【課題を解決するための手段】
【0015】
そして、本発明者は鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
すなわち、板材の分断で、
図15Aに示すように、大きな板材100を等分(この図では、2等分)で分断する等分分断(この明細書及び特許請求の範囲の書類中では、板材の分断計画線と交差する方向の板材の対向する端縁から等分の位置を分断する場合を「等分分断」という。)の場合には、
図15Bに示すように、分断計画線101に対して板材100の対向する端縁までの距離aが、分断計画線101から等分の距離となる。そのため、
図15Cに示すように、分断部材110で分断計画線101に沿って接触加熱(図では加熱を示しているが、冷却でもよい)すると、板材100は分断計画線101の両側で均等に点線で示す熱変形H(誇張して示す)を生じて、分断計画線101は左右の熱変形のバランスからほぼ直線状に保持される。
【0016】
一方、
図16Aに示すように、板材105の周囲の端部をトリミングする場合など、板材105の端部を不等分で分断(この明細書及び特許請求の範囲の書類中では、板材の分断計画線と交差する方向の板材の対向する端縁から不等分の位置を分断する場合を「不等分分断」という。)することになる。この場合、
図16Bに示すように、分断計画線106に対して板材105の対向する端縁までの距離a,bが、分断計画線106から不等分の距離となる。そのため、
図16Cに示すように、分断部材110で分断計画線106に沿って接触加熱(図では加熱を示しているが、冷却でもよい)すると、板材105の分断計画線106を挟む両方で不均等な熱変形を生じて端縁までの距離が短い側では点線で示すような円弧状の熱変形H(誇張して示す)を生じる。特に、距離aと距離bの差が大きい場合には、分断計画線106から端縁までが短い距離aの方では、熱膨張によって円弧状の熱変形H(誇張して示す)が大きくなる。そのため、分断計画線106も円弧状に変形し、この状態で分断計画線106に沿って分断すると、常温に戻った板材105の端縁は内向きに湾曲した状態となり(例えば、1〜2mm程度)、端縁の真直度を確保することができない。従って、分断部材110のみによる板材105の不等分の分断では、分断後の端縁の真直度を確保することが難しい。
【0017】
このように、本発明者は、板材を等分で分断する場合には、分断部材の接触加熱又は接触冷却による加熱又は冷却で生じる板材の膨張量又は収縮量が両側でバランスするが、板材を不等分で分断する場合には、分断計画線から板材の端縁までの距離の違いによって、分断部材の接触加熱又は接触冷却による加熱又は冷却で生じる板材の膨張量又は収縮量に差が生じ、その熱影響で分断計画線が変形(湾曲)した状態で分断してしまうことがある、という知見を得た。特に、板材の周囲をトリミングする場合など、分断部材から板材の一方の端縁までの距離が短い場合には、分断計画線に対して大きなずれ(例えば、分断計画線の中央部分で数mmのずれ)を生じて分断する場合があることが判明した。
【0018】
そこで、本発明者は、実験などを繰り返し、板材を不等分で分断する場合には、分断部材による板材の分断時における接触加熱又は接触冷却による加熱又は冷却に加えて、修正加熱部材によって板材を加熱又は冷却することにより、分断計画線を直線状に修正して分断できる方法を発明した。
【0019】
本願発明に係る脆性材料の板材の分断方法は、脆性材料からなる板材を不等分に分けた分断計画線に沿って分断する分断方法であって、前記分断計画線上で前記板材の第1主面に微小な起点疵を形成する疵形成工程と、前記分断計画線の両側の当該分断計画線と平行な線上で前記板材の第1主面を押える押え工程と、前記分断計画線に沿って延び分断部材と所定間隔で並設した修正加熱部材により、前記板材を加熱又は冷却して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させる修正加熱工程と、前記板材を接触加熱又は接触冷却するように前記分断部材を加熱又は冷却して前記板材の分断計画線に接触させて当該板材の第1主面に
引張熱応力を発生させるとともに、前記分断計画線に沿って前記板材の第2主面側から板厚方向の曲げ力を付与することにより、前記曲げ力による引張応力と前記
引張熱応力とを重畳させて前記板材を前記分断計画線に沿って分断する分断工程とを含むことを特徴とする。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「熱応力」は、加熱又は冷却した分断部材を接触させることにより、脆性材料の板材の内部に生じる熱歪みの応力をいう。また、「微小」とは、数ミリ(例えば、5mm)以下の疵のことをいう。さらに、「圧縮」は分断計画線に向かう方向、「引張」は分断計画線から離れる方向をいう。また、「曲げ力を付与する」とは、分断計画線と平行な一対の線上で板材の第1主面を押えながら分断計画線上で板材の第2主面を押し上げて板材に所要の板厚方向の曲げ変形を生ぜしめることをいう。さらに、「熱変形」は「熱膨張」、「熱収縮」を含み、「修正加熱部材」は「加熱」、「冷却」する部材を含む。また、各「工程」は、時間的に同時、一部が重なる場合も含む。
【0020】
この構成により、脆性材料の板材を接触加熱又は接触冷却する分断部材を分断計画線に沿って板材に接触させることで、起点疵が形成された板材の第1主面に圧縮熱応力を発生させることができる。例えば、板材の第2主面を接触加熱する分断部材を板材の第2主面に接触させた場合には、第2主面と第1主面との温度差により、板材の第2主面は分断計画線に沿って熱膨張するため第1主面は引っ張られて引張熱応力が発生し、第2主面にはその反力で圧縮熱応力が発生する。あるいは、板材の第1主面を接触冷却する分断部材を板材の第1主面に接触させた場合には、第1主面と第2主面との温度差により、板材の第1主面は分断計画線に沿って熱収縮するため第2主面は圧縮されて圧縮熱応力が発生し、第1主面にはその反力で引張熱応力が発生する。そして、このように分断部材で加熱又は冷却するときに、分断部材に沿って所定間隔で並設した修正加熱部材によって板材を加熱又は冷却することにより、板材を不等分に分けた分断計画線に沿って分断部材を接触加熱又は接触冷却するときに生じる板材の熱変形を、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように熱変形させる。その後、分断計画線に沿って板材の第2主面に板厚方向の曲げ力が付与されると、その曲げ力によって第1主面の分断計画線に沿って生じる引張応力と上記の引張熱応力とが板材の第1主面上で重畳され、これにより起点疵からクラックが分断計画線に沿って直線状に進行する。なお、曲げ力の付与は、圧縮熱応力の発生の前であっても後であってもよいし、引張熱応力の発生と同時であってもよい。その結果、分断部材で分断計画線に沿って分断した板材の端縁の真直度を確保することができる。この方法によれば、分断は瞬時に行われて生産性を上げることができる。その上、板材の第1主面には微小な起点疵を形成するだけでよく、機械的な溝の形成や機械的な分断がないため、板材の分断時に分断屑の発生を抑えることができる。しかも、分断した板材を洗浄する必要がなく、板材の分断を非常にシンプルな装置で行うことができる。
【0021】
また、前記分断部材は、前記板材の第2主面側に配置された、前記板材の第2主面を接触加熱するものであり、前記分断部材を前記板材の第2主面に接触加熱させて前記板材の第1主面に引張熱応力を発生させるとともに、前記修正加熱部材で前記板材を加熱又は冷却して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させ、前記分断工程で、前記分断部材を前記板材に押圧することによって、前記分断計画線に沿って前記板材の第2主面に板厚方向の曲げ力を付与するようにしてもよい。
【0022】
このように構成すれば、分断部材による第2主面の接触加熱と修正加熱部材による加熱又は冷却とによって、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させことができる。そして、分断部材の接触加熱による熱膨張の引張熱応力と曲げ力による引張応力を第1主面の分断計画線に沿って重畳させて、これらの応力で板材を分断計画線に沿って分断することができる。しかも、板材の第2主面を接触加熱する分断部材を利用して、板材の第2主面に曲げ力を付与することができる。
【0023】
また、前記修正加熱部材は、前記第2主面側に配置され、前記修正加熱部材で前記第2主面側から前記板材を加熱して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させる、ようにしてもよい。
【0024】
このように構成すれば、第2主面側に配置された修正加熱部材で板材を加熱又は冷却することで、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させることができる。
【0025】
また、前記修正加熱部材は、前記板材の第1主面側に配置され、前記修正加熱部材で前記第1主面側から前記板材を加熱して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させるようにしてもよい。
【0026】
このように構成すれば、第1主面側に配置された修正加熱部材で板材を加熱することで、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させることができる。
【0027】
また、前記修正加熱部材は、前記分断部材に対して前記板材の端縁までの距離が短い側と反対側を加熱するものであり、前記修正加熱部材で板材を加熱することで、前記板材の端縁に前記分断計画線に対して中央部分が収縮する熱変形を与えるようにしてもよい。
【0028】
このように構成すれば、修正加熱部材で分断部材に対して板材の端縁側と反対側を加熱することで、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させることができる。
【0029】
また、前記修正加熱部材は、前記分断部材に対して前記板材の端縁までの距離が短い側を冷却するものであり、前記修正加熱部材で板材を冷却することで、前記板材の端縁に前記分断計画線に対して中央部分が収縮する熱変形を与えるようにしてもよい。
【0030】
このように構成すれば、修正加熱部材で分断部材に対して板材の端縁までの距離が短い側を冷却することで、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させることができる。
【0031】
また、前記修正加熱部材は、前記板材の第2主面側及び第1主面側の両面から該板材を加熱又は冷却するものであってもよい。
【0032】
このように構成すれば、板材の両面から修正加熱部材で加熱又は冷却して分断計画線の真直度をさらに向上させることができる。
【0033】
また、前記分断工程で、前記板材を分断計画線と直交する方向に引っ張るようにしてもよい。
【0034】
このように構成すれば、板材に作用する引張熱応力と曲げ力による引張応力に加えて、さらに引張力による引張応力を重畳させて、板材を分断計画線に沿ってより短時間で分断することができる。
【0035】
一方、1つの側面からの、本願発明に係る脆性材料の板材の分断装置は、脆性材料からなる板材の第1主面における微小な起点疵が形成された分断計画線に沿って当該板材を不等分で分断する分断装置であって、前記分断計画線を挟む当該分断計画線と平行な一対の線上で前記板材の第1主面を押える一対の押え部材と、前記板材の第1主面と反対を向く第2主面側に配置された、前記分断計画線に沿って延びる分断部材と、前記分断計画線に沿って延び前記分断部材と所定間隔で並設した、前記板材を加熱又は冷却して前記分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように当該板材を熱変形させる修正加熱部材と、前記修正加熱部材を前記板材の加熱又は冷却位置に配置する修正加熱部材駆動機と、前記修正加熱部材による前記板材の加熱又は冷却で当該板材を熱変形させ、前記分断部材を前記板材に接触させて前記板材の第1主面に引張熱応力を発生させた状態で、前記分断計画線に沿って前記板材の第2主面を押圧して当該板材の板厚方向に曲げ力を付与することによって、前記第1主面に曲げ力による引張応力と前記引張熱応力とを重畳させて前記板材が前記分断計画線に沿って分断されるように、前記第2主面側から曲げ力を付与する分断駆動機とを備えることを特徴とする。
【0036】
この構成により、脆性材料の板材を接触加熱又は接触冷却する分断部材を分断計画線に沿って板材に接触させ、これにより第2主面と第1主面の温度差で板材の第1主面に分断計画線に沿った引張熱応力を発生させる。そして、この分断部材による接触加熱又は接触冷却時に、分断部材に沿って所定間隔で並設された修正加熱部材によって板材を加熱又は冷却することにより、板材を不等分で分断する分断計画線に沿って分断部材を接触加熱又は接触冷却するときに生じる板材の熱変形を、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように熱変形させる。そのため、分断計画線に沿って板材の第2主面に板厚方向の曲げ力が付与されると、その曲げ力によって第1主面の分断計画線に沿って生じる引張応力と上記の引張熱応力とが板材の第1主面上で重畳され、これにより起点疵からクラックが分断計画線に沿って直線状に進行する。その結果、分断部材で分断計画線に沿って分断した板材は、常温に戻っても分断した端縁の真直度を確保することができる。この装置によれば、分断は瞬時に行われて生産性を上げることができる。その上、板材の第1主面には微小な起点疵を形成するだけでよく、機械的な溝の形成や機械的な分断がないため、板材の分断時に分断屑の発生を抑えることができる。しかも、分断した板材を洗浄する必要がなく、板材の分断を非常にシンプルな装置で行うことができる。
【0037】
つまり、上記構成では、板材を不等分で分断する場合でも、修正加熱部材による板材の熱変形と、分断部材の熱による板材の熱変形とによって分断計画線を直線状に修正することができる。そのため、その分断計画線に沿って分断部材を押圧することで、板材の第1主面には引張熱応力と曲げ力による引張応力が作用し、分断計画線に沿って生じるこれらの応力で板材の端縁を直線状に分断することができ、不等分分断における端縁の真直度を確保することができる。
【0038】
また、前記分断部材は、前記板材の第2主面を接触加熱するように構成され、前記修正加熱部材は、当該修正加熱部材による前記板材の加熱又は冷却と前記分断部材の接触加熱とによって当該分断部材による分断時に前記分断計画線が直線状となるように前記板材を熱変形させるよう構成されていてもよい。
【0039】
このように構成すれば、分断部材による第2主面の接触加熱と修正加熱部材による加熱又は冷却とによって、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させことができる。そして、分断部材の接触加熱による熱膨張の引張熱応力と曲げ力による引張応力を第1主面の分断計画線に沿って重畳させて、これらの応力で板材を分断計画線に沿って分断することができる。しかも、板材の第2主面を接触加熱する分断部材を利用して、板材の第2主面に曲げ力を付与することができる。
【0040】
また、前記修正加熱部材は、前記分断部材に対して前記板材の端縁までの距離が短い側と反対側に配置され、前記修正加熱部材で板材を加熱することで、前記分断部材による分断時に前記分断計画線が直線状となるように前記板材に熱変形を与えるように配置されていてもよい。
【0041】
このように構成すれば、修正加熱部材で分断部材に対して板材の端縁までの距離が短い側と反対側を加熱することで、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させることができる。
【0042】
また、前記修正加熱部材が、前記板材の第1主面を押える一方の押え部材を兼ねていてもよい。
【0043】
このように構成すれば、装置構成を減らして分断装置のコンパクト化を図ることができる。
【0044】
また、前記修正加熱部材は、前記分断部材に対して前記板材の端縁までの距離が短い側に配置され、前記修正加熱部材で板材を冷却することで、前記分断部材による分断時に前記分断計画線が直線状となるように前記板材に熱変形を与えるように配置されていてもよい。
【0045】
このように構成すれば、修正加熱部材で分断部材に対して板材の端縁までの距離が短い側を冷却することで、分断部材による分断時に分断計画線が直線状となるように板材を熱変形させることができる。
【0046】
また、前記修正加熱部材駆動機は、前記加熱又は冷却時に前記板材に近接して接触しない所定距離で前記修正加熱部材を停止するように構成されていてもよい。
【0047】
このように構成すれば、修正加熱部材が板材に接触しないので、修正加熱部材で板材の表面を傷付けないようにできる。
【0048】
また、前記修正加熱部材は、前記板材の第2主面側及び第1主面側の両面から該板材を加熱又は冷却するように配置されていてもよい。
【0049】
このように構成すれば、板材の両面から修正加熱部材で加熱又は冷却して分断計画線の真直度をさらに向上させることができる。
【0050】
また、前記板材を前記分断計画線と直交する方向に引っ張る引張機をさらに備えさせてもよい。
【0051】
このように構成すれば、引張熱応力に加えて引張力による引張応力を重畳させて、板材を分断計画線に沿ってより短時間で分断することができる。