(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モノカルボン酸を、ピリンドメインのリジンリッチ配列を含むポリペプチドと接触させて、リジンリッチ配列に結合するモノカルボン酸を選抜することを含む、インフラマソーム活性化制御物質のスクリーニング方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
インフラマソームの構成ドメインの1つであるピリンドメイン(PD)中のリジンリッチ配列はPD同士の結合に関わっている。このリジンリッチ配列は、他のタンパク質ではほぼ認められない極めて稀な配列である。本発明者らは、このリジンリッチ配列に結合する物質があれば、その物質とPDを予め結合させることで、PDを介した結合を特異的に阻害し、すなわちインフラマソームの形成を効果的に阻害することができると考え、リジンリッチ配列に結合する物質の探索を行ったところ、各種モノカルボン酸がリジンリッチ配列に結合し、インフラマソーム形成を特異的に制御できることを見出すことができた。本発明はこの知見に基づく。以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
1.スクリーニング方法
本発明は、被検物質について、インフラマソームの構成ドメインの1つであるピリンドメイン(PD)中のリジンリッチ配列への結合能を試験し、リジンリッチ配列に結合した被検物質をインフラマソーム活性化制御物質の有力な候補物質として選抜することにより、インフラマソーム活性化制御物質をスクリーニングする方法に関する。
【0016】
本発明において「インフラマソーム」とは、カスパーゼ-1を活性化し、それにより炎症反応をもたらすIL-1β、IL-18生成などを誘導する、細胞内タンパク質複合体を広く意味する。本発明において活性化制御の対象となる「インフラマソーム」は、好ましくは、ピリンドメイン(PD)のリジンリッチ配列を介したNLRファミリータンパク質等の受容体タンパク質とカスパーゼ-1との結合がインフラマソーム形成に必須であるインフラマソームであり、例えばNLRP1インフラマソーム、NLRP3インフラマソーム、NLRP4インフラマソーム、NLRP6インフラマソーム、AIM2インフラマソーム等が挙げられる。
【0017】
本発明において、ピリンドメイン(PD)中の「リジンリッチ配列」は、当業者であれば容易に認識することができる。ピリンドメイン(PD)中の「リジンリッチ配列としては、例えば、インフラマソームを構成するアダプタータンパク質ASCのPD中のKKFKLK(配列番号7)、NLRP3タンパク質のPD中のKKFKMHI(配列番号8)、POP1のKKFKMKI(配列番号9)等のアミノ酸配列が挙げられるが、これらに限定されない。具体的には、例えば、NLRP3インフラマソームの形成に寄与するASCのPD中のKKFKLKは、配列番号2の21番目〜26番目のアミノ酸に相当する。
【0018】
本発明において、スクリーニングに供する被検物質としては、モノカルボン酸が好ましい。これは、本発明者らによって見出された、モノカルボン酸がピリンドメイン中のリジンリッチ配列に結合しやすく、それによりインフラマソーム形成(活性化)に影響を及ぼす傾向が強いという知見に基づく。本発明においてモノカルボン酸は、カルボキシル基を1つ有する化合物を指し、例えば短鎖脂肪酸又はアミノ酸が挙げられる。本発明において短鎖脂肪酸とは、炭素数8以下の脂肪酸を指す。短鎖脂肪酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、エナント酸、及びカプリル酸などが挙げられる。短鎖脂肪酸は、直鎖脂肪酸であることも好ましい。本発明におけるモノカルボン酸は、限定するものではないが、炭素数8以下であることが好ましく、炭素数7以下であってもよく、例えば炭素数2〜7であってもよい。本発明におけるモノカルボン酸、例えば短鎖脂肪酸又はアミノ酸は、好適には、ヒドロキシル基(カルボキシル基に含まれるものを除く)を有しないものであってよい。ヒドロキシル基を有しないモノカルボン酸であるアミノ酸の例としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン等が挙げられる。
【0019】
典型的には、本発明のスクリーニング方法は、上記被検物質を、ピリンドメインのリジンリッチ配列(例えば、KKFKLK)を含むポリペプチドと接触させて、リジンリッチ配列に結合する被検物質を選抜することを含む、インフラマソーム活性化制御物質のスクリーニング方法である。
【0020】
本発明において「ピリンドメインのリジンリッチ配列を含むポリペプチド」とは、リジンリッチ配列を含むピリンドメインを有するタンパク質(例えば、インフラマソーム構成タンパク質やピリンタンパク質)、又はそのタンパク質の部分断片であってリジンリッチ配列を含むものを意味する。
【0021】
本発明の一実施形態では、モノカルボン酸を、インフラマソーム構成タンパク質由来のピリンドメインのリジンリッチ配列(例えば、KKFKLK)を含むポリペプチドと接触させて、リジンリッチ配列に結合するモノカルボン酸を選抜することにより、インフラマソーム活性化制御物質をスクリーニングすることができる。
【0022】
ここで、インフラマソーム構成タンパク質とは、インフラマソームの構成タンパク質である受容体タンパク質又はアダプタータンパク質ASCであって、ピリンドメインを含むものを指す。「インフラマソーム構成タンパク質由来のピリンドメインのリジンリッチ配列を含むポリペプチド」とは、インフラマソーム構成タンパク質の部分断片であって、そのタンパク質のピリンドメイン内のリジンリッチ配列を含む部分断片である。
【0023】
より具体的には、本発明のスクリーニング方法の好ましい一実施形態として、(i)被検物質を、ピリンドメインのリジンリッチ配列を含むポリペプチド、又はそこからリジンリッチ配列を削除した、リジンリッチ配列を含まないポリペプチドと接触させる工程、(ii)被検物質に結合したポリペプチドを検出する工程、及び(iii)リジンリッチ配列を含むポリペプチドは検出されるがリジンリッチ配列を含まないポリペプチドは検出されない場合にその被検物質を前記リジンリッチ配列に結合する物質として選抜する工程、を含むスクリーニング方法が挙げられる。この方法において、ピリンドメインのリジンリッチ配列を含むポリペプチドと、リジンリッチ配列を含まないポリペプチドとは、リジンリッチ配列が削除されている点以外は、アミノ酸配列が実質的に同一であることが好ましい。ここで「実質的に同一」とは、例えば、リジンリッチ配列に隣接した数個のアミノ酸残基が、リジンリッチ配列を含まないポリペプチドにおいてリジンリッチ配列と共に削除されている場合などの、リジンリッチ配列への結合能の判定に影響を及ぼさない程度の差異がリジンリッチ配列の削除に加えて存在してもよいことを意味する。
【0024】
ピリンドメインのリジンリッチ配列を含むポリペプチド、及びそこからリジンリッチ配列を削除した、リジンリッチ配列を含まないポリペプチドの具体例としては、リジンリッチ配列KKFKLKを含むASC部分断片、及びリジンリッチ配列KKFKLKを含まないASC部分断片が挙げられる。より具体的な例としては、ヒトASCのN末端側からピリンドメイン(PD)中のリジンリッチ配列の手前までを削除した、リジンリッチ配列(典型的には、KKFKLK)を含むASC部分断片と、ヒトASCのN末端側からリジンリッチ配列の終了点又はその付近までを削除した、リジンリッチ配列(典型的には、KKFKLK)を含まないASC部分断片が挙げられる。その一例の模式図は
図4Bに見ることができる。リジンリッチ配列KKFKLKを含むASCの部分断片の具体例としては、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、及び、配列番号4に示されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を示しかつリジンリッチ配列KKFKLKを保持するアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。リジンリッチ配列KKFKLKを含まないASC部分断片の具体例としては、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又はそれと80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の配列同一性を示しかつリジンリッチ配列KKFKLKを含まないアミノ酸配列からなるポリペプチドが挙げられる。それらのASC部分断片を、それぞれ被検物質と接触させ、リジンリッチ配列を含むASC部分断片のみに結合した被検物質を選抜することができる。なおポジティブコントロールとして、完全長ASC(
図4B)も被検物質と接触させて同様に試験することも好ましい。なおASC部分断片に代えて、ピリンドメインのリジンリッチ配列を含むインフラマソームの他の構成タンパク質(例えばNLRP1、NLRP4、NLRP6)から、リジンリッチ配列を含む部分断片及びリジンリッチ配列を含まない部分断片を作製し、同様にスクリーニングに用いることもできる。ピリンドメインのリジンリッチ配列はこれらの構成タンパク質においてもインフラマソームの形成に関与すると考えられることから、そのような他のインフラマソーム構成タンパク質由来の部分断片を用いたスクリーニング方法も、同様にインフラマソーム活性化制御物質の取得に好適である。
【0025】
ピリンドメインのリジンリッチ配列を含むポリペプチド、及びそこからリジンリッチ配列を削除した、リジンリッチ配列を含まないポリペプチドは、リジンリッチ配列を含むピリンドメインを有するタンパク質を例えば化学的又は酵素的に切断することにより常法により作製することができる。あるいはそれらのポリペプチドは、当業者に周知のペプチド合成法を用いて化学合成することもできるし、遺伝子工学的手法を用いて組換え生産又は合成することもできる。
【0026】
被検物質と結合したそれらのポリペプチドの検出は任意の方法を用いて行うことができる。そのような検出は、被検物質と結合したポリペプチドの回収工程を含んでもよい。好ましい実施形態では、被検物質と結合したそれらのポリペプチドの回収を容易にするため、被検物質は固体担体に固定化されることが好ましい。固体担体としては、ビーズ(例えば、SGビーズなどのマイクロビーズ、磁性ビーズ等)、薄膜、微細管、フィルター、プレート、チューブ、チップ等が挙げられるが、これらに限定されない。固体担体への被検物質の固定化は、常法により行うことができるが、例えば、任意のリンカーを介して固定化することができる。物質を固定化するための様々な表面修飾を有する固体担体(ビーズなど)が多数市販されており、当業者であれば被検物質の種類に応じて適切なものを選択して用いることができる。
図3にはビーズへの被検物質の固定化の例が示されている。例えば、SGビーズやFGビーズなどのマイクロビーズのリンカー末端の官能基(例えばアミノ基)に、ビーズの使用説明書に記載の方法に従って、被検物質を結合させればよい。そのようなビーズの模式図を
図4Aに示す。このようなビーズを用いた被検物質の固定化の一例として、例えば被検物質がプロピオン酸である場合には、リンカーのアミノ基に無水コハク酸を反応させることにより、プロピオン酸がリンカーを介して結合されたビーズを作製することができる。また被検物質が酪酸である場合には、リンカーのアミノ基に無水グルタル酸を反応させることにより、酪酸がリンカーを介して結合されたビーズを作製することができる。
【0027】
固体担体に固定化した被検物質を、リジンリッチ配列を含むポリペプチド又はリジンリッチ配列を含まないポリペプチドと接触させた後、固体担体を利用した回収法を用いることにより、被検物質と結合したポリペプチドを容易に回収することができる。例えば、固体担体が遊離のビーズである場合には、ビーズとポリペプチドとの接触後、濾過によりビーズを回収し洗浄し、続いて溶出液で処理してビーズに結合したポリペプチドをビーズから溶出させ、電気泳動及び銀染色等により溶出したポリペプチドを検出することにより、その被検物質へのポリペプチドの結合の有無を判定できる。例えば、被検物質が固定化されたビーズ(固体担体)を充填したカラムにポリペプチドをアプライし、カラムを洗浄して非結合ポリペプチドを洗い流した後、溶出液で処理して結合ポリペプチドをビーズから溶出させ、溶出したタンパク質を検出することにより、その被検物質へのポリペプチドの結合の有無を判定できる。リジンリッチ配列を含むポリペプチドを被検物質と接触させた場合は被検物質と結合したポリペプチドが検出されるが、リジンリッチ配列を含まないポリペプチドを同じ被検物質と接触させた場合は被検物質と結合したポリペプチドが検出されない場合には、その被検物質を、ピリンドメインのリジンリッチ配列に結合する物質として判定することができる。
【0028】
このようにして選抜されたリジンリッチ配列に結合する被検物質は、インフラマソーム活性化制御物質の有力な候補である。本発明に係るスクリーニング方法では、さらに、被検物質のインフラマソーム活性化制御作用を好ましくは細胞内で確認することが好ましい。被検物質に関する細胞内のインフラマソーム活性化制御作用の確認は、上述のリジンリッチ配列への結合能を調べる試験に先行して行ってもよいし、並行して行ってもよいし、リジンリッチ配列への結合能の確認後に行ってもよい。
【0029】
被検物質の、細胞内のインフラマソーム活性化制御作用の確認は、例えば、被検物質の存在下で、哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞)をリポ多糖(LPS)及びアデノシン三リン酸(ATP)で処理し、細胞内でのインフラマソーム形成を検出することにより、行うことができる。この試験に用いる哺乳動物細胞は、インフラマソーム形成能を有する任意の細胞であってよく、ヒト細胞の場合、例えば、PMA(ホルボールミリスチン酸アセテート)で分化誘導したU937細胞、ASC遺伝子を導入し組換え発現させた293T細胞、THP1細胞、プライマリーマクロファージ、血球等が挙げられる。
【0030】
リポ多糖(LPS)及びアデノシン三リン酸(ATP)は、細胞内のインフラマソーム形成を誘導することが知られている。LPS及びATPの添加濃度は、当業者であれば、用いる細胞の種類や培養条件に合わせてインフラマソーム形成に適した範囲で適宜設定することができる。
【0031】
細胞内でのインフラマソーム形成の検出は、被検物質の存在下でLPSとATPでインフラマソーム形成を刺激した後の細胞について、カスパーゼ-1活性を測定することによって行うことができる。被検物質の非存在下でLPSとATPで刺激した場合と比較して同等又はそれ以上のカスパーゼ-1活性上昇が認められれば、インフラマソームの形成(活性化)が検出されたものと判断することができる。一方、被検物質の非存在下でLPSとATPで刺激した場合と比較してカスパーゼ-1活性上昇の有意な抑制が認められれば、インフラマソーム形成(活性化)の阻害が検出されたものと判断することができる。インフラマソーム形成(活性化)の阻害が検出されれば、その被検物質はインフラマソーム活性化阻害作用を有することが確認できる。そのようにして選抜される、インフラマソーム活性化に影響する作用を有する物質を、本発明ではインフラマソーム活性化制御物質と称する。
【0032】
細胞内でのインフラマソーム形成の検出は、被検物質の存在下で上記細胞のLPSとATPでインフラマソーム形成を刺激した後、培養液のIL-1β及び/又はIL-18濃度(分泌濃度)を測定することによって行うこともできる。被検物質の非存在下でLPSとATPで刺激した場合と比較して同等又はそれ以上のIL-1β及び/又はIL-18濃度の上昇が認められれば、インフラマソームの形成(活性化)が検出されたものと判断することができる。一方、被検物質の非存在下でLPSとATPで刺激した場合と比較してIL-1β又はIL-18濃度上昇の有意な抑制が認められれば、インフラマソーム形成(活性化)の阻害が検出されたものと判断することができる。インフラマソーム形成(活性化)の阻害が検出されれば、その被検物質はインフラマソーム活性化阻害作用を有することが確認できる。
【0033】
あるいは、別の方法として、FLAG
(R)-ASCをコードするDNAを導入し組換え発現させた細胞を、被検物質の存在下でLPSとATPで処理してインフラマソーム形成を刺激した後、細胞溶解液サンプルに対して抗FLAG
(R)抗体と抗インフラマソーム受容体タンパク質抗体(例えば、抗NLRP3抗体)を用いてウェスタンブロッティング解析を行い、FLAG
(R)-ASCがインフラマソームの受容体タンパク質と結合したかどうかを確認することにより、インフラマソームの形成(活性化)を検出することもできる。FLAG
(R)-ASCがインフラマソームの受容体タンパク質と結合した場合に出現するサイズのバンドが認められれば、インフラマソームの形成(活性化)が検出されたものと判断することができる。一方、当該サイズのバンドが消失した場合には、インフラマソーム形成(活性化)の阻害が検出され、その被検物質はインフラマソーム活性化阻害作用を有すると判断することができる。
【0034】
細胞内でのインフラマソーム形成の検出には、これらのいずれか1つの方法を実施してもよいし、2つ以上の方法を組み合わせて実施してもよい。また、インフラマソーム形成を検出できる別の任意の方法を用いてもよい。
【0035】
本発明では以上のようなスクリーニング方法を用いることにより、リジンリッチ配列への結合を介してインフラマソーム形成を制御する作用を有する、インフラマソーム活性化制御物質を取得することができる。本発明の方法によれば、低分子化合物のインフラマソーム活性化制御物質を、効率よく取得することができる。本発明は、上記のスクリーニング方法によって得られるインフラマソーム活性化制御物質も提供する。
【0036】
2.インフラマソーム活性化制御物質及びその用途
上記のようなスクリーニング方法を用いて選抜されるインフラマソーム活性化制御物質は、リジンリッチ配列に結合することにより、インフラマソーム形成に必要なピリンドメインを介した結合に影響を及ぼす。例えば、本発明のスクリーニング方法を用いて選抜されるインフラマソーム活性化阻害作用を有するインフラマソーム活性化制御物質は、リジンリッチ配列に結合することにより、ピリンドメイン(PD)を介した結合を特異的に阻害し、インフラマソーム活性化を阻害し、炎症性サイトカインIL-1β、IL-18の生成を抑制することができ、結果として、炎症性サイトカインが誘導する炎症反応やインフラマソーム活性化によって引き起こされる他の生体反応を抑制することができる。
【0037】
したがって本発明は、上記のようにして得られるインフラマソーム活性化制御物質を含む、インフラマソーム活性化制御用組成物も提供する。本発明において「インフラマソーム活性化制御」とは、in vivo、in vitro又はex vivo等で、インフラマソームの活性化(インフラマソーム形成)の制御をもたらすことをいう。典型的には、「インフラマソーム活性化制御」は、インフラマソーム活性化阻害であり、その場合、当該阻害の結果として炎症性サイトカインIL-1β、IL-18の生成を阻害すること、及びそれらが誘導する炎症反応やインフラマソーム活性化によって引き起こされる他の生体反応を抑制することも包含する。本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物に含まれるインフラマソーム活性化制御物質は、上述のとおり、好ましくはモノカルボン酸であり、より好ましくは短鎖脂肪酸又はアミノ酸であるモノカルボン酸である。本発明においてインフラマソーム活性化制御物質として用いられ得るモノカルボン酸は、限定するものではないが、炭素数8以下であることが好ましく、炭素数7以下であってもよく、例えば炭素数2〜7であってもよい。本発明におけるインフラマソーム活性化制御物質であるモノカルボン酸、例えば短鎖脂肪酸又はアミノ酸は、好適には、ヒドロキシル基(カルボキシル基に含まれるものを除く)を有しないものであってよい。インフラマソーム活性化制御物質であるモノカルボン酸の好適例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、及びエナント酸などが挙げられるが、これらに限定するものではない。インフラマソーム活性化制御物質であるアミノ酸の好適例としては、アラニンなどが挙げられるが、これに限定するものではない。
【0038】
本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物は、インフラマソーム活性化制御物質に加えて、不活性担体(固体又は液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤等の製剤補助剤を含んでもよい。本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物は、インフラマソームの活性化制御を介して、例えば炎症性サイトカイン産生制御のために使用するものであってよい。典型的には、本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物は、インフラマソームの活性化阻害を介して、例えば炎症性サイトカイン産生抑制のために使用するものであり得る。
【0039】
一実施形態では、本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物は、それを投与又は摂取した被験体において、インフラマソーム活性化阻害を引き起こし、好ましくは炎症性サイトカインIL-1β、IL-18の産生を抑制し、それらが誘導する炎症反応やインフラマソーム活性化によって引き起こされる他の生体反応を抑制することができる。本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物は、経口的、又は非経口的に投与することができるが、非経口的に投与することが好ましい。
【0040】
本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物は、細胞又は組織に投与することもできるし、ヒト、家畜(ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等)、愛玩動物(イヌ、ネコ、ウサギ等)、実験(試験)動物(マウス、ラット、サル等)等を含む任意の哺乳動物(被験体)に投与することもできる。インフラマソーム活性化やその亢進等の異常を伴う疾患(炎症反応若しくは炎症性疾患又はその他の疾患)を有する哺乳動物や、その疾患傾向又は素因を有する哺乳動物、及び生活要因、環境要因又は他の疾患等の要因によりそのような疾患の発症リスクが高い哺乳動物が、好ましい投与対象(被験体)として挙げられる。インフラマソーム活性化を伴う炎症性疾患又はその他の疾患としては、例えば、自己炎症性症候群、糖尿病(特に2型糖尿病)などの糖代謝異常、脂質代謝異常、慢性肝炎、脳卒中、心筋梗塞、アテローム性動脈硬化などの心血管病、痛風、肥満、自己免疫疾患、炎症性腸疾患、血球減少症、アレルギー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物の投与量又は摂取量は、それを医薬品として投与するか又は飲食品として摂取するか、投与経路、ヒトを含む被験体の年齢、体重、症状など、種々の要因を考慮して、適宜設定することができる。本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物は、単回投与でもよいが、数時間〜数か月の間隔で複数回投与してもよい。
【0042】
本発明は、本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物又は本発明に係るインフラマソーム活性化制御物質を上記のような被験体に投与することを含む、インフラマソーム活性化制御方法、及び炎症性サイトカイン(特にIL-1β及び/又はIL-18)産生制御方法も提供する。好ましい一実施形態では、それらの方法は、インフラマソーム活性化阻害方法、及び炎症性サイトカイン(特にIL-1β及び/又はIL-18)産生抑制方法である。本発明はまた、本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物又は本発明に係るインフラマソーム活性化制御物質を上記のような被験体に投与することを含む、インフラマソーム活性化に伴う炎症反応又はインフラマソーム活性化によって引き起こされる他の生体反応の抑制方法、及びインフラマソーム活性化を伴う炎症性疾患又は他の疾患の改善、治療又は予防方法も提供する。なお本発明は、インフラマソーム活性化制御用組成物を用いて、インフラマソームの活性化を制御する方法にも関する。このインフラマソームの活性化を制御する方法は、in vivoで実施する方法であってもよいし、in vitroで実施する方法であってもよい。このインフラマソームの活性化を制御する方法は、単離した細胞若しくは組織又はその培養物を対象に行うものであってもよい。
【0043】
本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物は、医薬品又は飲食品において好適に使用できる。したがって本発明は、本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物を含む、医薬品又は飲食品も提供する。本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物を含む医薬品又は飲食品は、上記インフラマソーム活性化制御物質を有効成分として含む。
【0044】
本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物を含む医薬品は、製薬上許容される製剤補助剤、例えば不活性担体(固体又は液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤等をさらに含んでもよい。具体的には、水、他の水性溶媒、製薬上許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、水溶性デキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどの他、リポゾームなどの人工細胞構造物等を含んでもよい。製剤補助剤は、製剤の剤形に応じて適宜又は組み合わせて選択されうる。本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物を含む医薬品はまた、適当量のビタミン、ミネラル、糖類、アミノ酸、ペプチド類等をさらに含んでもよいし、抗生物質などの他の有効成分をさらに含んでもよい。
【0045】
本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物を含む医薬品は、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤等の固形製剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤などの液体製剤、ジェル剤、エアロゾル剤等の任意の剤形に製剤化されたものであってよい。液体製剤として用いる場合には、本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物を含む医薬品は、本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物を、使用する直前に例えば生理食塩水中に再構成することを意図した乾燥物として製剤化することもできる。本発明に係る医薬品におけるインフラマソーム活性化制御物質の配合量は剤形、使用する製剤補助剤、対象疾患の重症度などによって異なり、特に限定されない。
【0046】
本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物を含む飲食品は、食品として許容される製剤補助剤を含んでもよい。そのような製剤補助剤としては、上記の医薬品について記載したものと同様の製剤補助剤を用いることができる。本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物を含む飲食品は、加工食品、惣菜、菓子、調味料、飲料等の任意の飲食品であってよい。本発明に係る飲食品は、機能性食品であってもよい。本発明において「機能性食品」は、生体に対して一定の機能性を有する食品を意味し、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)及び栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント製品(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル及び液剤などの各種剤形のもの)及び美容食品(例えばダイエット食品)などのいわゆる健康食品全般を包含する。本発明の機能性食品はまた、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含する。本発明に係る機能性食品は、例えば、インフラマソーム活性化に関連する炎症反応を有する疾患若しくは症状を有するか又はその炎症反応を生じやすい傾向があるヒトのためのサプリメントであってよい。本発明に係る機能性食品はまた、インフラマソーム活性化を伴う他の疾患若しくは他の症状を有するか又はそれらを生じやすい傾向があるヒトのためのサプリメントであってよい。
【0047】
本発明に係る飲食品は、固体、液体、混合物、懸濁液、ペースト、ゲル状、粉末、顆粒、カプセル等の任意の食品形態であってよい。本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物又はインフラマソーム活性化制御物質は、当業者が利用可能である任意の適切な方法によって、飲食品に含有させればよい。例えば、本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物又はインフラマソーム活性化制御物質を、液状、ゲル状、固体状、混合物状、粉末状又は顆粒状に調製した後、それを飲食品に配合してもよいし、飲食品の原料中に直接添加した後に飲食品に加工してもよい。本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物又はインフラマソーム活性化制御物質を、カプセル封入してもよいし、可食フィルムや食用コーティング剤などで包み込んでもよい。また本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物又はインフラマソーム活性化制御物質に適切な賦形剤等を加えた後、錠剤などの任意の形状に成形してもよい。本発明に係る飲食品は、例えば、各種食品(牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品その他の市販食品等)に、本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物又はインフラマソーム活性化制御物質を添加して調製してもよい。
【0048】
本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物を含む飲食品においては、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等も含有させることができる。タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これらの分解物;バター、乳清ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。カゼインホスホペプチド、アルギニン、リジン等のペプチドやアミノ酸を含んでいてもよい。糖質としては、例えば、糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、エリソルビン酸などが挙げられる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することもでき、それぞれ合成物であっても天然物であってもよい。
【0049】
本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物を含む医薬品又は飲食品は、インフラマソーム活性化制御用又は炎症性サイトカイン(特にIL-1β及び/又はIL-18)産生制御用、より具体的には、インフラマソーム活性化に伴う炎症反応(特にIL-1β及び/又はIL-18により誘導される炎症反応)の抑制用に用いるものであってよい。
【0050】
本発明はまた、本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物又はインフラマソーム活性化制御物質を含む飼料用添加物も提供する。本発明に係る飼料用添加物は、固体、液体、混合物、懸濁液、ペースト、ゲル状、粉末、顆粒、カプセル等の任意の形態であってよい。本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物を含む飼料用添加物は、飼料用添加物に使用され得る任意の補助剤、例えば不活性担体(固体又は液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤等をさらに含んでもよい。飼料用添加物はまた、適当量のビタミン、ミネラル、糖類、アミノ酸、ペプチド類等の他の成分をさらに含んでもよいし、抗生物質などの他の有効成分をさらに含んでもよい。本発明に係る飼料用添加物は、家畜や愛玩動物等の動物(好ましくは哺乳動物)の飼料に適宜配合することができる。本発明に係る飼料用添加物を飼料に配合することにより、インフラマソーム活性化制御物質を家畜や愛玩動物等の動物に摂取させることが容易になる。
【0051】
本発明に係るインフラマソーム活性化制御用組成物又はインフラマソーム活性化制御物質を含む医薬品若しくは飲食品、又は飼料用添加物の投与又は摂取の対象(被験体)は、インフラマソーム活性化制御用組成物について記載したものと同様である。
【0052】
本発明に係るインフラマソーム活性化阻害用組成物又はインフラマソーム活性化制御物質を含む医薬品、飲食品及び飼料用添加物は、インフラマソーム活性化制御用であってよく、例えば、インフラマソーム活性化に伴う炎症反応又は他の生体反応の制御(特に、抑制)、又はインフラマソーム活性化を伴う炎症性疾患や他の疾患の改善、治療、又は予防のために好適に用いることができる。インフラマソーム活性化に伴う炎症反応の制御は、限定するものではないが、例えば炎症性サイトカインの量、特にIL-1β及びIL-18の量を指標として判断することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
(1)FLAG-ASC発現ベクター及びNLRP3発現ベクターの作製
FLAG-ASC及びNLRP3を293T細胞で組換え発現させるために、以下のように動物細胞発現ベクターを作製した。
【0055】
(a) FLAG-ASC発現ベクター
ヒト白血病細胞株U937細胞からクローニングしたASC cDNAを鋳型とし、以下のプライマーを用いてヒトASC遺伝子全長(配列番号1;GenBankアクセッション番号AB023416)を含むDNA断片をPCRで増幅し、FLAGエピトープタグをクローン化遺伝子の5'末端に融合させることができる発現ベクターpCMV10-FLAG(Sigma社)のEco RI-Bgl II部位に挿入することにより、FLAG-ASC発現ベクターを作製した。
プライマー(フォワード): 5’-TTTGAATTCAATGGGGCGCGCGCGCGACGCC-3’(配列番号10)
プライマー(リバース): 5’-TTTTAGATCTTCAGCTCCGCTCCAGGTCCTC-3’(配列番号11)
【0056】
(b) NLRP3発現ベクター
U937細胞からクローニングしたNLRP3 cDNAを鋳型として以下のプライマーを用いてNLRP3遺伝子全長を含むDNA断片をPCRで増幅し、動物細胞発現ベクターpcDNA3.1(INVITROGEN社)のBam HI-Xho I部位に挿入することにより、NLRP3発現ベクターを作製した。
プライマー(フォワード): 5’-TTTTGGATCCATGAAGATGGCAAGCACCCGC-3’(配列番号12)
プライマー(リバース): 5’-TTTTCTCGAGCTACCAAGAAGGCTCAAAGAG-3’(配列番号13)
【0057】
(2)FLAG-ASCとNLRP3の結合を指標としたインフラマソーム形成制御物質の選抜
上記で作製したFLAG-ASC発現ベクター及びNLRP3発現ベクターを、10cmディッシュに培地DMEM+10% FCSで培養した293T細胞に、Lipofectamin(登録商標)2000(Invitrogen社)をInvitrogen社の添付プロトコールに従って用いて遺伝子導入した。遺伝子導入後24時間にわたり細胞を培養した後、被検物質としてモノカルボン酸(1mMのプロピオン酸、酪酸、又は乳酸)の存在下で12時間培養し、添加したLPS(100ng/ml)/ATP(1mM)を1時間反応させて細胞を回収した。回収した細胞はPBS 1mlで2回洗浄した後、溶解バッファー(20mM Hepes(pH7.9)、100mM NaCl、10%グリセロール、1mM EDTA、0.1% NP-40)500μlに懸濁して氷上で10分間静置して溶解した。溶解物は、20,000×g、4℃で5分間遠心して上清を回収し、これを10μlの抗FLAG M1抗体-アガロースゲル(Sigma社)と1時間反応させて免疫沈降を行った。反応後、溶解バッファー500μlで三回洗浄した後、残ったアガロースゲルに20μlのSDSローディングバッファー(0.125M Tris-HCl、2% SDS、10% グリセリン、0.005% BPB、5% メルカプトエタノール)を加えて加熱して溶出した。サンプルをSDS-PAGEに供した後、抗FLAG抗体(Sigma社)又は抗NLRP3抗体(Abcam社)を用いてウェスタンブロッティングを行ってFLAG-ASC又はNLRP3を検出した。その結果、抗FLAG抗体による検出では、抗FLAG抗体アガロースで回収された、FLAG-ASCに相当するバンドと、これと結合してインフラマソームを形成したNLRP3のバンドが検出された。そこで、抗NLRP3抗体による検出結果から、その後者に相当するサイズのバンドの有無に基づき、NLRP3がインフラマソームを形成できたかどうかを判定した。
【0058】
抗NLRP3抗体による検出結果を
図2に示す。コントロールは被検物質を添加しなかったサンプル、(−)はFLAG-ASCとNLRP3を293T細胞に遺伝子導入していないサンプルを示している。
図2に示すように、コントロールでは、FLAG-ASCと結合してインフラマソームを形成することにより抗FLAG抗体アガロースで回収されたNLRP3が、バンドとして検出された。一方、プロピオン酸又は酪酸の存在下では、NLRP3の結合が顕著に減弱していた。この結果から、短鎖脂肪酸であるプロピオン酸及び酪酸はそれぞれ、NLRP3のインフラマソーム形成を阻害することが示された。
【0059】
[実施例2]
(1)被検物質固定化マイクロビーズの作製
アフィニティナノビーズ(FGビーズ)のリンカーに無水コハク酸又は無水グルタル酸を反応させることで、それぞれプロピオン酸又は酪酸を固定化した状態のアフィニティビーズを作製した(
図3、
図4A)。具体的には、アミノ基型アフィニティビーズ(アミノビーズ;多摩川精機社)に、10mMの無水グルタル酸を混合し、室温で12時間反応させた後、4%無水酢酸を加えて6時間反応させ、残ったアミノ基をマスキングすることにより、酪酸を固定化したアフィニティナノビーズを作製した。同様にアミノ基型アフィニティビーズ(アミノビーズ;多摩川精機社)に、10mMの無水コハク酸を混合し、室温で12時間反応させた後、4%無水酢酸を加えて6時間反応させ、残ったアミノ基をマスキングすることにより、プロピオン酸を固定化したアフィニティナノビーズを作製した。
【0060】
(2)ASC全長断片及び部分断片の作製
ASCのピリンドメイン(PD)の塩基性アミノ酸(リジン)に富んだアミノ酸配列部分(KKFKLK;リジンリッチ配列)に結合する物質の検出に用いるため、ASCのN末端側からリジンリッチ配列の手前までの18アミノ酸を削除したASC部分断片(Δ18 ASC;177アミノ酸長;
図4B)と、リジンリッチ配列の終了点までの27アミノ酸を削除したASC部分断片(Δ27 ASC;168アミノ酸長;
図4B)を作製した。
【0061】
具体的には、まず、GSTタグ融合タンパク質発現用の大腸菌発現ベクターpGEX6P-1(GE healthcare社)のEco RI-Sal I部位に、ヒトASC cDNA(195アミノ酸長のヒトASC全長アミノ酸配列又はそのN末端アミノ酸18残基若しくは27残基を欠損したアミノ酸配列をコードするcDNA)を挿入したベクターを作製した。ヒトASC cDNAは、以下のPCRプライマーを用いてPCR増幅により調製して用いた。
プライマー(フォワード; ASC全長): 5’-TTTGAATTCATGGGGCGCGCGCGCGACGCC-3’ (配列番号14)
プライマー(フォワード; ASCΔ18): 5’-TTTGAATTCGCCGAGCTCAAGAAG-3’ (配列番号15)
プライマー(フォワード; ASCΔ27): 5’-TTTGAATTCCTGCTGTCGGTGCCGCTG-3’ (配列番号16)
プライマー(リバース): 5’-TTTTGCTAGCTCAGCTCCGCTCCAGGTCCTC-3’ (配列番号17)
【0062】
作製したベクターを導入して大腸菌株BL21(DE)を形質転換し、LB培地で培養後、1mM IPTG(和光純薬工業社)を加えて組換えタンパク質発現を誘導した。菌体を超音波処理で破砕し、グルタチオンセファロース(GE healthcare社)を用いて組換えタンパク質を濃縮し、GSTタグをGST融合タンパク質切断用プロテアーゼPrecision protease(GE healthcare社)で切断し、遊離した組換えASCタンパク質を回収した。
【0063】
得られた組換えASCタンパク質のうち、全長ASCのアミノ酸配列を配列番号2に、それをコードする塩基配列を配列番号1に示す。またΔ18 ASCのアミノ酸配列を配列番号4に、それをコードする塩基配列を配列番号3に示す。さらにΔ27 ASCのアミノ酸配列を配列番号6に、それをコードする塩基配列を配列番号5に示す。
【0064】
(3)ASCピリンドメインのリジンリッチ配列に結合する物質の検出
上記で作製した組換えASCタンパク質(全長ASC又はASC部分断片)5μgと、上記で作製したプロピオン酸固定化ビーズ0.2μgを結合バッファー(binding buffer)(20mM Hepes、100mM NaCl、10% グリセロール、0.1% NP40)200μl中に混和して1時間反応させた。遠心によりビーズを回収し、結合バッファーで3回洗浄後、ビーズに結合したタンパク質をSDSローディングバッファーで溶出した。溶出液を、12.5% SDSポリアクリルアミドゲルで泳動し、ゲル上のタンパク質を銀染色で検出した。この結果、
図5に示したように、全長ASC及びPDのリジンリッチ配列を含むASC部分断片(Δ18 ASC)を反応させたサンプルでは、プロピオン酸固定化ビーズで結合が見られたが、PDのリジンリッチ配列まで削除されたASC部分断片(Δ27 ASC)を反応させたサンプルでは結合が見られなかった。この結果、プロピオン酸はASCのPDのリジンリッチ配列に結合することが明らかになった。このことから、PDのリジンリッチ配列への結合により、プロピオン酸がインフラマソームの形成を阻害する可能性が示された。さらに酪酸についても同様の実験を行い、酪酸のリジンリッチ配列への結合が示された。
【0065】
(4)ピリンドメインを有するNLRPファミリータンパク質に結合する物質の検出
ASCのピリンドメインに含まれるリジンリッチ配列は、インフラマソームを構成するNLRPファミリータンパク質のピリンドメイン中でも保存されている。そこで、短鎖脂肪酸がASC以外のピリンドメインを持つ因子に結合するか検討するために、NLRP1、NLRP3、NLRP4、及びNLRP6の組換えタンパク質を調製し、結合活性を検証した。
【0066】
まず、ヒトNLRP1、NLRP3、NLRP4及びNLRP6のcDNAを以下のプライマーを用いてPCRで増幅し、in vitro翻訳発現用のベクターpF3AWG(PROMEGA社)のSgf I-Pme I部位に挿入してそれぞれのタンパク質を発現するベクターを作製した。
プライマー(NLRP1フォワード): 5’-TTTTCGATCGCCATGGCTGGCGGAGCCTGGGGC-3’(配列番号18)
プライマー(NLRP1リバース): 5’-TTTTGTTTAAACTCAGCTGCTGAGTGGCAGGAG-3’(配列番号19)
プライマー(NLRP3フォワード): 5’-TTTTCGATCGCCATGAAGATGGCAAGCACCCGC-3’(配列番号20)
プライマー(NLRP3リバース): 5’-TTTTGTTTAAACCTACCAAGAAGGCTCAAAGAC-3’(配列番号21)
プライマー(NLRP4フォワード): 5’-TTTTCGATCGCCATGGCAGCCTCTTTCTTCTCTG-3’(配列番号22)
プライマー(NLRP4リバース): 5’-TTTTGTTTAAACTCAGATCTCTACCCTTGTGAT-3’(配列番号23)
プライマー(NLRP6フォワード): 5’-TTTTCGATCGCCATGGACCAGCCAGAGGCCCCC-3’(配列番号24)
プライマー(NLRP6リバース): 5’-TTTTGTTTAAACTCAGAAGGTCGAGATGAGTTC-3’(配列番号25)
【0067】
上記で作製した発現プラスミド3μgを、TNT SP6 in vitro translation kit(PROMEGA社)を用いてin vitroで発現させ、FluoroTECT(PROMEGA社)により、発現させたタンパク質を蛍光ラベルした。これらの発現タンパク質を、プロピオン酸固定化ビーズ0.2μgと1時間反応させた後、精製を行った。プロピオン酸ビーズに結合したタンパク質をSDS-PAGEにかけた後、蛍光スキャナー(Typhoon FLA 9500)で検出した。この結果、
図6に示したように、NLRP1、NLRP3、NLRP4及びNLRP6の全てでプロピオン酸との結合が検出された。これらのことから、プロピオン酸等のモノカルボン酸はASCだけでなくNLRPファミリーなどのピリンドメインを持つタンパク質に広く結合するものと考えられた。
【0068】
[実施例3]
実施例2(2)で作製した組換えASC全長タンパク質を用いて、被検物質(プロピオン酸、酪酸又は乳酸)のASCタンパク質への結合能を検証するための競合阻害実験を行った。組換えASCタンパク質溶液に、過剰量のプロピオン酸、酪酸、又は乳酸(1mM又は5mM)を加えて、室温で30分間インキュベートした後、それぞれ酪酸固定化ビーズを加えて1時間反応させ、ビーズを回収しビーズに結合した物質を溶出させた後、溶出物質をSDS-PAGEにかけて、銀染色によりタンパク質を検出した。
【0069】
結果を
図7に示した。図中、(-)は被検物質を固定化していないコントロールビーズを用いたサンプルであり、(+)は酪酸を固定化したビーズを用いたサンプルである。酪酸固定化ビーズで見られたASCとの結合は、プロピオン酸又は酪酸の添加で消失したのに対し、乳酸の添加では結合に影響は見られなかった。これは、大部分のASCタンパク質が過剰量のプロピオン酸又は酪酸と結合してしまい、酪酸固定化マイクロビーズとほとんど結合しなかったため、当該ビーズでASCタンパク質を回収できなかったことを示している。このことから、プロピオン酸及び酪酸がASCタンパク質に確かに結合すること、乳酸はASCタンパク質に結合しないことが裏付けられた。
【0070】
[実施例4]
インフラマソームが形成されると、カスパーゼ-1が活性化され、pro-IL-1β及びpro-IL-18をそれぞれIL-1β及びIL-18にプロセシングする。そこで、短鎖脂肪酸によるインフラマソーム形成制御作用を、U937細胞を用い、カスパーゼ-1活性の変化に基づいて試験した。U937細胞は、カタログ番号JCRB9021で独立行政法人医薬基盤研究所JCRB細胞バンク(日本国大阪府茨木市彩都あさぎ7丁目6番8号)に寄託されている。
【0071】
U937細胞にPMA(ホルボールミリスチン酸アセテート)をRPMI 1630培地(10%FCS)中に100nM添加して24時間培養することにより、分化誘導を行った。分化誘導後、新しい培地に交換してLPS 100ng/mlを加えて12時間培養した。これに、酪酸、プロピオン酸又は乳酸をそれぞれ1mM加えて1時間培養後、5mM ATPを加えて1時間培養し、インフラマソーム形成を活性化した。この後、細胞をPBSで2回洗浄して回収し、カスパーゼ-1アッセイキット(abcam社)を用いて解析した。カスパーゼ-1アッセイは、abcam社の添付プロトコールに従い、カスパーゼ-1によって切断される蛍光基質であるYVAD-AFCから放出される蛍光強度をプレートリーダー(Wallac ARVO SX)により検出して、活性化したカスパーゼ-1の量を測定することにより行った。
【0072】
その結果を
図8に示す。被検物質(酪酸、プロピオン酸又は乳酸)の不在下で培養した場合、LPSとATPの添加によってカスパーゼ-1の活性は顕著に上昇した。一方、酪酸又はプロピオン酸の存在下で培養した場合、LPSとATPの添加によるカスパーゼ-1の活性上昇が有意に抑制された。この結果は、酪酸又はプロピオン酸がインフラマソームの形成を阻害することにより、LPSとATPの刺激によってもインフラマソームが形成されず、その結果としてカスパーゼ-1の放出(カスパーゼ-1の活性化)の抑制が生じたことを示している。なお乳酸がカスパーゼ-1の活性上昇を抑制しなかったことから、乳酸はインフラマソーム形成を阻害しないことも確認された。
【0073】
[実施例5]
短鎖脂肪酸によるインフラマソーム形成制御作用をさらに調べるため、U937細胞からのIL-1βの分泌に対する効果を検討した。具体的には実施例4と同様のスキームで、U937細胞にPMAを添加して分化誘導を行った後、酪酸、プロピオン酸又は乳酸を加え、LPSとATPを加えて刺激してインフラマソーム形成を活性化した。培地中に放出されたIL-1β濃度は、ヒトIL-1β ELISAキット(R&D社)を用いて測定した。この測定の手順はR&D社添付文書に従って行い、反応により発色した吸光度をプレートリーダー(BioRad社:Benchmark PLUS)で測定し、IL-1β濃度を定量した。
【0074】
その結果を
図9に示す。被検物質(酪酸、プロピオン酸又は乳酸)の不在下で培養した場合、LPSとATPの添加によって培地中のIL-1β濃度(IL-1βの分泌濃度)は顕著に上昇した。一方、酪酸又はプロピオン酸の存在下で培養した場合、LPSとATPの添加によるIL-1βの分泌濃度の上昇は有意に抑制された。
【0075】
この結果と実施例4の結果から、酪酸やプロピオン酸は、インフラマソームの形成阻害を介してカスパーゼ-1の活性化を抑制し、それによりpro-IL-1βのプロセシングが阻害されることが示された。また乳酸はIL-1βの分泌濃度の上昇を抑制せず、IL-1βの分泌濃度の上昇を抑制する作用がないことも示された。
【0076】
[実施例6]
インフラマソーム形成制御に基づくサイトカイン産生制御についてさらに調べるため、ヒト急性白血病細胞株THP1細胞を用いて、インフラマソーム刺激によって誘導されるIL-1β及びIL-18産生に対する短鎖脂肪酸をはじめとする各種モノカルボン酸の効果を調べた。実施例4と同様の手順で、THP1細胞にPMAをRPMI 1630培地(10%FCS)中に100nM添加して24時間培養し、分化誘導を行った。分化誘導後、新しい培地に交換してLPS 100ng/mlを加えて12時間培養した。
【0077】
この培地に短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、及びエナント酸)、分岐型モノカルボン酸(乳酸及びアラニン)、ジ-又はトリ-カルボン酸(グルタル酸、コハク酸、及びクエン酸)をそれぞれ、0.5又は1.0mM加えて1時間培養した後、5mM ATPを加えて1時間培養し、インフラマソーム形成を活性化した。産生されたIL-1β及びIL-18は、それぞれR&D社またはMBL社のELISAキットを用いて測定した。
【0078】
この結果、
図10及び11に示したように、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、及びエナント酸)においてIL-1β産生(
図10)及びIL-18産生(
図11)の上昇を抑制する効果が認められたが、乳酸やジカルボン酸及びトリカルボン酸ではIL-1β及びIL-18産生に対する影響は見られなかった。アラニンはIL-1β及びIL-18産生上昇を抑制する傾向が見られた。これらの結果から、モノカルボン酸、特に短鎖脂肪酸やヒドロキシル基を有しないアミノ酸(アラニンなど)はインフラマソーム形成制御作用を有することが示された。