【実施例】
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲における記載の範囲内で種々の変更が可能である。
【0047】
本実施例で使用した材料は、以下のようにして入手した。オキシトシンは株式会社ペプチド研究所から入手した。高圧液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC-MS)グレードの水、アセトニトリル(ACN)、ギ酸、トリフルオロ酢酸(TFA)及びトリクロロ酢酸(TCA)は和光純薬工業株式会社から購入した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)はSigma-Aldrich社(St. Louis, USA)から購入した。安定同位体オキシトシンは、[
13C×5,
15N×1]プロリン及び[
13C×6,
15N×1]ロイシンを用い、オキシトシンの7位のプロリンと8位のロイシンをそれぞれ[
13C,
15N]プロリン及び[
13C,
15N]ロイシンと置き換えたものを合成した。得られたオキシトシン同位体を、本明細書中において[
13C,
15N]OTと記載する。HPLCで確認して、[
13C,
15N]OT TFA塩の純度は95%超であった。分子量の理論値は1020.2であり、天然のオキシトシンの1007.2より高かった。
【0048】
酵素免疫アッセイにおいて、オキシトシンの免疫反応性のレベルは、市販のオキシトシン ELISAキット(Enzo Life Sciences, NY, USA)を用い、以前に報告された前処理(Jin D. et al., Nature 446, 41-45 (2007))を行わずに定量した。全ての実験で同じロット番号のキットを使用した(カタログ番号AD1901-153)。脳脊髄液(CSF)サンプル(5μl)を融解し、アッセイバッファーで1:20に希釈した。血漿サンプル(100μl)は氷上で融解し、取扱説明書に従ってアッセイした。オキシトシンアッセイの感度は5pg/mlであり、アッセイ間及びアッセイ内の変動係数は15%未満であった。
【0049】
[実施例1]
RAGEに対するオキシトシンの結合
オキシトシンのRAGEへの結合を調べるために、精製した組換えesRAGE(COS細胞発現株からアフィニティーカラムで精製、Biochem. J. (2003) 370, 1097-1109)を用い、表面プラズモン共鳴法、及びプレート結合アッセイを実施した。
【0050】
まず、リガンド結合ドメインを有する精製ヒトesRAGEを、アミンカップリングキットを用いてBIAcore CM5 研究グレードセンサーチップに約5,000応答単位(RU)の密度で固定化した。固定化したLPSに結合したesRAGEへのオキシトシンの結合を、BIAcore 2000システム(GE Healthcare, Japan)を用いて測定した。フローバッファーは10mM HEPES(pH7.4)、0.15M NaCl、3mM Na-EDTA及び0.005%(V/V)の界面活性剤P-20を含有する。会合及び解離を25℃、流速20μL/分で測定した。
【0051】
その結果、esRAGEとオキシトシンとの間で物理的直接結合が観察された(
図2a)。esRAGEへのオキシトシン結合において算出された見かけの解離(K
D)速度定数は179 nMであった。
【0052】
プレート結合アッセイにおけるRAGEへのオキシトシンの結合、及び種々のRAGEリガンドとオキシトシン-RAGE結合との競合は、オキシトシンを被覆した96ウェルプレート、ヒトesRAGEタンパク質及びHRP-標識抗-ヒトRAGE抗体(B-Bridge International, Inc. esRAGE ELISA Kitのものと同様のものを作製)とを用いてアッセイした。ELISA用の96ウェルプレートにオーバーナイトで100μMのオキシトシンを100μlで被覆化し、その後洗浄、1% BSA/PBS液にてブロッキングを行い、さらにその後洗浄、esRAGEタンパクを濃度を振って入れ2時間室温でインキュベーション、さらにその後洗浄操作を行い、ヒトRAGE抗体で結合しているesRAGEタンパク量を定量化した。
【0053】
オキシトシンとesRAGEとの結合は、オキシトシン濃度及びesRAGE濃度に依存していた(
図2b及び2c)。9個のアミノ酸を有する2種の同様のペプチドについても試験した結果、結合はオキシトシンに特異的であることが判明した。アルギニン-バソプレッシンはRAGEに対して低い親和性で結合し、ブラジキニンの結合は観察されなかった(データは示さない)。
【0054】
[実施例2]
オキシトシン及び[13C,15N]オキシトシンの検量線の作成
髄液をマトリクスとして用い、5つの異なる濃度のオキシトシン(OT、0.0-40ng/mL)及び安定同位体置換([
13C,
15N])オキシトシン(0.0-30.2ng/mL)(
図3)の標準サンプルを調製した。OT及び[
13C,
15N]OTのストック溶液は、OT(100μg)及び[
13C,
15N]OT(75μg)から0.1% TFA(1mL)を用いて調製し、-80℃で保存した。標準サンプルは必要に応じてストック溶液を0.1% TFAで希釈して調製した。
【0055】
これらの標準サンプルを、液体クロマトグラフィータンデム型質量分析法で反復して分析した。LC-MS/MSシステムは、Shimazu UFLC(島津製作所)及びAB Sciex 4000 QTRAP(AB Sciex社)で構成されたシステムを使用し、サンプルをZORBAX 300SB-C8カラム(2.1×150mm、5μm)で分離し、MS/MSシステムのマルチプルリアクションモニタリング(MRM)モードで検出した(以下、LS-MS/MS(MRM)法と記述する)。
【0056】
オキシトシン及び[
13C,
15N]オキシトシンのそれぞれについて、ピーク面積、平均面積(Ave)、標準偏差(SD)、及び相対SD(RSD%)を表1及び2に示す。全てのデータの最小二乗法による最適フィッティングによって検量線を作成した。検量線及びMRMクロマトグラム(
図4)から相関係数(オキシトシン:0.997及び[
13C,
15N]オキシトシン:0.998)及び定量下限値(オキシトシン:0.3ng/mL及び[
13C,
15N]オキシトシン:0.06ng/mL)を推定した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
[実施例3]
第1のアフィニティークロマトグラフィー
精製esRAGE(0.5mg)をNHS-活性化セファローズビーズ表面に固定化したアフィニティカラム(内径1.6mm、長さ2.5mm、商品名HiTrap NHS-activated HP(GE Healthcare 社製))を作製した。PBSで予め平衡化したカラム(HiTrap-esRAGEカラム)に、既知量のオキシトシン(100ng)をスパイクした、もしくはスパイクしていないヒト血清(50mL)由来の低分子量画分(MW<3,000、Amicon Ultracel3K)をアプライした。PBS溶液50mLでカラムを洗浄した後、10mM Tris-HCl(pH 7.4)及び2M NaClでカラムから溶出させた。
【0060】
図5aは、アフィニティカラム精製の様子をUV(280nm)検出器でモニターし、記録したクロマトグラムである。矢印で示すピーク画分を捕集して、EIAでアッセイし、オキシトシンとの免疫反応性を有するピークであることを確認した。すなわち、内在性オキシトシン及びヒト血清にスパイクした合成オキシトシン(100ng)はいずれも固定化したesRAGEに結合し、その後溶出させることができた。
【0061】
本実施例の結果から、オキシトシンとRAGEタンパク質との結合親和性を利用して、サンプル中に存在し得るオキシトシンの精製濃縮が可能であり、オキシトシンの定量的検出のための前処理方法としてRAGEタンパク質を固定化したアフィニティークロマトグラフィーを用い得ることが実証された。
【0062】
[実施例4]
LC-MS/MS(MRM)分析
図5a中で矢印で示すピーク画分を捕集して、LC-MS/MS分析を行った。
HPLCからの溶出は2種の溶離液:A(0.1%(v/v)ギ酸/水)及びB(0.1%(v/v)ギ酸/アセトニトリル)を用い、溶離液Bを0-30%(0.0-8.0分)で直線的に増加させて行った。HPLCポンプの流速は0.3ml/分に設定し、カラム温度は50℃に維持した。MS/MS(MRM)分析条件は以下の通りである:正イオンエレクトロスプレー(ESI)モード(キャピラリー電圧5kV);脱溶媒圧(75V);カーテンガス(窒素、12 l/h、65psi及び600℃)、窒素ガス圧(65psi)、及び衝突圧(30V)。MRM遷移イオン及びフラグメントの型は以下の通り:OT:(m/z:1008.2, 723.2(b6))、[
13C,
15N]OT:(m/z:1021.2, 723.2(b6))。全てのデータはAB Sciex Analyst Version 1.4.1で取得し、解析した。
【0063】
図5b及び5cはその結果である。
図5bは血清中の内在性のオキシトシン量、
図5cは血清に既知量(100ng)のオキシトシンをスパイクしたものを分析したときのオキシトシン量を示している。この2つのデータのピーク面積値から、内在性のオキシトシン濃度(1.6ng/mL)が算出できた。また、
図5dは血清に内部標準としてスパイクした安定同位体置換[
13C,
15N]OTの検出ピークである。
【0064】
一般に、血清のような複雑なサンプルの分析では、選択性の高いLC-MS/MS分析でも、多数の妨害ピークが見られるが、本発明の方法でアフィニティカラムにより精製濃縮されたサンプルでは、妨害ピークも少ないことが判明した。
【0065】
[実施例5]
第2のアフィニティークロマトグラフィー
モノクローナル抗esRAGE抗体(1.0mg)をNHS-活性化セファローズビーズ表面に固定化したアフィニティカラム(内径1.6mm、長さ2.5mm、商品名HiTrap NHS-activated HP(GE Healthcare 社製))を作製した。50mM Tris-HCl(pH7.4)及び0.15M NaClで予め平衡化したカラム(HiTrap-anti-RAGEカラム)に健常ヒト血清70mlをアプライした。5ベッド体積の平衡化緩衝液で洗浄した後、結合したタンパク質を100mM グリシン-HCl緩衝液(pH 2.5)で溶出させ、分取(1mL)した。アフィニティカラム精製の様子をUV(280nm)検出器でモニターし記録したクロマトグラムの結果を
図6aに示す。
【0066】
実施例2と同様にLC-MS/MS(MRM)法で分取液(50μL)中のオキシトシンを定量分析した。
図6bはその結果である。
【0067】
本実施例の結果から、内在性オキシトシンの一部が血中でesRAGEとの複合体として存在していることが示唆されると共に、オキシトシンとRAGEタンパク質との結合親和性を利用して、オキシトシンの定量的検出のための前処理方法として抗esRAGE抗体又は抗sRAGE抗体を固定化したアフィニティークロマトグラフィーを用い得ることが実証された。