(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
テンションロッドは細長い金属棒で、鉄骨構造やプレハブ構造の筋交いとして広く使用されている。このテンションロッドは、圧縮荷重に対しては何らの効力も発揮しないが、引張荷重には強力に抵抗する。そのため、木造建築の骨格内に二本のテンションロッドを「X」状に配置すると、外力が作用した際、いずれか一本には引張荷重が作用し、骨格の変形が抑制される。このテンションロッドを用いた建築技術の例として、後記特許文献が挙げられる。
【0003】
特許文献1では、倒壊時の粘り強さを増大させた木造建築物の耐震構造が開示されている。この耐震構造は、柱と横架材からなる格子状の骨格を補強するもので、隣接する二本の柱を結ぶ「つなぎ材」を配置したことを特徴とする。つなぎ材は、棒状の長尺金物の両端に当て金を一体化したもので、この当て金を柱の側面に接触させる。さらに当て金は、ボルトで柱に固定するほか、当て金と柱の間には、弾性シートを挟み込む。このように、つなぎ材を用いることで、柱の断面欠損を最小限に留めながら、二本の柱を強固に連結できるほか、長尺金物や弾性シートの変形により、倒壊時の粘り強さが増大する。加えて特許文献1では、テンションロッドを「X」状に二本配置することも開示されている。
【0004】
特許文献2では、住宅の屋根部分を支持するトラス構造が開示されている。このトラス構造は、軽量化や組み立て作業の簡素化を目的とするもので、登り梁・水平梁・登り梁束・斜材などで構成される。そのうち登り梁は、屋根の勾配に沿って斜方向に伸び、また水平梁は、左右の登り梁の下端部同士を結び、登り梁束は、登り梁と水平梁を垂直に結び、斜材は、登り梁と水平梁を斜方向に結ぶ。そして特許文献2では、個々の構成要素に作用する荷重を調査し、登り梁束と斜材の一部には、圧縮荷重が作用しないことに着目し、これらに丸鋼を切り出したブレース(テンションロッド)を用いている。ブレースは、鋼材に比べて軽量で、しかもトラス構造への取り付けや張力の調整も容易で、組み立て作業の簡素化も実現する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
公共施設や商業施設のほか、倉庫や畜産施設などは、広大な室内空間を確保する必要があるほか、建築コストの削減要求も厳しく、通常、その骨格には鋼材を用いる。しかし近年は、森林資源の有効活用や、塗装(サビ止め)作業の簡素化や、室内環境の改善などの観点から、このような建築物についても、木造化の要望がある。その場合でも、建築コストの削減は重要で、広大な室内空間を確保した上で、部材の使用量や施工時の手間を削減する必要がある。そのため、柱や梁などの部材同士をテンションロッドで引き寄せ、部材に圧縮荷重や曲げモーメントを作用させ、骨格の剛性を高めることが多い。
【0007】
このように、部材同士をテンションロッドで引き寄せる場合、仮にテンションロッドが脱落すると、部材の据え付けが不安定になり、建築物の破損を招く恐れがある。そのためテンションロッドは、部材と強固に取り付け、脱落を防ぐ必要がある。またテンションロッドを取り付ける部材には、他の部材などを接触させることも多い。したがって、テンションロッドの取り付けに用いる部品は、テンションロッドを引き出す方向を除き、部材からの突出を抑制することが望ましい。
【0008】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、木造建築の骨格となる部材にテンションロッドを取り付けるために用い、テンションロッドの脱落を防止できるほか、部材からの突出も抑制可能な接続具の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、木造建築の骨格となる各種部材にテンションロッドを取り付けるための接続具であって、前記部材の表面に載置する本体と、該部材の内部に埋め込む補強軸と、該本体から該部材に向けて差し込むネジ釘と、からなり、前記本体は、前記部材の表面に接触する基本板と、前記テンションロッドの端部に差し込む支点ピンを保持する突出板と、を一体化した形状で、前記補強軸は、前記部材と前記基本板との境界面に対し直交するように配置し、該補強軸を介し、該基本板が該部材に密着し、前記基本板には、前記ネジ釘を差し込むため
の案内孔を複数設けてあり、前記ネジ釘と前記テンションロッドとの交角を小さくするため、前記案内孔は、前記部材と前記基本板との境界面に対し斜方向に伸びており、前記部材の長手方向を基準として、前記補強軸は前記本体の中央寄りに配置してあり、前記案内孔は該補強軸を挟み込むようにその両外側に配置してあることを特徴とする前記テンションロッドの接続具である。
【0010】
本発明による接続具は、テンションロッドの端部を部材に取り付けるために用いられ、テンションロッドに作用する張力で部材を引き寄せ、部材の変位や変形を防ぐ役割を担う。なお接続具を取り付ける部材については、主に木造建築の骨格となるものを想定しているが、当然ながら他の用途でも構わない。ただし部材は、各種集成材を含む木材で、しかも接続具を取り付けるため、平滑に仕上げた表面を有するものとする。またテンションロッドは、部材の長手方向に対し、比較的小さい交角で引き出されることを前提とする。
【0011】
接続具は、本体と補強軸とネジ釘を中心に構成される。そして本体は、部材とテンションロッドの接続を担う金属部品で、部材の表面に接触する基本板と、部材から遠ざかる方向に伸びる突出板と、を溶接などで一体化したものである。突出板は、テンションロッドを実際に取り付ける役割を担い、その先端には、テンションロッドのクレビスを貫く支点ピンを差し込み、テンションロッドをあらゆる方向に引き出せるようにする。ただしテンションロッドの取り付け方法の詳細は、自在に決めて構わない。なお突出板は、二枚を平行に配置することもある。
【0012】
補強軸は、部材と基本板との境界面から部材の内部に埋め込む棒状の物で、この境界面に対し直交するように配置し、本体を部材に密着させる役割を担う。さらに補強軸を用いることで、部材の木目方向に沿ってヒビ割れが発生し、部材が引き裂かれることを防ぐ。そのため補強軸は、前記の境界面から部材の反対面に到達する程度の長さを確保する。しかもヒビ割れの発生を防ぐため、部材内の木質繊維を拘束する機能や、部材内に圧縮荷重を作用させる機能を持たせる。
【0013】
補強軸の具体例としては、ラグスクリューや長尺ボルトが挙げられる。ラグスクリューの側周面には、螺旋状に伸びる凸条を形成してあり、この凸条が部材の内部に食い込むことで、その付近の木質繊維が拘束され、ヒビ割れの発生を防ぐ。なおラグスクリューと本体を一体化するため、別途にボルト類も必要になる。また、補強具として長尺ボルトを用いる場合、部材を貫くように差し込み、部材の対向面を挟み込んで圧縮荷重を作用させ、ヒビ割れの発生を防ぐ。当然ながら長尺ボルトには、ナットやワッシャなどの付属品も必要になる。
【0014】
ネジ釘は、基本板から部材に向けて差し込み、本体を部材に固定する役割を担うほか、テンションロッドに作用する張力を部材に伝達する役割も担い、部材と基本板との境界面に対し、必ず斜方向に差し込む。本発明では、テンションロッドを部材から直角方向に引き出すのではなく、斜方向に引き出すことを前提としている。そのためネジ釘を斜方向に差し込み、テンションロッドとの交角をできるたけ小さくし、ネジ釘に作用するせん断荷重を抑制する。当然ながらネジ釘は、テンションロッドの引き出し方向(支点ピンから見た引き出し方向)に対し逆方向に差し込み、テンションロッドに作用する張力により、ネジ釘には引き抜き荷重が作用する。なおテンションロッドに作用する張力は、ネジ釘のほか、補強軸でも受け止められるため、部材内での応力集中が一段と抑制される。
【0015】
案内孔は、ネジ釘を差し込むため本体の基本板に形成するもので、部材と基本板との境界面に対し、斜方向に伸びている。そのため案内孔にネジ釘を差し込むと、その方向が拘束され、ネジ釘は、前記の境界面に対し斜方向に入り込んでいく。なお実際の施工では、ネジ釘の差し込みに先立ち、補強軸で本体を部材に固定し、ネジ釘の先端が無理なく部材の内部に入り込めるようにする。そのほか案内孔は、製造工程や、現地での作業性や、汎用性を考慮し、部材と基本板との境界面に対し、約45度の交角とすることが多い。
【0016】
ネジ釘は、テンションロッドに作用する張力を受け止める役割を担うため、一個の本体に対し、必ず複数本を差し込み、荷重を広範囲に分散させる。対して補強軸は、一個の本体に対し、一本だけも構わないが、基本板が大きい場合には、複数本とすることもある。ただしネジ釘と補強軸は、伸びる方向が異なるため、部材の内部でこれらが接触しないよう配慮する。そのほか、ネジ釘の頭部を安定して据え置くため、案内孔の入り口側には、座グリを形成する。
【0017】
このように、ネジ釘を差し込むための案内孔を斜方向に形成することで、テンションロッドとネジ釘がほぼ同じ方向に伸び、テンションロッドに作用する張力の大半は、ネジ釘の引き抜き方向に作用する。そのため、ネジ釘に作用するせん断荷重は抑制され、ネジ釘の屈曲や、ネジ釘で部材を引き裂くといった不具合を招くことがない。また補強軸を埋め込むことで、部材内でのヒビ割れの発生が抑制され、部材が木目に沿って引き裂かれることを防ぐ。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明のように、テンションロッドを取り付ける接続具を本体と補強軸とネジ釘で構成し、本体には、ネジ釘を差し込むための案内孔を設け、さらに案内孔は、部材との境界面に対し斜方向に形成することで、部材とテンションロッドとの交角が小さい場合でも、ネジ釘の差し込み方向と、テンションロッドの引き出し方向をほぼ等しく揃えることができる。
【0019】
そのため、テンションロッドに作用する張力がネジ釘に伝達すると、その大半は、ネジ釘を引き抜く方向に作用し、ネジ釘に作用するせん断荷重は抑制され、ネジ釘の屈曲によって部材が引き裂かれるといった不具合を防止できる。さらにネジ釘は、引き抜き方向の荷重に対しては、強固に対抗できるため、テンションロッドが部材から脱落することを防ぎ、建築物の安全性が確保される。また、ネジ釘の長さや本数を変えることで、強度の調整も自在である。
【0020】
補強軸は、部材の長手方向に対し直交方向に差し込むため、部材内の木質繊維が拘束され、木目方向に沿ってヒビ割れが発生し、部材が引き裂かれることを防ぐ。そのためネジ釘は、部材内で強固に保持され、部材から引き抜かれることがない。またネジ釘の差し込みに先立ち、補強軸を介し、本体を部材に固定することで、ネジ釘を案内孔に差し込む際、その先端が屈曲することなく部材の内部に入り込み、作業が円滑に進む。そのほか補強軸は、テンションロッドに作用する張力の一部を受け止めるため、部材内での応力集中が一段と抑制される。
【0021】
本体は、部材の各側面のうち、テンションロッドを引き出す方向の側面に取り付けるが、本体の形状を調整することで、他の側面には何らの部品も突出しない構成を実現できる。そのため、テンションロッドを引き出す方向の側面以外は、他の部材や板材などを無理なく接触させることができ、設計や施工時の柔軟性が高まる。また、テンションロッドを取り付けた部材同士を密着配置することも可能で、大断面の部材を用いることなく、木造建築の骨格の強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明による接続具の構成例を示す斜視図で、接続具を用い、登り梁の下斜面にテンションロッドを取り付ける場合を描いてある。
【
図2】
図1の各要素を組み上げた状態を示す斜視図で、接続具を介し、テンションロッドが登り梁に取り付けられている。
【
図3】
図2の縦断面図であるが、図上方は、案内孔の中心を通る縦断面で、図下方は、登り梁の中心を通る縦断面である。
【
図4】
図1の接続具を用い、木造建築の骨格を組み上げた状態を示す斜視図で、図上方は、二本の登り梁を合掌形状に組み上げた状態で、図下方は、これを柱に据え付けた状態である。
【
図5】接続具の形状例を示す斜視図で、案内孔を十箇所に形成し、固定孔を三箇所に形成してある。なお図下方のA−A断面図は、案内孔や固定孔の詳細を示す。
【
図6】
図5の接続具を横架材に取り付ける様子を示す斜視図である。
【
図7】補強軸としてコーチスクリューを用いた場合を示す斜視図で、図右下には、本体を登り梁に取り付けた状態を描いてある。
【
図8】補強軸として長尺ボルトを用いた場合を示す斜視図で、図右下には、本体を登り梁に取り付けた状態を描いてある。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明による接続具の構成例を示し、接続具を用い、登り梁51の下斜面にテンションロッド41を取り付ける場合を描いてある。登り梁51は、接続具が取り付けられる部材で、木造建築の屋根の骨格となり、屋根の勾配に沿って斜方向に配置され、その下端部を柱57の上端面に載せることで、架空に据え付けられる。また接続具は、本体11とネジ釘21と補強軸31で構成され、ネジ釘21と補強軸31を用い、本体11を登り梁51の下斜面に取り付ける。なおテンションロッド41は、登り梁51の下端部を引き寄せる役割を担い、水平方向に伸び、その端部にはクレビス42を固着してある。通常、登り梁51とテンションロッド41の交角は、45度以下となる。
【0024】
本体11は、平面状の基本板16と、三角状の突出板18を溶接で一体化した構造で、基本板16の一面を登り梁51の下斜面に接触させるが、その反対面には、二枚の突出板18を平行に配置してある。またネジ釘21は、基本板16から登り梁51に向けて差し込まれ、テンションロッド41に作用する張力を登り梁51に伝達する役割を担う。なお、ネジ釘21にせん断荷重が作用すると、ネジ釘21が登り梁51を引き裂き、ヒビ割れを促進する恐れがある。したがってネジ釘21は、テンションロッド41と方向を揃え、水平方向に差し込むことが望ましく、
図1の案内孔22は、本体11を登り梁51に取り付けた際、水平方向に伸びるように形成してあり、基本板16の表面に対しては、所定の交角を有する。
【0025】
図1の本体11は、計六本のネジ釘21で取り付けられるため、案内孔22も計六箇所に配置し、さらにネジ釘21の頭部を安定して据え置くため、個々の案内孔22の一端には、座グリ23、24を形成してある。なお計六箇所の座グリ23、24のうち、四箇所の座グリ23は、基本板16の表面(突出板18のある面)に設けてある。また残る二箇所の座グリ24は、基本板16の側面に設けてある。この側面については、座グリ24の形成作業を考慮し、傾斜面としてある。
【0026】
補強軸は、本体11を登り梁51に取り付ける役割のほか、登り梁51内部でのヒビ割れの発生を防ぐ役割と、テンションロッド41に作用する張力を受け止める役割も担い、
図1では補強軸としてラグスクリュー31を用いている。ラグスクリュー31は円柱状の金属棒で、その側周面には、螺旋状に伸びる凸条35を形成してあるほか、一端面には、工具を掛けるための頭部36と、固定ボルト38と螺合するメネジ37を形成してある。なお固定ボルト38は、本体11をラグスクリュー31に密着させるために用いる。そしてラグスクリュー31を埋め込むため、登り梁51の下斜面には軸穴53を加工してあるほか、基本板16には、固定ボルト38を差し込むため、固定孔25を形成してある。さらに固定孔25の一端には、固定ボルト38の頭部を埋め込むため、座グリ26を形成してある。
【0027】
図1では、補強軸となるラグスクリュー31を一本だけ用いているが、本体11の大きさによっては、複数本の補強軸を用いることもある。またネジ釘21と補強軸31は、登り梁51の内部で接触しないように配置する。なおネジ釘21は、登り梁51の下斜面に対する交角が小さく、差し込み時、その先端が半径方向に屈曲する恐れがある。そこで施工の際は、まずラグスクリュー31を登り梁51に埋め込み、さらに固定ボルト38で本体11を取り付けた後、ネジ釘21を差し込む。ネジ釘21は、案内孔22で保持されるため、その先端の屈曲が抑制され、無理なく差し込み作業を進めることができる。
【0028】
テンションロッド41の端部に固着するクレビス42は一山で、これを二枚の突出板18の間に挟み込み、さらに突出板18の側孔19とクレビス42の中孔44を貫くように支点ピン28を差し込むと、テンションロッド41が本体11に取り付けられる。なおクレビス42は、テンションロッド41に対して回動可能で、テンションロッド41の引き出し方向は自在に調整可能である。また支点ピン28の抜け止めのため、その両端にはクリップ29を組み込む。
【0029】
登り梁51の下端部は、柱57の上端面に載せるが、双方を一体化するためシャフト54とドリフトピン55を用いる。柱57と登り梁51との境界面を貫くようにシャフト54を埋め込み、さらに柱57および登り梁51の側面からシャフト54に向けてドリフトピン55を打ち込むと、シャフト54を介して柱57と登り梁51が一体化する。なおシャフト54やドリフトピン55を差し込むため、柱57や登り梁51には事前に穴加工を行うが、緩みが生じない程度の精度が必要である。
【0030】
図2は、
図1の各要素を組み上げた状態を示し、接続具を介し、テンションロッド41が登り梁51に取り付けられている。登り梁51の内部には、ネジ釘21とラグスクリュー31が入り込んでおり、そのうちラグスクリュー31は、登り梁51の下斜面に対して直交方向に配置してあり、本体11を登り梁51に取り付ける役割を担う。またラグスクリュー31の凸条35が登り梁51の内部に食い込むことで、木質繊維を拘束し、この付近でのヒビ割れの発生を防ぎ、登り梁51が木目に沿って引き裂かれることもない。
【0031】
ネジ釘21は、基本板16から登り梁51に向けて水平方向に差し込み、対するテンションロッド41は、支点ピン28から水平方向に引き出され、双方は平行に揃う。そのため、テンションロッド41に作用する張力は、ネジ釘21の引き抜き方向にだけ作用する。ネジ釘21は構造上、引き抜き方向の荷重に対して強固に対抗するため、テンションロッド41の脱落を防ぐ。そのほか、柱57と登り梁51との境界面を貫くようにシャフト54を埋め込み、さらにシャフト54に向けてドリフトピン55を打ち込み、柱57と登り梁51を一体化している。
【0032】
図3は、
図2の縦断面を示すが、図上方は、案内孔22の中心を通る縦断面で、図下方は、登り梁51の中心を通る縦断面である。ネジ釘21は、図の左側に向けて差し込まれ、水平方向に伸びているが、テンションロッド41は、支点ピン28から図の右側に向けて引き出され、水平方向に伸びている。このように、ネジ釘21とテンションロッド41は、背中合わせに配置することで、テンションロッド41に作用する張力は、ネジ釘21の引き抜き方向だけに作用する。なお、ネジ釘21とテンションロッド41が平行に揃わない場合でも、その交角が180度に近いならば、ネジ釘21に作用するせん断荷重は抑制され、強度上の問題は生じない。当然ながら案内孔22の方向は、テンションロッド41の引き出し方向を考慮して決める。
【0033】
ネジ釘21の頭部は、基本板16に形成した座グリ23、24に入り込み、安定して据え置かれる。なお図の一番上に位置する座グリ24は、基本板16の側面に位置するが、その下の座グリ23は、基本板16の表面に位置し、必然的に一番上とその下では断面形状が異なる。そしてネジ釘21は、施工性などに問題のない範囲で長尺化し、引き抜き耐力を向上させることが望ましい。
【0034】
ラグスクリュー31は、登り梁51と基本板16との境界面に対し直交方向に埋め込んであり、ラグスクリュー31のメネジ37に固定ボルト38を螺合させることで、本体11が登り梁51に取り付けられる。そして固定ボルト38の軸部を差し込むため、基本板16には固定孔25を形成してあり、さらに固定ボルト38の頭部を収容するため、座グリ26も形成してある。なおラグスクリュー31は、あえて延長を増大し、その先端は、登り梁51の上斜面に接近している。またラグスクリュー31の凸条35は、全域が登り梁51の内部に食い込んでいる。そのため、付近の木質繊維が拘束され、ヒビ割れの発生を抑制できる。そのほかラグスクリュー31は、複数本の使用が好ましいが、ここではネジ釘21などとの兼ね合いから、一本だけとしてある。
【0035】
図4は、
図1の接続具を用い、木造建築の骨格を組み上げた状態を示す。この骨格は、屋根を構成する登り梁51を柱57で支えたもので、二本の登り梁51を合掌形状(中央が凸)に組み上げ、双方の下端部をテンションロッド41で引き寄せ、所定の傾斜を維持できるようにしている。
図4上方には、合掌形状に組み上げた登り梁51を描いてあり、個々の登り梁51の下端部に本体11を取り付けてある。さらに、左右の本体11から伸びるテンションロッド41は、中央のターンバックル48で接続してある。そしてターンバックル48を回転させ、テンションロッド41に張力を与えると、登り梁51の下端部同士が引き寄せられる。
【0036】
図4上方に描く二本の登り梁51は、単独でも高い剛性を有し、その頂上に下向きの荷重が作用した際も、テンションロッド41がこれに対抗し、登り梁51の倒伏を防ぐ。したがって施工時は、その両端を支えるだけで簡単に架空に据え付けることができる。なお現地での作業を簡素化するため、登り梁51の下端部には、あらかじめシャフト54を組み込んでおくことが望ましい。そのほか、組み上がった二本の登り梁51の頂上部は、各種従来技術で双方を連結する。
【0037】
図4下方に描く木造建築の骨格は、柱57の上端面に登り梁51を据え付けた構成で、施工時は、まず柱57を所定の位置に直立させ、次に組み上がった登り梁51を吊り上げ、その下端部から突出するシャフト54を柱57に差し込み、さらにドリフトピン55を打ち込むと、登り梁51の据え付けが完了する。なお登り梁51は、同一形状の二組を密着配置しており、二列のテンションロッド41が接近して並ぶ。これに対応し、柱57は奥行き方向に長い矩形断面としてある。そのほか、奥行き方向に隣接する柱57や登り梁51は、桁材60や棟木61で連結する。
【0038】
図4の接続具は、本体11などの各種部品が登り梁51の側面から突出しない。そのため、二組の登り梁51の側面同士を密着させ、大断面化することも容易である。このように本発明は、荷重条件が厳しい場合でも、汎用的な木材をだけを用い、必要な強度を確保できる。なお大断面の木材は、集成材であっても個別に発注するため、コストが増加しやすく、また輸送などの取り扱いにも課題がある。
【0039】
図5は、接続具の形状例を示す。この図の本体12は、強度を確保するため案内孔22を計十箇所に形成してあるほか、補強軸として三本のラグスクリュー31を用いる。そのため基本板16の横幅を広げ、その外寄りには計六箇所の案内孔22を配置し、内寄りには計四箇所の案内孔22を配置し、さらに基本板16の中心には、一枚の突出板18を取り付けてある。また、ラグスクリュー31に螺合する固定ボルト38を差し込むため、基本板16の表面の計三箇所には、固定孔25を形成してある。固定孔25は、ラグスクリュー31とネジ釘21が接触しないように配置してある。なお、案内孔22や固定孔25の一端に座グリ23、26を形成する点は、先の
図1などと同じで、その詳細は
図5下方のA−A断面図に描いてある。
【0040】
図6は、
図5の接続具を横架材52に取り付ける様子を示している。横架材52は、接続具が取り付けられる部材で、水平方向に伸び、またテンションロッド41は、横架材52に対し小さい交角で斜め上方向に引き出す。そして横架材52上面の三箇所には、軸穴53を加工し、そこにラグスクリュー31を埋め込む。次に、本体12を横架材52の上面に載せ、本体12の固定孔25からラグスクリュー31のメネジ37に向けて固定ボルト38を差し込むと、本体12が横架材52に取り付けられる。その後、座グリ23にネジ釘21を差し込むが、案内孔22によってネジ釘21の先端が拘束され、屈曲することなく横架材52の内部に入り込んでいく。以降、突出板18にテンションロッド41を取り付けるが、突出板18は一枚のため、クレビス43を二山としてある。なお
図6のテンションロッド41は、クレビス43と分離しており、双方をネジで一体化する構造で、緩みを防ぐためロックナット45を併用する。
【0041】
図7は、補強軸としてコーチスクリュー32を用いた場合を示す。この図の本体13は、基本板16の中央付近に二枚の突出板18を配置し、さらに、基本板16の左右両側の計六箇所に案内孔22を形成してある。なお案内孔22の入り口側には、座グリ23、24を形成するが、四箇所の座グリ23は、本体13の表面に配置し、残る二箇所の座グリ24は、本体13の側面に配置する。またコーチスクリュー32は、汎用のネジ釘を大形化した形状で、その一端に頭部36を形成してあるほか、側周面を凸条35が取り囲んでいる。そしてコーチスクリュー32を差し込むため、基本板16の前後二箇所には、固定孔25を形成してある。この固定孔25は、同一横断面で表裏面を貫く。
【0042】
図7の右下には、本体13を登り梁51に取り付けた状態を描いてある。施工時は、まず二本のコーチスクリュー32で本体13を登り梁51に密着させ、次に計六本のネジ釘21を差し込み、最後に支点ピン28を用い、テンションロッド41を取り付ける。なおコーチスクリュー32は、その先端が登り梁51の上斜面に接近するような長さとし、凸条35が食い込む範囲をできるだけ長くする。これにより、登り梁51内部でのヒビ割れの発生が抑制される。そのほか登り梁51の下端部は、柱57の上端面に載置され、シャフト54とドリフトピン55で双方を一体化する。
【0043】
図8は、補強軸として長尺ボルト33を用いた場合を示す。この図の本体14は、先の
図7に描いた物と同一形状だが、長尺ボルト33に対応し、固定孔25の内径を小さくしてある。そして長尺ボルト33は、基本板16と登り梁51の両方を貫く長さで、基本板16から登り梁51に向けて差し込む。したがって長尺ボルト33の実際の長さは、都度異なる。さらに長尺ボルト33を差し込むため、登り梁51には、あらかじめ貫通孔59を加工しておく。また長尺ボルト33の先部は、貫通孔59から突出させ、そこにワッシャ64を組み込み、ナット63を螺合させる。なお、登り梁51の上斜面からの突出物をなくすため、ワッシャ64とナット63は、登り梁51に加工した丸溝58の中に配置するほか、ワッシャ64はできるだけ大径化する。
【0044】
図8の右下には、本体14を登り梁51に取り付けた状態を描いてある。施工時は、まず二本の長尺ボルト33を基本板16から登り梁51に向けて差し込み、長尺ボルト33の先部にワッシャ64を組み込み、さらにナット63を螺合させて締め付けると、本体14が登り梁51に密着する。次に計六本のネジ釘21を差し込み、最後に支点ピン28を用い、テンションロッド41を取り付ける。長尺ボルト33を用いることで、基本板16とワッシャ64が引き寄せられ、登り梁51の内部に圧縮荷重が発生する。そのためヒビ割れの発生が抑制される。そのほか登り梁51の下端部は、柱57の上端面に載置され、シャフト54とドリフトピン55で双方を一体化する。