(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に開示された燃料遮断弁の構造では、液体燃料を一時的に堰き止めるための滞留室が、キャニスタに連通接続する管体部と同軸方向に配置されている。このため、特許文献1では、滞留室内に一時的に堰き止められた液体燃料が、管体部を介してキャニスタ側に流出する蓋然性がある。
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、燃料の気液分離機能を向上させて、液体燃料のキャニスタ側への流出を抑制することが可能な燃料遮断弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明は、燃料タンク内とキャニスタとを連通させるベーパ通路をフロートの変位によって開閉することで、前記燃料タンク内と前記キャニスタとの連通を遮断する弁体と、前記弁体の上部に配置された上部空間部と、前記上部空間部に連通する管路を有し、燃料ガスを前記キャニスタへ導入する管体と、前記管体を有する蓋体部と、前記上部空間部内に形成され、前記上部空間部に溜まっている液体燃料を堰き止める燃料遮蔽板によって形成された滞留室と、を備えた燃料遮断弁であって、前記管体と前記燃料遮蔽板との間に配置され、前記滞留室から流出した液体燃料を溜める液溜まり部と、前記滞留室と前記液溜まり部とを連通させる一対の連通部と、をさらに有し、前記燃料遮蔽板は、前記管体の軸方向からみて、前記管体と重畳する位置に配置され、前記連通部は、前記管体の軸方向からみて、前記管体と非重畳位置に配置され、前記一対の連通部は、前記管体側を前方とした場合、前記液溜まり部から前記蓋体部の内周面に沿った後方位置に対向して設けられ
、前記各連通部の高さは、鉛直上下方向に沿った高さ方向において、前記管体の前記管路の底壁よりも低い位置にあると共に、前記液溜まり部の窪み底壁よりも高い位置にあることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、液溜まり部と滞留室とを連通させる連通部により、液溜まり部に溜まった液体燃料を、滞留室を経由しながら弁体側へ容易に戻すことができる。これにより、本発明では、液体燃料を堰き止める燃料遮蔽板によって形成された滞留室を備える構造であっても、燃料の気液分離機能を向上させて、液体燃料のキャニスタ側への流出を抑制することができる。
【0009】
また、本発明によれば、連通部は、管体の軸方向からみて、管体の軸方向からオフセット(偏位)した非重畳位置に配置されている。これにより、本発明では、キャニスタに連通接続する管体と滞留室とが同軸方向に配置されている従来技術と比較して、液体燃料のキャニスタ側への流出をより一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、燃料の気液分離機能を向上させて、液体燃料のキャニスタ側への流出を抑制することが可能な燃料遮断弁を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る燃料遮断弁が組み込まれた蒸発燃料処理システムの概略構成図、
図2は、本発明の実施形態に係る燃料遮断弁の斜視図、
図3は、
図2に示す燃料遮断弁の軸方向に沿った一部省略断面図である。
【0014】
図1に示されるように、蒸発燃料処理システム10は、燃料タンク12の上部に装着される燃料遮断弁14を備えて構成されている。燃料遮断弁14は、燃料タンク12内と外部のキャニスタ16とを連通させるベーパ通路18を開閉することで、燃料タンク12とキャニスタ16との連通を遮断するものである。
【0015】
なお、
図1中において、参照符号20は、燃料タンク12内の燃料を図示しない内燃機関に送るポンプ、参照符号22は、燃料タンク12内の圧力(タンク内圧)を検出する圧力センサ、参照符号24a、24bは、燃料タンク12と図示しないフューエルリッドとの間に設けられるフィラーパイプ、及び、ブリーザパイプ(又はベーパリターンパイプ)をそれぞれ示している。なお、燃料タンク12は、燃料タンク12とキャニスタ16との間に配置された図示しない密閉弁等により、大気と遮断された密閉タンクシステムを構成している。
【0016】
図2に示されるように、燃料遮断弁14は、第1ポート30を有する管体32を含む蓋体部34と、第2ポート36を有する本体部38とが一体的に組み付けられて構成されている。第1ポート30は、燃料タンク12から外部に露出し、ベーパ通路18(
図1参照)に接続されている。第2ポート36は、本体部38の底面で燃料タンク12内に臨むように設けられている。
【0017】
図3に示されるように、蓋体部34は、蓋本体40と、蓋本体40から外方へ突出した管体32と、蓋本体40の外周面を囲繞し、半径外方向に向かって突出する円板状の環状フランジ42とを備えている。蓋体部34と本体部38の後記する上部壁44との間で上部空間部46が形成されている。管体32内には、上部空間部46に連通する管路48が形成されている。
【0018】
図4は、
図2に示す燃料遮断弁の一部切欠斜視図、
図5は、拡大一部断面斜視図である。
図4に示されるように、本体部38の上方には、本体部38側の天井壁である上部壁44が形成されている。上壁部44の中心には、平面視して略円形状で上下方向に貫通する接続孔50が形成されている。また、上部壁44の上面には、上方に向かって突出する第1液遮蔽部52が設けられている。
【0019】
図4に示されるように、この第1液遮蔽部52は、管体32側(延びる側)を前方とした場合、管体32と接続孔50との間に位置する前側遮蔽片52aと、接続孔50よりも後方に位置する後側遮蔽片52bとから構成されている。前側遮蔽片52aは、小径な円弧部54と、管体32側に向かって突出する山形部56とが一体的に結合されている。後側遮蔽片52bは、蓋体部34の内壁と平行な大径円弧部58と、接続孔50に向かって突出する突起部60とが一体的に結合されている。
【0020】
蓋体部34の内側の天井面には、第1液遮蔽部52と反対に、本体部38の上部壁44に向かって突出する(垂れ下がる)第2液遮蔽部62が設けられている(
図3参照)。第2液遮蔽部62は、管体32側を前方とした場合、前側遮蔽片52aと接続孔50との間に位置する前側垂れ下がり片62aと、接続孔50と突起部60との間に位置する後側垂れ下がり片62bとから構成されている(
図4参照)。本体部38側の第1液遮蔽部52と、蓋体部34側の第2液遮蔽部62とによって、上部空間部46内に溜まっている液体燃料を一時的に堰き止める滞留室64が形成されている。
【0021】
上部壁44の中心に形成される接続孔50は、上部空間部46(滞留室64)と弁機構66とを連通させるものである。上部壁44の上面には、複数の仕切片68が上方に向かって突出して形成されている。各仕切片68は、接続孔50の略中心から放射状に配置され、且つ、略直線状に延在するように形成されている。
【0022】
また、上部壁44の接続孔50から大径円弧部58まで連続する外径面は、平面視して環状傾斜面部70で形成されている。この環状傾斜面部70は、外径側の大径円弧部58から内径側の接続孔50に向かって緩やかに立ち下がる傾斜面ですり鉢状に形成されている。接続孔50の下部には、後記する
図7に示されるように、弁体72のシート部材73が着座する着座部74が形成されている。
【0023】
図3、
図5に示されるように、管体32と前側遮蔽片52aとの間には、滞留室64から流出した液体燃料を貯留する液溜まり部76が形成されている。この液溜まり部76は、管路32の入口から下方に向かって立ち下がる蓋体部34の内壁34aと本体部38の上部壁44との間の窪みによって形成されている。
【0024】
図6は、燃料遮断弁の管体と連通路との位置関係を示す断面図である。なお、
図6では、弁機構66の図示を省略している。
管体32側(
図6では紙面の手前側)を前方とした場合、この液溜まり部76(
図4参照)から蓋体部34の内周面に沿った後方位置には、一対の連通部78、78が対向して形成されている(
図4、
図6参照)。一対の連通部78、78は、滞留室64と液溜まり部76とを連通させるものである。液溜まり部76に溜まった液体燃料は、連通部78及び接続孔50を介して容易に弁機構66側に戻される。一対の連通部78、78は、管体32の軸方向から見て、管体32からオフセットした非重畳位置に配置されている(
図6参照)。各連通部78には、後側遮蔽片52bの大径円弧部58の下部と環状傾斜面部70とを接続する段差部80(
図4、
図5参照)も含まれる。
【0025】
鉛直上下方向に沿った高さ関係において、各連通部78の高さは、管体32の管路48の底壁48aよりも低い位置にあると共に、液溜まり部76の窪み底壁76a(
図5参照)よりも高い位置にある。
【0026】
図7は、燃料遮断弁を構成する弁機構の分解断面図である。
本体部38内には、弁体72を含む弁機構66が収容されている。
図7に示されるように、弁機構66は、フロート82と、フロート82の上部に配置された弁体72とを備えている。フロート82は、外径側の第1フロート部84と、内径側の第2フロート部86とを備え、これらが一体的に組み付けられて構成されている。第1フロート部84の内部には、第2フロート部86を収納するための収納孔が形成されている。
【0027】
第1フロート部84の上部には、弁支持部88が突設されている。弁支持部88は円柱状の突起である支持突部90を有する。弁支持部88の外周には、弁体72を抜け止めするための環状突起部92が形成されている。フロート82の下方には、フロート82を支持する図示しないばね部材が配置されている。
【0028】
弁体72は、第1弁部94と第2弁部96とから構成されている。第1弁部94は、第1弁本体95と、第1弁本体95に取り付けられるシート部材73とを備えている。第2弁部96は、有底円筒形状からなる第2弁本体98を有する。
【0029】
本実施形態に係る燃料遮断弁14が組み込まれた蒸発燃料処理システム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその動作並びに作用効果について説明する。
【0030】
次に、燃料遮断弁14の動作について説明する。
給油により、フィラーパイプ24aを介して燃料タンク12内に燃料が供給される。燃料タンク12内の燃料液面が上昇するにしたがって、燃料タンク12の上部に溜まっていた蒸発燃料は、第2ポート36、接続孔50、上部空間部46、管路48、及び、ベーパ通路18を介して、キャニスタ16側に導出される。さらに、燃料タンク12内の燃料液面が上昇するにつれてフロート82の浮力及び図示しないばね部材のばね力による上方への押圧力が、弁機構66の自重による下方への押圧力に打ち勝つことによって、フロート82が上昇する。
【0031】
この結果、フロート82と一体的に弁体72が上方に向かって変位し、シート部材73が着座部74に着座することにより接続孔50が閉塞される。これにより、燃料タンク12への給油等のときに、燃料タンク12内の蒸発燃料をキャニスタ側に逃がすことができると共に、燃料が燃料タンク12外へ流出することを防止することができる。
【0032】
図8は、本件出願人が案出した比較例に係る燃料遮断弁の一部切欠斜視図である。
この比較例では、特許文献1に開示された滞留室64の構造が採用されている。比較例において、管体32が蓋体部34の上方に位置して点は、本実施形態と共通している。なお、比較例において、本実施形態と同一の構成要素には、同一の参照符号を付している。
【0033】
図8に示されるように、比較例に係る燃料遮断弁100では、本体部38側に設けられた第1液遮蔽部52と、蓋体部34側に設けられた第2液遮蔽部62とによって滞留室64が形成されている。第1液遮蔽部52は、円弧部102と、円弧部102に連続する通路側仕切壁104と、通路側仕切壁104に連続する外周側仕切壁106とによって構成されている。管体32と第1液遮蔽部52との間には、下方側に向かって窪む段差部108が形成されている。
【0034】
鉛直上下方向に沿った高さ寸法において、段差部108は、管体32の管路48の底壁48aよりも低くなって段差を形成している。また、段差部108の前方に位置する管体32の管路48の底壁48aよりも、段差部108の後方に位置する第1液遮蔽部52の円弧部102及び通路側仕切壁104の高さ寸法が高くなっている。
【0035】
例えば、密閉タンクシステムにおいて、追加給油等によって燃料タンク12内に満タン以上の燃料が給油された後の密閉状態(例えば、105パーセント給油時)のとき、ペーパ通路18側の圧力(低圧)と燃料タンク12内の圧力(高圧)との間には、差圧が生じる。この差圧によって、燃料遮断弁100が弁開状態のときに燃料遮断弁100内の燃料液面が上昇する。この燃料液面の上昇によりフロート82が作動するより先に接続孔50を経由して液体燃料が滞留室64側に流入する。換言すると、発生した差圧のみによって液体燃料が滞留室64側に吸い出される。滞留室64側に流入した液体燃料の一部は、第1液遮蔽部52を越えて段差部108に流入し、段差部108に液溜まりが発生する。なお、発生した差圧とフロート82とが互いに連動して、液体燃料が滞留室64側に吸い出される場合も含まれる。
【0036】
比較例では、この段差部108に溜められた液体燃料が、管体32の管路48を通じてキャニスタ16側に流入するおそれがある。すなわち、段差部108内に溜められた液体燃料は、第1液遮蔽部52の円弧部102及び通路側仕切壁104を乗り越えて弁体72側へ戻ることが困難であり、第1液遮蔽部52よりも高さが低い管体32の管路48を経由してキャニスタ16側へ容易に流出するおそれがある。
【0037】
これに対して、本実施形態では、液溜まり部76の後方位置に、比較例の第1液遮蔽部52の円弧部102及び通路側仕切壁104のような障害壁が何ら設けられておらず(
図4と
図8とを比較参照)、液溜まり部に溜められた液体燃料を、高さ方向において管体32の管路48の底壁48aよりも低くなっている連通部78を通じて接続孔50から弁体72側へ戻すことができる。
【0038】
このように、本実施形態では、液溜まり部76と滞留室64とを連通させる連通部78により、液溜まり部76に溜まった液体燃料を、滞留室64、接続孔50を経由しながら弁体72側へ容易に戻すことができる。これにより、本実施形態では、液体燃料を堰き止める第1液遮蔽部52及び第2液遮蔽部62によって形成された滞留室64を備える構造であっても、燃料の気液分離機能を向上させて、液体燃料のキャニスタ16側への流出を抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態では、一対の連通部78、78は、管体32の軸方向からみて、管体32の軸方向からオフセット(偏位)した非重畳位置に配置されている(
図6参照)。これにより、本実施形態では、キャニスタ16に連通接続する管体32と滞留室64とが同軸方向に配置されている従来技術と比較して、液体燃料のキャニスタ16側への流出をより一層抑制することができる。
【0040】
さらに、本実施形態では、燃料タンク12内に発生した差圧によって液体燃料が滞留室64側に吸引され易い密閉タンクシステムに燃料遮断弁14を適用することで、連通部78によって液溜まり部76に溜まった液体燃料を、滞留室64を経由しながら弁体72(
図7参照)側へ容易に戻すことができる。
【0041】
さらにまた、本実施形態では、鉛直上下方向に沿った高さ方向において、各連通部78の高さは、管体32の管路48の底壁48aよりも低い位置にあると共に、液溜まり部76の窪み底壁76aよりも高い位置とすることで、液溜まり部76から弁体72側への液体燃料の戻し作用を容易に遂行することができる。