特許第6445901号(P6445901)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6445901光吸収導電膜および光吸収導電膜形成用スパッタリングターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6445901
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】光吸収導電膜および光吸収導電膜形成用スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/14 20060101AFI20181217BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20181217BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20181217BHJP
   H01B 5/14 20060101ALN20181217BHJP
【FI】
   C23C14/14 B
   C23C14/34 A
   C23C14/06 L
   !H01B5/14 A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-47024(P2015-47024)
(22)【出願日】2015年3月10日
(65)【公開番号】特開2016-166392(P2016-166392A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2017年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志田 陽子
(72)【発明者】
【氏名】越智 元隆
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕史
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特表平01−501072(JP,A)
【文献】 特開平07−180038(JP,A)
【文献】 特開2010−079240(JP,A)
【文献】 特開平03−122267(JP,A)
【文献】 特開平02−034737(JP,A)
【文献】 特開平03−136369(JP,A)
【文献】 特開2010−018864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/14
C23C 14/06
C23C 14/34
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子を53原子%以上58原子%以下含むと共に、Cu、Ti、Ta、およびNiよりなる群から選択される少なくとも1種のX元素を含む窒素含有Al合金膜からなり、アモルファスと結晶子サイズが140Å以下の微結晶とを含む構造であることを特徴とする光吸収導電膜。
【請求項2】
波長550nmにおいて20.0%以上の光吸収率を有し、電気抵抗率が5.0×10Ω・cm以下である請求項1に記載の光吸収導電膜。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光吸収導電膜を有する反射防止膜。
【請求項4】
請求項1または2に記載の光吸収導電膜を有する表示装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の光吸収導電膜を有する入力装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の光吸収導電膜を有するタッチパネルセンサー電極。
【請求項7】
請求項1または2に記載の光吸収導電膜形成用スパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収導電膜および光吸収導電膜形成用スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶やEL(Electro−Luminescence、電界発光素子)等の電気光学素子を用いる表示装置には、可視光領域において低反射で遮光性の高い反射防止膜が配設されている。例えば、カラー液晶表示パネルには、ガラス等の透明性基板上に、赤:R、緑:G、青:Bの3原色カラーフィルターパターン間を仕切る反射防止膜が配設されている。これにより、隣接する3原色カラーフィルター間の色の混合や干渉を抑制する。また、液晶画素の端部の表示光劣化部を遮光することによって、表示画像の高コントラスト化を図り、高品質化を実現する。これらの特性を満足させるために、反射防止膜は、少なくとも表示面からの光の反射が小さいことや、高精度なパターンが容易に得られること等が求められる。
【0003】
また、タッチパネルのセンサー電極に用いられる金属をメッシュ状に加工した金属メッシュ配線には、該配線からの金属光沢を制御するため、黒化層を更に設けることが提案されている。
【0004】
上記反射防止膜や上記黒化層として、下記の技術が提案されている。例えば特許文献1には、エレクトロルミネセンス表示素子等に用いられる電極として、基板上に形成された透明電極に電気的に接続したアルミニウム又はアルミニウムを含む金属化合物からなるAl薄膜と、クロム又はクロムを含む金属化合物からなるCr薄膜とを備えたものが提案されている。この構成を採用することで、前面基板側、即ちCr薄膜側から見たときに電極を黒色化することができ、電極表面での光の反射を抑制できることが示されている。しかしながら、Crは環境毒性の高い元素であるため、該元素の使用を極力抑制した技術が望まれている。
【0005】
特許文献2には、透明性基板上に形成された反射防止膜であって、膜厚25nmにおいて波長550nmの透過率が10%未満であり、主成分がAlであるAl系膜と、前記Al系膜の上層、又は/及び下層に形成され、膜厚25nmにおいて波長550nmの透過率が10%以上であり、かつ、主成分がAlであり、添加物として少なくともN元素を含むAl系N含有膜と、を備え、 比抵抗値が1.0×10-2Ω・cm以下であり、 前記Al系N含有膜面の可視光領域における反射率が50%以下である反射防止膜が示されている。しかしながら、Alの窒化膜は本来、透明な絶縁膜であり、反射率を十分に低減させるには更なる検討が必要であると考える。
【0006】
特許文献3には、配線部の金属光沢反射光によりタッチパネル下に配置されるディスプレイの視認性を低下することなく、メッシュ状としても2枚のフィルムの貼り合わせのズレが生じない透明導電性フィルムに適用可能な積層体が提案されている。具体的には、黒化層を2層有する積層体であって、この黒化層が、窒化銅、酸化銅、窒化ニッケル、及び酸化ニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む層であることが示されている。しかしながら、特許文献3の黒化層として記載されている窒化銅は熱的に不安定であり、150℃程度の加熱で分解する。そのため、安定した黒化層とはいえない。また、金属配線の黒化層として利用する場合、金属薄膜に積層しウェットエッチング法による配線加工が必要となる。酸化銅や酸化ニッケルは金属薄膜よりもウェットエッチング法によるエッチングレートが遅いため、良好な配線形状を得るには更なる検討が必要であると思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−226494号公報
【特許文献2】特開2010−079240号公報
【特許文献3】特開2013−129183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、環境毒性の低い金属元素であるAlをベースとした窒素含有皮膜であって、可視光域に高い光吸収率を有し、かつ高い導電性を示す光吸収導電膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決し得た本発明の光吸収導電膜は、窒素原子を53原子%以上58原子%以下含むと共に、Cu、Ti、Ta、およびNiよりなる群から選択される少なくとも1種のX元素を含む窒素含有Al合金膜からなり、アモルファスと結晶子サイズが140Å以下の微結晶とを含む構造であるところに特徴を有する。
【0011】
前記光吸収導電膜は、波長550nmにおいて20.0%以上の光吸収率を有し、電気抵抗率が5.0×10Ω・cm以下であるものが好ましい。
【0012】
本発明には、前記光吸収導電膜を有する、反射防止膜、表示装置、入力装置およびタッチパネルセンサー電極も含まれる。また本発明には、前記光吸収導電膜形成用スパッタリングターゲットも含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環境毒性の低い金属元素であるAlをベースとした窒素含有皮膜であって、可視光域に高い光吸収率を有し、かつ高い導電性を示す光吸収導電膜を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例におけるAl膜またはAl−N膜のXRD(X−Ray Diffraction、X線回折)法による結晶状態解析結果を示す図である。
図2図2は、実施例におけるAl−7Cu膜またはAl−7Cu−N膜のXRD法による結晶状態解析結果を示す図である。
図3図3は、実施例におけるAl−N膜およびAl−7Cu−N膜の平面TEM(Transmission Electron Microscope)画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、環境毒性の低い金属元素であるAlをベースに、可視光域に高い光吸収率を有しかつ導電性の高い膜を得るべく、鋭意研究を重ねた。その結果、窒素原子を12原子%以上58原子%以下の範囲内で含む窒素含有Al膜であって、その構造が、アモルファス構造であるか、またはアモルファスと結晶子サイズが140Å以下の微結晶とを含む構造であれば、高い光吸収率と優れた導電性を兼備できることをまず見出し、本発明を完成させた。尚、本発明において「高い光吸収率」とは、波長550nmにおいて20.0%以上の光吸収率を有することをいう。また「優れた導電性」とは、電気抵抗率が5.0×104Ω・cm以下であることをいう。以下では、上記「結晶子サイズが140Å以下の微結晶」を「規定の微結晶」という場合がある。
【0016】
以下、本発明で規定の膜中窒素量と膜の構造について説明する。窒素を12原子%以上含有させ、膜の構造を、アモルファス構造、または該アモルファスに結晶子サイズが140Å以下の微結晶が含まれる、アモルファスと微結晶とを含む構造とすることによって、低い電気抵抗を示しつつ、高い光吸収率を確保することができる。上記膜中窒素量は、好ましくは20原子%以上、より好ましくは30原子%以上である。膜中窒素量が多くなるほど高い光吸収率を示すが、電気抵抗は高くなる傾向にある。高い光吸収率と共に低い電気抵抗を確保するには、膜中窒素量を58原子%以下とする必要がある。膜中窒素量は、好ましくは50原子%以下、より好ましくは40原子%以下である。該膜中窒素量は、膜中で一定であってもよいし、濃度分布があってもよい。
【0017】
微結晶とは、一般的に微小な結晶構造を指すが、本発明の膜に含まれる微結晶は、一般的な窒化アルミニウムのXRD法による(002)面の回折ピークから得られる結晶子サイズが140Å以下のものをいう。よって、結晶子サイズが140Åを超える結晶を含む構造や、金属状態、即ち通常の結晶性金属の状態は含まない。上記結晶子サイズは好ましくは105Å以下である。より好ましくは90Å以下である。尚、以下では、一般的な窒化アルミニウムをAlNと示し、膜中窒素量が種々の窒素含有Al膜をAl−N膜と示す。
【0018】
上記膜の構造は、後述する実施例で説明の通り、薄膜のXRD法による結晶状態解析結果から決定される。下記の窒素含有Al合金膜についても同じである。
【0019】
本発明は、更にCu、Ti、Ta、およびNiよりなる群から選択される少なくとも1種のX元素を含む窒素含有Al合金膜も規定する。以下、この窒素含有Al合金膜を「Al−X−N膜」ということがある。以下、上記X元素について詳述する。
【0020】
Alと窒素原子からなる場合でも、上述の通り、高い光吸収率と優れた導電性が得られるが、例えば、スパッタリング法で成膜した場合、成膜時の窒素ガス流量比率や成膜ガス圧等のプロセス条件よって光学特性や電気抵抗が変動しやすく、光吸収率の低下や高電気抵抗化を招きやすい。そこで本発明者らは、プロセス条件が多少変動しても、高い光吸収率かつ優れた導電性を示す膜を容易に得るべく更に研究を重ねた。その結果、好ましくはCu、Ti、Ta、およびNiよりなる群から選択される少なくとも1種のX元素を含有させればよいことがわかった。これらの元素は、単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。X元素の含有量は、X元素の種類によって異なる。Cu含有量は4原子%以上であることが好ましく、より好ましくは5原子%以上である。Ti含有量は2原子%以上であることが好ましく、より好ましくは5原子%以上である。Ta含有量は15原子%以上であることが好ましく、Ni含有量は10原子%以上であることが好ましい。
【0021】
X元素の中でもCuとTiは、少ない含有量でその効果を発揮するため好ましく、窒素含有Al合金膜として、Cuを4原子%以上含む窒素含有Al合金膜が好ましい。
【0022】
一方、上記X元素の含有量が多すぎる場合、成膜用のターゲットを、粉末焼結法で製造する場合は問題ないが、溶解法で製造する場合は製造が困難となり製造コストが増加する。よって、Cuの場合は30原子%以下であることが好ましく、Tiの場合は15原子%以下であることが好ましく、Taの場合は30原子%以下であることが好ましく、Niの場合は50原子%以下であることが好ましい。
【0023】
窒素含有Al合金膜の窒素量、結晶子サイズ、およびこれらの好ましい上下限値は、上記窒素含有Al膜と同じである。窒素濃度は、Al−X−N膜中で一定であってもよいし、濃度分布があってもよい。
【0024】
光吸収導電膜が上記窒素含有Al膜、上記窒素含有Al合金膜のいずれの場合も、膜厚は、光吸収導電膜としての役割を発揮させる観点から10nm以上とすることが好ましく、生産性確保の観点から300nm以下とすることが好ましい。
【0025】
本発明の光吸収導電膜は、反射防止膜、表示装置、入力装置およびタッチパネルセンサー電極に適用することができる。
【0026】
上記光吸収導電膜の形成は、膜内の成分の均一性、さらには添加元素量の制御の容易さ、製造時のスループットの高さなどから、スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法で成膜することが好ましい。
【0027】
前記光吸収導電膜の形成に用いるスパッタリングターゲットとして、例えば純Alスパッタリングターゲット、または所望の合金組成を有するAl合金スパッタリングターゲットが挙げられる。上記スパッタリング法の一例として、上記純Alスパッタリングターゲット、または所望の合金組成を有するAl合金スパッタリングターゲットを用い、窒素ガスや窒素含有ガスを導入してスパッタリングを行う反応性スパッタリング法が挙げられる。または、前記Al合金スパッタリングターゲットの代わりに、組成の異なる二つ以上の純AlスパッタリングターゲットやAl合金スパッタリングターゲットを用い、これらを同時に放電させて形成してもよい。または、スパッタリングターゲット自体が、所望の膜と同じ組成のAl窒素化合物またはAl合金窒素化合物を含む材料であってもよい。
【0028】
前記スパッタリングターゲットの形状は特に限定されず、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状、例えば角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状、円筒状などに加工したものを用いることができる。前記純Alスパッタリングターゲット、または所望の合金組成を有するAl合金スパッタリングターゲットの製造方法は特に限定されない。例えば、溶解鋳造法や粉末焼結法、スプレーフォーミング法等で製造することができる。
【0029】
前記反応性スパッタリング法で成膜する場合、その条件は、膜厚、膜質、導入したい窒素濃度に応じて適切に制御すればよい。例えば下記の条件で行うことが挙げられる。このうち膜中窒素量と膜の構造は、X元素の有無やX元素の種類・含有量と、ArガスとN2ガスの合計に対するN2ガスの流量比率とを制御することによって、調整することができる。
スパッタリング条件
基板温度:室温
成膜ガス:ArガスとN2ガスの混合ガス
ガス圧:2mTorr
スパッタパワー:DC500W
真空到達度:1×10-6Torr以下
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0031】
(1)サンプルの作製
透明基板として、板厚0.7mm、直径4インチの無アルカリ硝子板を用意し、この無アルカリ硝子板上に、DCマグネトロンスパッタリング法により、表1に示す組成の膜を50nm成膜した。表1のNo.1〜6のAl膜またはAl−N膜のスパッタリング条件を下記に示す。
【0032】
Al膜またはAl−N膜のスパッタリング条件
成膜方法:反応性スパッタリング法
使用ターゲット:純Alターゲット
成膜装置:ULVAC社製 CS−200
基板温度:室温
成膜ガス:Arガス、N2ガスを表1に記載のN2ガス流量比率になるよう調整した。
ガス圧:2mTorr
スパッタパワー:DC500W
真空到達度:1×10-6Torr以下
【0033】
また表1のNo.7〜20では、Cuを7原子%、12原子%、または17原子%含み、残部がAlおよび不可避不純物のAl−Cu合金スパッタリングターゲットを用いた。No.21〜25では、Tiを1原子%、2原子%、9原子%、26原子%、または33原子%含み、残部がAlおよび不可避不純物のAl−Ti合金スパッタリングターゲットを用いた。No.26、27では、Taをそれぞれ18原子%、19原子%含み、残部がAlおよび不可避不純物であるAl−Ta合金スパッタリングターゲットを用いた。またNo.28、29では、Niをそれぞれ14原子%、16原子%含み、残部がAlおよび不可避不純物であるAl−Ni合金スパッタリングターゲットを用いた。使用ターゲット以外の表1のNo.7〜29のスパッタリング条件、即ち、成膜方法、成膜装置、基板温度、成膜ガス、ガス圧、スパッタリングパワー、および真空到達度は、上記Al膜またはAl−N膜のスパッタリング条件と同じとした。
【0034】
(2)各膜の窒素量の測定
表1に示す各膜の窒素量を調べるため、アルバック・ファイ株式会社製 PHI−710型走査型オージェ電子分光装置を用い、エネルギー:3keV、電流:約8nAの電子線を、試料傾斜60°で、各膜の表面に照射し、AES(Auger Electron Spectroscopy)スペクトル(オージェスペクトルともいう)を測定した。膜厚が50nmの試料の膜厚深さ方向に、Ar+のイオンスパッタでエッチングしながら、膜表面から深さ5〜20nmの範囲内で検出された各元素濃度の平均値を求めた。そしてこの方法で測定したAl原子とX元素原子と窒素原子との総量を分母としたときの、窒素原子の原子比での含有比率を、膜中窒素量として求めた。本発明では、上述の通り、この膜中窒素量が12〜58原子%の範囲内に含まれる膜を合格とした。
【0035】
(3)膜の構造および結晶子サイズの測定
表1に示す膜の構造および結晶子サイズを調べるため、株式会社リガク製 水平型X線回折装置 SmartLabを用いて測定を行った。測定条件を下記に記載する。
測定条件
ターゲット:Cu
単色化:多層膜ミラー+平板モノクロメータ
ターゲット出力:45kV−200mA
スリット入射系:PSC(Parallel Slit Collimator)5°、IS(Incident Slit)0.4mm
スリット受光系:PSA(Parallel Slit Analyzer)0.5°、SS(Soller Slit)5°、RS(Receiving Slit)20mm
走査速度、サンプリング幅:2°/min、0.02°
入射角度:0.5°
測定角度(2θ):10°〜90°
【0036】
測定した回折スペクトルに、金属由来のピークがみられるものを、膜の構造が通常の結晶性金属であると判断した。以下、この通常の結晶性金属を単に「金属」という。またピークが検出されないものを「アモルファス」と判断した。更に、AlN由来のピークが検出されるものについては、特に、ピーク強度の強い2θ=36°の(002)面のピークの半値幅から、Scherrerの式を用いて、結晶子サイズを算出した。そして本実施例では、上記回折スペクトルから構造が、アモルファスであるか、アモルファスに結晶子サイズが140Å以下の微結晶が含まれる場合を合格とした。尚、表1の「膜の構造」において、上記「アモルファスに結晶子サイズが140Å以下の微結晶が含まれる」ものを「アモルファス+規定の微結晶」と示す。
【0037】
表1の一部の例の測定結果について、図1および図2を用いて説明する。まず図1は、表1のNo.1、3、5、即ち、成膜条件のN2ガス流量比率を変えて作製した各Al−N膜またはAl膜の回折スペクトル結果を示す図である。図1中(A)はNo.1の回折スペクトルである。金属由来のピークのみが検出されていることから、No.1は構造が金属のAl膜であると同定できる。図1中(B)はNo.3の回折スペクトルである。ピークが検出されないことから、No.3のAl−N膜はアモルファスであると同定できる。図1中(C)はNo.5の回折スペクトルである。AlN由来のピークが検出されており微結晶を含むことが分かる。
【0038】
次に図2は、表1のNo.7〜12、即ち、成膜条件のN2ガス流量比率を変えて作製した各Al−7Cu−N膜またはAl−7Cu膜の回折スペクトル結果を示す図である。図2中(A)はNo.7の回折スペクトルである。金属由来のピークのみが検出されていることから、No.7は構造が金属のAl−7Cu膜であると同定できる。図2中(B)、(C)および(D)はそれぞれ、No.8〜10の回折スペクトルである。ピークが検出されないことから、No.8〜10のAl−7Cu−N膜の構造はアモルファスであると同定できる。図2中(E)と(F)はそれぞれ、No.11、12の回折スペクトルである。AlN由来のピークが検出されており微結晶を含むことが分かる。
【0039】
以上、図1および図2に示す通り、いずれの膜についてもXRD法による回折スペクトルを解析することで、膜の構造が、金属かアモルファスか、または微結晶を含むかを同定できる。尚、表1における上記No.1、3、5および7〜12以外の例についても、上記図1図2の通り、回折スペクトルから膜の構造を判断した。
【0040】
参考までに、表1のNo.3、5、10のAl−N膜またはAl−7Cu−N膜の平面TEM画像を、図3の(a)〜(c)にそれぞれ示す。TEM観察は、日立製作所製 電界放出形透過電子顕微鏡、型式:HF−2200を用い、加速電圧 200kVで倍率500万倍の条件で行った。図3(a)の特に破線で囲んだ領域から、No.3では一部に配向性がみられることがわかる。尚、このNo.3では一部に配向性がみられたが、前記図1に示す通りXRD法でピークが検出されなかったため、膜の構造はアモルファスと判断した。図3(b)からNo.5では配向性を十分に確認できることがわかる。また図3(c)から、No.10では配向性が確認されず膜の構造はアモルファスであることがわかる。
【0041】
(4)光吸収率の測定
上記成膜方法にて、膜厚が50nmの光吸収率測定用の試料を作製し、日本分光社製V−570分光光度計を用い、光吸収率を求めた。また参考までに反射率についても求めた。本実施例では、波長550nmにおける光吸収率が20.0%以上であるものを合格、即ち、光学特性に優れていると評価した。
【0042】
(5)電気抵抗率の測定
上記成膜方法にて、膜厚が200nm以上の電気抵抗率測定用の試料を作製し、4端子法で電気抵抗率を測定した。本実施例では、電気抵抗率が5.0×104Ω・cm以下のものを合格、即ち導電性が高いと評価した。尚、表1において、例えばNo.1の「2.33E−06」は、2.33×10-6を意味する。
【0043】
これらの結果を表1に併記する。
【0044】
【表1】
【0045】
以下、表1を用いて本発明の実施例を説明する。
【0046】
表1のNo.1〜6は、純Alターゲットを用い、かつ成膜ガスとして、ArガスのみまたはN2ガス流量比率が種々のArとN2の混合ガスを用いて成膜した例である。このうちNo.1は、Arガスのみで成膜した例であり、得られた膜は金属Al膜である。そのため電気抵抗率は低いが、反射率が高く光吸収率が低かった。No.2〜6は、N2ガス流量比率が種々のArとN2の混合ガスを用いて成膜した例である。N2ガス流量比率が増加するに伴い、膜中窒素量が増加する傾向にあり結晶子サイズも大きくなる。No.2とNo.3は、膜の構造がアモルファスであって、膜中窒素量が規定範囲内にあるため所望の光吸収率と電気抵抗率を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。No.4〜6は、膜中窒素量が58原子%を超え、かつ結晶子サイズが140Åを超えているため、透明絶縁体である一般的なAlNの特性に近づき、所望の光吸収性や導電性が得られなかった。
【0047】
No.7〜12は、Al−7原子%Cuターゲットを用い、かつ成膜ガスとして、ArガスのみまたはN2ガス流量比率が種々のArとN2の混合ガスを用いて成膜した例である。このうちNo.7は、Arガスのみで成膜した例であり、得られた膜は構造が金属のAl−7Cu膜である。そのため電気抵抗率は低いが、反射率が高く光吸収率が低かった。No.8〜12は、N2ガス流量比率が種々のArとN2の混合ガスを用いて成膜した例である。N2ガス流量比率が増加するに伴い、膜中窒素量が増加する傾向にあり結晶子サイズも大きくなった。このうちNo.8〜10は、膜の構造がアモルファスであって、膜中窒素量が規定範囲内にあるため所望の光吸収率と電気抵抗率を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。またNo.11は、微結晶を含む膜であって結晶子サイズが140Å以下であり、かつ膜中窒素量が規定範囲内にあるため、所望の光吸収率と電気抵抗率を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。一方、No.12は、微結晶を含む膜であるが結晶子サイズが140Åを超えており、かつ膜中窒素量が58原子%を超えているため、透明絶縁体である一般的なAlNの特性に近づき、所望の光吸収性や導電性が得られなかった。
【0048】
No.13〜17は、Cu量の更に多いAl−12原子%Cuターゲットを用い、かつN2ガス流量比率が種々のArとN2の混合ガスを用いて成膜した例である。これらの結果から、N2ガス流量比率が増加するに伴い、膜中窒素量が増加し、膜が微結晶を含むようになることがわかる。このうちNo.13は、窒素を含む膜であるが膜中窒素量が低く、XRD法による回折スペクトルの測定で金属由来のピークが検出され、金属であると同定した。このNo.13は、電気抵抗率は低いが、反射率が高く光吸収率が低かった。No.14〜16は、膜の構造がアモルファスであって、膜中窒素量が規定範囲内にあるため、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。一方、No.17は、膜中窒素量が58原子%を超え、かつ微結晶を含むが結晶子サイズが140Åを超えているため、透明絶縁体である一般的なAlNの特性に近づき、所望の光吸収性や導電性を得ることができなかった。
【0049】
No.18〜20は、Cu量のより更に多いAl−17原子%Cuターゲットを用い、かつN2ガス流量比率が種々のArとN2の混合ガスを用いて成膜した例である。これらの例においても、N2ガス流量比率が増加するに伴い、膜中窒素量は増える傾向にあり、微結晶を含む膜となることがわかる。このうち、No.18とNo.19は、膜の構造がアモルファスであって、膜中窒素量が規定範囲内にあるため、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。No.20は、膜中窒素量が規定範囲内であって、微結晶を有しかつ結晶子サイズが140Å以下であるため、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。
【0050】
No.21〜25は、X元素がTiの例である。このうちNo.21〜23は、N2ガス流量比率を33%に固定し、Ti含有量が1、2、9原子%の各ターゲットを用いて成膜した例である。No.21〜23の結果から、Ti含有量増加に伴い、膜中窒素量と結晶子サイズが減少していることが分かる。Tiを含有することで、膜への窒素の取り込みと結晶子成長が抑制されており、膜のTi含有量が2原子%以上で、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有することがわかる。またNo.24と25は、ターゲットのTi含有量をより高め、N2ガス流量比率を変えて成膜した例である。これらの例でも、膜中窒素量は規定範囲内にあり、結晶子成長が抑制されてアモルファスとなり、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有することがわかる。
【0051】
No.26と27は、X元素がTaの例であり、ターゲットのTa含有量とN2ガス流量比率を変えて成膜した例である。これらの例で得られた膜は、アモルファスであって、膜中窒素量が規定範囲内にあり、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。
【0052】
No.28と29は、X元素がNiの例であり、ターゲットのNi含有量とN2ガス流量比率を変えて成膜した例である。これらの例で得られた膜は、アモルファスであって、膜中窒素量が規定範囲内にあり、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。
【0053】
また表1から次のことがわかる。まず、N2ガス流量比率が33%で同じであってX元素有無の点で異なるNo.5と、No.11、16および21〜23とを比較する。本実施例においてN2ガス流量比率を33%で一定としたとき、No.5の様にX元素を含まない場合は、透明絶縁体である一般的なAlNの特性に近づき、所望の光吸収性や導電性が得られなかった。しかしNo.11、16および21〜23の様にX元素であるCuやTiを含有することによって、膜中への窒素の取り込みおよび結晶子成長を抑制する効果が発揮され、規定する膜の窒素量や構造が得られやすいことが分かる。
【0054】
次に、N2ガス流量比率が23%で同じであってX元素有無の点で異なるNo.4と、No.15、18、25、27および29とを比較する。本実施例においてN2ガス流量比率を23%で一定としたとき、No.4の様にX元素を含まない場合は、透明絶縁体である一般的なAlNの特性に近づき、所望の光吸収性や導電性が得られなかった。しかしNo.15および18の様にX元素としてCuを含む場合、No.25の様にX元素としてTiを含む場合、およびNo.27および29の様にX元素としてTaやNiを含む場合には、膜中への窒素の取り込みおよび結晶子成長を抑制する効果が発揮され、規定する膜の窒素量や構造が得られやすいことが分かる。
【0055】
この様に本発明では、Cr等の環境毒性の高い元素を用いなくとも、光吸収導電膜として優れた特性を有する薄膜を実現できることがわかる。
図1
図2
図3