が確立されていないなど、患者に対する止血管理が非常に困難になる。
従って、インヒビターの存在に左右されない薬剤が、強く求められていた。
【0013】
ところで、抗体は血中での安定性が高く、皮下投与可能であり、抗原性も低いことから医薬品として注目され、応用されている。抗体は、(i)投与間隔が広く、(ii)投与が簡単であり、(iii)インヒビターの存在に左右されないため、医薬品の創製には有用であると考えられる。抗体の血中半減期は、一般に、比較的長く、数日から数週間である。また、抗体は、一般に、皮下投与後に血中に移行することが知られている。さらに、FVIIIやFIXとは大きく異なる構造を有し、抗原性も低い。すなわち、抗体医薬品は、上記の(i)、(ii)、(iii)を満たしている。
【0014】
一方、プロテインC(PC)は、血液凝固におけるネガティブフィードバック機構で働く因子の一つである。血管内皮に発現するendothelial Protein C receptor(EPCR)に結合し、トロンビン/トロンボモジュリン複合体により活性化されると、活性化プロテインC(APC)となる。APCは、その補因子プロテインSとともに、活性化血液凝固第VIII因子(FVIIIa)及び活性化血液凝固第V因子(FVa)を不活化する(非特許文献2)。従って、PCを阻害することで凝固の促成に動くことは容易に推察される。実際、ホモ接合体先天性PC欠乏症患者においては、出生直後より血栓性の電撃性紫斑病を呈する。更に、重症血友病A患者のうち、血液凝固第V因子(FV)にAPC抵抗性を付与する遺伝子変異(FV Leiden)を有する患者では、凝固因子製剤使用量が少ないとする報告がある。これらの報告は、この推測を後押ししている(非特許文献3)。動物実験においても、Schlachtermanらは、FVIIIもしくはFIX欠損マウスにFV Leiden変異を導入した場合、特定の刺激による微小循環で凝固が促進されることが示されている(非特許文献4)。Butenasらは、APCに対する阻害物質を創製し、合成凝固プロテオームモデルにおいて、それが、FVIII欠乏によるトロンビン生成低下を、部分的に回復させることを示している(非特許文献5)。
また、APCの活性を阻害する抗体が血液凝固効果を示し、血友病の治療に利用できる可能性も報告されている(特許文献1)。
【0015】
しかしながら、APCの活性をin vivoで阻害した場合の血液凝固効果は確認されていない。更に、前述のSchlachtermanらの論文においては、FVIII欠損マウスにおいてはFV Leidenの止血効果はないが、FXI欠損マウスにおいてはFV Leidenの止血効果があるという賛否両方の結果を示している。
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、優れた血液凝固効果を有する新規な出血性疾患治療用組成物、抗凝固作用阻害用組成物又は止血作用促進用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、プロテインCの活性化を阻害することで高い止血効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
すなわち、本発明は、より具体的には以下の〔1〕〜〔14〕を提供するものである。
〔1〕プロテインCの活性化阻害物質を含有する、出血性疾患を治療するための医薬組成物。
〔2〕出血性疾患が血友病、後天性血友病及び、vWFの機能異常又は欠損に起因するフォンビルブランド病又は後天性フォンビルブランド病から選ばれる疾患である、〔1〕に記載の組成物。
〔3〕出血性疾患が血友病Aである、〔1〕に記載の組成物。
〔4〕プロテインCの活性化阻害物質を含有する、止血作用を促進するための医薬組成物。
〔5〕止血作用が、血友病、後天性血友病及び、vWFの機能異常又は欠損に起因するフォンビルブランド病又は後天性フォンビルブランド病から選ばれる疾患の出血症状に対する作用である、〔4〕に記載の組成物。
〔6〕止血作用が、血友病Aの出血症状に対する作用である、〔4〕に記載の組成物。
〔7〕プロテインCの活性化阻害物質を含有する、抗血液凝固作用を阻害するための医薬組成物。
〔8〕抗血液凝固作用が、活性化プロテインCの抗血液凝固作用である、〔7〕に記載の組成物。
〔9〕プロテインCの活性化阻害物質が、さらに活性化プロテインCの活性を阻害する、〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の組成物。
〔10〕医薬組成物が、活性化プロテインCの活性阻害物質と組み合わせて用いる組成物である、〔1〕から〔9〕のいずれかに記載の組成物。
〔11〕プロテインCの活性化阻害物質が、抗プロテインC抗体である、〔1〕から〔10〕のいずれかに記載の組成物。
〔12〕抗プロテインC抗体が、プロテインCの重鎖に結合する抗体である、〔11〕に記載の組成物。
〔13〕プロテインCの重鎖に結合し、プロテインCの活性化プロテインCへの変換を阻害する作用を有する、抗プロテインC抗体。
〔14〕抗プロテインC抗体が、さらに活性化プロテインCの活性を阻害する作用を有する、〔13〕に記載の抗体。
〔15〕プロテインCの活性化阻害物質を投与する工程を含む、出血性疾患を治療するための方法。
〔16〕出血性疾患が血友病、後天性血友病及び、vWFの機能異常又は欠損に起因するフォンビルブランド病又は後天性フォンビルブランド病から選ばれる疾患である、〔15〕に記載の方法。
〔17〕出血性疾患が血友病Aである、〔15〕に記載の方法。
〔18〕プロテインCの活性化阻害物質を投与する工程を含む、止血作用を促進するための方法。
〔19〕止血作用が、血友病、後天性血友病及び、vWFの機能異常又は欠損に起因するフォンビルブランド病又は後天性フォンビルブランド病から選ばれる疾患の出血症状に対する作用である、〔18〕に記載の方法。
〔20〕止血作用が、血友病Aの出血症状に対する作用である、〔18〕に記載の方法。
〔21〕プロテインCの活性化阻害物質を投与する工程を含む、抗血液凝固作用を阻害するための方法。
〔22〕抗血液凝固作用が、活性化プロテインCの抗血液凝固作用である、〔21〕に記載の方法。
〔23〕プロテインCの活性化阻害物質が、さらに活性化プロテインCの活性を阻害する、〔15〕から〔22〕のいずれかに記載の方法。
〔24〕活性化プロテインCの活性阻害物質と組み合わせて投与される、〔15〕から〔23〕のいずれかに記載の方法。
〔25〕プロテインCの活性化阻害物質が、抗プロテインC抗体である、〔15〕から〔24〕のいずれかに記載の方法。
〔26〕抗プロテインC抗体が、プロテインCの重鎖に結合する抗体である、〔25〕に記載の方法。
〔27〕出血性疾患を治療するための薬剤を製造するためのプロテインCの活性化阻害物質の使用。
〔28〕出血性疾患が血友病、後天性血友病及び、vWFの機能異常又は欠損に起因するフォンビルブランド病又は後天性フォンビルブランド病から選ばれる疾患である、〔27〕に記載の使用。
〔29〕出血性疾患が血友病Aである、〔27〕に記載の使用。
〔30〕止血作用を促進するための薬剤を製造するためのプロテインCの活性化阻害物質の使用。
〔31〕止血作用が、血友病、後天性血友病及び、vWFの機能異常又は欠損に起因するフォンビルブランド病又は後天性フォンビルブランド病から選ばれる疾患の出血症状に対する作用である、〔30〕に記載の使用。
〔32〕止血作用が、血友病Aの出血症状に対する作用である、〔30〕に記載の使用。
〔33〕抗血液凝固作用を阻害するための薬剤を製造するためのプロテインCの活性化阻害物質の使用。
〔34〕抗血液凝固作用が、活性化プロテインCの抗血液凝固作用である、〔33〕に記載の使用。
〔35〕プロテインCの活性化阻害物質が、さらに活性化プロテインCの活性を阻害する、〔27〕から〔34〕のいずれかに記載の使用。
〔36〕薬剤が、活性化プロテインCの活性阻害物質をさらに含む、〔27〕から〔35〕のいずれかに記載の使用。
〔37〕プロテインCの活性化阻害物質が、抗プロテインC抗体である、〔27〕から〔35〕のいずれかに記載の使用。
〔38〕抗プロテインC抗体が、プロテインCの重鎖に結合する抗体である、〔37〕に記載の使用。
〔39〕出血性疾患を治療するために使用されるプロテインCの活性化阻害物質。
〔40〕出血性疾患が血友病、後天性血友病及び、vWFの機能異常又は欠損に起因するフォンビルブランド病又は後天性フォンビルブランド病から選ばれる疾患である、〔39〕に記載の物質。
〔41〕出血性疾患が血友病Aである、〔39〕に記載の物質。
〔42〕止血作用を促進するために用いられるプロテインCの活性化阻害物質。
〔43〕止血作用が、血友病、後天性血友病及び、vWFの機能異常又は欠損に起因するフォンビルブランド病又は後天性フォンビルブランド病から選ばれる疾患の出血症状に対する作用である、〔42〕に記載の物質。
〔44〕止血作用が、血友病Aの出血症状に対する作用である、〔42〕に記載の物質。
〔45〕抗血液凝固作用を阻害するために使用されるプロテインCの活性化阻害物質。
〔46〕抗血液凝固作用が、活性化プロテインCの抗血液凝固作用である、〔45〕に記載の物質。
〔47〕プロテインCの活性化阻害物質が、さらに活性化プロテインCの活性を阻害する、〔39〕から〔46〕のいずれかに記載の物質。
〔48〕活性化プロテインCの活性阻害物質と組み合わせて用いる物質である、〔39〕から〔47〕のいずれかに記載の物質。
〔49〕プロテインCの活性化阻害物質が、抗プロテインC抗体である、〔39〕から〔48〕のいずれかに記載の物質。
〔50〕抗プロテインC抗体が、プロテインCの重鎖に結合する抗体である、〔49〕に記載の物質。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、プロテインCの活性化阻害物質を含有する、出血性疾患を治療するための医薬組成物を提供する。
【0023】
本発明において「プロテインCの活性化阻害」、「プロテインCの活性化を阻害する」あるいは「プロテインCの活性化プロテインCへの変換を阻害する」とは、トロンボモジュリンと複合体を形成したトロンビンによるプロテインCの分解を阻害することを意味する。プロテインCの活性化を阻害する物質としては、例えば、プロテインCとトロンビンの結合を阻害する物質が挙げられる。具体的には、例えば、抗プロテインC抗体、抗トロンビン抗体、抗トロンボモジュリン抗体、プロテインC部分ペプチド、トロンビン部分ペプチド、トロンボモジュリン部分ペプチド、これらと同様の活性を示す低分子化合物などが挙げられる。
【0024】
プロテインCの活性化阻害剤の好ましい態様として、抗プロテインC抗体を挙げることができる。
【0025】
本明細書において、抗体とは、天然のものであるかまたは部分的もしくは完全合成により製造された免疫グロブリンをいう。抗体はそれが天然に存在する血漿や血清等の天然資源や抗体を産生するハイブリドーマ細胞の培養上清から単離され得るし、または遺伝子組換え等の手法を用いることによって部分的にもしくは完全に合成され得る。抗体の例としては免疫グロブリンのアイソタイプおよびそれらのアイソタイプのサブクラスが好適に挙げられる。ヒトの免疫グロブリンとして、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMの9種類のクラス(アイソタイプ)が知られている。本発明の抗体には、これらのアイソタイプのうちIgG1、IgG2、IgG3、IgG4が好ましい。
【0026】
所望の結合活性を有する抗体を作製する方法は当業者において公知である。例えば、プロテインCに結合する抗体を作製する方法を例示するが、方法はこれに限定されるものではない。
【0027】
抗プロテインC抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として取得され得る。抗体としては、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好適に作製され得る。哺乳動物由来のモノクローナル抗体には、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞によって産生されるもの等が含まれる。なお、本発明のモノクローナル抗体には、「ヒト化抗体」や「キメラ抗体」が含まれる。
【0028】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、公知技術を使用することによって、例えば以下のように作製され得る。すなわち、プロテインCタンパク質を感作抗原として使用して、通常の免疫方法にしたがって哺乳動物が免疫される。得られる免疫細胞が通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合される。次に、通常のスクリーニング法によって、プロテインC分子中のエピトープに結合するモノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって抗プロテインC抗体を産生するハイブリドーマが選択され得る。
【0029】
モノクローナル抗体の作製は、例えば以下に示すように行われる。まず、プロテインCをコードする遺伝子配列を公知の発現ベクターに挿入することによって適当な宿主細胞が形質転換される。当該宿主細胞中または培養上清中から所望のプロテインCタンパク質が公知の方法で精製される。
【0030】
哺乳動物に対する免疫に使用する感作抗原として当該精製プロテインCタンパク質が使用できる。プロテインCの部分ペプチドもまた感作抗原として使用できる。この際、当該部分ペプチドはプロテインCのアミノ酸配列より化学合成によっても取得され得る。また、プロテインC遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで発現させることによっても取得され得る。さらにはタンパク質分解酵素を用いてプロテインCタンパク質を分解することによっても取得され得るが、部分ペプチドとして用いるプロテインCペプチドの領域および大きさは特に特別の態様に限定されない。
【0031】
抗プロテインC抗体が、プロテインCの活性化を阻害するための、好ましい結合領域としては、プロテインCの重鎖が挙げられる。特に、トロンビンとの結合に関与する部分が好ましく、具体的には重鎖内のactivation peptide又はその近傍に存在するエピトープが好ましい。ここで近傍に存在するエピトープとは、抗プロテインC抗体がプロテインCと結合した場合に、トロンビンとプロテインCとの結合を立体構造的に阻害できる範囲にあることを意味する。このような抗体は、プロテインCの活性化プロテインCへの変換を阻害することが可能である。したがって、本発明のおいては、プロテインCの重鎖に相当するアミノ酸配列から任意の配列が選択され、感作抗原として用いられることが好ましい。感作抗原とするペプチドを構成するアミノ酸の数は少なくとも5以上、例えば6以上、或いは7以上であることが好ましい。より具体的には8〜50、好ましくは10〜30残基のペプチドが感作抗原として使用され得る。
【0032】
また、プロテインCタンパク質の所望の部分ポリペプチドやペプチドを異なるポリペプチドと融合した融合タンパク質が感作抗原として利用され得る。感作抗原として使用される融合タンパク質を製造するために、例えば、抗体のFc断片やペプチドタグなどが好適に利用され得る。融合タンパク質を発現するベクターは、所望の二種類またはそれ以上のポリペプチド断片をコードする遺伝子がインフレームで融合され、当該融合遺伝子が前記のように発現ベクターに挿入されることにより作製され得る。融合タンパク質の作製方法はMolecular Cloning 2nd ed.(Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58(1989)Cold Spring Harbor Lab. press)に記載されている。
【0033】
当該感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特定の動物に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましい。一般的には、げっ歯類の動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター)、あるいはウサギ、サル等が好適に使用される。
【0034】
公知の方法にしたがって上記の動物が感作抗原により免疫される。例えば、一般的な方法として、感作抗原が哺乳動物の腹腔内または皮下注射によって投与されることにより免疫が実施される。具体的には、PBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当な希釈倍率で希釈された感作抗原が、所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントと混合され、乳化された後に、当該感作抗原が哺乳動物に4から21日毎に数回投与される。また、感作抗原の免疫時には適当な担体が使用され得る。特に分子量の小さい部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合した当該感作抗原ペプチドを免疫することが望ましい場合もある。
【0035】
また、所望の抗体を産生するハイブリドーマは、DNA免疫を使用し、以下のようにしても作製され得る。DNA免疫とは、免疫動物中で抗原タンパク質をコードする遺伝子が発現され得るような態様で構築されたベクターDNAが投与された当該免疫動物中で、感作抗原が当該免疫動物の生体内で発現されることによって、免疫刺激が与えられる免疫方法である。タンパク質抗原が免疫動物に投与される一般的な免疫方法と比べて、DNA免疫には、次のような優位性が期待される。
−タンパク質の構造を維持して免疫刺激が与えられ得る
−免疫抗原を精製する必要が無い
【0036】
DNA免疫によって本発明のモノクローナル抗体を得るために、まず、プロテインCタンパク質を発現するDNAが免疫動物に投与される。プロテインCをコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成され得る。得られたDNAが適当な発現ベクターに挿入され、免疫動物に投与される。発現ベクターとしては、例えばpcDNA3.1などの市販の発現ベクターが好適に利用され得る。ベクターを生体に投与する方法として、一般的に用いられている方法が利用され得る。例えば、発現ベクターが吸着した金粒子が、遺伝子銃(gene gun)で免疫動物個体の細胞内に導入されることによってDNA免疫が行われる。
【0037】
このように哺乳動物が免疫され、血清中におけるプロテインCに結合する抗体力価の上昇が確認された後に、哺乳動物から免疫細胞が採取され、細胞融合に供される。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が使用され得る。
【0038】
前記免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーとは、特定の培養条件の下で生存できる(あるいはできない)形質を指す。選択マーカーには、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、あるいはチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)などが公知である。HGPRTやTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができず死滅するが、正常な細胞と融合すると正常細胞のサルベージ回路を利用してDNAの合成を継続することができるためHAT選択培地中でも増殖するようになる。
【0039】
HGPRT欠損やTK欠損の細胞は、それぞれ6チオグアニン、8アザグアニン、あるいは5'ブロモデオキシウリジンを含む培地で選択され得る。これらのピリミジンアナログをDNA中に取り込む正常な細胞は死滅する。他方、これらのピリミジンアナログを取り込めないこれらの酵素を欠損した細胞は、選択培地の中で生存することができる。この他G418耐性と呼ばれる選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子によって2-デオキシストレプタミン系抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。
【0040】
このようなミエローマ細胞として、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol.(1979)123 (4), 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、NS-1(C. Eur. J. Immunol.(1976)6 (7), 511-519)、MPC-11(Cell(1976)8 (3), 405-415)、SP2/0(Nature(1978)276 (5685), 269-270)、FO(J. Immunol. Methods(1980)35 (1-2), 1-21)、S194/5.XX0.BU.1(J. Exp. Med.(1978)148 (1), 313-323)、R210(Nature(1979)277 (5692), 131-133)等が好適に使用され得る。
【0041】
基本的には公知の方法、例えば、ケーラーとミルステインらの方法(Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて、前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
【0042】
より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、前記細胞融合が実施され得る。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、さらに融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤が添加されて使用される。
【0043】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定され得る。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1から10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用され、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液が好適に添加され得る。
【0044】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温されたPEG溶液(例えば平均分子量1000から6000程度)が通常30から60%(w/v)の濃度で添加される。混合液が緩やかに混合されることによって所望の融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。次いで、上記に挙げた適当な培養液が逐次添加され、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去され得る。
【0045】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、係る十分な時間は数日から数週間である)、上記HAT培養液を用いた培養が継続され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施される。
【0046】
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに応じた選択培養液を利用することによって選択され得る。例えばHGPRTやTKの欠損を有する細胞は、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、HAT培養液中で、正常細胞との細胞融合に成功した細胞が選択的に増殖し得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、上記HAT培養液を用いた培養が継続される。具体的には、一般に、数日から数週間の培養によって、所望のハイブリドーマが選択され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施され得る。
【0047】
所望の抗体のスクリーニングおよび単一クローニングが、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に実施され得る。例えば、標識化したプロテインCタンパク質に対する抗体の結合活性がELISAの原理に基づいて評価され得る。例えば、ELISAプレートのウェルにプロテインCタンパク質が固定化される。ハイブリドーマの培養上清をウェル内の固定化タンパク質に接触させ、固定化タンパク質に結合する抗体が検出される。モノクローナル抗体がマウス由来の場合、細胞に結合した抗体は、抗マウスイムノグロブリン抗体によって検出され得る。これらのスクリーニングによって選択された、抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマは、限界希釈法等によりクローニングされ得る。
【0048】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは通常の培養液中で継代培養され得る。また、当該ハイブリドーマは液体窒素中で長期にわたって保存され得る。
【0049】
当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清から所望のモノクローナル抗体が取得され得る。あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖せしめ、その腹水からモノクローナル抗体が取得され得る。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに好適なものである。
【0050】
当該ハイブリドーマ等の抗体産生細胞からクローニングされる抗体遺伝子によってコードされる抗体も好適に利用され得る。クローニングした抗体遺伝子を適当なベクターに組み込んで宿主に導入することによって、当該遺伝子によってコードされる抗体が発現する。抗体遺伝子の単離と、ベクターへの導入、そして宿主細胞の形質転換のための方法は、例えば、Vandammeらによって既に確立されている(Eur.J. Biochem.(1990)192 (3), 767-775)。下記に述べるように組換え抗体の製造方法もまた公知である。
【0051】
例えば、抗プロテインC抗体を産生するハイブリドーマ細胞から、抗プロテインC抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAが取得される。そのために、通常、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するための方法として、例えば、次のような方法を利用することができる。
−グアニジン超遠心法(Biochemistry (1979) 18 (24), 5294-5299)
−AGPC法(Anal. Biochem. (1987) 162 (1), 156-159)
【0052】
抽出されたmRNAは、mRNA Purification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス製)等を使用して精製され得る。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス製)などのように、細胞から直接全mRNAを抽出するためのキットも市販されている。このようなキットを用いて、ハイブリドーマからmRNAが取得され得る。得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域をコードするcDNAが合成され得る。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等によって合成され得る。また、cDNAの合成および増幅のために、SMART RACE cDNA増幅キット(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85 (23), 8998-9002、Nucleic Acids Res. (1989) 17 (8), 2919-2932)が適宜利用され得る。さらにこうしたcDNAの合成の過程においてcDNAの両末端に後述する適切な制限酵素サイトが導入され得る。
【0053】
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いでベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが作製され、大腸菌等に導入されコロニーが選択された後に、当該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製され得る。そして、当該組換えベクターが目的とするcDNAの塩基配列を有しているか否かについて、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認される。
【0054】
可変領域をコードする遺伝子を取得するためには、可変領域遺伝子増幅用のプライマーを使った5'-RACE法を利用するのが簡便である。まずハイブリドーマ細胞より抽出されたRNAを鋳型としてcDNAが合成され、5'-RACE cDNAライブラリが得られる。5'-RACE cDNAライブラリの合成にはSMART RACE cDNA増幅キットなど市販のキットが適宜用いられる。
【0055】
得られた5'-RACE cDNAライブラリを鋳型として、PCR法によって抗体遺伝子が増幅される。公知の抗体遺伝子配列をもとにマウス抗体遺伝子増幅用のプライマーがデザインされ得る。これらのプライマーは、イムノグロブリンのサブクラスごとに異なる塩基配列である。したがって、サブクラスは予めIso Stripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(ロシュ・ダイアグノスティックス)などの市販キットを用いて決定しておくことが望ましい。
【0056】
具体的には、例えばマウスIgGをコードする遺伝子の取得を目的とするときには、重鎖としてγ1、γ2a、γ2b、γ3、軽鎖としてκ鎖とλ鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーが利用され得る。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に3'側のプライマーには可変領域に近い定常領域に相当する部分にアニールするプライマーが利用される。一方、5'側のプライマーには、5' RACE cDNAライブラリ作製キットに付属するプライマーが利用される。
【0057】
こうして増幅されたPCR産物を利用して、重鎖と軽鎖の組み合せからなるイムノグロブリンが再構成され得る。再構成されたイムノグロブリンの、プロテインCに対する結合活性を指標として、所望の抗体がスクリーニングされ得る。プロテインCに対する抗体の取得を目的とするとき、抗体のプロテインCに対する結合は、特異的であることがさらに好ましい。プロテインCに結合する抗体は、例えば次のようにしてスクリーニングされ得る;
(1)ハイブリドーマから得られたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をプロテインCに接触させる工程、
(2)プロテインCと抗体との結合を検出する工程、および
(3)プロテインCに結合する抗体を選択する工程。
【0058】
抗体とプロテインCとの結合を検出する方法は公知である。具体的には、先に述べたELISAなどの手法によって、抗体とプロテインCとの結合が検出され得る。抗体の結合活性を評価するためにプロテインCの固定標本が適宜利用され得る。
【0059】
結合活性を指標とする抗体のスクリーニング方法として、ファージベクターを利用したパニング法も好適に用いられる。ポリクローナルな抗体発現細胞群より抗体遺伝子を重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリとして取得した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結することによってシングルチェインFv(scFv)を形成することができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入することにより、scFvを表面に発現するファージが取得され得る。このファージと所望の抗原との接触の後に、抗原に結合したファージを回収することによって、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAが回収され得る。この操作を必要に応じて繰り返すことにより、所望の結合活性を有するscFvが濃縮され得る。
【0060】
目的とする抗プロテインC抗体のV領域をコードするcDNAが得られた後に、当該cDNAの両末端に挿入した制限酵素サイトを認識する制限酵素によって当該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗体遺伝子を構成する塩基配列に出現する頻度が低い塩基配列を認識して消化する。さらに1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素の挿入が好ましい。上記のように消化された抗プロテインC抗体のV領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、抗体発現ベクターが取得され得る。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記V領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合されれば、キメラ抗体が取得される。ここで「キメラ抗体」とは、定常領域と可変領域の由来が異なる抗体をいう。したがって、マウス−ヒトなどの異種キメラ抗体に加え、ヒト−ヒト同種キメラ抗体も、本発明におけるキメラ抗体に含まれる。予め定常領域を有する発現ベクターに、前記V領域遺伝子を挿入することによって、キメラ抗体発現ベクターが構築され得る。具体的には、例えば、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを保持した発現ベクターの5'側に、前記V領域遺伝子を消化する制限酵素の制限酵素認識配列が適宜配置され得る。同じ組み合わせの制限酵素で消化された両者がインフレームで融合されることによって、キメラ抗体発現ベクターが構築される。
【0061】
抗体のアイソタイプは、抗体定常領域の構造によって決定される。IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4の各アイソタイプの抗体定常領域は、それぞれ、Cγ1、Cγ2、Cγ3およびCγ4と呼ばれる。また、軽鎖の抗体定常領域はλおよびκ鎖の定常領域が適宜使用される。
【0062】
プロテインCに結合するモノクローナル抗体を製造するために、抗体遺伝子が発現制御領域による制御の下で発現するように発現ベクターに組み込まれる。抗体を発現するための発現制御領域とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。また、発現した抗体が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に付加され得る。発現されたポリペプチドは上記配列のカルボキシル末端部分で切断され、切断されたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌され得る。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換されることによって、抗プロテインC抗体をコードするDNAを発現する組換え細胞が取得され得る。
【0063】
抗体遺伝子の発現のために、抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)をコードするDNAは、それぞれ別の発現ベクターに組み込まれる。H鎖とL鎖が組み込まれたベクターによって、同じ宿主細胞に同時に形質転換(co-transfect)されることによって、H鎖とL鎖を備えた抗体分子が発現され得る。あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAが単一の発現ベクターに組み込まれることによって宿主細胞が形質転換され得る(WO1994/011523を参照のこと)。
【0064】
単離された抗体遺伝子を適当な宿主に導入することによって抗体を作製するための宿主細胞と発現ベクターの多くの組み合わせが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明の抗原結合ドメインを単離するのに応用され得る。真核細胞が宿主細胞として使用される場合、動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が適宜使用され得る。具体的には、動物細胞としては、次のような細胞が例示され得る。
(1)哺乳類細胞、:CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、Hela、Vero、HEK(human embryonic kidney)293など
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など
【0065】
あるいは植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞による抗体遺伝子の発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞が適宜利用され得る。
【0066】
さらに真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。
−酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)属、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)などのPichia属
−糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)属
【0067】
また、原核細胞を利用した抗体遺伝子の発現系も公知である。例えば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌(E.coli)、枯草菌などの細菌細胞が適宜利用され得る。これらの細胞中に、目的とする抗体遺伝子を含む発現ベクターが形質転換によって導入される。形質転換された細胞をin vitroで培養することにより、当該形質転換細胞の培養物から所望の抗体が取得され得る。
【0068】
組換え抗体の産生には、上記宿主細胞に加えて、トランスジェニック動物も利用され得る。すなわち所望の抗体をコードする遺伝子が導入された動物から、当該抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築され得る。乳汁中に分泌されるタンパク質として、例えば、ヤギβカゼインなどが利用され得る。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、当該注入された胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁からは、所望の抗体が乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得され得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、ホルモンがトランスジェニックヤギに対して投与され得る(Bio/Technology (1994), 12 (7), 699-702)。
【0069】
本明細書において記載される抗LAMP5抗体がヒトに投与される場合、当該抗体における抗原結合ドメインとして、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体由来の抗原結合ドメインが適宜採用され得る。遺伝子組換え型抗体には、例えば、ヒト化(Humanized)抗体等が含まれる。これらの改変抗体は、公知の方法を用いて適宜製造される。
【0070】
本発明の抗プロテインC抗体における抗原結合ドメインの作製に用いられる抗体の可変領域は、通常、4つのフレームワーク領域(FR)に挟まれた3つの相補性決定領域(complementarity-determining region;CDR)で構成されている。CDRは、実質的に、抗体の結合特異性を決定している領域である。CDRのアミノ酸配列は多様性に富む。一方、FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも、高い同一性を示すことが多い。そのため、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を、他の抗体に移植することができるとされている。
【0071】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、例えばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、例えば重複伸長PCR(Overlap Extension PCR)が公知である。重複伸長PCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードする塩基配列が付加される。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと同一性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるとされている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と同一性の高いアミノ酸配列からなるヒトFRを利用するのが好ましい。
【0072】
また連結される塩基配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーによってヒトFRが個別に合成される。その結果、各FRにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードする塩基配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、ヒト抗体遺伝子を鋳型として合成された産物のオーバーラップしたCDR部分を互いにアニールさせて相補鎖合成反応が行われる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDRの配列を介して連結される。
【0073】
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結されたV領域遺伝子は、その5'末端と3'末端にアニールし適当な制限酵素認識配列を付加されたプライマーによってその全長が増幅される。上記のように得られたDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト型抗体発現用ベクターが作成できる。
当該組込みベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、当該組換え細胞を培養し、当該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、当該ヒト化抗体が当該培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開EP239400、国際公開WO1996/002576参照)。
【0074】
上記のように作製されたヒト化抗体の抗原に対する結合活性を定性的または定量的に測定し、評価することによって、CDRを介して連結されたときに当該CDRが良好な抗原結合部位を形成するようなヒト抗体のFRが好適に選択できる。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。例えば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。具体的には、FRにアニーリングするプライマーに部分的な塩基配列の変異を導入することができる。このようなプライマーによって合成されたFRには、塩基配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原に対する結合活性を上記の方法で測定し評価することによって所望の性質を有する変異FR配列が選択され得る(Cancer Res., (1993) 53, 851-856)。
【0075】
また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(国際公開WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫動物とし、DNA免疫により所望のヒト抗体が取得され得る。
【0076】
さらに、ヒト抗体ライブラリを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域が一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発
現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製され得る。当該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、当該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより当該ヒト抗体が取得される。これらの方法は既に公知である(国際公開WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。
【0077】
また、抗体遺伝子を取得する方法としてBernasconiら(Science (2002) 298, 2199-2202)またはWO2008/081008に記載のようなB細胞クローニング(それぞれの抗体のコード配列の同定およびクローニング、その単離、およびそれぞれの抗体(特に、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)の作製のための発現ベクター構築のための使用等)の手法が、上記のほか適宜使用され得る。
【0078】
プロテインCの活性化を阻害するかどうかは、公知の方法に従って確認することができる。例えば、プロテインCの活性化を阻害する候補物質をプロテインCと接触させた後、トロンビンとトロンボモジュリンとを添加し、トロンビンによるプロテインCの活性化反応を開始させる。その後、プロテインCの活性化反応を停止させる。トロンビンにより活性化されたプロテインCの活性を測定することで、当該候補物質がプロテインCの活性化を阻害しているかどうかを確認することができる。具体的には実施例4に記載の通りである。
【0079】
上記の方法によって得られたプロテインCの活性化阻害物質は、常法に従って製剤化し、医薬組成物とすることができる。
【0080】
本発明の医薬組成物においては、さらに、活性化プロテインCの活性を阻害する物質と組み合わせて使用してもよく、また、プロテインCの活性化阻害物質が、同時に活性化プロテインCの活性化を阻害する活性を有していてもよい。
【0081】
本発明において「活性化プロテインCの活性阻害」あるいは「活性化プロテインCの活性を阻害する」とは、活性化プロテインCによる活性化凝固第V因子又は活性化凝固第VIII因子の不活性化を阻害することを意味する。活性化プロテインCの活性を阻害する物質としては、例えば、活性化プロテインCと活性化凝固第V因子又は活性化凝固第VIII因子との結合を阻害する物質が挙げられる。具体的には、例えば、抗活性化プロテインC抗体、抗活性化凝固第V因子抗体、抗活性化凝固第VIII因子抗体、活性化プロテインC部分ペプチド、活性化凝固第V因子の部分ペプチド、活性化凝固第VIII因子の部分ペプチドこれらと同様の活性を示す低分子化合物などが挙げられる。
【0082】
本発明において「活性化プロテインCの活性を阻害する物質と組み合わせて用いる」とは、プロテインCの活性化を阻害する物質と活性化プロテインCの活性を阻害する物質とを、同時に、別々に、または、順次に投与するために組み合わせることを意味する。プロテインCの活性化を阻害する物質と活性化プロテインCの活性を阻害する物質は、1つの医薬組成物中に含まれていてもよいし、別々の医薬組成物に含まれていてもよい。さらに、プロテインCの活性化を阻害する物質を含む医薬組成物と活性化プロテインCの活性を阻害する物質を含む医薬組成物が構成に含まれるキットであってもよい。
また、プロテインCの活性化を阻害する物質が、同時に活性化プロテインCの活性を阻害する物質としては、例えば、抗体が挙げられる。具体的には、例えば、上述の抗プロテインC抗体のうち、さらに、活性化プロテインCの活性を阻害する作用を有する抗体を好ましい抗体として挙げることができる。より具体的には、プロテインC及び活性化プロテインCに結合する抗体が挙げられる。
【0083】
活性化プロテインCの活性を阻害するかどうかは、公知の方法に従って確認することができる。例えば、活性化プロテインCの活性を阻害する候補物質を活性化プロテインCと接触させた後、活性化凝固第V因子を添加し、活性化プロテインCによる活性化凝固第V因子の不活性化反応を開始させる。その後、活性化血液凝固第X因子とプロトロンビンを添加することで、活性化凝固第V因子依存的なトロンビン生成を開始させ、生成されたトロンビンの活性を測定することで、当該候補物質が活性化プロテインCの不活性化を阻害しているかどうかを確認することができる。具体的には実施例3に記載の通りである。
【0084】
本発明における医薬組成物は、含有されるプロテインCの活性化を阻害する物質が、活性化プロテインCによる抗血液凝固作用を阻害し、血液凝固を促進させる作用を有することから、活性化プロテインCによる抗血液凝固作用を阻害する、或いは、止血作用を促進するために利用することができる。また、当該血液凝固を促進させる作用により、血液凝固機能の低下に起因する出血性疾病の治療に利用することができる。このような疾患としては、例えば、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患等を挙げることができる。具体的には、血友病、後天性血友病、フォンビルブランド因子(vWF)の機能異常または欠損に起因するフォンビルブランド病、後天性フォンビルブランド病等が挙げられる。
【0085】
したがって、本発明は、プロテインCの活性化阻害物質を含有する、抗血液凝固作用を阻害するための医薬組成物、止血作用を促進するための医薬組成物、或いは、出血性疾患の治療のための医薬組成物を提供する。
【0086】
本発明の医薬組成物は、経口、非経口投与のいずれかによって患者に投与することができる。好ましくは非経口投与である。係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによって本発明の医薬組成物が全身または局部的に投与できる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000 mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。しかしながら、本発明の医薬組成物はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0087】
本発明の医薬組成物は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。医薬的に許容される担体および添加物としては、例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。さらにこれらに制限されず、その他常用の担体や添加物が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として挙げることができる。
【0088】
また、必要に応じ本発明の抗体をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明の抗体に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 15: 267-277 (1981); Langer, Chemtech. 12: 98-105 (1982);米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 22: 547-556 (1983);EP第133,988号)。
【0089】
また本発明は、本発明の抗体もしくは組成物を投与する工程を含む、出血、出血を伴う疾患、または出血に起因する疾患の予防および/または治療するための方法を提供する。抗体もしくは組成物の投与は、例えば、前記の方法により実施することができる。
【0090】
さらに本発明は、少なくとも本発明の抗体もしくは組成物を含む、上記方法に用いるためのキットを提供する。該キットには、その他、注射筒、注射針、薬学的に許容される媒体、アルコール綿布、絆創膏、または使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
【0091】
また本発明は、本発明のプロテインCの活性化阻害物質を含む医薬組成物の、出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療剤の製造における使用に関する。
【0092】
また本発明は、出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療用の、本発明の多重特異性抗原結合分子もしくは二重特異性抗体、または組成物に関する。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0093】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
【0094】
〔実施例1〕マウスプロテインCの作製
マウスプロテインCの全長翻訳領域をカバーするcDNAをマウス肝臓からPCR法により増幅した。これを鋳型に、さらにC末端にFLAG Tagを付与した『遺伝子をPCR法』により増幅し、発現ベクターへサブクローニングした。該発現ベクターをCHO細胞にトランスフェクションし、培養した。得られた培養上清から、常法に従って、マウスプロテインC-Flag蛋白を精製した。
【0095】
〔実施例2〕抗マウスプロテインCラット抗体の作製
実施例1で作製したマウスプロテインC-Flag蛋白(0.1 mg/匹)を、Freund's Complete Adjuvant(FCA、Difco Laboratories、現Becton Dickinson Co)と混合し、SDラット(2匹、日本チャールス・リバー株式会社)の片足のフットパッドへ接種した。接種の2週間後、免疫ラットより腸骨リンパ節を摘出した。摘出したリンパ節細胞を用いて、常法に従い、ハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマの培養上清を用い、ハイブリドーマが産生する抗体のマウスプロテインC-FlagとFlagタンパクに対する結合活性をELISAに測定した。マウスプロテインCに対して特異的に結合活性を示す抗体を産生するハイブリドーマを選択した。選択したハイブリドーマを培養し、培養上清より抗マウスプロテインC抗体を、常法に従って精製した。精製抗体に関しては、実施例3、4記載の方法等でスクリーニングを実施し、マウスプロテインCの活性化及び/または活性化プロテインC活性を阻害する抗体としてMP35及びMP51を選択した。
【0096】
〔実施例3〕マウス活性化プロテインCによるFVa不活化に対する抗マウスプロテインC抗体MP35及びMP51の効果
(方法)
(1)試薬の調製
・抗マウスプロテインC抗体は、0.1%牛血清アルブミンを含むトリス緩衝生理食塩水(TBSB)にて、15、50 μg/mLに調製した。
・ヒルジン(Merck KgaA)は、TBSBにて、10 IU/mLに調製した。
・マウスプロテインC-Flag、ヒトαトロンビン(Enzyme Research Laboratories)、ウサギトロンボモジュリン(American Diagnostica)、ヒト活性化凝固第X因子(FXa、Enzyme Research Laboratories)、ヒト活性化凝固第V因子(FVa、Enzyme Research Laboratories)及びヒトプロトロンビン(Enzyme Research Laboratories)は、104 μMのリン脂質溶液(10% ホスファチジルセリン/60% ホスファチジルコリン/30% ホスファチジルエタノラミン (Avanti Polar Lipids);Okuda, M. & Yamamoto, Y. Clin. Lab. Haem. 26, 215-223 (2004)に従い調製)、8.3 mM のCaCl
2、 1.7 mMのMgCl
2を含むTBSB(TBCP)にて、それぞれ、24.8 μg/mL、1.48 μg/mL、14.8 μg/mL、9.66 ng/mL、2.25 ng/mL及び50 μg/mLに調製した。
・マウス活性化プロテインCは、24.8 μg/mLのマウスプロテインC-Flag、1.48 μg/mLのヒトαトロンビン、14.8 μg/mLのウサギトロンボモジュリンを各等量ずつ混合し、37℃で120分間インキュベーション後、混合溶液の3分の1容量の10 U/mLのヒルジンを添加することにより作製した。これを、TBSBにて、3333倍に希釈した。
・S-2238(CHROMOGENIX)は、精製水で4 mMに溶解後、さらに精製水で1.6 倍希釈した。
【0097】
(2)アッセイ
96 wellプレートに、(1)で調製したマウス活性化プロテインC 5 μLと、0.5、1.5、5、15、50、150、500 μg/mLの抗マウスプロテインC抗体 5 μLを混合し、室温にて30分間インキュベーションした。(抗体無添加群においては、抗体溶液の代わりにTBSB 5 μLと混合した。また、マウス活性化プロテインC及び抗体無添加群においては、それらの代わりにTBCP5 μL及びTBSB 5 μLと混合した。)
次いで、室温にて2.25 ng/mLのFVa 5μLを添加し、FVa不活化反応を開始させた。15分間後、残存FVa活性を評価するために、9.66 ng/mLのヒト FXa 5 μLと50 μg/mLのヒトプロトロンビン 5 μLを添加して、FVa濃度依存的なトロンビン生成反応を開始させた。10分間後、0.5 MのEDTA 5 μLを添加してトロンビン生成反応を停止させた。生成したトロンビンの活性を測定するため、発色基質溶液S-2238 5 μLを添加し、発色反応を開始させた。15分間の発色反応後、405 nmの吸光度変化をSpectraMax 340PC
384(Molecular Devices)を用いて測定した。
【0098】
(結果)
抗マウスプロテインC抗体 MP35又はMP51は、いずれも吸光度を上昇させた(
図1)。従って、MP35及びMP51共にマウス活性化プロテインCによるFVa不活化を阻害することが示された。
【0099】
〔実施例4〕トロンビン/トロンボモジュリン複合体によるマウスプロテインC活性化に対する抗マウスプロテインC抗体MP35及びMP51の効果
(方法)
(1)試薬の調製
・抗マウスプロテインC抗体及びヒルジンはTBSBにて、それぞれ120 μg/mL及び75 U/mLに調製した。
・マウスプロテインC-Flag、ヒトαトロンビン及びウサギトロンボモジュリンは、TBCPにて、それぞれ、24.8 μg/mL、14.8 μg/mL及び14.8 μg/mLに調製した。
・Spectrozyme aPC(American Diagnostica)は、精製水で5 mMに溶解後、さらに精製水で6.25 倍希釈した。
【0100】
(2)アッセイ
96 wellプレートに、120 μg/mLの抗マウスプロテインC抗体 5 μL、及び24.8 μg/mLのマウスプロテインC-Flag蛋白溶液 5 μLを混合し、室温にて30分間インキュベーションした。(抗体無添加群においては、抗体溶液の代わりにTBSB 5 μLと混合した。)
次いで、37℃にて14.8 μg/mLのヒトαトロンビン 5 μLと14.8 μg/mLのウサギトロンボモジュリン5 μLを添加し、マウスプロテインC活性化反応を開始させた。120分間後、75 U/mLのヒルジン10 μLを添加してプロテインC活性化反応を停止させた。生成した活性化プロテインCの活性を測定するため、発色基質溶液Spectrozyme aPC 10 μLを添加し、発色反応を開始させた。45分間の発色反応後、405 nmの吸光度変化を吸光度計SpectraMax 340PC
384(Molecular Devices)を用いて測定した。
【0101】
(結果)
抗マウスプロテインC抗体 MP51の添加により、吸光度が低下した。一方、MP35を添加しても、吸光度の変化は示さなかった(
図2)。従って、MP51はプロテインC活性化反応を阻害するが、MP35は阻害しないことが示された。なお、マウスプロテインC活性化反応中の抗体濃度は40 μg/mLである。
【0102】
〔実施例5〕プロテインC活性化物質を添加したマウス血漿におけるトロンビン生成に対する抗マウスプロテインC抗体の効果
(方法)
(1)試薬の調製
・抗マウスプロテインC抗体は、TBSBにて、0.18、0.6、1.8、6、18、60、及び180 μg/mLに調製した。
・プロテインC活性化物質(製品名Protac、American Diagnostica Inc)は、精製水で溶解し(6 U/mL)、更にTBSで4 U/mLに調製した。
【0103】
(2)アッセイ
蛍光測定用96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific、Immulon 2HB "U" Bottom Microtiter Plates、3655)の各ウェルに、0.18、0.6、1.8、6、18、60、及び180 μg/mLの抗マウスプロテインC抗体 25 μLとマウスクエン酸血漿15 μLを混和し、室温で15分間静置した。(抗体無添加群においては、抗体溶液の代わりにTBSB 5 μLと混合した。)
次いで、4 U/mLのプロテインC活性化物質(製品名Protac、American Diagnostica Inc)40 μLと凝固開始試薬であるPPP-Reagent LOW(Thrombinoscope BV.)20 μLを添加し、37℃で15分間室温にて静置した。
なお、プロテインCをProtacで活性化させない場合のトロンビン生成を測定するため、抗体溶液の代わりに同容量のTBSB、Protacの代わりに同容量のTBSを添加したサンプルも準備した。
その後、プレートをトロンビン生成蛍光システムにセットし、37℃で約5分間インキュベーション後、測定を開始させた。(測定開始と同時に、Fluo-SubstrateとFluo-Bufferの混合溶液20 μLが添加される。)
なお、各サンプルから得られる蛍光強度をトロンビン量に換算するために、同一プレート内で、マウス血漿15 μLとTBSB 25 μLの混合溶液に、凝固開始試薬の代わりにThrombin Calibrator(Thrombinoscope BV.)20 μLを添加するウェルも設定した。
なお、トロンビン生成蛍光システム専用解析ソフトThrombinoscope software version 3.0.0.29(Thrombinoscope BV.)の設定条件は以下のとおりである。
・Fluo-SubstrateとFluo-Bufferの混合溶液量(設定項目 Dispense):20 μL
・攪拌時間(設定項目 Shake):10秒間
・測定時間(設定項目 Totaltime):60分間
・測定間隔(設定項目 Interval):20秒
・励起波長(自動設定):390 nm
・蛍光波長(自動設定):460 nm
算出されたトロンビン生成開始時間(Lag time(min))及び最大トロンビン生成量(Peak height(nmol/L))を用い、マウス血漿中における抗マウスプロテインC抗体の活性化プロテインC活性阻害能を評価した。
【0104】
(結果)
プロテインC活性化物質(Protac)を添加した正常マウス血漿のトロンビン生成に対する抗マウスプロテインC抗体の効果を
図3Aに示した。正常マウス血漿にProtacを添加することにより、Lag timeは2.0 分から2.4 分に延長し、Peak heightは53 nMから22 nMに減少したことから、Protacで生成された活性化プロテインCが本血漿において抗凝固作用を示すことが確認された。抗マウスプロテインC抗体MP35、MP51共に用量依存的に、Protac添加時のLag timeを短縮させ、Peak heightを増加させた。
同様に、FVIII欠乏マウス血漿に関しても評価した(
図3B)。FVIII欠乏マウス血漿にProtacを添加することにより、Lag timeは2.2分から2.5分に延長し、Peak heightは33 nMから15 nM減少したことから、Protacで生成された活性化プロテインCが本血漿において抗凝固作用を示すことを確認した。MP35、MP51共に濃度依存的に、Protac添加時のLag timeを短縮させ、Peak heightを増加させた。
従って、正常マウス血漿又はFVIII欠損マウス血漿において、MP35及びMP51が、活性化プロテインCの抗凝固作用を阻害することにより、凝固作用を促進するポテンシャルを有することが示された。
また、血漿におけるマウス活性化プロテインC阻害活性に関しては、MP35は、MP51に比し、同等あるいはそれ以上の活性を有していることが示された。
【0105】
〔実施例6〕FVIII欠損ヌードマウスの作出
FVIII欠損マウス(B6;129S4-F8
tm1Kaz/J mice)を、ヌードマウス(Crlj: CD1-Foxn1
nu)と交配し、体毛のない表現型をFVIII欠損マウスに導入した。
【0106】
〔実施例7〕FVIII欠損ヌードマウスを用いた穿刺出血モデルにおける出血症状に対する抗マウスプロテインC抗体の効果
(方法)
Vehicle(n = 8)、3 mg/kgの抗マウスプロテインC抗体 MP51(n = 9)、又は30 mg/kgの抗マウスプロテインC抗体 MP35(n = 9)を血友病Aマウスの尾静脈内に投与した。イソフルラン麻酔下で、マウスの左右の大腿内側部筋肉に23G注射針を3 mmの深さで2カ所ずつ穿刺した。穿刺した日をDay0とし、Day1及びDay2に体表から目視可能な出血痕の面積を計測した。Day 1、Day 2それぞれで計測された出血痕面積をマウス個体ごとに総和した出血痕総面積を測定して出血の指標とした。
【0107】
(結果)
Vehicle群では、穿刺による出血刺激により、時間経過とともに出血痕総面積が増加した。プロテインC活性化と活性化プロテインCの活性を阻害する抗マウスプロテインC抗体 MP51(3 mg/kg)投与群では、Day 1及びDay 2いずれにおいても、出血痕総面積の増加が抑制された。一方、活性化プロテインCの活性のみを阻害するMP35投与(30 mg/kg)群では、vehicle群と同様に出血痕総面積が増加した(
図4)。従って、プロテインC活性化と活性化プロテインCの活性を阻害する抗プロテインC抗体が血友病Aにおける出血症状に対して止血効果を有することが示された。
【0108】
〔実施例8〕抗マウスプロテインC抗体の抗原結合部位の解析
(方法)
MP35及びMP51が、マウスPCの軽鎖、重鎖、どちらを認識するかを、western blotting(WB)を用い、検討した。マウスPC([製品名] Recombinant Mouse Coagulation Factor XIV/Protein C、[供給元] R&D Systems、 [カタログ番号] 4885-SE)をヒトトロンビン([製品名] Human alpha Thrombin、[供給元] Enzyme research laboratories、[カタログ番号] HT 1002a)及びウサギトロンボモジュリン([製品名] Rabbit Thrombomodulin、[供給元] Haematologic Technologies、[カタログ番号] RTM-2020)で活性化させ、結果生じたマウス活性化PCをSDS-PAGEした後、PVDF膜に移し、MP35又はMP51と反応させた。二次抗体([製品名] HRP-Goat anti-Rat IgG (H+L)、[供給元] Life technologies、[カタログ番号] 629520)と基質([製品名] SuperSignal West Dura Extended Duration Substrate、[供給元] サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、[カタログ番号] 34076)でMP35あるいはMP51と結合する蛋白を検出した。
【0109】
(結果)
WBの結果、MP35は、15と20 kDa間のタンパクと結合することが示された。このタンパクは、分子量及びN末シークエンスからマウス活性化PCの軽鎖であることが確認された。一方、MP51は、37と50 kDa間のタンパクと結合することが示された。このタンパクは、分子量及びN末シークエンスから活性化マウスPCの重鎖であることが確認された。したがって、MP35はマウスPC/マウス活性化PCの軽鎖、MP51はその重鎖を認識することが示された。
【0110】
〔実施例9〕抗マウスプロテインCヒト抗体の作製
実施例1で作製したマウスプロテインC蛋白を用い、ヒトナイーブ抗体ライブラリから、ファージディスプレイ法により、マウスプロテインCに結合するディスプレイファージを濃縮した。マウスプロテインCに対して特異的に結合活性を示すディスプレイファージを選択し、そこから抗体可変領域遺伝子を増幅。常法に従って遺伝子組換えIgGとして発現させ、精製した。精製抗体に関しては、実施例3、4記載の方法等でスクリーニングを実施し、マウスプロテインCの活性化及び/または活性化プロテインC活性を阻害する抗体としてL2及びL12を選択した。
【0111】
〔実施例10〕マウス活性化プロテインCによるFVa不活化に対する抗マウスプロテインC抗体L2及びL12の効果
(方法)
実施例3の方法に準じた。
(結果)
抗マウスプロテインC抗体 L2又はL12は、いずれも吸光度を上昇させた(
図5)。従って、L2及びL12共にマウス活性化プロテインCによるFVa不活化を阻害することが示された。なお、マウスプロテインC活性化反応中の抗体濃度は15または50 μg/mLである。
【0112】
〔実施例11〕トロンビン/トロンボモジュリン複合体によるマウスプロテインC活性化に対する抗マウスプロテインC抗体L2及びL12の効果
(方法)
実施例4の方法に準じた。
(結果)
抗マウスプロテインC抗体 L12の添加により、吸光度が低下した。一方、L2を添加しても、吸光度の変化は示さなかった(
図6)。従って、L12はプロテインC活性化反応を阻害するが、L2は阻害しないことが示された。なお、マウスプロテインC活性化反応中の抗体濃度は30 μg/mLである。