【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0031】
(1)サンプルの作製
透明基板として、板厚0.7mm、直径4インチの無アルカリ硝子板を用意し、この無アルカリ硝子板上に、DCマグネトロンスパッタリング法により、表1に示す組成の膜を50nm成膜した。表1のNo.1〜6のAl膜またはAl−N膜のスパッタリング条件を下記に示す。
【0032】
Al膜またはAl−N膜のスパッタリング条件
成膜方法:反応性スパッタリング法
使用ターゲット:純Alターゲット
成膜装置:ULVAC社製 CS−200
基板温度:室温
成膜ガス:Arガス、N
2ガスを表1に記載のN
2ガス流量比率になるよう調整した。
ガス圧:2mTorr
スパッタパワー:DC500W
真空到達度:1×10
-6Torr以下
【0033】
また表1のNo.7〜20では、Cuを7原子%、12原子%、または17原子%含み、残部がAlおよび不可避不純物のAl−Cu合金スパッタリングターゲットを用いた。No.21〜25では、Tiを1原子%、2原子%、9原子%、26原子%、または33原子%含み、残部がAlおよび不可避不純物のAl−Ti合金スパッタリングターゲットを用いた。No.26、27では、Taをそれぞれ18原子%、19原子%含み、残部がAlおよび不可避不純物であるAl−Ta合金スパッタリングターゲットを用いた。またNo.28、29では、Niをそれぞれ14原子%、16原子%含み、残部がAlおよび不可避不純物であるAl−Ni合金スパッタリングターゲットを用いた。使用ターゲット以外の表1のNo.7〜29のスパッタリング条件、即ち、成膜方法、成膜装置、基板温度、成膜ガス、ガス圧、スパッタリングパワー、および真空到達度は、上記Al膜またはAl−N膜のスパッタリング条件と同じとした。
【0034】
(2)各膜の窒素量の測定
表1に示す各膜の窒素量を調べるため、アルバック・ファイ株式会社製 PHI−710型走査型オージェ電子分光装置を用い、エネルギー:3keV、電流:約8nAの電子線を、試料傾斜60°で、各膜の表面に照射し、AES(Auger Electron Spectroscopy)スペクトル(オージェスペクトルともいう)を測定した。膜厚が50nmの試料の膜厚深さ方向に、Ar
+のイオンスパッタでエッチングしながら、膜表面から深さ5〜20nmの範囲内で検出された各元素濃度の平均値を求めた。そしてこの方法で測定したAl原子とX元素原子と窒素原子との総量を分母としたときの、窒素原子の原子比での含有比率を、膜中窒素量として求めた。本発明では、上述の通り、この膜中窒素量が12〜58原子%の範囲内に含まれる膜を合格とした。
【0035】
(3)膜の構造および結晶子サイズの測定
表1に示す膜の構造および結晶子サイズを調べるため、株式会社リガク製 水平型X線回折装置 SmartLabを用いて測定を行った。測定条件を下記に記載する。
測定条件
ターゲット:Cu
単色化:多層膜ミラー+平板モノクロメータ
ターゲット出力:45kV−200mA
スリット入射系:PSC(Parallel Slit Collimator)5°、IS(Incident Slit)0.4mm
スリット受光系:PSA(Parallel Slit Analyzer)0.5°、SS(Soller Slit)5°、RS(Receiving Slit)20mm
走査速度、サンプリング幅:2°/min、0.02°
入射角度:0.5°
測定角度(2θ):10°〜90°
【0036】
測定した回折スペクトルに、金属由来のピークがみられるものを、膜の構造が通常の結晶性金属であると判断した。以下、この通常の結晶性金属を単に「金属」という。またピークが検出されないものを「アモルファス」と判断した。更に、AlN由来のピークが検出されるものについては、特に、ピーク強度の強い2θ=36°の(002)面のピークの半値幅から、Scherrerの式を用いて、結晶子サイズを算出した。そして本実施例では、上記回折スペクトルから構造が、アモルファスであるか、アモルファスに結晶子サイズが140Å以下の微結晶が含まれる場合を合格とした。尚、表1の「膜の構造」において、上記「アモルファスに結晶子サイズが140Å以下の微結晶が含まれる」ものを「アモルファス+規定の微結晶」と示す。
【0037】
表1の一部の例の測定結果について、
図1および
図2を用いて説明する。まず
図1は、表1のNo.1、3、5、即ち、成膜条件のN
2ガス流量比率を変えて作製した各Al−N膜またはAl膜の回折スペクトル結果を示す図である。
図1中(A)はNo.1の回折スペクトルである。金属由来のピークのみが検出されていることから、No.1は構造が金属のAl膜であると同定できる。
図1中(B)はNo.3の回折スペクトルである。ピークが検出されないことから、No.3のAl−N膜はアモルファスであると同定できる。
図1中(C)はNo.5の回折スペクトルである。AlN由来のピークが検出されており微結晶を含むことが分かる。
【0038】
次に
図2は、表1のNo.7〜12、即ち、成膜条件のN
2ガス流量比率を変えて作製した各Al−7Cu−N膜またはAl−7Cu膜の回折スペクトル結果を示す図である。
図2中(A)はNo.7の回折スペクトルである。金属由来のピークのみが検出されていることから、No.7は構造が金属のAl−7Cu膜であると同定できる。
図2中(B)、(C)および(D)はそれぞれ、No.8〜10の回折スペクトルである。ピークが検出されないことから、No.8〜10のAl−7Cu−N膜の構造はアモルファスであると同定できる。
図2中(E)と(F)はそれぞれ、No.11、12の回折スペクトルである。AlN由来のピークが検出されており微結晶を含むことが分かる。
【0039】
以上、
図1および
図2に示す通り、いずれの膜についてもXRD法による回折スペクトルを解析することで、膜の構造が、金属かアモルファスか、または微結晶を含むかを同定できる。尚、表1における上記No.1、3、5および7〜12以外の例についても、上記
図1や
図2の通り、回折スペクトルから膜の構造を判断した。
【0040】
参考までに、表1のNo.3、5、10のAl−N膜またはAl−7Cu−N膜の平面TEM画像を、
図3の(a)〜(c)にそれぞれ示す。TEM観察は、日立製作所製 電界放出形透過電子顕微鏡、型式:HF−2200を用い、加速電圧 200kVで倍率500万倍の条件で行った。
図3(a)の特に破線で囲んだ領域から、No.3では一部に配向性がみられることがわかる。尚、このNo.3では一部に配向性がみられたが、前記
図1に示す通りXRD法でピークが検出されなかったため、膜の構造はアモルファスと判断した。
図3(b)からNo.5では配向性を十分に確認できることがわかる。また
図3(c)から、No.10では配向性が確認されず膜の構造はアモルファスであることがわかる。
【0041】
(4)光吸収率の測定
上記成膜方法にて、膜厚が50nmの光吸収率測定用の試料を作製し、日本分光社製V−570分光光度計を用い、光吸収率を求めた。また参考までに反射率についても求めた。本実施例では、波長550nmにおける光吸収率が20.0%以上であるものを合格、即ち、光学特性に優れていると評価した。
【0042】
(5)電気抵抗率の測定
上記成膜方法にて、膜厚が200nm以上の電気抵抗率測定用の試料を作製し、4端子法で電気抵抗率を測定した。本実施例では、電気抵抗率が5.0×10
4Ω・cm以下のものを合格、即ち導電性が高いと評価した。尚、表1において、例えばNo.1の「2.33E−06」は、2.33×10
-6を意味する。
【0043】
これらの結果を表1に併記する。
【0044】
【表1】
【0045】
以下、表1を用いて本発明の実施例を説明する。
【0046】
表1のNo.1〜6は、純Alターゲットを用い、かつ成膜ガスとして、ArガスのみまたはN
2ガス流量比率が種々のArとN
2の混合ガスを用いて成膜した例である。このうちNo.1は、Arガスのみで成膜した例であり、得られた膜は金属Al膜である。そのため電気抵抗率は低いが、反射率が高く光吸収率が低かった。No.2〜6は、N
2ガス流量比率が種々のArとN
2の混合ガスを用いて成膜した例である。N
2ガス流量比率が増加するに伴い、膜中窒素量が増加する傾向にあり結晶子サイズも大きくなる。No.2とNo.3は、膜の構造がアモルファスであって、膜中窒素量が規定範囲内にあるため所望の光吸収率と電気抵抗率を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。No.4〜6は、膜中窒素量が58原子%を超え、かつ結晶子サイズが140Åを超えているため、透明絶縁体である一般的なAlNの特性に近づき、所望の光吸収性や導電性が得られなかった。
【0047】
No.7〜12は、Al−7原子%Cuターゲットを用い、かつ成膜ガスとして、ArガスのみまたはN
2ガス流量比率が種々のArとN
2の混合ガスを用いて成膜した例である。このうちNo.7は、Arガスのみで成膜した例であり、得られた膜は構造が金属のAl−7Cu膜である。そのため電気抵抗率は低いが、反射率が高く光吸収率が低かった。No.8〜12は、N
2ガス流量比率が種々のArとN
2の混合ガスを用いて成膜した例である。N
2ガス流量比率が増加するに伴い、膜中窒素量が増加する傾向にあり結晶子サイズも大きくなった。このうちNo.8〜10は、膜の構造がアモルファスであって、膜中窒素量が規定範囲内にあるため所望の光吸収率と電気抵抗率を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。またNo.11は、微結晶を含む膜であって結晶子サイズが140Å以下であり、かつ膜中窒素量が規定範囲内にあるため、所望の光吸収率と電気抵抗率を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。一方、No.12は、微結晶を含む膜であるが結晶子サイズが140Åを超えており、かつ膜中窒素量が58原子%を超えているため、透明絶縁体である一般的なAlNの特性に近づき、所望の光吸収性や導電性が得られなかった。
【0048】
No.13〜17は、Cu量の更に多いAl−12原子%Cuターゲットを用い、かつN
2ガス流量比率が種々のArとN
2の混合ガスを用いて成膜した例である。これらの結果から、N
2ガス流量比率が増加するに伴い、膜中窒素量が増加し、膜が微結晶を含むようになることがわかる。このうちNo.13は、窒素を含む膜であるが膜中窒素量が低く、XRD法による回折スペクトルの測定で金属由来のピークが検出され、金属であると同定した。このNo.13は、電気抵抗率は低いが、反射率が高く光吸収率が低かった。No.14〜16は、膜の構造がアモルファスであって、膜中窒素量が規定範囲内にあるため、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。一方、No.17は、膜中窒素量が58原子%を超え、かつ微結晶を含むが結晶子サイズが140Åを超えているため、透明絶縁体である一般的なAlNの特性に近づき、所望の光吸収性や導電性を得ることができなかった。
【0049】
No.18〜20は、Cu量のより更に多いAl−17原子%Cuターゲットを用い、かつN
2ガス流量比率が種々のArとN
2の混合ガスを用いて成膜した例である。これらの例においても、N
2ガス流量比率が増加するに伴い、膜中窒素量は増える傾向にあり、微結晶を含む膜となることがわかる。このうち、No.18とNo.19は、膜の構造がアモルファスであって、膜中窒素量が規定範囲内にあるため、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。No.20は、膜中窒素量が規定範囲内であって、微結晶を有しかつ結晶子サイズが140Å以下であるため、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。
【0050】
No.21〜25は、X元素がTiの例である。このうちNo.21〜23は、N
2ガス流量比率を33%に固定し、Ti含有量が1、2、9原子%の各ターゲットを用いて成膜した例である。No.21〜23の結果から、Ti含有量増加に伴い、膜中窒素量と結晶子サイズが減少していることが分かる。Tiを含有することで、膜への窒素の取り込みと結晶子成長が抑制されており、膜のTi含有量が2原子%以上で、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有することがわかる。またNo.24と25は、ターゲットのTi含有量をより高め、N
2ガス流量比率を変えて成膜した例である。これらの例でも、膜中窒素量は規定範囲内にあり、結晶子成長が抑制されてアモルファスとなり、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有することがわかる。
【0051】
No.26と27は、X元素がTaの例であり、ターゲットのTa含有量とN
2ガス流量比率を変えて成膜した例である。これらの例で得られた膜は、アモルファスであって、膜中窒素量が規定範囲内にあり、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。
【0052】
No.28と29は、X元素がNiの例であり、ターゲットのNi含有量とN
2ガス流量比率を変えて成膜した例である。これらの例で得られた膜は、アモルファスであって、膜中窒素量が規定範囲内にあり、所望の光吸収率と電気抵抗値を示し、光吸収導電膜として優れた特性を有する。
【0053】
また表1から次のことがわかる。まず、N
2ガス流量比率が33%で同じであってX元素有無の点で異なるNo.5と、No.11、16および21〜23とを比較する。本実施例においてN
2ガス流量比率を33%で一定としたとき、No.5の様にX元素を含まない場合は、透明絶縁体である一般的なAlNの特性に近づき、所望の光吸収性や導電性が得られなかった。しかしNo.11、16および21〜23の様にX元素であるCuやTiを含有することによって、膜中への窒素の取り込みおよび結晶子成長を抑制する効果が発揮され、規定する膜の窒素量や構造が得られやすいことが分かる。
【0054】
次に、N
2ガス流量比率が23%で同じであってX元素有無の点で異なるNo.4と、No.15、18、25、27および29とを比較する。本実施例においてN
2ガス流量比率を23%で一定としたとき、No.4の様にX元素を含まない場合は、透明絶縁体である一般的なAlNの特性に近づき、所望の光吸収性や導電性が得られなかった。しかしNo.15および18の様にX元素としてCuを含む場合、No.25の様にX元素としてTiを含む場合、およびNo.27および29の様にX元素としてTaやNiを含む場合には、膜中への窒素の取り込みおよび結晶子成長を抑制する効果が発揮され、規定する膜の窒素量や構造が得られやすいことが分かる。
【0055】
この様に本発明では、Cr等の環境毒性の高い元素を用いなくとも、光吸収導電膜として優れた特性を有する薄膜を実現できることがわかる。