【実施例】
【0027】
表1に示す組成の銅合金を真空雰囲気中で溶解・鋳造し、それぞれ厚さ60mm、幅200mm、長さ80mmの鋳塊を作製した。表1のNo.1(無酸素銅)では、不可避不純物であるHは0.6ppm、Oは7ppm、S、Pb、Bi、Sb、Se、Asは合計で6ppmであった。No.1以外の銅合金では、不可避不純物であるHは1ppm未満、Oは15ppm未満、S、Pb、Bi、Sb、Se、Asは合計で15ppm未満であった。
【0028】
【表1】
【0029】
各鋳塊に対し900℃で1時間の均熱処理を行い、続いて熱間圧延を行って板厚20mmの熱間圧延材(幅200mm)とし、650℃以上の温度から水冷し、水冷後の熱間圧延材の両面を1mmずつ面削した(厚さ18mm)。面削後の材料を、厚さ14.7mmまで冷間圧延した。冷間圧延材(厚さ14.7mm)の一部を取り置き、これを供試材として、下記要領で拡散接合性の測定を行った。
【0030】
冷間圧延材(厚さ14.7mm)の残部に対し、さらに冷間圧延を行って板厚0.4mmとし、続いて400℃×2時間の熱処理を行い、さらに板厚0.3mmまで冷間圧延を行った(加工率:25%)。その後硝石炉により250℃で15秒間(No.1)又は300℃で20秒間(No.2〜27)の熱処理を行い、放熱部品用銅板(No.1)及び銅合金板(No.2〜27)を製造した。この銅板及び銅合金板を供試材として、下記要領でろう付け性及び機械的特性の測定を行った。
また、前記銅板及び銅合金板(板厚0.3mm)を、850℃で30分間加熱後水冷し、これを供試材として、下記要領で導電率及び機械的特性の測定を行った。
各測定結果を表2に示す。
【0031】
[拡散接合性]
拡散接合性の指標として、拡散接合強度の素材強度比(拡散接合強度を素材強度で除したもの)を求めた。拡散接合強度、素材強度、及び拡散接合強度の素材強度比は以下の手順で求めた。
(拡散接合強度)
(1)No.1〜25の各供試材から14.7mm×70mm×30mmのブロックを切出し、400℃×2時間の熱処理を行った後、板厚11mmまで冷間圧延を行った(加工率25%)。なお、この熱処理条件及び最終冷間圧延の加工率は、板厚0.3mmに冷間圧延した供試材(放熱部品用銅板及び銅合金板)の熱処理条件及び最終冷間圧延の加工率と同じである。
(2)各ブロックから、直径10mm、長さ30mmの円柱形の試験片を6個ずつ作製した。この試験片の長手方向は圧延方向に平行である。
(3)各試験片の一方の端面(直径10mmの面)をエメリー紙で研磨した後、バフ研磨し、前記端面の表面粗さを、概ね、最大高さRz:0.8μm、算術平均粗さRa:0.06μmとなるように調整した。
(4)拡散接合試験装置は、チャンバー内の真空引き、ガス置換、昇温、端面を突き合わせた試験片同士の加圧、及び加圧状態の保持が可能な試験装置である。装置内に研磨した端面同士を対向させた試験片(2個で1組)を入れ、装置内を真空排気する。
(5)真空度が2×10
−2Paに到達後、平均昇温速度100℃/minで昇温し、試験片温度が850℃に到達後、端面同士を圧力4MPaで突合せ、30分保持する。次いで装置内にN
2ガスを導入し、加圧したままで200℃まで冷却した(平均冷却速度約20℃/分)。200℃に到達後、装置から拡散接合された試験片(接合試験片)を取り出した。
(6)接合試験片は、各供試材ごとに3個ずつ作製した。各接合試験片から全長60mm、平行部直径6mm、平行部長さ30mm、つかみ部直径10mm、つかみ部長さ各10mmの引張試験片を作製した。この引張り試験片に対して室温で引張試験を行い、引張強さを測定し、3個の接合試験片の引張強さの最小値を拡散接合強度とした。
【0032】
(素材強度)
(1)No.1〜25の各供試材から、14.7mm×40mm×60mmのブロックを切出し、400℃×2時間の熱処理を行った後、板厚11mmまで冷間圧延を行った(加工率25%)。この熱処理条件及び最終冷間圧延の加工率は、板厚0.3mmに冷間圧延した供試材(放熱部品用銅板及び銅合金板)の熱処理条件及び最終冷間圧延の加工率と同じである。
(2)各ブロックから、全長60mm、平行部直径6mm、平行部長さ30mm、つかみ部直径10mm、つかみ部長さ各10mmの引張試験片を3個ずつ作製した。引張試験片の長手方向は圧延方向に平行である。
(3)各引張試験片を、熱処理装置内に入れ、真空度下(2×10
−2Pa)で、平均昇温速度100℃/minで昇温し、試験片温度が850℃に到達後、30分保持した。次いで装置内にN
2ガスを導入して200℃まで冷却し(平均冷却速度約20℃/分)、200℃に到達後、装置から引張試験片を取出した。この熱処理条件は、拡散接合強度の測定で行った拡散接合時の加熱冷却条件と、加圧力を加えない点を除いて同じである。
(4)各試験片を用い、JISZ2241の規定に準拠し、室温にて引張試験を行った。その結果得られた引張強さ(3個の平均値)を、それぞれの素材強度とした。
【0033】
(拡散接合強度の素材強度比)
両試験結果から、拡散接合強度の素材強度比(拡散接合強度を素材強度で除したもの)を求めた。この値を放熱部品用銅板及び銅合金板の拡散接合強度の素材強度比とみなし、この値が0.95以上を合格とした。
引張り試験後の破面をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察すると、合格材においては、全面がディンプルに覆われ、典型的な延性破面を呈している。これは、突き合わせた試験材の端面同士が拡散接合により一体化したことを示している。一方、不合格材の破面においては、ディンプルの面積比が少なく、拡散接合による一体化が十分発生しなかったことを示している。また、不合格材の場合、拡散接合試験後、拡散接合装置内部を装置外から観察できるように設けた石英ガラスの窓の内面側に、半透明の付着物が見られた。この付着物をEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)により分析したところ、試験片の材料に含まれるZn、Mgが検出された。これらの事実から、不合格材においては、拡散接合時の高温加熱により試験片の表面よりZn、Mgが蒸発し、蒸発の圧力により直接的に、又は蒸発した元素が試験材の接合端面に酸化物となって付着し、端面における拡散接合が妨げられたものと推側される。
【0034】
[ろう付け性]
ろう付け性は、ろうの濡れ広がり試験で測定した。
供試材を酸洗して酸化膜を除去した後、各冷間圧延材から、正方形(50mm×50mm)の試験片を切り取り、#2000エメリー紙研磨、及びバフ研磨して表面粗さRa:0.07μmに調整し、さらに溶剤脱脂及び電解脱脂を行った。ろう材は、直径2mmのBCuP−2(Cu−7質量%P)を用い、これを質量0.38gの長さ(長さ15mm相当)に切り出して使用した。試験片上にろう材を載せて真空炉に入れ、室温において圧力10
−3Paの真空雰囲気にした後、この真空雰囲気を保って840℃に加熱した(平均昇温速度100℃/分)。試験片の温度が840℃に到達後30秒間保持し、次いで室温まで冷却し(200℃までの平均降温速度20℃/分)、試験片を炉から取出した。試験片上のろうをCCDカメラVHX−600(株式会社キーエンス製)により観察し、同カメラに内蔵されている画像解析装置により、ろうの広がった部分とそれ以外の部分を2値化して識別し、ろうの濡れ広がり面積を求めた。濡れ広がり面積が5cm
2以上のものを合格とした。
不合格材においては、拡散接合試験と同様に、高温加熱により試験材の表面よりZn、Mgが蒸発し、蒸発の圧力により直接的に、又は蒸発した元素が試験片の表面に酸化物となって付着することにより、ろうの濡れ広がりが妨げられたものと推側される。
【0035】
[機械的特性]
供試材から、長手方向が圧延平行方向となるようにJIS5号引張り試験片を切り出し、JIS−Z2241に準拠して引張り試験を実施して、耐力及び伸びを測定した。耐力は永久伸び0.2%に相当する引張強さである。
[曲げ加工性]
曲げ加工性の測定は、伸銅協会標準JBMA−T307に規定されるW曲げ試験方法に従い実施した。各供試材から幅10mm、長さ30mmの試験片を切り出し、R/t=0.5となる冶具を用いて、G.W.(Good Way(曲げ軸が圧延方向に垂直))の曲げを行った。次いで、曲げ部における割れの有無を100倍の光学顕微鏡により目視観察し、割れの発生がないものを○(合格)と評価した。
[導電率]
導電率の測定は,JIS−H0505に規定されている非鉄金属材料導電率測定法に準拠し,ダブルブリッジを用いた四端子法で行った。
【0036】
【表2】
【0037】
表1,2に示すように、無酸素銅からなるNo.1(従来材)は、拡散接合強度の素材強度比が高く、ろう濡れ広がり面積が大きく、拡散接合性及びろう付け性が優れる。拡散接合において石英窓の曇りも見られない。また、No.1の850℃×30分加熱後の特性は、導電率が高く(102%IACS)、0.2%耐力が極度に低い(38MPa)。
一方、合金組成が本発明の規定範囲内であるNo.3〜7、9〜11、13〜15、17〜19、21、22、26、27は、拡散接合強度の素材強度比が95%以上、ろう濡れ広がり面積が5.0cm
2以上で、従来材であるNo.1に遜色のない拡散接合性及びろう付け性を有する。拡散接合において石英窓の曇りも見られない。また、850℃で30分加熱後の特性は、0.2%耐力が50MPa以上と従来材であるNo.1に比べて相当に高く、導電率が70%IACS以上である。
【0038】
これに対し、合金組成が本発明の規定範囲外であるNo.2,8,12,16,20,23〜25は、拡散接合強度の素材強度比(拡散接合性)、ろう濡れ広がり面積(ろう付け性)、850℃で30分加熱後の0.2%耐力又は導電率のいずれか1つ以上の特性が劣る。
No.2は、Mg含有量が不足するため、850℃×30分加熱後の0.2%耐力が50MPaに達しない。
No.8は、Mg含有量が過剰なため、拡散接合性及びろう付け性が劣り、拡散接合において石英窓の曇りが発生した。また、850℃×30分加熱後の導電率が低い。
No.12は、Zn含有量が過剰なため、拡散接合性及びろう付け性が劣り、拡散接合において石英窓の曇りが発生した。
No.16は、P含有量が過剰なため、850℃×30分加熱後の導電率が低い。
No.20は、Zn含有量が過剰なため、拡散接合性及びろう付け性が劣り、拡散接合において石英窓の曇りが発生した。また、P含有量が過剰なため、850℃×30分加熱後の導電率が低い。
No.23は、P含有量が過剰なため、850℃×30分加熱後の導電率が低い。850℃で30分加熱後冷却した場合の導電率が58%IACSと低い。
No.24は、その他元素(Al、Si、Mn)の合計含有量が過剰なためため、850℃×30分加熱後の導電率が低い。また、拡散接合性及びろう付け性が劣る。これは、850℃×30分加熱したとき、Al、Si、Mnが板表面で酸化し、接合を妨げたためと推測される。
No.25は、その他元素(Fe、Sn)の合計含有量が過剰なため、850℃×30分加熱後の導電率が低い。