(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6445740
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】トレーサー技術に基づく氷河消耗の観測方法
(51)【国際特許分類】
G01D 21/00 20060101AFI20181217BHJP
G01W 1/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
G01D21/00 Z
G01W1/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2018-515961(P2018-515961)
(86)(22)【出願日】2017年8月8日
(65)【公表番号】特表2018-529961(P2018-529961A)
(43)【公表日】2018年10月11日
(86)【国際出願番号】CN2017096418
(87)【国際公開番号】WO2018028564
(87)【国際公開日】20180215
【審査請求日】2018年3月22日
(31)【優先権主張番号】201610665895.X
(32)【優先日】2016年8月12日
(33)【優先権主張国】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518098449
【氏名又は名称】チャイナ インスティチュート オブ ウォータ リソースィズ アンド ハイドロパワー リサーチ
【氏名又は名称原語表記】China Institute of Water Resources and Hydropower Research
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ドンフア
(72)【発明者】
【氏名】ワン ハオ
(72)【発明者】
【氏名】ウェン バイシャー
(72)【発明者】
【氏名】チン ティエンリン
(72)【発明者】
【氏名】シー ワンリー
(72)【発明者】
【氏名】ドン グォチァン
(72)【発明者】
【氏名】グオ シンレイ
【審査官】
深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第106323374(CN,A)
【文献】
国際公開第2018/028564(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0090516(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 21/00
G01W 1/00
G06F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに等濃度である複数種類のトレーサーを複数の水中にそれぞれ投入して均等に混合するとともに、前記複数種類のトレーサーを添加した複数の水を、内側から外側に順番に層に分けて凍らせ、作成した氷層を重ね合わせて氷河モデルを確立し、氷河モデルの体積および質量を記録し、
氷河モデル周囲の環境要因を調節し、氷河モデルの互いに異なる複数の環境要因条件下のそれぞれで、融解した水試料を収集して質量を測定し、且つ前記水試料中における前記複数種類のトレーサーのそれぞれの濃度を測定し、
記録された氷河モデルの体積および質量と、測定された水試料の質量および前記複数種類のトレーサーの濃度とに基づいて得られた、各環境要因条件下における、前記複数種類のトレーサーを含む複数の前記氷層が融解した各水試料の質量、各氷層の融解速度および位置から、現実に存在する氷河の消耗プロセスを推測することを含むことを特徴とするトレーサー技術に基づく氷河消耗の観測方法。
【請求項2】
前記環境要因が、温度、圧の強さ、および気流を含むことを特徴とする請求項1に記載のトレーサー技術に基づく氷河消耗の観測方法。
【請求項3】
前記氷河モデルの各環境要因条件下における各氷層が融解した水試料の質量△miおよび水試料体積△Viの具体的な計算方法は次のとおりであり、
△mi=△m*△Ci/△C
△Vi=△mi/g
式中、△miは、氷河モデルの各氷層が融解した水試料の質量であり、△mは、氷河モデルの融解した水試料の総質量であり、△Ciは、氷河モデルの各氷層が融解した水試料中のトレーサー濃度であり、△Cは、水試料中のトレーサー濃度の総和であり、△Viは、氷河モデルの各氷層の体積であり、gは、氷河モデルの密度であることを特徴とする請求項1に記載のトレーサー技術に基づく氷河消耗の観測方法。
【請求項4】
前記氷河モデルの各環境要因条件下における各氷層の融解速度viの具体的な計算方法は次のとおりであり、
vi=△Vi/t
式中、viは、氷河モデルの各氷層の融解速度であり、△Viは、氷河モデルの各氷層の体積であり、tは、氷河モデルの融解時間であることを特徴とする請求項3に記載のトレーサー技術に基づく氷河消耗の観測方法。
【請求項5】
現実に存在する氷河の融解速度vrの具体的な計算方法は、
vr=ar*Vr
であり、融解速度平均変化量arの具体的な計算方法は
ar=Σ(dvi/d△Vi)/n
であり、式中、arは、氷河モデルの融解速度平均変化量であり、dvi/d△Viは、氷河モデルの各氷層の融解速度変化量であり、vrは、現実に存在する氷河の融解速度であり、dviは、各氷層の局所融解速度であり、Vrは、現実に存在する氷河の実際の体積であることを特徴とする請求項4に記載のトレーサー技術に基づく氷河消耗の観測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレーサー技術に基づく氷河
消耗の観測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「World Glacier Inventory」および「中国氷河目録」の最新統計によれば、地球上の氷河の面積は15,865,756km
2であり、そのうち96.6%が南極およびグリーンランドに分布しており、北アメリカ州(1.7%)およびアジア州(1.2%)がそれに続く。これらの氷河は、人類の活動との関係が密接であり、その縮小拡大と山地周囲で暮らす人々との関係はさらに密接である。
【0003】
氷河は、気候変動の指標として、地球温暖化の傾向の下で後退が加速する傾向にある。氷河
消耗は、海面上昇の加速、地域の水循環、水資源の利用可能性のすべてに対して重要な影響を及ぼす。現在、氷河の蓄積量(体積)の変化を研究する方法として、主に従来型の測定方法、統計公式法、氷河地形測定法、リモートセンシング観測法が挙げられる。しかしながら、これらの方法は、いずれも氷河蓄積量(体積)の変化の研究に基づくものであり、氷河の融解の物理的なプロセスの点からその融解のメカニズムを研究するものはない。また、大部分の研究方法は、多くの時間、費用、労力を要し、屋外条件による制約を受け易い。本発明は、試験所の条件下で氷の融解実験を行うものであり、簡単に行うことができ、時間と労力を節減でき、結果は正確で、信頼性が高い。
【0004】
氷の融解現象は、自然界においてよく見られる物理現象であり、非定常熱伝導プロセスであり、このプロセスは相転移を伴う。氷の融解速度に対して影響を及ぼす要因は多く、直観的には、主に、温度の高低による影響、気流による影響、外部環境中の湿度による影響、氷の表面積の大きさによる影響、氷が受ける圧(気体や固体の圧力)の強さによる影響、氷中の不純物による影響などが挙げられる。
【0005】
氷河
消耗の方式には、表面
消耗、内部
消耗、底面
消耗があり、表面
消耗を主とする。氷河
消耗の研究は、氷河の縮小拡大を分析、予測するための重要な手段であり、河川流入状况を理解し、氷河資源を開発利用するための基礎である。氷河領域の流出(
消耗)および合流のプロセスについて定量的シミュレーションを行うことにより、氷河水資源の変化および管理、氷河洪水予防および氷河水エネルギー利用などのために理論的な根拠を提供することができる。また、氷河内の水流運動に対する理解、氷河内部の圧力の分布、氷河の摺動およびサージ、ならびに氷河湖決壊などに対する氷河の動力学的研究が極めて重要である。氷河の変化を定量的に評価することは、乾燥地帯の流域/地域の水資源管理、海面上昇および氷河自然災害の予防などにとって、非常に重要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、氷河モデルを確立して氷河
消耗プロセスをシミュレーションすることにより、さらに
現実に存在する氷河の
消耗速度を導き出すトレーサー技術に基づく氷河
消耗の観測方法であって、推算結果の誤差が小さく、操作が便利な観測方法を提供することを目的とする。
【0007】
上記技術的課題を解決するため、本発明は、次のステップを含む、トレーサー技術に基づく氷河
消耗の観測方法を提供する。
1、
互いに等濃度である複数種類のトレーサーを
複数の水中にそれぞれ投入して均等に混合するとともに
、前記複数種類のトレーサーを添加した
複数の水を、内側から外側に順番に層に分けて凍らせ、
作成した氷層を重ね合わせて氷河モデルを確立
し、氷河モデルの体積および質量を記録する。
2、氷河モデル周囲の環境要因を調節し、氷河モデルの
互いに異なる
複数の環境要因条件下
のそれぞれで、融解した水試料を収集し
て質量を測定し、且つ前記水試料中の
前記複数種類のトレーサーの
それぞれの濃度を測定する。
3、
記録された氷河モデルの体積および質量と、測定された水試料の質量および前記複数種類のトレーサーの濃度とに基づいて得られた、各環境要因条件下における、前記複数種類のトレーサーを含む複数の前記氷層が融解した各水試料の質量、各氷層の融解速度および位置から、現実に存在する氷河の消耗プロセスを推測する。
なお、環境要因は、温度、圧の強さおよび気流を含む。
また、氷河モデルの
各環境要因条件下における各氷層が融解した水試料の質量△
miおよび水試料体積△V
iの具体的な計算方法は次のとおりである。
△m
i=△m*△C
i/△C
△V
i=△m
i/g
式中、△m
iは、氷河モデルの各氷層が融解した水試料の質量であり、△mは、氷河モデルの融解した水試料の総質量であり、△C
iは、氷河モデルの各氷層が融解した水試料中のトレーサー濃度であり、△Cは、水試料中のトレーサー濃度の総和であり、△V
iは、氷河モデルの各氷層の体積であり、gは、氷河モデルの密度である。
また、氷河モデルの
各環境要因条件下における各氷層の融解速度v
iの具体的な計算方法は次のとおりである。
v
i=△V
i/t
式中、v
iは、氷河モデルの各氷層の融解速度であり、△V
iは、氷河モデルの各氷層の体積であり、tは、氷河モデルの融解時間である。
また、
現実に存在する氷河の融解速度
vrの具体的な計算方法は次のとおりである。
vr= ar*Vr
式中、arは、氷河モデルの融解速度平均変化量であり、
ar=Σ(dvi/d△Vi)/n
と表される。ここで、dv
i/d△V
iは、氷河モデルの各氷層の融解速度変化量であり、
vrは、
現実に存在する氷河の融解速度であり、dv
iは、各氷層の局所融解速度であり、Vrは、
現実に存在する氷河の実際の体積である。
【0008】
本発明の有益な効果は以下のとおりである。本願は、氷河モデルを確立することにより、
現実に存在する氷河の
消耗速度を計算し、さらに
現実に存在する氷河の
消耗モニタリングを実現する。かつ、本願は、水試料中のトレーサーの含有量を測定することにより、
各氷層の融解速度を導き出し、
各氷層の融解速度により、氷河モデルの融解速度平均変化量を得て、最後に、氷河モデルの融解速度平均変化量に基づき、
現実に存在する氷河の融解速度を導き出す。本方法により得られる氷河の融解速度は、正確性が高く、
現実に存在する氷河の融解速度を正確に計算することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、当業者が本発明について理解することができるように、本発明の具体的な実施形態について記述するが、本発明は、具体的な実施形態の範囲に限定されず、当業者にとって、各種変更が、特許請求の範囲で限定され確定された本発明の趣旨および範囲内にあるものでありさえすれば、これらの変更は自明なものであり、本発明の構想を用いた一切の発明は、いずれも保護されることを明確にされたい。
【0010】
トレーサー技術に基づく氷河融解の観測方法
実施例1:この方法は、次のステップを含む。
ステップ1:
互いに等濃度である複数種類のトレーサーを
複数の水中にそれぞれ投入して均等に混合するとともに
、前記複数種類のトレーサーを添加した
複数の水を、内側から外側に順番に層に分けて凍らせ、
作成した氷層を重ね合わせて氷河モデルを確立
し、氷河モデルの体積および質量を記録する。
ステップ2:氷河モデル周囲の環境要因を調節し、氷河モデルの
互いに異なる
複数の環境要因条件下
のそれぞれで、融解した水試料を収集し
て質量を測定し、且つ前記水試料中の
前記複数種類のトレーサーの
それぞれの濃度を測定する。
ステップ3:
記録された氷河モデルの体積および質量と、測定された水試料の質量および前記複数種類のトレーサーの濃度とに基づいて得られた、各環境要因条件下における、前記複数種類のトレーサーを含む複数の前記氷層が融解した各水試料の質量、各氷層の融解速度および位置から、現実に存在する氷河の消耗プロセスを推測する。
【0011】
実施例2:
実施例1に記載の環境要因とは、具体的には、温度、圧の強さ、および気流を言う。
実施例3:
実施例のうち1に記載の氷河モデルの異なる条件下における各氷層が融解した水試料の質量△m
Iおよび水試料体積△V
iの具体的な計算方法は次のとおりである。
△m
i=△m*△C
i/△C
△V
i=△m
i/g
式中、△m
iは、氷河モデルの各氷層が融解した水試料の質量であり、△mは、氷河モデルの融解した水試料の総質量であり、△C
iは、氷河モデルの各氷層が融解した水試料中のトレーサー濃度であり、△Cは、水試料中のトレーサー濃度の総和であり、△V
iは、氷河モデルの各氷層の体積であり、gは、氷河モデルの密度である。
【0012】
実施例4:
実施例3における氷河モデルの各氷層の体積により、氷河モデルの異なる条件下における各氷層の融解速度v
iを得ることができ、その具体的な計算方法は次のとおりである。
v
i=△V
i/t
式中、v
iは、氷河モデルの各氷層の融解速度であり、△V
iは、氷河モデルの各氷層の体積であり、tは、氷河モデルの融解時間である。
【0013】
実施例5:
実施例4における氷河モデルの各氷層の融解速度により、
現実に存在する氷河の融解速度
vrを得ることができ、その具体的な計算方法は次のとおりである。
vr=ar*Vr
式中、arは、氷河モデルの融解速度平均変化量であり、
ar=Σ(dvi/d△Vi)/n
と表される。ここで、dv
i/d△V
iは、氷河モデルの各氷層の融解速度変化量であり、
vrは、
現実に存在する氷河の融解速度であり、dv
iは、各氷層の局所融解速度であり、Vrは、
現実に存在する氷河の実際の体積である。