(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の磁気浮上装置であって、前記一対の磁石が上下方向に配列された電磁石であり、前記浮上対象物が前記電磁石の各々に吸引されて前記一対の電磁石の間に非接触支持される強磁性体を含み、前記制御手段は、前記浮上対象物が前記振動の中心から離れる方向に変位するとき、前記一対の電磁石に印加する電流を強め、前記浮上対象物が前記振動の中心に戻る方向に変位するとき、前記一対の電磁石に印加する電流を弱める、ことを特徴とする磁気浮上装置。
請求項2に記載の磁気浮上装置であって、前記横ずれ方向に振動する前記浮上対象物の変位をx、前記浮上対象物の移動速度をx’とするとき、前記制御手段は、前記一対の電磁石に印加するバイアス電流を、x・x’≧0の状態と、x・x’<0の状態とで切り替え、x・x’≧0のときの前記バイアス電流が、x・x’<0のときの前記バイアス電流より大きくなるように設定する、ことを特徴とする磁気浮上装置。
請求項3に記載の磁気浮上装置であって、前記制御手段は、x・x’の値が所定値より小さいとき、前記一対の電磁石に印加する前記バイアス電流をx・x’の値に応じて減少させる、ことを特徴とする磁気浮上装置。
請求項1から4のいずれかに記載の磁気浮上装置であって、前記変位検出手段が、前記浮上対象物の横ずれ方向に配置された、前記浮上対象物までの距離を測定する測定手段である、ことを特徴とする磁気浮上装置。
請求項2から4のいずれかに記載の磁気浮上装置であって、前記変位検出手段が、前記電磁石の前記浮上対象物に対向する側に配置された、通過磁束の変化を検出するセンシングコイルである、ことを特徴とする磁気浮上装置。
請求項2から4のいずれかに記載の磁気浮上装置であって、前記変位検出手段が、前記電磁石を支持し、該電磁石に作用する力を検出する力センサである、ことを特徴とする磁気浮上装置。
請求項1に記載の磁気浮上装置であって、前記浮上対象物が、前記一対の磁石に対して相反する方向に反発する磁石を含み、前記一対の磁石と前記浮上対象物の磁石との反発力により前記浮上対象物が非接触支持され、前記制御手段は、前記浮上対象物が前記振動の中心から離れる方向に変位するとき、前記反発力が強まる位置に前記一対の磁石を移動し、前記浮上対象物が前記振動の中心に戻る方向に変位するとき、前記反発力が弱まる位置に前記一対の磁石を移動する、ことを特徴とする磁気浮上装置。
請求項9に記載の磁気浮上装置の制御方法であって、x・x’の値が所定値より小さいとき、前記バイアス電流Δiを、x・x’の値に応じて減少させる、ことを特徴とする磁気浮上装置の制御方法。
請求項10に記載の磁気浮上装置の制御方法であって、前記バイアス電流Δiを、次の条件1〜条件5を満たす関数f(x・x’)に従って変化させる、ことを特徴とする磁気浮上装置の制御方法。
前記バイアス電流Δiが連続的に変化する範囲を調整するパラメータをX0として、
条件1:x・x’<−X0のとき f(x・x’)=−ΔI
条件2:−X0<x・x’<0のとき −ΔIから0へ単調に増加する
条件3:f(0)=0、
条件4:0<x・x’<X0のとき 0からΔIへ単調に増加する
条件5:X0<x・x’のとき f(x・x’)=+ΔI
【背景技術】
【0002】
磁気浮上系は、非接触で物体を支持することが可能であり、機械的摩擦がないため振動や騒音が少なく、また、潤滑を必要としないため、潤滑油の蒸発を嫌う真空中やクリーンルームなどの特殊環境下でも使用できる。
磁気浮上の方式には、磁石同士の反発力を利用する反発型や、磁石と強磁性体の吸引力を利用する吸引型などがある。
図17(a)は、一対の電磁石10の間に在る強磁性体11が、上下の電磁石10の磁力により吸引され、電磁石間に非接触支持されている様子を示している。この強磁性体11の上下方向の位置は、上下の電磁石10に印加する電流を制御し、それらの電磁石10から発生する磁力を調整することにより安定的に保つことができる。
【0003】
この強磁性体11に対し、
図17(b)に示すように、一対の電磁石10の配列方向と直交する方向の外力が加わると、非接触支持されている強磁性体11は、押された方向に移動(横ずれ)する。このとき、電磁石10から外れた強磁性体11の端部には、
図18に示すように、吸引力Bの成分とともに、横ずれを元に戻そうとする復元力Aの成分を含む力が働く。これは“端効果”として知られている。
復元力Aを受けた強磁性体11は横ずれ方向の反対側に横ずれし、再び端効果による復元力を受ける。その結果、強磁性体11は横ずれ方向への振動を繰り返す。
この横ずれ方向の振動は、下記特許文献1に記載されているように、非接触支持された強磁性体11に減衰作用が働かないため、収束し難い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうした横ずれ方向の振動は、
図19に示すように、強磁性体11の上下方向だけでなく、前後・左右方向にも電磁石12の対を配置して、上下の電磁石10と同様に、対を成す電磁石12への印加電流を制御し、電磁石12から発生する磁力を調整すれば、抑えることができる。
しかし、このように構成した場合、電磁石やそれに電流を供給する増幅器等の台数が増加し、装置の大型化や高コスト化が避けられない。
【0006】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、横ずれ方向の振動の制振機能を有し、小型、且つ、低コストで構成できる磁気浮上装置と、その制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、磁気力を利用して浮上対象物を非接触支持する磁気浮上装置であって、浮上対象物の非接触支持のための磁力を発生する一対の磁石と、一対の磁石の配列方向と直交する横ずれ方向への浮上対象物の変位を検出する変位検出手段と、浮上対象物の横ずれ方向の振動を抑制する制御手段と、を備え、制御手段が、振動の中心から離れる方向に変位する浮上対象物に対し、振動の中心に戻る方向に変位するときよりも強い磁力が作用するように一対の磁石を制御する、ことを特徴とする。
このように、浮上対象物が振動の中心から離れる際の磁気力の剛性を強め、浮上対象物が振動の中心に戻る際の磁気力の剛性を弱めることにより、浮上対象物の振動は急速に減衰する。
【0008】
また、本発明の磁気浮上装置では、一対の磁石が、上下方向に配列された電磁石から成り、浮上対象物が、電磁石の各々に吸引されて一対の電磁石の間に非接触支持される強磁性体を含んでいる。制御手段は、浮上対象物が振動の中心から離れる方向に変位するとき、一対の電磁石に印加する電流を強め、浮上対象物が振動の中心に戻る方向に変位するとき、一対の電磁石に印加する電流を弱める。
こうした構成により、吸引型磁気浮上装置の横ずれ方向の振動を効果的に減衰させることができる。
【0009】
また、本発明の磁気浮上装置では、横ずれ方向に振動する浮上対象物の変位をx、浮上対象物の移動速度をx’とするとき、制御手段は、一対の電磁石に印加するバイアス電流を、x×x’(以下、x・x’と表記する。)≧0の状態と、x・x’<0の状態とで切り替え、x・x’≧0のときのバイアス電流が、x・x’<0のときのバイアス電流より大きくなるように設定する。
横ずれ方向の振動の中心を原点とするx座標において、x・x’≧0は、x及びx’が共に正の場合、または、共に負の場合であり、浮上対象物が振動の中心から離れる方向に変位している状態である。また、x・x’<0は、xが正でx’が負の場合、または、xが負でx’が正の場合であり、浮上対象物が振動の中心に戻る方向に変位している状態である。そのため、x・x’≧0のときに一対の電磁石に印加するバイアス電流を増やして磁気力の剛性を高め、x・x’<0のときのバイアス電流を減らして磁気力の剛性を弱めることにより、浮上対象物の横ずれ方向の振動を効果的に減衰させることができる。
【0010】
また、本発明の磁気浮上装置では、x・x’の値が所定値より小さいとき、制御手段が、一対の電磁石に印加するバイアス電流をx・x’の値に応じて減少させるようにしてもよい。
x・x’の値が小さいときのバイアス電流値が大きいと、浮上対象物の行き過ぎ量が大きくなり、振動の収束までの時間が長くなる恐れがある。x・x’の値に応じてバイアス電流を減らすことで、そうした恐れが解消できる。
【0011】
また、本発明の磁気浮上装置では、変位検出手段は、浮上対象物の横ずれ方向に配置した、浮上対象物までの距離を測定する測定手段で構成することができる。
測定手段が検出した浮上対象物までの距離の変化からx・x’の正負やx・x’の値を求めることができる。
【0012】
また、本発明の磁気浮上装置では、変位検出手段を、電磁石の浮上対象物に対向する側に配置した、通過磁束の変化を検出するセンシングコイルで構成することもできる。
センシングコイルの通過磁束が減少傾向にあるときは、浮上対象物が振動の中心から離れる方向に変位しているときであり、センシングコイルの通過磁束が増加傾向にあるときは、浮上対象物が振動の中心に戻る方向に変位しているときである。その変位の状態は、センシングコイルの誘導起電力や誘導電流の変化から検出できる。
【0013】
また、本発明の磁気浮上装置では、変位検出手段を、電磁石を支持して、電磁石に作用する力を検出する力センサで構成しても良い。
力センサの検出値が減少傾向にあるときは、浮上対象物が振動の中心から離れる方向に変位しているときであり、力センサの検出値が増加傾向にあるときは、浮上対象物が振動の中心に戻る方向に変位しているときである。
【0014】
また、本発明の磁気浮上装置では、浮上対象物が、一対の磁石に対して相反する方向に反発する磁石を含み、一対の磁石と浮上対象物の磁石との反発力により浮上対象物が非接触支持される。制御手段は、浮上対象物が振動の中心から離れる方向に変位するとき、反発力が強まる位置に一対の磁石を移動し、浮上対象物が振動の中心に戻る方向に変位するとき、反発力が弱まる位置に一対の磁石を移動する。
こうした構成により、反発型磁気浮上装置の横ずれ方向の振動を効果的に減衰させることができる。
【0015】
本発明は、磁気力を利用して浮上対象物を非接触支持する磁気浮上装置の制御方法であって、上下方向に配列する一対の電磁石の間に、強磁性体を含む浮上対象物を非接触支持し、一対の電磁石に対して、電磁石の配列方向への浮上対象物の変位を抑える電流iと、配列方向と直交する横ずれ方向への浮上対象物の振動を抑制するバイアス電流Δiとを重畳して印加する。そして、横ずれ方向に振動する浮上対象物の変位をx、浮上対象物の移動速度をx’とするとき、一対の電磁石に印加するバイアス電流Δiを、x・x’≧0の状態と、x・x’<0の状態とで切り替え、x・x’≧0のときのバイアス電流を、x・x’<0のときのバイアス電流より大きくする。
こうした制御方法により、一対の電磁石を用いて、浮上対象物を安定的に非接触支持することができる。
【0016】
また、本発明の磁気浮上装置の制御方法では、x・x’の値が所定値より小さいとき、印加するバイアス電流Δiを、x・x’の値に応じて減少させるようにしても良い。
こうすることで、浮上対象物の行き過ぎ量が大きくなるのを防ぐことができ、振動の収束までの時間を短縮できる。
【0017】
また、本発明の磁気浮上装置の制御方法では、バイアス電流Δiを、次の条件1〜条件5を満たす関数f(x・x’)に従って変化させるようにしても良い。
バイアス電流Δiが連続的に変化する範囲を調整するパラメータをX
0として、
条件1:x・x’<−X
0のとき f(x・x’)=−ΔI
条件2:−X
0<x・x’<0のとき −ΔIから0へ単調に増加する
条件3:f(0)=0、
条件4:0<x・x’<X
0のとき 0からΔIへ単調に増加する
条件5:X
0<x・x’のとき f(x・x’)=+ΔI
この条件1〜条件5を満たす関数fに従ってバイアス電流Δiを変化させれば、x・x’の値が小さいとき、バイアス電流Δiも小さいため、浮上対象物の行き過ぎ量が大きくなるのを防止できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、浮上対象物の安定的な非接触支持が可能な磁気浮上装置を、小型に、且つ、低コストで構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る吸引型の磁気浮上装置を示している。
この装置は、上下方向(z方向)に配置された一対の電磁石10と、一対の電磁石10の間に非接触支持された浮上対象物である強磁性体11と、強磁性体11の横ずれ方向(x方向)の変位量を検出する変位センサ20と、電磁石10に印加する電流を制御する制御機構40とを備えている。
【0021】
制御機構40は、強磁性体11のz方向の変位を検出する変位センサ(不図示)から変位信号(z)が入力すると、PID制御によりz方向の変位を解消するためのz方向バイアス電流を生成するPID制御部41と、強磁性体11のx方向の変位を検出する変位センサ20から変位信号(x)が入力すると、xと(dx/dt)との積に応じてx方向バイアス電流を切り替えるバイアス電流切替部47と、PID制御部41から出力されたz方向バイアス電流の符号を反転する反転部42と、PID制御部41から出力されたz方向バイアス電流とバイアス電流切替部47から出力されたx方向バイアス電流とを基準電流I
0に加算する加算部43と、反転部42から出力された反転されたz方向バイアス電流とバイアス電流切替部47から出力されたx方向バイアス電流とを基準電流I
0に加算する加算部44と、加算部43から出力された電流を増幅して上側の電磁石10に印加する増幅器45と、加算部44から出力された電流を増幅して下側の電磁石10に印加する増幅器46と、を有している。
【0022】
なお、z方向の変位を解消する制御は、従来から良く知られている。この制御機構40では、浮上対象物をz方向に安定的に保持するために電磁石10に印加される電流Iに対して、さらにx方向バイアス電流が重畳される点に特色がある。x方向バイアス電流は、上下の電磁石10に同じ量だけ追加される。そのため、x方向バイアス電流が加わっても、強磁性体11のz方向のバランスが乱れることは無い。
【0023】
この明細書では、(dx/dt)をx’と表記することにする。
バイアス電流切替部47の符号関数sgn(n)は、n>0のとき1、n=0のとき0、n<0のとき−1を出力する。そのため、バイアス電流切替部47は、x・x’>0のとき、x方向バイアス電流としてΔIを出力し、x・x’<0のとき、x方向バイアス電流として−ΔIを出力する。x・x’=0のときは0を出力する。
図2は、x及びx’を軸とする直交座標系において、x・x’>0となる範囲、及び、x・x’<0となる範囲を示している。x・x’>0となるのは座標系の第1象限及び第3象限であり、
図2(a)(c)に示すように、浮上対象物が電磁石10の中心位置(振動の中心)から横ずれ方向に離れるときの状態である。また、x・x’<0となるのは第2象限及び第4象限であり、
図2(b)(d)に示すように、横ずれした浮上対象物が電磁石10の中心位置(振動の中心)に戻るときの状態である。
【0024】
強磁性体11のz方向のバランスを保つために電磁石10に供給される電流をI
0とすると、x・x’>0のときには、電磁石10に電流(I
0+ΔI)が印加され、x・x’<0のときには、電磁石10に電流(I
0−ΔI)が印加される。
電磁石10に印加される電流が増加すれば、電磁石10から発生する磁力が増強され、強磁性体11に対する横ずれ方向の復元力が強まり、浮上対象物の横ずれに対する剛性が高まる。
電磁石10に電流(I
0+ΔI)が印加されたときの横ずれに対する剛性をk+Δkとすると、電磁石10に電流(I
0−ΔI)が印加されたときの剛性はk−Δkに低下する。
【0025】
図3は、横ずれ方向に振動するときの変位及び速度の軌跡をx−x’直交座標系上で示している。この軌跡は、横ずれに対する剛性が異なると変わってくる。
図3(a)は、横ずれに対する剛性が高い場合の軌跡であり、速度(x’)方向に長い軌跡を描く。
図3(b)は、剛性が低い場合の軌跡であり、変位(x)方向に長い軌跡を描く。
図3(c)は、
図1の制御機構により、x・x’の正負に応じて横ずれに対する剛性を切り替えたときの軌跡を示している。この場合、第2、4象限では、剛性が低いときの軌跡を辿り、第1、3象限では、剛性が高いときの軌跡を辿って振動が減衰する。
このように、x・x’>0のときに横ずれに対する剛性を高め、x・x’<0のときにその剛性を低めた場合には、浮上対象物の横ずれ方向の振動が、急速に収束する。
【0026】
この磁気浮上装置の特性を実験により確認した。
図4は、その実験装置の平面図を示している。この装置は、浮上対象物50の上下に配置された電磁石51、52と、浮上対象物50の横ずれ方向の変位を検出するレーザ変位計54と、浮上対象物50の変位方向を横ずれ方向のみに拘束する板バネ55と、浮上対象物50に横ずれ方向の外乱を与えるボイスコイルモータ53とを備えている。
この装置では、板バネ55を用いて、浮上対象物50の運動を横ずれ方向の並進1自由度に拘束しているため、電磁石51、52には、横ずれ方向の振動を抑制するバイアス電流だけを印加している。
【0027】
図5は、ボイスコイルモータ53で発生させた外乱を示している。
図6(a)は、比較のため、電磁石51、52へのバイアス電流IをI=0に設定して浮上対象物50に外乱を与えたときの浮上対象物50の横ずれ方向の振動を示している。この振動の周波数は3.5Hzであり、振幅が初期の5%となるまでの整定時間を測定したところ、64.0秒であった。
また、
図6(b)は、比較のため、バイアス電流IをI=1Aに設定して浮上対象物50に外乱を与えたときの浮上対象物50の横ずれ方向の振動を示している。この振動の周波数は4.3Hzであり、振幅が初期の5%となるまでの整定時間は59.5秒であった。
図6(a)(b)の振動数の比較から、電磁石51、52にバイアス電流を流すことで横ずれに対する剛性が44%増加したことが分かる。しかし、剛性を高めるだけでは、横ずれ方向の振動を短時間で収束させることはできない。
【0028】
図7は、電磁石51、52へのバイアス電流Iを、x・x’の値が正のときは1A、x・x’の値が負のときは0Aに切り替えた場合の浮上対象物50の横ずれ方向の振動を示している。また、
図8は、このとき、レーザ変位計54の測定値から求めたx・x’の変化(a)と、x・x’の正負に応じて切り替えた電磁石51、52へのバイアス電流(b)とを示している。
この振動の振幅が初期の5%となるまでの整定時間は2.5秒であった。これは、
図6(a)に示す振動の整定時間の1/25である。
図9は、
図8のx・x’算出の基礎となったx及びx’の軌跡をx−x’直交座標上に表している。
図9から、電磁石51、52へのバイアス電流を切り替えて、横ずれに対する剛性を制御することにより、変位と速度が座標上で螺旋を描くように0に収束していることが分かる。
【0029】
図10は、x・x’の値が正のときに電磁石51、52に印加するバイアス電流Iの大きさを変えて剛性制御を行ったときの横ずれ方向の振動を示している。
図10(a)は、I
0=ΔI=0.25Aとした場合であり、整定時間は4.9秒であった。
図10(b)は、I
0=ΔI=0.5Aとした場合であり、整定時間は2.4秒であった。
図10(c)は、I
0=ΔI=0.75Aとした場合であり、整定時間は0.9秒であった。
図10(d)は、I
0=ΔI=1.0Aとした場合であり、整定時間は1.0秒であった。
このように、バイアス電流を大きくすることで、ある程度まで整定時間を短縮できる。しかし、注目すべきは、I
0=ΔI=1.0Aの場合、I
0=ΔI=0.75Aのときより整定時間が長くなっている点である。
これは、I
0=ΔI=1.0Aの場合、剛性の変化が大きく、そのため、変位が小さい状態で行き過ぎ量が大きくなり、それが振動の収束を遅らせていると考えられる。
この点は、x・x’の値が所定値より小さいとき、x・x’>0の状態で印加するバイアス電流を、x・x’の値に応じて減少させれば回避できる。
【0030】
図11には、バイアス電流切替部47(
図1)が符号関数sgnを用いて生成したバイアス電流(a)と、符号関数sgnに代えて、アークタンジェント(2/π)tan
-1(αx・x’)関数を用いて生成したバイアス電流(b)とを示している。アークタンジェント関数を用いた場合、バイアス電流は、x・x’の小さい範囲において、x・x’の値に応じて減少している。これによって、x・x’の小さい範囲においてチャタリングが起きることを防止している。また、バイアス電流が連続的に変化する範囲は、パラメータαによって調整できる。αが小さい場合には、バイアス電流が連続的に変化する範囲が広く、αが大きい場合には、バイアス電流が連続的に変化する範囲を狭くすることができる。特にαが無限大の極限では、符号関数sgnと一致するようになる。
図12は、電磁石51、52に印加するバイアス電流Iを、α=80、I
0=ΔI=1.0Aとして、アークタンジェント(2/π)tan
-1(αx・x’)関数を用いて生成した場合の横ずれ方向の振動を示している。
この振動の整定時間は0.95秒であり、
図10(d)に示す振動の整定時間より短縮している。
【0031】
また、符号関数sgnに代える関数は、アークタンジェントに限定されるものではなく、つぎの条件を満たす関数fであれば、用いることができる。
(1)x・x’<−X
0のとき f(x・x’)=−ΔI
(2)−X
0<x・x’<0のとき −ΔIから0へ単調に増加する
(3)f(0)=0
(4)0<x・x’<X
0のとき 0からΔIへ単調に増加する
(5)X
0<x・x’のとき f(x・x’)=+ΔI
ここで、X
0は、バイアス電流が連続的に変化する範囲を調整するパラメータである。
【0032】
次に、浮上対象物の横ずれ方向の変位量を検出する変位センサの変形例について説明する。
図1に示すように、浮上対象物11の横方向に配置された変位センサ20が邪魔になる場合がある。
図13には、電磁石の浮上対象物に対向する側にセンシングコイル201を配置して浮上対象物の横ずれ方向の振動を検出する構成を示している。
センシングコイル201は、コイルを通過する磁束が変化すると、誘導起電力が発生して誘導電流が流れる。浮上対象物が振動の中心から離れる方向に変位する場合は、コイルの通過磁束が減少し、浮上対象物が振動の中心に戻る方向に変位する場合は、コイルの通過磁束が増加する。そのため、x・x’>0の状態とx・x’<0の状態とで誘導起電力の向きが逆になり、誘導電流の方向からx・x’>0かx・x’<0かを識別することができる。
【0033】
また、
図14には、電磁石を力センサ202で支持し、力センサ202の検出信号から浮上対象物の横ずれ方向の振動を検出する構成を示している。
浮上対象物が振動の中心から離れる方向に変位する場合は、力センサ202の検出信号が減少傾向を示し、浮上対象物が振動の中心に戻る方向に変位する場合は、力センサ202の検出信号が増加傾向を示す。そのため、力センサ202の検出信号からx・x’>0の状態かx・x’<0の状態かを識別することができる。
このように、
図13や
図14の構成を採用することにより、磁気浮上装置の側方の変位センサを取り除くことができる。
【0034】
(第2の実施形態)
図15は、本発明の第2の実施形態に係る反発型の磁気浮上装置を示している。
この装置は、横方向(z方向)に対向して配置された一対の永久磁石150、160と、永久磁石150を保持した状態でz方向に移動が可能な磁石保持部151と、永久磁石160を保持した状態でz方向に移動が可能な磁石保持部161と、永久磁石150に反発する永久磁石711、712と、永久磁石160に反発する永久磁石721、722と、内壁に永久磁石711、712及び永久磁石721、722が固定された浮上対象物170と、磁石保持部151及び磁石保持部161のz方向の移動位置を制御する制御機構80とを備えている。
永久磁石150は、磁石保持部151の軸512に固定された円筒状の1つの永久磁石として示しているが、軸512を中心に上下に対称に配置された複数の永久磁石で構成しても良い。永久磁石160も同様である。
永久磁石711、712は、浮上対象物170の円筒状の内壁に固定された円筒状の1つの永久磁石であっても良いし、浮上対象物170の内壁に、上下に対称に配置された複数の永久磁石であっても良い。永久磁石721、722も同様である。
いずれにしろ、浮上対象物170の永久磁石の711の部分と712の部分が永久磁石150に対して相反する方向に反発し、また、浮上対象物170の永久磁石の721の部分と722の部分が永久磁石160に対して相反する方向に反発し、それにより、浮上対象物170が永久磁石150、160に非接触支持されれば良い。
【0035】
制御機構80は、浮上対象物170のz方向の変位を検出する変位センサ(不図示)から変位信号(z)が入力すると、PID制御によりz方向の変位を解消するための磁石保持部151及び磁石保持部152のz方向移動量を算出するPID制御部81と、浮上対象物170のx方向の振動に伴うx方向変位を検出する変位センサ(不図示)から変位信号(x)が入力すると、x・x’>0の場合にz方向移動量としてΔzを出力し、x・x’<0の場合にz方向移動量として−Δzを出力する振動抑制移動量切替部87と、振動抑制移動量切替部87から出力されたz方向移動量の符号を反転する反転部82と、PID制御部81及び振動抑制移動量切替部87から出力されたz方向移動量を加算する加算部83と、PID制御部81及び反転部82から出力されたz方向移動量を加算する加算部84と、加算部83から出力されたz方向移動量だけ磁石保持部151をz方向に移動する駆動部85と、加算部84から出力されたz方向移動量だけ磁石保持部161をz方向に移動する駆動部86と、を備えている。
【0036】
この装置では、浮上対象物170がz方向に変位すると、その変位を打ち消すように、磁石保持部151及び永久磁石150と、磁石保持部152及び永久磁石160とがz方向を同じ向きに同一距離だけ移動する。浮上対象物170は、このフィードバック制御により、z方向には安定的に非接触支持される。
しかし、一対の永久磁石150、160の配列方向に直交するx方向には、能動的な制御が働かないため、x方向の振動(横ずれ方向の振動)は減衰し難い。
【0037】
この横ずれ方向の振動を減衰するため、x・x’の正負に応じたz方向移動量が振動抑制移動量切替部87及び反転部82から出力される。振動抑制移動量切替部87及び反転部82から出力されるz方向移動量は、磁石保持部151と磁石保持部152との対称的な移動を規定するものであるから、一対の永久磁石150、160は、z方向を反対向きに同一距離だけ移動する。この永久磁石150、160の対称的な動きは、浮上対象物170のz方向のバランスを乱さない。
【0038】
図16(a)は、x・x’>0の場合の永久磁石150、160と浮上対象物170との位置関係を示し、
図16(b)は、x・x’<0の場合の永久磁石150、160と浮上対象物170との位置関係を示している。
図16(a)の状態では、永久磁石150、160と、浮上対象物170の永久磁石とが正対しており、それらの間に強い反発力が働いている。そのため、x方向の変位(横ずれ)に対する剛性が高い。一方、
図16(b)の状態では、永久磁石150、160と、浮上対象物170の永久磁石とが正対しておらず、それらの間の反発力は弱い。そのため、横ずれに対する剛性が低い。
このように、x・x’>0の状態のとき、剛性を強く設定し、x・x’<0の状態のとき、剛性を弱く設定することにより、第1の実施形態と同様に、横ずれ方向の振動は、急速に収束する。