特許第6445863号(P6445863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6445863
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】脆性材料の板材の分断方法及び分断装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/09 20060101AFI20181217BHJP
   C03B 33/033 20060101ALI20181217BHJP
   B28D 5/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   C03B33/09
   C03B33/033
   B28D5/00 Z
【請求項の数】16
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-260868(P2014-260868)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-121029(P2016-121029A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 睦裕
(72)【発明者】
【氏名】切通 隆則
(72)【発明者】
【氏名】大串 修己
(72)【発明者】
【氏名】辻田 京史
(72)【発明者】
【氏名】薮内 忠興
【審査官】 松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−297398(JP,A)
【文献】 特開2012−061681(JP,A)
【文献】 特開2001−222955(JP,A)
【文献】 特開2002−047024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00−35/26
40/00−40/04
B28D 1/00− 7/04
B26F 1/00− 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料からなる板材を不等分に分けた分断計画線に沿って分断する分断方法であって、
前記分断計画線上で前記板材の第1主面に微小な起点疵を形成する疵形成工程と、
前記分断計画線の両側の当該分断計画線と平行な線上で前記板材の第1主面を押える押え工程と、
前記分断計画線に沿って延び分断部材と所定間隔で並設した修正加熱部材により、前記板材を加熱又は冷却して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させる修正加熱工程と、
前記板材を接触加熱又は接触冷却するように前記分断部材を加熱又は冷却して前記板材の分断計画線に接触させて当該板材の第1主面に引張熱応力を発生させるとともに、前記分断計画線に沿って前記板材の第2主面側から板厚方向の曲げ力を付与することにより、前記曲げ力による引張応力と前記引張熱応力とを重畳させて前記板材を前記分断計画線に沿って分断する分断工程と、
を含むことを特徴とする脆性材料の板材の分断方法。
【請求項2】
前記分断部材は、前記板材の第2主面側に配置された、前記板材の第2主面を接触加熱するものであり、
前記分断部材を前記板材の第2主面に接触加熱させて前記板材の第1主面に引張熱応力を発生させるとともに、
前記修正加熱部材で前記板材を加熱又は冷却して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させ、
前記分断工程で、前記分断部材を前記板材に押圧することによって、前記分断計画線に沿って前記板材の第2主面に板厚方向の曲げ力を付与する、請求項1に記載の脆性材料の板材の分断方法。
【請求項3】
前記修正加熱部材は、前記第2主面側に配置され、
前記修正加熱部材で前記第2主面側から前記板材を加熱して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させる、請求項2に記載の脆性材料の板材の分断方法。
【請求項4】
前記修正加熱部材は、前記板材の第1主面側に配置され、
前記修正加熱部材で前記第1主面側から前記板材を加熱して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させる、請求項2に記載の脆性材料の板材の分断方法。
【請求項5】
前記修正加熱部材は、前記分断部材に対して前記板材の端縁までの距離が短い側と反対側を加熱するものであり、
前記修正加熱部材で板材を加熱することで、前記板材の端縁に前記分断計画線に対して中央部分が収縮する熱変形を与える、請求項2〜4のいずれか1項に記載の脆性材料の板材の分断方法。
【請求項6】
前記修正加熱部材は、前記分断部材に対して前記板材の端縁までの距離が短い側を冷却するものであり、
前記修正加熱部材で板材を冷却することで、前記板材の端縁に前記分断計画線に対して中央部分が収縮する熱変形を与える、請求項2に記載の脆性材料の板材の分断方法。
【請求項7】
前記修正加熱部材は、前記板材の第2主面側及び第1主面側の両面から該板材を加熱又は冷却するものである、請求項5又は6に記載の脆性材料の板材の分断方法。
【請求項8】
前記分断工程で、前記板材を分断計画線と直交する方向に引っ張る、請求項1〜7のいずれか1項に記載の脆性材料の板材の分断方法。
【請求項9】
脆性材料からなる板材の第1主面における微小な起点疵が形成された分断計画線に沿って当該板材を不等分で分断する分断装置であって、
前記分断計画線を挟む当該分断計画線と平行な一対の線上で前記板材の第1主面を押える一対の押え部材と、
前記板材の第1主面と反対を向く第2主面側に配置された、前記分断計画線に沿って延びる分断部材と、
前記分断計画線に沿って延び前記分断部材と所定間隔で並設した、前記板材を加熱又は冷却して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように当該板材を熱変形させる修正加熱部材と、
前記修正加熱部材を前記板材の加熱又は冷却位置に配置する修正加熱部材駆動機と、
前記修正加熱部材による前記板材の加熱又は冷却で当該板材を熱変形させ、前記分断部材を前記板材に接触させて前記板材の第1主面に引張熱応力を発生させた状態で、前記分断計画線に沿って前記板材の第2主面を押圧して当該板材の板厚方向に曲げ力を付与することによって、前記第1主面に曲げ力による引張応力と前記引張熱応力とを重畳させて前記板材が前記分断計画線に沿って分断されるように、前記第2主面側から曲げ力を付与する分断駆動機と、
を備えることを特徴とする脆性材料の板材の分断装置。
【請求項10】
前記分断部材は、前記板材の第2主面を接触加熱するように構成され、
前記修正加熱部材は、当該修正加熱部材による前記板材の加熱又は冷却と前記分断部材の接触加熱とによって当該分断部材による分断時に前記分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させるよう構成されている、請求項9に記載の脆性材料の板材の分断装置。
【請求項11】
前記修正加熱部材は、前記分断部材に対して前記板材の端縁までの距離が短い側と反対側に配置され、前記修正加熱部材で板材を加熱することで、前記分断部材による分断時に前記分断計画線が直線状となるように前記板材に熱変形を与えるように配置されている、請求項10に記載の脆性材料の板材の分断装置。
【請求項12】
前記修正加熱部材が、前記板材の第1主面を押える一方の押え部材を兼ねている、請求項11に記載の脆性材料の板材の分断装置。
【請求項13】
前記修正加熱部材は、前記分断部材に対して前記板材の端縁までの距離が短い側に配置され、前記修正加熱部材で板材を冷却することで、前記分断部材による分断時に前記分断計画線が直線状となるように前記板材に熱変形を与えるように配置されている、請求項10に記載の脆性材料の板材の分断装置。
【請求項14】
前記修正加熱部材駆動機は、前記加熱又は冷却時に前記板材に近接して接触しない所定距離で前記修正加熱部材を停止するように構成されている、請求項9〜13のいずれか1項に記載の脆性材料の板材の分断装置。
【請求項15】
前記修正加熱部材は、前記板材の第2主面側及び第1主面側の両面から該板材を加熱又は冷却するように配置されている、請求項9〜14のいずれか1項に記載の脆性材料の板材の分断装置。
【請求項16】
前記板材を前記分断計画線と直交する方向に引っ張る引張機をさらに備える、請求項9〜15のいずれか1項に記載の脆性材料の板材の分断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、脆性材料からなる板材を分断するための分断方法と分断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、FPD(flat panel display)や建材、自動車産業等において、ガラス板や半導体基板などの脆性材料からなる板材(以下、単に「板材」という)が多く用いられている。この板材には、軽量化などの目的から厚さが非常に薄くなった薄板材(例えば、1mm以下で、近年では0.3mm程度もある)や、必要強度を有する板厚(例えば、数mmの板厚を有し、約3mm程度)のものもある。
【0003】
このような板材は、使用目的などに応じて所望の大きさに分断されている。一般的な分断方法としては、例えば、ガラス板(以下、板材の一例として「ガラス板」を例に説明する)の場合、分断計画線に沿ってメカニカルカッタ(ダイヤモンドカッタ、超硬ホイールなど)でスクライブ溝(切れ込み)を形成し、そのスクライブ溝に沿って機械的な応力(曲げ応力)を与えて分断(割断)する方法がある。この場合、削り屑や微細な分断屑(カレット)等の塵(以下、「分断塵」という)が発生してガラス表面を汚染する。そのため、その分断塵を洗浄するための洗浄装置が必要となり設備コストが上昇する。
【0004】
また、スクライブ溝に沿って分断したエッジは、メカニカルカッタによって微小欠けなどを生じて強度が低下するため、エッジの研削及び研磨が必要になる。そして、生産性を上げるには、スクライブ溝を形成するスクライビング装置と割断する分断装置とが必要になり、この場合にも設備コストが大幅に上昇する。
【0005】
この種の先行技術として、ガラスの切断線に沿って配置した熱線と反対側から冷却エアーを噴射させながらガラスを移動させて、且つガラス全体に切断方向の引張力を作用させて一端面からのクラックを切断線に沿って進展させてガラスを分断する方法が示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、他の先行技術として、ガラス基板の切断線に沿ってスポット熱源を移動させながら、同時にガラス基板全体に切断方向の引張力を作用させて熱応力クラックを切断線に沿って進展させてガラス基板を分断する方法もある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
さらに、他の先行技術として、脆性板の厚み方向の一方の加熱面にヒートナイフを当て、他方の冷却面との間の温度差によって生じる熱応力を原因として発生する曲げモーメントで熱割断するものもある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−157863号公報
【特許文献2】特開2011−84423号公報
【特許文献3】特開2014−65614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1の方法では、クラックの進展を促進するために冷却エアーを噴射させながら移動させているが、分断速度は遅く、大型ガラスでは生産性が上がらない。
【0010】
また、上記特許文献2に記載された方法は、熱線による加熱と同時に切断線に沿ってガラス板全体に切断方向の引張力を作用させるので、大型ガラスのような板材に適用することは難しい。しかも、移動するスポット熱源を利用しているため、スポット熱源を移動させる装置が複雑になる。その上、レーザ光を用いる分断装置の場合、レーザ光を照射する装置が大型になるとともに、レーザ光を照射する角度などの管理が難しい。そのため、広い設置スペースと多くの費用を要する。
【0011】
さらに、上記特許文献3に記載された熱割断方法の場合には、脆性板の両面の温度差によって生じる熱応力で脆性板を割断できる曲げモーメントを生じさせるには時間を要し、処理速度が遅く生産性が低い。
【0012】
そこで、本発明者は、脆性材料の板材の分断時に分断塵の発生を抑えるとともに、生産性を上げることができてコンパクトに構成できる分断方法と、その分断方法を実行可能な分断装置について先に出願した。
【0013】
しかし、板材の分断には、所定の大サイズの板材から、中、小サイズの板材を等分に分断する場合と、所定サイズの板材を規定サイズに仕上げる(トリミング)ために、端部を不等分で分断する場合とがあり、それぞれで板材が分断時に受ける熱変形が異なることが判明した。
【0014】
そのため、本発明者は、脆性材料の板材の等分分断と不等分分断とにおける熱変形を考慮し、不等分な分断が適切にでき、分断時の分断塵の発生を抑えるとともに、生産性を上げることができてコンパクトに構成できる分断方法と、その分断方法を実行可能な分断装置について鋭意検討した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そして、本発明者は鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
すなわち、板材の分断で、図15Aに示すように、大きな板材100を等分(この図では、2等分)で分断する等分分断(この明細書及び特許請求の範囲の書類中では、板材の分断計画線と交差する方向の板材の対向する端縁から等分の位置を分断する場合を「等分分断」という。)の場合には、図15Bに示すように、分断計画線101に対して板材100の対向する端縁までの距離aが、分断計画線101から等分の距離となる。そのため、図15Cに示すように、分断部材110で分断計画線101に沿って接触加熱(図では加熱を示しているが、冷却でもよい)すると、板材100は分断計画線101の両側で均等に点線で示す熱変形H(誇張して示す)を生じて、分断計画線101は左右の熱変形のバランスからほぼ直線状に保持される。
【0016】
一方、図16Aに示すように、板材105の周囲の端部をトリミングする場合など、板材105の端部を不等分で分断(この明細書及び特許請求の範囲の書類中では、板材の分断計画線と交差する方向の板材の対向する端縁から不等分の位置を分断する場合を「不等分分断」という。)することになる。この場合、図16Bに示すように、分断計画線106に対して板材105の対向する端縁までの距離a,bが、分断計画線106から不等分の距離となる。そのため、図16Cに示すように、分断部材110で分断計画線106に沿って接触加熱(図では加熱を示しているが、冷却でもよい)すると、板材105の分断計画線106を挟む両方で不均等な熱変形を生じて端縁までの距離が短い側では点線で示すような円弧状の熱変形H(誇張して示す)を生じる。特に、距離aと距離bの差が大きい場合には、分断計画線106から端縁までが短い距離aの方では、熱膨張によって円弧状の熱変形H(誇張して示す)が大きくなる。そのため、分断計画線106も円弧状に変形し、この状態で分断計画線106に沿って分断すると、常温に戻った板材105の端縁は内向きに湾曲した状態となり(例えば、1〜2mm程度)、端縁の真直度を確保することができない。従って、分断部材110のみによる板材105の不等分の分断では、分断後の端縁の真直度を確保することが難しい。
【0017】
このように、本発明者は、板材を等分で分断する場合には、分断部材の接触加熱又は接触冷却による加熱又は冷却で生じる板材の膨張量又は収縮量が両側でバランスするが、板材を不等分で分断する場合には、分断計画線から板材の端縁までの距離の違いによって、分断部材の接触加熱又は接触冷却による加熱又は冷却で生じる板材の膨張量又は収縮量に差が生じ、その熱影響で分断計画線が変形(湾曲)した状態で分断してしまうことがある、という知見を得た。特に、板材の周囲をトリミングする場合など、分断部材から板材の一方の端縁までの距離が短い場合には、分断計画線に対して大きなずれ(例えば、分断計画線の中央部分で数mmのずれ)を生じて分断する場合があることが判明した。
【0018】
そこで、本発明者は、実験などを繰り返し、板材を不等分で分断する場合には、分断部材による板材の分断時における接触加熱又は接触冷却による加熱又は冷却に加えて、修正加熱部材によって板材を加熱又は冷却することにより、分断計画線を直線状に修正して分断できる方法を発明した。
【0019】
本願発明に係る脆性材料の板材の分断方法は、脆性材料からなる板材を不等分に分けた分断計画線に沿って分断する分断方法であって、前記分断計画線上で前記板材の第1主面に微小な起点疵を形成する疵形成工程と、前記分断計画線の両側の当該分断計画線と平行な線上で前記板材の第1主面を押える押え工程と、前記分断計画線に沿って延び分断部材と所定間隔で並設した修正加熱部材により、前記板材を加熱又は冷却して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させる修正加熱工程と、前記板材を接触加熱又は接触冷却するように前記分断部材を加熱又は冷却して前記板材の分断計画線に接触させて当該板材の第1主面に引張熱応力を発生させるとともに、前記分断計画線に沿って前記板材の第2主面側から板厚方向の曲げ力を付与することにより、前記曲げ力による引張応力と前記引張熱応力とを重畳させて前記板材を前記分断計画線に沿って分断する分断工程とを含むことを特徴とする。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「熱応力」は、加熱又は冷却した分断部材を接触させることにより、脆性材料の板材の内部に生じる熱歪みの応力をいう。また、「微小」とは、数ミリ(例えば、5mm)以下の疵のことをいう。さらに、「圧縮」は分断計画線に向かう方向、「引張」は分断計画線から離れる方向をいう。また、「曲げ力を付与する」とは、分断計画線と平行な一対の線上で板材の第1主面を押えながら分断計画線上で板材の第2主面を押し上げて板材に所要の板厚方向の曲げ変形を生ぜしめることをいう。さらに、「熱変形」は「熱膨張」、「熱収縮」を含み、「修正加熱部材」は「加熱」、「冷却」する部材を含む。また、各「工程」は、時間的に同時、一部が重なる場合も含む。
【0020】
この構成により、脆性材料の板材を接触加熱又は接触冷却する分断部材を分断計画線に沿って板材に接触させることで、起点疵が形成された板材の第1主面に圧縮熱応力を発生させることができる。例えば、板材の第2主面を接触加熱する分断部材を板材の第2主面に接触させた場合には、第2主面と第1主面との温度差により、板材の第2主面は分断計画線に沿って熱膨張するため第1主面は引っ張られて引張熱応力が発生し、第2主面にはその反力で圧縮熱応力が発生する。あるいは、板材の第1主面を接触冷却する分断部材を板材の第1主面に接触させた場合には、第1主面と第2主面との温度差により、板材の第1主面は分断計画線に沿って熱収縮するため第2主面は圧縮されて圧縮熱応力が発生し、第1主面にはその反力で引張熱応力が発生する。そして、このように分断部材で加熱又は冷却するときに、分断部材に沿って所定間隔で並設した修正加熱部材によって板材を加熱又は冷却することにより、板材を不等分に分けた分断計画線に沿って分断部材を接触加熱又は接触冷却するときに生じる板材の熱変形を、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように熱変形させる。その後、分断計画線に沿って板材の第2主面に板厚方向の曲げ力が付与されると、その曲げ力によって第1主面の分断計画線に沿って生じる引張応力と上記の引張熱応力とが板材の第1主面上で重畳され、これにより起点疵からクラックが分断計画線に沿って直線状に進行する。なお、曲げ力の付与は、圧縮熱応力の発生の前であっても後であってもよいし、引張熱応力の発生と同時であってもよい。その結果、分断部材で分断計画線に沿って分断した板材の端縁の真直度を確保することができる。この方法によれば、分断は瞬時に行われて生産性を上げることができる。その上、板材の第1主面には微小な起点疵を形成するだけでよく、機械的な溝の形成や機械的な分断がないため、板材の分断時に分断屑の発生を抑えることができる。しかも、分断した板材を洗浄する必要がなく、板材の分断を非常にシンプルな装置で行うことができる。
【0021】
また、前記分断部材は、前記板材の第2主面側に配置された、前記板材の第2主面を接触加熱するものであり、前記分断部材を前記板材の第2主面に接触加熱させて前記板材の第1主面に引張熱応力を発生させるとともに、前記修正加熱部材で前記板材を加熱又は冷却して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させ、前記分断工程で、前記分断部材を前記板材に押圧することによって、前記分断計画線に沿って前記板材の第2主面に板厚方向の曲げ力を付与するようにしてもよい。
【0022】
このように構成すれば、分断部材による第2主面の接触加熱と修正加熱部材による加熱又は冷却とによって、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させことができる。そして、分断部材の接触加熱による熱膨張の引張熱応力と曲げ力による引張応力を第1主面の分断計画線に沿って重畳させて、これらの応力で板材を分断計画線に沿って分断することができる。しかも、板材の第2主面を接触加熱する分断部材を利用して、板材の第2主面に曲げ力を付与することができる。
【0023】
また、前記修正加熱部材は、前記第2主面側に配置され、前記修正加熱部材で前記第2主面側から前記板材を加熱して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させる、ようにしてもよい。
【0024】
このように構成すれば、第2主面側に配置された修正加熱部材で板材を加熱又は冷却することで、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させることができる。
【0025】
また、前記修正加熱部材は、前記板材の第1主面側に配置され、前記修正加熱部材で前記第1主面側から前記板材を加熱して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させるようにしてもよい。
【0026】
このように構成すれば、第1主面側に配置された修正加熱部材で板材を加熱することで、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させることができる。
【0027】
また、前記修正加熱部材は、前記分断部材に対して前記板材の端縁までの距離が短い側と反対側を加熱するものであり、前記修正加熱部材で板材を加熱することで、前記板材の端縁に前記分断計画線に対して中央部分が収縮する熱変形を与えるようにしてもよい。
【0028】
このように構成すれば、修正加熱部材で分断部材に対して板材の端縁側と反対側を加熱することで、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させることができる。
【0029】
また、前記修正加熱部材は、前記分断部材に対して前記板材の端縁までの距離が短い側を冷却するものであり、前記修正加熱部材で板材を冷却することで、前記板材の端縁に前記分断計画線に対して中央部分が収縮する熱変形を与えるようにしてもよい。
【0030】
このように構成すれば、修正加熱部材で分断部材に対して板材の端縁までの距離が短い側を冷却することで、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させることができる。
【0031】
また、前記修正加熱部材は、前記板材の第2主面側及び第1主面側の両面から該板材を加熱又は冷却するものであってもよい。
【0032】
このように構成すれば、板材の両面から修正加熱部材で加熱又は冷却して分断計画線の真直度をさらに向上させることができる。
【0033】
また、前記分断工程で、前記板材を分断計画線と直交する方向に引っ張るようにしてもよい。
【0034】
このように構成すれば、板材に作用する引張熱応力と曲げ力による引張応力に加えて、さらに引張力による引張応力を重畳させて、板材を分断計画線に沿ってより短時間で分断することができる。
【0035】
一方、1つの側面からの、本願発明に係る脆性材料の板材の分断装置は、脆性材料からなる板材の第1主面における微小な起点疵が形成された分断計画線に沿って当該板材を不等分で分断する分断装置であって、前記分断計画線を挟む当該分断計画線と平行な一対の線上で前記板材の第1主面を押える一対の押え部材と、前記板材の第1主面と反対を向く第2主面側に配置された、前記分断計画線に沿って延びる分断部材と、前記分断計画線に沿って延び前記分断部材と所定間隔で並設した、前記板材を加熱又は冷却して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように当該板材を熱変形させる修正加熱部材と、前記修正加熱部材を前記板材の加熱又は冷却位置に配置する修正加熱部材駆動機と、前記修正加熱部材による前記板材の加熱又は冷却で当該板材を熱変形させ、前記分断部材を前記板材に接触させて前記板材の第1主面に引張熱応力を発生させた状態で、前記分断計画線に沿って前記板材の第2主面を押圧して当該板材の板厚方向に曲げ力を付与することによって、前記第1主面に曲げ力による引張応力と前記引張熱応力とを重畳させて前記板材が前記分断計画線に沿って分断されるように、前記第2主面側から曲げ力を付与する分断駆動機とを備えることを特徴とする。
【0036】
この構成により、脆性材料の板材を接触加熱又は接触冷却する分断部材を分断計画線に沿って板材に接触させ、これにより第2主面と第1主面の温度差で板材の第1主面に分断計画線に沿った引張熱応力を発生させる。そして、この分断部材による接触加熱又は接触冷却時に、分断部材に沿って所定間隔で並設された修正加熱部材によって板材を加熱又は冷却することにより、板材を不等分で分断する分断計画線に沿って分断部材を接触加熱又は接触冷却するときに生じる板材の熱変形を、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように熱変形させる。そのため、分断計画線に沿って板材の第2主面に板厚方向の曲げ力が付与されると、その曲げ力によって第1主面の分断計画線に沿って生じる引張応力と上記の引張熱応力とが板材の第1主面上で重畳され、これにより起点疵からクラックが分断計画線に沿って直線状に進行する。その結果、分断部材で分断計画線に沿って分断した板材は、常温に戻っても分断した端縁の真直度を確保することができる。この装置によれば、分断は瞬時に行われて生産性を上げることができる。その上、板材の第1主面には微小な起点疵を形成するだけでよく、機械的な溝の形成や機械的な分断がないため、板材の分断時に分断屑の発生を抑えることができる。しかも、分断した板材を洗浄する必要がなく、板材の分断を非常にシンプルな装置で行うことができる。
【0037】
つまり、上記構成では、板材を不等分で分断する場合でも、修正加熱部材による板材の熱変形と、分断部材の熱による板材の熱変形とによって分断計画線を直線状に修正することができる。そのため、その分断計画線に沿って分断部材を押圧することで、板材の第1主面には引張熱応力と曲げ力による引張応力が作用し、分断計画線に沿って生じるこれらの応力で板材の端縁を直線状に分断することができ、不等分分断における端縁の真直度を確保することができる。
【0038】
また、前記分断部材は、前記板材の第2主面を接触加熱するように構成され、前記修正加熱部材は、当該修正加熱部材による前記板材の加熱又は冷却と前記分断部材の接触加熱とによって当該分断部材による分断時に前記分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させるよう構成されていてもよい。
【0039】
このように構成すれば、分断部材による第2主面の接触加熱と修正加熱部材による加熱又は冷却とによって、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させことができる。そして、分断部材の接触加熱による熱膨張の引張熱応力と曲げ力による引張応力を第1主面の分断計画線に沿って重畳させて、これらの応力で板材を分断計画線に沿って分断することができる。しかも、板材の第2主面を接触加熱する分断部材を利用して、板材の第2主面に曲げ力を付与することができる。
【0040】
また、前記修正加熱部材は、前記分断部材に対して前記板材の端縁までの距離が短い側と反対側に配置され、前記修正加熱部材で板材を加熱することで、前記分断部材による分断時に前記分断計画線が直線状となるように前記板材に熱変形を与えるように配置されていてもよい。
【0041】
このように構成すれば、修正加熱部材で分断部材に対して板材の端縁までの距離が短い側と反対側を加熱することで、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させることができる。
【0042】
また、前記修正加熱部材が、前記板材の第1主面を押える一方の押え部材を兼ねていてもよい。
【0043】
このように構成すれば、装置構成を減らして分断装置のコンパクト化を図ることができる。
【0044】
また、前記修正加熱部材は、前記分断部材に対して前記板材の端縁までの距離が短い側に配置され、前記修正加熱部材で板材を冷却することで、前記分断部材による分断時に前記分断計画線が直線状となるように前記板材に熱変形を与えるように配置されていてもよい。
【0045】
このように構成すれば、修正加熱部材で分断部材に対して板材の端縁までの距離が短い側を冷却することで、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させることができる。
【0046】
また、前記修正加熱部材駆動機は、前記加熱又は冷却時に前記板材に近接して接触しない所定距離で前記修正加熱部材を停止するように構成されていてもよい。
【0047】
このように構成すれば、修正加熱部材が板材に接触しないので、修正加熱部材で板材の表面を傷付けないようにできる。
【0048】
また、前記修正加熱部材は、前記板材の第2主面側及び第1主面側の両面から該板材を加熱又は冷却するように配置されていてもよい。
【0049】
このように構成すれば、板材の両面から修正加熱部材で加熱又は冷却して分断計画線の真直度をさらに向上させることができる。
【0050】
また、前記板材を前記分断計画線と直交する方向に引っ張る引張機をさらに備えさせてもよい。
【0051】
このように構成すれば、引張熱応力に加えて引張力による引張応力を重畳させて、板材を分断計画線に沿ってより短時間で分断することができる。
【発明の効果】
【0052】
本願発明によれば、板材を不等分で分断する場合でも分断計画線を直線状に修正して適切に分断して端縁の真直度を確保でき、分断塵の発生も抑え、生産性を上げることができる装置構成の少ないコンパクトな分断装置を構成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1図1は本願発明の第1実施形態に係る板材の分断装置を示す斜視図である。
図2図2図1に示す分断装置の側面図である。
図3A図3Aは起点疵の位置の一例を示す板材の斜視図である。
図3B図3Bは起点疵の位置の別の例を示す板材の斜視図である。
図4A図4A図2に示す分断装置による板材の分断原理を模式的に示す拡大側面図である。
図4B図4B図4Aに続く板材の分断原理を模式的に示す拡大側面図である。
図5図5図2に示す分断装置の分断部材と修正加熱部材の部分における拡大図である。
図6図6図5に示す分断部材と修正加熱部材の部分における底面図であり、分断時における板材の熱変形を模式的に示している。
図7図7図6に示す分断装置による板材の分断時における板材の熱変形を模式的に示す側面図である。
図8図8図7に続く分断装置で板材を分断するときに生じる板材の熱変形を模式的に示す側面図である。
図9A図9Aは本願発明の第2実施形態に係る分断装置による板材の分断原理を模式的に示す拡大側面図である。
図9B図9B図9Aに続く板材の分断原理を模式的に示す拡大側面図である。
図10A図10Aは本願発明の第3実施形態に係る分断部材と修正加熱部材との配置例を示す側面図である。
図10B図10Bは本願発明の第4実施形態に係る分断部材と修正加熱部材との配置例を示す側面図である。
図10C図10Cは本願発明の第5実施形態に係る分断部材と修正加熱部材との配置例を示す側面図である。
図11A図11Aは本願発明の第6実施形態に係る分断部材と修正加熱部材との配置例を示す側面図である。
図11B図11Bは本願発明の第7実施形態に係る分断部材と修正加熱部材との配置例を示す側面図である。
図11C図11Cは本願発明の第8実施形態に係る分断部材と修正加熱部材との配置例を示す側面図である。
図12図12は本願発明の第9実施形態に係る分断部材と修正加熱部材との配置例を示す側面図である。
図13図13は本願発明の第10実施形態に係る分断部材と修正加熱部材との配置例を示す側面図である。
図14図14は本願発明の第11実施形態に係る分断部材と修正加熱部材との配置例を示す側面図である。
図15A図15Aは分断装置による板材の等分分断例を示す平面図である。
図15B図15B図15Aに示す板材の分断計画線の説明図である。
図15C図15C図15Bに示す分断計画線を分断するときの板材の熱変形を示す模式図である。
図16A図16Aは分断装置による板材の不等分分断例を示す平面図である。
図16B図16B図16Aに示す板材の分断計画線の説明図である。
図16C図16C図16Bに示す分断計画線を分断するときの板材の熱変形を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の実施形態でも、脆性材料からなる板材としてガラス板1を例に説明する。また、分断装置によってガラス板1の一端部をトリミングするような不等分の分断を例に説明する。なお、板材の分断装置における主要な構成とその作用を説明し、具体的な機構などの記載は省略する。
【0055】
(第1実施形態)
図1,2に示す第1実施形態に係る板材の分断装置10は、ガラス板1を接触加熱する分断部材11を用いてガラス板1を分断計画線2に沿って分断する例である。分断計画線2は、例えば、仮想線で示すように、ガラス板1の一端部に近い位置で不等分に分断する計画線となっている。
【0056】
ガラス板1は、分断計画線2上で微小な起点疵16が形成される第1主面1aと、第1主面1aと反対を向く第2主面1bを有する。本実施形態では、ガラス板1が水平面と平行な状態で分断されるため、第1主面1aが上面、第2主面1bが下面である。
【0057】
ガラス板1は、搬送装置3によって図示する配置方向Jに送られ、所定位置に配置される。図示する搬送装置3は、ガラス板1を気体で浮上させて搬送する例を示している。搬送装置3は、例えばローラなどを用いた他の構成であってもよい。
【0058】
上記搬送装置3で所定位置に配置されたガラス板1は、分断部材11による接触加熱と、修正加熱部材70による加熱とがなされた後、後述するように分断される。この実施形態では、分断部材11及び修正加熱部材70は、ガラス板1の第2主面1b側である下方に配置され、配置方向Jと交差するように設けられている。この実施形態の分断部材11は、ガラス板1の配置方向Jと直交する分断計画線2に沿って延びている。修正加熱部材70は、分断部材11に対してガラス板1の端縁までの距離が短い側と反対側である中央寄りに配置され、上記分断部材11と平行に並設されている。
【0059】
上記分断部材11は、分断駆動機12によってガラス板1に向けて進退可能に構成されており、この分断駆動機12によって上向き又は下向きに駆動される。分断部材11は、分断駆動機12によって上向きに駆動されることにより、ガラス板1に向けて押圧させられる。分断駆動機12は、分断部材11を正確に進退させるものであればよく、例えば、リニアアクチュエータなどを用いることができる。
【0060】
また、上記修正加熱部材70も、修正加熱部材駆動機71によってガラス板1に向けて進退可能に構成されており、この修正加熱部材駆動機71によって上向き又は下向きに駆動される。修正加熱部材70は、修正加熱部材駆動機71によって駆動されることにより、ガラス板1に近接した位置に配置される。この修正加熱部材駆動機71も、修正加熱部材70を正確に進退させるものであればよく、リニアアクチュエータなどを用いることができる。この実施形態では、修正加熱部材70を独自の修正加熱部材駆動機71で上下に駆動しているが、分断部材11と一体的に上下動させてもよい。この場合、修正加熱部材70は、ガラス板1と接触しないように分断部材11よりも少し下げて配置される。
【0061】
さらに、上記分断部材11は、この分断部材11の表面近傍を所定の加熱温度まで加熱する加熱装置13と接続されている。分断部材11は、ガラス板1の第2主面1bに接触させられることにより、第2主面1bにおける当該分断部材11と接する部分を自身とほぼ同じ温度に加熱する。この加熱装置13で加熱される分断部材11としては、例えば、シーズヒータを用いることができる。分断部材11の所定の加熱温度は、例えば、70℃〜400℃程度である。この加熱温度は、板材に応じて決定される。
【0062】
また、上記修正加熱部材70も、この修正加熱部材70の表面を所定の温度まで加熱するように加熱装置13と接続されている。修正加熱部材70は、ガラス板1の第2主面1bに近接させることにより、第2主面1b側からガラス板1の所定範囲を加熱する。この修正加熱部材70としても、例えば、シーズヒータを用いることができる。修正加熱部材70による修正加熱工程の温度は、例えば、上記分断部材11の加熱温度よりも低く、50℃〜300℃程度である。この加熱する温度は、ガラス板(板材)1の厚みや物性値などに応じて決定すればよい。なお、分断部材11がガラス板1を接触冷却する構成の場合、修正加熱部材70によってガラス板1を冷却する温度は分断部材11による冷却温度よりも高温に設定される。
【0063】
一方、ガラス板1の第1主面1a側である上方には、上記分断計画線2の両側の分断計画線2と平行な一対の線上でガラス板1の第1主面1aを押える一対の押え部材14,15が設けられている。この実施形態の押え部材14,15は、分断計画線2を挟んだ両側でガラス板1を押えるように配設されている。この押え部材14,15は、図示しない駆動機によって昇降させられる。押え部材14,15としては、例えば、樹脂やゴムで棒状に形成された部材が用いられる。
【0064】
また、図1に示すように、本実施形態では、分断装置10が、分断計画線2上でガラス板1の第1主面1aに微小な起点疵(スクライブ)16を形成する疵形成手段17を有している。起点疵16は、ガラス板1の端部に形成されることが望ましい。起点疵16を形成することで、ガラス板1を起点疵16側の端部から割くように分断することができ、ガラス板1を分断計画線2に沿ってスムーズに分断することができる。ここで、「ガラス板1の端部」とは、分断計画線2の延在方向においてガラス板1を三等分したときの両側部分をいう。例えば、起点疵16は、図3Aに示すようにガラス板1の第1主面1aと端面1cのコーナーに形成されてもよいし、図3Bに示すようにガラス板1の端面1cから僅かに内側に入り込んだ位置に形成されてもよい。なお、疵形成手段17が起点疵16を形成するタイミングは、押え部材14,15がガラス板1の第1主面1aを押える前であってもよいし押えた後であってもよい。
【0065】
例えば、疵形成手段17は、ガラス板1の端部に微小な起点疵16として1〜2mm程度の刻み線を入れてもよいし、点状の疵を入れてもよい。本実施形態では、疵形成手段17として、分断計画線2が分断部材11の位置に達する前に、横方向から起点疵16を入れるカッタが採用されている。
【0066】
このように、分断装置10は、分断計画線2に沿って配置された分断部材11とは別に、分断計画線2と平行に、ある間隔で修正加熱部材70(ヒータ)が設置されている。この修正加熱部材70は、分断部材11によるガラス板1の接触加熱開始と同時又は所定の時間差でガラス板1を加熱するようになっている。
【0067】
そして、分断部材11による所定時間のガラス板1の加熱後、ガラス板1をさらに押圧して分断計画線2に沿って曲げモーメントを発生させて、第1主面1aの分断計画線2に沿って接触加熱による引張熱応力(熱歪みの応力)と曲げによる引張応力とを重畳させて分断する(詳細は、図4A図4B)。この時、分断部材11はガラス板1に接触したままである。ガラス板1の分断が完了すると分断部材11と修正加熱部材70とは退避する。なお、修正加熱部材70を先に退避させてもよい。
【0068】
上記分断部材11の断面形状としては、円形断面以外に、三角形断面、矩形断面、などであってもよい。分断部材11の断面形状は、ガラス板(板材)1と接触する部分が、ガラス板1が分断されるときの屈曲角よりも小さい接触角度を有する形状に設定される。また、上記修正加熱部材70の断面としては、ガラス板1に近接して加熱できる形状であればよい。この実施形態の修正加熱部材70は円形断面であるが、矩形断面、三角形断面などでもよい。
【0069】
次に、上記図1〜3と、図4A図4Bを参照しながら、上記分断部材11によるガラス板1の分断原理について先に説明する。なお、図4A図4Bでは修正加熱部材70の記載を省略し、熱を円弧で示し、ガラス板1の変化を誇張して示す。また、この実施形態によれば、ガラス板1の第2主面1bを接触加熱する分断部材11を利用して、ガラス板1の第2主面1bに曲げ力を付与する。
【0070】
図1,2に示すように、上記搬送装置3で所定の位置に停止させられた、第1主面1aに起点疵16が形成されたガラス板1は、押え部材14,15によって搬送装置3の方向に向けて押えられる。そして、その状態で、図4Aに示すように、所定の加熱温度まで加熱された分断部材11が分断計画線2に沿ってガラス板1の第2主面1bに接触させられる。これにより、ガラス板1は分断計画線2に沿って第2主面1b側から接触加熱され、ガラス板1の第2主面1bと第1主面1aの間に大きな温度勾配が形成される。その結果、第1主面1aには、熱膨張による引張熱応力(矢印Bで示す)が発生し、第2主面1bには、その反力で圧縮熱応力(矢印Aで示す)が発生する。
【0071】
その後、図4Bに示すように、ガラス板1の第1主面1aと第2主面1bの温度差が大きく保たれている間、換言すれば、熱伝導により第1主面1aの温度が第2主面1bの温度に近づく前に、分断部材11がガラス板1に押圧される。これにより、ガラス板1の第2主面1bには、分断計画線2に沿って板厚方向の曲げ力(矢印Cで示す)が付与され、ガラス板1の第2主面1bには圧縮応力(矢印Dで示す)が作用し、第1主面1aには引張応力(矢印Eで示す)が作用して、ガラス板1の分断計画線2に沿って最大となるモーメントが作用する。
【0072】
そのため、ガラス板1の分断計画線2に沿って、第2主面1bには熱膨張による圧縮熱応力(図4Aの矢印A)に加えて曲げ力Cによる圧縮応力(図4Bの矢印D)が重畳され、第1主面1aには第2主面1bの熱膨張による引張熱応力(図4AのB)に加えて曲げ力Cによる引張応力(図4BのE)が重畳されて、第1主面1aに形成された起点疵16(図1)からクラックが分断計画線2に沿って進行し、これによって脆性材料からなるガラス板1は、分断計画線2に沿って脆性破壊によって分断される。つまり、ガラス板1は、分断部材11の加熱による表裏の温度差から生じる熱応力と、分断部材11によるガラス板1の曲げ力Cによる応力が重畳されて破壊応力に達し、分断される。しかも、ガラス板1は、それらの応力によって分断計画線2で瞬時(例えば、1〜3秒程度)に分断することができる。
【0073】
このような原理が、ガラス板1の分断原理である。そして、上記分断装置10によれば、この分断原理に加え、ガラス板(板材)1を不等分で分断する場合でも、以下のように、分断計画線2の真直度を適切にして分断することができる。
【0074】
図5,6に基づいて、上記分断部材11によってガラス板1を不等分で分断する場合の修正加熱部材70によるガラス板1の加熱について説明する。なお、図5,6では、分断部材11と修正加熱部材70、及びガラス板1のみを図示し、ガラス板1の熱変形Hを誇張した点線で示す。
【0075】
図5に示すように、この実施形態の修正加熱部材70は、上記したように、分断部材11に対してガラス板1の端縁までの距離が短い側(図の右側)と反対側の中央寄りに並設されている。この修正加熱部材70は、上記分断部材11とともにガラス板1に向かって上昇させられ、第2主面1bに近接した位置に停止させられる。この実施形態では、上記したように、修正加熱部材70が分断部材11よりも少し低く(例えば、数mm)配置されており、修正加熱部材70をガラス板1の第2主面1bに接触させることなく、分断部材11のみをガラス板1の第2主面1bに接触させるようにしている。
【0076】
そして、分断部材11が所定温度まで加熱されるとともに修正加熱部材70が所定温度に加熱され、これらによってガラス板1の分断計画線2を含む付近が加熱される。修正加熱部材70の所定温度は、上記したように分断部材11の所定温度に比べて低く設定されている。
【0077】
その後、所定時間(例えば、0.5〜5秒程度の数秒間)加熱すると、図6に示すように、分断部材11と修正加熱部材70とによる加熱によってガラス板1は図示する点線のように熱膨張によって熱変形Hを生じる。点線は、熱変形Hした状態を誇張して概念的に示している。すなわち、不等分なガラス板1の分断では、分断部材11による接触加熱のみでは分断部材11から端縁までの距離が短い方の膨張量が大きくなるが(図16C)、分断部材11による接触加熱に加えて分断部材11に並設した修正加熱部材70で分断部材11の端縁側と反対側のガラス板1を加熱して膨張させるので、分断計画線2の両側において、ガラス板1の分断部材11が延びる方向の両端部では膨張し、その両端部の膨張によって分断計画線2の中央部分が収縮するような熱変形Hを生じさせて、分断計画線2を直線状に修正している。つまり、ガラス板1を加熱することによって生じる歪みが分断計画線2に対してほぼ左右均等に生じるようにして、分断部材11による分断時に分断計画線2が直線状となるように修正している。
【0078】
図7は、図6に示す分断装置による板材の分断時における板材内部の熱応力を模式的に示す側面図であり、図8は、図7の次に分断装置で板材を分断するときに生じる板材内部の熱応力を模式的に示す側面図である。これらの図では、熱を円弧で示し、ガラス板1の熱変形を誇張して示す。
【0079】
図7に示すように、分断部材11をガラス板1の第2主面1bに接触させて加熱するとともに、この第2主面1b側に配置された修正加熱部材70によってもガラス板1を加熱する。これにより、第2主面1bの熱膨張により発生する第1主面1aの引張熱応力(矢印Bで示す)の反力として、分断部材11の位置の第2主面1bには圧縮熱応力(矢印Aで示す)が発生する。また、修正加熱部材70の位置ではガラス板1の第2主面1b側が熱膨張して第1主面1aの引張熱応力の反力として圧縮熱応力(矢印Fで示す)が発生する。そして、これらの熱応力によって、上記したように、ガラス板1の分断計画線2が直線状に修正される。
【0080】
その後、図8に示すように、ガラス板1の分断計画線2に沿って分断部材11を押圧することで、ガラス板1の第2主面1bには分断計画線2に沿って板厚方向の曲げ力Cが付与され、ガラス板1には分断計画線2に沿って最大となるモーメントが作用する。これにより、ガラス板1の第1主面1aには第2主面1bの熱膨張の反力による引張熱応力Bに加えて引張応力Eが重畳されて、ガラス板1は起点疵16(図1)からクラックが分断計画線2に沿って進行して瞬間的に分断される。
【0081】
従って、上記分断装置10によれば、ガラス板(板材)1を不等分で分断する場合でも、修正加熱部材70によってガラス板1を所定温度で加熱(又は冷却)して熱変形させることにより、分断部材11による接触加熱だけでは上記した図15Cに示すように分断計画線2が湾曲するような場合でも、その分断計画線2を直線状に修正して分断することができる。従って、分断後のガラス板1の端縁は分断計画線2に沿った適切な真直度を確保することができる。しかも、分断時に分断塵の発生を抑えることができ、装置構成の少ないコンパクトな分断装置を構成することが可能となる。
【0082】
(引張機を備えた実施形態)
さらに、上記した図1に示すように、ガラス板(板材)1を分断計画線2と直交する方向に引っ張る引張機60(二点鎖線で示す)を設けてもよい。引張機60は、分断計画線2を挟んでガラス板(板材)1を互いに逆方向に引っ張ることができればよい。図1では、ガラス板1の端部を把持して引っ張る例である。この引張機60により、ガラス板1への分断部材11の押圧前又は押圧と同時にガラス板1に引張力を与えて、分断計画線2に沿ってガラス板1を分断するようにしてもよい。この場合、ガラス板(板材)1によっては、分断計画線2に沿って分断部材11で加熱するのと同時に、上記引張機60で引張力を与えるのみとしてもよい。このようにすれば、引張熱応力と曲げ力Cによる引張応力に加えて引張力による引張応力を重畳させて、ガラス板1を分断計画線2に沿ってより短時間で分断することができる。
【0083】
また、引張機60によってガラス板1を引っ張る場合、押え部材14,15及びその対向部材(上記搬送装置3に相当;図示なし)はころがり軸受の入ったローラでガラス板1を軽く押えるものとする。この押え部材14,15は、ガラス板1を押えるのではなく、僅かの隙間をあけてガラス板1の変形を規制するだけでもよい。
【0084】
(第2実施形態)
図9A図9Bは、第2実施形態に係る分断装置による板材の分断原理を模式的に示す拡大側面図である。第2実施形態の分断装置30は、ガラス板1の第1主面1a側から分断部材31を接触冷却する実施形態である。上記第1実施形態と同一の構成には同一符号を付し、その説明は省略する。
【0085】
図9Aに示すように、所定の冷却温度まで冷却された分断部材31を分断計画線2に沿ってガラス板1の第1主面1aに接触させる。これにより、ガラス板1は分断計画線2に沿って第1主面1a側から冷却され、ガラス板1の第1主面1aと第2主面1bの間に大きな温度勾配が形成される。その結果、第1主面1aの熱収縮により第2主面1bには圧縮熱応力Aが発生し、第1主面1aにはその反力で引張熱応力Bが発生する。この分断部材31を分断計画線2に沿って接触冷却させる場合、ガラス板1と分断部材31との温度差は、上記接触加熱と同様の温度差に設定される。
【0086】
また、この第2実施形態でも、ガラス板1を冷却することによって生じる歪みが分断計画線2に対してほぼ左右均等(図6参照)に生じるように、修正加熱部材70又は後述する修正加熱部材75によってガラス板1を適切に加熱又は冷却して、分断部材31による分断時に分断計画線2が直線状となるように修正される。
【0087】
そして、図9Bに示すように、分断部材31を上方へ退避させ、板材1の第2主面1b側から押圧部材32がガラス板1に押圧される。これにより、ガラス板1の第2主面1bには、直線状となった分断計画線2に沿って板厚方向の曲げ力Cが付与される。これにより、ガラス板1の第2主面1bには圧縮応力Dが作用し、第1主面1aには引張応力Eが作用して、ガラス板1の分断計画線2に沿って最大となるモーメントが作用する。
【0088】
そのため、ガラス板1の分断計画線2に沿って、第1主面1aには引張熱応力Bに加えて曲げ力Cによる引張応力Eが重畳され、第2主面1bには熱収縮による圧縮熱応力Aに加えて曲げ力Cによる圧縮応力Dが重畳されて、第1主面1aに形成された起点疵16(図1)からクラックが分断計画線2に沿って進行し、これによって脆性材料からなるガラス板1は、分断計画線2に沿って脆性破壊によって分断される。つまり、ガラス板1は、分断部材31の冷却による表裏の温度差から生じる熱応力と、分断部材11によるガラス板1の曲げ力Cによる応力が重畳されて破壊応力に達し、分断される。しかも、ガラス板1は、それらの応力によって分断計画線2で瞬時(例えば、1〜3秒程度)に分断することができる。
【0089】
(その他の実施形態)
上記修正加熱部材70は、分断部材11が分断計画線2に沿って接触加熱する構成であれば、不等分の分断で端縁までの距離が短い側と反対側を加熱する構成か、距離が短い側を冷却する構成が用いられる。
【0090】
図10Aは、第3実施形態に係る、分断部材11と修正加熱部材70との配置例を示す側面図である。この実施形態の修正加熱部材70は、ガラス板1の第1主面1a側に配置され、分断部材11に対してガラス板1の端縁側と反対側に平行に並設されてガラス板1を加熱するようになっている。他の構成は、上記第1実施形態と同一であるため、その説明は省略する。
【0091】
この第3実施形態によれば、第1主面1a側に配置された修正加熱部材70でガラス板1を加熱することで、分断部材11による分断時に分断計画線2が直線状となるようにガラス板1を熱変形させる。そのため、ガラス板1を不等分で分断する場合でも、分断部材11を接触加熱することによる熱膨張の引張熱応力と曲げ力による引張応力を分断計画線2に沿って重畳させて、これらの応力でガラス板1を分断計画線2に沿って適切に分断することができる。
【0092】
図10Bは、第4実施形態に係る、分断部材11と修正加熱部材75との配置例を示す側面図である。この実施形態の修正加熱部材75は、ガラス板1の第2主面1b側に配置され、分断部材11に対してガラス板1の端縁側に平行に並設されてガラス板1を冷却するものとなっている。この実施形態の場合、ガラス板1の端縁側(不要部分)に修正加熱部材75が配置されるので、ガラス板1と接触させるようにしてもよい。例の他の構成は、上記第1実施形態と同一であるため、その説明は省略する。
【0093】
この第4実施形態によれば、第2主面1b側に配置された修正加熱部材75で冷却することで、分断部材11による分断時に分断計画線2が直線状となるようにガラス板1を熱変形させる。そのため、ガラス板1を不等分で分断する場合でも、分断部材11を接触加熱することによる熱膨張の引張熱応力と曲げ力による引張応力を分断計画線2に沿って重畳させて、これらの応力でガラス板1を分断計画線2に沿って適切に分断することができる。
【0094】
図10Cは、第5実施形態に係る、分断部材11と修正加熱部材70,75との配置例を示す側面図である。この実施形態の修正加熱部材70,75は、ガラス板1の第2主面1b側に配置され、分断部材11に対してガラス板1の端縁側と反対側において平行に並設されてガラス板1を加熱する複数の第1修正加熱部材70と、ガラス板1の第2主面1b側に配置され、分断部材11に対してガラス板1の端縁側に平行に並設されてガラス板1を冷却する第2修正加熱部材75とになっている。この実施形態は、第1修正加熱部材70による加熱と、第2修正加熱部材75による冷却とを併用した例である。また。この実施形態では、複数の第1修正加熱部材70を配置しており、それぞれの第1修正加熱部材70は加熱温度が変えられている。例えば、分断部材11に近い第1修正加熱部材70から遠ざかる第1修正加熱部材70に向けて徐々に加熱温度が低く設定されていてもよい。この場合、ガラス板1の端縁側(不要部分)に配置される第2修正加熱部材75は、ガラス板1と接触させるようにしてもよい。他の構成は、上記第1実施形態と同一であるため、その説明は省略する。
【0095】
この第5実施形態によれば、第2主面1b側に配置された第1修正加熱部材70による加熱と第2修正加熱部材75による冷却とによって、分断部材11による分断時に分断計画線2が直線状となるようにガラス板1を熱変形させる。そのため、ガラス板1を不等分で分断する場合でも、分断部材11を接触加熱することによる熱膨張の引張熱応力と曲げ力による引張応力を分断計画線2に沿って重畳させて、これらの応力でガラス板1を分断計画線2に沿って適切に分断することができる。しかも、この第5実施形態によれば、冷却と加熱を同時に行うので、温度勾配が大きくとれ、発生する熱応力が大きくなって曲げ又は引っ張りを少なくできる効果がある。
【0096】
図11A図11Cに示す実施形態は、上記図10A図10Cに示す実施形態に対応した変形例である。違いのみを説明する。図11Aに示す第6実施形態は、上記図10Aに示す第3実施形態における修正加熱部材70を、ガラス板1の第1主面1a側及び第2主面1b側の両面に配置した実施形態である。図11Bに示す第7実施形態は、上記図10Bに示す第4実施形態における修正加熱部材75を、ガラス板1の第1主面1a側及び第2主面1b側の両面に配置した実施形態である。図11Cに示す第8実施形態は、上記図10Cに示す第5実施形態における修正加熱部材70,75を、ガラス板1の第1主面1a側及び第2主面1b側の両面に配置した実施形態である。
【0097】
このように修正加熱部材70又は75をガラス板1の両面に配置して加熱又は冷却することで、上記分断計画線2の真直度をさらに向上させることができる。
【0098】
なお、上記図10A図10C図11A図11Cの修正加熱部材70,75の配置例は一例であり、加熱する修正加熱部材と冷却する修正加熱部材の組み合わせは、板材の厚みや物性値などに応じて設定すればよい。また、加熱又は冷却する修正加熱部材の一方、もしくは両方を設けるようにしてもよい。修正加熱部材の配置位置、数量、温度等は限定されない。
【0099】
また、分断部材11をガラス板1に接触加熱させて分断する例を説明したが、ガラス板1を接触冷却して分断するように構成してもよい。接触冷却して分断する場合、ガラス板1の分断計画線2の第1主面1aと第2主面1bとに接触冷却する分断部材(冷却棒など)と押圧部材とを対向させて配置する。
【0100】
そして、分断部材でガラス板1の第1主面1aを接触冷却して分断計画線2に沿って引張熱応力を作用させた後、第2主面1b側から分断計画線2に沿って押圧部材で押圧して曲げモーメントを作用させることで上記引張熱応力を作用させた分断計画線2に沿って引張応力を作用させ、これらの応力でガラス板1を分断計画線2に沿って適切に分断することができる。
【0101】
つまり、このように分断部材をガラス板1に接触冷却させる場合も、ガラス板1の第1主面1a側に引張熱応力を発生させるとともに、分断計画線2に沿ってガラス板1の第1主面1aと反対を向く板厚方向の曲げ力を第2主面1bに付与することにより、この曲げ力で第1主面1aに作用する引張応力と上記接触冷却による引張熱応力とを重畳させて、ガラス板1を分断計画線2に沿って分断することができる。なお、分断部材(冷却棒)は液体窒素、ドライアイス、又は冷凍装置の冷媒などを用いて冷却しておけばよい。
【0102】
図12は、第9実施形態に係る分断部材と修正加熱部材との配置例を示す側面図である。なお、上記第1実施形態と同一の構成には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。図示するように、この実施形態では、分断計画線2と平行に設けられる一対の押え部材の一方が、ガラス板1に向けて押え部材20を昇降させる駆動機21を有する構成となっている。
【0103】
この実施形態の場合、分断部材11をガラス板1の第2主面1bに接触させて所定時間加熱後、駆動機21で押え部材20を下降させて分断部材11の位置の分断計画線2に沿って曲げ力を付与する。これにより、上記したように、ガラス板1の第1主面1a上で、分断計画線2に沿って生じる引張応力と引張熱応力とが重畳され、これにより分断計画線2に沿ってガラス板1を分断することができる。
【0104】
図13は、第10実施形態に係る分断部材と修正加熱部材との配置例を示す側面図である。なお、上記第1実施形態と同一の構成には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。図示するように、この実施形態では、分断計画線2と平行に設けられる一対の押え部材の一方が修正加熱部材70となっている。この修正加熱部材70は、ガラス板1に向けて修正加熱部材70を昇降させる修正加熱部材駆動機71に設けられている。
【0105】
この実施形態の場合、分断部材11をガラス板1の第2主面1bに接触させて所定時間加熱し、同時に修正加熱部材70をガラス板1の第1主面1aに接触させて所定時間加熱し、分断駆動機12で分断部材11を上昇させて分断計画線2に沿って曲げ力を付与する。これにより、上記したように、ガラス板1の第1主面1a上で、分断計画線2に沿って生じる引張応力と引張熱応力とが重畳され、これにより分断計画線2に沿ってガラス板1を分断することができる。
【0106】
図14は、第11実施形態に係る分断部材と修正加熱部材との配置例を示す側面図である。なお、上記第1実施形態と同一の構成には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。図示するように、この実施形態では、上記第10実施形態における修正加熱部材70が、ガラス板1の第1主面1a側及び第2主面1b側の両方に設けられている。
【0107】
この実施形態の場合、分断部材11をガラス板1の第2主面1bに接触させて所定時間加熱し、同時に修正加熱部材70をガラス板1の第1主面1aに接触させて所定時間加熱し、分断駆動機12で分断部材11を上昇させて分断計画線2に沿って曲げ力を付与する。これにより、上記したように、ガラス板1の第1主面1a上で、分断計画線2に沿って生じる引張応力と引張熱応力とが重畳され、これにより分断計画線2に沿ってガラス板1を分断することができる。この実施形態の場合、ガラス板1の両面から修正加熱部材70で加熱するため、上記第10実施形態に比べて分断計画線2の真直度をさらに向上させることができる。
【0108】
(総括)
以上のように、上記板材の分断装置10によれば、ガラス板(板材)1を、分断計画線2に沿って接触加熱及び/又は接触冷却することで生じる熱応力と板厚方向の曲げ力による応力とを重畳させて、ガラス板(板材)1の破壊応力に達するようにすることで分断することができ、分断塵の発生を抑えた分断が可能となる。しかも、分断塵の発生を抑えることで、分断塵を洗浄するための洗浄装置が不要になるとともに、スクライブ装置も不要になり、ガラス板(板材)1を分断するための構成をコンパクトにでき、装置の小型化と低コスト化を図ることが可能になる。
【0109】
また、ガラス板(板材)1を不等分の位置で分断する場合でも、分断計画線2が直線状となるようにガラス板1を熱変形させた後、分断計画線2に沿って熱応力及び曲げ力による応力で綺麗に分断するため、ガラス板1の分断部分に微小欠けなどがなく、分断後のガラス板1をエッジ強度の高いガラス板1とすることができる。しかも、面取り工程が不要になり、この点でも装置の小型化と低コスト化を図ることが可能になる。
【0110】
従って、FPD業界だけでなく、建材、自動車産業などあらゆる分野において、分断した端縁の真直度を確保した高品質のガラス板(板材)1を提供することが可能になる。
【0111】
なお、上記実施形態では、脆性材料の板材としてガラス板1を例に説明したが、板材としては、脆性材料であって熱応力及び曲げ力による応力により分断できるものであれば適用でき、上記実施形態に限定されるものではない。
【0112】
また、上記実施形態では、脆性材料の板材(ガラス板1)を配置方向Jと直交する分断計画線2で分断する例を説明したが、分断計画線2は直線であれば、配置方向Jに対して所定角度で斜めに分断することも可能であり、分断計画線2は配置方向Jと直交するものに限定されるものではない。
【0113】
また、分断装置は、必ずしも疵形成手段17を有している必要はなく、ガラス板1が分断装置に送り込まれる前に、分断装置とは別の装置によりガラス板1の第1主面1aに起点疵16が形成されてもよい。
【0114】
また、上記実施形態では、円形断面の分断部材11及び修正加熱部材70を例に説明したが、円形断面のシーズヒータ(接触加熱)、冷媒管(接触冷却)、これらを矩形状断面の金属容器(例えば、ステンレス製容器:図示略)に入れ込んだものなどでもよい。金属容器に加熱又は冷却部材を入れることにより、金属容器のガラス板1との接触部を機械加工で正確に仕上げることができる。その上、分断時におけるガラス板1との接触角度も任意に設定することができる。
【0115】
さらに、上記実施形態は一例を示しており、各実施形態を組合わせたり、本願発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0116】
1 ガラス板(脆性材料の板材)
1a 第1主面
1b 第2主面
1c 端面
2 分断計画線
3 搬送装置
10 分断装置
11 分断部材
12 分断駆動機
13 加熱装置
14 押え部材
15 押え部材
16 起点疵(スクライブ)
17 疵形成手段
30 分断装置
31 分断部材
32 押圧部材
60 引張機
70 修正加熱部材(加熱)
71 修正加熱部材駆動機
75 修正加熱部材(冷却)
圧縮熱応力
引張熱応力
C 曲げ力
D 圧縮応力
E 引張応力
F 熱応力
G 熱応力
H 熱変形
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図16A
図16B
図16C