特許第6445760号(P6445760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6445760上層膜形成用組成物およびそれを用いたレジストパターン形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6445760
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】上層膜形成用組成物およびそれを用いたレジストパターン形成方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/11 20060101AFI20181217BHJP
   H01L 21/027 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   G03F7/11 501
   H01L21/30 575
   H01L21/30 574
   H01L21/30 531E
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-242092(P2013-242092)
(22)【出願日】2013年11月22日
(65)【公開番号】特開2015-102627(P2015-102627A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
(73)【特許権者】
【識別番号】511293803
【氏名又は名称】アーゼッド・エレクトロニック・マテリアルズ(ルクセンブルグ)ソシエテ・ア・レスポンサビリテ・リミテ
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒョンウ
(72)【発明者】
【氏名】パク チョル ホン
(72)【発明者】
【氏名】王 暁偉
(72)【発明者】
【氏名】岡安 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】浜 祐介
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ パウロウスキ
【審査官】 高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−166416(JP,A)
【文献】 特開2013−079176(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0263921(US,A1)
【文献】 特表2013−534727(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/053302(WO,A1)
【文献】 特開2009−157080(JP,A)
【文献】 特開2012−117052(JP,A)
【文献】 特開2010−245022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004−7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極紫外線を用いたフォトリソグラフィー法によるレジストパターン形成用のレジスト膜の上層に形成される上層膜用の組成物であって、
親水性基を有するグラフェン誘導体および溶剤を含んでなり、
前記グラフェン誘導体の重量平均分子量は、1000〜20000であり、
前記グラフェン誘導体は、グラフェンを酸化することにより得られたものであることを特徴とする上層膜形成用組成物。
【請求項2】
前記親水性基は、水酸基又はカルボキシル基から選択されることを特徴とする請求項1に記載の上層膜形成用組成物。
【請求項3】
前記グラフェン誘導体の含有量が、上層膜形成用組成物の総重量を基準として、0.01〜10重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の上層膜形成用組成物。
【請求項4】
バインダーをさらに含んでなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の上層膜形成用組成物。
【請求項5】
前記バインダーが深紫外線吸収基を有することを特徴とする請求項4に記載の上層膜形成用組成物。
【請求項6】
前記バインダーの含有量が、上層膜形成用組成物の総重量を基準として、0.01〜10重量%であることを特徴とする請求項4または5に記載の上層膜形成用組成物。
【請求項7】
基板上にレジスト組成物を塗布してレジスト膜を形成させ、前記レジスト膜上に、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の上層膜形成用組成物を塗布し、加熱により硬化させ、極紫外線を用いて露光し、アルカリ水溶液で現像することを含んでなることを特徴とするパターン形成方法。
【請求項8】
前記極紫外線の波長が5〜20nmであることを特徴とする請求項7に記載のパターン形成方法。
【請求項9】
形成される上層膜の膜厚が1〜100nmであることを特徴とする請求項8に記載のパターン形成方法。
【請求項10】
前記加熱の温度が、25〜150℃であることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載のパターン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトリソグラフィー法に用いられる上層膜形成用組成物に関するものである。より詳しくは、フォトリソグラフィー法によりレジストパターンを形成させようとする場合に、極紫外線レジスト膜を露光するのに先立って、レジスト膜の上に形成される上層膜を形成させるための組成物に関するものである。また、本発明はそのような上層膜形成用組成物を用いたパターン形成方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種装置の小型化に伴って半導体集積回路の高集積化の要求が高く、それにこたえるべくレジストパターンもより微細なものが求められるようになっている。このようなニーズに応えるためにはフォトリソグラフィー法において、より波長の短い光で露光することが必要となる。このため、用いられる光はより短波になり、可視光から、紫外線、遠紫外線、さらには極紫外線まで使われるようになっている。例えば、ICやLSI等の半導体デバイス、より具体的にはDRAM、フラッシュメモリー、ロジック系半導体の製造過程においては、超微細パターンを形成させることが要求されるため、極紫外線によるフォトリソグラフィーの重要性が高まっている。
【0003】
これに対応して、それぞれの波長の光に対して感度を有する各種のレジスト組成物が開発されている。ここで極紫外線を用いたフォトリソグラフィー法には、従来市販されている化学増幅型レンジストの殆どが利用できると考えられていた。具体的には一般的なKrFレーザー露光用レジストまたはArFレーザー露光用レジストは、極紫外線により露光するフォトリソグラフィーにも利用できるとされていた。しかしながら、現実には解像度、感度、またはラフネスなど改良が望ましい点が多数残されているのが現状である。
【0004】
一方、露光装置にも光源やマスクの問題が残されており、極紫外線を用いたリソグラフィー法の実用化が遅れている理由となっている。極紫外線光源の中に含まれている長波長光、特に深紫外線光、例えば波長が193nmや248nmの光はレジストパターン形状の悪化を引き起こす重要な原因として認識されていた。前記したように、極紫外線を利用したフォトリソグラフィー法に、KrFレーザー用、またはArFレーザー用レジスト組成物を用いた場合、これらのレジストは極紫外線より波長の長い深紫外線に対しても高い感度を示すことは当然である。
【0005】
露光光源から放射される極紫外線には、より長波長の光、例えば深紫外線が含まれるのが一般的である。このため、極紫外線を用いたフォトリソグラフィー法によってパターンを形成させる場合には、そのような深紫外線の含有量が少ない光源が望ましい。露光装置から照射される光から深紫外線を除去するためには、極紫外線の発生方法を調整すること、たとえば光学系を調整することが行われる。しかしながら、従来の露光光源では、深紫外線を完全に除去することが困難であり、従来の露光装置では極紫外線に含まれる深紫外線の含有量を3%以下に抑えることができなかった。このように極紫外線に含まれる深紫外線は、レジストパターンのラフネス悪化や、パターン形状の悪化を引き起こす要因となっており、そのような課題の改良手段が望まれていた。
【0006】
このような課題に対して、レジスト膜の上側に、極紫外線は透過するが深紫外光を吸収する上層膜を形成させる方法が開発されている(特許文献1および2)。また、そのような上層膜に用いることのできる、深紫外線を吸収するポリマーについても検討されている(特許文献3)。すなわち上層膜の深紫外線吸収効果を高めるために、ベンゼン、ナフタレンまたはアントラセン骨格を有するポリマーを用いていた。そして、深紫外線の吸収をより高くするために、ポリマー種の探索や、ポリマーの組み合わせについて検討がなされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−348133号公報
【特許文献2】米国特許公開第2012/21555号公報
【特許文献3】国際公開第2012/053302号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これまでに提案されている上層膜に対して、深紫外線吸収効果がより大きい上層膜が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による上層膜形成用組成物は、極紫外線を用いたフォトリソグラフィー法によるレジストパターン形成用のレジスト膜の上層に形成される上層膜用の組成物であって、親水性基を有するグラフェン誘導体および溶剤を含んでなり、前記グラフェン誘導体の重量平均分子量は、1000〜20000であり、前記グラフェン誘導体は、グラフェンを酸化することにより得られたものであることを特徴とするものである。このような上層膜形成用組成物において、前記親水性基は、水酸基又はカルボキシル基から選択されることが好ましく、また、前記グラフェン誘導体の含有量が、上層膜形成用組成物の総重量を基準として、0.01〜10重量%であることが好ましい。そして、バインダーをさらに含んでなることが好ましく、また、前記バインダーが深紫外線吸収基を有することが好適であり、さらには、前記バインダーの含有量が、上層膜形成用組成物の総重量を基準として、0.01〜10重量%であることが好ましい。
【0010】
また、本発明によるパターン形成方法は、基板上にレジスト組成物を塗布してレジスト膜を形成させ、前記レジスト膜上に、前記の上層膜形成用組成物を塗布し、加熱により硬化させ、極紫外線を用いて露光し、アルカリ水溶液で現像することを含んでなることを特徴とするものである。このような、パターン形成方法において、前記極紫外線の波長が5〜20nmであることが好ましく、また、形成される上層膜の膜厚が1〜100nmであることが好適であり、さらには、前記加熱の温度が、25〜150℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、極紫外線を用いたフォトリソグラフィー法によってパターンを形成させる際に、深紫外線の影響を低減させ、レジストパターンのラフネス悪化や、パターン形状の悪化を引き起こすことなく、また露光時にレジストからのガスの揮発を抑制することができる上層膜を形成させることができる。この上層膜は、高い深紫外線吸収率を達成できるものである。また、本発明のパターン形成方法によれば、微細なパターンを精度よく製造することができる。さらに本発明による上層膜形成用組成物を用いた場合には、現像後にレジストパターン表面に残留物が付着することが少なく、この点からも優れたパターンを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0013】
本発明による上層膜形成用組成物は、レジスト膜の上側に形成される上層膜を形成するためのものである。この組成物はグラフェン誘導体を含んでなり、波長170〜300nmの光、主に193nmと248nm(以下、深紫外光ということがある)を吸収する上層膜を形成することができるものである。
【0014】
グラフェンは、炭素同素体のひとつであり、炭素原子が相互にsp2結合によって結合したシート状構造を有するものである。完全なグラフェンはハニカム状の六角形格子構造を有している。また、本発明においては、カーボンナノチューブも筒状のグラフェンとして、グラフェン類に包含されるものとする。グラフェンは、芳香族環が多数縮合した構造を有する化合物であり、深紫外光、特に波長193nmと248nmの光に対して非常に強い吸収をもつものである。このような深紫外光に対する光吸収は、グラフェンの基本的な構造に由来するものであり、グラフェンの各種誘導体も同様の光吸収を示す。なお、グラフェンは分子量や形状の異なる各種のものが市販されている。例えば、PureSheets MONO、およびPureSheets QUATTRO(いずれも商品名、ナノインテグリス社製)、XG Leaf、およびXGnpグラフェンナノプレート(いずれも商品名、XGサイエンス社製)、Graphos Sol−G、およびGraphos G−Ink(いずれも商品名、グラフォス社製)などが挙げられ、目的に応じて、任意のものを用いることができる。
【0015】
このようなもののうち、置換基を有さず、実質的に炭素だけからなるグラフェン(下記式)は、有機溶剤、水、および水性溶媒に対して溶解性が非常に低く、フォトリソグラフィーの現像過程で使用されることが多い強アルカリ性水溶液にもほとんど溶解しない。
【0016】
【化1】
【0017】
このため、上層膜形成用組成物に用いた場合、現像処理によってレジスト表面から溶解除去することが困難である。また、極性が低く、膜面に対する親和性や分子同士の相互作用がほとんどないので、レジスト表面を被覆する膜を形成させることも困難である。したがって、炭素だけからなるグラフェンをそのまま上層膜形成用組成物に適用するには解決すべき課題が多い。本発明においては、グラフェン誘導体を用いることによってこの問題を解決している。
【0018】
すなわち、上層膜形成用組成物に、グラフェンに置換基を導入したグラフェン誘導体を用いることによって、アルカリ水溶液に対する溶解性を高めて、現像時における除去を容易にし、さらにはレジスト表面との親和性や分子同士の相互作用を高めることによって、上層膜の成膜性や被覆性を改良することに成功したのである。
【0019】
このような置換基としては、親水性基であることが好ましい。具体的には水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、ポリアルキレンオキサイド基、およびスルホ基が挙げられ、これらのうち、水酸基およびカルボキシル基が特に好ましい。なお、炭素、水素、酸素、および窒素以外の元素を含む基は、半導体素子の製造過程において、露光装置の反射ミラーを汚染する可能性があるので、注意が必要である。これらの置換基によりグラフェン誘導体の親水性が改良され、アルカリ水溶液に対する溶解性や成膜性が同時に改良される。これらの親水性基のうち、水酸基およびカルボキシル基は、グラフェンを酸化することによって容易に導入することができる。グラフェンを酸化する方法は特に限定されないが、一般的には酸化剤を用いた酸化反応を利用する。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム(KMnO)、次亜塩素酸、塩素酸、過硫酸アンモニウム、重クロム酸カリウムなどが挙げられる。これらの中でKMnOが好ましい。グラフェンを酸化させる方法としては、Hummers法などが知られており、それを使用することができる。このHummers法は、グラフェンを硫酸、硝酸ナトリウム、およびKMnOの混合物中に添加し、大量の水を加え、約100℃程度の温度で穏やかに撹拌することを含む。このHummers法での反応時間は、好ましくは、0.5〜2時間程度である。
【0020】
このような酸化によって、水酸基やカルボキシル基以外に、カルボニル基やエポキシ結合がグラフェン誘導体に導入されることがあるが、カルボニル基やエポキシ結合は極紫外光をあまり吸収しないため、レジストの感度にほとんど影響しないので、これらの基による悪影響はほとんどない。一方で、水酸基やカルボキシル基は弱酸性を持つため、レジストの感度促進効果を発揮するので本願発明による効果がより強められる。下記式は、グラフェンを酸化することによって得られるグラフェン誘導体の構造の一例である。
【0021】
【化2】
【0022】
グラフェン誘導体に含まれる親水性基は、その数が多いほど本発明の効果が強く発現する傾向があるので好ましい。グラフェン誘導体に含まれる親水性基の数は、例えば、中和滴定を利用して測定することも可能であるが、グラフェン誘導体の水溶性が低い場合には困難なこともある。そのような場合には、グラフェン誘導体の酸素含有率によって、グラフェン誘導体の親水性を評価することができる。すなわち、グラフェン誘導体に含まれるカルボキシル基や水酸基は酸化反応によって導入されるので、それらの数はグラフェン誘導体に含まれる酸素含有率に比例すると考えられる。この観点から、グラフェン誘導体の酸素含有率が1重量%以上であることが好ましく、3重量%以上であることがより好ましく、5重量%以上であることが最も好ましい。酸素含有率がこの範囲内であると、レジストパターンの形成過程で用いられるアルカリ現像液、例えば2.38%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液に対する溶解性を十分に確保することができる。また、酸素含有率は30重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることが最も好ましい。酸素含有率が過度に高いと、酸化反応によってグラフェン骨格が大きく損なわれて、極紫外線吸収効果が低下してしまうことがあるためである。なお、グラフェン誘導体の酸素含有率は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)や波長分散型X線分析(WDS)によって測定することができる。
【0023】
上記した、グラフェン誘導体の分子量は、特に限定されないが、上層膜形成用組成物の塗布性などを好適に保つために、重量平均分子量が1,000〜20,000であることが好ましく、2,000〜5,000であることがより好ましい。
【0024】
なお、このようなグラフェン誘導体またはグラフェン酸化物も各種のものが市販されている。例えば、TimesGraph(商品名、TimesNano社製)、G−Gosio、Sol−Go・Go(いずれも商品名、グラフォス社製)、Rap Go、Rap bGo(いずれも商品名、NiSiNaマテリアルズ社製)などが挙げられる。
【0025】
上層膜形成用組成物におけるグラフェン誘導体の配合量は、形成される上層膜に求められる光学的特性やガスバリア特性に応じて調整されるが、上層膜形成用組成物の総重量を基準として、0.01〜10重量%とすることが好ましく、特に0.5〜5重量%とすることがより好ましい。なお、本発明においてグラフェン誘導体は上層膜の被膜形成成分であるポリマーに組み合わされる材料というより、むしろ被膜形成成分そのものとして機能する。すなわち、上層膜形成用組成物に含まれる固形分のすべてがグラフェン誘導体であってもよい。
【0026】
また、本発明による上層膜形成用組成物は溶剤を含んでなる。溶剤としては、前記のグラフェン誘導体と、必要に応じて用いられるポリマーや添加剤等を溶解または均一に分散できるものが用いられる。このような溶剤としては、
(a)モノアルコール、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルカルビノール等、
(b)ポリオール、例えばエチレングリコール、グリセロール等
(c)ポリオールのアルキルエーテル、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等、
(d)ポリオールのアルキルエーテルアセテート、例えばエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等、
(e)エーテル、例えばジエチルエーテル、ジブチルエーテル等、
(f)環状エーテル、例えばテトラヒドロフラン等、
(g)炭素数が12以下の炭化水素、例えばn−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン等、
(h)芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン等、
(i)ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン等、
(j)エステル、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル等、および
(k)水
が挙げられる。これらのうち、レジストパターンに対して溶解性が低い水が最も好ましい。なお、有機溶剤の中には、レジストパターンに対する溶解性が高いものもある。そのような溶剤を用いる必要がある場合には、水などのレジストパターンに対する溶解性の低い溶剤を組み合わせた混合溶剤として用いることが好ましい。
【0027】
本発明において、上層膜形成用組成物はグラフェン誘導体と溶剤とだけからなるものであっても良いし、被膜形成成分としてさらにポリマーを含むものであっても良い。以下、このようなポリマーをバインダーポリマーまたは簡単にバインダーということがある。本発明による上層膜形成用組成物においては、グラフェン誘導体は親水性基を有することで、被膜形成成分としてのバインダーを含まない場合であっても被膜を形成できるという特徴がある。バインダーを含まない組成物を用いて上層膜を形成した場合には、現像液中での上層膜の除去が容易になるので好ましい。被膜形成成分として一般的に用いられるバインダーがなくても上層膜が形成されるのは、グラフェン誘導体に導入されている置換基が、レジスト表面に化学吸着したり、グラフェン誘導体同士が相互作用によって結合するためであると推察されている。
【0028】
また、被膜形成成分としてバインダーを組み合わせることによって、成膜性が改良され、より均一な上層膜を形成させることができる。このようにバインダーを用いて上層膜を形成させると比較的堅牢な上層膜が形成されるので、物理的な接触などによる上層膜の剥離が抑制されるので好ましい。
【0029】
バインダーを組み合わせる場合には、グラフェン誘導体との相溶性が高いことが好ましいが、特に限定されず任意のものを選択することができる。バインダーとして天然高分子化合物を用いることもできるが、製造安定性などの観点から、繰り返し単位を有する合成高分子化合物であるコポリマーまたはホモポリマーが用いられる。ここで、バインダーポリマーの重合様式は特に限定されない。すなわち、モノマーが重合する様式は特に限定されず、縮合重合、開環重合、付加重合など、いずれの様式で重合したものであってもよい。
【0030】
このようなバインダーは種々のものが知られており、本発明の効果を損なわない範囲で任意に選択することができる。具体的には、ノボラック樹脂などのフェノール樹脂、ポリヒドロキシスチレン、ポリカルボキシスチレン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルイミダゾールなどが挙げられる。これらのポリマーは目的に応じて任意に選択されるが、酸基または塩基性基を含まないものが好ましい。酸基を含むポリマーを用いると、グラフェン誘導体の溶解性が不十分となることがあり、一方で塩基性基を含むポリマーを用いると、ポリマーとグラフェン誘導体とが凝集する傾向がある。このような観点から、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂、またはポリビニルピロリドンが好ましい。
【0031】
また、バインダーは水に対して溶解可能とする作用をする親水性基を有することが好ましい。このような親水性基は一般によく知られたものであり、水酸基、カルボキシル基、スルホ基、置換および非置換のアミノ基、置換および非置換のアンモニウム基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、置換および非置換のアミド基、アルキレンオキシド基、およびオキシム基などが挙げられる。これらのうち、特に水酸基およびカルボキシル基が好ましい。これらの基が置換基を有する場合、アルキル基などの脂肪族炭化水素やフェニル基などの芳香族基を置換基とすることができる。このとき、置換基が芳香族基であると深紫外線吸収基としての作用を奏することもある。なお、本発明による上層膜はアルカリ水溶液による現像を行うパターン形成に好ましく用いられるものであるが、それに限定されない。例えば、親水性基が少ないグラフェン誘導体を用いた場合には有機溶剤による現像を行うパターン形成に用いることもできる。
【0032】
また、バインダーを用いる場合にはその含有率は、目的とする膜厚などに応じて調整されるが、一般に上層膜形成用組成物の総重量を基準として、0.1〜10重量%であり、0.5〜5重量%であることが好ましい。バインダーの含有率は過度に高いと形成される上層膜の膜厚が大きくなり、極紫外光の吸収が大きくなることがあるので、注意が必要である。
【0033】
本発明においてバインダーを用いる場合には、グラフェン誘導体による深紫外線吸収効果を補うために、深紫外線吸収基を有するポリマーを用いることもできる。ここで、深紫外線吸収基とは170〜300nmの光を吸収する基をいう。このような基としては、芳香族基、特にフェニル基、ナフチル基、およびアトンラセニル基が挙げられる。これらの基は、必要に応じて置換基を有していてもよい。置換基のひとつとしてはアルキル基などの炭化水素基が挙げられる。
【0034】
以上に挙げたバインダーは、形成される膜の堅牢性、グラフェン誘導体に対する相溶性、水に対する溶解性、深紫外線吸収効果などに応じて、単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
本発明による上層膜形成用組成物は、さらに他の添加剤を含んでも良い。ここで、これらの成分は、組成物のレジスト上への塗布性を改良すること、形成される上層膜の物性を改良することなどを目的に用いられる。このような添加剤の一つとして界面活性剤が挙げられる。用いられる界面活性剤の種類としては、
(a)陰イオン性界面活性剤、例えばアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ならびにアルキル硫酸、およびそれらのアンモニウム塩または有機アミン塩など、
(b)陽イオン性界面活性剤、例えばヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなど、
(c)非イオン性界面活性剤、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル(より具体的には、ポリオキシエチルラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなど)、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、アセチレングリコール誘導体など、
(d)両性界面活性剤、例えば2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリル酸アミドプロピルヒドロキシスルホンベタインなど、
が挙げられるがこれらに限定されるものではない。なお、これらのうち非イオン性界面活性剤が好ましい。一方で、アミン基やカルボキシル基を有する界面活性剤は、これらの基がグラフェン誘導体に結合した親水性基と反応することがあるので使用する場合には注意が必要である。また、その他の添加剤としては、増粘剤、染料などの着色剤、酸および塩基などを添加剤として用いることができる。これらの添加剤の添加量は、それぞれの添加剤の効果などを考慮して決定されるが、一般に組成物の総重量を基準として、0.01〜1重量%、好ましくは0.1〜0.5重量%である。
【0036】
また、本発明による上層膜形成用組成物は、グラフェン誘導体の溶解性を改良するために、塩基性化合物を含むこともできる。このような塩基性化合物としては、アンモニア、モノエタノールアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。なお、側鎖に塩基性基を有するポリマーなども使用可能であるが、グラフェン誘導体と凝集体を形成して、溶媒に対して十分に溶解または分散しないことがあるので注意が必要である。
【0037】
本発明による上層膜形成用組成物は、従来の上層膜形成用組成物や上面反射防止膜形成用組成物と同様に用いることができる。言い換えれば、本発明による上層膜形成用組成物を用いるにあたって、製造工程を大幅に変更する必要はない。具体的に本発明による上層膜形成用組成物を用いたパターン形成方法を説明すると以下のとおりである。
【0038】
まず、必要に応じて前処理された、シリコン基板、ガラス基板等の基板の表面に、レジスト組成物をスピンコート法など従来から公知の塗布法により塗布して、レジスト組成物層を形成させる。レジスト組成物の塗布に先立ち、レジスト下層に下層膜が塗布形成されてもよい。このような下層膜は、一般にレジスト層と基板との密着性を改善することができるものである。また、レジスト下層として遷移金属またはそれらの酸化物を含む層を形成させることによって、反射光を増大させ、露光マージンを改善することもできる。
【0039】
本発明のパターン形成方法には、極紫外線に感度を有するレジスト組成物の中から任意のものを用いることができる。現状では、深紫外線用レジスト組成物、例えばArFレーザー用フォトレジスト組成物やKrFレーザー用フォトレジスト組成物が用いられるのが一般的である。本発明のパターン形成方法に用いることができるレジスト組成物は、極紫外線に感度があるものであれば限定されず、任意に選択することができる。しかしながら、好ましいレジスト組成物として、特に、ポジ型とネガ型化学増幅型レジスト組成物などが挙げられる。
【0040】
また、化学増幅型のレジスト組成物は、ポジ型およびネガ型のいずれであっても本発明のパターン形成方法に用いることができる。化学増幅型レジストは、放射線照射により酸を発生させ、この酸の触媒作用による化学変化により放射線照射部分の現像液に対する溶解性を変化させてパターンを形成するもので、例えば、放射線照射により酸を発生させる酸発生化合物と、酸の存在下に分解しフェノール性水酸基或いはカルボキシル基のようなアルカリ可溶性基が生成される酸感応性基含有樹脂からなるもの、アルカリ可溶樹脂と架橋剤、酸発生剤からなるものが挙げられる。
【0041】
基板上に塗布されたレジスト膜上に、スピンコート法などにより本発明による上層膜形成用組成物を塗布し、加熱により溶剤を蒸発させて上面膜を形成させる。加熱は、例えばホットプレートなどを用いて行われる。加熱温度は、組成物に含まれる溶剤の種類などに応じて選択される。具体的には。一般に25〜150℃であり、80〜130℃であることが好ましく、90〜110℃であることがより好ましい。このとき、形成される上層膜の厚さは、一般に1〜100nm、好ましくは5〜50nmである。
【0042】
なお、レジスト膜を塗布後、レジスト膜を単独で加熱硬化させ、その後に上層膜形成用組成物を塗布して加熱することもできる。
【0043】
このように形成された上層膜は、極紫外線の透過率が高いものである。一般に、極紫外線の透過はポリマーの置換基などにはほとんど影響を受けず、相対的に元素種の影響のほうが大きい。そして、上層膜の主構成元素である炭素や水素は極紫外線の吸収が少ないので、上層膜は一般に本発明の効果を達成するのに十分な透過率を示す。具体的には、波長13.5nmの光に対する透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。一方、このように形成された上層膜は深紫外線の透過率が低いものである。具体的には、波長193nmと248nmの光に対する透過率が20%以下であることがより好ましく、15%以下であることがより好ましい。
【0044】
レジスト膜はその後、極紫外線、例えば波長5〜20nmの光、特に波長13.5nmの光を用い、必要に応じマスクを介して露光が行われる。
【0045】
露光後、必要に応じ露光後加熱を行った後、例えばパドル現像などの方法で現像が行われ、レジストパターンが形成される。レジスト膜の現像は、通常アルカリ性現像液を用いて行われる。ここで、本発明による上層膜形成用組成物に含まれるグラフェン誘導体は親水性基を有しているため、現像液により容易に除去される。
【0046】
このため本発明においては、特別な処理をすることなくアルカリ現像液で現像処理することにより、上層膜の除去とレジストの現像を同時に行うことができる。しかしながら、水などの水性溶剤で上層膜を除去してから、別途アルカリ現像液でレジストを現像することもできる。
【0047】
現像に用いられるアルカリ性現像液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)などの水溶液或いは水性溶液が用いられる。現像処理後、必要に応じてリンス液、好ましくは純水、を用いてレジストパターンのリンス(洗浄)が行われる。なお、形成されたレジストパターンは、エッチング、メッキ、イオン拡散、染色処理などのレジストとして用いられ、その後必要に応じ剥離される。
【0048】
レジストパターンの膜厚などは用いられる用途などに応じて適宜選択されるが、一般に0.1〜150nm、好ましくは20〜80nmの膜厚が選択される。
【0049】
本発明によるパターン形成方法により得られたレジストパターンは、引き続き用途に応じた加工が施される。この際、本発明によるパターン形成方法を用いたことによる制限は特になく、慣用の方法により加工することができる。
【0050】
なお、グラフェン誘導体をレジスト組成物に添加することで一定の深紫外線吸収効果を達成することができる場合がある。しかしながら、この場合には形成されるレジスト層内にグラフェン誘導体が取り残される。この結果、パターン形成の際にレジストパターンの側面や表面にグラフェン誘導体が存在することになる。グラフェン誘導体は一般に知られているように硬い物質であり、硬化されたレジスト膜よりも硬い。この結果、レジストパターンの側面や表面にグラフェン誘導体が突出する状態で残存したり、そのように突出したグラフェン誘導体が脱落した結果、表面にクレーター上の欠陥が発生することがある。このようなレジストパターン表面の凹凸によってラフネスが劣化するので、あまり好ましくない。これに対して、本発明においてはグラフェン誘導体はレジスト層には存在せず、また現像処理によって除去されるので問題が無い。
【0051】
本発明について諸例を挙げて説明すると以下のとおりである。
【0052】
〔実施例101〜116〕
グラフェン誘導体(グラフェンオキサイド)として、市販の粉末グラフェンTimesGraph(商品名、TimesNano社製)を用いて試験を実施した。
【0053】
また、バインダーとして、以下のポリマーを用いた。
P1: ポリビニルアルコール(重量平均分子量22,000)
P2: ノボラック樹脂(重量平均分子量8,500)
P3: ポリカルボキシスチレン
P4: ポリビニルピロリドン(重量平均分子量12,000)
P5: ポリビニルイミダゾール(重量平均分子量45,000)
【0054】
グラフェン誘導体およびバインダーを、溶剤である水に固形分濃度が2重量%の濃度となるように溶解させて、上層膜形成用組成物とした。このとき、溶解性を目視にて確認した。溶解性の評価基準は以下のとおりとした。
A: 組成物が透明であり、完全に溶解または均一に分散した。
B: 組成物は少し濁りがあるものの透明であり、十分に溶解または分散した。
C: 組成物中に残渣が残り、溶解性が若干劣るものの、実用可能であった。
D: 組成物中に残渣が多く残り、実用不可能であった。
【0055】
基板上に、レジスト組成物を膜厚50nmとなるようにスピンコートにより塗布した。レジスト組成物としては、AZ AX2110(商品名、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)を用いた。レジスト組成物を塗布後、さらに各上層膜形成用組成物を膜厚30nmとなるようにスピンコートした。塗布後、120℃で60秒間加熱して上層膜により被覆されたレジスト膜を得た。このとき、目視および膜厚計を用いて、塗布性を評価した。評価基準は以下のとおりとした。
A: 塗布可能であり、膜厚の面内均一性も優れていた。
B: 塗布可能であり、膜の面内均一性が若干劣ったが実用性は十分であった。
C: 塗布可能であり、目視で表面形状が劣ることが確認できたが実用可能であった。
D: 塗布ができなかった。
【0056】
さらに、得られたレジスト膜を2.38%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液で30秒間現像し、膜面の残留物を評価した。得られた結果は表1に示すとおりであった。
【0057】
【表1】
【0058】
〔比較例201および実施例201〜209〕
上層膜形成用組成物を表2に示されたとおりのものに変更した以外は、実施例101と同様にレジスト膜を得た。各レジスト膜を、Spring−8のBL03を利用して、照度0.35mW/cmで露光した。さらに、露光後のレジスト膜を2.38%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液で30秒間現像し、パターンを得るために必要な露光量Eth(膜抜け感度)を測定した。露光量Ethは、少ないほうがより高感度であるといえるが、差が2mJ/cm以下であれば実用上は問題が無く、実施例201〜209は十分な感度を有していることがわかった。
【0059】
【表2】
【0060】
〔実施例301〜309〕
上層膜形成用組成物を、スピンコートにより厚さ30nmで成膜し、光透過性を評価した。具体的には分光エリプソメータ解析法により吸収係数を求め、波長193nmおよび248nmにおけるk値を算出した。得られた結果は表3に示すとおりであった。波長193nmおよび248nmにおけるk値が、それぞれ0.5以上および0.3以上あれば、上層膜として深紫外線吸収効果が十分であるといえる。したがって、実施例301〜309においては深紫外光の吸収が十分に大きいことがわかった。
【0061】
【表3】
【0062】
〔比較例401および実施例401〜409〕
基板上に、レジスト組成物を膜厚50nmとなるようにスピンコートにより塗布した。レジスト組成物としては、AZ AX2110(商品名、AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)を用いた。レジスト組成物を塗布後、120℃で60秒加熱してレジスト膜を形成させ、その膜厚を測定した。
【0063】
さらに表4に示した上層膜形成用組成物を膜厚30nmとなるようにスピンコートした。塗布後、120℃で60秒間加熱して上層膜により被覆されたレジスト膜を得た。このレジスト膜を2.38%TMAH水溶液で30秒現像して上層膜を除去した後、残った膜厚を測定した。
【0064】
以上の測定を2回繰り返し、現像による膜減りを評価した。得られた結果は表4に示すとおりであった。
【0065】
【表4】
【0066】
膜減り量は、上層膜がない場合に比較して、若干多くなるものの、実用上問題ないレベルであった。