(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
強化繊維束の搬送方向に沿って、順次配設された少なくとも2本の同径開繊バーと、その後段に配設された少なくとも1本の異径開繊バーとからなり、強化繊維束を前記同径開繊バー、次いで異径開繊バーに巻掛けて搬送させることにより、前記強化繊維束を開繊する強化繊維束の開繊装置であって、
前記同径開繊バーはその軸方向に沿う直径が同一の開繊バーであり、
前記異径開繊バーは、その軸方向両端から中央部に向うに従って直径が漸増してなる開繊バーであり、
前記同径開繊バー及び/又は前記異径開繊バーが、その軸方向に沿って回転不能に支持されており、
前記同径開繊バー及び/又は前記異径開繊バーの表面粗度が、Ra0.2〜0.4μmであることを特徴とする、
強化繊維束の開繊装置。
強化繊維束を、少なくとも2本の同径開繊バーと、その後段に配設された少なくとも1本の異径開繊バーとを、これらの上面を跨ぎ、又は下面を潜ることを交互に繰返して搬送させる強化繊維束の開繊方法であって、前記同径開繊バーはその軸方向に沿う直径が同一の開繊バーを用い、異径開繊バーはその軸方向両端から中央部に向うに従って直径が漸増してなるとともに、
前記同径開繊バー及び/又は前記異径開繊バーが、その軸方向に沿って回転不能に支持されており、
前記同径開繊バー及び/又は前記異径開繊バーの表面粗度が、Ra0.2〜0.4μmである開繊バーを用いる強化繊維束の開繊方法。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を炭素繊維等の強化繊維で補強した強化繊維複合材料は、引張強度、引張弾性率が高く、耐熱性、疲労特性に優れるなどの優れた特長を有しており、スポーツ、レジャー、航空、宇宙等の分野で幅広く用いられている。
【0003】
強化繊維は、通常、サイジング剤と呼ばれる樹脂等で1000本〜数万本にまとめられ、強化繊維束として供給されている。この強化繊維束に熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を含浸させ、又は、この強化繊維束を一定の繊維長に裁断してなるチョップドストランドを熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂に分散させ、成型・硬化させることにより、所望の強化繊維複合材料が製造される。
【0004】
薄い複合材料を製造する場合や、物性の均一な複合材料を製造する場合、強化繊維束を事前に十分に開繊することで、樹脂の含浸性又は樹脂への分散性を向上させることが重要である。一方、特に硬化温度や成形温度の高い高耐熱性の樹脂をマトリクス樹脂として用いる場合、強化繊維束に付着させるサイジング剤にも高い耐熱性が求められる。しかし、かかる高耐熱性のサイジング剤は、総じて分子量が高く、常温において固体である場合が多いため、このようなサイジング剤が付着した繊維束は、取り扱い性が悪くなりやすく、特に開繊性の低下が問題となっている。
【0005】
従来、強化繊維束の開繊方法としては、複数本の円柱状のスプレッダーバーを並設してなる開繊装置を用いる開繊方法が知られている(特許文献1)。この方法においては、スプレッダーバーに、開繊するべき複数本の強化繊維束のうち、一方が上を跨ぎ、他方が下を潜るように交互に互違いに巻掛けて、強化繊維束を摺動させることにより、強化繊維束を開繊している。この方法に用いるスプレッダーバーは円柱状であり、この形状を工夫することに関する記載はない。この方法の目的とするところは、スプレッダーバーの撓みを減少させ、強化繊維束を均一に開繊することにある。
【0006】
特許文献2には、少なくとも3本のバーに、サイジング剤を付与した強化繊維束を巻掛けて緊張状態で通過させて開繊する方法が記載されている。前記バーの内、少なくとも1本のバーは50〜200℃の加熱バーである。この加熱バーを通過する際に、サイジング剤が加熱され、その粘度が低下する。その結果、強化繊維束の開繊が円滑に行われると記載されている。しかし、バーの形状を工夫することに関する記載はない。円筒形のバーを用いる場合、強化繊維束の開繊が不十分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、その目的とするところは、強化繊維束を十分に開繊することのできる開繊装置、及び開繊方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意検討を行った。その結果、強化繊維束の開繊に際し、複数の開繊バーを用いると共に、繊維の搬送方向後段の1以上の開繊バーの形状を略紡錘状に形成することにより、上記目的を達成できることを見出した。本発明は、上記発見に基づいて完成するに到ったものである。
【0010】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0011】
〔1〕 強化繊維束の搬送方向に沿って、順次配設された少なくとも2本の同径開繊バーと、その後段に配設された少なくとも1本の異径開繊バーとからなり、強化繊維束を前記同径開繊バー、次いで異径開繊バーに巻掛けて搬送させることにより、前記強化繊維束を開繊する強化繊維束の開繊装置であって、
前記同径開繊バーはその軸方向に沿う直径が同一の開繊バーであり、
前記異径開繊バーは、その軸方向両端から中央部に向うに従って直径が漸増してなる開繊バーであることを特徴とする、
強化繊維束の開繊装置。
【0012】
〔2〕 前記同径開繊バーの直径及び前記異径開繊バーの最大直径が、それぞれ10〜200mmである〔1〕に記載の開繊装置。
【0013】
〔3〕 前記同径開繊バー及び/又は前記異径開繊バーが、その軸方向に沿って回転不能に支持されている〔1〕に記載の開繊装置。
【0014】
〔4〕 前記同径開繊バー及び/又は前記異径開繊バーが、その内部にヒーターを備えてなる〔1〕に記載の開繊装置。
【0015】
〔5〕 前記同径開繊バー及び/又は前記異径開繊バーの表面粗度が、Ra0.2〜0.4μmである〔1〕に記載の開繊装置。
【0016】
〔6〕 前記強化繊維束が、炭素繊維束である〔1〕に記載の開繊装置。
【0017】
〔7〕 前記強化繊維束を、少なくとも2本の同径開繊バーと、その後段に配設された少なくとも1本の異径開繊バーとを、これらの上面を跨ぎ、又は下面を潜ることを交互に繰返して搬送させる強化繊維束の開繊方法であって、前記同径開繊バーはその軸方向に沿う直径が同一の開繊バーを用い、異径開繊バーはその軸方向両端から中央部に向うに従って直径が漸増してなる開繊バーを用いる強化繊維束の開繊方法。
【0018】
〔8〕 前記同径開繊バー及び/又は前記異径開繊バーの表面温度が、100〜250℃である〔7〕に記載の強化繊維束の開繊方法。
【0019】
〔9〕 前記同径開繊バー及び/又は前記異径開繊バーと前記強化繊維束との接触角が、30〜180°である〔7〕に記載の強化繊維束の開繊方法。
【0020】
〔10〕 前記同径開繊バー及び/又は前記異径開繊バーと前記強化繊維束との接触時間の合計が、0.5〜120秒である〔7〕に記載の強化繊維束の開繊方法。
【0021】
〔11〕 前記強化繊維束に0.5〜5g/texの張力を付与しながら前記異径開繊バーに摺接させる〔7〕に記載の強化繊維束の開繊方法。
【0022】
〔12〕 25℃において固形状の樹脂を不揮発成分として60質量%以上含むサイジング剤が付着した強化繊維束であり、1000Texあたりの幅が8mm以上である強化繊維束。
【発明の効果】
【0023】
本発明の開繊装置及び開繊方法においては、異径開繊バーと所定張力下に摺接させることにより、無理なく、大きく開繊することができる。ここで、異径開繊バーは、いわゆる紡錘状であるので、開繊されつつある強化繊維束の幅方向中央部分が異径開繊バーで強く押圧され、強化繊維束を幅方向に押し広げる。その結果、強化繊維束は、幅広に、薄く開繊される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(開繊装置及び開繊方法)
以下、図面を参照して、本発明の一実施例に付き、詳細に説明する。
図1は、本発明の開繊装置100を示す概略図である。図中、2は、強化繊維束で、搬送ローラー4、6により矢印X方向に連続的に搬送されている。8、10は、張力調節ローラーで、このローラー8、10により、開繊する強化繊維束2の張力が制御される。
【0026】
張力調節ローラー8、10を通過した強化繊維束2は、次いで所定数(本図に於いては3箇)の同径開繊バー12a、12b、12cの上面を跨ぎ、又は下面を潜ることを交互に繰返してジグザグに搬送される。同径開繊バーに接触しながら強化繊維束が搬送されることで、強化繊維束はある程度開繊される。ある程度開繊された強化繊維束2は、次いで、異径開繊バー14の外周面を巻掛けて搬送される。この搬送の際に、強化繊維束2は、大きく開繊される。操作条件により相違するが、異径開繊バー14で開繊される幅は、供給繊維束の1.4〜2.7倍が好ましい。
【0027】
上記のようにして開繊された強化繊維束2は、搬送ローラー16により搬送され、巻取り装置18に送られてロール状に巻取られる。
【0028】
図2(A)は、同径開繊バーの一例を、(B)は異径開繊バーの一例を示す側面図である。
図2(A)に示すように、同径開繊バー12cの形状は、その軸方向に沿う直径が同一の円柱状である。また、
図2(B)に示すように、異径開繊バー14の形状は、その軸方向に沿う直径が両端部から中央に向うに従って漸次増加する、いわゆる紡錘状である。この同径開繊バー及び異径開繊バーは、その外周部が強化繊維束の開繊部である。
【0029】
異径開繊バー14の形状は、異径開繊バー14の軸に沿う断面の形状が円弧状であることが好ましい。円弧の半径(曲率半径)としては、50〜100mmが好ましく、60〜80mmがより好ましい。円弧の半径(曲率半径)が50〜100mmであると、繊維束の開繊される幅を1.4〜2.7倍に調整しやすい。円弧の半径(曲率半径)が大きすぎると、開繊効率が低下する傾向がある。円弧の半径(曲率半径)が小さすぎると、繊維束が開繊され過ぎる傾向にあり、繊維束が複数の繊維束に分割される、いわゆる繊維束割れを生じやすい。
【0030】
同径開繊バー12cの直径、及び異径開繊バー14の最大直径は、それぞれ10〜200mmが好ましく、20〜150mmがより好ましく、30〜100mmが特に好ましい。直径が小さすぎると開繊効果が低下する傾向があり、毛羽を生じやすい。
【0031】
また、
図4(A)、(B)に示すように、各開繊バーには案内溝50、56を形成しても良い。
図4(A)は、同径開繊バーの他の例を示す側面図である。この同径開繊バー22は、前述のように円柱状で、他端側48には、その外周に沿って切り欠いた案内溝50が形成されている。この案内溝50の底部52の直径R1は案内溝の全幅に亘り同一である。強化繊維束2は、この案内溝50に巻掛けられて搬送されながら開繊される。即ち、この案内溝50は、強化繊維束の開繊部である。なお、他の同径開繊バーも同じ形状に形成しても良い。
【0032】
図4(B)は、異径開繊バーの他の例を示す側面図である。この異径開繊バー24は円柱状で、前記同径開繊バー22と同様に、他端側54には、その外周に沿って切り欠いた案内溝56が形成されている。この案内溝56は、同径開繊バーと同様に、強化繊維束の開繊部である。
【0033】
この異径開繊バー24の案内溝56の底部58は、案内溝56の幅方向の両端部58a、58bから幅方向中央60に向うに従って、異径開繊バー24の底部58の直径R2が漸次増加する、いわゆる紡錘状に形成されている。
【0034】
案内溝56の底部58の形状は、異径開繊バー24の円柱軸に沿う断面の形状が円弧状であることが好ましい。円弧の半径(曲率半径)としては、50〜100mmが好ましく、60〜80mmがより好ましい。円弧の半径(曲率半径)が50〜100mmであると、繊維束の開繊される幅を1.4〜2.7倍に調整しやすい。円弧の半径(曲率半径)が大きすぎると、開繊効率が低下する傾向がある。円弧の半径(曲率半径)が小さすぎると、繊維束が開繊され過ぎる傾向にあり、繊維束が複数の繊維束に分割される、いわゆる繊維束割れを生じやすい。
【0035】
同径開繊バー22の開繊部の直径、及び異径開繊バー24の開繊部の最大直径は、それぞれ10〜200mmが好ましく、20〜150mmがより好ましく、30〜100mmが特に好ましい。直径が小さすぎると開繊効果が低下する傾向があり、毛羽を生じやすい。
【0036】
同径開繊バー及び異径開繊バーは、鉄、銅、ステンレススチール等の金属又は合金や、セラミック、ガラス等の無機材質で形成されていることが好ましい。
【0037】
同径開繊バー及び異径開繊バーの開繊部の表面粗度(Ra)は0.2〜0.4μmが好ましく、金属又は合金製の場合は表面がクロムめっきされていることが好ましい。上記範囲の粗度にし、クロムめっきすることにより、毛羽の発生を抑制できる。
【0038】
本発明において同径開繊バー及び/又は異径開繊バーは、所定の温度に加熱されていることが好ましい。開繊バーが所定の温度に加熱されていると、開繊バーと強化繊維束とが接触することにより、強化繊維束及び同強化繊維束に付与されているサイジング剤が加熱、軟化され、サイジング剤が付着した強化繊維束であっても効果的に開繊することができる。同径開繊バー、及び異径開繊バーの表面温度は100〜250℃であることが好ましく、120〜220℃であることがより好ましい。また、同径開繊バー、及び異径開繊バーの表面温度は強化繊維束に付着したサイジング剤の軟化温度又は流動開始温度より高い温度であることが好ましく、10℃以上高い温度であることがより好ましい。
【0039】
開繊バーの開繊部の表面温度を所期の値とするために、同径開繊バー及び異径開繊バーは、加熱手段を具備していることが好ましい。加熱手段としては、電気ヒーター、赤外線ヒーター、熱媒体、熱風による加熱手段等が好ましい。特に好ましい加熱手段としては、同径開繊バー及び異径開繊バーに、電気ヒーターを埋設する方法が例示できる。
【0040】
同径開繊バー12a、12b、12c及び異径開繊バー14と、強化繊維束2と、の接触角は、30〜180度が好ましく、45〜120度がより好ましい。この角度にすることにより、好適に強化繊維束が開繊される。
【0041】
ここで、接触角は、
図3に示されるように、開繊バー80に向う強化繊維束82と開繊バー80とが接触を開始する箇所84と、開繊バー80から強化繊維束が離れる箇所86と、開繊バー80の軸中心と、が形成する開繊バー80の中心角αである。
【0042】
本開繊装置で開繊できる強化繊維束としては、特に制限がない。例えば、炭素繊維束、ポリアミド等の合成繊維束、ガラス繊維等の無機繊維束等が好適に開繊される。強化繊維束を構成する単繊維数としては、1000〜100000本が好ましい。
【0043】
本開繊装置を用いると、サイジング剤が付与された繊維束であっても効果的に開繊することができる。繊維束にサイジング剤が付与されていることで、毛羽を抑えて開繊することができる。炭素繊維束の場合、付与されるサイジング剤の付与量は、0.1〜5.0質量%が好ましく、0.2〜3.0質量%がより好ましく、0.2〜1.0質量%が更に好ましい。炭素繊維束に付与されるサイジング剤としては、特に限定されず、例えば、公知のサイジング剤であるエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂やそれらの変性物が挙げられる。
【0044】
強化繊維束に付与されるサイジング剤が、25℃において固形状の樹脂を不揮発成分として60質量%以上含むサイジング剤を用いると、強化繊維束の耐熱性が向上するため好ましい。従来、25℃において固形状の樹脂を多く含むサイジング剤が付着した炭素繊維は、開繊性が低下しやすいことが問題となっていたが、本開繊維装置は25℃において固形状の樹脂がサイジング剤として付与された繊維束の開繊処理にも効果的に用いることができる。
【0045】
次に、
図1に記載する開繊装置を用いて、強化繊維束を開繊する場合に付き、説明する。
【0046】
先ず、強化繊維束2を
図1に記載するように、各ローラー8、10、同径開繊バー12a、12b、12c及び異径開繊バー14に巻掛ける。次いで、張力調節ローラー8、10により、異径開繊バー14を摺接しながら搬送される強化繊維束2の張力を0.5〜5g/texに調節する。強化繊維束2には、所定の張力が負荷されているので、同径熱開繊バー12a、12b、12c及び異径熱開繊バー14と強化繊維束2との間には、押圧力が生じる。その結果、強化繊維束2は開繊される。
【0047】
更に、好ましくは、同径開繊バー12a、12b、12c及び異径開繊バー14の表面温度を100〜250℃に調節する。開繊バーを加熱することにより強化繊維束2は加熱され、強化繊維束2に付与されているサイジング剤の粘度が低下し、強化繊維束はより効果的に開繊される。
【0048】
同径開繊バー12a、12b、12c及び異径開繊バー14と、強化繊維束2との合計接触時間は、特に制限はないが、0.5〜120秒間が好ましく、2〜50秒間がより好ましい。
【0049】
上記のように操作することにより、原料の強化繊維束2は、通常その幅が1.4〜2.7倍に開繊される。
【0050】
なお、上記例においては、同径開繊バーを3本配設したが、これに限られず、2本以上、好ましくは、2〜5本配設できる。更に、異径開繊バーを1本配設したが、これに限られず、1本以上、好ましくは1〜3本配設できる。
【0051】
更に、上記例においては、同径開繊バー、異径開繊バー(これらを開繊バーと表す)をその軸に沿って回転不能に配設したが、これらの開繊バーに回転軸を取付けて、開繊バーをその軸に沿って回転自在に配設しても良い。
【0052】
本発明の開繊方法を用いると、たとえ高耐熱性のサイジング剤が付着した繊維束であっても、効果的に開繊することができる。
【0053】
(強化繊維束)
本発明の強化繊維束は、25℃において固形状の樹脂を不揮発成分として60質量%以上含むサイジング剤が付着した強化繊維束であり、1000Texあたりの幅が8mm以上である強化繊維束である。25℃において固形状の樹脂を不揮発成分として60質量%以上、すなわち主剤として含むサイジング剤が付着した強化繊維束は耐熱性に優れる。更に、1000Texあたりの幅を8mm以上とすることで、マトリクス樹脂の含浸性又はマトリクス樹脂への分散性の優れた強化繊維束となる。
【0054】
強化繊維束のサイジング剤の付着量としては、0.1〜5.0質量%が好ましく、0.2〜3.0質量%がより好ましく、0.2〜1.0質量%が更に好ましい。サイジング剤の付着量がかかる範囲内であることで、マトリクス樹脂との接着性と耐熱性を両立しやすくなる。サイジング剤の付着量が少なすぎるとマトリクス樹脂との接着性が低下しやすい傾向があり、サイジング剤の付着量が多すぎると耐熱性が低下しやすい傾向がある。
【0055】
サイジング剤は前述のように公知のものが使用できる。これらのサイジング剤のうちでも、耐熱性が高いサイジング剤が好ましい。耐熱性が高いサイジング剤としては、25℃において固形状の樹脂を不揮発成分として60質量%以上含むサイジング剤であり、好ましくは25℃において固形状の樹脂を80質量%以上含むサイジング剤である。また、サイジング剤の不揮発成分の主剤は、軟化温度又は流動開始温度が50〜300℃の樹脂であることが好ましく、100〜200℃の樹脂であることがより好ましい。また、サイジング剤の不揮発成分の主剤は、分解温度が300〜500℃の樹脂であることが好ましい。また、分子量は3000以上、好ましくは3000〜20000の樹脂であることが好ましい。
【0056】
本発明の強化繊維束の1000Texあたりの幅は8mm以上であり、好ましくは8〜30mm、より好ましくは10〜25mm、更に好ましくは13〜20mmである。強化繊維束の厚みは、マトリクス樹脂の含浸性又はマトリクス樹脂への分散性の観点から、0.01〜0.15mmであることが好ましく、0.02〜0.12mmであることがより好ましく、0.05〜0.1mmであることが更に好ましい。また、強化繊維束の厚みに対する幅の割合である扁平率が、70〜500の範囲であることが、強化繊維束の取り扱い性と、含浸性及び分散性の両立との面から好ましく、150〜400であることがより好ましく、250〜350であることが更に好ましい。
【0057】
上記強化繊維束を所定の長さに切断することにより、チョップドストランドが製造される。チョップドストランドの長さは、3〜15mmが好ましく、5〜10mmがより好ましい。長さが3mm未満のチョップドストランドは、チョップドストランドの嵩密度が小さくなるため、チョップドストランドの取り扱い性が低下しやすい傾向がある。15mmを超えるチョップドストランドは、射出成型機やペレット製造用の押出機等にチョップドストランドを供給する際の供給安定性が低下しやすい傾向がある。
【0058】
切断方法としては、ロービングカッター等のロータリー式カッターや、ギロチンカッター等の通常用いられているカッターを適宜用いることができる。
【0059】
上記のようにして得られた本発明の強化繊維束は、各種熱硬化性樹脂、又は、熱可塑性樹脂の補強材として公知の各種用途に使用できる。強化繊維束をチョップドストランドとして用いる場合、マトリクス樹脂と混練してコンパウンド化してこれを成形する、あるいは、チョップドストランドとマトリクス樹脂とを成型機のホッパーに直接供給して混練及び成形することにより複合材料を製造することができる。
【0060】
複合材料のマトリクス樹脂として用いられる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ビニルエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂等が好ましく用いられる。
【0061】
複合材料のマトリクス樹脂として用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール等の汎用エンジニアリングプラスチックが好ましく用いられる。また、ABS等の汎用プラスチックやポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶性の芳香族ポリエステル等の耐熱性ポリマー類を使用してもよい。中でも、成型温度の高いポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール等の汎用エンジニアリングプラスチックに対して特に好適に用いることができる。
【0062】
強化繊維のマトリクス樹脂に対する配合量は、特に制限がなく、製造される複合材料に応じて適宜選択されるが、マトリクス樹脂100質量部に対して5〜30質量部配合することが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を参照して、本発明をより具体的に説明する。
【0064】
<強化繊維束の幅、厚み及び扁平率測定方法>
強化繊維束の幅は、金尺を用いて0.5mmの精度で測定した。厚みはマイクロメータを用いて0.01mmの精度で測定した。なお、サンプルは、それぞれのサンプル(繊維束)を各工程から取り出して、平らな場所に静置し無張力の状態で測定を行った。測定本数はそれぞれ10本ずつとし、平均値を用いてそれぞれの値とした。更に、強化繊維束の幅の平均値をその厚みの平均値で除して強化繊維束の扁平率とした。
【0065】
実施例1
図1に示す構成の開繊装置を用いて炭素繊維束を開繊した。炭素繊維束は、次のように製造した。すなわち、前駆体繊維であるPAN繊維(単繊維繊度0.7dtex、フィラメント数24000)を、空気中250℃で、繊維比重1.35になるまで耐炎化処理を行い、次いで窒素ガス雰囲気下、最高温度650℃で低温炭素化させた。その後、窒素雰囲気下1300℃で高温炭素化させて製造した炭素繊維束を、10.0質量%の硫酸アンモニウム水溶液を用い、電解酸化により表面処理を行い、実質的に無撚りの炭素繊維束(引張強度4000MPa、引張弾性率240GPa、フィラメント数24000本、単繊維直径7μm、繊度1600Tex)を得た。この炭素繊維束に、サイジング剤として、水溶性ウレタン樹脂(DIC株式会社製 ハイドランAP−30、皮膜流動開始温度110〜115℃)を0.4質量%付与した。炭素繊維束の開繊処理前の幅は9mm(1000Texあたりの幅 5.6mm)、厚みは0.19mmであり、扁平率は45であった。
【0066】
3本の同径開繊バーの開繊部の直径はそれぞれ50mm、1本の異径開繊バーの開繊部の最大直径は52.1mmであった。異径開繊バーの開繊部の曲率半径rは70mmであった。また、開繊バーと炭素繊維束との接触角は、12aが51°、12bが108°、12cが104°、14が167°であった。
【0067】
開繊バーはクロムめっきが施され、開繊部の表面粗さはRa0.25μmであった。
【0068】
異径開繊バーにおける炭素繊維束の張力を0.75g/tex、合計接触時間を0.70秒に設定した。同径開繊バーの温度を150℃、異径開繊バーの温度を150℃に維持し、炭素繊維束を開繊装置に供給した。各開繊バーを通過した直後の炭素繊維束の幅を測定した。結果を表1に示した。
【0069】
炭素繊維束の開繊処理後の幅は24mm(1000Texあたりの幅 15.0mm)、厚みは0.075mmであり、扁平率は320であった。
【0070】
得られた炭素繊維束を6mmの長さに切断し、炭素繊維チョップドストランドを製造した。得られたチョップドストランドは耐熱性に優れ、かつ、マトリクス樹脂への分散性に優れたチョップドストランドであった。
【0071】
比較例1
実施例1と同一条件で炭素繊維束を開繊した。但し、異径開繊バーの代わりに同径開繊バーを用いた。結果を表1に示した。
炭素繊維束の開繊処理後の幅は11mm(1000Texあたりの幅 6.8mm)、厚みは0.16mmであり、扁平率は67であった。得られた炭素繊維束を、6mmの長さに切断し、炭素繊維チョップドストランドを製造した。得られたチョップドストランドのマトリクス樹脂への分散性は不十分なものであった。
【0072】
実施例2
開繊バーの表面温度を150℃から100℃に変更した以外は実施例1と同一条件で、炭素繊維束を開繊した。結果を表1に示した。
炭素繊維束の開繊処理後の幅は20mm(1000Texあたりの幅 12.5mm)、厚みは0.09mmであり、扁平率は220であった。
【0073】
実施例3
開繊バーの表面温度を150℃から70℃に変更した以外は実施例1と同一条件で、炭素繊維束を開繊した。結果を表1に示した。
炭素繊維束の開繊処理後の幅は13mm(1000Texあたりの幅 8.1mm)、厚みは0.14mmであり、扁平率は94であった。
【0074】
実施例4
サイジング剤の付着量を0.4質量%から0.9質量%に変更した以外は実施例1と同一条件で、炭素繊維束を開繊した。結果を表1に示した。
炭素繊維束の開繊処理後の幅は17mm(1000Texあたりの幅 10.6mm)、厚みは0.105mmであり、扁平率は160であった。
【0075】
実施例5
異径開繊バーにおける炭素繊維束を、張力0.75g/texから0.3g/texに変更した以外は実施例1と同一条件で、炭素繊維束を開繊した。結果を表1に示した。
炭素繊維束の開繊処理後の幅は13mm(1000Texあたりの幅 8.1mm)、厚みは0.14mmであり、扁平率は94であった。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例6
用いるサイジング剤の種類を水溶性ウレタン樹脂から水分散型ポリエステル系ウレタン樹脂(DIC株式会社製 ボンディック 1230NS、軟化温度170〜175℃)に変更し、開繊バーの表面温度を180℃とした以外は実施例1と同一条件で、炭素繊維束を開繊した。
炭素繊維束の開繊処理前の幅は9mm(1000Texあたりの幅 5.6mm)、厚みは0.19mmであり、扁平率は45であった。
炭素繊維束の開繊処理後の幅は23mm(1000Texあたりの幅 14.3mm)、厚みは0.08mmであり、扁平率は305であった。
【0078】
実施例7
用いるサイジング剤の種類を水溶性ウレタン樹脂からエポキシ樹脂(三菱化学株式会社製 JER 1009、軟化温度144℃、分子量3800)に変更した以外は実施例1と同一条件で、炭素繊維束を開繊した。
炭素繊維束の開繊処理前の幅は9mm(1000Texあたりの幅 5.6mm)、厚みは0.19mmであり、扁平率は45であった。
炭素繊維束の開繊処理後の幅は23mm(1000Texあたりの幅 14.3mm)、厚みは0.08mmであり、扁平率は305であった。