(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
極低温に冷却したときに電気抵抗がゼロになる性質を利用して、超電導コイルは、ジュール熱を発生させずに電流密度を大きくすることができ、高磁場を発生するのに適している。このような超電導コイルから構成される超電導磁石装置は、高磁場発生装置として、物性の研究分野等で広く利用されている。
ここで、超電導コイルは4K程度の極低温に冷却する必要があり、液体ヘリウムなどを冷媒として用いている。
【0003】
この液体ヘリウムは、直接的な取り扱いが難しく資源的にも恵まれていないために、近年は極低温冷凍機を用いて超電導コイル冷却する方法が普及してきている。
この極低温冷凍機の普及に伴い、特に、高温超電導体の実用化が急速に進展している。
例えば、高温超電導コイルと低温超電導コイルとを組み合わせることにより、小型の冷凍機を用いた高磁場の発生装置が開発されている(例えば、非特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した超電導磁石装置は、定常時においては熱侵入と接続部発熱による1〜2W程度の熱量を冷却するだけで充分であるが、励磁時又は消磁時においては磁場変化に伴う磁気ヒステリシス損失により定常時の数倍発熱する。
そのため超電導磁石装置のさらなる実用化を推進するために冷凍機は、この励消磁時の発熱に対応するため、大きな冷凍能力が要求されている。
【0006】
低温超電導コイルは、極細多芯線などの低損失導体の開発により磁気ヒステリシス損失の低減が図られているが、高温超電導コイルは、磁気ヒステリシス損失が大きい。
一方で、高磁場化を目指すためには高温超電導コイルを大型化する要請があり、冷凍能力の大幅な増強を達成させなければならない課題がある。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、大きな発熱に対して高効率に冷却することができる超電導磁石装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超電導磁石装置において、真空容器中に配置される、高温超電導コイルからな
る第1超電導コイル及びこの
高温超電導コイルと同軸に配置され高温超電導コイルよりも
超電導が発現する臨界温度が低い低温超電導コイルからなる第2超電導コイルと、
前記第
1超電導コイルの両端にガス循環伝熱回路から延びる配管から送られる低温のガスによっ
て熱交換する冷却ステージを備え、この第1超電導コイル
の両端から冷却する、蓄冷式冷
凍機
と前記ガス循環伝熱回路とを組み合わせた冷却方式である第1冷却部と、前記第1冷
却部から独立して制御され、蓄冷式冷凍機とジュール・トムソン冷凍機とを組み合わせた
冷却方式であるとともに前記第2超電導コイルを冷却する第2冷却部と、を備えることを
特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、高磁場を発生させることができ、大きな発熱に対して高効率に冷却することができる超電導磁石装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、第1実施形態に係る超電導磁石装置30は、真空容器31中に配置される第1超電導コイル11と、この第1超電導コイル11と同軸に配置される第2超電導コイル12と、第1超電導コイル11を冷却する第1冷却部10と、この第1冷却部10から独立して制御されるとともに第2超電導コイル12を冷却する第2冷却部20と、を備えている。
【0012】
各実施形態において第1超電導コイル11は、高温超電導コイル11である。
この高温超電導コイル11の片側端面には、第1冷却ステージ14が接続されており、この第1冷却ステージ14が、第1冷却部10と熱交換する。
【0013】
各実施形態において第2超電導コイル12は、低温超電導コイル12である。
この低温超電導コイル12の片側端面には、第2冷却ステージ15が接続されており、この第2冷却ステージ15が、第2冷却部20と熱交換する。
【0014】
このように、円筒形状の第1超電導コイル11及び第2超電導コイル12が同軸に配置されることにより、第1超電導コイル11で発生した磁場と、第2超電導コイル12で発生した磁場とが重畳して、磁場空間13に高強度の磁場を発生させる。
また、この第1超電導コイル11及び第2超電導コイル12は、互いに接触しないように真空容器中31に支持されているので、それぞれ第1冷却部10及び第2冷却部20により独立に温度制御される。
【0015】
なお、各実施形態において、内側に高温超電導コイルを配置し、外側に低温超電導コイルを配置しているが、この関係が逆転している場合もあるし、第1超電導コイル11及び第2超電導コイル12が共に高温超電導コイルである場合も、共に低温超電導コイルである場合も含まれる。
ここで、狭義において、高温超電導コイルとは、超電導が発現する臨界温度が約25K以上である、YBa
2Cu
3O
7、Bi
2Sr
2Ca
2Cu
3O
10、MgB
2等の超電導材料を用いたコイルであり、低温超電導コイルとは、臨界温度が約25K以下であるNbTi、Nb
3Sn等の超電導材料を用いたコイルである。
【0016】
また、広義において、高温超電導コイルとは、低温超電導コイルよりも、超電導が発現する臨界温度が、高温であるものを指す。
また、各実施形態において配置されている超電導コイルは二つであり、一つの超電導コイルに対し一つの冷却部が対応しているが、超電導コイルが三つ以上配置される場合もあり、一つの冷却部が二つ以上の超電導コイルの冷却を担当する場合もある。
また、円筒形状の第1超電導コイル11及び第2超電導コイル12が同軸に配置される例で示したが、必要に応じて4コイルまたは6コイルを2個ずつ対向するように水平面上に配置する場合もある。
【0017】
第1冷却部10は、ギフォード・マクマホン冷凍機(GM冷凍機)32aとガス循環伝熱回路40とを組み合わせた構成となっている。
ギフォード・マクマホン冷凍機32aで冷却された低温のガスは、冷却ステージ14に送られて熱交換した後に、ガス循環伝熱回路40を循環して熱交換器42に送られる。
【0018】
ガス循環伝熱回路40は、ガス循環圧縮機41a、2段の熱交換器42及びこれらと第1冷却ステージ14を接続する第1配管43で構成されている。
さらに、ガス循環伝熱回路40には、流量調整弁44、バッファタンク45a、流量計46が付属している。
【0019】
ガス循環伝熱回路40で伝達される熱量Qは、次式(1)に示すように、冷却ステージ14の入口温度T
Lと出口温度T
Hの温度差とガス流量mで決まる。
Q=mC(T
H−T
L) …(1)
【0020】
この伝熱量Qが決まっている場合は、ガス流量mが少ないと、冷却ステージ14の入口出口温度差(T
H−T
L)が大きくなり、出口温度T
Hが高くなることで、第1超電導コイル11の温度が高くなる。
一方で、ガス流量mが多すぎると、熱交換器42の損失によりGM冷凍機32aに入る熱量が増えるため、このGM冷凍機32aの温度が高くなり、結果的に第1超電導コイル11の温度が高くなる。
したがって、第1超電導コイル11の冷却性能を維持するために、ガス循環伝熱回路40は、常に最適流量となるように制御される。
【0021】
この最適流量は、コイル温度により変化するものである。
このために、第1超電導コイル11を室温から極低温まで予冷する場合など、コイル温度が大きく変化する場合、ガス流量mは、コイル温度に合わせて制御される。
コイル温度を温度計(図示略)で測定し、この測定温度に応じて流量調整弁44が調節される。
【0022】
なお、各実施形態では、磁場空間13に高強度の磁場を発生させることを前提にしている。GM冷凍機32aは、磁場の影響を受けて運転に支障が生じる恐れがあるため、超電導コイル11,12から十分に距離を離すことが望まれる。
そのためガス循環伝熱回路40のうち低温に保持されている配管43の長さが長くなり、低温を示す配管内容積も大きくなる。
ここで、ガス温度が低くなると、配管内のガス圧力が低下し、極端な場合にはガス循環圧縮機41aの安全装置が作動してしまう。
そこで、室温雰囲気に十分な容量のバッファタンク45aを設けることで、配管43内のガス圧力の過度の低下を抑制することができる。
【0023】
なお、各実施形態において第1冷却部10は、GM冷凍機32aとガス循環伝熱回路40を組み合わせた構成を例示しているが、超電導コイル11,12とGM冷凍機32aの距離を短くすることができる場合は、ガス循環伝熱回路40に代えて金属伝熱板(図示略)を組み合わせて第1冷却部10を構成することもできる。
また、GM冷凍機32aに代えてパルスチューブ冷凍機やスターリング冷凍機といった蓄冷式冷凍機を採用することも検討される。
【0024】
第2冷却部20は、GM冷凍機32bとジュール・トムソン冷凍機21とを組み合わせたGM/JT冷凍機が採用される。
この第2冷却部20は、第1冷却部10から独立して制御されるとともに、GM/JT冷凍機で冷却された低温の冷媒は、第2冷却ステージ15に送られて熱交換した後に、再び第2冷却部20に送られる。
【0025】
GM/JT冷凍機は、GM冷凍機32bを予冷に用い、JT冷凍機21側は排気圧力を大気圧の0.1MPa程度にまで下げることにより、冷媒であるヘリウムを液化させる。
一般にGM/JT冷凍機は、4Kレベルの冷却における冷凍効率はGM冷凍機より優れるが、それよりも高温領域の冷凍効率はGM冷凍機よりも劣る。
なお、第2冷却部20のGM/JT冷凍機において、GM冷凍機32bに代えてパルスチューブ冷凍機やスターリング冷凍機といった蓄冷式冷凍機を採用することも検討される。
【0026】
GM冷凍機32bは、磁場の影響を受けて運転に支障が生じる恐れがあるため、超電導コイル11,12から十分に距離を離すことが望まれる。
そのため第2冷却部20の回路のうち低温に保持されている第2配管22の長さが長くなり、低温を示す配管内容積も大きくなる。
ここで、ガス温度が低くなると、配管内のガス圧力が低下し、極端な場合にはガス循環圧縮機41bの安全装置が作動してしまう。
そこで、室温雰囲気に十分な容量のバッファタンク45bを設けることで、配管22内の圧力の過度の低下を抑制することができる。
【0027】
以上のように構成された第1実施形態では、励磁時に高温超電導コイル11から大きな発熱(例えば10W程度)があった場合は、GM冷凍機32aの温度が上昇し、コイル温度も上昇する。
ここでGM冷凍機32aは冷却温度が上昇すると冷凍能力が急激に増加するため、4Kで1Wの冷凍機に10Wの熱負荷を加えても10K程度でバランスする。
この高温超電導コイルは10K程度でも十分に超電導性を維持させることができるために、高磁場発生装置の機能は損なわれない。
一方、GM/JT冷凍機は、熱負荷が4Kの冷凍能力を超えるとバランスを崩して急激に温度上昇するため、4Kで10Wの冷凍能力を得るには冷凍機が3台必要となる。
【0028】
これに対し、GM/JT冷凍機で冷却される低温超電導コイルは、励磁時又は消磁時における磁場変化に伴う磁気ヒステリシス損失による発熱が少ない。
さらにこのGM/JT冷凍機は、高温超電導コイルから独立しており、高温超電導コイルの温度上昇による熱侵入量は十分に小さく、冷凍能力を超える熱負荷にさらされる危険性も少ない。
このように、実施形態の構成によれば、励消磁時に高温超電導コイルで大きな発熱があっても、冷凍機台数を大幅に増やすことなく、所定温度以下に冷却を維持することができる。
【0029】
(第2実施形態)
次に
図2に基づいて本発明における第2実施形態について説明する。なお、
図2において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。なお、
図2において、第2冷却部20の記載が省略されている。
第2実施形態において高温超電導コイル(第1超電導コイル11)は、両端に冷却ステージ14a,14bを備え冷却される。
【0030】
これら冷却ステージ14a,14bは、熱交換が可能となるようにガス循環伝熱回路40から延びる配管43a,43bを貫通させている。
そして、これら配管43a,43bは、冷却ステージ14a,14bを通過する冷媒が直前にGM冷凍機32aを経由するように、冷却対象となる超電導コイル11との間で複数回往復するように施設される。
【0031】
第2実施形態のように、コイルの両端に冷却ステージ14a,14bが設けられることで、各ステージの伝熱量は二等分され、各ステージの入口−出口温度差は、第1実施形態の場合の1/2になる。
高温超電導コイルの磁気ヒステリシス損失は、コイルの両端部分に集中することが知られている。第2実施形態では、最も発熱する所が集中的に冷却されるため温度分布も小さくでき、効率的な冷却が実現される。
【0032】
また、第2実施形態では、一つの冷却ステージ14a(14b)に対して、配管43a(43b)が一往復しかしていないが、複数回往復するように配管を施設することも考えられる。
【0033】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の超電導磁石装置によれば、真空容器に配置された複数の超電導コイルを、独立に制御される少なくとも二つの冷却部で冷却することにより、大きな発熱に対して高効率に冷却することが可能となる。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。